説明

スピーカキャビネット及びスピーカ装置

【課題】キャビネット内での定在波の発生を抑制することができ、その抑制手段の設置も容易なスピーカ装置である。
【解決手段】スピーカ装置1は、直方体状のスピーカキャビネット2を有し、キャビネット2の前壁部4にスピーカ3a〜3cが取り付けられている。キャビネット2は、壁部から内部に向けて突設させた複数本の棒体10を備えている。棒体10は、キャビネット2の前後の壁部4、5の内面と、左右の壁部6、7の内面とに対し平行な姿勢で、かつ前後方向に規則的な配列で設置され、棒体10の両端は、上下の壁部8、9に固定されている。スピーカ3の背面側からの音がキャビネット2内に放出されると、棒体10の表面での反射によって、音波の進行方向が四方八方に攪乱されるように散乱されるので、定在波の発生が抑制される。また、棒体10周囲において回折が起こる周波数領域では、位相が複雑に変化し顕著な定在波抑制効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカキャビネット及びスピーカ装置に係り、特に定在波の発生防止を図ったスピーカキャビネット及びこのスピーカキャビネットを備えたスピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動板の振動により音を出すダイナミックスピーカ等のスピーカは、その背面側にスピーカから放出される前面側の音波とは位相が半波長ずれた音波が放出される。この背面側の音波がスピーカの前面側に廻り込んで、スピーカの前面側の音波に干渉すると、スピーカからの音の強度が減衰する。このスピーカからの前面側の音の減衰を防ぐために、通常は、スピーカを直方体状のスピーカキャビネットの一面に取り付けて、スピーカの背面側の音をキャビネット内に閉じ込め、背面側の音波がスピーカの前面側に回り込むのを防止している。
【0003】
しかしながら、スピーカの背面側の音をキャビネット内に放出するようにした場合は、キャビネットの壁部内面で音波が反射する。この反射した音波がスピーカを取り付けた前壁部(バッフル板)と、これに対向した後壁部の内面の間、上下の壁部の内面の間、および左右の壁部の内面の間での反射によって、これら相対する壁部内面を振動の腹とする定在波が発生する。
このため、スピーカの振動板の振動が、定在波によって阻害される問題があった。この定在波は、周波数により強度が変化する。よって、この定在波により、スピーカの周波数特性に「癖」、すなわち、特定の周波数のみ増幅されたり減衰されたりして、周波数特性が悪くなっていた。
【0004】
この問題に対する従来の対策は、簡単には、キャビネットの壁部の内面にグラスウール等の吸音材を貼り付けて、定在波を軽減するというものであった。しかし、吸音材によって自然な音色が同時に損なわれる等の弊害があった。
【0005】
一方、特許文献1を参照すると、スピーカキャビネット内に平板状または湾曲状の複数枚の仕切り板を設け、該仕切り板をキャビネットの上下、左右および前後の壁部の相対する内面に対し非平行に配置して定在波を除去する技術が提案されている(以下、従来技術1とする。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−172741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術1に提案の技術によれば、スピーカの背面側に放出された音が、仕切り板によってキャビネットの壁部に対し傾いた方向に反射されるので、キャビネットの上下、左右および前後の相対する壁部の内面間で音が反射することによる定在波の発生が抑制される。
しかしながら、従来技術1の技術では、直方体キャビネット特有の定在波に対しては、互いに平行になる面をなくす効果があるので、既存の定在波を抑制することができるものの、逆に箱内に設置した仕切り板が寄与するところの定在波が新たに生じてしまう問題があった。
【0008】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決するスピーカキャビネットおよびスピーカ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。すなわち、
本発明のスピーカキャビネットは、壁から内部に向けて突設させた複数本の棒体を備えることを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体を前記キャビネットの内面に対して平行に設置させたことを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体の少なくとも一部を前記キャビネットの内面に対して非平行に設置させたことを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記複数の棒体が断面形状の異なる複数種類の棒体から構成されていることを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体は、木製であることを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体は、中実の棒体であることを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体は、中空の棒体であり、空気の出入り口を備えることを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体は、中空の棒体であり、内部に吸音材が装填され、空気の出入り口を備えることを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体は、前記キャビネット内の定在波の粒子速度が高い位置に設置することを特徴とする。
本発明のスピーカキャビネットは、前記棒体は、前記粒子速度が高い位置の周波数に対応した直径の棒体を設置することを特徴とする。
本発明のスピーカ装置は、前記スピーカキャビネットを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スピーカ装置のキャビネットに壁部から内部に向けて突出する複数本の棒体を設けたので、スピーカの背面側からキャビネット内に放出された音を棒体の表面で散乱して、キャビネットの相対する壁部の内面の間で音が反射することによる定在波の発生を広帯域に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスピーカ装置を示す斜視図である。
【図2】スピーカ装置のキャビネットの内部構造を示す斜視図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】スピーカキャビネット内に設ける棒体の他の設置例を示す図3と同様な断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るスピーカ装置のキャビネットの内部構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るスピーカ装置のキャビネットの内部構造を示す斜視図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るスピーカ装置のキャビネットの内部構造を示す斜視図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るスピーカ装置のキャビネットの内部構造を示す斜視図である。
【図9】本発明で使用しうる棒体の他の例を示す説明図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係るスピーカ装置の定在波の音圧と棒体の配置位置を示す概念図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係るスピーカ装置の座標方向を示す概念図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係るスピーカ装置の実施例での実験を説明する概念図である。
【図13】本発明の第6実施形態に係るスピーカ装置の実施例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るスピーカ装置を示す斜視図、図2は、スピーカ装置のキャビネットの内部構造を示す斜視図、図3は、図1のA−A断面図である。
【0014】
図1に示すように、スピーカ装置1は、直方体状のスピーカキャビネット2の前壁部4(バッフル板)に低域、中域、高域用の3つのスピーカ3a、3b、3cを取り付けてなっている。スピーカキャビネット2は、壁部から内部に向けて突設させた複数本の棒体10を備え、本例では、棒体10は、中実の円柱体、例えば木製の円柱体からなっている。この棒体10は、キャビネット2の相対する壁部のうちの前後の壁部4、5の内面と、左右の壁部6、7の内面とに対し平行な姿勢で配置され、かつ前後方向に2本、3本、2本……というように規則的に配列されている。棒体10の両端は、キャビネット2の上下の壁部8、9とにねじ止め、接着等によって固定されている。
【0015】
なお、スピーカキャビネット2内に設置する棒体10は、図4に示すように、太さが同一でなく、例えば大中小と複数段に異なっていてもよく、また棒体10の配列が不規則であってもよい。
【0016】
本実施形態は以上のように構成され、スピーカ3(3a〜3c)の振動板の振動により、スピーカ3の背面側から出力された音がキャビネット2内に放出されると、音波が棒体10の表面に直接、またはキャビネット2の前後、上下、左右の壁部4、5、6、7、8、9の内面での反射を介して入射し、棒体10の表面で音波の進行方向が四方八方に攪乱されるように散乱される。つまり、このような棒体10を用いると、直径に比例した周波数以上の音波を、ほぼ理想的に再放射できる。これにより、より広いエリアに均一な拡散音を返すことができる。棒体10の直径としては、従来より、円筒に音波が入射した場合の解析が行われているため、これを利用することができる(例えば、音響工学原論、「http://www.acoust.rise.waseda.ac.jp/publications/onkyou/genron−4.pdf」を参照)。これにより、棒体10の半径に関連する周波数の音波をすべて拡散することができる。また、スピーカキャビネット2の限られた空間内では、多重の反射がおき、拡散した音波の位相は、ほぼランダムに崩れるため、均一な拡散を行わない周波数帯域、例えば低音域についても、拡散する効果が得られる。このため、広帯域な周波数において、定在波を抑制することが可能になる。したがって、キャビネット2の前後の壁部4、5の内面の間、上下の壁部6、7の内面の間、左右の壁部8、9の内面の間で音が反射して発生する定在波を抑制することができる。
そして、定在波を抑制する手段が棒体10であるので簡単であり、キャビネット2への取り付けも容易である。
【0017】
以上の実施形態では、スピーカキャビネット2内に、同一の太さの棒体10を規則的な配列で設けたが、図4に示すように、棒体10は太さが同一でなく、例えば大中小と複数段に異なっていてもよく、また棒体10は配列が不規則であってもよい。このように、太さが異なる棒体10を不規則な配列で配置することによっても、スピーカ3(3a〜3c)からキャビネット2内に放出された音を棒体10の表面で散乱して、広帯域に定在波の発生を抑制することができる。
【0018】
(第2実施形態)
図5に、本発明の第2実施形態のスピーカ装置を示す。本第2実施形態では、スピーカキャビネット2内に複数本の棒体10を、キャビネット2の左右の壁部6、7の内面と、上下の壁部8、9の内面とに平行、かつ規則的な配列で配置した。棒体10の両端は、キャビネット2の前後の壁部4、5とに固定されている。なお、棒体10は、太さを複数に変えても、配列が不規則であってもよい。
【0019】
本第2実施形態によっても、同様に、スピーカ3(3a〜3c)からキャビネット2内に放出された音を棒体10の表面で散乱して、広帯域に定在波の発生を抑制することができる。
【0020】
(第3実施形態)
図6に、本発明の第3実施形態のスピーカ装置を示す。本第3実施形態では、スピーカキャビネット2内に複数本の棒体10を、キャビネット2の前後の壁部4、5の内面と、上下の壁部8、9の内面とに平行、かつ規則的な配列で配置した。棒体10の両端は、キャビネット2の左右の壁部6、7とに固定されている。棒体10は、太さを複数に変えても、配列が不規則であってもよい。
【0021】
本第3実施形態によっても、同様に、スピーカ3(3a〜3c)からキャビネット2内に放出された音を棒体10の表面で散乱して、広帯域に定在波の発生を抑制することができる。
【0022】
以上の第1〜第3実施形態では、複数本の棒体10をキャビネット2の内面に平行に設置したが、本発明はこれに限られず、複数本の棒体10のうちの一部または全部を、キャビネット2の相対する3組の壁部のうちの1組の壁部の内面に対してのみ平行とし、残りの2組の壁部の内面に対しては非平行となるように設置することができる。
さらには、次に示す第4実施形態の如く、複数本の棒体10のうちの一部または全部をキャビネット2の相対する3組の壁部の内面に非平行となるように設置することができる。
【0023】
(第4実施形態)
図7に、本発明の第4実施形態のスピーカ装置を示す。本第4実施形態では、スピーカキャビネット2内に複数本の棒体10を、キャビネット2の前後の壁部4、5の内面と、左右の壁部6、7の内面と、上下の壁部8、9の内面とに非平行となるようランダムに配置した。棒体10は、太さを複数に変えてもよい。
【0024】
本第4実施形態によっても、同様に、スピーカ3(3a〜3c)からキャビネット2内に放出された音を棒体10の表面で散乱して、広帯域に定在波の発生を抑制することができる。
【0025】
(第5実施形態)
図8に、本発明の第5実施形態のスピーカ装置を示す。以上の実施形態1〜4では、棒体10は両端がキャビネット2の内面に達する長さを有していたが、図8に示すように、棒体10はスピーカキャビネット2の壁部、例えば下の壁部9から内部に向けて突出していればよく、複数本の棒体10の一部または全部の先端が棒体10の軸線方向上の壁部、本例では上の壁部8の内面に達せず、キャビネット2内の空間に浮かせた状態(片端支持の状態)に設けてもよい。
【0026】
本第5実施形態によっても、同様に、スピーカ3(3a〜3c)からキャビネット2内に放出された音を棒体10の表面で散乱して、広帯域に定在波の発生を抑制することができる。
【0027】
以上の第1〜第5実施形態では、棒体10を木製の中実の円柱体としたが、棒体10は楕円等の外郭が曲面の柱体でもよい。さらには、図9に示すように、棒体10は四角柱10a等の角柱体でも、円錐10b等の錐体でも、円錐台10c等の裁頭錐体でもよい。
また棒体10は中実であったが、管状の中空体10dでもよい。棒体10が中空体であって、先端がキャビネット2内の空間に浮かせた状態に設ける場合、棒体10の先端を開けておくことが可能である。所定の周波数に共鳴するため、棒体10で拡散する周波数以下の特に低音域の定在波を抑制することが可能になる。また、棒体10内での共鳴を防ぐために、棒体10の先端を栓をする等の手段により閉じておくことも可能である。
【0028】
また、スピーカキャビネット2は、スピーカ3を取り付けた前壁部4と対向する後壁部5が一部または全部がないタイプのものであってもよい。また、スピーカキャビネット2の前壁部4に共鳴ポートを設け、スピーカ3の背面側の音を反転増幅してスピーカ3の前面側に流出させるバスレスタイプのものであってもよい。いずれの場合も、キャビネット2に設けた棒体10により、キャビネット2内で、広帯域に定在波の発生を抑制することができる。
また、上述のように、棒体10は、拡散する音波の周波数が直径に比例するため、特に低音域の定在波を拡散するためには、より大きな直径の棒体10を設置することが望ましい。しかしながら、キャビネット内に大きな棒体10を設置することが難しい場合には、キャビネット2を例えば背面を円状に構成する等、キャビネット2の形状を加工することで、低音であっても拡散放射をさせて定在波の発生を抑制することができる。また、低音を特に吸収するグラスウールやジルコンサンド等を備えて低音域の拡散を調整することもできる。
【0029】
(第6実施形態)
次に、棒体10を計算により配置する際の配置方法について説明する。
上述の実施形態では、所定の配置により棒体10を配置した。これに対して、スピーカキャビネット2が、所定の大きさより大きい長方体である等、定在波を計算しやすい形状の場合には、さらに効果的に定在波を散乱させて出力する音を豊かにするよう棒体10を配置可能である。
このための棒体10の設置方法について、以下で詳しく説明する。
【0030】
まず、図10を参照して、スピーカキャビネット2の周期に係る箇所として、どの位置に棒体10を配置するかについて、より具体的に説明する。図10では、スピーカキャビネット2の任意の2つの壁に囲まれた箇所の寸法をLとする。
この場合、図10(a)を参照して周期が1となる定在波の音圧の分布を示す。すなわち、定在波は音波であるため、スピーカキャビネット2の2つの壁2aで挟まれて波が強めたり弱めたりしあって節の部分ができ、この節の部分を境に音圧が上がる。また、定在波の音圧分布に対して、音に伴う空気の粒子速度は、音圧が極小となる部分で高くなることが分かっている。
本発明の発明者らが鋭意実験と検討を行ったところ、棒体10は、粒子速度が大きい箇所に配置すると効果的であることが分かった。これは、定在波の粒子速度が最大となる箇所では空気の前後運動が大いため、その大きい位置に棒体10を配置して空気の動きを邪魔することで、定在波の発生を抑えて散乱させることができるためである。
すなわち、定在波の節は音圧が極小となる部分であり、粒子速度の大きい位置であるため、定在波の節に棒体10を配置することが好適である。図10(a)では、棒体10を、このような定在波の節に配置する例を示している。
ここで、定在波は、複数の整数倍の倍音を含んだ状態でリスナーに認識される。このため、これらの倍音の存在も配慮した上で、棒体10を配置することが重要である。
図10(b)を参照すると、図10(a)の周期が1/2、すなわち周波数が2倍の倍音である。ここでは、図10(b)のように、図10(a)と同様な位置に棒体10を配置しても、音圧が大きい=粒子速度が小さい状態となっている。
図10(c)を参照すると、図10(a)の定在波の周波数が3倍となった倍音である。この場合は、図10(a)と同様の位置においても棒体10の位置の音圧が低い=粒子速度が大きい状態になっていることが分かる。
このように、奇数倍の倍音に対しても、同様の位置に棒体10を配置することで、定在波の音圧分布が極小部分に配置される。よって、奇数倍音に対しても効果を得られる位置に棒体10を配置することが好適である。また、図10(b)の偶数倍音のところに併せて棒体10を配置することで、より散乱効果が得られる。
【0031】
ここで、従来のスピーカキャビネット内に詰められたグラスウールのような吸音材は、200Hz〜1000Hzのような中低音域の定在波に対して、あまり吸音力がないことが知られている。たとえば、25mm厚のグラスウールにおいての実験より、10000Hzでの吸音率は0.8程度、1000Hzでは0.6程度、100Hzでは0.05程度であることが分かっている。
このため、スピーカキャビネット2にて、例えば、200〜1000Hzの周波数の定在波に対応する節に相当する位置に、棒体10を配置することが好適である。
【0032】
ここで、図11を参照して説明すると、以下の式(1)に、スピーカキャビネット2の図11のようにX軸、Y軸、Z軸方向での周期を入れると、各軸方向での固有振動数(共振周波数、基本共鳴周波数)を計算することができる:

f=C/2SQRT((nx/X)2+(ny/Y)2+(nz/Z)2) … 式(1)

上述の式(1)にて、nx、ny、nzは、スピーカキャビネット2の、それぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の寸法である。
また、X、Y、Zは、それぞれX軸、Y軸、Z軸の周期の分割数を示す。すなわち、例えば、Xの周期の分割数が1の場合は、nxの長さに対して1周期の固有振動数を求めることができる。また、Xの周期の分割数が2、すなわち周期が1/2の場合には、nxの長さに対して1/2周期の固有振動数を求めることができる。
なお、固有振動数が0周期ということはないので、X、Y、Zがそれぞれ0の場合は、nx/X、ny/Y、nz/Zは、それぞれ0として計算する。
また、Cは、例えば25℃の音速を用いた計算で求められる定数である。また、SQRT()は平方根を示す。
【0033】
上述の式(1)を用いて求めた固有振動数が、その周期分の定在波の周波数となる。つまり、スピーカキャビネット固有振動数と周期との関係から、X軸、Y軸、Z軸それぞれの周期での定在波の周波数を求めることが可能になる。
たとえば、図11のスピーカキャビネット2の寸法として、nx=0.7m、ny=0.4m、nz=0.5mの場合、(X,Y,Z)=(1,0,0)、すなわちX軸方向の周期1の定在波を式(1)に代入すると、fx1=242Hzといったように求めることができる。同様に、(X,Y,Z)=(2,0,0)の定在波は、fx2=485Hzである。また、同様に(X,Y,Z)=(3,0,0)の定在波は、fx3=728Hzとなる。
さらに(X,Y,Z)=(0,1,0)、すなわちY軸方向の周期1の定在波は、式(1)より、fy1=425Hzとなる。同様に(X,Y,Z)=(0,2,0)の定在波は、fy2=850Hzとなる。同様に、(X,Y,Z)=(0,3,0)の定在波は、式(1)より、fy3=1275Hzとなる。
また、(X,Y,Z)=(0,0,1)、すなわちZ軸方向の周期1の定在波は、式(1)より、fz1=340Hzとなる。同様に(X,Y,Z)=(0,0,2)の定在波は、fz2=680Hzとなる。同様に、(X,Y,Z)=(0,0,3)の定在波は、式(1)より、fz3=1020Hzとなる。
このように、各軸方向の周期において、周期に対応する分割数を倍にすると、倍の固有周波数が定在波となる。この倍の固有周波数が上述の倍音となる。
実際に、スピーカキャビネット2の固有振動数の定在波は、各周波数の複数倍の高い周波数である倍音を含んでいる。そして、整数倍の倍音を含んだ状態で、リスナーが認識できるため、これを散乱するように棒体10を配置することが必要である。
なお、上述の例では、式(1)のような単純な長方体のモデルにおける固有振動数について言及したが、これ以外のモデルを用いて、より複雑な形状や従来技術1のように仕切り板を加えた状態での各周期やスピーカキャビネット2内の各位置での定在波の周波数を求めることもできる。
【0034】
すなわち、上述の式(1)にて求めた各周期の定在波の周波数から、200〜1000Hzの定在波の節のような粒子速度が高い位置に、棒体10を配置することが好適である。
【0035】
次に、棒体10を具体的に配置する際の直径について説明する。
上述のように、スピーカキャビネット2の寸法を基に各周期に置いて、定在波の周波数を求めることが可能である。
このため、これらの定在波の周波数に対応した直径の棒体10を配置することで、より定在波の散乱効果および抑止効果を高めることができる。
【実施例】
【0036】
ここで、図12と図13を参照して、具体的に直径が異なる棒体10の定在波の散乱効果についての実験について説明する。
図12を参照すると、この実験においては、ほとんど音波を吸収しない剛壁200に対して、矢印の方向から平面波となる各種周波数の音波を放出して、これが剛壁200に反射されて棒体10にて散乱される音波について、音波の位相変化に関連する音圧の反射率の変化を測定した。ここで位相が遅れるということは、反射面(剛壁200)の位置が遠くなることを示し、位相が進むことは剛壁200における反射ではなく棒体10の表面で反射が起こっていることを示す。
これは、入射する音波の波長と棒体の直径との関係により、棒体10の表面で反射した音が散乱されることで、定在波の音圧が下がると考えられるためである。また、棒体10の周囲を音波が回折する周波数帯域においては、位相が変化して顕著な定在波を抑制する効果も期待できるためである。
【0037】
図13を参照すると、具体的に、それぞれ直径114mm(114φ)、直径164mm(164φ)、直径216mm(216φ)の棒体10について、周波数と音圧反射率の変化を測定した結果を示している。横軸は、周波数であり、縦軸は音圧の反射率である。
図13のように、棒体10の直径が大きいと表面で直接反射される周波数は低くなる傾向となることが分かる。また、棒体10の直径が大きくなるに従い、棒体周囲を回折する音波の周波数帯域は低くなり、かつ位相の変化が大きくなっている。このように、各周波数に対応して棒体10の直径を対応させることにより、スピーカキャビネット2内に発生する定在波の抑制が可能になる。
たとえば、200Hz以上の周波数の定在波対策として、直径164mm(164φ)程度の棒体10を用いることが効果的であり、なおかつ適当な吸音材を併用することが望ましい。
また、300〜350Hz以上の周波数の定在波対策として、少し細い直径114mm(114φ)程度の棒体10を用いることが効果的である。
このような定在波の周期に対応した箇所の節に、その周波数に対応した直径の棒体10を配置可能である。
【0038】
以上のように構成することで以下のような効果を得ることができる。
まず、従来技術1はスピーカキャビネット内に仕切り板を設置するだけであり、入射した音波を特定の方向に反射するだけなので、特定の周波数の定在波を反射により減衰するだけであった。
これに対して、本発明の実施の形態に係るスピーカ装置1によれば、スピーカキャビネット2に壁部から内部に向けて突出する複数本の棒体10を設けたので、スピーカ3の背面側からキャビネット2内に放出された音を棒体10の表面で散乱する。
このため、特定の周波数に関わらず、キャビネット2の相対する壁部の内面の間で音が反射することによる定在波の発生を抑制することができる。
【0039】
また、従来技術1においては、キャビネットの壁部に複数枚の仕切り板を交差するなどして非平行に取り付ける必要があるため、仕切り板の設置が容易でない問題があった。
これに対して、本発明の実施の形態に係るスピーカ装置は、その定在波の抑制手段も棒体10であるので簡単であり、キャビネット2への取り付けも容易である。
【0040】
また、キャビネット内の定在波の周波数と棒体10の径を適切なものに選定することで棒体10表面における反射波、棒体10側面における時間遅れを伴う回折波及び従来の定在波などに分散することでキャビネット内の定在波分散効果が得られる。
【0041】
また、通常のキャビネット内で発生する定在波はキャビネット本体の寸法による共鳴作用によるもので、その特徴は基本共鳴周波数及びその整数倍の周波数において構成されることはよく知られていた。しかしながら、スピーカより再生される楽音は基本波とその整数倍音により構成され、それにより音色が決定されている。故に、スピーカから発生する楽音とキャビネット内の定在波の関係は互いに影響を及ぼし合い音色に対する影響は無視できなくなっていた。
これに対して、本発明によりキャビネット内に適切な径の棒体10を入れることで、棒体10表面の反射による散乱効果に加え、棒体10の側面を回折する音波が棒体10の径に依存する時間遅れ量を持ち、音波の周波数により個別の値をとる。
これより定在波の基本周波数に対する棒体10部分における時間遅れ効果と整数倍音に対する棒体10側面における回折波の時間遅れ効果が異なるので、結果的には棒体10を設置することで周波数毎にキャビネットの寸法が異なるような効果が期待できる。
これより実際には発生する定在波が整数倍音の構成をとらないことになり、楽音再生のキャビネットとして、従来技術1のような単なる板による定在波対策より聴覚的な効果を著しく改善可能である。
【0042】
ここで、従来の定在波の調整に用いられてきたグラスウールでは、例えば25mm厚の場合、1000Hzより高い周波数の調整には効果的なものの、それ以下の周波数では吸音性能が下がるという問題があった。
このため、1000Hzより高い周波数では、吸音材の内貼りが効果的であるものの、それ以下の周波数の調整を行うスピーカキャビネット2の設計が求められていた。
これに対して、本発明の実施の形態に係る所定の周波数に対応した棒体10を粒子速度の高い位置に備えたスピーカキャビネット2により、1000Hzよりも低い周波数帯域での定在波の調整が可能になる。
【0043】
また、元来、キャビネットが有する容積によるキャビネットの基本共鳴周波数を利用して、低音を増強する技術が知られていた。
スピーカキャビネットの固有振動数により放射される定在波を、「バスレフポート」のように低音域の定在波をスピーカキャビネットに穴を設けて放射するように上手に設計すると、低音を豊かにすることができる。
しかしながら、定在波をそのまま放射するようにすると、スピーカ装置の音響特性の歪み、すなわち「癖」をつけて聴感を著しく低下させてしまっていた。このため、定在波を調整することはスピーカ装置の音響特性の向上の為に非常に重要であった。
これに対して、本発明の実施の形態に係るスピーカキャビネット2により、定在波による音響特性の「癖」を抑えることができ、より自然な周波数特性のスピーカ装置を提供することが可能になる。これにより、聴感を大きく向上させることができる。
また、棒体10周囲において回折が起こる周波数領域では、位相が複雑に変化し顕著な定在波抑制効果が得られる。
【0044】
なお、本発明の実施の形態に係るスピーカキャビネット2内部に棒体10を設置した場合、棒体10の占める容積だけキャビネット容積が減ることになり、箱の共鳴周波数が上昇することになる。この基本共鳴周波数は、キャビネット内の容積とバッフル面のスピーカ取り付け開口部とバスレフポートにより決定されていた。
スピーカキャビネット2の寸法は、実用上、最小限の大きさで設計されるので、内部の容積が減る。この対策として、棒体10部分を中空部材とし、一部に空気の出入り口を設けることで、その内部の容積をキャビネットの容積として作用させることもできる。
さらに棒体10の中空内部に吸音材を装填することで、棒体10内部の空間を共鳴機構として積極的に作用させることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 スピーカ装置
2 スピーカキャビネット
3a〜3c スピーカ
4〜9 壁部
10 棒体
100、110、120 定在波の音圧
200 剛壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁から内部に向けて突設させた複数本の棒体を備えることを特徴とするスピーカキャビネット。
【請求項2】
前記棒体を前記キャビネットの内面に対して平行に設置させたことを特徴とする請求項1に記載のスピーカキャビネット。
【請求項3】
前記棒体の少なくとも一部を前記キャビネットの内面に対して非平行に設置させたことを特徴とする請求項1に記載のスピーカキャビネット。
【請求項4】
前記複数の棒体が断面形状の異なる複数種類の棒体から構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項5】
前記棒体は、木製であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項6】
前記棒体は、中実の棒体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項7】
前記棒体は、中空の棒体であり、空気の出入り口を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項8】
前記棒体は、中空の棒体であり、内部に吸音材が装填され、空気の出入り口を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項9】
前記棒体は、前記キャビネット内の定在波の粒子速度が高い位置に設置することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項10】
前記棒体は、前記粒子速度が高い位置の周波数に対応した直径の棒体を設置することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のスピーカキャビネット。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のスピーカキャビネットを有するスピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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