説明

スピーカ

【課題】振動板の撓みに起因する異音の発生を抑制できると共に、過大電流が印加された場合に懸念されるダンパの損傷を未然に防止できる「スピーカ」の提供。
【解決手段】スピーカ1の長方形状の振動板2に、ボイスコイル3から所定量離隔した位置で振動板2の幅方向に沿って延びる補強リブ(例えば補強リブ8〜11)を設ける。補強リブは、その一側面が磁気回路6と対向するように厚みが設定されている。例えば補強リブ8の一側面はヨーク12の一側面と対向しており、補強リブ9の一側面はヨーク14の一側面と対向している。また、非通電時における補強リブと磁気回路6との間隔dは、振動板2の長手方向に沿うダンパ4の弾性変位量の許容値よりも小なる値に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ギャップ内のボイスコイルに通電することによって振動板を振動させるスピーカに係り、特に、振動板の端部近傍にボイスコイルが平面コイル状に設けられているスピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のスピーカは、矩形状等に形成された振動板の端部近傍にボイスコイルを平面コイル状に設け、このボイスコイルを振動板の板面に沿う所定方向(振動板の長手方向)に駆動することによって、湾曲させた振動板を板面と直交する方向へ振動させるというものである。振動板の長手方向の両端部はダンパ等を介してフレームに支持されており、フレームにはマグネットとヨークからなる磁気回路が取り付けられている。ボイスコイルはこの磁気回路の磁気ギャップ内に配置されており、電流(音声信号)が通電されるとボイスコイルに振動板の長手方向に沿う電磁駆動力が作用するようになっている。また、この種のスピーカにおいて、軽量化や低コスト化を促進するために、ボイスコイルをエッチング等によって振動板の端部近傍に直接パターニングするという技術が従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は従来のスピーカにおける磁気回路付近の構造を簡略化して示す説明図である。同図において、振動板20は薄い平板状のプラスチックフィルムなどからなり、この振動板20の一端部20aはゲル状弾性体などからなるダンパ21によって弾性的に支持されており、ダンパ21はフレーム22に保持されている。振動板20の一端部20aの近傍にはボイスコイル23が平面コイル状に設けられており、ボイスコイル23の両端は図示せぬ端子部に接続されている。そして、振動板20のうちボイスコイル23が設けられた部分が磁気回路24の磁気ギャップG1,G2内に配置されている。この磁気回路24は複数のヨーク25,26,27とマグネット28からなり、板状のヨーク(プレート)25とマグネット28を挟み込む一対のヨーク26,27との間に磁気ギャップG1,G2がそれぞれ形成されている。なお、磁気回路24はフレーム22に保持されており、磁気ギャップG1,G2の間隙寸法(ギャップ長)はギャップホルダ29によって規定されている。
【0004】
磁気ギャップG1,G2内における磁界の向きは図5の上下方向であり、前記端子部を介してボイスコイル23に電流が通電されると、ボイスコイル23のうち図5の紙面と直交する方向に延びる部分に対して、振動板20の長手方向(図5の左右方向)に沿う電磁駆動力が作用する。これにより、振動板20の湾曲している略中央部(図示せず)が板面と直交する方向へ振動して音圧が発生するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−194460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述した従来のスピーカにあっては、薄い平板状の振動板20を用いることで軽量化や低消費電力化に有利なものとなっているが、その反面、通電時に駆動された振動板20が幅方向に撓みやすくなるため、磁気ギャップG1,G2内に配置されているボイスコイル23が磁気回路24に接触する可能性が高まり、耳障りな異音(びびり音)が発生しやすくなるという問題があった。
【0007】
また、前述した従来のスピーカでは、振動板20の振動に追従してダンパ21が弾性変形するように設計されているものの、何らかの要因で過大電流が印加されて振動板20に過大な電磁駆動力が作用したとき、ダンパ21が弾性変形の許容限界を越えて振動板20に引っ張られてしまうため、ダンパ21が損傷して振動板20が正常に動作しなくなってしまう危険性があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、振動板の撓みに起因する異音の発生を抑制できると共に、過大電流が印加された場合に懸念されるダンパの損傷を未然に防止できるスピーカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも一方の端部近傍にボイスコイルが平面コイル状に設けられた長方形状の振動板と、この振動板の長手方向の両端部を支持するフレームと、このフレームと前記振動板の少なくとも一端部との間に介設されたダンパと、前記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを有して前記フレームに取り付けられた磁気回路とを備え、前記ボイスコイルに通電することによって前記振動板を振動させるスピーカにおいて、前記振動板にその短手方向に沿って延びる補強リブを前記ボイスコイルから離隔した位置に設け、非通電時における前記補強リブと前記磁気回路との間隔を、前記振動板の長手方向に沿う前記ダンパの弾性変位量の許容値よりも小なる値に設定した。
【0010】
このように構成されたスピーカは、振動板に付設した補強リブがボイスコイルの近傍で該振動板の幅方向(短手方向)に沿って延びているため、磁気ギャップ内で振動板に幅方向の撓みが生じる虞がなくなる。また、過大電流が印加されて振動板に過大な電磁駆動力が作用しても、ダンパが弾性変形の許容限界を越える前に、補強リブが磁気回路に当接して振動板の過度な移動を規制するため、ダンパの損傷を未然に防止することができる。
【0011】
上記の構成において、補強リブがボイスコイルを挟んで対向する2位置に設けられていると、過大電流が印加されたときに振動板の往復移動を各補強リブで確実に規制することができるため好ましい。
【0012】
また、上記の構成において、補強リブは振動板の片面にのみ設けられていればよいが、振動板の表裏両面にそれぞれ補強リブが設けられていると、両面の補強リブによって振動板の過度な移動をより確実に規制することができる。
【0013】
また、上記の構成において、補強リブは軽量で硬く安価な材料の中から適宜選択することができるが、その中でも特にカーボン樹脂からなる補強リブが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスピーカは、振動板に付設した補強リブがボイスコイルの近傍で該振動板の幅方向に沿って延びており、この補強リブが振動板を補強する横梁として機能するため、磁気ギャップ内で振動板に幅方向の撓みが生じる虞がなく、それゆえ振動板の撓みに起因する異音の発生を抑制することができる。また、過大電流が印加されてもダンパが弾性変形の許容限界を越える前に、補強リブが磁気回路に当接して振動板の過度な移動を規制するため、ダンパの損傷を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態例に係るスピーカの断面構造を簡略化して示す説明図である。
【図2】図1のスピーカで用いた振動板の斜視図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】図3に対応する平面図である。
【図5】従来のスピーカにおける磁気回路付近の構造を簡略化して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態例を図1〜図4を参照しつつ説明する。これらの図に示すように、本実施形態例に係るスピーカ1は、一端部2aの近傍にボイスコイル3が平面コイル状に設けられた長方形状の振動板2と、振動板2の長手方向の一端部2aをダンパ4を介して弾性的に支持し、かつ他端部2bを固定的に支持しているフレーム5と、磁気ギャップG1,G2を有してフレーム5に取り付けられた磁気回路6と、磁気ギャップG1,G2の間隙寸法(ギャップ長)を規定するギャップホルダ7と、振動板2の表裏両面に分散して配設された帯状の補強リブ8,9,10,11とによって主に構成されている。
【0017】
振動板2は薄い平板状のプラスチックフィルムなどからなる。この振動板2は一端部2aから平面を保って長手方向の略中央部まで延在するようにフレーム5に支持されており、振動板2のうちボイスコイル3が設けられた部分が磁気回路6の磁気ギャップG1,G2内に配置されている。そして、ボイスコイル3が磁気回路6によって矢印A方向へ駆動されると、振動板2の略中央部が板面と直交する方向へ振動して湾曲するようになっている。その際、振動板2の一端部2aを支持しているダンパ4は、振動板2の移動に追従して弾性変形する。なお、ダンパ4は例えばゲル状弾性体やオイルダンパなどからなり、フレーム5がダンパ4を保持している。また、フレーム5は合成樹脂などを成形して形成されている。
【0018】
図2に示すように、ボイスコイル3は振動板2の一端部2a近傍の枠状領域にエッチング等によって形成されており、ボイスコイル3の両端は図示せぬ端子部に接続されている。このボイスコイル3は、振動板2の短手方向(矢印Bで示す幅方向)に沿って延びる第1帯状部3aと、第1帯状部3aに対し直交する矢印A方向(振動板2の長手方向)に沿って延びる第2帯状部3bとが連続する巻回形状の帯状導体としてパターニングされている。第1帯状部3aは振動板2の振動に寄与する有効部分であり、第2帯状部3bよりも長寸に形成されている。第2帯状部3bは振動板2の振動に寄与しない無効部分であり、振動板2の両側部に位置している。
【0019】
補強リブ8〜11はペースト状のカーボン樹脂を振動板2に印刷して硬化させたものであるが、他の材料(例えばアルミ箔や紙など)を用いて補強リブを形成してもよい。各補強リブ8〜11はいずれも矢印B方向に沿って振動板2の幅寸法と略同等の長さだけ帯状に延びている。これらの補強リブ8〜11は、比較的肉薄で軽量ではあるが硬くて変形しにくいため、振動板2を補強する横梁として機能する。図3や図4に示すように、1つの補強リブ8は振動板2の一端部2aの片面でボイスコイル3から所定量離隔した位置に設けられており、別の補強リブ9は振動板2の一端部2aの他面で補強リブ8と対応する位置に設けられている。これら一対の補強リブ8,9はやや幅広な帯状体として形成されており、補強リブ8の一側面は磁気回路6のヨーク(プレート)12の一側面に当接可能であり、補強リブ9の一側面は磁気回路6のヨーク14の一側面に当接可能である。また、残り2つのうちの一方の補強リブ10は振動板2の片面でボイスコイル3から見て補強リブ8とは反対側の位置に設けられており、他方の補強リブ11は振動板2の他面で補強リブ10と対応する位置に設けられている。これら一対の補強リブ10,11はやや幅狭な帯状体として形成されており、補強リブ10の一側面は磁気回路6のヨーク12の他側面に当接可能であり、補強リブ11の一側面は磁気回路6のヨーク13の一側面に当接可能である。なお、各補強リブ8〜11はすべて同等の厚みに形成されており、その厚みをTr、振動板2の板厚をTf、磁気ギャップG1,G2のギャップ長をTgとすると、(2Tr+Tf)>Tgなる関係式が成立するため、Trの値は{(Tg−Tf)/2}の値よりも大きい。
【0020】
図3に示すように、非通電時において、各補強リブ8〜11と磁気回路6との間隔はいずれも同等の値dに設定されている。すなわち、補強リブ8はヨーク12の一側面から寸法dだけ離れており、補強リブ10はヨーク12の他側面から寸法dだけ離れている。また、補強リブ9はヨーク14の一側面から寸法dだけ離れており、補強リブ11はヨーク13の一側面から寸法dだけ離れている。本実施形態例では、この値dの大きさとして、矢印A方向(振動板2の長手方向)に沿うダンパ4の弾性変位量の許容値よりも若干小なる値を選択しているため、ダンパ4が大きく弾性変形すると、補強リブ8〜11が磁気回路6に当接して振動板2の振動が規制され、これによりダンパ4が許容限界を越えて弾性変形しないようにしてある。
【0021】
図1に示すように、磁気回路6は複数のヨーク12,13,14とマグネット15とを組み合わせて構成されており、マグネット15を挟み込む一対のヨーク13,14との板状のヨーク(プレート)12との間に磁気ギャップG1,G2がそれぞれ形成されている。磁気ギャップG1,G2内において磁界の向きはほぼ振動板2の板厚方向となっているが、磁気ギャップG1と磁気ギャップG2では磁界の向きが逆である。磁気ギャップG1内には図2において上側の第1帯状部3aが配置されており、磁気ギャップG2内には同図下側の第1帯状部3aが配置されている。
【0022】
そして、前記端子部を介してボイスコイル3に電流が通電されると、図2において上側の第1帯状部3aと下側の第1帯状部3aに逆向きの電流が流れるため、どちらの第1帯状部3aにも同じ向きの電磁駆動力が作用する。フレミングの左手の法則により、この電磁駆動力の向きは矢印A方向となるので、振動板2は長手方向に沿って駆動される。これにより、振動板2の略中央部が板面と直交する方向へ振動して、音圧が発生するようになっている。
【0023】
このように本実施形態例に係るスピーカ1は、振動板2に付設した補強リブ8〜11がボイスコイル3の近傍で該振動板2の幅方向(矢印B方向)に沿って延びており、これらの補強リブ8〜11が振動板2を補強する横梁として機能するため、磁気ギャップG1,G2内で振動板2に幅方向の撓みが生じる虞がない。それゆえ、このスピーカ1は、振動板2の撓みに起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0024】
また、本実施形態例に係るスピーカ1は、過大電流が印加されて振動板2に過大な電磁駆動力が作用しても、ダンパ4が弾性変形の許容限界を越える前に、補強リブ8〜11が磁気回路6の側面(ヨーク12〜14の側面)に当接して振動板2の過度な移動を規制するため、ダンパ4の損傷を未然に防止することができる。それゆえ、このスピーカ1は、過大電流が印加されても故障しにくくて信頼性が高まっている。
【0025】
なお、上記実施形態例では、計4つの補強リブ8〜11を振動板2の表裏両面に分散して設けた場合について説明したが、振動板2の一方の面だけに補強リブを設ける構成(例えば補強リブ8,10だけを設ける構成)にしても、上記実施形態例とほぼ同様の効果が得られる。
【0026】
また、上記実施形態例では、ボイスコイル3を挟んで対向する振動板2の2箇所にそれぞれ補強リブを設けた場合について説明しているが、いずれか一方の部位だけに補強リブを設けても振動板2の幅方向の撓みを効果的に防止することはできる。
【0027】
また、上記実施形態例では、振動板2の一端部2aだけにボイスコイル3を設けたスピーカについて説明したが、振動板2の長手方向の両端部2a,2bにそれぞれボイスコイルを設けて、フレーム5の両端部に取り付けた2つの磁気回路の磁気ギャップに各ボイスコイルを個別に配置させると共に、振動板2の両端部2a,2bをそれぞれダンパで弾性的に支持するという構成のスピーカであってもよく、その場合は振動板2の両端部2a,2bに補強リブを設けておくことが好ましい。
【0028】
なお、補強リブの幅寸法や長さは、補強リブの形成位置や振動板2の大きさあるいは材料等に応じて適宜選択可能である。また、フレーム5の形状や磁気回路6の構成なども上記実施形態例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0029】
1 スピーカ
2 振動板
3 ボイスコイル
4 ダンパ
5 フレーム
6 磁気回路
8〜11 補強リブ
12〜14 ヨーク
15マグネット
G1,G2 磁気ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の端部近傍にボイスコイルが平面コイル状に設けられた長方形状の振動板と、この振動板の長手方向の両端部を支持するフレームと、このフレームと前記振動板の少なくとも一端部との間に介設されたダンパと、前記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを有して前記フレームに取り付けられた磁気回路とを備え、前記ボイスコイルに通電することによって前記振動板を振動させるスピーカにおいて、
前記振動板にその短手方向に沿って延びる補強リブを前記ボイスコイルから離隔した位置に設け、非通電時における前記補強リブと前記磁気回路との間隔を、前記振動板の長手方向に沿う前記ダンパの弾性変位量の許容値よりも小なる値に設定したことを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記補強リブが前記ボイスコイルを挟んで対向する2位置に設けられていることを特徴とするスピーカ。
【請求項3】
請求項1または2の記載において、前記振動板の表裏両面にそれぞれ前記補強リブが設けられていることを特徴とするスピーカ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載において、前記補強リブがカーボン樹脂からなることを特徴とするスピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−130350(P2011−130350A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289259(P2009−289259)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】