説明

スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達の調節

本発明は概して、細胞活性の調節方法および本方法における使用のための薬剤に関する。より具体的には、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの機能活性レベルの調節方法を提供する。関連する局面において、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を、その細胞内活性レベルの調節を通じて調節する方法を提供する。本発明はなおさらに、スフィンゴシンキナーゼ活性を誘導する能力を示す新規分子にも及ぶ。本発明の方法および分子は特に、異常な、望ましくない、もしくはそうでなければ不適当な細胞の機能活性、および/または異常な、望ましくない、もしくはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達により特徴付けられる状態の処置および/または予防に有用である。本発明はさらに、スフィンゴシンキナーゼ活性レベルを調節することのできる薬剤を同定および/または設計するための方法に向けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、細胞活性の調節方法および本方法における使用のための薬剤に関する。より具体的には、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの機能活性レベルの調節方法を提供する。関連する局面において、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を、その細胞内活性レベルの調節を通じて調節する方法を提供する。本発明はなおさらに、スフィンゴシンキナーゼ活性を誘導する能力を示す新規分子にも及ぶ。本発明の方法および分子は特に、異常な、望ましくない、もしくはそうでなければ不適当な細胞の機能活性、および/または異常な、望ましくない、もしくはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達により特徴付けられる状態の処置および/または予防に有用である。本発明はさらに、スフィンゴシンキナーゼの活性レベルを調節することのできる薬剤を同定および/または設計するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明者らが本明細書において参照した刊行物の書誌情報は、詳細な説明の最後にアルファベット順にまとめた。
【0003】
本明細書中で任意の先行技術を参照することは、その先行技術がオーストラリアにおける一般的知識の一部を構成することを自認することでも何らかの形でそれを示唆することでもなく、かつそのように解釈されるべきではない。
【0004】
スフィンゴシンキナーゼ(SK)はスフィンゴシンのリン酸化を触媒し、生物学的に活性なリン脂質であるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)を生成する酵素である(Pyne & Pyne, 2002, Biochim. Biophys. Acta 1582:121-131; Spiegel & Milstien, 2003, Nat. Rev Mol. Cell Biol. 4:397-407)。S1Pは、カルシウム移動、有糸分裂誘発、アポトーシス、アテローム硬化、炎症反応、および細胞骨格の再配置を含む多くの生物学的プロセスに影響し得る(Spiegel & Milstien, 2000, FEBS Lett. 476:55-57)。SKは哺乳動物細胞におけるS1Pレベルの主要な制御因子(regulator)なので(Spiegel & Milstien, 2003, 前出)、この酵素の活性および活性化は、その細胞内でS1Pに起因して観察される作用を統制する上で中心的かつ重要な役割を果たす。
【0005】
今日、スフィンゴシンキナーゼおよびS1Pが細胞増殖および細胞生存の増進を通じて腫瘍形成に関与することを示す注目すべき証拠が存在する。Xiaら(2000, Curr. Biol. 10:1527-1530)は、NIH3T3線維芽細胞におけるSK1の過剰発現が、病巣形成、軟寒天における細胞成長、およびNOD/SCIDマウスにおける腫瘍形成により測定される腫瘍性の細胞形質転換を誘導することを実証した。さらに、SKの阻害剤であるN,N-ジメチルスフィンゴシン(DMS)で細胞を処理することによるまたはドミナントネガティブなSK変異体の使用を通じたSK1の阻害が、発癌性のH-Rasにより媒介される形質転換をブロックした(Xia et al, 2000, 前出)。他の研究は、hSK1 mRNAレベルが、乳癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、胃癌、子宮癌、腎臓癌、および直腸癌を含む特定のヒト腫瘍において上昇することを示した(French et al., 2003, Cancer Res. 63:5962-5969)。近年開発されたSK1阻害剤もまた、マウスにおける乳房腫瘍の成長をブロックすることを示した(French et al., 2003, 前出)。このことはさらに、SK1の活性化が乳癌細胞におけるエストロゲン依存的な腫瘍形成を促進するのに重要であることを同様に示す他の研究によって支持される(Nava et al., 2002, Expt. Cell Res. 281:115-127; Sukocheva et al., 2003, Mol. Endocrinol. 17:2002-2012)。
【0006】
しかし、SK1およびS1Pは、細胞の成長および生存における役割に加えて、細胞制御の他の局面にも関与するようである。S1Pは血管内皮細胞における接着分子の発現誘導を通じて炎症およびアテローム硬化に関与し得ることが示された(Xia et al., 1999, J. Biol. Chem. 274:34499-34505)。他の研究は、高レベルのSK1が血管狭窄を増進し得ることから高血圧への関与を示唆する(Bolz et al., 2003, Circulation 108:342-347; Coussin et al., 2002, Circ. Res. 91:151-157)。また、SK1は、炎症促進性転写因子NF-κBのTNFα誘導性の活性化に関与することが示された(Xia et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:7996-8003)。同様に、S1Pは、気道平滑筋細胞の狭窄およびヒスタミン放出を増進することが見出されたことから、喘息に関連するようである(Jolly et al., 2001, Mol. Immunol. 38:1239-1245)。
【0007】
hSK1はタンパク質の翻訳後修飾によらない固有の触媒活性を有することが以前に示されている(Pitson et al. 2000a, Biochem. J. 350:429-441)。本発明者らはまた、化学的阻害、免疫共沈降およびインビトロリン酸化を含む技術を組み合わせて使用することで、ERK1/2がインビボでhSK1をリン酸化することを示した(Pitson et al., 2003, EMBO J. 22:1-10)。このhSK1のリン酸化はこの酵素のkcatを直接的に14倍増加させるが、スフィンゴシンまたはATPのいずれかに対するKM値に対しては有意な効果を有さない。一般論として、hSK1活性の活性化は、その細胞質ゾルから形質膜への転座と相関する(Rosenfeldt et al., 2001, FASEB J. 15:2649-2659; Young et al., 2003, Cell calcium 33:119-128)。Ser225におけるリン酸化はhSK1の触媒活性を直接的に増加させるだけでなく、このタンパク質の形質膜へのアゴニスト誘導性の転座に必須であることも示された(Pitson et al., 2003, 前出)。SK1の転座は、SK1をその潜在的な基質に接近させ、それによってS1Pまたはその分泌物が細胞表面のS1P受容体と咬合する限局的シグナル伝達を起こすのに重要であり得る(Pitson et al., 2003, 前出)。この研究は、SK1の活性化がERK1/2媒介性のリン酸化により起こることを示したが、このリン酸化の制御の多くの局面は、他のリン酸化に依存しないSK1活性化機構も存在し得る可能性を含めて未だ知られていない。
【0008】
それらの組織分布、発生過程での発現、触媒特性、および多少であるがそれらの基質特異的が異なる2つのヒトスフィンゴシンキナーゼアイソフォーム(1および2)が存在する(Pitson et al., 2000, 前出; Liu et al., 2000, J. Biol. Chem. 275:19513-19520)。多くの研究が、細胞増殖を増進しアポトーシスを抑制する上でのスフィンゴシンキナーゼ1の効果を示した(Olivera et al., 1999, J. Cell Biol. 147:545-558; Xia et al., 2000, Curr. Biol. 10:1527-1530; Edsall et al., 2001, J. Neurochem. 76:1573-1584)。さらに、NIH3T3線維芽細胞においてヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)を過剰発現させることで、形質転換した表現型およびヌードマウスにおいて腫瘍を形成する能力が獲得されることが示され、これによりこの酵素の腫瘍形成性が実証された(Xia et al., 2000, 前出)。より最近の研究は、乳房腫瘍細胞の成長および生存のエストロゲン依存的な制御にhSK1が関与することを示し(Nava et al., 2002, Expt. Cell Res. 281:115-127; Sukocheva et al., 2003, Mol. Endocrinol. 17:2002-2012)、一方他の研究は、様々なヒト固形腫瘍においてhSK1 mRNAが増加することおよびスフィンゴシンキナーゼ阻害剤によってインビボで腫瘍の成長が阻害されることを示した(French et al., 2003, Cancer Res. 63:5962-5969)。従って、細胞の成長、生存および腫瘍形成へのhSK1の関与についてはすでに十分確認されている。
【0009】
SphK1に加えて、別のアイソフォームSphK2がクローニングされ、特徴付けがなされた(Liu et al., 2000, J Biol Chem, 275,:9513-19520)。SphK1およびSphK2は両方とも総SphK活性に寄与するが、これら2つのアイソフォームは、別個の酵素動態および発現パターンを示す(Kohama et al., 1998, J Biol Chem, 273:23722-23728; Liu et al., 2000, 前出)。SphK1は細胞質酵素であることが示されているが、SphK2はその核局在化シグナル配列によって核に局在することが見出された(Igarashi et al., 2003, J Biol Chem, 278:46832-46839)。Sphk1とSphk2の間のさらなる機能的な違いもまた明らかにされている。例えば、Sphk1は細胞の生存および増殖を増進するが、Sphk2はDNA合成を阻害し(Liu et al., 2000, 前出)、おそらくBH3ドメインとBcl-xLの相互作用を通じてアポトーシスを誘導する(Liu et al., 2003, J Biol Chem, 278:40330-40336)。ショウジョウバエのSphKを用いた最近の研究は、SphK2がスフィンゴ脂質代謝に関与する2つの哺乳動物酵素のうちのより原始的な方であることを示唆する(Herr et al., 2004, J Biol Chem, 279:12685-12694)。SphK2の発現または活性が制御されるという証拠はないので、様々な生理学的刺激に応じて転写レベルおよび転写後レベルの両方で制御されるSphK1の能力が比較的最近の進化的段階であり、哺乳動物細胞におけるシグナル伝達の役割を手助けするものであり得る。
【0010】
従って上記のように、幅広い細胞活性の制御との関係でのスフィンゴシンキナーゼの中心的な役割は十分に確認されているが、それが起こる正確な機構は部分的に決定されたのみである。従って、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の制御を通じた細胞活性の制御方法を構築するためのより良い手段を提供するために、その機構の解明およびその機構を制御できる分子の同定の両方に対する要望が今も存在する。
【0011】
本発明に至る研究において、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用がスフィンゴシンキナーゼの固有の触媒活性を増加させることを決定した。なおさらに、スフィンゴシンキナーゼに対する結合のためには対象のeEF1AがGTPに結合している必要はないことが決定された。実際、前立腺腫瘍誘発因子(PTI)に対応するGTPに結合できない短縮型のeEF1Aは、依然としてスフィンゴシンキナーゼ結合活性およびその触媒活性を増加させる能力を示す。この細胞のシグナル伝達機構の同定により、eEF1A分子とスフィンゴシンキナーゼの相互作用の調節に基づくスフィンゴシンキナーゼ媒介性の細胞機能の調節、特に上方制御の簡単かつ合理的な方法の構築が可能となった。従って、これにより、望ましくないまたは不適当な細胞機能により特徴付けられる状態の治療的処置または予防的処置のための非常に有効な方法の構築がなされた。
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本明細書および添付の特許請求の範囲を通じて文脈上そうでないことが要求されない限り、「含む(comprise)」という単語ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」等のバリエーションは、記載された整数もしくは段階または整数群もしくは段階群を包含する意味を含むが、任意のその他の整数もしくは段階または整数群もしくは段階群を排除する意味を含まないことが理解されるはずである。
【0013】
本明細書は、プログラムPatentInバージョン3.1を用いて作製されたヌクレオチドの配列情報を含み、これらは本明細書中、書誌情報の後に配置されている。ヌクレオチド配列は各々、配列表において数値符号<201>およびそれに続く配列識別子(例えば、<210>1、<210>2等)により特定される。各々のヌクレオチド配列についての配列の長さ、類型(DNA等)および生物源は、それぞれ数値符号欄<211>、<212>および<213>に提供される情報より示される。本明細書中で言及されるヌクレオチド配列は、符号SEQ ID NO:およびそれに続く配列識別子により特定される(例えば、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2等)。本明細書中で言及される配列識別子は、配列表における数値符号欄<400>およびそれに続く配列識別子において提供される情報と相関する(例えば、<400>1、<400>2等)。すなわち、本明細書において詳述されるSEQ ID NO:1は、配列表において<400>1で示される配列と相関する。
【0014】
本発明の一つの局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、変種体(variant)、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節方法を提供する。
【0015】
本発明の別の局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼ1との相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼ1の触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ1媒介性のシグナル伝達の調節方法を提供する。
【0016】
本発明のさらに別の局面は、短縮型eEF1A1、またはその誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節方法を提供する。
【0017】
本発明のさらに別の局面は、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を誘導するのに十分な時間および条件下、有効量のeEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、それによってスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の上方制御方法を提供する。
【0018】
本発明のなおさらに別の局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、細胞活性の調節方法に関する。
【0019】
本発明のなおさらに別の局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼ1との相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、細胞活性の調節方法に関する。
【0020】
本発明のさらなる局面は、tr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはヒト細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはヒト細胞活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のヒト細胞活性の調節方法に関する。
【0021】
本発明のさらに別のさらなる局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤を哺乳動物に投与する段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0022】
本発明のさらに別のさらなる局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤を哺乳動物に投与する段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼ活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼ活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0023】
本発明のなおさらに別のさらなる局面は、tr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤をヒトに投与する段階を含み、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられるヒトにおける状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0024】
本発明のなおさらに別のさらなる局面は、tr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤をヒトに投与する段階を含み、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられるヒトにおける状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0025】
本発明の別の局面は、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置のための医薬の製造における、本明細書の上記に定義された薬剤の使用であって、該薬剤はスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節し、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、使用を意図する。
【0026】
本発明のさらに別の局面は、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置のための医薬の製造における、本明細書の上記に定義された薬剤の使用であって、該薬剤はeEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節し、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、使用を意図する。
【0027】
さらに別のさらなる局面において、本発明は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に、本明細書の上記に定義された調節性薬剤を含む薬学的組成物を意図する。
【0028】
本発明のさらに別の局面は、本発明の方法において使用する場合の本明細書の上記に定義された薬剤に関する。
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的に、eEF1A分子がスフィンゴシンキナーゼの固有の触媒活性を上方制御することを決定したことおよびPTI短縮形態を含むeEF1AのGDP形態のみがこの結果を達成することを決定したことの両方に基づく。これらの決定により、異常なもしくは望ましくない細胞活性および/またはスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる状態を処置するための治療的方法および/または予防的方法の合理的な設計が可能となる。さらに、スフィンゴシンキナーゼとeEF1Aの相互作用を特異的に調節する薬剤の同定および/または設計が容易になる。
【0030】
従って、本発明の一つの局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、変種体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節方法を提供する。
【0031】
「スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達」に対する言及は、スフィンゴシンキナーゼ分子が機能的な構成要素を形成するシグナル伝達経路に対する言及と理解されるはずである。この点、スフィンゴシンキナーゼはこの経路の活性化の際、スフィンゴシン-1-リン酸生成の中心となると考えられる。スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節には、シグナル伝達現象の上方制御および下方制御の両方、例えば所定のシグナル伝達現象の誘導もしくは停止または任意の所定のシグナル伝達現象レベルもしくは程度への変化が含まれることが理解されるはずである。
【0032】
本発明によれば、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用のアンタゴナイズ(例えば、この相互作用は内因性に発現したeEF1Aによって自然に起きるものであるかまたは非自然現象、例えば処置プロトコルの施行の結果起きるものである)はスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達現象の完遂を妨げ、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用のアゴナイズまたはそうでなければ誘導はスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を促進する。スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達現象の程度またはレベルは相互作用分子の濃度を増減させることによって調節され得ることもまた理解されるはずである。従って、シグナル伝達の調節は必ずしもシグナル伝達の開始または阻害と一致する必要はなく、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達が起きるレベルを制御するよう設計され得る。
【0033】
「スフィンゴシンキナーゼ」に対する言及には、全ての形態のスフィンゴシンキナーゼタンパク質およびその誘導体、変種体、ホモログまたは模倣物に対する言及が含まれることが理解されるはずである。この点、「スフィンゴシンキナーゼ」は、特に、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路の活性化の際にスフィンゴシン-1-リン酸の生成に関与する分子であることが理解されるはずである。これには、例えば、スフィンゴシンキナーゼmRNAの選択的スプライシングまたはスフィンゴシンキナーゼの対立遺伝子変種体もしくは多型変種体から生じる任意のアイソフォームを含む、例えばスフィンゴシンキナーゼの全てのタンパク質形態およびその機能的誘導体、変種体、ホモログ、もしくは模倣物が含まれる。
【0034】
本発明はいずれか一つの学説または作用様式に限定されるものではないが、それらの組織分布、発生過程での発現、触媒特性、および多少であるがそれらの基質特異的が異なる2つのヒトスフィンゴシンキナーゼアイソフォーム(1および2)が存在する(Pitson et al., 2000, 前出; Liu et al., 2000, 前出)。多くの研究が、細胞増殖を増進しアポトーシスを抑制する上でのスフィンゴシンキナーゼ1の効果を示した(Olivera et al., 1999, 前出; Xia et al., 2000, 前出; Edsall et al., 2001, 前出)。さらに、NIH3T3線維芽細胞においてヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)を過剰発現させることで、形質転換した表現型およびヌードマウスにおいて腫瘍を形成する能力が獲得されることが示され、これによりこの酵素の腫瘍形成性が実証された(Xia et al., 2000, 前出)。
【0035】
その「機能的」誘導体、変種体、ホモログまたは模倣物に対する言及は、スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aの機能活性の任意の一つまたは複数を示す分子に対する言及であることが理解されるはずである。
【0036】
好ましくは、本発明は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼ1との相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼ1の触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ1媒介性のシグナル伝達の調節方法を提供する。
【0037】
「eEF1A」(延長因子1A)に対する言及は、このタンパク質の全ての形態に対する言及であることが理解されるはずである。これには、例えば、eEF1A mRNAの選択的スプライシングまたはこの分子の機能的変異体(mutant)もしくは多型変種体から生じる任意のアイソフォームが含まれる。本発明はいずれか一つの学説または作用様式に限定されるものではないが、eEF1Aの基本的な役割は、哺乳動物におけるタンパク質合成の際のペプチド延長プロセス、特にmRNA翻訳の際のペプチド鎖の延長を促進する非リボソーム型翻訳における延長機構にある(Anderson et al. 2003)。しかし、この役割に加えて、eEF1Aはまた、細胞骨格の再配置、細胞のシグナル伝達および腫瘍形成を含む一見無関係なプロセスにも関与する。eEF1Aの2つのアイソフォーム、eEF1A1およびeEF1A2がヒトにおいて同定された(Ejiri, 2002; Thornton et al. 2003)。両方の形態ともスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御できる。なおさらに、eEF1Aの機能的誘導体、例えば67個のN末端アミノ酸を欠失した(かつ3個のアミノ酸が付加された)eEF1A1の短縮型も同様にスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御するので、「eEF1A」の定義の範囲に含まれる。このeEF1A1の短縮型は前立腺腫瘍誘発因子(PTI)としても公知であるが、本明細書中では短縮型eEF1A1(tr.eEF1A1)と称する。
【0038】
さらに、本発明はいかなる様式によっても限定されるものではないが、2つのeEF1Aアイソフォームは各々hSK1と相互作用し、細胞内およびインビトロでのその活性を直接的におよそ3倍増進することが示された。人工短縮型eEF1A1形態(PTI)もまたhSK1と相互作用してその活性を増進し、これによってeEF1AのSK1相互作用領域および機能領域がeEF1A1の非GTP結合領域にあることが実証されたことにも留意されたい。eEF1Aがこのスフィンゴシンキナーゼ活性の増進を媒介する分子的機構は今日までに理解されていないが、基質動態分析は、この効果が、ATPまたはスフィンゴシンのいずれかに対するその親和性の変化ではなく、スフィンゴシンキナーゼの触媒効率の直接的増加に起因することを示す。スフィンゴシンキナーゼに対するeEF1Aの相互作用および効果を制御するもう一つの可能性は、eEF1Aのグアニジンヌクレオチド結合状態の関与である。細胞内では、(Ras様Gタンパク質ドメインを含む)eEF1AはGTPまたはGDPのいずれかに結合した形態で存在する(Ejiri, 2002)。これら2つの形態間の遷移は、eEF1Aにおいて大きな立体配座的変化を生じさせる(Ejiri, 2002)。低分子Gタンパク質と同様、eEF1AのGTP/GDP結合状態はそのGTPase活性、ならびに特定のグアニジンヌクレオチド交換因子(GEF)およびグアニジンヌクレオチド解離阻害因子(GDI)によって能動的に制御される(Cans et al., 2003)。eEF1Aのグアニジンヌクレオチド結合状態は、そのスフィンゴシンキナーゼとの相互作用に影響しないが、スフィンゴシンキナーゼの触媒活性に対するeEF1Aの効果を調節することが見出された。従って、これは、細胞のスフィンゴシンキナーゼ活性に対するeEF1Aの効果をダイナミックに制御する新規の機構である。対照的に、GTP結合型eEF1AはSK1活性またはSK2活性に対する影響を有さない。Gタンパク質ドメインの大部分を欠くためGTPに結合できないeEF1AのPTI短縮形態が、スフィンゴシンキナーゼと結合しその触媒活性を増進する能力を保持することは、この知見と矛盾しない。
【0039】
従って本発明は、より具体的には、短縮型eEF1A1、またはその誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節方法を提供する。
【0040】
好ましくは、上記スフィンゴシンキナーゼはスフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2であり、最も好ましくはスフィンゴシンキナーゼ1である。
【0041】
最も好ましくは、上記スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達は、短縮型eEF1A1、またはその誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を誘導またはアゴナイズすることによって上方制御される。
【0042】
スフィンゴシンキナーゼの触媒活性の上方制御因子としてのeEF1Aの役割およびこれら二つの分子間の相互作用領域の両方の解明により、スフィンゴシンキナーゼ媒介性の細胞活性を調節する手段が提供される。「調節」とは上方制御または下方制御を意味する。例えば、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズは、対象の細胞活性を効果的に誘導、上方制御または持続させる対象のシグナル伝達現象の誘導に対する言及を含むのに加えて、シグナル伝達現象が起きるレベル、程度または速度の増加という意味を提供する。逆に、eEF1A媒介性のスフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達現象が望ましくない限り(例えば、患者にeEF1Aを投与する処置プロトコルを減らすもしくは終了することが模索される場合または自然発生的な相互作用を下方制御することが模索される場合)、本発明は、対象の細胞活性を効果的に除去または下方制御させる対象のシグナル伝達現象の除去に対する言及を含むのに加えて、シグナル伝達現象が起きるレベル、程度または速度の減少に及ぶ。従って、本発明の方法に従って使用される薬剤は、対象の現象を誘導する、既に開始された現象をアゴナイズする、既に存在する現象をアンタゴナイズする、またはそのような現象の開始を完全に妨げる薬剤であり得る。
【0043】
「誘導またはそうでなければアゴナイズ」に対する言及は、
(i)eEF1A、特に短縮型eEF1A1に対応する領域とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用の誘導;または
(ii)その最初の誘導に続くスフィンゴシンキナーゼ/eEF1Aの相互作用の上方制御、増進またはそうでなければアゴナイズ
に対する言及であることが理解されるはずである。
【0044】
逆に、eEF1A、特にtr.eEF1A1に対応する領域とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用の「阻害またはそうでなければアンタゴナイズ」は、
(i)(例えば、内因性のeEF1Aがスフィンゴシンキナーゼ活性を上方制御することが既知の場合の予防的性質の文脈での)eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼとの相互作用の妨害;または
(ii)その効果をなくすまたはその効果を減らす、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼとの既存の相互作用のアンタゴナイズ
に対する言及である。
【0045】
スフィンゴシンキナーゼとeEF1Aの間の相互作用の(上方制御または下方制御のいずれかの意味における)調節は部分的なものでも完全なものでもあり得ることが理解されるはずである。部分的調節は、所定の細胞において自然に生じるスフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用の一部分のみが本発明の方法による影響を受ける場合に起こり(例えば、対象細胞と接触させる薬剤が細胞内のスフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用を飽和させるのに不十分な濃度で提供される)、完全調節は、全てのスフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用が調節される場合に起こる。
【0046】
スフィンゴシンキナーゼとeEF1Aの間の相互作用の調節は、
(i)シグナル伝達の目的で利用されるeEF1Aの細胞内濃度を調節するための、eEF1A、またはその誘導体、ホモログ、もしくは模倣物をコードする核酸分子の細胞への導入、あるいはタンパク質性形態のeEF1A、またはその誘導体、ホモログ、もしくは模倣物の導入、
(ii)eEF1A遺伝子の転写制御および/または翻訳制御を調節するタンパク質性分子または非タンパク質性分子の細胞への導入、
(iii)eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの間の相互作用をアンタゴナイズするタンパク質性分子または非タンパク質性分子、例えば競合的阻害剤または抗体の細胞への導入、
(iv)eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの間の相互作用をアゴナイズするタンパク質性分子または非タンパク質性分子の細胞への導入
を含むがこれらに限定されない多くの技術のうちのいずれか一つによって達成され得る。
【0047】
「薬剤」に対する言及は、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節する任意のタンパク質性分子または非タンパク質性分子に対する言及であることが理解されるはずであり、例えば、上記(i)〜(iv)で詳述した分子が含まれる。対象の薬剤は、任意のタンパク質性分子または非タンパク質性分子と連結、結合またはそうでなければ会合され得る。例えば、対象の薬剤は、限局的領域への標的化を可能にする分子と会合され得る。好ましい態様において、対象の薬剤は、スフィンゴシンキナーゼの活性化を上方制御するために導入されるeEF1A自体であるか、またはその誘導体、ホモログ、もしくは模倣物である。
【0048】
従ってこの好ましい態様によれば、eEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を誘導するのに十分な時間および条件下、有効量のeEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、それによってスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御する、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の上方制御方法を提供する。
【0049】
上記タンパク質性分子は、天然源、組換え源、もしくは融合タンパク質を含む合成源由来であるか、または例えば天然産物のスクリーニングによるものであり得る。上記非タンパク質性分子は、天然源、例えば天然産物スクリーニングから得られたものであるかまたは化学的に合成され得る。例えば、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの相互作用のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用できるeEF1Aの化学的アナログを意図する。化学的アナログは、必ずしもスフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aに由来するとは限らないが、特定の立体配座的類似性を共有するものであり得る。あるいは、スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aの特定の生理化学的特性を模倣または上方制御する化学的アゴニストが特別に設計され得る。アンタゴニストは、スフィンゴシンキナーゼとeEF1Aが相互作用するのを遮断、阻害またはそうでなければ妨害できる任意の化合物であり得る。アンタゴニストには、スフィンゴシンキナーゼもしくはeEF1A、またはスフィンゴシンキナーゼもしくはeEF1Aの部分に特異的な抗体(例えば、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体)が含まれる。アンタゴニストに対する言及はまた、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用を競合的に阻害する抗原、siRNA、アンチセンス分子、リボザイム、DNAzyme、RNAアプタマー、または共抑制に使用するのに適した分子が含まれる。上記(i)〜(iv)で言及したタンパク質性分子および非タンパク質性分子は、本明細書中で、総括的に「調節性薬剤」として言及される。
【0050】
本明細書の上記で定義した調節性薬剤のスクリーニングは、スフィンゴシンキナーゼおよびeEF1Aを含む細胞と薬剤の接触およびスフィンゴシンキナーゼ/eEF1Aの機能活性(例えば、特定の細胞活性)の調節またはスフィンゴシンキナーゼもしくはeEF1Aの下流の細胞標的の活性もしくは発現の調節についてのスクリーニングを含むがこれらに限定されないいくつかの適当な方法のうちのいずれか一つによって達成され得る。このような調節の検出は、ウェスタンブロット、電気泳動移動度シフトアッセイおよび/またはスフィンゴシンキナーゼ活性またはeEF1A活性のレポーター、例えばルシフェラーゼ、CAT等の読み取り等の技術を用いて達成され得る。
【0051】
スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aタンパク質は試験対象の細胞に天然に存在するものであっても、試験目的でそれらをコードする遺伝子を宿主細胞にトランスフェクトしたものであってもよいことが理解されるはずである。さらに、天然に存在する遺伝子またはトランスフェクトした遺伝子は構成的に発現され、それによって、特にスフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用を下方制御する薬剤のスクリーニングに有用なモデルを提供するものであり得るし、その遺伝子は活性化を必要とし、それによって、特に、特定の刺激条件下でスフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用を調節する薬剤のスクリーニング、例えばファージディスプレイおよび酵母ツーハイブリッドもしくはマルチハイブリッドスクリーニングに有用なモデルを提供するものであり得る。さらに、スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aの核酸分子が細胞にトランスフェクトされる限り、その分子は、スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aの遺伝子全体を含むものであってもよいし、スフィンゴシンキナーゼに結合するeEF1A領域等の遺伝子の一部分のみを含むものであってもよい。
【0052】
別の態様において、検出対象は、スフィンゴシンキナーゼ自体ではなく、スフィンゴシンキナーゼの下流の制御標的であり得る。さらに別の態様は、最小レポーターに連結されたスフィンゴシンキナーゼまたはeEF1A結合部位を含む。例えば、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用の調節は、下流のシグナル伝達構成要素の調節をスクリーニングすることによって検出され得る。これは、スフィンゴシンキナーゼおよびeEF1Aによって活性が制御される分子の調節を観察する系の一例である。これらの方法は、推定調節性薬剤、例えば合成ライブラリ、コンビナトリアルライブラリ、化学ライブラリまたは天然ライブラリを含むタンパク質性または非タンパク質性の薬剤のハイスループットスクリーニングを実施するための機構を提供する。
【0053】
本発明の方法に従って使用される薬剤は、任意の適当な形態をとり得る。例えば、タンパク質性の薬剤は、様々な程度にグリコシル化もしくは非グリコシル化、リン酸化もしくは脱リン酸化されてもよく、および/またはそのタンパク質に融合、連結、結合もしくはそうでなければ会合した一定範囲のその他の分子、例えばアミノ酸、脂質、糖類もしくはその他のペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質を含んでもよい。同様に、対象の非タンパク質性分子もまた任意の適当な形態をとり得る。本明細書中に記載されるタンパク質性および非タンパク質性の両方の薬剤は、任意の他のタンパク質性分子または非タンパク質性分子に連結、結合またはそうでなければ会合され得る。例えば、本発明の一つの態様において、上記薬剤は、限局的領域、例えば特定組織への標的化を可能にする分子と会合される。
【0054】
「発現」という用語は、核酸分子の転写および翻訳を意味する。「発現産物」に対する言及は、核酸分子の転写および翻訳から生じた産物に対する言及である。「調節」に対する言及は、上方制御または下方制御に対する言及であることが理解されるはずである。
【0055】
本明細書中に記載される分子(例えば、スフィンゴシンキナーゼ、eEF1Aまたはその他のタンパク質性もしくは非タンパク質性の薬剤)の「誘導体」には、天然源由来または非天然源由来のいずれかのフラグメント、部分(part)、区分(portion)、または変種体が含まれる。非天然源には、例えば、組換え源または合成源が含まれる。「組換え源」とは、対象分子を入手した細胞供給源が遺伝的に変更されていることを意味する。これは、例えば、その特定の細胞供給源による生産率および生産量を増加またはそうでなければ増進させるために行われ得る。部分またはフラグメントには、例えば、その分子の活性領域が含まれる。誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失または置換により獲得され得る。アミノ酸挿入誘導体には、単一アミノ酸または複数アミノ酸のアミノ末端融合物および/またはカルボキシ末端融合物ならびに配列内挿入物が含まれる。挿入アミノ酸配列変種体は、一つまたは複数のアミノ酸残基がタンパク質中の所定部位に導入されたものであるが、得られた産物を適当にスクリーニングすることで無作為な挿入もまた可能である。欠失変種体は、その配列からの一つまたは複数のアミノ酸の除去によって特徴付けられる。置換アミノ酸変種体は、配列中の少なくとも一つの残基が除去されその場所に異なる残基が挿入されたものである。アミノ酸配列への付加には、上記のような他のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質との融合が含まれる。
【0056】
誘導体には、ペプチド、ポリペプチドまたはその他のタンパク質性もしくは非タンパク質性の分子に融合された全長タンパク質の特定のエピトープまたは部分を有するフラグメントも含まれる。例えば、スフィンゴシンキナーゼ、eEF1A、またはそれらの誘導体は、細胞膜への局在化を促進するための分子と融合され得る。本発明において意図される分子のアナログは、側鎖の修飾、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成の際の非天然アミノ酸および/またはそれらの誘導体の組み込み、ならびに架橋剤の使用およびそのタンパク質性分子またはそれらのアナログに対して立体配座的な制約を課すその他の方法の使用を含むがこれらに限定されない。
【0057】
本発明の方法に従って使用され得る核酸配列の誘導体も同様に、他の核酸分子との融合を含む、単一または複数のヌクレオチド置換、欠失および/または付加により獲得され得る。本発明において使用される核酸分子の誘導体には、オリゴヌクレオチド、PCRプライマー、アンチセンス分子、共抑制に使用するのに適した分子、および核酸分子の融合物が含まれる。核酸配列の誘導体には、縮重変種体も含まれる。
【0058】
スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aの「変種体」とは、スフィンゴシンキナーゼまたはeEF1Aの形態の機能活性のすくなくとも一部を示す、変種体の分子を意味することが理解されるはずである。そのバリエーションは任意の形態をとることができ、天然物または非天然物であり得る。変異体分子は、修飾された機能活性を示す分子である。
【0059】
「ホモログ」とは、その分子が本発明の方法に従って処置される種とは異なる種から得られたものであることを意味する。
【0060】
「模倣物」は、対象分子の機能活性のうちの任意の一つまたは複数を示す分子であることが理解されるはずであり、その機能的等価物は任意の供給源由来であってよく、例えば化学合成されても、またはスクリーニングプロセス、例えば天然産物スクリーニングを通じて同定されてもよい。例えば、化学的または機能的な等価物は、コンビナトリアル化学または組換えライブラリのハイスループットスクリーニング等の周知技術を用いてもしくは天然産物スクリーニングによって設計および/または同定され得る。これらの分子はまた、本発明の方法において有用な任意の調節性薬剤をスクリーニングするのに使用され得る。
【0061】
例えば、有機低分子を含むライブラリがスクリーニングされ得る。そこで使用される有機分子は、多くの特定の親基が置換されている。一般的な合成スキームは公開された方法に従うものであり得る(例えば、Bunin et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:4708-4712; DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909-6913)。簡単に言うと、連続する合成工程の各々において、複数の異なる選択された置換基のうちの一つが、アレイ上の選択されたチューブの部分集団の各々に付加される。チューブの部分集団の選択は、そのライブラリを作製するのに使用した異なる置換基の全ての可能性のある順列が生成されるように行う。一つの適当な順列ストラテジーは米国特許第5,763,263号において概説されている。
【0062】
今日、生物学的に活性な化合物を検索するために無作為有機分子コンビナトリアルライブラリを用いることに、多くの関心がよせられている(例えば、米国特許第5,763,263号を参照のこと)。この類型のライブラリをスクリーニングすることによって発見されるリガンドは、天然リガンドを模倣もしくは遮断するのにまたは生物学的標的の天然に存在するリガンドと干渉させるのに有用であり得る。本発明の文脈で、例えば、それらはスフィンゴシンキナーゼeEF1Aアゴニストまたはアンタゴニストを開発する出発点として使用され得る。スフィンゴシンキナーゼおよび/もしくはeEF1Aまたはそれらの関連する部分は、本発明によれば、様々な固相または溶液相合成方法により形成された組み合わせライブラリにおいて使用され得る(例えば、米国特許第5,763,263号およびその引用文献を参照のこと)。米国特許第5,753,187号に開示されるような技術を使用することによって、数週間以内に何百もの新規の化学的および/または生物学的化合物が流れ作業でスクリーニングされ得る。同定される多数の化合物のうち、適当な生物学的活性を示すもののみがさらに分析される。
【0063】
ハイスループットライブラリスクリーニング方法に関して、選択された生物学的因子、例えば、生分子、高分子錯体または細胞と特異的に相互作用できるオリゴマーまたは低分子ライブラリの化合物は、上記のような周知方法の中から当業者により容易に選択される組み合わせライブラリデバイスを用いてスクリーニングされる。このような方法において、ライブラリの各メンバーは、選択された因子と特異的に相互作用するその能力についてスクリーニングされる。この方法を実施する場合、生物学的因子を化合物含有チューブに投入し、各チューブの個々のライブラリ化合物と相互作用させる。相互作用は、所望の相互作用の存在を観察するのに使用され得る検出可能なシグナルを生じるよう設計される。好ましくは、生物学的因子は水溶液として調製され、所望の相互作用に応じてさらなる条件が用いられる。検出は、例えば、物質の検出のための任意の周知の機能ベースまたは非機能ベースの方法によって行われ得る。
【0064】
本発明において意図されるスフィンゴシンキナーゼ、eEF1Aまたはアゴニスト性もしくはアンタゴニスト性の薬剤の「アナログ」は、側鎖の修飾、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成の際の非天然アミノ酸および/または誘導体の組み込み、ならびに架橋剤およびそのアナログに対して立体配座的な制約を課すその他の方法を含むがこれらに限定されない。そのような修飾により生じ得る特定の形態は、対象分子がタンパク質性であるか非タンパク質性であるかに依存すると考えられる。特定の修飾の性質および/または適合性は当業者により慣用的に決定され得る。
【0065】
例えば、本発明によって意図される側鎖の修飾の例には、アミノ基の修飾、例えばアルデヒドとの反応およびその後のNaBH4での還元による還元的アルキル化;メチルアセトイミデートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアナートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびにピリドキサール-5-リン酸およびその後のNaBH4での還元によるリジンのピリドキシル化が含まれる。
【0066】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサール等の試薬による複素環縮合産物の形成により修飾され得る。
【0067】
カルボキシル基は、O-アシルイソウレア形成を通じたカルボジイミドの活性化およびその後のそれに続く誘導体化、例えば対応するアミドへの誘導体化により修飾され得る。
【0068】
スルフィドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4-クロロ水銀ベンゾエート、4-クロロ水銀フェニルスフホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロ水銀-4-ニトロフェノールおよび他の水銀剤を用いた水銀誘導体の形成;アルカリpHでのシアナートによるカルバモイル化等の方法により修飾され得る。
【0069】
トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシニミドによる酸化または2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドもしくはハロゲン化スルフェニルによるインドール環のアルキル化により修飾され得る。他方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによるニトロ化により3-ニトロチロシン誘導体を形成するよう変更され得る。
【0070】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化またはジエチルピロカーボネートによるN-カルボエトキシ化により達成され得る。
【0071】
タンパク質合成の際に非天然アミノ酸および誘導体を組み込む例には、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD-異性体の使用が含まれるがこれらに限定されない。本発明において意図される非天然アミノ酸のリストを表1に示す。
【0072】
(表1)



【0073】
架橋剤は、例えば、ホモ二価性架橋剤、例えば(CH2)nスペーサー基(n=1〜n=6)を有する二価性イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシニミドエステルならびに通常アミノ反応性部、例えばN-ヒドロキシスクシニミドおよび別の基特異的反応性部を含むヘテロ二価性試薬を用いて三次元立体配座を安定化させるのに使用され得る。
【0074】
本発明の方法は、インビトロまたはインビボのいずれかの状況の細胞供給源との関係で実施され得ることが理解されるはずである。
【0075】
スフィンゴシンキナーゼは細胞内シグナル伝達経路機能の中心となる分子であるため、本発明の方法はスフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達により制御または統制される細胞活性の調節手段を提供する。例えば、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路は、細胞活性、例えば炎症、細胞の形質転換、アポトーシス、細胞増殖、炎症メディエーター、例えばサイトカイン、ケモカイン、eNOSの産生の上方制御、および接着分子の発現の上方制御をもたらす細胞活性を制御することが公知である。上記上方制御は、例えば、炎症サイトカイン、例えば腫瘍壊死因子αおよびインターロイキン1、エンドトキシン、酸化脂質もしくは修飾脂質、放射線、または組織の損傷を含む多くの刺激により誘導され得る。これに関連して、「細胞活性の調節」に対する言及は、細胞がスフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達に従って発揮できる活性のうちの任意の一つまたは複数、例えば、ケモカインの産生、サイトカインの産生、一酸化窒素の合成、接着分子の発現、およびその他の炎症調節因子(modulator)の産生のうちの一つまたは複数(しかしこれらに限定されない)の上方制御、下方制御またはそうでなければ変更に対する言及である。好ましい方法はスフィンゴシンキナーゼの活性を下方制御することによって望ましくない細胞活性を下方制御することであるが、そうであるとしても本発明は特定の環境で望まれ得る細胞活性の上方制御を含むことが理解されるはずである。
【0076】
従って、本発明のさらに別の局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、細胞活性の調節方法に関する。
【0077】
好ましくは、本発明は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼ1との相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、細胞活性の調節方法に関する。
【0078】
最も好ましい態様において、本発明は、tr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはヒト細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはヒト細胞活性を下方制御する、ヒト細胞活性の調節方法に関する。
【0079】
最も好ましくは、上記調節は、eEF1Aまたはtr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を誘導またはアゴナイズすることによって達成される細胞活性の上方制御である。
【0080】
最も好ましくは、上記薬剤はeEF1Aまたはtr.eEF1A1それ自体である。
【0081】
本発明のさらなる局面は、疾患状態の処置および/または予防に関連する本発明の使用に関する。本発明はいずれか一つの学説または作用様式に限定されるものではないが、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路を通じて制御される幅広い細胞の機能活性にとって、スフィンゴシンキナーゼ機能の制御は、健常状態および疾患状態の両方の生理学的プロセスのあらゆる局面に不可欠な要素である。従って、本発明の方法は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路を通じて制御される、異常なまたはそうでなければ望ましくない細胞の機能活性の調節のための価値あるツールを提供する。
【0082】
従って、本発明のさらに別の局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤を哺乳動物に投与する段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0083】
本発明のさらに別の局面は、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤を哺乳動物に投与する段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼ活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0084】
最も好ましい態様において、本発明は、tr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤をヒトに投与する段階を含み、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられるヒトにおける状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0085】
別の最も好ましい態様において、本発明は、tr.eEF1A1とスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤をヒトに投与する段階を含み、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられるヒトにおける状態の処置および/または予防のための方法に関する。
【0086】
最も好ましくは、上記調節は上方制御であり、上記薬剤はeEF1Aもしくはtr.eEF1A1、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物である。
【0087】
「異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な」細胞活性に対する言及は、過剰な細胞活性、生理学的には正常であるがそれが望ましくないという点で不適当な細胞活性または不十分な細胞活性に対する言及であることが理解されるはずである。この定義は、同様の様式で、「異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な」スフィンゴシンキナーゼ活性にも適用される。例えば、細胞が腫瘍性である限り、細胞増殖および抗アポトーシス性の促進が下方制御されることが望ましい。同様に、炎症によって特徴付けられる疾患、例えば関節リウマチ、アテローム硬化、喘息、自己免疫疾患、および炎症性腸疾患は、炎症メディエーター、例えば接着分子の合成および分泌をもたらす細胞活性を伴うことが公知である。このような状況においては、このような活性を下方制御することもまた望ましい。他の状況においては、細胞増殖を刺激するために、例えば脈管形成を促進するためにスフィンゴシンキナーゼの活性化をアゴナイズまたはそうでなければ誘導することが望ましい場合がある。
【0088】
本明細書中で使用する場合、「哺乳動物」という用語は、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット)、ペット動物(例えば、イヌ、ネコ)および捕獲野生動物(例えば、キツネ、カンガルー、シカ)を含む。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは実験動物である。さらにより好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0089】
「有効量」とは、少なくとも部分的に望ましい反応を得るためまたは処置される特定の状態の発症を遅らせるためもしくは進行を阻害するためもしくは発症もしくは進行の両方を停止させるために必要な量を意味する。この量は、処置される個体の健康状態および生理的状態、処置される個体の分類学上の分類、望まれる保護の程度、組成の処方、医学的状況の評価、およびその他の関連要因に依存して変化する。この量は比較的広範囲に及び、これらは慣用的な試験を通じて決定され得ると考えられる。
【0090】
本明細書における「処置」および「予防」に対する言及は、その最も広い意味で捉えるべきである。「処置」という用語は、被験体が完全に回復するまで処置されることを必ずしも意味するものではない。同様に、「予防」は被験体が最終的に疾患状態に罹らないことを必ずしも意味するものではない。従って、処置および予防には、特定の状態の症状の改善または特定の状態を発症する危険の抑止もしくはそうでなければ低減が含まれる。「予防」という用語は、特定の状態の重篤度または発症を減らすことであると捉えられ得る。「処置」もまた、既に存在する状態の重篤度を低減し得る。
【0091】
本発明はさらに、治療の併用、例えば対象の状態の処置との関係で有用であり得るその他の薬剤、薬物または処置、例えば癌の処置における細胞傷害性薬剤または放射線療法を哺乳動物に対して施すと共に薬剤を投与することを意図する。
【0092】
薬学的組成物の形態での調節性薬剤の投与は、任意の都合の良い手段によって実施され得る。薬学的組成物中の調節性薬剤は、その特定の症例に依存する量で投与された際に治療的活性を示すことが意図される。そのばらつきは、例えば、選択されるヒトまたは動物および調節性薬剤に依存する。幅広い用量が適用可能であり得る。患者にもよるが、例えば、1日につき、体重1kgあたり約0.1mg〜約1mgの調節性薬剤が投与され得る。用法は、最適な治療反応を提供するよう適合され得る。例えば、数回に分けられた用量が、毎日、毎週、毎月、またはその他の適当な時間間隔で投与されてもよいし、その用量は、その状況の緊急性に比例して減らしてもよい。
【0093】
調節性薬剤は、都合の良い様式で、例えば経口経路、静脈内経路(水溶性の場合)、腹腔内経路、筋内経路、皮下経路、皮内経路、もしくは坐剤経路(suppository route)、または移植によって(例えば、徐放性分子を用いて)投与され得る。調節性薬剤は、薬学的に許容される非毒性の塩、例えば酸付加塩または金属錯体、例えば亜鉛、鉄等との錯体(これらは本願の目的上、塩とみなされる)の形態で投与され得る。このような酸付加塩の例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩等である。有効成分が錠剤の形態で投与される場合、錠剤は、結合剤、例えばトラガカント、トウモロコシデンプン、またはゼラチン;崩壊剤、例えばアルギン酸;および滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムを含み得る。
【0094】
投与経路には、呼吸器、気管内、鼻咽頭、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋内、眼内、くも膜下腔内、脳内、鼻腔内、注入、経口、直腸、点滴静注経由、パッチ、および移植が含まれるがこれらに限定されない。
【0095】
これらの方法に従って、本発明に従い定義された薬剤は、一つまたは複数の他の化合物または分子と同時投与され得る。「同時投与」とは、同じ経路もしくは異なる経路を通じて同じ処方物としてもしくは二つの異なる処方物として同時に投与することまたは同じ経路もしくは異なる経路で連続して投与することを意味する。例えば、対象の薬剤は、その効果を増進するためにアゴニスト性薬剤と共に投与され得る。「連続」投与とは、二つの型の分子の投与の間に秒、分、時間または日単位の時間差があることを意味する。これらの分子は任意の順に投与され得る。
【0096】
本発明の別の局面は、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置のための医薬の製造における、本明細書の上記に定義された薬剤の使用であって、該薬剤はスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節し、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズは細胞活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは細胞活性を下方制御する、使用を意図する。
【0097】
本発明のさらに別の局面は、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置のための医薬の製造における、本明細書の上記に定義された薬剤の使用であって、該薬剤はeEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節し、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、使用を意図する。
【0098】
好ましくは、上記相互作用は、tr.eEF1A1との相互作用である。
【0099】
さらにより好ましくは、上記哺乳動物はヒトであり、上記調節は上方制御である。
【0100】
さらに別のさらなる局面において、本発明は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に本明細書の上記に定義された調節性薬剤を含む薬学的組成物を意図する。これらの薬剤は有効成分と称される。
【0101】
注射用途に適した薬学的形態には、無菌水溶液(水溶性の場合)もしくは分散物および無菌注射溶液もしく分散物を素早く調製するための無菌粉末が含まれ、またはクリーム形態もしくは局所適用に適したその他の形態であり得る。これらは製造および保存条件下で安定でなければならず、かつ微生物、例えば細菌および真菌の混入から保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物ならびに植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。適当な流動性は、例えば、コーティング、例えばレシチンの使用によって、分散物の場合は必要な粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物作用の抑止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってなされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長期的な吸収は、その組成物において吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによってなされ得る。
【0102】
無菌注射溶液は、必要に応じて上記の列挙した様々な他の成分を含む適当な溶媒に必要量の活性化合物を加え、これを濾過滅菌することによって調製される。一般的に、分散物は、基礎分散媒体および上記の列挙した中の必要な他の成分を含む無菌媒体に様々な無菌処理した有効成分を加えることによって調製される。無菌注射溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分および任意の追加の所望の成分の粉末を予め濾過滅菌したそれらの溶液から生成する減圧乾燥技術および凍結乾燥技術である。
【0103】
有効成分が適当に保護される場合、それらは例えば不活性希釈剤もしくは吸収可能な食用担体と共に経口投与されてもよいし、硬質殻もしくは軟質殻のゼラチンカプセルに内包されてもよいし、錠剤の中に圧縮されてもよいし、または食物に直接加えられてもよい。経口治療投与について、活性化合物は賦形剤と共に加えられ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハ剤等の形態で使用され得る。このような組成物および製剤は、少なくとも1重量%の活性化合物を含むべきである。組成物および製剤の割合は当然変化し、約5〜約80重量%の単位が都合良い。このような治療的に有用な組成物における活性化合物の量は、適当な用量が獲得され得る量である。本発明に従う好ましい組成物または製剤は、経口投薬単位形態が約0.1μg〜2000mgの活性化合物を含むよう調製される。
【0104】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤等はまた、以下に列挙する成分を含み得る:結合剤、例えばゴム、アカシア、トウモロコシデンプン、またはゼラチン;賦形剤、例えば第二リン酸カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸等;滑沢剤、例えばステアリン酸ナトリウム;および甘味剤、例えばスクロース、ラクトース、もしくはサッカリン、または香味剤、例えばペパーミント、冬緑油、もしくはチェリー香。投薬単位形態がカプセル剤の場合、上記類型の材料に加えて液体担体を含み得る。様々な他の材料は、コーティングとしてまたはそうでなければその投薬単位の物理的形態を修飾するために加えられ得る。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、セラック、糖、またはその両方でコーティングされ得る。シロップ剤またはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてのスクロース、保存剤としてのメチルパラベンおよびプロピルパラベン、着色料および香味剤、例えばチェリーフレーバーまたはオレンジフレーバーを含み得る。当然、任意の投薬単位形態を調製するのに使用する任意の材料は、薬学的に純粋でありかつ用いられる量において実質的に非毒性であるべきである。さらに、活性化合物は、持続放出製剤および徐放処方物に加えられ得る。
【0105】
薬学的組成物はまた、遺伝的分子、例えば標的細胞をトランスフェクトでき、調製性薬剤をコードする核酸分子を保持するベクターを含み得る。ベクターは、例えば、ウイルスベクターであり得る。
【0106】
本発明のさらに別の局面は、本発明の方法において使用する場合の、本明細書の上記に定義した薬剤に関する。
【0107】
これより、以下の非限定的な実施例を参照することで本発明を解説する。
【0108】
実施例1
eEF1Aとの相互作用を通じたスフィンゴシンキナーゼの活性化
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト胎児腎細胞(HEK-293T、ATCC CRL-1573)は、10%ウシ胎仔血清(CSL Biosciences)、2mMグルタミン、0.2%(w/v)重炭酸ナトリウム、ペニシリン(1.2mg/ml)およびストレプトマイシン(1.6mg/ml)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(CSL Biosciences, Parkville, Australia)中で培養した。リン酸カルシウム沈降法を用いて細胞を一過的にトランスフェクトし、24時間後に冷PBS中にかき集めることによって収集し、超音波処理(3ワット、4℃で30秒間)により50mM Tris/HCl pH7.4、150mM NaCl、2mM Na3VO4、10mM NaF、1mM EDTA、10%グリセロール、0.05% Triton X-100、10mM β-グリセロリン酸、1mM DTTおよびプロテアーゼ阻害剤(Complete;Roche Molecular Biochemicals)を含有する抽出緩衝液に溶解させた。細胞溶解産物のタンパク質濃度は、BSAを標準として使用してクマシーブリリアントブルー試薬(Sigma)によって決定した。
【0109】
酵母ツーハイブリッドスクリーニング
酵母ツーハイブリッドスクリーニングは、Matchmaker Gal4ツーハイブリッドシステム3(Clontech)を製造元の指示に従い用いて行った。全長hSK1 cDNA(Genbankアクセッション番号AF200328)をGal4 DNA結合ドメインとインフレームでpGBKT7(Clontech)にクローニングした。次いでヒト白血球cDNAライブラリを含むpACT2(Clontech)と共にこのベイト構築物で酵母AH107株を形質転換した。合計1×106個の独立したクローンをスクリーニングした。
【0110】
eEF1A1およびeEF1A2のクローニングおよび短縮型eEF1A1の作製
全長ヒトeEF1A1コード領域のPCR増幅用プライマーは、公開されたeEF1A1 cDNA配列(306;Genbankアクセッション番号NM001402)を用いて設計した。eEF1A1 cDNAは、プライマー

を用いてヒト包皮線維芽細胞cDNAから増幅し、C末端にHAエピトープタグを付加した。次いでPCR産物をBamHIおよびXhoIで切断した後に、哺乳動物発現用にpCDNA3(Invitrogen)に、および細菌発現用にpGEX4T-1(GE Health)にクローニングした。ヒトHA-eEF1A1 cDNA配列の完全性は配列決定により確認した。天然に存在するPTI-1タンパク質(292;Genbankアクセッション番号L41490)の配列をモデルにしたN末端短縮型eEF1A1(tr.eEF1A1)は、プライマー

を用いたPCRによってpcDNA3-eEF1A1-HAプラスミドから作製した。次いでPCR産物をEcoRIおよびXhoIで切断した後に、pcDNA3およびpGEX4T-1にクローニングした。eEF1A2コード領域のPCR増幅用プライマーは、公開されたマウスeEF1A2 cDNA配列(307;Genbankアクセッション番号NM007906)を用いて設計した。マウスeEF1A2 cDNAは、プライマー

を用いてマウス脳cDNAから増幅し、C末端にHAエピトープタグを付加した。次いでPCR産物を、EcoRIで切断した後、pcDNA3およびpGEX4T-2にクローニングした。マウスeEF1A2 cDNA配列の方向および完全性は配列決定により確認した。
【0111】
GST融合タンパク質の作製
eEF1A1、tr.eEF1A1およびeEF1A2 cDNAは、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質として、細菌の大腸菌(E.coli)BL21中で発現させた。一晩培養したものを、37℃の100mg/Lアンピシリンを含有するルリアブロス中で振盪しながら(200rpm)培養した。次いで培養物を新鮮なルリアブロスで30倍希釈し、OD600が0.6〜1.0になるまで37℃で振盪しながら培養した。次いで、GST融合タンパク質の発現を0.1mM IPTGを用いて誘導し、その培養物を振盪しながら37℃でさらに90分間インキュベートした。次いで6000g、4℃で20分間の遠心分離によって細菌細胞を収集し、20mlの冷PBSに再懸濁し、超音波処理(氷上5ワットで30秒間を3パルス行い、各パルス間に30秒間の冷却期間を設けた)により溶解させた。次いで終濃度が1%になるようTriton X-100を細菌溶解産物に加え、溶解産物を十分混合し、次いで50000g、4℃で25分間の遠心分離を行った。次いで得られた洗浄された細菌溶解産物を撹拌しながら4℃で2時間、GSH-セファロース4Bと共にインキュベートした。その後、(タンパク質が結合した)GSH-セファロースビーズを3000g、4℃で5分間の遠心分離によってペレット化し、冷PBSで二度洗浄した。GSH-セファロースに付着したタンパク質は、SDS-PAGE後にBSAを標準として使用してクマシーブリリアントブルー染色によって定量した。次いでこれらのビーズをプルダウン分析に直接使用するか、またはGST融合タンパク質を、10mM GSHを含有する冷PBSと共に30分間撹拌しながらインキュベートすることによって溶出させた。GST-hSK1融合タンパク質は、以前に記載されたように作製した(Pitson et al., 2000)。
【0112】
スフィンゴシンキナーゼアッセイ
スフィンゴシンキナーゼ活性は、以前に記載されたように(Roberts et al., 2004, Anal. Biochem. 331:122-129)、基質としてD-エリスロ-スフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA)および[γ32P]ATP(PerkinElmer, Melbourne, Australia)を用いて慣用的に決定した。1ユニット(U)のスフィンゴシンキナーゼ活性は、1pmol S1P/分を生成するのに必要な酵素量と定義する。基質動態は、ミカエリスメンテン速度式を用いて非線形回帰プログラムHyper 1.1sにより分析した。
【0113】
hSK1およびeEF1Aのインビトロリン酸化
溶液中のHisタグ付きhSK1のインビトロリン酸化は、以前に記載されたように行った(Pitson et al., 2003)。GST-hSK1のインビトロリン酸化もまた、このタンパク質がGSH-セファロースビーズに結合した状態を、これらのビーズ(2μg GST-hSK1)をERKアッセイ緩衝液(9mM MOPS、11mM β-グリセロリン酸、2.2mM EGTAおよび0.4mMオルトバナジン酸ナトリウム)中、30℃で60分間、60ユニットのERK2(Calbiochem)および1mM ATPと共にインキュベートすることによって維持しつつ行った。次いで150mM NaClおよび10%グリセロールを含有する50mM Tris/HCl緩衝液を用いてビーズを洗浄した。GSH-セファロース結合GST-eEF1A1のインビトロリン酸化は、これらのビーズ(1μg GST-eEF1A1含有)を、緩衝液(7mM MOPS、0.1mM EDTA、4μM β-グリセロリン酸、0.2μM DTT、0.15mMオルトバナジン酸塩、0.9mM EGTA、pH7.4)中、37℃で30分間、0.1ユニットのS6キナーゼ(Upstate)、3.5mM [γ32P]ATP(70nCi/μl)と共にインキュベートすることによって同様の様式で行った。次いで冷PBSでビーズを三回洗浄した。
【0114】
免疫沈降およびウェスタンブロッティング
hSK1(FLAG)またはhSK2(FLAG)を単独でおよび/またはHA-eEF1Aアイソフォームと共に発現する細胞の溶解産物を、13,000g、4℃で10分間遠心分離し、不溶物を除去した。この溶解産物に、抗HAモノクローナル抗体(Sigma)、M2抗FLAGモノクローナル抗体(Sigma)、またはウサギ抗hSK1抗体(Pitson et al., 2003)を加え、撹拌しながら4℃で3時間インキュベートした。次いでプロテインAセファロース(Amersham Pharmacia Biotech)と共に4℃で3時間インキュベートすることによって免疫複合体を捕捉し、冷抽出緩衝液で洗浄し、SDS-PAGEに供してタンパク質をニトロセルロースメンブレンに移した。hSK1は、モノクローナルM2抗FLAG抗体(Sigma)またはポリクローナルニワトリまたはウサギ抗SK1抗体のいずれかを用いて定量した(Pitson et al., 2003)。eEF1Aは、抗HA抗体(12CA5;Sigma)または抗eEF1A抗体(Upstate)のいずれかを用いて決定した。免疫複合体は、エンハンスド・ケミルミネセンス・キット(ECL, Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、HRP結合抗マウス(Pierce)、抗ウサギ(Pierce)または抗ニワトリIgG(IMVS, Adelaide, Australia)により検出した。
【0115】
GST融合タンパク質の結合分析
一過的にトランスフェクトしたHEK-293T細胞由来の溶解産物を、1μgのGST、GST-eEF1A、GST-tr.eEF1A1またはGST-hSK1のいずれかを含むGSH-セファロースビーズと共に、4℃で2時間、撹拌しながらインキュベートした。次いで、40mM NaClおよび10%グリセロールを含有する15mM Tris/HCl、pH7.4でビーズを3回洗浄し、SDS-PAGEに供し、会合したタンパク質を、抗FLAG抗体または抗HA抗体のいずれかを用いるウェスタンブロットによって検出した。精製した組み換えhSK1またはhSK2とGST-eEF1A1の相互作用も同様の様式で行い、GSH-セファロース結合GST-eEF1A1を1μgのHisタグ付き組み換えhSK1(Pitson et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:49545-49553)またはhSK2(Roberts et al., 2004, 前出)と共に4℃で3時間撹拌しながらインキュベートした。次いでビーズを上記のようにして洗浄し、SDS-PAGEに供し、会合したタンパク質を抗His抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いるウェスタンブロットによって検出した。hSK1およびhSK2とeEF1A1の相互作用に対するグアニジンヌクレオチドの効果は、1μgのGSH-セファロースビーズ結合GST-eEF1A1またはGST-短縮型eEF1A1を、20mM MgCl2を含有する10mM Tris/HCl、pH7.4中の0.1mM GSTγS、10mM GTPまたは10mM GDPと共に4℃で30分間撹拌しながらプレインキュベーションを行うことによって分析した。次いで、グアニジンヌクレオチドを負荷したタンパク質を遠心分離(3000g、4℃で5分間)によって単離し、上記のようにして組み換えhSK1およびhSK2と結合する能力について評価した。
【0116】
結果:
hSK1相互作用タンパク質であるeEF1A1:
hSK1の活性および機能を制御する機構を理解するため、酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行い、hSK1と相互作用するタンパク質を同定した。このスクリーニングにおいて単離された一つの部分cDNAは延長因子1A1(eEF1A1)のC末端の312アミノ酸をコードした。
【0117】
eEF1A1とhSK1の間の相互作用を確認するため、全長eEF1A1 cDNAをコードする細菌発現用構築物および哺乳動物発現用構築物を、ヒト包皮線維芽細胞cDNAからPCRによって作製した。hSK1とeEF1A1の相互作用は、最初に、グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1またはGST単独と、FLAGエピトープタグ付きhSK1を過剰発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物とを用いたプルダウン実験によって評価した。その結果(図1A)は、hSK1がGST-eEF1A1と特異的に相互作用しGST単独とは相互作用しないことを実証する。さらに、グルタチオンセファロース結合GST-hSK1またはGST単独と、HAエピトープタグ付きeEF1A1を過剰発現するHEK-293T細胞の溶解産物とを用いた逆プルダウン実験を行った。ここでも、結果(図1B)はeEF1A1とGST-hSK1の特異的相互作用を実証した。eEF1A1とhSK1の間の相互作用をさらに確認するため、HA-eEF1A1およびhSK1-FLAGを共発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物に対する免疫共沈降研究を行った。抗HA(eEF1A1)免疫複合体中にhSK1が存在することが観察され(図1C)、hSK1とeEF1A1の間の相互作用がさらに示された。最後に、本発明者らは、抗hSK1(Pitson et al., 2003)および抗eEF1A1抗体を用いるトランスフェクトしていないHEK-293T細胞の溶解産物中の内因性タンパク質の免疫共沈降を通じて、hSK1とeEF1A1の間の生理学的相互作用を実証することができた(図1D)。
【0118】
hSK1の活性をインビトロで直接的に増進するeEF1A1:
eEF1A1の基本的な役割はタンパク質合成の際のポリペプチド延長であるが(Browne and Proud, 2002; Ejiri, 2002; Abbott and Proud, 2004)、シグナル伝達、細胞骨格の組織化、アポトーシスおよび、これが最も重要なのだが、発癌性の形質転換における役割を含む、その他の様々な一見無関係な細胞機能がeEF1A1に起因する(Ejiri, 2002; Thornton et al., 2003; Tatsuka et al., 1992)。
【0119】
組み換えhSK1(rec-hSK1)と共に組み換えGST-eEF1A1またはGST単独を用いるSK活性アッセイを行った。これらの条件下で、GST単独ではhSK1活性に対して効果を有さなかったが、GST-eEF1A1はhSK1の触媒活性を2〜3倍増進した(図2A)。これらのアッセイ条件下でrec-hSK1は線形の反応動態によって安定であることが示されていたので(データに示さず)、この効果はeEF1A1がこの酵素アッセイにおけるrec-hSK1の安定性を増加させた結果ではなかった。まとめると、これらの結果は、eEF1A1がhSK1の活性に対して直接的な刺激効果を有することを示す。このhSK1活性に対するeEF1A1のインビトロ効果が用量依存的であるか否かを試験するため、rec-hSK1活性に対する漸増濃度のGST-eEF1A1の効果を決定した。結果は、hSK1活性がeEF1A1量の増加と共に増加を続け、1/2倍モル過剰のeEF1A1によって有意な効果が見られ、10倍モル過剰のeEF1A1によって最大刺激が見られることを示した(図2A)。
【0120】
これらのインビトロ効果にもかかわらず、eEF1A1をHEK-293T細胞において過剰発現させた場合、細胞内SK活性の増加が観察されなかった(図8Cを参照のこと)。eEF1A1は培養細胞において最も高度に発現されるタンパク質の一つであるから(Dapas et al., 2003)、この結果は驚くようなものではなかった。従って、eEF1A1の過剰発現は細胞内eEF1A1レベルを穏やかに増加させたのみであると考えられる。
【0121】
hSK1の基質動態に対するeEF1A1の効果:
eEF1A1はrec-hSK1の活性を直接的に増加させるので、hSK1の基質動態に対するeEF1A1の効果を試験した。その結果は、スフィンゴシンおよびATPの両方に対するhSK1のKM値がeEF1A1の存在によって変化しないことを示す(図2B)。対照的にhSK1のkcat値は、eEF1A1の存在によっておよそ2〜3倍増加した(図2B)。まとめるとこれらの結果は、eEF1A1はhSK1のその基質に対する結合親和性を増加させないが、触媒速度を増進することを示す。
【0122】
hSK2と相互作用しhSK2の活性を増進するeEF1A1:
eEF1A1はhSK1と相互作用しその活性に対して直接的効果を有するので、もう一方のヒトSKアイソフォームであるhSK2に対する効果を試験した。eEF1A1とhSK2の間の相互作用は、グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1またはGST単独およびrec-hSK2を用いて調査した。hSK1と同様、hSK2はGST-eEF1A1と特異的に相互作用できた(図3A)。
【0123】
eEF1A1とhSK2の相互作用が実証されたので、hSK2の活性に対する相互作用の効果を試験した。精製したGST-eEF1A1およびrec-hSK2をインビトロでインキュベートし、得られたSK活性を測定した。hSK1と同様、GST-eEF1A1はhSK2活性を2〜3倍増加させることが示された(図3B)。
【0124】
hSK1相互作用タンパク質であるeEF1A2:
ヒトにおいてeEF1A1の第二の異性体が同定され、eEF1A2と名付けられた。これら二つのタンパク質間の配列相同性は極めて高い(95%超のヌクレオチド配列同一性)(Thornton et al., 2003)が、それらのヒト組織内分布の相違が観察されており(Thornton et al, 2003; Abbott and Proud, 2004)、eEF1A1は遍在的に発現され、eEF1A2は心臓、脳および骨格筋細胞にのみ存在する(Thornton et al., 2003)。二つのタンパク質の配列相同性から、SK1がeEF1A2とも相互作用するか否かに関する試験を行った。HA-eEF1A1およびSK1-FLAGを共発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物を用いて免疫共沈降を行い、eEF1A2もまたeEF1A1と同様にSK1と会合することを実証した(図4A)。
【0125】
eEF1A1の結果と同じ様に、インビトロ研究は、GST-eEF1A2がrec-hSK1の活性を2〜3倍増加できることを示した(図4B)。しかし、HA-eEF1A1の場合と同様、HEK-293T細胞におけるHA-eEF1A2の異所的発現は内因性SK活性に対して効果を有さなかった(図8Cを参照のこと)。
【0126】
リン酸化によって制御されないhSK1-eEF1A1の相互作用
eEF1A1と様々なタンパク質の間の相互作用は、eEF1A1(Yang and Boss, 1994)またはその標的タンパク質(Ejiri, 2002; Chang et al., 2002)のいずれかのリン酸化によって制御されることが公知である。従って、hSK1またはeEF1A1のリン酸化状態がそれらの相互作用能力に影響するか否かに関する分析を行った。最初に、組み換えERK2を用いてグルタチオンセファロース結合GST-hSK1をリン酸化することによるhSK1のリン酸化の効果を調査した。ERK2は、インビトロで、このタンパク質における唯一の生理学的リン酸化部位であると考えられるhSK1のSer225を特異的にリン酸化することが公知である(Pitson et al., 2003)。次いで、このリン酸化型GST-hSK1を、HA-eEF1A1を過剰発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物を用いるプルダウンアッセイにおいて使用した。非リン酸化型GST-hSK1およびリン酸化型GST-hSK1は両方とも同様の様式でHA-eEF1A1と相互作用した(図5A)。GST-hSK1のリン酸化はまた、その活性を増加させるGST-eEF1A1の能力に影響しなかった。この結果を確認するため、グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1およびリン酸化されることが公知の野生型hSK1(Pitson et al., 2003)またはそのリン酸化されない対応物であるhSK1(S225A)(Pitson et al., 2003)のいずれかを過剰発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物を用いるプルダウン実験を行った。プルダウン実験の結果は、両方の形態のhSK1が同等な程度、eEF1A1と相互作用することを示した(図5B)。まとめると、これらの結果は、いくつかの他のeEF1A1関連タンパク質と異なり、hSK1のリン酸化状態はeEF1A1と相互作用するその能力に影響しないことを明確に示す。
【0127】
次に、hSK1と相互作用するその能力に対するeEF1A1のリン酸化の効果を試験した。eEF1A1はS6キナーゼ(S6K)(Thornton et al., 2003)、PKC(Kielbassa et al., 1995)およびRho関連キナーゼ(RhoK)(Ejiri, 2002)によってインビトロでリン酸化されることが公知である。S6KはPKCおよびRhoKによってリン酸化される部位を含む複数の部位でeEF1A1をリン酸化するので(Thornton et al., 2003; Ejiri, 2002)、グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1をS6Kでリン酸化し(図6A)、次いでrec-hSK1およびrec-hSK2を用いるプルダウン実験に使用した。その結果は、非リン酸化型およびリン酸化型の両方のGST-eEF1A1が同程度、hSK1およびhSK2と相互作用できることを示した(図6B)。リン酸化型GST-eEF1A1はまた、非リン酸化型GST-eEF1A1と同程度、rec-hSK1を活性化できた。従って、これらのリン酸化実験の結果は、いくつかの他のeEF1A1相互作用タンパク質と異なり、eEF1A1またはSKのリン酸化状態はこれら二つのタンパク質の相互作用に対して影響しないことを示す。
【0128】
GTPによって制御されるhSK1の活性、GTPによって制御されないhSK1-eEF1A1の相互作用:
eEF1A1は細胞内で二つの状態;GTP結合形態およびGDP結合形態で存在する。これら二つの形態間の相互変換はeEF1A1の低GTPase活性および低分子Gタンパク質で観察されるのと同等の様式でグアニジンヌクレオチド交換因子として作用する他のeEF1サブユニットの両方によって媒介される(Ejiri, 2002; Lamberti et al., 2004)。このGTP結合形態とGDP結合形態の間の変換の際、eEF1A1は、大きな立体配座の変化を起こし、aa-tRNAに結合する能力を変化させる(Ejiri, 2002)。従って、eEF1A1のグアニジンヌクレオチド結合状態がSKとの相互作用および/またはSK活性に対するその効果を変化させる可能性を調査した。このことを調査するため、本発明者らは最初に、rec-hSK1およびrec-hSK2がGTPγSで前処理したグルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1と相互作用する能力を試験した。これらのプルダウン実験の結果は、hSK1またはhSK2が一方の形態のeEF1A1に対して他方よりも高い結合親和性を有することにはならないことを示す(図6A)。しかし、SK活性に対するeEF1A1のグアニジンヌクレオチド状態の効果を試験した際、eEF1A1.GTPが以前に見られたようにrec-hSK1およびrec-hSK2の活性を増加させることができないことが見出された。これとは好対照に、未処理のeEF1A1はrec-hSK1およびhSK2の活性を2〜3倍増進する能力を保持していた(図6B)。まとめると、これらの結果は、eEF1A1のグアニジンヌクレオチド状態はhSK1またはhSK2と相互作用する能力に影響しないが、SK活性を増進するこのタンパク質の能力に影響することを示す。
【0129】
SK活性に対するeEF1A1のグアニジンヌクレオチド状態をさらに試験するため、天然に存在する短縮型eEF1A1タンパク質である前立腺腫瘍誘発因子(PTI)に基づきN末端アミノ酸を67個欠失させた(かつ3個のアミノ酸を付加した)人工短縮型eEF1A1を作製した。この短縮型eEF1A1(PTI)はGTP結合に必須の残基を含むRas様Gタンパク質ドメインの大部分を欠く(Mansilla et al., 2005)。全長eEF1A1と同様、PTIはSK1およびSK2の両方と相互作用することが示された(図8A)。酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより獲得したeEF1A1の部分cDNAはN末端をそれより多く欠失した形態のeEF1A1を生成したにもかかわらずhSK1への結合能を明らかに保持していたから、この結果は驚くようなものではなかった。rec-hSK1およびrec-hSK2のインビトロ活性に対するPTIの効果についてのさらなる実験は、GTP結合欠損型のeEF1A1がSK活性を2〜3倍増進する能力を保持していることを明らかにした(図8B)。さらに、野生型eEF1A1とは異なり、PTIをHEK-293T細胞において過剰発現させた場合、ベクター対照と比較して2〜3倍の内因性SK活性の増加が観察された(図8C)。
【0130】
当業者は、本明細書中に記載される発明が、本明細書中の具体的記述以外の変形および変更を許容し得ることを理解するはずである。本発明はこのような変形および変更の全てを包含することが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において言及されたまたは示された工程、特徴、組成および化合物の全てを個別にまたは総括的に、ならびにこれらの工程または特徴の任意の二つ以上の任意のおよび全ての組み合わせを包含する。
【0131】
書誌情報




【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】hSK1とeEF1A1の相互作用は、最初に、グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1またはGST単独と、FLAGエピトープタグ付きhSK1を過剰発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物とを用いたプルダウン実験によって評価した。その結果(図1A)は、hSK1がGST-eEF1A1と特異的に相互作用しGST単独とは相互作用しないことを実証する。さらに、グルタチオンセファロース結合GST-hSK1またはGST単独と、HAエピトープタグ付きeEF1A1を過剰発現するHEK-293T細胞の溶解産物とを用いた逆プルダウン実験を行った。ここでも、結果(図1B)はeEF1A1とGST-hSK1の特異的相互作用を実証した。eEF1A1とhSK1の間の相互作用をさらに確認するため、HA-eEF1A1およびhSK1-FLAGを共発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物に対する免疫共沈降研究を行った。抗HA(eEF1A1)免疫複合体中にhSK1が存在することが観察され(図1C)、hSK1とeEF1A1の間の相互作用がさらに示された。最後に、本発明者らは、抗hSK1(Pitson et al., 2003)および抗eEF1A1抗体を用いるトランスフェクトしていないHEK-293T細胞の溶解産物中の内因性タンパク質の免疫共沈降を通じて、hSK1とeEF1A1の間の生理学的相互作用を実証することができた(図1D)。
【図2】組み換えhSK1(rec-hSK1)と共に組み換えGST-eEF1A1またはGST単独を用いるSK活性アッセイを行った。これらの条件下で、GST単独ではhSK1活性に対して効果を有さなかったが、GST-eEF1A1はhSK1の触媒活性を2〜3倍増進した(図2A)。rec-hSK1活性に対する漸増濃度のGST-eEF1A1の効果を決定した。結果は、hSK1活性がeEF1A1量の増加と共に増加を続け、1/2倍モル過剰のeEF1A1によって有意な効果が見られ、10倍モル過剰のeEF1A1によって最大刺激が見られることを示した(図2A)。hSK1の基質動態に対するeEF1A1の効果を試験した。その結果は、スフィンゴシンおよびATPの両方に対するhSK1のKM値がeEF1A1の存在によって変化しないことを示す(図2B)。対照的にhSK1のkcat値は、eEF1A1の存在によっておよそ2〜3倍増加した(図2B)。
【図3】もう一方のヒトSKアイソフォームであるhSK2に対する効果を試験した。eEF1A1とhSK2の間の相互作用は、グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1またはGST単独およびrec-hSK2を用いて調査した。hSK1と同様、hSK2はGST-eEF1A1と特異的に相互作用できた(図3A)。hSK2の活性に対する相互作用の効果を試験した。精製したGST-eEF1A1およびrec-hSK2をインビトロでインキュベートし、得られたSK活性を測定した。hSK1と同様、GST-eEF1A1はhSK2活性を2〜3倍増加させることが示された(図3B)。
【図4】SK1がeEF1A2とも相互作用するか否かに関する試験を行った。HA-eEF1A1およびSK1-FLAGを共発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物を用いて免疫共沈降を行い、eEF1A2もまたeEF1A1と同様にSK1と会合することを実証した(図4A)。インビトロ研究は、GST-eEF1A2がrec-hSK1の活性を2〜3倍増加できることを示した(図4B)。
【図5】リン酸化型GST-hSK1を、HA-eEF1A1を過剰発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物を用いるプルダウンアッセイにおいて使用した。非リン酸化型GST-hSK1およびリン酸化型GST-hSK1は両方とも同様の様式でHA-eEF1A1と相互作用した(図5A)。グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1およびリン酸化されることが公知の野生型hSK1(Pitson et al., 2003)またはそのリン酸化されない対応物であるhSK1(S225A)(Pitson et al., 2003)のいずれかを過剰発現するHEK-293T細胞由来の溶解産物を用いるプルダウン実験を行った。プルダウン実験の結果は、両方の形態のhSK1が同等な程度、eEF1A1と相互作用することを示した(図5B)。
【図6】グルタチオンセファロース結合GST-eEF1A1をS6Kでリン酸化し(図6A)、次いでrec-hSK1およびrec-hSK2を用いるプルダウン実験に使用した。その結果は、非リン酸化型およびリン酸化型の両方のGST-eEF1A1が同程度、hSK1およびhSK2と相互作用できることを示した(図6B)。
【図8】全長eEF1A1と同様、PTIはSK1およびSK2の両方と相互作用することが示された(図8A)。rec-hSK1およびrec-hSK2のインビトロ活性に対するPTIの効果についてのさらなる実験は、GTP結合欠損型のeEF1A1がSK活性を2〜3倍増進する能力を保持していることを明らかにした(図8B)。さらに、野生型eEF1A1とは異なり、PTIをHEK-293T細胞において過剰発現させた場合、ベクター対照と比較して2〜3倍の内因性SK活性の増加が観察された(図8C)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節方法であって、eEF1A、またはその機能的誘導体、変種体(variant)、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤にスフィンゴシンキナーゼを接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該触媒活性を下方制御する、方法。
【請求項2】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性の細胞活性の調節方法であって、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤に細胞を接触させる段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは該細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該細胞活性を下方制御する、方法。
【請求項3】
eEF1AがeEF1A1、eEF1A2、またはtr.eEF1A1である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
ヒトスフィンゴシンキナーゼがスフィンゴシンキナーゼ1である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ヒトスフィンゴシンキナーゼがスフィンゴシンキナーゼ2である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ触媒活性レベルの上方制御であり、該上方制御が、eEF1A1、eEF1A2、もしくはtr.eEF1A1、またはその機能的等価物、誘導体、もしくはホモログをコードする核酸分子、あるいはeEF1A1、eEF1A2、もしくはtr.eEF1A1の発現産物、またはその機能的誘導体、ホモログ、アナログ、等価物、もしくは模倣物を細胞に導入することにより達成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
eEF1A1またはeEF1A2がGDPに結合しているかまたはヌクレオチドを含まない、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ活性レベルの上方制御であり、該上方制御が、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質性または非タンパク質性分子に細胞を接触させることにより達成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ活性レベルの下方制御であり、該下方制御が、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質性または非タンパク質性分子に細胞を接触させることにより達成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
アンタゴニストがeEF1A競合物質である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
競合物質がGTP結合型eEF1Aである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
アンタゴニストがeEF1Aに対する抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項14】
抗体が、tr.eEF1Aにより規定されるeEF1A領域に対するものである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アンタゴニストがアンチセンス核酸分子、siRNA、または共抑制を誘導するのに適した核酸分子であり、該分子はeEF1Aに対するものである、請求項10記載の方法。
【請求項16】
異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介性の細胞活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置および/または予防のための方法であって、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤を哺乳動物に投与する段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズは該細胞活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該細胞活性を下方制御する、方法。
【請求項17】
異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置および/または予防のための方法であって、eEF1A、またはその機能的誘導体、ホモログ、もしくは模倣物とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を調節するのに十分な時間および条件下、有効量の薬剤を哺乳動物に投与する段階を含み、該会合の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を上方制御し、該会合の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、方法。
【請求項18】
前記状態が腫瘍性状態またはその他の望ましくない細胞増殖であり、スフィンゴシンキナーゼ-eEF1A相互作用が下方制御される、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
前記状態が炎症性状態であり、スフィンゴシンキナーゼ-eEF1A相互作用が下方制御される、請求項16または17記載の方法。
【請求項20】
望ましくない細胞活性が炎症メディエーターの分泌または接着分子の発現であり、スフィンゴシンキナーゼ-eEF1A相互作用が下方制御される、請求項16記載の方法。
【請求項21】
炎症性状態が関節リウマチ、アテローム硬化、喘息、自己免疫疾患、または炎症性腸疾患に関連する、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ触媒活性レベルの上方制御であり、該上方制御が、eEF1A1、eEF1A2、もしくはtr.eEF1A1、またはその機能的等価物、誘導体、もしくはホモログをコードする核酸分子、あるいはeEF1A1、eEF1A2、もしくはtr.eEF1A1の発現産物、またはその機能的誘導体、ホモログ、アナログ、等価物、もしくは模倣物を細胞に導入することにより達成される、請求項16または17記載の方法。
【請求項23】
eEF1A1またはeEF1A2がGDPに結合しているかまたはヌクレオチドを含まない、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ活性レベルの上方制御であり、該上方制御が、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質性または非タンパク質性分子に細胞を接触させることにより達成される、請求項16または17記載の方法。
【請求項25】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ活性レベルの下方制御であり、該下方制御が、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質性または非タンパク質性分子に細胞を接触させることにより達成される、請求項16〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
アンタゴニストがeEF1A競合物質である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
競合物質がGTP結合型eEF1Aである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
アンタゴニストがeEF1Aに対する抗体である、請求項25記載の方法。
【請求項29】
抗体が、tr.eEF1Aにより規定されるeEF1A領域に対するものである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
アンタゴニストがアンチセンス核酸分子、siRNA、または共抑制を誘導するのに適した核酸分子であり、該分子はeEF1Aに対するものである、請求項25記載の方法。
【請求項31】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置のための医薬の製造における薬剤の使用であって、該薬剤はeEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節し、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズは該細胞活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズは該細胞活性を下方制御する、使用。
【請求項33】
異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼの機能活性により特徴付けられる哺乳動物における状態の処置のための医薬の製造における薬剤の使用であって、該薬剤はeEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節し、該相互作用の誘導またはそうでなければアゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を上方制御し、該相互作用の阻害またはそうでなければアンタゴナイズはスフィンゴシンキナーゼの機能活性を下方制御する、使用。
【請求項34】
前記状態が腫瘍性状態またはその他の望ましくない細胞増殖であり、スフィンゴシンキナーゼ-eEF1A相互作用が下方制御される、請求項32または33記載の使用。
【請求項35】
前記状態が炎症性状態であり、スフィンゴシンキナーゼ-eEF1A相互作用が下方制御される、請求項32または33記載の使用。
【請求項36】
望ましくない細胞活性が炎症メディエーターの分泌または接着分子の発現であり、スフィンゴシンキナーゼ-eEF1A相互作用が下方制御される、請求項32記載の使用。
【請求項37】
炎症性状態が関節リウマチ、アテローム硬化、喘息、自己免疫疾患、または炎症性腸疾患に関連する、請求項35記載の使用。
【請求項38】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ触媒活性レベルの上方制御であり、該上方制御が、eEF1A1、eEF1A2、もしくはtr.eEF1A1、またはその機能的等価物、誘導体、もしくはホモログをコードする核酸分子、あるいはeEF1A1、eEF1A2、もしくはtr.eEF1A1の発現産物、またはその機能的誘導体、ホモログ、アナログ、等価物、もしくは模倣物を細胞に導入することにより達成される、請求項32または33記載の使用。
【請求項39】
eEF1A1またはeEF1A2がGDPに結合しているかまたはヌクレオチドを含まない、請求項38記載の使用。
【請求項40】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ活性レベルの上方制御であり、該上方制御が、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質性または非タンパク質性分子に細胞を接触させることにより達成される、請求項32または33記載の使用。
【請求項41】
前記調節がスフィンゴシンキナーゼ活性レベルの下方制御であり、該下方制御が、スフィンゴシンキナーゼ/eEF1A相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質性または非タンパク質性分子に細胞を接触させることにより達成される、請求項32〜37のいずれか一項記載の使用。
【請求項42】
アンタゴニストがeEF1A競合物質である、請求項41記載の使用。
【請求項43】
競合物質がGTP結合型eEF1Aである、請求項42記載の使用。
【請求項44】
アンタゴニストがeEF1Aに対する抗体である、請求項41記載の使用。
【請求項45】
抗体が、tr.eEF1Aにより規定されるeEF1A領域に対するものである、請求項44記載の使用。
【請求項46】
アンタゴニストがアンチセンス核酸分子、siRNA、または共抑制を誘導するのに適した核酸分子であり、該分子はeEF1Aに対するものである、請求項41記載の使用。
【請求項47】
哺乳動物がヒトである、請求項32〜46のいずれか一項記載の使用。
【請求項48】
請求項1〜31のいずれか一項記載の方法に従って使用される場合にeEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節する薬剤を、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
【請求項49】
請求項1〜31のいずれか一項記載の方法に従って使用される場合にeEF1Aとスフィンゴシンキナーゼの相互作用を調節する、薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−546721(P2008−546721A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517274(P2008−517274)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000866
【国際公開番号】WO2006/135968
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(507244851)メドベット サイエンス ピーティーワイ. リミティッド (5)
【Fターム(参考)】