説明

スプラウト、スプラウト汁、野菜飲料及びこれらの製造方法

【課題】加工時の変色・変臭を抑制することにより、色調及び香味が保持され、遊離アスパラギンなどの遊離アミノ酸を豊富に含有したスプラウト、当該スプラウトから得られるスプラウト汁、及び遊離アミノ酸等に由来する嫌な旨味とカリウム等に由来する苦味とを同時に抑制し、すっきりと飲みやすい野菜飲料を提供する。
【解決手段】野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管して得られるスプラウト、及び当該スプラウトから得られるスプラウト汁。スプラウトに由来する遊離アスパラギンを185mg/100g以上含有するスプラウト汁。野菜を加工して得られた野菜飲料であって、スプラウト汁を含有し、前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5である野菜飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプラウト、スプラウト汁、野菜飲料及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スプラウトは、もやしを初めとする植物の新芽の総称である。スプラウトを大量生産する場合、一般的な植物栽培と異なり、植物工場において、栽培用の容器に入れた種子を温度・湿度・光度・施水(施肥)・炭酸ガス等を高度に制御しながら発芽・生育させることにより、大量かつ計画的に栽培することが多い。このため、スプラウトは、他の一般的な野菜に比べ、市場価格の変動が少なく安定しており、かつ比較的安価に購入できる種類のものもあり、野菜炒め等の各種家庭料理に広く使われている。
【0003】
スプラウトは、発芽から成長に伴いタンパク質や遊離アミノ酸などの栄養価の高い物質を多く含むようになるが、その反面、長期の保存に耐えにくく、収穫してから数時間〜数日で褐色化などの変色やアンモニア臭などの変臭を起こす。このため、一般に流通するスプラウトは、栽培終了後に栽培用の容器から開け出されたのち、根部を切除して袋に詰め、品質保持のために冷蔵保存したものが出荷されるが、それでも長期の保存が困難であるため、植物工場から近距離の範囲で流通しているに過ぎない。
【0004】
一方、近年スプラウトの栄養性が見直されており、スプラウトの発芽成長時に高濃度に蓄えられる遊離アミノ酸が注目されている。特に、もやしの栽培過程において、遊離アスパラギンの濃度が顕著に増加することが知られている(非特許文献1)。また、遊離アスパラギンは疲労回復作用や血管拡張作用等を有するため、スプラウトは、近年の様々な疾病のリスク回避のための食材として期待される。
【0005】
したがって、スプラウトが有する豊富な遊離アミノ酸等を手軽に摂取するために、野菜飲料にスプラウトを配合することが考えられる。しかしながら、一般的に、野菜の収穫から野菜飲料の製造工場における搾汁開始まで、葉物野菜で数時間、根菜類では数日を要することが多い。上述したようにスプラウトは長期保存が難しいため、大量に搾汁処理するのに適していない。このため、品質を劣化させずに大量に搾汁したスプラウトを安定的に供給することができず、したがってこのような飲料用原料としてのスプラウトを多く配合した野菜飲料は、これまで存在しなかった。
【0006】
なお、スプラウトを搾汁して得られた搾汁液をいったん凍結させ、次いで凍結した搾汁液を解凍し、解凍した搾汁液を常温で発酵させ、発酵した搾汁液の上清液を分離するスプラウトエキスの製造方法が提案されている(特許文献1)。しかし、なるべく加工されていない原料を使用し、かつ添加物なども配合していない野菜飲料に対する消費者のニーズは高いが、上記方法で得られるスプラウトエキスは発酵という加工処理を経たものであるため、野菜をそのまま摂取するといった目的で飲用されている野菜飲料に配合する原料としては適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−82031号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】水野及び山田、日本食生活学会誌、2007年、第17巻、第4号、p.329−335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、加工時の変色・変臭を抑制することにより、色調及び香味が保持され、遊離アスパラギンなどの遊離アミノ酸を豊富に含有したスプラウト、当該スプラウトの生産方法、当該スプラウトから得られるスプラウト汁及び当該スプラウト汁の製造方法を提供することを第一の目的とする。また本発明は、遊離アミノ酸等に由来するもやっとした嫌な旨味とカリウム等に由来する苦味とを同時に抑制し、すっきりと飲みやすい野菜飲料及び当該野菜飲料の製造方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、スプラウトの根部を切除せずに散水しながら保管することにより、加工時の変色・変臭が抑制されることを発見した。さらに、野菜飲料における遊離アスパラギン含有量とカリウム含有量との比が一定の範囲になるように調整することにより、遊離アミノ酸等に由来する嫌な旨味とカリウム等に由来する苦味とが同時に抑制されることを発見した。
【0011】
すなわち、第一に本発明は、野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管して得られることを特徴とするスプラウトを提供する(発明1)。なお、本明細書における「成長保管」とは、植物を成長させながら保管することをいい、根部を切除しないことで、当該植物を成長させることが可能である。
【0012】
上述した発明(発明1)によれば、スプラウトの劣化が抑制され、これによりスプラウトに含まれる遊離アスパラギン等の遊離アミノ酸の低減が抑制されるとともに、スプラウトの色調及び香味が維持される。
【0013】
第二に本発明は、上記発明(発明1)のスプラウトから得られることを特徴とするスプラウト汁を提供する(発明2)。
【0014】
上記発明(発明2)によれば、スプラウト汁を加工時の変色・変臭が抑制されるため、スプラウト汁の色調及び香味が保持される。また、上記発明(発明2)で得られるスプラウト汁は、遊離アスパラギンなどの遊離アミノ酸を豊富に含有し、遊離アミノ酸が有する好ましい生理活性を損なわないものである。上記発明(発明2)においては、前記スプラウトを発芽させた容器に入れたまま、前記成長保管を行ったスプラウトからスプラウト汁を得ることが好ましい。
【0015】
上記発明(発明2)においては、前記成長保管を行ったスプラウトに対して、酵素失活処理を行うことが好ましい(発明3)。また、当該酵素処理は、スプラウトを収容している容器から出した後、1時間以内に行うことが好ましい。
【0016】
第三に本発明は、スプラウトに由来する遊離アスパラギンを185mg/100g以上含有することを特徴とするスプラウト汁を提供する(発明4)。
【0017】
第四に本発明は、野菜を加工して得られた野菜飲料であって、スプラウト汁を含有し、前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5であることを特徴とする野菜飲料を提供する(発明5)。
【0018】
上記発明(発明5)によれば、カリウムに由来する苦味と、遊離アスパラギンに由来するもやっとした嫌味とがともに抑制され、バランスのとれたすっきりと飲みやすい野菜飲料が得られる。上記発明(発明5)において、スプラウト汁は、上記発明(発明2〜5)のスプラウト汁であることが好ましい。
【0019】
上記発明(発明5)においては、前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]と前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]との合計([a]+[b])が100〜400mg/100gであることが好ましい(発明6)。
【0020】
第五に本発明は、野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管することを特徴とするスプラウトの生産方法を提供する(発明7)。
【0021】
第六に本発明は、野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管したスプラウトからスプラウト汁を製造することを特徴とするスプラウト汁の製造方法を提供する(発明8)。
【0022】
第七に本発明は、野菜を加工して得られる野菜飲料の製造方法であって、スプラウト汁を配合するとともに、前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5となるように、前記野菜の配合を調整することを特徴とする野菜飲料の製造方法を提供する(発明9)。
【0023】
また、本発明は、第一の施設において栽培され、第二の施設において保管されたスプラウトであって、前記第一の施設において栽培されたスプラウトを、根部を切除せずに前記第二の施設へ移送し、前記第二の施設において前記スプラウトを散水しながら保管したことを特徴とするスプラウトを提供する。
【0024】
さらに、本発明は、野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管することを特徴とする、スプラウトの保管方法及び品質劣化抑制方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管したスプラウトからスプラウト汁を得ることを特徴とするスプラウト汁のアミノ酸量低減抑制方法を提供する。
【0026】
さらに、本発明は、野菜を加工して得られる野菜飲料の呈味改善方法であって、スプラウト汁を配合するとともに、前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5となるように、前記野菜の配合を調整することを特徴とする野菜飲料の呈味改善方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明のスプラウト及びスプラウト汁は、加工時の変色・変臭が抑制されるため、スプラウト汁の色調及び香味が保持され、遊離アスパラギンなどの遊離アミノ酸を豊富に含有する。また、本発明の野菜飲料は、遊離アミノ酸等に由来する嫌味と、カリウム等に由来する苦味とが同時に抑制され、すっきりと飲みやすいものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[スプラウト及びスプラウト汁]
本発明の一実施形態に係るスプラウトは、野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管して得られるものである。また、本発明の一実施形態に係るスプラウト汁は、上記スプラウトを加工して得られるものである。
【0029】
原料であるスプラウトは、植物の新芽の総称であり、ブロッコリー、芽キャベツ、かいわれ大根、もやし、アルファルファ、レッドキャベツ、マスタード、クレス、豆苗、ソバ、発芽玄米等の発芽野菜が挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態においては、一般にもやしと呼ばれるマメ科植物のスプラウトを用いることが好ましく、緑豆、大豆及びブラックマッペから選択される1種又は2種以上のマメ科植物のスプラウトを用いることが特に好ましい。マメ科植物のスプラウトを用いることで、遊離アミノ酸、特に遊離アスパラギンを豊富に含有するスプラウト汁を得ることができる。
【0030】
原料であるスプラウトの栽培方法(発芽方法)は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、栽培容器に種子を入れ、温度・湿度・光度・施水(施肥)・炭酸ガス等を管理しながら栽培をすればよく、また、水耕栽培が適したスプラウトであれば、水耕栽培を行えばよい。スプラウトの栽培日数としては、例えばマメ科植物のスプラウトの場合、5〜15日であることが好ましく、特に6〜10日であることが好ましい。
【0031】
ここで、スプラウトを栽培する施設(栽培施設)と、栽培したスプラウトを保管・加工するための施設(保管・加工施設)とは、通常は別施設であり、その場合には、栽培施設から保管・加工施設へとスプラウトを移送する。なお、従来のスプラウトは、基本的には生食用として利用されるものであり、生食用販売・業務用販売先に直接最終形態として提供するため、栽培施設内で一定の加工(根部の切除等)や包装を施し、冷蔵にて移送されてきた。一方、本実施形態に係るスプラウトは、飲料用原料として好適に利用できるようにするため、スプラウト汁への加工を大量に処理可能であることが好ましい。特に飲料用原料である場合、栽培したスプラウトをスプラウト汁に加工するまでの間にスプラウトの品質を劣化させないために、大量のスプラウトを保管する工程が非常に重要なものとなる。
【0032】
以下、スプラウトとしてマメ科植物のスプラウトを例にとって説明する。
本実施形態では、マメ科植物のスプラウトを、栽培が終了した後、20〜25℃で成長保管する。具体的には、スプラウトの根部を切除せずに栽培施設から保管・加工施設へと移送し、保管・加工施設において、当該スプラウトを散水しながら保管することが好ましい。ここで、従来のスプラウトは、栽培後、移送前に、その芽部のシャキシャキとした食感を高めるため、見た目の色や形状を揃えるため、また食感の悪い繊維質を少なくするため等の理由により、当該スプラウトの根部を切除していた。しかし、本実施形態では、根部を切除することでスプラウトに傷がつき、スプラウトが劣化することを避けるため、根部を切除しないことが好ましい。すなわち、スプラウトを、根部を切除せずに保管・加工施設に移送することで、当該スプラウトが成長したままとなり、劣化することを防止することができる。
【0033】
本実施形態では、上記のように移送されたスプラウトを、保管・加工施設において、散水しながら保管(以下「散水保管」という場合がある)することが好ましい。スプラウトは保管されている間も成長しているため、成長による熱が発生し、保管されているスプラウトの塊のうち、中心付近に位置しているスプラウトの温度が上昇し蒸れが起こるため、当該保管されているスプラウト、特に中心付近に位置しているスプラウトが極度に劣化する。しかし、本実施形態では、スプラウトを散水しながら保管することにより、中心付近に位置しているスプラウトも、その温度が20〜25℃に保たれる。このためスプラウトの蒸れによる劣化が抑制され、これによりスプラウトに含まれる遊離アスパラギン等の遊離アミノ酸の低減が抑制されるとともに、スプラウトの色調及び香味が維持される。また、スプラウトは、一般にスプラウトの表面に付着した微生物により腐敗し劣化するが、本実施形態では、スプラウトを散水しながら保管することにより、スプラウトに付着した微生物を洗い流すことができ、微生物によるスプラウトの劣化が抑制される。この観点から、成長保管に入る前に、一度水を切ることが好ましい。
【0034】
スプラウトに散水する条件は、上述した効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、水温は10〜25℃であることが好ましく、特に15〜22℃であることが好ましい。散水量としては、スプラウト1,000kgあたり10〜100L/分であることが好ましく、特に10〜50L/分であることが好ましい。なお、散水は連続的に行っても、断続的に行ってもよいが、連続的に行うことが好ましい。散水を断続的に行う場合、上述した効果を得るために、少なくとも散水と次の散水との間隔が15分以内であることが好ましい。ここで、スプラウトの栽培時にも散水は行われるが、栽培時における散水条件は、通常2時間ごとに10分程度の散水時間であり、散水と次の散水との間隔が110分程度になるものであるため、かかる点において栽培と散水保管とは明確に区別される。
【0035】
スプラウトを散水保管する条件は、上述した効果を損なわない範囲であれば特に限定されない。例えば、散水保管する環境の温度は特に限定されず、従来のスプラウトとは異なり、冷蔵を必要とせず、室温であってもよい。これは、本実施形態では、スプラウトは散水により温度が十分に制御されるためである。一方、後述する実施例において示すように、大量のスプラウトの塊をそのまま冷蔵するだけでは、上述したような中心付近に位置しているスプラウトの温度上昇を抑えることはできない。スプラウトを散水保管する時間としては2〜24時間であることが好ましく、特に2〜10時間であることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、スプラウトは、栽培した容器(水耕栽培であれば、水耕栽培用の容器)に入れたまま散水保管することが好ましい。スプラウトは、栽培した容器から出す際に傷つき、これによりスプラウトの劣化が促進するおそれがあるため、栽培した容器に入れたまま保管することで、スプラウトの劣化が促進するおそれのある工程を回避することができる。したがって、上述したように栽培施設から保管・加工施設にスプラウトを移送する場合、栽培した容器に入れたまま、スプラウトを保管・加工施設に移送することが好ましい。
【0037】
また、本実施形態においてスプラウトを散水しながら保管する間、遮光することが好ましい。遮光することで、スプラウトに含まれる遊離アミノ酸量の減少を抑制することができるとともに、スプラウトの上部に葉緑素が生成しスプラウトの香味が青臭くなるのを抑制することができる。
【0038】
本実施形態では、スプラウトを散水保管した後、酵素失活処理を行うことが好ましく、特に、スプラウトを容器から出した後、1時間以内に酵素失活処理を行うことが好ましい。酵素失活処理を行うことにより、スプラウトに含まれるアミノ酸分解酵素(トランスアミナーゼ等)等の酵素を失活させることができ、これによりスプラウトに含有される遊離アミノ酸の低減が抑制される。また、スプラウトを容器から出した後、1時間以内に酵素失活処理を行うことで、スプラウトの色調及び香味をより良好に保つことができる。
【0039】
本実施形態に係る酵素失活処理の方法としては、ブランチング処理、炒め処理等を採用することができ、中でもブランチング処理が好ましい。ブランチング処理としては、水蒸気、熱水(茹で)、過熱水蒸気等が用いられるが、熱水(茹で)を用いるとスプラウトに含有される遊離アミノ酸などの可溶性固形分が溶出するおそれがあるため、水蒸気を用いることが好ましい。また、ブランチング処理における加熱条件は、スプラウトの色調及び香味が所望のものとなるように酵素失活させることを基準に適宜調整すればよいが、例えばスプラウトの温度が約70〜100℃の範囲を維持するように行うのが好ましく、特に75〜95℃の範囲に到達した後、約3〜15分間保持するようにすることが好ましい。
【0040】
このようにして酵素失活処理を行ったスプラウトからスプラウト汁を得る方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、スプラウトを破砕した後、搾汁処理してもよいし、または磨砕等の処理を施してもよいし、磨砕等の処理の後、さらに所望により裏ごし処理を行いピューレとしてもよい。また搾汁処理の際、その搾汁効率を高めるために、セルラーゼやペクチナーゼなどによる酵素処理を行ってもよい。すなわち、本実施形態におけるスプラウト汁とは、スプラウトを加工して得られる液状物(半固体状の液状物を含む)を意味するものであり、上述のようにして得られたスプラウトを破砕し、搾汁したもの、または破砕(磨砕)し、裏ごし処理をしたピューレなどを包含するものである。
【0041】
このようにして得られるスプラウト汁は、加工時の変色・変臭が抑制されるため、スプラウト汁の色調及び香味が保持される。また、このようにして得られるスプラウト汁は、遊離アスパラギンなどの遊離アミノ酸を豊富に含有し、遊離アミノ酸が有する好ましい生理活性を損なわないものである。
【0042】
本実施形態のスプラウト汁は、スプラウトに由来する遊離アスパラギンを185mg/100g以上含有することが好ましく、特に200mg/100g以上含有することが好ましい。スプラウト汁における遊離アスパラギンの含有量が上記の量以上であることで、遊離アミノ酸が有する好ましい生理活性を損なわないスプラウト汁を得ることができる。本実施形態のスプラウト汁は、野菜飲料の原料として使用することが好ましい。
【0043】
[野菜飲料]
本発明の一実施形態に係る野菜飲料は、スプラウト汁を含有し、野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5となるものである。
【0044】
本実施形態に係る野菜飲料は、[a]/[b]が上記範囲にあることで、カリウムに由来する苦味と、遊離アスパラギンに由来するもやっとした嫌味とがともに抑制され、バランスのとれたすっきりと飲みやすいものとなる。[a]/[b]が0.1未満であると、カリウムに由来する苦味が強いものとなり、また[a]/[b]が5を超えると、遊離アスパラギンに由来するもやっとした嫌味が強いものとなる。[a]/[b]は、0.2〜4であることが好ましく、特に0.2〜3であることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る野菜飲料は、野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]と野菜に由来するカリウムの含有量[b]との合計([a]+[b])が100〜400mg/100gであることが好ましく、特に100〜300mg/100gであることが好ましい。野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]と野菜に由来するカリウムの含有量[b]との合計が100mg/100g以上であることで、より十分な野菜の味わいのある野菜飲料となり、400mg/100g以下であることで、よりすっきりとした飲みやすい野菜飲料となる。
【0046】
本実施形態の野菜飲料は、野菜から得られる野菜汁を配合した飲料である。野菜汁を得るための野菜は、食用として安全性が確認されているものであれば特に限定されない。具体的には、当該野菜としては、ニンジン、ブロッコリー、カブ大根、キャベツ、セロリ、ホウレンソウ、ピーマン、アスパラガス、白菜、小松菜、明日葉、甘藷、馬鈴薯、トマト、モロヘイヤ、パプリカ、クレソン、パセリ、セロリ、三つ葉、レタス、ラディッシュ、ケール、メキャベツ、メキャベツの葉、紫蘇、茄子、大根、玉葱、牛蒡、生姜、南瓜、大蒜、カリフラワー、トウモロコシ、さやえんどう、オクラ、かぶ、きゅうり、コールラビ、ウリ、ズッキーニ、へちま、スプラウト等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種の野菜又は2種以上の野菜の組み合わせであればよい。
【0047】
本実施形態に係る野菜飲料は、スプラウトから得られるスプラウト汁を配合したものである。当該スプラウト汁は、上述した実施形態に係るスプラウト汁であることが好ましい。野菜飲料にスプラウト汁を配合することで、遊離アスパラギン等の遊離アミノ酸を豊富に含有した野菜飲料を得ることができ、特に上述した実施形態に係るスプラウト汁を配合することで、上述した[a]/[b]が上記範囲を満たす野菜飲料を容易に得ることができる。
【0048】
なお、本実施形態に係る野菜飲料は、野菜や豆類、海草、果実等、カリウムを豊富に含有する植物由来の汁を配合することが好ましい。遊離アミノ酸の豊富なスプラウト汁と、カリウムを豊富に含有する植物由来の汁とを配合することで、上述した[a]/[b]が上記範囲を満たす野菜飲料を容易に得ることができる。また、カリウムはナトリウムを置換するため塩分の取りすぎに効果があり、野菜飲料においても豊富に含有させることが好ましいが、従来はカリウムが有する特有の苦味のために、カリウムを豊富に含有させることが困難であった。例えば、カリウムが有する特有の苦味は食物繊維を含むパルプ分である程度緩和されるが、野菜飲料の用途では飲みやすさなどの観点からパルプ分を除去した原料を多く使用するため、顕著に苦味を感じやすくなってしまう。しかし、本実施形態においては、カリウムを豊富に含有する植物由来の汁を、遊離アミノ酸を豊富に含有するスプラウト汁と配合することで、カリウムの有する好ましい生理活性を損なわずに、苦味を感じにくい野菜飲料を提供することが可能となる。
【0049】
野菜汁の形態は、搾汁液、ピューレ、抽出液などの液体状のものでも、パルプや細断物などの固形分を多く含む状態のものでもよい。例えば、原料とする野菜を、必要に応じて洗浄、殺菌、剥皮等の前処理した後、これも必要に応じて適切な大きさに粉砕し、搾汁又は抽出して野菜汁を得ることができる。この際、原料とする野菜は、生野菜であっても、乾燥野菜であってもよい。また、搾汁方法としては、例えば圧搾機でプレス処理したり、或は、遠心分離機等を用いて遠心分離したりすることができる。
【0050】
本実施形態に係る野菜飲料には、果実から得られる果汁を適宜配合してもよい。果汁を得るための果実としては、食用として安全性が確認されている植物体であれば特に限定されるものではない。具体的に、当該果実としては、オレンジ、みかん、リンゴ、バナナ、ブドウ、アセロラ、カムカム、マンゴー、レモン、ブルーベリー、ラズベリー、ザクロ、キウイ、マスカット、桃、柿、イチゴ、グレープフルーツ、パイナップル、あんず、イチジク、梅、シイクワシャー、すいか、さくらんぼ、梨、パパイア、びわ、メロン等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種の果実又は2種以上の果実の組み合わせから得られる果汁を、本実施形態の野菜飲料に配合することができる。これらの果実から果汁を得る方法は特に限定されず、上述した野菜から野菜汁を得る方法と同様の方法を採用することができる。
【0051】
また、本実施形態に係る野菜飲料は、上記成分の他、水や、公知の飲料に含まれる材料(成分)、例えば、糖類や甘味料などからなる甘味付与剤、酸味料、香料、ビタミン類、ミネラル分、色素成分、栄養成分、機能性成分等を、本実施形態による効果を損なわない範囲で含有してもよい。
【0052】
水は、飲用に適した水であればよく、例えば、純水、硬水、軟水、イオン交換水等のほか、これらの水を脱気処理した脱気水等が挙げられる。
【0053】
甘味付与剤としては、糖類又は甘味料を使用することができ、糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、還元麦芽糖等が挙げられる。甘味料としては、例えば、砂糖、異性化糖、フラクトース、グルコース、キシリトール、ステビア抽出物、パラチノース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、サッカリン、サッカリンナトリウム等が挙げられる。また、シュガーレスバルク甘味料、バルク砂糖甘味料、高甘味度甘味料等を含んでいてもよいし、ソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。
【0054】
酸味料としては、例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、又はそれらの塩類が挙げられ、中でも、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸等が好ましい。
【0055】
香料としては、例えば、柑橘その他果実から抽出した香料、果汁又は果実ピューレ、植物の種実、根茎、木皮、葉等又はこれらの抽出物、乳又は乳製品、合成香料等が挙げられる。
【0056】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK及びビタミンB群等が挙げられる。
【0057】
ミネラル分としては、例えば、カルシウム、クロム、銅、フッ素、ヨウ素、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、セレン、ケイ素、モリブデン及び亜鉛等が挙げられる。
【0058】
色素成分としては、例えば、カロテノイド系色素、キノン系色素、アントシアニン系色素、その他フラボノイド系色素、クロレラ、葉緑素(クロロフィル)等が挙げられる。
【0059】
機能性成分としては、例えば、コラーゲン、鮫軟骨、牡蛎エキス、キトサン、プロポリス、オクタコサノール、トコフェロール、カロチン、ポリフェノール、梅エキス、アロエ、乳酸菌、霊芝、アガリクス等が挙げられる。
【0060】
また、本実施形態に係る野菜飲料は、その他、各種エステル類、乳化剤、保存料、調味料、ガム、油、pH調整剤、品質安定剤等を含有してもよい。
【0061】
本実施形態に係る野菜飲料は、野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5となるように野菜汁等を配合する以外、従来公知の方法により製造することができる。例えば、スプラウト汁等の原料となる野菜汁に、所望により前述した他の成分を添加して攪拌した後、ホモジナイザーで均質化処理を行い、ピューレやパルプ分を潰して滑らかにし、必要に応じて加熱殺菌した後、容器に充填すればよい。
【0062】
この際、殺菌方法は、通常の飲料と同様に行えばよい。例えば金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で殺菌を行えばよい。また、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、例えばプレート式熱交換器などで高温殺菌後冷却して容器に充填するなどすればよい。
【0063】
本実施形態に係る野菜飲料は、容器に充填した形態で提供することができる。当該容器としては、例えば、金属缶、PETボトル、紙容器、ガラスビン等、通常の形態の容器を使用することができる。
【0064】
以上の野菜飲料は、飲用したときに、遊離アミノ酸等に由来する嫌な旨味と、カリウム等に由来する苦味とが同時に抑制され、すっきりと飲みやすいものである。
【0065】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0066】
例えば、スプラウトを栽培するための施設と保管・加工するための施設は同一の施設であってもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0068】
〔実施例1〕
洗浄した緑豆の種子100kgを内容積1500Lの栽培用容器に入れ、22℃に保温し、遮光された環境下のもと、20℃の水を2時間おきに10分間散水処理しながら7日間栽培し、1200kgの緑豆スプラウト(もやし)を得た。得られた緑豆スプラウト1200kgを栽培用容器に入れたまま(根部の切除なし)、水温20℃、水量35L/分の条件で連続的に散水しながら所定の時間(30分,2時間,6時間,24時間)、遮光下で保管し、試料1A〜1Dを得た。なお、保管場所の室温は28℃であった。
【0069】
〔比較例1〕
栽培して得られた緑豆スプラウト1200kgを栽培用容器に入れたまま(根部の切除なし)、室温5℃の冷蔵室で所定の時間(30分,2時間,6時間,24時間)保管した以外は実施例1と同様にして、試料1E〜1Hを得た。
【0070】
〔比較例2〕
栽培して得られた緑豆スプラウト1200kgを栽培用容器から出し、根部を切除した後に栽培用の容器に戻し、室温5℃の冷蔵室で所定の時間(30分,2時間,6時間,24時間)保管した以外は実施例1と同様にして、試料1I〜1Lを得た。
【0071】
<試験例1>スプラウトの温度測定
得られた試料(試料1A〜1L)について、栽培用容器に保管されたスプラウトの塊のうち、中心付近に位置していたスプラウトの温度を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
<試験例2>官能評価試験(1)
上述のように温度を測定した、各試料(試料1A〜1L)の中心付近に位置していたスプラウトを、栽培用容器から取り出し官能評価試験を行った。かかる官能評価試験は、飲料の開発を担当する熟練した5人のパネラーにより、各試料から取り出した中心付近のスプラウトの色調、香味及び食感について、次に示す基準で3段階にて評価することにより行った。評点の平均値を表1に示す。
【0073】
=色調の評価=
3:変化なし
2:一部わずかに褐色化
1:全体的に褐色化
【0074】
=香味の評価=
3:変化なし
2:やや蒸れた香味あり
1:変臭あり
【0075】
=食感の評価=
3:しゃきしゃきした食感
2:少し食感が弱い
1:食感が弱い
【0076】
また、官能評価試験の結果をもとに、各平均値の合計として総合点を算出した。また、総合点をもとに、次の基準で総合評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
=総合評価=
◎:総合点が8以上
○:総合点が6以上8未満
△:総合点が4以上6未満
×:総合点が4未満
【0078】
<試験例3>遊離アスパラギン含有量の測定
実施例1、比較例1及び比較例2において24時間保管して得られた試料(試料1D,1H及び1L)を、直ちに98℃の水蒸気で3分間ブランチング処理を行った後、ステンレス製ハンドジューサーで搾汁することによりスプラウト搾汁物を得た。得られたスプラウト搾汁物を遠心分離(15,000rpm、20分)し、上清を純水にて希釈した。その希釈液をAccQ・FLUOR REAGENT KIT(日本ウォーターズ社)を使用し、AccQ・Tag法で誘導化させ、HPLC装置(日本ウォーターズ社,Waters 2695 Separation module)及び検出器(日本ウォーターズ社,Waters 2475マルチλ蛍光検出器)を用い、下記の条件にて高速液体クロマトグラフ法により分析した。標品のアスパラギンと保持時間が一致するピークの面積から遊離アスパラギン含有量を算出した。結果を表1に示す。なお、保管前のスプラウト(保管時間が0時間)における遊離アスパラギン含有量は200mg/100gであった。
【0079】
=液体クロマトグラフィー条件=
カラム:AccQ−Tag Amino Acid Analysis
Column(日本ウォーターズ社,3.9φ×150mm)
カラム温度:37℃
注入量:5μL
移動相A:100mM酢酸Na 5.6mMトリエチルアミン(pH5.7)
移動相B:100mM酢酸Na 5.6mMトリエチルアミン(pH6.8)
移動相C:アセトニトリル
移動相D:水
移動相流量:1.0〜1.3mL/min
検出波長:Ex250nm Em395nm GAIN10
【0080】
【表1】

【0081】
表1から分かるように、実施例1における中心付近のスプラウトは、温度が20〜25℃に保たれており、また色調、香味及び食感の劣化が抑制されていた。さらに、試料1D(24時間保管)のスプラウトは、保管前と比較して遊離アスパラギン含有量が減少せず、むしろ増加していた。
【0082】
これに対し、比較例1における中心付近のスプラウトは、時間が経過するにつれて温度が上昇し、また色調、香味及び食感が劣化していた。色調、香味及び食感の劣化は、温度上昇による蒸れによるものであると考えられる。さらに、試料1H(24時間後)のスプラウトは、保管前と比較して遊離アスパラギン含有量が減少していた。
【0083】
また、比較例2における中心付近のスプラウトは、2時間後には温度が上昇していたが、その後温度が低下し、また色調、香味及び食感が劣化していた。温度の低下並びに色調、香味及び食感の劣化は、根部を切除したためにスプラウトが傷ついたことによるものと考えられる。さらに、試料1L(24時間後)のスプラウトは、保管前と比較して遊離アスパラギン含有量が大幅に減少していた。
【0084】
〔実施例2〕
実施例1で得られた緑豆スプラウト(試料1C)を栽培用容器から出し、所定の時間(出した直後,15分後、30分後、60分後、2時間及び6時間)、室温が30℃の環境に放置した後、98℃の水蒸気で3分間ブランチング処理を行った。ブランチング処理を行ったスプラウトをステンレス製ハンドジューサーで搾汁し、各試料(試料2A〜2F)を得た。
【0085】
〔実施例3〕
洗浄した大豆の種子150kgを内容積1500Lの栽培用容器に入れ、22℃に保温し、遮光された環境下のもと、20℃の水を2時間おきに10分間散水処理しながら7日間栽培し、1200kgの大豆スプラウト(もやし)を得た。得られた大豆スプラウトを、実施例1と同様の保管条件にて6時間保管した後、栽培用容器から出し、所定の時間(出した直後,15分後、30分後、60分後、2時間及び6時間)、室温が30℃の環境に放置した後、98℃の水蒸気で3分間ブランチング処理を行った。ブランチング処理を行ったスプラウトを破砕後、デカンターにて搾汁し、各試料(試料2G〜2L)を得た。
【0086】
<試験例4>官能評価試験(2)
得られた試料(試料2A〜2L)について、官能評価試験を行った。かかる官能評価試験は、飲料の開発を担当する熟練した5人のパネラーにより、各試料の色調及び香味について、試験例2と同様の基準で評価することにより行った。評点の平均値を表2に示す。
【0087】
また、官能評価試験の結果をもとに、各平均値の合計として総合点を算出した。また、総合点をもとに、次の基準で総合評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
=総合評価=
○:総合点が4.5以上
△:総合点が4以上4.5未満
×:総合点が4未満
【0089】
【表2】

【0090】
表2から分かるように、栽培用容器から出した後、60分以内にブランチング処理を行った試料は、色調及び香味が良好に保たれていた。一方、栽培用容器から出した後、ブランチングまでに2時間以上経過した試料は、色調及び香味が多少劣っていた。
【0091】
〔実施例4〜15及び比較例3〜7〕
試験例2で得られた緑豆スプラウト搾汁物(試料2D)、以下に述べる緑豆スプラウトピューレ、その他の野菜汁及び果汁を表3に記載したように配合し、実施例4〜15及び比較例3〜7の野菜飲料を得た。
【0092】
なお、緑豆スプラウトピューレについては、以下のように製造したものを用いた。すなわち、実施例1で得られた緑豆スプラウト(試料1C)を栽培用容器から出し、室温が30℃の環境に60分間放置した後、98℃の熱水で3分間ブランチング処理を行った。ブランチング処理を行ったスプラウトをコミトロールにて破砕した後、裏ごしし、緑豆スプラウトピューレとした。
【0093】
<試験例5>遊離アスパラギン含有量及びカリウム含有量の測定
実施例4〜15及び比較例3〜7で得られた野菜飲料について、遊離アスパラギン含有量[a](mg/100g)及びカリウム含有量[b](mg/100g)を測定した。遊離アスパラギン含有量は、試験例3と同様の方法により測定した。また、カリウム含有量は、ICP発光分析装置(バリアン社製,バリアンVIST−PRO(Ax))を用いたICP発光分析法により測定した。また、得られた結果より、カリウム含有量[b]に対する遊離アスパラギン含有量[a]の比[a]/[b]、及び遊離アスパラギン含有量[a]とカリウム含有量[b]との合計[a]+[b](mg/100g)を算出した。結果を表3に示す。
【0094】
<試験例6>官能評価試験(3)
実施例4〜15及び比較例3〜7で得られた野菜飲料について、官能評価試験を行った。かかる官能評価試験は、飲料の開発を担当する熟練した5人のパネラーにより、5℃に冷却保管された各野菜飲料50mLを試飲することにより行った。次に示す基準で、アミノ酸(遊離アスパラギン酸など)によるもやっとした嫌味、及びカリウムによる苦味に関して、3段階にて評価した。また、野菜飲料のすっきりとした味わいに関して、5段階にて評価した。評点の平均値を表3に示す。
【0095】
=嫌味の評価=
3:嫌味なし
2:少し嫌味がある
1:嫌味あり
【0096】
=苦味の評価=
3:苦みなし
2:少し苦みがある
1:苦みがある
【0097】
=すっきりとした味わいの評価=
5:すっきりとした味わいが多い
4:すっきりとした味わいがやや多い
3:すっきりとした味わいがやや少ない
2:すっきりとした味わいが少ない
1:すっきりとした味わいがない
【0098】
また、官能評価試験の結果をもとに、各平均値の合計として総合点を算出した。また、総合点をもとに、次の基準で総合評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
=総合評価=
+++:総合点が10以上
++ :総合点が8以上10未満
+ :総合点が7以上8未満
− :総合点が7未満
【0100】
【表3】

【0101】
表3から分かるように、[a]/[b]が0.1〜5の範囲にある野菜飲料は、カリウムに由来する苦味と、遊離アスパラギンに由来するもやっとした嫌味とがともに抑制され、バランスのとれたすっきりと飲みやすいものであった。さらに、[a]+[b]が100〜400mg/100gである野菜飲料は、すっきりとした野菜の味わいがあるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、加工時の変色・変臭が抑制されたスプラウト汁が得られるため、色調及び香味が保持され、遊離アスパラギンなどの遊離アミノ酸を豊富に含有し、好適に野菜飲料に配合することができるスプラウト汁を提供することができる。また、本発明によれば、遊離アミノ酸等に由来する嫌な旨味と、カリウム等に由来する苦味とが同時に抑制され、すっきりと飲みやすい野菜飲料を提供することができる。また、本発明の野菜飲料を容器詰めすれば、スプラウトが有する栄養性とおいしさとを兼ね備え、いつでもどこでも手軽に飲用可能な容器詰野菜飲料となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管して得られることを特徴とするスプラウト。
【請求項2】
請求項1に記載のスプラウトから得られることを特徴とするスプラウト汁。
【請求項3】
前記成長保管を行ったスプラウトに対して、酵素失活処理を行うことを特徴とする請求項2に記載のスプラウト汁。
【請求項4】
スプラウトに由来する遊離アスパラギンを185mg/100g以上含有することを特徴とするスプラウト汁。
【請求項5】
野菜を加工して得られた野菜飲料であって、
スプラウト汁を含有し、前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5である
ことを特徴とする野菜飲料。
【請求項6】
前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]と前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]との合計([a]+[b])が100〜400mg/100gであることを特徴とする請求項5に記載の野菜飲料。
【請求項7】
野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管することを特徴とするスプラウトの生産方法。
【請求項8】
野菜の種子が発芽した後、20〜25℃で成長保管したスプラウトからスプラウト汁を製造することを特徴とするスプラウト汁の製造方法。
【請求項9】
野菜を加工して得られる野菜飲料の製造方法であって、
スプラウト汁を配合するとともに、前記野菜に由来するカリウムの含有量[b]に対する前記野菜に由来する遊離アスパラギンの含有量[a]の比([a]/[b])が0.1〜5となるように、前記野菜の配合を調整する
ことを特徴とする野菜飲料の製造方法。

【公開番号】特開2012−115215(P2012−115215A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268871(P2010−268871)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】