説明

スプリングバック解析方法、スプリングバック解析装置、プログラム、及び記憶媒体

【課題】計算時間の増加を抑えつつ、解析精度を向上させることができるスプリングバック解析方法を提供する。
【解決手段】本発明は、等価ドロービードが設定された、コンピュータを用いた成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行うスプリングバック解析方法であって、成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、ドロービード部位置Aにおける被成形材の詳細ビード部データを記憶媒体に記憶する記憶工程と、成形解析結果のうちドロービード部位置Aの解析データである解析ビード部データを記憶媒体に記憶された詳細ビード部データに置換する置換工程と、置換工程により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形による板材の曲げ変形をコンピュータによって解析する技術に関し、特に、除荷時のスプリングバックを解析する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンチ、ダイス等、金型を用いて板材を塑性加工によって成形する技術としてプレス成形が存在する。このプレス成形は、種々の製品を製造するために用いられ、そのような製品の一例として自動車がある。この自動車の製造工程においては、車体のパネルやフレーム、ドアのパネル、サスペンションのアーム等、種々の部品を製造するためにプレス成形が行われる。
【0003】
このプレス成形は、ダイスに材料を載せて、あるいはダイスとパッドで材料を保持して、パンチによって材料を成形する方法である。このプレス成形中、板材には、曲げによる応力と接触による応力と摩擦力による応力が発生する。
【0004】
ところで、このプレス成形によって製造された製品の形状精度が不良となる原因として、プレス成形後の製品のスプリングバックがある。このスプリングバックという現象は、プレス成形等、塑性加工において発生し、材料が成形荷重の除荷時に弾性回復してその形状が変化する現象であり、面ひずみの一因にもなっている。この場合に、部分的に塑性変形を伴うことがある。したがって、例えば特開2004−42098号公報(特許文献1)に記載のように、成形解析結果を用いたスプリングバック解析が行われている。
【0005】
スプリングバック解析の前段階である成形解析は、例えば特開2005−193292号公報(特許文献2)に記載されているように、等価ドロービードを設定して行われる。また、成形解析において、金型のダイ肩R部の曲線(R)を緩やかに又は直角に近似表現して演算する方法が行われている。これらは、計算時間を短縮する効果があり、等価ドロービードを設定する成形解析方法では両方法(等価ドロービード及びダイ肩R部近似)を用いて計算することが主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−42098号公報
【特許文献2】特開2005−193292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記成形解析方法で解析された成形解析結果は、本来の形状から離れた形状で表現されている。例えば、等価ドロービードが設定された解析では、ドロービード部は直線で表現されている。この成形解析結果を用いたスプリングバック解析は、必ずしも精度が良いものではなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、計算時間の増加を抑えつつ、解析精度を向上させることができるスプリングバック解析方法及びスプリングバック解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、プレス成形で用いる金型に存在するドロービード部を解析上省略し、その代替としてドロービード位置で被成形材にドロービード張力を付与した等価ドロービードが設定された、コンピュータを用いた成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行うスプリングバック解析方法であって、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記ドロービード部位置における被成形材の詳細ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を記憶媒体に記憶する記憶工程と、前記成形解析結果のうち前記ドロービード部位置の解析データである解析ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を前記詳細ビード部データに置換する置換工程と、前記置換工程により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本方法によれば、形状が省略されたドロービード部に形状等の詳細データを適用した上で、スプリングバック解析を行うことができる。したがって、解析精度は向上する。また、メッシュが細かい詳細データを被成形材全体に適用するわけではなく、計算時間の増加は極力抑えることができる。さらに、詳細データの作成は、ドロービード部のみを成形解析したものでよく、計算時間は少なくて済む。また、一度作成した詳細データは、データベースとして、同種の板材を対象とした次回当該金型による解析に使用することができる。
【0011】
ここで、前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記被成形材のうちプレス成形時に前記ドロービード部のみを通過するドロービード通過部における第一詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)をさらに記憶し、前記置換工程では、前記成形解析結果のうち前記ドロービード通過部の解析データである第一解析通過データ(前記第一詳細通過データに対応する種類のデータ)を前記第一詳細通過データに置換し、前記ドロービード通過部におけるメッシュは、前記成形解析結果と前記置換成形解析結果とで同じであることが好ましい。
【0012】
ドロービード部の形状を変更することに伴い、ドロービード部を通過した部分(ドロービード通過部)のデータも変化する。そこで、詳細データを作成する際に求まるドロービード通過部の詳細データも成形解析結果に適用することで、さらに解析精度を向上させることができる。また、細かいメッシュ(詳細データ)を当初のメッシュ(成形解析結果)に変換して適用するため、計算時間の増加は防がれる。これは、ドロービード通過部の形状を変更しないため可能となる。詳細データが上記データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)のうちの1種類である場合でも、置換前よりも精度のよいデータであるため、置換により解析精度向上効果が発揮される。置換するデータの種類が多いほど、解析精度は向上する。
【0013】
ところで、本発明において、前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記金型のダイ肩R部位置における被成形材の詳細R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)をさらに記憶し、前記置換工程では、さらに、前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R部位置の解析データである解析R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を前記詳細R部データに置換することが好ましい。
【0014】
ダイ肩R部の曲線は、解析上、緩やかに又は直角に表現されていることが多く、この部分を詳細データに置換することで、さらに高精度な解析が可能となる。
【0015】
ここで、前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記被成形材のうちプレス成形時に前記ダイ肩R部のみを通過するダイ肩R通過部における第二詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)をさらに記憶し、前記置換工程では、前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R通過部の解析データである第二解析通過データ(前記第二詳細通過データに対応する種類のデータ)を前記第二詳細通過データに置換し、前記ダイ肩R通過部におけるメッシュは、前記成形解析結果と前記置換成形解析結果とで同じであることが好ましい。
【0016】
ドロービード部同様、ダイ肩R部を通過したダイ肩R通過部も詳細データに置換することで、さらに高精度な解析が可能となる。
【0017】
さらに、記憶工程では、前記ドロービード部及び前記ダイ肩R部の両方を通過する重複通過部における第三詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)をさらに記憶し、置換工程では、前記成形解析結果のうち前記重複通過部の解析データである第三解析通過データ(前記第三詳細通過データに対応する種類のデータ)を前記第三詳細通過データに置換し、前記重複通過部におけるメッシュは、前記成形解析結果と前記置換成形解析結果とで同じであることが好ましい。これにより、さらに高精度な解析が可能となる。
【0018】
ここで、本発明において、前記置換工程では、マッピング手法を用いてもよい。これにより、置換が容易となる。
【0019】
なお、本方法は、ダイ肩R部をメインとして適用することが可能である。すなわち、本発明は、コンピュータを用い、プレス成形で用いる金型に存在するダイ肩R部の曲線を解析上緩やかに又は直角にして成形解析する成形解析方法で、当該成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行うスプリングバック解析方法であって、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記ダイ肩R部位置における被成形材の詳細R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を記憶する記憶工程と、前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R部位置の解析データである解析R部データ(形状、板厚、応力、相当塑性ひずみ)を前記詳細R部データに置換する置換工程と、前記置換工程により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算工程と、を備えることを特徴とする。これにより、上記同様の効果が発揮される。
【0020】
また、本発明は、上記方法を実行する装置としても記載できる。すなわち、本発明は、プレス成形で用いる金型に存在するドロービード部を解析上省略し、その代替としてドロービード位置で被成形材にドロービード張力を付与した等価ドロービードが設定された成形解析方法で、当該成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行う、コンピュータを備えたスプリングバック解析装置であって、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記ドロービード部位置における被成形材の詳細ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を記憶する記憶部と、前記成形解析結果のうち前記ドロービード部位置の解析データである解析ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を前記詳細ビード部データに置換する置換部と、前記置換部により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算部と、を備えることを特徴とする。これにより、上記同様の効果が発揮される。上記いずれの方法においても同様に装置として記載できる。
【0021】
また、本発明は、上記方法を実施するためにコンピュータにより実行されるプログラムとしても記載できる。また、本発明は、このプログラムをコンピュータ読み取り可能に記録した記録媒体としても記載できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、計算時間の増加を抑えつつ、解析精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】プレス成形を説明するための模式図である。
【図2】ダイ肩R部位置Cを説明するための模式図である。
【図3】スプリングバック解析方法の処理フローを示す図である。
【図4】実施例で用いたプレス品を示す図である。
【図5】実施例1の解析結果を示す図である。
【図6】実施例1の解析結果を示す部分拡大図である。
【図7】実施例2の解析結果を示す図である。
【図8】実施例2の解析結果を示す部分拡大図である。
【図9】実施例3の解析結果を示す図である。
【図10】スプリングバック解析装置1を示す模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、好ましい実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0025】
本実施形態のスプリングバック解析方法は、CPU等を備えたコンピュータ(スプリングバック解析装置)を用いてシェル要素により行うものであり、主に、記憶工程と、置換工程と、演算工程と、を備えている。成形解析は、スプリングバック解析の前に行われ、同コンピュータを用いシェル要素により行う。具体的には、プレス成形で用いる金型に存在するドロービード部8を解析上省略し、その代替としてドロービード位置で被成形材にドロービード張力を付与した等価ドロービードが設定された成形解析方法により解析される。成形解析された結果(成形解析結果)は、コンピュータ内のメモリ又はハードディスクに記憶される。
【0026】
記憶工程は、予め計算された、詳細ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)、詳細R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)、第一詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)、第二詳細通過データ(板厚、応力、相当塑性ひずみ)、及び第三詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を、メモリ又はハードディスク等の記憶媒体に記憶する工程である。
【0027】
詳細ビード部データとは、ドロービード部位置A(図1参照)について、スプリングバック解析の前に行われる成形解析において設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め解析(シミュレーション)して得たデータである。詳細ビード部データは、例えば、成形解析においてメッシュが3mmに設定されていた場合、メッシュを1mmに設定してドロービード部8について解析することで作成できる。本実施形態では、シェル要素を用いて計算する。解析範囲は、図1に示すようにドロービード部8及びその若干の周囲(ドロービード部位置A)である。詳細ビード部データは、各節点・要素における座標(形状)、板厚、応力、及び相当塑性ひずみのデータで構成されている。
【0028】
詳細ビード部データを作成する際に、被成形材のプレス時にドロービード部8のみを通過する部位(ドロービード通過部B)についてのデータも取得できる。このデータが第一詳細通過データとなる。第一詳細通過データは、各節点・要素における板厚、応力、及び相当塑性ひずみのデータで構成されている。第一詳細通過データは、細かいメッシュの状態で記憶されても、成形解析結果のメッシュに変換した(マッピングした)状態で記憶されてもよい。本実施形態では、細かいメッシュのままのデータで記憶される。
【0029】
詳細R部データは、ダイ肩R部位置Cについて、ソリッド要素を用いて細かいメッシュで予め計算されたデータである。ここで、詳細R部データは、同一のダイ肩R部形状であっても、付随するドロービードによって異なる値となる。したがって、ドロービード(位置A、B)を含めた解析を行う。ここでは、ドロービードとダイ肩R部の種々の組み合わせに対して詳細解析したデータを取得する。
【0030】
ダイ肩R部位置Cについて、例えば、実際のダイ肩R部9の曲率半径が1mm(R1)であり、成形解析ではR3(曲率半径が3mm)で計算している場合、詳細R部データは、R1が表現できるようメッシュを細かくして計算したデータである。詳細R部データは、ダイ肩R部位置Cについて、各節点・要素における座標(形状)、板厚、応力、及び相当塑性ひずみのデータで構成されている。ダイ肩R部位置Cは、例えば図2に示すように、Rの中心を通る水平線及び垂直線で切り取られる部位(扇形部位)に設定できる。なお、ソリッド要素は、板厚方向の応力も考慮することができ、一般にシェル要素よりも精度がよいが、より計算時間がかかる。
【0031】
第二詳細通過データは、詳細R部データ作成の際に計算されるデータであり、被成形材のプレス時にダイ肩R部9のみを通過する部位(ダイ肩R通過部D)のデータである。第二詳細通過データは、ダイ肩R通過部Dについて、細かいメッシュの各節点・要素における板厚、応力、及び相当塑性ひずみのデータで構成されている。
【0032】
第三詳細通過データは、被成形材のうちドロービード部8とダイ肩R部9の両方を通過した部位(重複通過部E)についての詳細データである。第三詳細通過データは、第二詳細通過データ同様、詳細R部データ作成の際に計算されるデータである。第三詳細通過データは、重複通過部Eについて、細かいメッシュの各節点・要素における板厚、応力、及び相当塑性ひずみのデータで構成されている。
【0033】
置換工程は、マッピング手法を用いて、記憶工程で記憶された各詳細データと、成形解析結果のうち詳細データに対応する位置の解析データとを置換する工程である。具体的に、置換工程では、成形解析結果のうちドロービード部位置Aの解析データ(解析ビード部データ)を詳細ビード部データに置換し、成形解析結果のうちドロービード通過部Bの解析データ(第一解析通過データ)を第一詳細通過データに置換し、成形解析結果のうちダイ肩R部位置Cの解析データ(解析R部データ)を詳細R部データに置換し、成形解析結果のうちダイ肩R通過部Dの解析データ(第二解析通過データ)を第二詳細通過データに置換し、成形解析結果のうち重複通過部Eの解析データ(第三解析通過データ)を第三詳細通過データに置換する。
【0034】
さらに詳細に、置換工程は、細分化工程と貼付工程とを含んでいる。細分化工程では、成形解析結果のうちドロービード部位置A及びダイ肩R部位置Cのシェル要素を、上記詳細データのメッシュに合うように細分化(節点・要素を作成)する。続いて、貼付工程では、細分化された位置に対応する詳細データを貼り付ける。これにより、解析データは詳細データに置換される。
【0035】
また、置換工程において、成形解析結果のうちドロービード通過部B、ダイ肩R通過部D、及び重複通過部Eについては、要素を細分化せず、同メッシュ(節点・要素数)で詳細通過データに置換する。つまり、マッピング手法を用い、細かいメッシュの詳細通過データは、平均化して粗いメッシュに変換される(変換工程)。その後、解析データは詳細通過データに置換される。換言すると、置換工程では、両データが同じメッシュとなるように置換する。メッシュ粗さを解析データと同じにすることで、計算時間の増加は抑えられる。
【0036】
演算工程は、置換後の成形解析結果(置換成形解析結果)に基づいて、コンピュータがスプリングバック解析演算を実行する工程である。演算方法は、静的陰解法、静的陽解法、又は動的陽解法などの公知の方法で行う。
【0037】
本実施形態の処理フローについて図3を参照して簡単に説明する。まず、ドロービード部位置A、ダイ肩R部位置C、ドロービード通過部B、ダイ肩R通過部D、及び重複通過部Eについて、細かいメッシュで予め計算する(S101)。続いて、計算された詳細データをコンピュータのメモリ等に記憶する(S102)。続いて、コンピュータにより成形解析が行われ、その結果である成形解析結果のうち上記詳細データに対応する箇所を、上記詳細データに公知のマッピング手法により置換する(S103)。そして、コンピュータは、置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う(S104)。その結果、すなわちプレス除荷後の被成形材の形状データは、ディスプレイ等の表示装置に出力される(S105)。
【0038】
(実施例1)
ここで、本方法にて実際にスプリングバック解析した結果(データベース適用)と、詳細データを適用しない従来型でスプリングバック解析した結果(従来法)とを比較する。図4に示すようなプレス品に対して、除荷後の中央断面(A−B断面)形状について、両計算による除荷後の形状(座標データ)と実際に成形した実形状(実験)とを比較した。
【0039】
図5は、A側の形状であって、本方法において詳細ビード部データのみを適用した結果(ビード部データベース適用)を表している。図6は、図5の一部を拡大したものである。図5及び図6に示すように、本方法によれば除荷後の形状は、従来法よりも実験に近くなった。スプリングバック解析において、注目する部分は、被成形材Wのうちダイ肩R部位置Cからドロービード部位置Aへ向かう(A側→B側)面の角度である(図9のθ参照)。図6に示すように、本方法の計算のほうが従来法の計算よりも実験における上記角度に近くなっている。つまり、本方法によれば、スプリングバック解析の精度は向上した。
【0040】
(実施例2)
図7は、B側の形状であって、本方法において、詳細ビード部データ、詳細R部データ、及び第一〜第三詳細通過データを適用した結果(計算1)と、詳細ビード部データのみを適用した結果(計算2)を表している。図8は、図7の一部を拡大したものである。これによれば、ダイ肩R部位置Cからドロービード部位置Aへ向かう(B側→A側)面の角度は、詳細ビード部データのみを適用したものよりも全詳細データを適用したもののほうが実験値に近いことが分かった。つまり、全詳細データを置換することで、より高精度な解析が可能となった。
【0041】
(実施例3)
図9は、A側の形状であって、全詳細データ(詳細ビード部データ、詳細R部データ、第一詳細通過データ、第二詳細通過データ、及び第三詳細通過データ)を適用した結果(実施例)を表している。ここで、本方法(実施例)と従来法とで、角度θ(A側→B側)についての実験値との差を計算し、比較した。その結果、本方法による角度θの差は0.5度であり、従来法による角度θの差は2.5度であった。これによれば、本方法による解析のほうが実際の形状に近く、解析精度が向上したことが分かる。
【0042】
なお、解析時間(演算時間)は、ドロービード部位置Aとダイ肩R部位置Cの節点・要素数のみが増加するだけであるため、ほとんど増加しない。また、予備計算(S101)では、局所的な解析であるため、ソリッド要素でもあるいはメッシュを細かくしたシェル要素でもそれぞれの計算時間は少なくて済む。また、同じ金型で解析をする場合、予備計算等の工程(S101、S102)が省略でき、置換工程から行うことができる(S103〜)。
【0043】
このように、本実施形態によれば、計算時間の増加を抑えつつ、スプリングバックの解析精度を向上させることができる。なお、記憶工程では、複数の金型についての詳細データをデータベースとして記憶してもよい。
【0044】
また、本実施形態は、図10に示すように、コンピュータを備えたスプリングバック解析装置1を用いて実行している。スプリングバック解析装置1は、主に、データ等を記憶する記憶部2と、プログラムを実行する主演算部3と、を備えている。記憶部2は、メモリ又はハードディスク等であって、成形解析結果、各詳細データ、及び解析プログラム等を記憶する場所である。
【0045】
主演算部3は、CPU等であり、解析プログラムにそって演算処理を実行する。主演算部3は、成形解析結果の所定箇所を記憶部2に記憶された各種詳細データに置換する置換部31と、置換成形解析結果に基づいて解析演算する演算部32と、を兼ねている。これにより、本方法が実行され、上記効果が発揮される。なお、本実施形態では、スプリングバック解析装置1は、ディスプレイ等の表示装置4と、キーボード等の入力装置5と、をさらに備えている。また、上記詳細データやプログラム等は、CD−ROMやDVD−ROM等の記憶媒体(記憶部2に相当する)に記憶されていてもよい。また、ドロービード部位置Aの解析範囲は、ドロービード部8のみであってもよい。
【0046】
また、本発明の方法は、それを実施するために各工程が規定されたプログラムにより、コンピュータにより実行できる。このプログラムは、CD−ROMやDVD−ROM等の記憶媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:スプリングバック解析装置、 2:記憶部、 3:主演算部、
8:ドロービード部、 9:ダイ肩R部、 W:被成形材、
A:ドロービード部位置、 B:ドロービード通過部、 C:ダイ肩R部位置、
D:ダイ肩R通過部、 E:重複通過部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形で用いる金型に存在するドロービード部を解析上省略し、その代替としてドロービード位置で被成形材にドロービード張力を付与した等価ドロービードが設定された、コンピュータを用いた成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行うスプリングバック解析方法であって、
前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記ドロービード部位置における被成形材の詳細ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を記憶媒体に記憶する記憶工程と、
前記成形解析結果のうち前記ドロービード部位置の解析データである解析ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を、前記記憶媒体に記憶された前記詳細ビード部データに置換する置換工程と、
前記置換工程により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算工程と、
を備えることを特徴とするスプリングバック解析方法。
【請求項2】
前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記被成形材のうちプレス成形時に前記ドロービード部のみを通過するドロービード通過部における第一詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)を前記記憶媒体に記憶し、
前記置換工程では、前記成形解析結果のうち前記ドロービード通過部の解析データである第一解析通過データ(前記第一詳細通過データに対応する種類のデータ)を、前記記憶媒体に記憶された前記第一詳細通過データに置換し、
前記ドロービード通過部におけるメッシュは、前記成形解析結果と前記置換成形解析結果とで同じである請求項1に記載のスプリングバック解析方法。
【請求項3】
前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記金型のダイ肩R部位置における被成形材の詳細R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を前記記憶媒体に記憶し、
前記置換工程では、さらに、前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R部位置の解析データである解析R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を、前記記憶媒体に記憶された前記詳細R部データに置換する請求項1又は2に記載のスプリングバック解析方法。
【請求項4】
前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記被成形材のうちプレス成形時に前記ダイ肩R部のみを通過するダイ肩R通過部における第二詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)を前記記憶媒体に記憶し、
前記置換工程では、前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R通過部の解析データである第二解析通過データ(前記第二詳細通過データに対応する種類のデータ)を、前記記憶媒体に記憶された前記第二詳細通過データに置換し、
前記ダイ肩R通過部におけるメッシュは、前記成形解析結果と前記置換成形解析結果とで同じである請求項3に記載のスプリングバック解析方法。
【請求項5】
前記記憶工程では、前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記被成形材のうちプレス成形時に、前記ドロービード部のみを通過するドロービード通過部における第一詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)と、前記ダイ肩R部のみを通過するダイ肩R通過部における第二詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)と、前記ドロービード部及び前記ダイ肩R部の両方を通過する重複通過部における第三詳細通過データ(板厚、応力、及び相当塑性ひずみのうちの少なくとも1種)を前記記憶媒体に記憶し、
前記置換工程では、前記成形解析結果のうち前記ドロービード通過部の解析データである第一解析通過データ(前記第一詳細通過データに対応する種類のデータ)を前記記憶媒体に記憶された前記第一詳細通過データに置換し、前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R通過部の解析データである第二解析通過データ(前記第二詳細通過データに対応する種類のデータ)を前記記憶媒体に記憶された前記第二詳細通過データに置換し、前記成形解析結果のうち前記重複通過部の解析データである第三解析通過データ(前記第三詳細通過データに対応する種類のデータ)を前記記憶媒体に記憶された前記第三詳細通過データに置換し、
前記ドロービード通過部、前記ダイ肩R通過部、及び前記重複通過部におけるメッシュは、前記成形解析結果と前記置換成形解析結果とで同じである請求項3に記載のスプリングバック解析方法。
【請求項6】
前記置換工程では、マッピング手法を用いる請求項1〜5の何れか一項に記載のスプリングバック解析方法。
【請求項7】
コンピュータを用い、プレス成形で用いる金型に存在するダイ肩R部の曲線を解析上緩やかに又は直角にして成形解析する成形解析方法で、当該成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行うスプリングバック解析方法であって、
前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記ダイ肩R部位置における被成形材の詳細R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を記憶媒体に記憶する記憶工程と、
前記成形解析結果のうち前記ダイ肩R部位置の解析データである解析R部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を、前記記憶媒体に記憶された前記詳細R部データに置換する置換工程と、
前記置換工程により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算工程と、
を備えることを特徴とするスプリングバック解析方法。
【請求項8】
プレス成形で用いる金型に存在するドロービード部を解析上省略し、その代替としてドロービード位置で被成形材にドロービード張力を付与した等価ドロービードが設定された成形解析方法で、当該成形解析方法により解析された成形解析結果に基づいてスプリングバック解析演算を行う、コンピュータを備えたスプリングバック解析装置であって、
前記成形解析方法で設定されたメッシュよりも細かいメッシュで予め計算された、前記ドロービード部位置における被成形材の詳細ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を記憶する記憶部と、
前記成形解析結果のうち前記ドロービード部位置の解析データである解析ビード部データ(形状、板厚、応力、及び相当塑性ひずみ)を前記詳細ビード部データに置換する置換部と、
前記置換部により置換された置換成形解析結果に基づいて、スプリングバック解析演算を行う演算部と、
を備えることを特徴とするスプリングバック解析装置。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の方法を実施するためにコンピュータにより実行されるプログラムであって、
前記記憶工程では、ユーザーの操作に応じて前記記憶媒体に記憶することを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムをコンピュータ読み取り可能に記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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