説明

スプールケース

【課題】 温度変化が生じた場合であっても、スプールの軸回りでの回転を確実に抑制することが可能なスプールケースを提供すること。
【解決手段】 底蓋と、該底蓋に対して相互に嵌合する上蓋12とを備え、ボンディングワイヤを巻きつける円筒状胴部と、該円筒状胴部の両端に設けられてボンディングワイヤを引き出すノッチ5aが形成されたフランジ5とを有するスプール3を収容するスプールケースにおいて、上蓋12が、スプール3を収容したときに、ノッチ5aに係合してスプール3の軸回りでの回転を防止するノッチ係合凸部24を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置用ボンディングワイヤを巻き取るスプールを収納するためのスプールケースに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品、例えばLSIなどのような大規模集積回路の結線には、ボンディングワイヤが使用されており、スプールに巻き取られている。そして、このスプールは、ボンディングワイヤの損傷や汚染を防止するためにスプールケースに収容されており、この状態で輸送などが行われている。
このようなスプールケースとして、円筒形状を有するスプールと嵌合する上向きの円柱状凸部を有する底蓋と、底蓋と相互に嵌合する上蓋とによって構成されるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このスプールケースは、まず円柱状凸部にスプールを嵌合させ、そして底蓋と上蓋とを嵌合させることによってスプールを収容している。このとき、円柱状凸部とスプールの内側面との摩擦力によって、スプールの軸方向における移動を防止している。なお、スプールに巻き取られたボンディングワイヤの一端は、スプールの両側面に設けられたフランジに形成されたノッチからフランジの外側に至り、粘着テープなどでフランジの外側に粘着固定されている。
【特許文献1】特許第3533658号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のスプールケースには、以下の問題が残されている。すなわち、上記従来のスプールケースでは、スプールを円柱状凸部に嵌合させたときにおいて、スプールの内側面と円柱状凸部の外周面との摩擦力によってスプールの軸回りでの回転を防止している。ところが、スプールケースに用いられているプラスチック材と、スプールに用いられている金属との間には熱膨張係数差があり、輸送中の温度変化によっては、スプールと円柱状凸部との嵌合が弱くなることがある。したがって、スプールが軸回りにおいて回転してスプールの上側のフランジの外側に設けられた粘着テープと上蓋とが擦れる。この結果、粘着テープがフランジから剥がれ、スプールに巻き取られたボンディングワイヤが緩んだり、断線する虞がある。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、スプールの軸回りでの回転を確実に抑制することが可能なスプールケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のスプールケースは、底蓋と、該底蓋に対して相互に嵌合する上蓋とを備え、金属細線を巻きつける円筒状胴部と、該円筒状胴部の両端に設けられて前記金属細線を引き出すノッチが形成されたフランジとを有するスプールを収容するスプールケースにおいて、前記底蓋と前記上蓋とのいずれか一方または双方が、前記スプールを収容したときに、前記ノッチに係合して前記スプールの軸回りでの回転を防止するノッチ係合凸部を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、底蓋と上蓋とを嵌合させて内部にスプールケースを収容したときに、内方に向かって突出するノッチ係合凸部がスプールに形成されたノッチと係合することで、スプールの軸回りでの回転が防止される。したがって、フランジの外側に設けられた粘着テープがスプールケースの内壁と擦れて剥がれることが抑制され、スプールに巻き取られたボンディングワイヤなどの金属細線が緩んだり断線したりすることがない。
また、輸送前後でスプールが回転しないので、スプールケースからスプールを取り出す際のハンドリングが容易となる。
【0008】
また、本発明のスプールケースは、前記上蓋が、天板部と、該天板部の周縁からほぼ垂下して形成された周壁部とを備え、前記天板部に、前記ノッチ係合凸部が設けられていることが好ましい。
この発明によれば、上蓋に設けられたノッチ係合凸部がノッチと係合する。これにより、上述と同様にスプールの軸回りでの回転が抑制され、ボンディングワイヤの緩みや断線を防止する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスプールケースによれば、ノッチ係合凸部とノッチとが係合することでスプールの軸回りでの回転が防止されるので、スプールに巻き取られた金属細線の緩みや、断線を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかるスプールケースの一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態によるスプールケース1は、図1に示すように、例えばICチップ電極と外部のリード端子とを接続するボンディングワイヤ(金属細線)2を巻き取ったスプール3を収容するものである。
【0011】
スプールケース1に収容されるスプール3は、図1及び図2に示すように、ボンディングワイヤ2が巻きつけられる円筒状胴部4と、円筒状胴部4の両端にそれぞれ設けられたフランジ5とによって構成されており、フランジ5にはボンディングワイヤ2の端部を係止するためのノッチ5aが形成されている。ボンディングワイヤ2は、その直径が30μm以下であって、その端部が粘着テープ6によって、フランジ5の外側に粘着固定されている。
【0012】
スプールケース1は、図1及び図3に示すように、底蓋11と、この底蓋11と相互に嵌合する上蓋12とを備えている。
底蓋11は、薄肉であって例えばPETなどのプラスチック材などを用いて弾性変形可能に一体成形されており、図1及び図2に示すように、底部13と、スプール3の内周面と嵌合する円柱状凸部14と、上蓋12の内周面と嵌合する外周凸部15とを備えている。そして、円柱状凸部14と外周凸部15との間には、スプール3の下側のフランジ5が接触する溝部16が形成されている。
【0013】
円柱状凸部14は、底部13から突出して形成されており、その外径がスプール3の円筒状胴部4の内径とほぼ同じとなっている。そして、円柱状凸部14は、スプール3と嵌合し、その摩擦力によって、スプール3の軸回りにおける回転を抑制するように構成されている。
外周凸部15は、底部13から突出して形成されており、その外縁部の形状が上蓋12の内周面の形状とほぼ同じとなっている。そして、外周凸部15は、上蓋12と嵌合し、その摩擦力によって、容易に底蓋11と上蓋12とが分離しないように構成されている。
【0014】
上蓋12は、底蓋11と同様に、薄肉であってPETなどのプラスチック材などを用いて弾性変形可能に一体性成形されており、図1及び図4に示すように、天板部21と、天板部21の周縁からほぼ垂下して形成された周壁部22とによって構成されている。
天板部21には、半球状凸部23及びノッチ係合凸部24が形成されており、スプール3の上側のフランジ5と接触するように構成されている。
この半球状凸部23は、天板部21のほぼ中央に形成されており、その外径がスプール3の円筒状胴部4の内径とほぼ同じとなっている。そして、半球状凸部23は、円筒状胴部4の内径部分に挿入させることで、円柱状凸部14と共にスプール3の移動を防止するように構成されている。
【0015】
ノッチ係合凸部24は、半球状凸部23の近傍に形成された半球状の凸部であって、図4(a)に示すように、所定の位置でスプール3を底蓋11に嵌合させたときに、その周縁がスプール3のノッチ5aの縁部と2箇所で当接するように構成されている。ノッチ係合凸部24の外径は、ノッチ係合凸部24とノッチ5aとを係合させたときに、ノッチ係合凸部24の周縁とノッチ5aの縁部との間に間隙である金属細線逃げ部25が形成されるように構成されている。なお、この金属細線逃げ部25は、ボンディングワイヤ2が挿通可能な形状となっている。
【0016】
スプール3をスプールケース1に収容する際は、まず、底蓋11の円柱状凸部14にスプール3の円筒状胴部4を、スプール3の軸回りでの回転角が所定のものとなるように嵌合させ、下側のフランジ5を溝部16に当接させる。そして、底蓋11の外周凸部15に上蓋12の周壁部22を嵌合させる。このとき、上蓋12の天板部21が上側のフランジ5に当接すると共に、半球状凸部23が円筒状胴部4に挿入される。これにより、スプール3の軸方向における位置決めが行われる。また、ノッチ係合凸部24がノッチ5aの周縁に当接する。これにより、スプール3の軸方向軸回りにおける位置決めが行われる。ここで、上側のフランジ5の外側に粘着テープ6によって粘着固定されているボンディングワイヤ2は、金属細線逃げ部25を挿通している。
【0017】
このように構成されたスプールケース1によれば、スプール3を収容したときにスプール3のノッチ5aとノッチ係合凸部24とが係合しているので、スプール3が軸方向軸回りにおいて位置決めされる。これにより、輸送中の温度変化などによってスプール3と底蓋11との嵌合が弱くなっても、スプール3が軸方向軸回りで回転することを防止し、粘着テープ6が剥がれることによるボンディングワイヤ2の緩みや断線を回避することができる。
このとき、金属細線逃げ部25が形成されることで、スプール3と上蓋12とが当接しても、ボンディングワイヤ2がノッチ5aの周縁とノッチ係合凸部24の周縁との間に挟持されることがない。このことからも、ボンディングワイヤ2の断線を回避することができる。
また、スプール3が軸方向軸回りにおける位置決めが行われた状態で収容されるため、スプールケース1からスプール3を取り出す際のハンドリングが容易となる。
【実施例1】
【0018】
次に、本発明にかかるスプールケースを、実施例により具体的に説明する。
まず、図5に示すように、フランジ5の外周縁を、直径58.2mmとし、ノッチ5aの形状をφ1=3mm、φ2=5mmとした。そして、ノッチ係合凸部24の周縁を、直径φ3=4mm、φ4=6mm、φ5=8mm、φ6=10mm、φ7=20mmとしたときの、フランジ5の中心とノッチ5aの中心とを結ぶ直線L上におけるノッチ5aの縁部とノッチ係合凸部24の周縁との距離を以下に示す。
【0019】
ノッチ係合凸部の直径 距離
4mm 0.22mm
6mm 0.48mm
8mm 0.61mm
10mm 0.72mm
20mm 0.97mm
【0020】
以上より、ノッチ係合凸部の直径が、4mm、6mm、8mm、10mm、20mmいずれの場合であってもノッチ5aの縁部とノッチ係合凸部24の周縁との間にボンディングワイヤ2が挟まれることがなく、ボンディングワイヤ2の破断が回避できることを確認した。
【0021】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、ノッチ係合凸部が上蓋の天板部に設けられているが、底蓋の溝部に設けられてもよい。また、スプールのフランジの双方にノッチが形成されている場合には、ノッチ係合凸部を天板部と溝部との双方に設けてもよい。
また、ノッチ係合凸部は、半球状を有しているが、ノッチと係合したときに金属細線を通すことができる金属細線逃げ部が形成されれば、矩形状や三日月状、円柱状など他の形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態におけるスプールケースとスプールとを示す分解断面図である。
【図2】図1のスプールを示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】図1の底蓋を示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図、(c)は(a)におけるB−B矢視断面図である。
【図4】図1の上蓋を示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)におけるC−C矢視断面図、(c)は(a)におけるD−D矢視断面図である。
【図5】実施例1の金線逃げ部の形状を示す拡大平面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 スプールケース
2 ボンディングワイヤ(金属細線)
3 スプール
4 円筒状胴部
5 フランジ
5a ノッチ
11 底蓋
12 上蓋
21 天板部
22 周壁部
24 ノッチ係合凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底蓋と、該底蓋に対して相互に嵌合する上蓋とを備え、
金属細線を巻きつける円筒状胴部と、該円筒状胴部の両端に設けられて前記金属細線を引き出すノッチが形成されたフランジとを有するスプールを収容するスプールケースにおいて、
前記底蓋と前記上蓋とのいずれか一方または双方が、前記スプールを収容したときに、前記ノッチに係合して前記スプールの軸回りでの回転を防止するノッチ係合凸部を有することを特徴とするスプールケース。
【請求項2】
前記上蓋が、天板部と、該天板部の周縁からほぼ垂下して形成された周壁部とを備え、
前記天板部に、前記ノッチ係合凸部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスプールケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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