説明

スペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物の合成方法

【課題】分子構造と官能基の設計とその合成の自由度が大きく、複雑な多段階反応を必要としない、スペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物の新しい合成方法の提供。
【解決手段】置換基を有していてもよく、A1-X(A1は炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表わされる置換基を有するターピリジン化合物の1種または2種のものを、次式(2)


(式中のRa、Rb、Rc、Rdは各々、炭化水素基を示し、RaとRb、RcとRdは相互に結合していてもよい。また、式中のA2は炭化水素基を示す。)で表わされるホウ素化合物の存在下にカップリング反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンとの錯形成によるハイブリッドポリマーがエレクトロクロミック材料として期待されているビス(ターピリジル)ベンゼン誘導体をはじめとする各種のスペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物の合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビス(ターピリジル)ベンゼン誘導体は金属イオンと錯形成してハイブリッドポリマーとなり、このものは優れたエレクトロクロミック特性を示すことが知られている。このため、このハイブリッドポリマーは、電子ペーパー等の表示材料として将来の技術展開が期待されている。そして、表示デバイスへの応用のためには、エレクトロクロミックのマルチカラー化が望まれ、そのための検討も進められている。
【0003】
しかしながら、ビス(ターピリジル)ベンゼン誘導体をはじめとするビス(ターピリジン)化合物についての従来の知見(非特許文献1−2)によれば、その合成方法は極めて限られた構造と官能基の導入しか可能でなく、また、非対称型の分子構造を持つものとすることが困難であった。
【0004】
このため、マルチカラー化を可能とするための分子構造と官能基の設計とその合成の自由度に乏しく、技術的応用展開のための大きな障害となっていた。
【非特許文献1】Eur. J. Inorg. Chem., 2004, 1763−1769
【非特許文献2】J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1992, 3467−3475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のとおりの背景から、従来技術の問題点を解消し、ハイブリッドポリマーのマルチカラー化を可能ともするために、分子構造と官能基の設計とその合成が自由度が大きく、複雑な多段階反応を必要としない、スペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物の新しい合成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物の合成方法は以下のことを特徴としている。
第1: 次式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中のピリジン環は置換基を有していてもよく、A1は炭化水素基を示し、Xはハロゲ
ン原子を示す。)
で表わされるターピリジン化合物の1種または2種のものを、次式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中のRa、Rb、Rc、Rdは各々、炭化水素基を示し、RaとRb、RcとRdは相互に結合していてもよい。また、式中のA2は炭化水素基を示す。)
で表わされるホウ素化合物の存在下にカップリング反応させて、次式(3)
【0011】
【化3】

【0012】
(前記のとおり、式中のピリジン環は置換基を有していてもよく、A1およびA2は炭化水素基を示す。)
で表わされる化合物を合成することを特徴とする。
第2:第1の発明において、パラジウム錯体化合物と塩基の共存下にカップリング反応さ
せることを特徴とする。
第3:第1の発明において、式(1)で示すターピリジン化合物のターピリジル基は、次
式(4)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中のR1およびR2は、同一または別異に、各々、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ニトロ基、または、これらを有する炭化水素基を示す。)
で表わされるものであることを特徴とする。
第4:第1の発明において、式(1)の符号A1および式(2)の符号A2の炭化水素基は
、芳香族基または複素環基であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記のとおりの本発明の合成方法によれば、1種または2種のターピリジン化合物とスペーサー分子鎖が導入されたホウ素化合物を原料とすることでスペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物を合成することができる。しかもまた、本発明の方法によれば、ピリジン環には各種の官能置換基を導入したものとすることができる。これによって、ビス(ターピリジン)化合物の分子構造や、官能基の導入の選択幅は拡がって、設計そして合成の自由度は大きく向上する。ビス(ターピリジン)化合物からのハイブリッドポリマーのマルチカラー化へも大きく前進することになる。
【0016】
しかも本発明の方法においては、複雑な多段階反応を必要とせず、良好な効率での合成反応が実現されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0018】
本発明では、反応の原料化合物であるターピリジン化合物は、一般的には前記の式(1)により表わすことができる。この式(1)において、ピリジン環は、許容される数の官能置換基を有していてもよく、またこれを有していなくてもよい。符号A1は、スペーサ
ー分子鎖としての炭化水素基を示している。
【0019】
スペーサー分子鎖としての符号A1は、脂肪族、脂環族、芳香族、あるいは複素環の各
種の炭化水素基であってよく、たとえば、エレクトロクロミック材料としてのハイブリッ
ドポリマーの合成原料としては、このA1は、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、ベ
ンジル基等の各種のアリール基や複素環基であることが好適に考慮される。
【0020】
符号Xのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が例示される。
【0021】
以上のような式(1)におけるターピリジン化合物におけるピリジン環に結合することのできる置換基としては、前記の式(4)のターピリジル基に示したように、符号R1
よびR2が、同一または別異であって、各々、たとえば、ハロゲン原子、脂肪族の炭素数
1〜16の範囲のアルキル基やアルケニル基、あるいはシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ヒドロキシ(OH)基、炭素数1〜16の範囲脂肪族炭化水素基を有するアルコキシ基、アミノ(NH2)基、炭素数1〜16の範囲の脂肪族炭化水素基を有する
モノ−またはジ−置換アミノ基、アルデヒド(CHO)基または炭素数1〜16の範囲の脂肪族炭化水素基を有するケトン基あるいはカルボン酸エステル基、シアノ基、ニトロ基、さらには以上の置換基を結合する炭化水素基等の各種のものであってよい。これらの置換基は、式(4)において任意のピリジン環構成炭素原子に1または2以上結合していてもよい。
【0022】
また、本発明において、スペーサー分子鎖導入のための原料化合物であるホウ素化合物は、一般的には前記の式(2)により表わすことができる。ここで、符号A2は前記A1と同様、スペーサー分子鎖としての炭化水素基を示し、脂肪族、脂環族、芳香族、あるいは複素環の各種の炭化水素基であってよく、たとえば、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、ベンジル基等の各種のアリール基や複素環基であることが好適に考慮される。符号Ra、Rb、Rc、Rdは、各々、炭化水素基を示し、RaとRb、RcとRdは相互に結合して、ホウ素原子と共に環を形成していてもよい。
【0023】
本発明の合成方法によれば、前記式(1)で表されるターピリジン化合物と前記式(2)で表されるホウ素化合物を原料として、式(3)で表わされるビス(ターピリジン)化合物が合成されることになる。このホウ素化合物については、原料のターピリジン化合物に対して、通常は、モル比で0.1〜1.2倍使用することが考慮される。
【0024】
また、カップリング反応では、このホウ素化合物と共に、パラジウム(Pd)の錯体化合物と塩基を用いることが有効である。パラジウム錯体化合物は、たとえばPdCl2
PPh32のような0価のPd錯体が好適なものとして考慮される。塩基については、たとえばLi、Na、K、Csのアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、フッ化物等が好ましいものとして例示される。より具体的には、KOH、NaOH、LiOH、K2CO3、NaHCO3、KHCO3、KOAc、KF等である。
【0025】
パラジウム錯体化合物、そして塩基の使用割合は、原料のターピリジン化合物に対して、各々、モル比で、1×10-2〜3×10-1倍、5×10-1〜5倍の範囲とすることが好ましい。
【0026】
反応には溶媒を用いることができる。たとえばDMSO、DMF、THF、アルコール、水、ジオキサン、トルエン、ベンゼン等の1種または2種以上である。ただ、極性溶媒を用いることがより好ましい。
【0027】
反応は、大気もしくは不活性ガス雰囲気下において、常圧、もしくは減圧または加圧下とすることができる。大気中で行うことがより簡便であり、反応温度としては、6×10℃〜12×10℃のの範囲とすることがより好ましい。
【0028】
また、本発明において、スペーサー分子鎖導入のための、前記式(2)で表されるホウ
素化合物は、たとえば、次式(5)
【0029】
【化5】

【0030】
(式中のA2は炭化水素基を示し、X1はハロゲン原子を示す。)
で表わされる化合物と、次式(6)
【0031】
【化6】

【0032】
(式中のRa、Rb、Rc、Rdは各々、炭化水素基を示し、RaとRb、RcとRdは相互に結合していてもよい。)
で表されるホウ素化合物をカップリング反応させて合成することができる。なお、式(6)で表されるホウ素化合物は、式(5)で表される化合物に対して、通常は、モル比で0.1〜1.2倍使用することが考慮される。また、このカップリング反応は、上記の式(1)で表されるターピリジン化合物と式(2)で表されるホウ素化合物のカップリング反応と同様、上記のパラジウム(Pd)の錯体化合物と塩基を用いることが有効である。このパラジウム錯体化合物、そして塩基の使用割合は、前記式(6)で表される化合物に対して、各々、モル比で、1×10-2〜1×10-1倍、5×10-1〜5倍の範囲とすることが考慮される。また、この反応で使用する溶媒や反応条件についても上記カップリング反応と同様のものとすることができる。
【0033】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例1】
【0034】
(ホウ素化合物の合成)
【0035】
【化7】

【0036】
1,3−dibromobenzene 1(1.0g,4.24mmol)を20mL DMSOに溶かした溶液に、bispinacolatodiboron 2(2.4g,9.33mmol)、KOAc(2.1g,21.19mmol)、PdCl2
PPh32(149mg,0.21mmol)を加え、80oCで24時間攪拌した。室
温まで冷却した後、触媒をろ過で除き、CHCl3で希釈した。脱イオン水(50mL)
で5回洗浄した後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc=20:1)で目的物3を単離した(1.06g,76%)。
【0037】
【表1】

【0038】
(スペーサー導入型ビス−ターピリジン化合物の合成)
ジボロン酸3(50mg,0.152mmol)を15mL DMSOに溶かした溶液に、terpyridine 4(129mg,0.333)、K2CO3(139mg,0.758)、PdCl2(PPh32(11mg,10mol%)を加えた。TLCで
ジボロン酸3が消失するまで、アルゴン雰囲気下、80oCで加熱した。触媒をろ過で除
き、室温まで冷却した後に、CHCl3を加えた。ろ液を脱イオン水(30mL)で5回
洗浄し、MgSO4で乾燥させた。ろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(acti
vated basic Al23)で目的物5を単離した(76mg(73%))。
【0039】
【表2】

【実施例2】
【0040】
【化8】

【0041】
Biboronate 3(50mg,0.152mmol)を15mL DMSOに溶かした溶液に、terpyridine 6 (146 mg, 0.333)、K2
CO3(105mg,0.758)、PdCl2(PPh32(11mg,10mol%)を加えた。TLCでdiboronate 3が消失するまで、アルゴン雰囲気下80o
Cで加熱攪拌した。触媒をろ過し、室温に冷却した後、CHCl3で希釈した。ろ液を脱
イオン水(30mL)で5回洗浄した後、MgSO4で乾燥させた。濃縮後、カラムクロ
マトグラフィー(activated basic Al23)で目的物7を単離した(77mg(64%))。
【0042】
【表3】

【実施例3】
【0043】
【化9】

【0044】
Biboronate 3(50mg,0.152mmol)を15mL DMSOに溶かした溶液に、terpyridine 8(149mg,0.333)、K2CO3(125mg,0.758)、PdCl2(PPh32(11mg,10mol%)を加え
た。TLCでdiboronate 3が消失するまで、アルゴン雰囲気下、80oCで
加熱攪拌した。触媒をろ過で取り除いた後、室温まで冷却しCHCl3 で希釈した。脱
イオン水(30mL)で5回洗浄し、MgSO4で乾燥させた。ろ過、濃縮後、カラムク
ロマトグラフィー(activated basic Al23)で目的物9を単離した(70mg(57%))。
【0045】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の合成方法を利用することで、発光機能や酸化還元機能を有するスペーサーを導入したビス(ターピリジン)化合物を合成することができる。これらの有機化合物を用いたハイブリッドポリマーを作ることで、有機エレクトロルミネッセンス素子における発光材料やホール輸送材料としての応用が考えられる。また、オリゴチオフェンなどの導電性スペーサーを導入したビス(ターピリジン)化合物を合成すれば、これを用いて作ったハイブリッドポリマーは高速応答性のエレクトロクロミック特性を示すと期待されるため、電子ペーパー等の表示材料への利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1)
【化1】

(式中のピリジン環は置換基を有していてもよく、A1は炭化水素基を示し、Xはハロゲ
ン原子を示す。)
で表わされるターピリジン化合物の1種または2種のものを、次式(2)
【化2】

(式中のRa、Rb、Rc、Rdは各々、炭化水素基を示し、RaとRb、RcとRdは相互に結合していてもよい。また、式中のA2は炭化水素基を示す。)
で表わされるホウ素化合物の存在下にカップリング反応させて、次式(3)
【化3】

(前記のとおり、式中のピリジン環は置換基を有していてもよく、A1およびA2は炭化水素基を示す。)
で表わされる化合物を合成することを特徴とするスペーサー導入型ビス(ターピリジン)化合物の合成方法。
【請求項2】
パラジウム錯体化合物と塩基の共存下にカップリング反応させることを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
式(1)で示すターピリジン化合物のターピリジル基は、次式(4)
【化4】

(式中のR1およびR2は、同一または別異に、各々、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ニトロ基、または、これらを有する炭化水素基を示す。)
で表わされるものであることを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項4】
式(1)の符号A1および式(2)の符号A2の炭化水素基は、芳香族基または複素環基であることを特徴とする請求項1に記載の合成方法。

【公開番号】特開2008−162976(P2008−162976A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356186(P2006−356186)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】