説明

スライディングノズル装置用ノズル

【課題】耐食性と耐スポーリング性がともに良好で、耐用が長いスライディングノズル装置用ノズルを提供する。
【解決手段】
スライディングノズル装置用ノズルを、アルミナを92〜30質量%、クロミアを5〜50質量%、ジルコニアを10質量%以下を含むとともに、アルミナ、クロミア及びジルコニアの合計量が90質量%以上の組成を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性と耐スポーリング性に優れたスライディングノズル装置用ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライディングノズル装置は、取鍋や連続鍛造のタンディッシュに設けられるとともに上部ノズル、下部ノズルと両ノズル間に配置されたプレートの3つの部分からなり、該プレートが直線摺動或いは回転摺動により、溶融金属の流量制御を行う装置として使用されている。特に、スライディングノズル装置は鉄鋼業において、溶鋼の流量制御装置として使用されている。
【0003】
上記の上部ノズル及び下部ノズルは、従来は、ハイアルミナ質、アルミナ−C(カーボン)質の耐火物で形成されている。
ところで、例えば取鍋に設けられたスライディングノズル装置は、鋳造後には、必ず上部ノズル内孔とプレート内孔に付着した地金を除去するために酸素吹き付けによる酸素洗浄作業が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この酸素洗浄作業は、鉄製のランスパイプからの酸素吹き付けによって、上部ノズルに付着した地金を酸化させて発熱除去するものである。ところが、酸素洗浄によりハイアルミナ質、アルミナ−C質の上部ノズルが高熱に晒されるため、上部ノズルの内孔(ノズル孔)を著しく溶損し、ノズル孔が拡大する。
【0005】
又、鋳造末期にスラグと上部ノズルの材質との反応により低融点化合物が生成し、溶損する問題もある。さらに、ノズルがアルミナ−C質で形成されている場合、ノズル中のC(カーボン)が酸素洗浄時に酸化され、組織が脆弱化して摩耗損傷する。
【0006】
このように従来上部ノズルは、ノズル孔の溶損や、その溶損による拡大がネックとなり、その耐用が低いことが問題となっている。又、亀裂の発生と亀裂からの異常溶損で耐用が低下することが問題となっている。
【0007】
又、下部ノズルにおいても、酸素洗浄の影響を受けて同様の問題を生ずる虞がある。
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、耐食性と耐スポーリング性がともに良好で、耐用が長いスライディングノズル装置用ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、アルミナを92〜30質量%、クロミアを5〜50質量%、ジルコニアを10質量%以下を含むとともに、アルミナ、クロミア及びジルコニアの合計量が90質量%以上の組成を有することを特徴とするスライディングノズル装置用ノズルを要旨とするものである。
【0009】
なお、本明細書において、単にノズルという場合は、スライディングノズル装置の上部ノズル及び下部ノズル含む意味である。
ここで、クロミア(Cr)は、酸化雰囲気下で化学的に極めて安定で、スラグ成分と低融点の化合物を作らず、耐食性が高い。
【0010】
又、クロミアはアルミナ(Al)に比較して融点が高く、耐食性に富むため、アルミナにクロミアを添加することによりノズル全体の耐火性が向上すると同時に、スラグ成分に対するアルミナの反応性も抑制され、耐食性が向上する。
【0011】
アルミナ−クロミア−ジルコニア質は、ハイアルミナ質、アルミナ−C質に比べ熱膨張はほぼ変わらず、耐スポーリング性は良好である。従って、耐食性も耐スポーリング性ともに良好で、耐用が長い。
【0012】
ジルコニアを10質量%以下含むことにより、粒子間に微小なクラックを多く生じ熱応力を吸収する。したがって、このアルミナ、クロミア及びジルコニアの化学成分範囲において、耐熱スポーリング性が向上する。
【0013】
特に、クロミア成分を多くする場合には、それに併せてジルコニア成分も多くすると、ジルコニア成分を入れない場合よりも耐スポーリング性を向上することができる。
又、本発明は、アルミナを92〜30質量%、クロミアを5〜50質量%を含むとともに、アルミナ及びクロミアの合計量が90質量%以上の組成を有することを特徴とするスライディングノズル装置用ノズルを要旨とするものである。
【0014】
アルミナ−クロミア質は、ハイアルミナ質、アルミナ−C質に比べ熱膨張はやや大きくなるが、その差は僅少で耐スポーリング性に優れる。従って、耐食性、耐スポーリング性ともに良好で、耐用が長い。
【0015】
この場合、ノズルは、焼成にて形成されている。焼成する場合は、上記アルミナ、クロミア、ジルコニアを主成分とする原料又はアルミナ、クロミアを主成分とする原料を上記割合で混合し、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂からなる有機バインダーを添加して、混練、成型、乾燥後、温度域が1400〜1700℃の酸化焼成で熱処理される。
【0016】
又、ノズルは、不焼成にて形成されていてもよい。
この場合、上記アルミナ、クロミア、ジルコニアを主成分とする原料又はアルミナ、クロミアを主成分とする原料を上記割合で混合し、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂からなる有機バインダーを添加して、混練、成型後、温度域が150〜500℃で乾燥される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐食性及び耐スポーリング性ともに良好で、耐用を長くすることができる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のスライディングノズル装置用ノズルは、アルミナ、クロミア、ジルコニアをそれぞれ主成分とする原料(又はアルミナとクロミアをそれぞれ主成分)、及びバインダーからなる成型体を、焼成、或いは不焼成により得られるれんがをベースとしている。
【0019】
本発明では、ノズルの耐火性骨材として、アルミナ、クロミア、ジルコニアを主成分とするものを用いることにより、十分な耐食性を付与することができる。そのためには、アルミナを92〜30質量%を含むとともに、クロミアを5〜50質量%含み、ジルコニアを10質量%以下含み、三者の合計量が90質量%以上の組成を有することが好ましい。三者の合計量が90質量%以上あると、耐食性及び耐スポーリング性の両性質を同時に得ることが可能となる。
【0020】
アルミナが30質量%未満では、耐スポーリング性を付与することが難しくなり、92質量%を越えると耐食性の向上が見られない。
クロミアは5質量%未満では耐食性が劣化し、50質量%を越えると耐食性の向上はなくなるとともに、耐スポーリング性が劣化する。
【0021】
又、ジルコニア(ZrO)を10質量%以下含むことにより、粒子間に微小なクラックを多く生じ熱応力を吸収する。したがって、このアルミナ、クロミア及びジルコニアの化学成分範囲において、耐熱スポーリング性が向上する。
【0022】
又、ノズルの耐火性骨材として、アルミナ、クロミアを主成分としても十分な耐食性を付与することができる。そのためには、アルミナを92〜30質量%を含むとともに、クロミアを5〜30質量%含み、両者の合計量が90質量%以上の組成を有することが好ましい。両者の合計量が90質量%以上あると、耐食性及び耐スポーリング性の両性質を同時に得ることが可能となる。
【0023】
アルミナが30質量%未満では、耐食性を付与することが難しくなり、92質量%を越えると耐スポーリング性の向上が見られない。
アルミナ、クロミアを主成分とした場合にもクロミアは5質量%未満では耐食性が劣化し、50質量%を越えると耐食性の向上はなくなるとともに、耐スポーリング性が劣化する。
【0024】
ここで、アルミナの原料は、Alが90数%以上の電融アルミナや焼結アルミナを挙げることができる。
又、クロミアの原料は、酸化クロム、クロミアとアルミナの共晶物を挙げることができる。又、ジルコニアの原料としては、ジルコニア−ムライトや、アルミナ−ジルコニア、ジルコニアを挙げることができる。
【0025】
本実施形態のスライディングノズル装置用ノズルの製造は、下記のようにして行う。
アルミナ、クロミア、及びジルコニアの原料(又は、アルミナ及びクロミアの原料)を、上述した所定の割合で配合して混合物とする。なお、前記各原料は通常の耐火れんがの製造と同様にして粒度調整を行い、粗粒と中間粒と微粉の配合割合を適切に配合する。この混合物に適宜量の有機バインダー又は水を添加してミキサーで混練した後、金型によるプレス成型によってノズルの形状に成型する。成型時のプレス圧は300〜800kgf/cm2 で行われる。このようにして得られた成型物を80〜100℃で1日〜2日間乾燥した後、1500〜1700℃で5〜10時間焼成して、スライディングノズル装置用ノズルを得る。
【0026】
なお、不焼成でスライディングノズル用ノズルを製造する場合は、下記のように行う。
アルミナ、クロミア、及びジルコニアの原料(又は、アルミナ及びクロミアの原料)を、上述した所定の割合で配合して混合物とする。なお、前記各原料は通常の耐火れんがの製造と同様にして粒度調整を行い、粗粒と中間粒と微粉の配合割合を適切に配合する。この混合物に適宜量の有機バインダー又は水を添加してミキサーで混練したのち、金型によるプレス成型等によってノズルの形状に成型する。成型時のプレス圧は300〜800kgf/cm2 で行われる。このようにして得られた成型物を80〜100℃で1日〜2日間乾燥した後、150〜500℃で乾燥して、スライディングノズル装置用ノズルを得る。
【0027】
(試験)
以下に、実施例1〜7と比較例1〜5を挙げて説明する。
実施例1〜7及び比較例1〜5は、いずれも表1又は下記で説明する割合で配合し、ミキサーで混練し、オイルプレスにて116×60×65(mm)の断面等脚台形状にし、100℃で24時間乾燥後、1500℃で5時間焼成することによって、後述する試験のための試験試料をつくった。これらの試験試料の評価を表1に示す。
【0028】
【表1】

なお、表1中、比較例1は、アルミナ−C質(化学成分(質量%):Al 85質量%、SiO 8質量%、C 5質量%、その他 2質量%)の組成を持ち、不焼成で形成された従来品である。
【0029】
又、表1中、その他は、SiO、MgO、Fe、TiO等である。
(浸食試験及び耐スポーリング性の測定)
そして、試験試料の8個を上底側の矩形面の8面で八角柱状の凹部を形成するように組み合わせて固定し外観が八角柱状の試験体を構成して回転浸食試験を行った。なお、回転浸食試験装置は公知であるので、回転浸食試験の概略を説明する。すなわち、該試験体を横に倒した状態で、且つ、該試験体が底面に垂直な軸を中心として回転装置により一定方向に回転する状態にし、該試験体の凹部内に鋼を装入し、酸素バーナーを用いて1600℃下で4時間回転させた。4時間経過後、前記試験体を各試験試料ごとにバラし、試験試料を、溶鋼が接触した面に直交して切断した。次に、溶鋼が接触した面の溶鋼による浸食部の浸食度合いを評価した。
【0030】
耐食性の評価は、×、△、○、◎とした。
×は溶損量が9mm以上の場合、△は溶損量が7〜8mmの場合、○は溶損量が4〜5mmの場合、◎は溶損量が3mm以下の場合である。
【0031】
なお、一般的に、テーブルテストを行う場合、溶損量7〜8mmの場合、耐食性は良好とされ、実炉においても使用できる試料とされている。又、溶損量が9mm以上あった試料は、耐食性がなく、実炉には向かないとの評価が行われる。従って、△、○、◎の評価がされた試料が耐食性が良好とされる。なお、表1の耐食性の評価では、説明の便宜上、良好の評価を△、○、◎で、ランク付けをし、この順に左から右に行くほど良好のランクが上がっている。
【0032】
一方、耐スポーリング性の評価は、前記試験試料の割れの状態を、目視で評価した。耐スポーリング性の評価は、×、△、○、◎とした。
×は亀裂2本以上の場合、△は亀裂1本場合、○は微亀裂の場合、◎は亀裂無しの場合である。なお、一般的に、テーブルテストを行う場合、亀裂1本が入った試料があった場合、耐スポーリング性は良好とされ、実炉においても使用できる試料とされている。又、亀裂2本以上あった試料は、耐スポーリング性がなく、実炉には向かないとの評価が行われる。従って、△、○、◎の評価がされた試料が耐スポーリング性が良好とされる。なお、表1の耐スポーリング性の評価では、説明の便宜上、良好の評価を△、○、◎で、ランク付けをし、この順に左から右に行くほど良好のランクが上がっている。
【0033】
総合評価は、耐食性、耐スポーリング性の少なくともいずれか一方の評価が×の場合を×とし、いずれか一方が△又は○で、他方が△又は○の場合を○とし、いずれか一方が◎で、他方が○又は◎の場合を◎とした。総合評価では、○と◎が、耐食性、耐スポーリング性がともに良好である旨を表している。
【0034】
表1に示すように、実施例1,2は、ジルコニアを含まない例であるが、アルミナ92質量%、クロミア5質量%において、耐食性、耐スポーリング性がともに良好であることが分かる。又、実施例2〜7はアルミナの配合率を徐々に減らし、その代わりに、クロミアやジルコニアを徐々にその配合率を増やすようにしている。これらの実施例においてもいずれも耐食性、耐スポーリング性が良好であることが分かる。
【0035】
(耐用試験)
次に耐用試験を行った。耐用試験では、従来品(比較例1)と、実施例1〜7に示した配合割合の上部ノズルを300tの取鍋に使用されるスライディングノズル装置用ノズルとして作成した。このノズルを図1に示す注湯系ノズルNを構成するスライディングノズル装置に組み込みして、どれだけのチャージ回数(CH)で交換が必要かを試験した。
【0036】
なお、図1に示す注湯系ノズルNの構成を簡単に説明する。
注湯系ノズルNは、取鍋Lの底部の開口部Laに挿入されるとともに羽口レンガ40の内孔41に対して固定されたノズル孔10aを有する上部ノズル10と、ノズル孔10aの下端開口側に流入口側が接続するスライディングノズル装置20と、スライディングノズル装置20の流出口側に流入口側が接続する下部ノズル30を有する。
【0037】
又、スライディングノズル装置20は、取鍋Lの底部下面に対して金枠23を介して取り付けされた上プレート21と、該上プレート21に対して密接された下プレート22とを有する。
【0038】
そして、スライディングノズル装置20は、下プレート22が水平方向に摺動されて流出孔21a,22aを連通させる開放位置(図1参照)と、図示はしないが流出孔21a,22a間を遮断する閉鎖位置に位置することが可能とされている。そして、下プレート22が開放位置に位置することにより各流出孔21a、22aが連通されて溶鋼の流路を形成することができる。下部ノズル30は、耐火レンガから形成されており、前記下プレート22に一体に取付けされている。そして、下部ノズル30は下プレート22の流出孔22aと同軸に設けられた流出孔30aを有している。そして、下部ノズル30は下プレート22が移動した際には、下プレート22と一体に移動する。
【0039】
上記スライディングノズル装置20を含む注湯系ノズルNでは、鋳造時に下部ノズル30が図1の開放位置に位置すると、取鍋Lから高温(溶鋼の場合、1630℃)の金属の溶湯が上部ノズル10、スライディングノズル装置20、下部ノズル30及びロングノズルを介してタンデッシュ(ともに図示しない)に注がれる。
【0040】
上記のような注湯系ノズルNを構成した上で、上部ノズル10を各例毎に10本試験して、そのチャージ回数を測定した。
その結果、従来品である比較例1(アルミナ−C質)では、8〜9CHで、交換する必要が生じた。
【0041】
それに対して、実施例1〜7は交換までのチャージ回数は12〜13CHであり、耐用が従来品よりも延びていることが分かった。
○前記実施例1〜7では、耐用試験において、上部ノズルに採用したが、下部ノズル30に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】注湯系ノズルNの断面図。
【符号の説明】
【0043】
N…注湯系ノズル、20…スライディングノズル装置、
10…上部ノズル、30…下部ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを92〜30質量%、クロミアを5〜50質量%、ジルコニアを10質量%以下を含むとともに、アルミナ、クロミア及びジルコニアの合計量が90質量%以上の組成を有することを特徴とするスライディングノズル装置用ノズル。
【請求項2】
アルミナを92〜30質量%、クロミアを5〜50質量%を含むとともに、アルミナ及びクロミアの合計量が90質量%以上の組成を有することを特徴とするスライディングノズル装置用ノズル。
【請求項3】
焼成にて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスライディングノズル装置用ノズル。
【請求項4】
不焼成にて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスライディングノズル装置用ノズル。

【図1】
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