説明

スライドコア装置

【課題】コンパクトでスライドコアの構成が簡便なスライドコア装置を提供する。
【解決手段】スライドコア装置は、開位置と閉位置との間を移動可能なスライドコア1が閉位置に位置するとき、カム部材4が所定の上方位置から下方位置へ移動されると、カム部材4の揺動部材43がスライドコア1の段差部14を乗り越えて揺動部材43上のカム面42が、段差部14に設けられた傾斜面12に対向し、その後、カム部材4が下方位置から上方位置へ移動されると、カム面42が傾斜面12に作用し、スライドコア1が、閉位置から開位置へ移動するにように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドコアを備え、該スライドコアを駆動させるスライドコア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多色成形を行うに際し、スライドコアを用いてアンダーカット部分を成形する場合、アンダーカット部分の形状を維持するために、各色についての成形を通してスライドコアを閉位置に維持し、各色についての成形を完了するときに、スライドコアが開かれる。
【0003】
このようなスライドコアの駆動を実現する技術として、例えば特許文献1には、スライドコア上でバネにより揺動可能に後面から付勢された可動壁を有する多色成形用のスライドコア装置が記載されている。この装置において、1色目の成形に際しては、一次成形用の金型と共に下降する押えカムのカム面により、押えカムと可動壁が干渉することなく、スライドコアが閉位置に移動される。
【0004】
2色目の成形に際しては、二次成形用の金型と共に下降するアンギュラーカムが、可動壁に接触し、付勢力に抗して可動壁を揺動させることにより、支障なく下降し、アンギュラーカムの前側の傾斜カム面をスライドコアの傾斜面に接触させてスライドコアを閉位置に維持する。2色目の成形が完了すると、付勢力により復帰している可動壁が、二次成形用の金型とともに上昇するアンギュラーカムの後ろ側傾斜カム面により押圧され、スライドコアが開かれる。
【0005】
また、特許文献2には、固定側型板と可動側型板に付属するスライドコアとの間に跨る小形のカムを組み込むことにより、金型の軽量化を図ったスライドコア操作装置が記載されている。このカムは、固定側型板に揺動可能に取り付けられており、スライドコアを開くとき、スライドコアによって付勢力に抗し揺動され、スライドコアとカムとの係合位置関係を型閉じ時まで維持する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−296773号公報
【特許文献2】実公平7−56182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のスライドコア装置によれば、スライドコア上にバネで揺動可能に付勢した可動壁を有するので、スライドコアの構成が複雑になる。したがって、スライドコアの構成が簡便であることを要する用途には適していない。
【0008】
また、特許文献2のスライドコア操作装置は、カムの外側からカムに付勢力を付与するためのプッシュピンや、ばね、プラグ等の機構をカムの外側に備えるので、装置の構造が複雑で大きくなるという不都合を有する。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、コンパクトでスライドコアの構成が簡便なスライドコア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスライドコア装置は、開位置と閉位置との間を移動可能なスライドコアと、前記スライドコアの下部を該スライドコアの開閉方向に案内するガイドレールと、所定の上方位置及び下方位置の間で移動されるカム部材とを備え、前記スライドコアは、開方向及び上方向に面する第1傾斜面と、開閉方向に沿った側面から張り出した段差部とを備え、前記段差部の段差を構成する面のうち、前記第1傾斜面と平行であって、前記スライドコアの閉方向でかつ下方向に面する面が第2傾斜面となっており、前記カム部材は、前記下方位置への移動により前記第1傾斜面に作用して前記スライドコアを閉位置に位置させる第1カム面と、該カム部材の幅方向に揺動する揺動部材とを備え、前記揺動部材は、揺動軸が前記開閉方向に沿って前記カム部材の上方に位置し、かつ下端が該カム部材の内方に向けて付勢されており、前記揺動部材には、前記カム部材が前記上方位置へ移動するときに前記第2傾斜面に作用して前記スライドコアを閉位置から開位置へ移動させる第2カム面が設けられており、前記スライドコアが閉位置に位置するとき、前記カム部材が前記上方位置から下方位置へ移動されると、前記揺動部材が前記スライドコアの段差部を前記付勢力に抗して乗り越えて前記第2カム面が前記第2傾斜面に対向することを特徴とする。
【0011】
これによれば、スライドコアには第1傾斜面と、第2傾斜面を有する段差部とを設けるだけでよいため、スライドコアの構成を簡便なものとすることができる。また、揺動部材は、揺動軸がスライドコアの開閉方向に沿ってカム部材の上方に位置しており、所定の場合にスライドコアの段差部を乗り越えて第2カム面が第2傾斜面に対向する機能を有していれば足りるので、スライドコア装置をコンパクトなものとすることができる。
【0012】
また、多色成形に対し、スライドコア装置を容易に適用することができる。すなわち、1色目の成形が完了して閉位置に位置しているスライドコアに対し、2色目の成形用の上型とともにカム部材が上方位置から下方位置へ移動されると、第1カム面が第1傾斜面に作用してスライドコアを閉位置に維持するとともに、第2カム面がスライドコアの段差部を乗り越えて第2傾斜面に対向する。そして、2色目の成形が完了し、カム部材が上型とともに下方位置から上方位置へ移動されると、第2カム面が第2傾斜面に作用し、スライドコアも開かれる。
【0013】
また、本発明においては、前記第1傾斜面に対応する第3カム面を備えた別のカム部材を備え、前記スライドコアが開位置に位置するとき、前記別のカム部材が所定の上方位置から下方位置へ移動されると、前記第3カム面が前記第1傾斜面に作用し、該スライドコアを閉位置まで移動させるようにしてもよい。
【0014】
これによれば、1色目の成形に際しては、1色目の成形用の上型とこれに固定された前記別のカム部材とを用い、2色目の成形に際しは、2色目の成形用の上型とこれに固定された上述の揺動部材を有するカム部材とを用いることにより、2色成形を支障なく行うことができる。
【0015】
さらに、本発明においては、前記ガイドレールには、前記スライドコアの案内に際し、該スライドコアを開位置及び閉位置に位置決めするためのボールプランジャが設けられていてもよい。これによれば、スライドコアを開位置及び閉位置に移動したとき、確実にスライドコアをその位置に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るスライドコア装置のスライドコアの斜視図である。
【図2】前記スライドコア装置のガイドレールの斜視図である。
【図3】前記スライドコア装置の一次成形用カムの斜視図である。
【図4】前記スライドコア装置の二次成形用カムの斜視図である。
【図5】図4の二次成形用カムの分解図である。
【図6】前記スライドコア装置の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1〜図4はそれぞれ、本発明の一実施形態に係るスライドコア装置を構成するスライドコア1、ガイドレール2、一次成形用カム3及び二次成形用カム4の斜視図である。
【0018】
スライドコア1は、スライドコア1を開く方向(以下、「開方向」という。)でかつ上方向に面する傾斜面11と、スライドコア1を閉じる方向(以下、「閉方向」という。)でかつ下方向に面する傾斜面12とを有する。傾斜面12は、スライドコア1の開閉方向に沿った両側面13から張り出した凸条のような各段差部14の段差を構成する面に形成されている。各段差部14の傾斜面12とは反対側の面は、スライドコア1の開方向側端面の両端部を構成している。該開方向側端面により傾斜面11が形成される。
【0019】
スライドコア1の底面には、ガイドレール2により開閉平方向に案内されるレール状の被案内部15が設けられている。スライドコア1の閉方向側は、図示していない製品成形用の型部が固定される固定部16となっている。
【0020】
ガイドレール2は、直方体状の部材の上面側に、スライドコア1の被案内部15を案内するのに適合した断面形状を有するレール部21を設けた構造を有する。レール部21の底面の中心には、スライドコア1を開いた位置(以下、「開位置」という。)及び閉じた位置(以下、「閉位置」という。)に位置決めするためのボールプランジャ22が設けられている。なお、図6に示すように、これに対応する凹部17a及び17bが、スライドコア1の被案内部15の底面に設けられている。
【0021】
一次成形用カム3は、直方体形状の部材の下面に段差を設けたような構造を有し、その段差面が、スライドコア1の傾斜面11に作用するカム面31となっている。一次成形用カム3は、一次成形用の上型に固定され、該上型と一体的に所定の上方位置及び下方位置の間で移動する。スライドコア1が開位置に位置するとき、一次成形用カム3が上方位置から下方位置へ移動されると、カム面31が傾斜面11に作用し、スライドコア1を閉位置まで移動させる。
【0022】
二次成形用カム4は、図示していない二次成形用の上型に固定され、該上型と一体的に所定の上方位置及び下方位置の間で移動される。二次成形用カム4は、下方位置への移動により傾斜面11に作用してスライドコア1を閉位置に位置させるカム面41と、上方位置への移動時に傾斜面12に作用してスライドコア1を閉位置から開位置へ移動させるカム面42と、カム面42が設けられた2つの揺動部材43とを備える。
【0023】
図5は、二次成形用カム4の分解図である。同図に示すように、各揺動部材43は、遥動の軸線が開閉方向に沿って二次成形用カム4の上部両側に位置し、かつ下端同士が所定の間隔を有するように、耐熱性の板ばね44により内方へ向けて付勢される。この間隔はほぼスライドコア1の両側面13間の間隔に等しい。
【0024】
すなわち、各揺動部材43は、上端部の内側に、軸線が開閉方向に沿った部分円筒部45を備える。これに対応し、二次成形用カム4の本体部46は、上部の両側に、部分円筒部45を受け入れて揺動可能に支持する受け部47を有する。
【0025】
各揺動部材43は、各部分円筒部45を各受け部47に配置し、各受け部47の上端の凹部48が板ばね44の両端部で押圧されるように板ばね44を配置し、その上をプレート49で覆い、そしてねじ50で板ばね44及びプレート49を本体部46に締結することにより取り付けられる。これにより、各揺動部材43の下端が、スライドコア1の両側面13間の間隔程度の間隔を有するように、板ばね44によって付勢される。
【0026】
なお、各揺動部材43の下端及びスライドコア1の各段差部14の上端は、各揺動部材43が各段差部14の外側に嵌まり易いように、面取りがなされている。
【0027】
図6は2色成形を行うときのスライドコア装置の動作を示す。図6(a)〜(d)においては、スライドコア装置を側面側から見た様子を示している。図6(e)〜(i)においては、側面側から見た様子に加え、閉方向側から見た様子を、一部分を断面として、併せて示している。なお、スライドコア1は、開位置に位置するとき、ボールプランジャ22により凹部17aを介して位置決めされ、閉位置に位置するとき、凹部17bを介して位置決めされる。
【0028】
2色成形に際しては、まず、図6(a)のように、型締めを行うために、一次成形用の上型に固定された一次成形用カム3が、上型とともに、所定の上方位置から下方位置に向けて、ガイドレール2上の開位置に位置するスライドコア1の方に下降される。これに伴い、図6(b)のように、カム面31は、スライドコア1の傾斜面11に作用し、スライドコア1を閉位置へ向けて移動させる。
【0029】
一次成形用カム3が下方位置に到達すると、図6(c)のように、スライドコア1は閉位置に位置する。これにより型締めが完了するので、この状態で一次成形のための成形剤の注入が行われる。その後、型を開くときには、図6(d)のように、一次成形用カム3は、上型とともに、上方位置へ移動される。この後、二次成形の型締めが行われるまでの間、ボールプランジャ22によって、スライドコア1の位置が閉位置に維持される。
【0030】
次に、二次成形を行うために、図6(e)に示すように、図示していない二次成形用の上型に固定された二次成形用カム4が、所定の上方位置から下方位置に向けて、ガイドレール2上の閉位置に位置するスライドコア1の方に下降される。これに伴い、図6(f)のように、揺動部材43が、スライドコア1の各段差部14を板バネ44による付勢力に抗して乗り越える。
【0031】
二次成形用カム4が下方位置に到達すると、図6(g)のように、カム面41が傾斜面11に作用してスライドコア1を閉位置に維持するとともに、揺動部材43のカム面42が、スライドコア1の傾斜面12に対向する。これにより二次成形のための型締めが完了するので、この状態で二次成形のための成形剤の注入が行われる。
【0032】
この間、カム面41により、成形剤の注入圧力に抗して、スライドコア1が閉位置に維持される。その後、型を開くときには、二次成形用カム4が、該上型とともに、上方位置へ移動される。
【0033】
これに伴い、図6(h)のように、カム面42は、スライドコア1の傾斜面12に作用し、スライドコア1を開位置へ向けて移動させる。図6(i)のように、二次成形用カム4が上方位置に到達したとき、スライドコア1は開位置に位置している。これにより型開きが完了する。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、スライドコア1を開閉方向に移動させるための構成として、スライドコア1には傾斜面12及び傾斜面11を設けるだけでよいため、スライドコア1の構成を簡便なものとすることができる。
【0035】
また、揺動部材43は、二次成形用カム4の側面に沿った板状の形態を有し、スライドコア1と組み合わせた場合、段差部14と揺動部材43とがほぼ同一面を構成し、全体としてほぼ長方形の形態であるため、スライドコア装置をコンパクトなものとすることができる。
【0036】
また、二次成形用カム4が、上方位置から下方位置に向けて、閉位置に位置するスライドコア1の方に下降されたとき、カム面41が傾斜面11に作用してスライドコアを閉位置に維持するとともに、揺動部材43が、スライドコア1の各段差部14を乗り越え、揺動部材43のカム面42が、スライドコア1の傾斜面12に対向するので、二次成形及びその後の型開きを支障なく行うことができる。
【0037】
なお、本発明は上述実施形態に限定されない。例えば、上述実施形態においては、2色成形を行う場合について述べたが、これに限らず、本発明は、インサート成形時にインサート品を位置決めして保持する保持部材を進退させるために用いることもできる。
【符号の説明】
【0038】
1…スライドコア、2…ガイドレール、3・・・一次成形用カム(別のカム部材)、4・・・二次成形用カム(カム部材)、11・・・傾斜面(第1傾斜面)、12・・・傾斜面(第2傾斜面)、14・・・段差部、31・・・カム面(第3カム面)、41・・・カム面(第1カム面)、42・・・カム面(第2カム面)、43・・・揺動部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開位置と閉位置との間を移動可能なスライドコアと、
前記スライドコアの下部を該スライドコアの開閉方向に案内するガイドレールと、
所定の上方位置及び下方位置の間で移動されるカム部材とを備え、
前記スライドコアは、開方向でかつ上方向に面する第1傾斜面と、開閉方向に沿った側面から張り出した段差部とを備え、
前記段差部の段差を構成する面のうち、前記第1傾斜面と平行であって、前記スライドコアの閉方向でかつ下方向に面する面が第2傾斜面となっており、
前記カム部材は、前記下方位置への移動により前記第1傾斜面に作用して前記スライドコアを閉位置に位置させる第1カム面と、該カム部材の幅方向に揺動する揺動部材とを備え、
前記揺動部材は、揺動軸が前記開閉方向に沿って前記カム部材の上方に位置し、かつ下端が該カム部材の内方に向けて付勢されており、
前記揺動部材には、前記カム部材が前記上方位置へ移動するときに前記第2傾斜面に作用して前記スライドコアを閉位置から開位置へ移動させる第2カム面が設けられており、
前記スライドコアが閉位置に位置するとき、前記カム部材が前記上方位置から下方位置へ移動されると、前記揺動部材が前記スライドコアの段差部を前記付勢力に抗して乗り越えて前記第2カム面が前記第2傾斜面に対向することを特徴とするスライドコア装置。
【請求項2】
前記第1傾斜面に作用する第3カム面を備えた別のカム部材を備え、
前記スライドコアが開位置に位置するとき、前記別のカム部材が所定の上方位置から下方位置へ移動されると、前記第3カム面が前記第1傾斜面に作用し、該スライドコアを閉位置まで移動させることを特徴とする請求項1に記載のスライドコア装置。
【請求項3】
前記ガイドレールには、前記スライドコアの案内に際し、該スライドコアを開位置及び閉位置に位置決めするためのボールプランジャが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスライドコア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−213868(P2012−213868A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79183(P2011−79183)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(595002982)
【出願人】(505191168)株式会社ミスミ (16)
【Fターム(参考)】