スライドビード塗布装置
【課題】塗布液の幅方向全体に安定なビードを形成し、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく均一な厚みで塗布液を塗布することができると共に、ウエブ幅が変わっても塗布ラインの運転を停止させることなく塗布液幅を変えることのできるスライドビード塗布方法及び装置を提供する。
【解決手段】スライド面40を流下する塗布液14の両側縁部にノズル58から吐出される吐出液15を重畳する。これにより、塗布液の側端部におけるビード形成を安定させることができるので、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく塗布することができる。また、ノズル58で塗布液14の両側縁部を厚膜14Aにすることにより塗布液の幅規制を行うことができる。
【解決手段】スライド面40を流下する塗布液14の両側縁部にノズル58から吐出される吐出液15を重畳する。これにより、塗布液の側端部におけるビード形成を安定させることができるので、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく塗布することができる。また、ノズル58で塗布液14の両側縁部を厚膜14Aにすることにより塗布液の幅規制を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライドビード塗布装置に係り、特に写真用フィルム、写真用印画紙、磁気記録テープ、接着テープ、感圧記録紙、オフセット版材、電池等の製造において、連続走行している長尺状の可撓性支持体(以下「ウエブ」と称する)に塗布液ホッパーのスライド面を流下する液膜状の液状塗布組成物(以下「塗布液」と称する)を塗布するスライドビード塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続走行するウエブ面上に塗布液を塗布する方法の1つにスライドビード塗布方法がある。
【0003】
スライドビード塗布方法のための装置としては、Russell等により米国特許第2,761,791号に提案された多層スライドビード装置がある。この装置は、スライド面を流下する複数の塗布液が、スライド面先端において連続走行されているウエブと出会う間隙部にビードを形成するようにし、このビードを介して塗布液をウエブ面に塗布するものである。従って、この種の装置は、ビードを安定に形成できることが重要である。
【0004】
また、この種の装置は、色々なウエブ幅を有するウエブに対応しなくてはならず、ウエブ幅に応じてスライド面を流下する塗布液の幅規制を行う必要がある。 塗布液の幅規制を行う方法としては、例えば、特開昭57−110364号公報に開示されているガイド板を用いた方法がある。この方法は、スライド面の幅方向両側縁部にスライド面の基端から先端まで一対のガイド板を設け、このガイドで塗布液の幅規制を行うものである。
【特許文献1】米国特許第2,761,791号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガイド板を用いた従来のスライドビード塗布装置は、塗布液幅方向の両側縁部におけるビード形成が安定しないために、ウエブエッジ部、所謂「耳部」に塗布液の塗り残しが発生し易いという欠点がある。従って、「耳部」を後工程で裁断しなくてはならないので、「耳部」を裁断する裁断工程を設けなくてはならないと共に、「耳部」を裁断する分だけ製品歩留りが悪くなるという問題が生じる。
【0006】
更に、ガイド板の場合、ウエブ幅が変わる度にガイド板同士の間隔を調整する為に塗布ラインの運転を停止しなくてはならないという欠点がある。従って、運転停止による時間ロスが発生するため、作業効率が著しく低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布液の幅方向全体に安定なビードを形成し、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく均一な厚みで塗布液を塗布することができると共に、ウエブ幅が変わっても塗布ラインの運転を停止させることなく塗布液幅を変えることのできるスライドビード塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成する為に、塗布液ホッパーのスライド面を流下する液膜状の液状塗布組成物が、スライド面先端と連続走行する長尺状の可撓性支持体との間でビードを形成するようにし、該ビードを介して前記液状塗布組成物を前記可撓性支持体面上に塗布するスライドビード塗布装置において、前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅方向のうち、前記連続走行する長尺状の可撓性支持体の両端位置又は該両端よりも内側位置に対応する前記液膜面上であって、且つ前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅よりも内側に、前記液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳する重畳手段を配設したことを特徴とするスライドビード塗布装置を提供する。
【0009】
本発明によれば、スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅方向のうち、前記連続走行する長尺状の可撓性支持体の両端位置又は該両端よりも内側位置に対応する前記液膜面上であって、且つ前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅よりも内側に、前記液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳する重畳手段を配設した。
【0010】
これにより、スライド面を流下する液状塗布組成物の側縁部に湾曲状に盛り上がった厚膜の流れを形成する。この厚膜な流れを、液状塗布組成物の側縁部に形成することにより、液状塗布組成物の側縁部におけるビード形成を安定させることができるので、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく塗布することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明のスライドビード塗布装置によれば、スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜面に、液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳するようにして、液状塗布組成物の両側縁部に厚膜の流れを形成するようにしたので、長尺状の可撓性支持体の耳部まで塗り残しなく塗布することができる。
【0012】
また、液状塗布組成物の両側縁部を厚膜にするだけで、液状塗布組成物の巾規制を行うことができるので、塗布ラインを停止することなく液状塗布組成物の巾規制を行うことができる。従って、作業効率を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下添付図面に従って本発明に係るスライドビード塗布装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0014】
図1及び図2は、本発明のスライドビード塗布装置10の第1の実施の形態を説明する図で、図1は側断面図、図2は平面図である。以下に複数の塗布液をウエブ面に多層膜状に塗布する多層スライドビード塗布の例で説明する。
【0015】
図1及び図2に示すように、ウエブ12面に塗布される複数(例えば3種類)の塗布液14は、図示しない塗布液タンクからそれぞれの供給ライン16、18、20を介してスライドホッパー22内の各マニホールド24、26、28に供給される。スライドホッパー22は、主として複数のダイブロック30と、ダイブロック30同士を合わせた状態でその側面に当てがう一対の側板32とで構成され、スライドホッパー22には、供給管16、18、20、マニホールド24、26、28、スリット34、36、38、スライド面40等の塗布液14の流路が形成される。マニホールド24、26、28に供給された各塗布液14は塗布幅方向に拡流された後、各スリット34、36、38を介してスライドホッパー22上面の下方傾斜したスライド面40に押し出される。スライド面40に押し出された各塗布液14は、互いに混ざり合うことなく多層液膜状の塗布液14となってスライド面40を流下し、スライド面40下端のリップ先端42に達する。リップ先端42に達した塗布液14は、リップ先端42と、バックアップローラ44に巻き掛けられて走行するウエブ12面との間隙部46にビード48を形成し、このビード48を介してウエブ12面に塗布される。
【0016】
また、バックアップローラ44の下方にはスライドホッパー22とバックアップローラ44とチャンバー形成部材50とで囲まれた減圧室52が形成される。チャンバー形成部材50の側面には真空装置(図示せず)に接続される排気管54が接続され、底面には減圧室52に落下した塗布液14を排出する排液管56が接続される。この減圧室52は、ビード48の下側を負圧にしてビード48を安定化させると共に、ウエブ12に塗布されなかった余剰の塗布液14を減圧室52に流れ落ち易くする働きがある。
【0017】
また、リップ先端42近傍でスライド面40の両側縁部には、塗布液14そのもの又は塗布液14の組成成分を吐出(以下、吐出液という)して、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に吐出液15を重畳する一対の細管状のノズル58が設けられ、図示しない吐出量調整バルブを介して吐出液供給装置に接続される。尚、具体的な吐出液15としては、吐出液15の他、塗布液14の主溶媒、主溶媒に界面活性剤を添加したもの、更には、塗布液14の複数成分の混合液、或いは混合液を溶媒で適宜希釈したものを使用することができる。多層から成る塗布液14の場合、ノズル58から吐出する吐出液15は、最上層の塗布液、又は最上層の塗布液の組成成分を用いることが必要である。
【0018】
また、一対のノズル58は、スライド面40の幅方向にスライド可能なように図示しないスライド機構に支持される。
【0019】
次に、上記の如く構成したスライドビード塗布装置10の作用について説明する。
【0020】
先ず、前準備として、ノズル58の中心とウエブ12のエッジライン12Aが一致するようにスライド機構を作動させて一対のノズル58をスライド面40の幅方向にスライドさせる(図2参照)。この場合、ノズル58のノズル径や塗布液流量にもよるが、ウエブ12のエッジライン12Aに対してノズル58中心がスライド面の幅方向に±数mmずれて位置してもウエブ12の「耳部」まで塗布液を塗布する上で問題ない。
【0021】
次に、スライドホッパー22のスライド面40に多層状の塗布液14を流下させると共に、ノズル58からスライド面40を流下する塗布液14の液膜面に吐出液15を吐出させる。これにより、図3(図1の3─3線に沿った断面図)に示すように、ノズル58から吐出された吐出液15が液膜面に重畳され、スライド面40を流下する塗布液14の巾方向両側縁部には縦断面が湾曲状に盛り上がった厚膜14Aの流れが形成される。そして、この厚膜14Aの流れを塗布液14の両側縁部に形成することにより、塗布液14の両側縁部におけるビード形成を極めて安定させることができるので、ウエブ12の「耳部」まで塗り残しなく塗布することができる。この時、厚膜14Aの流れの外側を流れる塗布液14は、ウエブ12に塗布されることなく減圧室52に流れ落ちる。
【0022】
従って、本発明のスライドビード塗布装置10は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面にノズル58から吐出した吐出液15を重畳するという簡単な構成でウエブ12の「耳部」まで塗布液14を確実に塗布することができる。
【0023】
上記ノズル58のノズル径(内径)は、0.3〜10mm程度が良く、更に好ましくは2〜5mm程度が良い。この理由は、ノズル径が細過ぎると、ノズル58から吐出される吐出液量が少な過ぎて厚膜14Aの流れを形成することができない一方、ノズル径が太過ぎると、吐出液量が多過ぎて塗布液の側縁部の厚膜14Aが過大になりすぎて、ウエブの側縁部に塗布される塗布厚が厚くなりすぎるためである。更に、ノズル径が太過ぎると、吐出した吐出液15でスライド面40を流下する塗布液14の液膜を乱し塗布液14の中央部の膜厚分布が一定にならないためである。
【0024】
ノズル58中心からリップ先端42までの距離は、ノズル58径やスライド面40を流下する塗布液14の流量によっても異なるが上記ノズル58径とした場合に、3mm〜20mm程度が好ましい。この理由は、距離が長すぎるとノズル58により厚膜14Aになった塗布液14の流れがリップ先端42に到達する前にスライド面40の中央部を流れる塗布液の膜厚(ウエブに塗布される本来の膜厚)に戻ってしまうからである。一方、距離が短すぎると、厚膜14Aになりきらないうちに塗布液14がリップ先端42に達してしまうからである。
【0025】
ノズル58から吐出する吐出液15の吐出速度としては、0.05〜5m/秒程度が好ましい。この理由は、吐出速度が小さすぎると単位時間当たりの吐出量が少なく厚膜14Aにならない一方、吐出速度が大きすぎると、吐出圧が重畳を妨害して厚膜14Aにならないためである。更には、吐出速度が大きすぎると、多層から成る塗布液14の場合、吐出の圧力で多層界面を乱すという問題が発生するためである。
【0026】
また、本発明のスライドビード塗布装置10の効果として、ウエブ12の「耳部」まで塗布液14を塗布することで説明したが、逆に、ウエブエッジ12Aより内側に数mm以上離してノズル58を位置させれば、ノズル58の外側を流下する塗布液14はウエブ12に塗布されないので、ウエブ12の「耳部」にわざと塗布液14を塗らないようにすることもできる。
【0027】
このように、本発明のスライドビード塗布装置10は、ウエブ12幅に対応させて一対のノズル58をウエブ12のエッジライン12A上にそれぞれ配設することにより、塗布液14の幅規制を行うことができる。この場合、ウエブ12幅が変わったら、ノズル58の位置を新たに塗布されるウエブ12のエッジライン12A上に合わせるようにスライドさせるだけでよいので、塗布ラインの運転を停止することなく塗布液14の幅規制を行うことができる。
【0028】
また、本発明のスライドビード塗布装置10の場合、一般的には一対のノズル58を用いることが好ましいが、場合によっては、塗布液14の両側縁部のうちの一方側だけにノズル58を用いて、他方側には従来のガイド板を用いて行うこともできる。
【0029】
図4及び図5は、本発明のスライドビード塗布装置10の第2の実施の形態を説明する図であり、図4は側断面図、図5は平面図である。また、第1の実施の形態で説明したと同じ装置や部材には同符号を付し、説明は省略する。
【0030】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態の細管状のノズル58をスリット型ノズル60に変えたものであり、その他については第1の実施の形態と同様である。
【0031】
図4及び図5に示すように、スライド面40の両側縁部でリップ先端42近傍から塗布液14が押し出されるスリット34近傍までの間には、塗布液14を吐出する一対のスリット型ノズル60が配設されると共に、それぞれのスリット型ノズル60は、図示しない吐出量調整バルブを介して吐出液供給装置に接続される。このスリット型ノズル60は、図6に示すように、吐出液供給装置からの吐出液15が供給チューブ62を介してマニホールド64内に供給され、マニホールト64から形成されたスリット路66を通って吐出口68から吐出される。これにより、吐出口68から吐出された吐出液15は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に重畳される。また、一対のスリット型ノズル60は、スライド面40の幅方向にスライド可能なように図示しないスライド機構に支持される。
【0032】
本発明の第2の実施例によれば、スライド面40に配設されたスリット型ノズル60から吐出された吐出液15は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に対してカーテン膜を形成しながら重畳される。これにより、図7(図4の7─7線に沿った断面図)に示すように、スライド面40を流下する塗布液14の巾方向両側縁部には縦断面が盛り上がった厚膜14Aの流れが形成される。
【0033】
従って、第2の実施の形態の場合も、第1の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。更に、第2の実施の形態の場合には、図7に示すように、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に対してカーテン膜を形成しながら重畳されるので、第1の実施の形態での細管状のノズル58に比べて巾広な台形状の厚膜14Aが形成され、第1の実施の形態よりも更に安定したリード形成を行うことができる。
【0034】
上記スリット型ノズル60のスリット巾(L)は、3〜20mmが良い。この理由は、スリット巾が狭すぎると、厚膜14Aが細いピーク状になりすぎて安定したビード形成において問題があるのに対し、スリット巾が広すぎると、液膜面の中央部の厚みにまで影響が出てしまうためである。
【0035】
スリット型ノズル60から吐出される塗布液14の単位巾流量(スリット巾1cmにつき1秒間当たり吐出される流量)は、0.02〜10cc/cm・秒がよい。この理由は、単位巾流量が小さすぎると単位時間当たりの吐出量が少なく厚膜14Aにならない一方、単位巾流量が大きすぎると、吐出液量が多過ぎて塗布液の側縁部の厚膜14Aが過大になりすぎて、ウエブの側縁部に塗布される塗布厚が厚くなりすぎるためである。
【0036】
スリット型ノズル60のクリアランス(D)は、0.02〜1.5mm程度が良い。この理由は、スリット型ノズル60から粘性のある吐出液15を吐出する場合、クリアランスが小さすぎると吐出口68から吐出液15がスムーズに吐出されずに厚膜14Aが適切に形成されないためである。一方、クリアランスが大きすぎると吐出液量が多過ぎて塗布液の側縁部から中央部にかけて厚膜14Aになり、ウエブに塗布される本来の膜厚にならないばかりでなく、スライド面40を流下する塗布液14の流れに乱れが発生するためである。
【0037】
スリット型ノズル60の巾方向の配設位置は、スリット巾のセンターをウエブ12のエンジライン12Aに一致させることが好ましいが、エンジライン12Aから±10mm程度ずれても問題はない。
【0038】
スリット型ノズル68のリップ先端42からの配設位置は、リップ先端42から3〜20mmであることが好ましい。吐出口68がリップ先端42から離れすぎていると、厚膜14Aになった塗布液14の流れがリップ先端42に到達する前にスライド面40の中央部を流れる塗布液の膜厚(ウエブに塗布される本来の膜厚)に戻ってしまうからである。一方、距離が短すぎると、厚膜14Aになりきらないうちに塗布液14がリップ先端42に達してしまうからである。
【0039】
図8及び図9は、本発明における関連技術として示したスライドビード塗布装置10を説明する図であり、図8は側断面図、図9は平面図である。また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明したと同じ装置や部材には同符号を付し、説明は省略する。
【0040】
図8及び図9では、細管状の注入ノズル70をスライド面40を流下する塗布液14の液膜中に挿入して、注入ノズル70から吐出した吐出液15を液膜中に注入するようにしたものである。その他の装置、部材及び注入する液については第1の実施の形態、第2の実施の形態と同様である。また、一対のスリット型ノズル60は、第1及び第2の実施の形態と同様に、スライド面40の幅方向にスライド可能なように図示しないスライド機構に支持される。
【0041】
図10に示すように、注入ノズル70は、その先端部70Aがスライド面40に平行になるように屈折形成されている。これは、スライド面40を流下する塗布液14の流れ方向に注入ノズル70の先端部を屈曲させることにより塗布液14のスムーズな流れを乱さないようにするためである。この場合にも、第2の実施の形態で説明したスリット型ノズルを用いることができるが、スリット巾(L)は塗布液14の流下を乱さない程度にすることが必要である。
【0042】
図8〜図10のスライドビード塗布装置10によれば、スライド面40を流下する塗布液14の液膜中に挿入して配設された注入ノズル70から吐出された吐出液15は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜中に注入される。これにより、図11(図8の11─11線に沿った断面図)に示すように、スライド面40を流下する塗布液14の巾方向両側縁部には縦断面が湾曲状に盛り上がった厚膜14Aの流れが形成される。この場合、スライド面40を流下する塗布液14が多層、例えば図10のように3層(14B、14C、14D)から成る塗布液14の場合には、最上層の塗布液14中に注入ノズル70を挿入して、注入ノズル70から吐出する吐出液15を最上層14Bに注入する(図10参照)。
【0043】
従って、上記の如く構成したスライドビード塗布装置10の場合にも、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、この形態の場合には、注入ノズル70を液膜中に注入することにより、スライド面40を流下する塗布液14の注入ノズル70後流側(リップ先端42側)に厚膜14Aが形成する作用を生じさせることができ、この作用に加えて液膜中に吐出液15を注入することにより、スライド面40を流下する塗布液14の流れが速い場合にも確実に厚膜14Aを形成することができる。
【0044】
尚、本発明に用いられる塗布液14は、その用途に応じて種種の液組成物が含まれ、例えば、写真感光材料におけるような、感光乳剤層、下塗層、保護層、バック層等の塗布液、磁気記録材料におけるような、磁性層、下塗層、潤滑層、保護層、バック層等の塗布液、その他接着剤層、着色層、防錆層、等の塗布液があげられ、それらの塗布液は、水溶性バインダー又は有機バインダーを含有して成っている。
【0045】
本発明に使用されるウエブ12とは、紙、プラスチックフィルム、金属、レジンコーティッド紙、合成紙等が包含される。プラスチックフィルムの材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6─ナイロン、6─ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン─2,6─ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテート等が使用される。また、レジンコーティッド紙に用いる樹脂としては、ポリエチレンを始めとするポリオレフィンが代表的であるが、必ずしもこれに限定されない。また、金属ウエブとしては、例えば、アルミニウムウエブがある。
【実施例】
【0046】
実施例は、本発明のスライドビード塗布装置の実施例を本発明の第1の実施の形態で説明した細管状ノズルを用いた場合で説明する。
【0047】
塗布液の組成及び粘度を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
ウエブは、表2の寸法のアルミニウムウエブを用いた。
【0050】
【表2】
【0051】
スライドビード塗布装置の運転条件は表3の通りである。
【0052】
【表3】
【0053】
上記した塗布液組成、吐出液種類、ウエブ寸法及び運転条件で、ウエブの幅方向全体に渡って塗布液の塗布を試みた結果、ウエブ面には、「耳部」まで塗布液の塗布厚が60μmで均一に塗布することができた。また、600mm幅のスリットから押し出された塗布液を、ノズルにより厚膜14Aを形成することにより500mm幅に幅規制することができた。即ち、ノズルの前流側を600mm幅で流下した塗布液は、一対のノズルにより両縁が50mmに設定され、両縁部の塗布液は減圧室に落下した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明のスライドビード塗布装置の第1の実施の形態を説明する側断面図
【図2】図2は、本発明のスライドビード塗布装置の第1の実施の形態を説明する平面図
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態の作用を説明する説明図
【図4】図4は、本発明のスライドビード塗布装置の第2の実施の形態を説明する側断面図
【図5】図5は、本発明のスライドビード塗布装置の第2の実施の形態を説明する平面図
【図6】図6は、スリット型ノズルの構造を説明する説明図
【図7】図7は、本発明の第2の実施の形態の作用を説明する説明図
【図8】図8は、本発明の関連技術のスライドビード塗布装置を説明する側断面図
【図9】図9は、図8の平面図
【図10】図10は、注入ノズルとスライト面との関係を説明する説明図
【図11】図11は、本発明の関連技術のスライドビード塗布装置の作用を説明する説明図
【符号の説明】
【0055】
10…スライドビード塗布装置、12…ウエブ、12A…ウエブエッジ、14…塗布液(多層膜)、14A…厚膜、22…スライドホッパー、24、26、28…マニホールド
34、36、38…スリット、40…スライド面、42…リップ先端、44…バックアップロール、46…間隙部、52…減圧室、58…ノズル、60…スリット型ノズル、70…注入ノズル
【技術分野】
【0001】
本発明はスライドビード塗布装置に係り、特に写真用フィルム、写真用印画紙、磁気記録テープ、接着テープ、感圧記録紙、オフセット版材、電池等の製造において、連続走行している長尺状の可撓性支持体(以下「ウエブ」と称する)に塗布液ホッパーのスライド面を流下する液膜状の液状塗布組成物(以下「塗布液」と称する)を塗布するスライドビード塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続走行するウエブ面上に塗布液を塗布する方法の1つにスライドビード塗布方法がある。
【0003】
スライドビード塗布方法のための装置としては、Russell等により米国特許第2,761,791号に提案された多層スライドビード装置がある。この装置は、スライド面を流下する複数の塗布液が、スライド面先端において連続走行されているウエブと出会う間隙部にビードを形成するようにし、このビードを介して塗布液をウエブ面に塗布するものである。従って、この種の装置は、ビードを安定に形成できることが重要である。
【0004】
また、この種の装置は、色々なウエブ幅を有するウエブに対応しなくてはならず、ウエブ幅に応じてスライド面を流下する塗布液の幅規制を行う必要がある。 塗布液の幅規制を行う方法としては、例えば、特開昭57−110364号公報に開示されているガイド板を用いた方法がある。この方法は、スライド面の幅方向両側縁部にスライド面の基端から先端まで一対のガイド板を設け、このガイドで塗布液の幅規制を行うものである。
【特許文献1】米国特許第2,761,791号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガイド板を用いた従来のスライドビード塗布装置は、塗布液幅方向の両側縁部におけるビード形成が安定しないために、ウエブエッジ部、所謂「耳部」に塗布液の塗り残しが発生し易いという欠点がある。従って、「耳部」を後工程で裁断しなくてはならないので、「耳部」を裁断する裁断工程を設けなくてはならないと共に、「耳部」を裁断する分だけ製品歩留りが悪くなるという問題が生じる。
【0006】
更に、ガイド板の場合、ウエブ幅が変わる度にガイド板同士の間隔を調整する為に塗布ラインの運転を停止しなくてはならないという欠点がある。従って、運転停止による時間ロスが発生するため、作業効率が著しく低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布液の幅方向全体に安定なビードを形成し、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく均一な厚みで塗布液を塗布することができると共に、ウエブ幅が変わっても塗布ラインの運転を停止させることなく塗布液幅を変えることのできるスライドビード塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成する為に、塗布液ホッパーのスライド面を流下する液膜状の液状塗布組成物が、スライド面先端と連続走行する長尺状の可撓性支持体との間でビードを形成するようにし、該ビードを介して前記液状塗布組成物を前記可撓性支持体面上に塗布するスライドビード塗布装置において、前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅方向のうち、前記連続走行する長尺状の可撓性支持体の両端位置又は該両端よりも内側位置に対応する前記液膜面上であって、且つ前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅よりも内側に、前記液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳する重畳手段を配設したことを特徴とするスライドビード塗布装置を提供する。
【0009】
本発明によれば、スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅方向のうち、前記連続走行する長尺状の可撓性支持体の両端位置又は該両端よりも内側位置に対応する前記液膜面上であって、且つ前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅よりも内側に、前記液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳する重畳手段を配設した。
【0010】
これにより、スライド面を流下する液状塗布組成物の側縁部に湾曲状に盛り上がった厚膜の流れを形成する。この厚膜な流れを、液状塗布組成物の側縁部に形成することにより、液状塗布組成物の側縁部におけるビード形成を安定させることができるので、ウエブの「耳部」まで塗り残しなく塗布することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明のスライドビード塗布装置によれば、スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜面に、液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳するようにして、液状塗布組成物の両側縁部に厚膜の流れを形成するようにしたので、長尺状の可撓性支持体の耳部まで塗り残しなく塗布することができる。
【0012】
また、液状塗布組成物の両側縁部を厚膜にするだけで、液状塗布組成物の巾規制を行うことができるので、塗布ラインを停止することなく液状塗布組成物の巾規制を行うことができる。従って、作業効率を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下添付図面に従って本発明に係るスライドビード塗布装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0014】
図1及び図2は、本発明のスライドビード塗布装置10の第1の実施の形態を説明する図で、図1は側断面図、図2は平面図である。以下に複数の塗布液をウエブ面に多層膜状に塗布する多層スライドビード塗布の例で説明する。
【0015】
図1及び図2に示すように、ウエブ12面に塗布される複数(例えば3種類)の塗布液14は、図示しない塗布液タンクからそれぞれの供給ライン16、18、20を介してスライドホッパー22内の各マニホールド24、26、28に供給される。スライドホッパー22は、主として複数のダイブロック30と、ダイブロック30同士を合わせた状態でその側面に当てがう一対の側板32とで構成され、スライドホッパー22には、供給管16、18、20、マニホールド24、26、28、スリット34、36、38、スライド面40等の塗布液14の流路が形成される。マニホールド24、26、28に供給された各塗布液14は塗布幅方向に拡流された後、各スリット34、36、38を介してスライドホッパー22上面の下方傾斜したスライド面40に押し出される。スライド面40に押し出された各塗布液14は、互いに混ざり合うことなく多層液膜状の塗布液14となってスライド面40を流下し、スライド面40下端のリップ先端42に達する。リップ先端42に達した塗布液14は、リップ先端42と、バックアップローラ44に巻き掛けられて走行するウエブ12面との間隙部46にビード48を形成し、このビード48を介してウエブ12面に塗布される。
【0016】
また、バックアップローラ44の下方にはスライドホッパー22とバックアップローラ44とチャンバー形成部材50とで囲まれた減圧室52が形成される。チャンバー形成部材50の側面には真空装置(図示せず)に接続される排気管54が接続され、底面には減圧室52に落下した塗布液14を排出する排液管56が接続される。この減圧室52は、ビード48の下側を負圧にしてビード48を安定化させると共に、ウエブ12に塗布されなかった余剰の塗布液14を減圧室52に流れ落ち易くする働きがある。
【0017】
また、リップ先端42近傍でスライド面40の両側縁部には、塗布液14そのもの又は塗布液14の組成成分を吐出(以下、吐出液という)して、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に吐出液15を重畳する一対の細管状のノズル58が設けられ、図示しない吐出量調整バルブを介して吐出液供給装置に接続される。尚、具体的な吐出液15としては、吐出液15の他、塗布液14の主溶媒、主溶媒に界面活性剤を添加したもの、更には、塗布液14の複数成分の混合液、或いは混合液を溶媒で適宜希釈したものを使用することができる。多層から成る塗布液14の場合、ノズル58から吐出する吐出液15は、最上層の塗布液、又は最上層の塗布液の組成成分を用いることが必要である。
【0018】
また、一対のノズル58は、スライド面40の幅方向にスライド可能なように図示しないスライド機構に支持される。
【0019】
次に、上記の如く構成したスライドビード塗布装置10の作用について説明する。
【0020】
先ず、前準備として、ノズル58の中心とウエブ12のエッジライン12Aが一致するようにスライド機構を作動させて一対のノズル58をスライド面40の幅方向にスライドさせる(図2参照)。この場合、ノズル58のノズル径や塗布液流量にもよるが、ウエブ12のエッジライン12Aに対してノズル58中心がスライド面の幅方向に±数mmずれて位置してもウエブ12の「耳部」まで塗布液を塗布する上で問題ない。
【0021】
次に、スライドホッパー22のスライド面40に多層状の塗布液14を流下させると共に、ノズル58からスライド面40を流下する塗布液14の液膜面に吐出液15を吐出させる。これにより、図3(図1の3─3線に沿った断面図)に示すように、ノズル58から吐出された吐出液15が液膜面に重畳され、スライド面40を流下する塗布液14の巾方向両側縁部には縦断面が湾曲状に盛り上がった厚膜14Aの流れが形成される。そして、この厚膜14Aの流れを塗布液14の両側縁部に形成することにより、塗布液14の両側縁部におけるビード形成を極めて安定させることができるので、ウエブ12の「耳部」まで塗り残しなく塗布することができる。この時、厚膜14Aの流れの外側を流れる塗布液14は、ウエブ12に塗布されることなく減圧室52に流れ落ちる。
【0022】
従って、本発明のスライドビード塗布装置10は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面にノズル58から吐出した吐出液15を重畳するという簡単な構成でウエブ12の「耳部」まで塗布液14を確実に塗布することができる。
【0023】
上記ノズル58のノズル径(内径)は、0.3〜10mm程度が良く、更に好ましくは2〜5mm程度が良い。この理由は、ノズル径が細過ぎると、ノズル58から吐出される吐出液量が少な過ぎて厚膜14Aの流れを形成することができない一方、ノズル径が太過ぎると、吐出液量が多過ぎて塗布液の側縁部の厚膜14Aが過大になりすぎて、ウエブの側縁部に塗布される塗布厚が厚くなりすぎるためである。更に、ノズル径が太過ぎると、吐出した吐出液15でスライド面40を流下する塗布液14の液膜を乱し塗布液14の中央部の膜厚分布が一定にならないためである。
【0024】
ノズル58中心からリップ先端42までの距離は、ノズル58径やスライド面40を流下する塗布液14の流量によっても異なるが上記ノズル58径とした場合に、3mm〜20mm程度が好ましい。この理由は、距離が長すぎるとノズル58により厚膜14Aになった塗布液14の流れがリップ先端42に到達する前にスライド面40の中央部を流れる塗布液の膜厚(ウエブに塗布される本来の膜厚)に戻ってしまうからである。一方、距離が短すぎると、厚膜14Aになりきらないうちに塗布液14がリップ先端42に達してしまうからである。
【0025】
ノズル58から吐出する吐出液15の吐出速度としては、0.05〜5m/秒程度が好ましい。この理由は、吐出速度が小さすぎると単位時間当たりの吐出量が少なく厚膜14Aにならない一方、吐出速度が大きすぎると、吐出圧が重畳を妨害して厚膜14Aにならないためである。更には、吐出速度が大きすぎると、多層から成る塗布液14の場合、吐出の圧力で多層界面を乱すという問題が発生するためである。
【0026】
また、本発明のスライドビード塗布装置10の効果として、ウエブ12の「耳部」まで塗布液14を塗布することで説明したが、逆に、ウエブエッジ12Aより内側に数mm以上離してノズル58を位置させれば、ノズル58の外側を流下する塗布液14はウエブ12に塗布されないので、ウエブ12の「耳部」にわざと塗布液14を塗らないようにすることもできる。
【0027】
このように、本発明のスライドビード塗布装置10は、ウエブ12幅に対応させて一対のノズル58をウエブ12のエッジライン12A上にそれぞれ配設することにより、塗布液14の幅規制を行うことができる。この場合、ウエブ12幅が変わったら、ノズル58の位置を新たに塗布されるウエブ12のエッジライン12A上に合わせるようにスライドさせるだけでよいので、塗布ラインの運転を停止することなく塗布液14の幅規制を行うことができる。
【0028】
また、本発明のスライドビード塗布装置10の場合、一般的には一対のノズル58を用いることが好ましいが、場合によっては、塗布液14の両側縁部のうちの一方側だけにノズル58を用いて、他方側には従来のガイド板を用いて行うこともできる。
【0029】
図4及び図5は、本発明のスライドビード塗布装置10の第2の実施の形態を説明する図であり、図4は側断面図、図5は平面図である。また、第1の実施の形態で説明したと同じ装置や部材には同符号を付し、説明は省略する。
【0030】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態の細管状のノズル58をスリット型ノズル60に変えたものであり、その他については第1の実施の形態と同様である。
【0031】
図4及び図5に示すように、スライド面40の両側縁部でリップ先端42近傍から塗布液14が押し出されるスリット34近傍までの間には、塗布液14を吐出する一対のスリット型ノズル60が配設されると共に、それぞれのスリット型ノズル60は、図示しない吐出量調整バルブを介して吐出液供給装置に接続される。このスリット型ノズル60は、図6に示すように、吐出液供給装置からの吐出液15が供給チューブ62を介してマニホールド64内に供給され、マニホールト64から形成されたスリット路66を通って吐出口68から吐出される。これにより、吐出口68から吐出された吐出液15は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に重畳される。また、一対のスリット型ノズル60は、スライド面40の幅方向にスライド可能なように図示しないスライド機構に支持される。
【0032】
本発明の第2の実施例によれば、スライド面40に配設されたスリット型ノズル60から吐出された吐出液15は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に対してカーテン膜を形成しながら重畳される。これにより、図7(図4の7─7線に沿った断面図)に示すように、スライド面40を流下する塗布液14の巾方向両側縁部には縦断面が盛り上がった厚膜14Aの流れが形成される。
【0033】
従って、第2の実施の形態の場合も、第1の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。更に、第2の実施の形態の場合には、図7に示すように、スライド面40を流下する塗布液14の液膜面に対してカーテン膜を形成しながら重畳されるので、第1の実施の形態での細管状のノズル58に比べて巾広な台形状の厚膜14Aが形成され、第1の実施の形態よりも更に安定したリード形成を行うことができる。
【0034】
上記スリット型ノズル60のスリット巾(L)は、3〜20mmが良い。この理由は、スリット巾が狭すぎると、厚膜14Aが細いピーク状になりすぎて安定したビード形成において問題があるのに対し、スリット巾が広すぎると、液膜面の中央部の厚みにまで影響が出てしまうためである。
【0035】
スリット型ノズル60から吐出される塗布液14の単位巾流量(スリット巾1cmにつき1秒間当たり吐出される流量)は、0.02〜10cc/cm・秒がよい。この理由は、単位巾流量が小さすぎると単位時間当たりの吐出量が少なく厚膜14Aにならない一方、単位巾流量が大きすぎると、吐出液量が多過ぎて塗布液の側縁部の厚膜14Aが過大になりすぎて、ウエブの側縁部に塗布される塗布厚が厚くなりすぎるためである。
【0036】
スリット型ノズル60のクリアランス(D)は、0.02〜1.5mm程度が良い。この理由は、スリット型ノズル60から粘性のある吐出液15を吐出する場合、クリアランスが小さすぎると吐出口68から吐出液15がスムーズに吐出されずに厚膜14Aが適切に形成されないためである。一方、クリアランスが大きすぎると吐出液量が多過ぎて塗布液の側縁部から中央部にかけて厚膜14Aになり、ウエブに塗布される本来の膜厚にならないばかりでなく、スライド面40を流下する塗布液14の流れに乱れが発生するためである。
【0037】
スリット型ノズル60の巾方向の配設位置は、スリット巾のセンターをウエブ12のエンジライン12Aに一致させることが好ましいが、エンジライン12Aから±10mm程度ずれても問題はない。
【0038】
スリット型ノズル68のリップ先端42からの配設位置は、リップ先端42から3〜20mmであることが好ましい。吐出口68がリップ先端42から離れすぎていると、厚膜14Aになった塗布液14の流れがリップ先端42に到達する前にスライド面40の中央部を流れる塗布液の膜厚(ウエブに塗布される本来の膜厚)に戻ってしまうからである。一方、距離が短すぎると、厚膜14Aになりきらないうちに塗布液14がリップ先端42に達してしまうからである。
【0039】
図8及び図9は、本発明における関連技術として示したスライドビード塗布装置10を説明する図であり、図8は側断面図、図9は平面図である。また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明したと同じ装置や部材には同符号を付し、説明は省略する。
【0040】
図8及び図9では、細管状の注入ノズル70をスライド面40を流下する塗布液14の液膜中に挿入して、注入ノズル70から吐出した吐出液15を液膜中に注入するようにしたものである。その他の装置、部材及び注入する液については第1の実施の形態、第2の実施の形態と同様である。また、一対のスリット型ノズル60は、第1及び第2の実施の形態と同様に、スライド面40の幅方向にスライド可能なように図示しないスライド機構に支持される。
【0041】
図10に示すように、注入ノズル70は、その先端部70Aがスライド面40に平行になるように屈折形成されている。これは、スライド面40を流下する塗布液14の流れ方向に注入ノズル70の先端部を屈曲させることにより塗布液14のスムーズな流れを乱さないようにするためである。この場合にも、第2の実施の形態で説明したスリット型ノズルを用いることができるが、スリット巾(L)は塗布液14の流下を乱さない程度にすることが必要である。
【0042】
図8〜図10のスライドビード塗布装置10によれば、スライド面40を流下する塗布液14の液膜中に挿入して配設された注入ノズル70から吐出された吐出液15は、スライド面40を流下する塗布液14の液膜中に注入される。これにより、図11(図8の11─11線に沿った断面図)に示すように、スライド面40を流下する塗布液14の巾方向両側縁部には縦断面が湾曲状に盛り上がった厚膜14Aの流れが形成される。この場合、スライド面40を流下する塗布液14が多層、例えば図10のように3層(14B、14C、14D)から成る塗布液14の場合には、最上層の塗布液14中に注入ノズル70を挿入して、注入ノズル70から吐出する吐出液15を最上層14Bに注入する(図10参照)。
【0043】
従って、上記の如く構成したスライドビード塗布装置10の場合にも、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、この形態の場合には、注入ノズル70を液膜中に注入することにより、スライド面40を流下する塗布液14の注入ノズル70後流側(リップ先端42側)に厚膜14Aが形成する作用を生じさせることができ、この作用に加えて液膜中に吐出液15を注入することにより、スライド面40を流下する塗布液14の流れが速い場合にも確実に厚膜14Aを形成することができる。
【0044】
尚、本発明に用いられる塗布液14は、その用途に応じて種種の液組成物が含まれ、例えば、写真感光材料におけるような、感光乳剤層、下塗層、保護層、バック層等の塗布液、磁気記録材料におけるような、磁性層、下塗層、潤滑層、保護層、バック層等の塗布液、その他接着剤層、着色層、防錆層、等の塗布液があげられ、それらの塗布液は、水溶性バインダー又は有機バインダーを含有して成っている。
【0045】
本発明に使用されるウエブ12とは、紙、プラスチックフィルム、金属、レジンコーティッド紙、合成紙等が包含される。プラスチックフィルムの材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6─ナイロン、6─ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン─2,6─ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテート等が使用される。また、レジンコーティッド紙に用いる樹脂としては、ポリエチレンを始めとするポリオレフィンが代表的であるが、必ずしもこれに限定されない。また、金属ウエブとしては、例えば、アルミニウムウエブがある。
【実施例】
【0046】
実施例は、本発明のスライドビード塗布装置の実施例を本発明の第1の実施の形態で説明した細管状ノズルを用いた場合で説明する。
【0047】
塗布液の組成及び粘度を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
ウエブは、表2の寸法のアルミニウムウエブを用いた。
【0050】
【表2】
【0051】
スライドビード塗布装置の運転条件は表3の通りである。
【0052】
【表3】
【0053】
上記した塗布液組成、吐出液種類、ウエブ寸法及び運転条件で、ウエブの幅方向全体に渡って塗布液の塗布を試みた結果、ウエブ面には、「耳部」まで塗布液の塗布厚が60μmで均一に塗布することができた。また、600mm幅のスリットから押し出された塗布液を、ノズルにより厚膜14Aを形成することにより500mm幅に幅規制することができた。即ち、ノズルの前流側を600mm幅で流下した塗布液は、一対のノズルにより両縁が50mmに設定され、両縁部の塗布液は減圧室に落下した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明のスライドビード塗布装置の第1の実施の形態を説明する側断面図
【図2】図2は、本発明のスライドビード塗布装置の第1の実施の形態を説明する平面図
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態の作用を説明する説明図
【図4】図4は、本発明のスライドビード塗布装置の第2の実施の形態を説明する側断面図
【図5】図5は、本発明のスライドビード塗布装置の第2の実施の形態を説明する平面図
【図6】図6は、スリット型ノズルの構造を説明する説明図
【図7】図7は、本発明の第2の実施の形態の作用を説明する説明図
【図8】図8は、本発明の関連技術のスライドビード塗布装置を説明する側断面図
【図9】図9は、図8の平面図
【図10】図10は、注入ノズルとスライト面との関係を説明する説明図
【図11】図11は、本発明の関連技術のスライドビード塗布装置の作用を説明する説明図
【符号の説明】
【0055】
10…スライドビード塗布装置、12…ウエブ、12A…ウエブエッジ、14…塗布液(多層膜)、14A…厚膜、22…スライドホッパー、24、26、28…マニホールド
34、36、38…スリット、40…スライド面、42…リップ先端、44…バックアップロール、46…間隙部、52…減圧室、58…ノズル、60…スリット型ノズル、70…注入ノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液ホッパーのスライド面を流下する液膜状の液状塗布組成物が、スライド面先端と連続走行する長尺状の可撓性支持体との間でビードを形成するようにし、該ビードを介して前記液状塗布組成物を前記可撓性支持体面上に塗布するスライドビード塗布装置において、
前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅方向のうち、前記連続走行する長尺状の可撓性支持体の両端位置又は該両端よりも内側位置に対応する前記液膜面上であって、且つ前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅よりも内側に、前記液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳する重畳手段を配設したことを特徴とするスライドビード塗布装置。
【請求項1】
塗布液ホッパーのスライド面を流下する液膜状の液状塗布組成物が、スライド面先端と連続走行する長尺状の可撓性支持体との間でビードを形成するようにし、該ビードを介して前記液状塗布組成物を前記可撓性支持体面上に塗布するスライドビード塗布装置において、
前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅方向のうち、前記連続走行する長尺状の可撓性支持体の両端位置又は該両端よりも内側位置に対応する前記液膜面上であって、且つ前記スライド面を流下する液状塗布組成物の液膜幅よりも内側に、前記液状塗布組成物又は液状塗布組成物の組成成分を重畳する重畳手段を配設したことを特徴とするスライドビード塗布装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−29949(P2007−29949A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272990(P2006−272990)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【分割の表示】特願平8−327248の分割
【原出願日】平成8年12月6日(1996.12.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【分割の表示】特願平8−327248の分割
【原出願日】平成8年12月6日(1996.12.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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