説明

スライドファスナー用基布及びスライドファスナー

【課題】運動時における着用感並びにファスナーのスムーズな開閉性に優れたスライドファスナー用基布及びスライドファスナーを提供するものである。
【解決手段】少なくとも緯糸が、二種以上のポリエステル成分からなり、少なくともその一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維で構成されてなることを特徴とするスライドファスナー用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料や袋物等に用いるスライドファスナー用基布及びスライドファスナーに関する。より詳細には、運動時における着用感、並びにファスナーのスムーズな開閉性に優れたスライドファスナー用基布及びスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドファスナー用基布(テープ)としては、ポリエチレンテレフタレートを主体としたポリエステル系繊維やポリアミド系繊維が用いられているが、前者は身生地との追従性に劣り、後者は寸法安定性や耐黄変性に劣る。
本出願人は、特許文献1において、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維でスライドファスナー用基布を構成することにより身生地との追従性に優れ、寸法安定性や耐黄変性にも優れたスライドファスナーが得られることを示したが、このスライドファスナーにおいても、特に運動時における着用感(つっぱり感)並びにファスナーのスムーズな開閉が未だ不充分であった。
【特許文献1】特開2001−204515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、特に運動時における着用感並びにファスナーのスムーズな開閉性に優れたスライドファスナー用基布及びスライドファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ファスナーのスライド方向と直交方向のストレツチバック性が着用感等に大きく影響することを究明し、本発明に到達したものである。
【0005】
すなわち、本願で特許請求される発明は下記の通りである。
(1) 少なくとも緯糸が、二種以上のポリエステル成分からなり、少なくともその一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維で構成されてなることを特徴とするスライドファスナー用基布。
(2) 基布が、二種以上のポリエステル成分からなり、少なくともその一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維で構成されてなることを特徴とするスライドファスナー。
(3)噛合エレメント及び又はスライダーがポリトリメチレンテレフタレート樹脂で構成されてなることを特徴とする請求項2記載のスライドファスナー。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、運動時における着用感、並びにファスナーのスムーズな開閉性に優れたスライドファスナー用基布及びスライドファスナーが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明において、潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維とは、少なくとも二種のポリエステル成分で構成(具体的には、サイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合されたものが多い)されているものであり、熱処理によって捲縮を発現するものである。二種のポリエステル成分の複合比(一般的に、質量%で70/30〜30/70の範囲内のものが多い)、接合面形状(直線又は曲線形状のものがある)等は特に限定されない。又、総繊度は20〜300dtexが好ましく、単糸繊度は0.1〜20dtexが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0008】
本発明において、潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維は、少なくともその一成分がポリトリメチレンテレフタレートであることに特徴がある。
本発明において、ポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましく80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含有するものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、約50モル%未満、好ましくは30モル%未満、より好ましくは20モル%未満、さらに好ましくは10モル%未満の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0009】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルやナイロンと、ポリトリメチレンテレフタレートとをブレンドしたりしてもよい。ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は、質量%で50%以上である。
【0010】
添加可能な第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(p−オキシ安息香酸等)等があげられる。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も,重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
【0011】
さらに,二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
【0012】
上述のような潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の具体例としては、特開2001−40537号公報に開示されているような、ポリトリメチレンテレフタレートを一成分とする、二種のポリエステルポリマーをサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合された複合繊維があげられる。サイドバイサイド型の場合、二種のポリエステルポリマーの溶融粘度比は1.00〜2.00が好ましく、偏芯芯鞘型の場合は、鞘ポリマーと芯ポリマーのアルカリ減量速度比は、3倍以上鞘ポリマーが速いことが好ましい。
【0013】
具体的なポリマーの組み合わせとしては、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、ブタンジオール等のグリコール類やイソフタル酸、2.6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。又、他のポリマーや、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。)、並びにポリトリメチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート(テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、エチレングリコール等のグリコール類やイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。又、他のポリマーや、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。)が好ましく、特に、捲縮の内側にポリトリメチレンテレフタレートが配置されることが好ましい。
【0014】
このような、ポリエステル成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維は、上記の特開2001−40537号公報以外にも、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報、特開2000−328382号公報、特開2001−81640号公報等に記載されている。例えば、第一成分としてポリトリメチレンテレフタレートを、第二成分としてポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを用い、両成分を並列的あるいは偏芯的に配置してサイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に複合紡糸したものが開示されている。特に、ポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましい。
【0015】
さらに、潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維としては、以下のような物性を有するものが、本発明の目的を達成する上で好ましい。
初期引張抵抗度は、好ましくは10〜30cN/dtex、より好ましくは20〜30cN/dtex、さらに好ましくは20〜27cN/dtexである。この範囲であると、ソフトな風合いの繊維が容易に製造できる。
【0016】
100℃における熱収縮応力は、好ましくは0.1〜0.5cN/dtex、より好ましくは0.1〜0.4cN/dtex、さらに好ましくは0.1〜0.3cN/dtexである。この範囲であると、製造が容易であり、本発明の目的が十分に達成される。
さらに好ましい物性としては、顕在捲縮の伸縮伸長率は、好ましくは10〜100%、より好ましくは10〜80%、さらに好ましくは10〜60%である。この範囲であると、製造が容易であり、本発明の目的が十分に達成される。
【0017】
顕在捲縮の伸縮弾性率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、さらに好ましくは85〜97%である。この範囲であると、製造が容易であり、本発明の目的が十分に達成される。
熱水処理後の伸縮伸長率は、好ましくは100〜250%、より好ましくは150〜250%、さらに好ましくは180〜250%である。この範囲であると、製造が容易であり、本発明の目的が十分に達成される。
【0018】
熱水処理後の伸縮弾性率は、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%である。この範囲であると本発明の目的が十分に達成される。
このような特性を有する潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維としては、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートが互いにサイドバイサイド型に複合された単糸から構成された複合繊維が、好ましいものとして挙げられる。二種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.5(dl/g)であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.45(dl/g)、さらに好ましくは0.15〜0.45(dl/g)である。例えば、高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。
【0019】
また、この複合繊維自体の固有粘度、即ち平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)が好ましく、0.8〜1.2(dl/g)がより好ましく、0.85〜1.15(dl/g)がさらに好ましく、特に0.9〜1.1(dl/g)が好ましい。
【0020】
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーではなく、紡糸した糸の固有粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても、紡糸工程での熱分解によって固有粘度が低下し、複合繊維においては、ポリマーの固有粘度及び固有粘度差をそのまま維持することが困難であるためである。
【0021】
本発明において、潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の紡糸については、上記の各種特開に開示されている方法を適用することができ、例えば、3000m/分以下の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法が好ましいが、紡糸−延伸工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)を採用しても良い。
【0022】
また、繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよいが、長繊維が好ましい。又、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0023】
また、糸条の形態は、マルチフィラメント原糸、仮撚加工糸、先撚仮撚加工糸、空気噴射加工糸、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸等の紡績糸があるが、本発明においては、かかる潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の仮撚加工糸が本発明の目的達成上特に好ましい。
【0024】
仮撚加工糸の顕在捲縮伸長率は、好ましくは70%以上、特に70〜300%、より好ましくは100〜300%、更に好ましくは120〜300%である。顕在捲縮弾性率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは82〜100%、さらに好ましくは85〜100%である。この仮撚加工糸の捲縮伸長率は100〜400%であることが好ましく、より好ましくは120〜400%である。また、捲縮弾性率は80〜100%であることが好ましく、より好ましくは90〜100%である。
【0025】
仮撚加工糸を得るための仮撚方法としては、特に限定されるものではなく、ピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等を採用することができる。なかでも、ピンタイプ、ニップベルトタイプが好ましい。又、仮撚加工糸は、いわゆる2ヒーターの仮撚加工糸(セットタイプ)よりも、いわゆる1ヒーターの仮撚加工糸(ノンセットタイプ)を用いる方が、本発明の目的を達成する上で好ましい。
【0026】
仮撚ヒーター出口の糸条温度は100〜200℃が好ましい。仮撚数(T1)は次式で計算される仮撚数の係数K1値が21000〜36000であることが好ましく、更に好ましくは25000〜34000の範囲である。
【0027】
T1(T/m)=K1(原糸の繊度:dtex)0.5
特に本発明では、この仮撚加工糸がPOYの延伸仮撚加工糸であると、優れた品位を有する織物が得られる最も好適なものである。
即ち、潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維のPOYの延伸仮撚加工糸が最も最適例である。
尚、POYとは、一般的に部分配向糸、部分配向未延伸糸、高配向未延伸糸等と呼称されているものである。
【0028】
このPOYの延伸仮撚加工糸は、例えば、特開2001−20136号公報、特開2001−164433号公報に開示されているものであり、好ましくは60%以上、特に70%以上、さらに80%以上、250%以下、特に200%以下、さらに180%以下の破断伸度を有するPOYが好ましい。
又、POYの延伸仮撚加工糸の単糸繊度は0.5〜5dtexが好ましく、更に好ましくは1〜2.5dtexである。
このようなPOYは、紡糸速度2000〜4500m/minで紡糸することにより得られるものであり、特に紡糸−延伸工程を直結した直延法(スピンドロー法)により得られるものが好適である。
又、延伸仮撚条件としては、延伸倍率は好ましくは1.05〜2.00倍、特に1.05〜1.70倍が好ましく、仮撚数T1は仮撚数の係数K1の値が23000〜36000であることが好ましく、更に好ましくは27000〜34000の範囲であることが好ましい。
【0029】
仮撚ヒーター出口の糸条温度は100〜200℃が好ましい。又、1ヒーター仮撚加工糸(ノンセットタイプ)の方が、2ヒーター仮撚加工糸(ノンセットタイプ)より好ましい。
仮撚方法としてはピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等、いかなる方法による仮撚加工糸でもよい。
本発明のスライドファスナー用基布においては、かかる潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を少なくとも緯糸に用いることに特徴がある。
【0030】
潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維は、必要に応じて交絡して用いてもよく、交絡数は5個/m以上、好ましくは10個/m以上、特に15個/m以上、さらに20個/m以上、200個/m以下、190個/m以下、180個/m以下である。
又、必要に応じて有撚して用いてもよく、通常600T/m以下の範囲内で用いる。
本発明では、かかる潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を少なくとも緯糸に用いる際には、50質量%以下の範囲内で他の繊維素材と混用例えば混繊、交撚したり、又、他の繊維素材と1〜3本交互に緯入れして用いてもよい。
混用する繊維素材としては特に限定はなく、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート系等のポリエステル系繊維、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系繊維、アクリル系繊維、アセテート繊維等の合成繊維や綿、ウール等の天然繊維、キュプラ、レーヨン、精製セルロース繊維等セルロース系繊維が用いられる。又、その糸条形態としては、無撚糸、有撚糸、仮撚加工糸等の嵩高加工糸等があり、上記各種素材を一種以上混用した複合糸でもよく、複合形態も交撚、混繊、複合仮撚等いずれでもよい。
【0031】
一方、経糸に用いる繊維素材としては、緯糸に用いる潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を用いてもよく、又、上記の混用する繊維素材として例示したものでもよい。
織組織としては平、タテ並び平、ツイル、羽二重、サテンなどの一重織、重ね組織、パイル組織、からみ織など何れでも良い。
織物の密度について、好ましい仕上げのカバファクター(CF)は、経糸CFが500〜1500、緯糸CFが500〜1500である。総CF(経CF+緯糸CF)は1000〜2500が好ましい。
【0032】
経糸CF=経糸密度(本/2.54cm)×Da0.5
緯糸CF=緯糸密度(本/2.54cm)×Db0.5
Da:経糸の総繊度(dtex)
Db:緯糸の総繊度(dtex)
本発明のスライドファスナーは、上述の基布に噛合エレメント及び該噛合エレメントを噛合せるためのスライダー装着したものであるが、該噛合エレメントやスライダーの素材としては、製品染めが可能で同色性が得られるポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明に用いられる測定法及び評価法は以下のとおりである。
(1)固有粘度
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
【0034】
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
定義中のηrは、純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリトリメチレンテレフタレート糸又はポリエチレンテレフタレート糸の稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cは、g/100mlで表されるポリマー濃度である。
【0035】
なお、固有粘度の異なるポリマーを用いた複合マルチフィラメントは、マルチフィラメントを構成するそれぞれの固有粘度を測定することは困難であるので、複合マルチフィラメントの紡糸条件と同じ条件で2種類のポリマーをそれぞれ単独で紡糸し、得られた糸を用いて測定した固有粘度を、複合マルチフィラメントを構成する固有粘度とした。
(2)初期引張抵抗度
JIS L 1013化学繊維フィラメント糸試験方法初期引張抵抗度の試験方法に準じ、試料の単位繊度当たり0.0882cN/dtexの初荷重を掛けて引張試験を行い、得られた荷重−伸長曲線から初期引張抵抗度(cN/dtex)を算出する。試料10点を採取して測定し、その平均値を求める。
(3)伸縮伸長率及び伸縮弾性率
JIS L 1090合成繊維フィラメントかさ高加工糸試験方法の伸縮性試験方法A法に準じて測定を行い、伸縮伸長率(%)及び伸縮弾性率(%)を算出する。試料10点を採取して測定しその平均値を求める。
【0036】
顕在捲縮の伸縮伸長率および伸縮弾性率は、巻取りパッケージから解舒した試料を、温度20±2℃、相対湿度65±2%の環境下で24時間放置後に測定を行う。熱水処理後の伸縮伸長率および伸縮弾性率は、無荷重で98℃の熱水中に30分間浸漬した後、無荷重で24時間自然乾燥乾燥した試料を用いる。
(4)熱収縮応力
熱応力測定装置(カネボウエンジニアリング社製、商品名KE−2)を用い、試料を20cmの長さに切り取り、両端を結んで輪を作り測定装置に装填し、初荷重0.044cN/dtex、昇温速度100℃/分の条件で収縮応力を測定し、得られた温度に対する熱収縮応力の変化曲線から100℃における熱収縮応力を読み取る。
(5)仮撚加工糸の顕在捲縮伸長率、顕在捲縮弾性率
島津製作所(株)製の引張試験機を用いて、つかみ間隔10cmにて仮撚加工糸を初荷重0.0009cN/dtexで取り付けた後、引張速度10cm/分で伸長し、0.0882cN/dtexの応力に達したときの伸び(%)を顕在捲縮伸長率とした。
【0037】
その後、再び同じ速度で、つかみ間隔10cmまで収縮させた後、再度、応力−歪み曲線を描き、初荷重の応力が発現するまでの伸度を残留伸度(B)とする。顕在捲縮弾性率は以下の式によって求めた。
【0038】
顕在捲縮弾性率(%)=〔(10−B)/10〕×100
(6)仮撚加工糸の捲縮伸長率、捲縮弾性率
巻き取りパッケージから解舒した仮撚加工糸を、無荷重下で98℃の熱水中に20分浸漬した後、無荷重下で24時間乾燥した試料を用いた以外は、上記(5)顕在捲縮伸度及び顕在捲縮弾性率の測定と同様の方法にて測定し、それぞれを捲縮伸長率、捲縮弾性率とした。
【0039】
(7)運動時の着用感評価
熟練者10人によるエアロビックスを30分間行い、その運動時の着用感を下記の基準によりその平均点で評価した。
5級;着用感並びにファスナーのスムーズな開閉性に特に優れている
3級;着用感並びにファスナーのスムーズな開閉性が良好である
1級;着用感並びにファスナーのスムーズな開閉性に大きく劣っている
[参考例]
【0040】
潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の製造
固有粘度の異なるサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを以下の製造例1〜3により製造した。
【0041】
(製造例1)
サイドバイサイド型複合紡糸用紡口を用いて、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを、質量比率1:1でサイドバイサイド型に押出し、紡糸温度265℃、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得た。次いで、ホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分、延伸倍率は延伸後の繊度が84dtexとなるように設定して延撚し、84dtex/36fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。
得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は、高粘度側が0.90、低粘度側が0.70であった。初期引張抵抗度、顕在捲縮の伸縮伸長率/伸縮弾性率、熱水処理後の伸縮伸長率/伸縮弾性率、及び100℃における熱収縮応力を表1に示す。
【0042】
(製造例2)
製造例1と同様の方法で84dtex/36fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は、高粘度側が0.88、低粘度側が0.70であった。初期引張抵抗度、顕在捲縮の伸縮伸長率/伸縮弾性率、熱水処理後の伸縮伸長率/伸縮弾性率、及び100℃における熱収縮応力を表1に示す。
【0043】
(製造例3)
製造例1において、固有粘度の異なるポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを用いた以外は製造例1と同様の方法で84dtex/36fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は、ポリトリメチレンテレフタレート側が0.98、ポリエチレンテレフタレート側が0.60であった。初期引張抵抗度、顕在捲縮の伸縮伸長率/伸縮弾性率、熱水処理後の伸縮伸長率/伸縮弾性率、及び100℃における熱収縮応力を表1に示す。
【0044】
[実施例1〜3]
製造例1〜3で得られた複合繊維を用いて、石川製作所社製IVF−338にて第1ヒーター温度170℃、撚方向はZ撚、仮撚数3200T/mで仮撚加工を行い仮撚加工糸を得た。実施例1〜3の仮撚加工糸は、顕在捲縮伸長率180〜200%、顕在捲縮弾性率85〜90%、捲縮伸長率200〜250%、捲縮弾性率85〜93%であった。
なお、製造例1で得た繊維を実施例1に用い、製造例2で得た繊維を実施例2に用い、製造例3で得た繊維を実施例3に用いた。
得られた仮撚加工糸を双糸にして緯糸に用い、経糸には167dtex/72fのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸(仮撚方向;Z撚)のサイジング糸を用いて、ファスナー用基布として幅2cmのテープ状の織物を製造した(経糸CF=775、緯糸CF=905)。
【0045】
この織物と、ポリトリメチレンテレフタレートで成型した噛合エレメント並びにスライダーとを組み合わせてファスナーを作製し、常法により製品染めした。
ポリエステルのスムース編み地の身生地に、得られたファスナーを取りつけて体操用上着を作製した。
実施例1〜3で作製されたファスナーの運動時の着用感評価は、全て4.5級以上であった。
【0046】
[比較例1]
緯糸として、84dtex/36fポリトリメチレンテレフタレート繊維(一成分)の仮撚加工糸の双糸を緯糸に用いた以外は実施例1同様にして得られたファスナーの運動時の着用感評価は、3級であった。
【0047】
[実施例4]
製造例1で得た繊維の原糸を双糸にして緯糸に用いた以外は実施例1同様にして得られたファスナーの運動時の着用感評価は、4級であった。
【0048】
[実施例5]
製造例1において、紡糸速度を変化させて破断伸度100%のPOYを得た。
次いで、仮撚加工機;村田機械製作所(株)製の33H仮撚機を用いて、仮撚加工糸の破断伸度が35%となるように延伸倍率を設定し、仮撚ヒーター出口の糸条温度160℃、仮撚数3200T/mで延伸仮撚加工を行い、84dtex/36fの1ヒーターの延伸仮撚糸を得た。
得られた延伸仮撚加工糸の顕在捲縮伸長率200%、顕在捲縮弾性率90%、捲縮伸長率240%、捲縮弾性率91%であった。
この仮撚加工糸の双糸を緯糸に用いた以外は実施例1同様にして得られたファスナーの運動時の着用感評価は、5級であった。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のスライドファスナー用基布及びスライドファスナーは、特に運動時における着用感並びにファスナーのスムーズな開閉性に優れたものであり、特に激しいスポーツや作業時における衣料用途として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも緯糸が、二種以上のポリエステル成分からなり、少なくともその一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維で構成されてなることを特徴とするスライドファスナー用基布。
【請求項2】
基布が、二種以上のポリエステル成分からなり、少なくともその一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維で構成されてなることを特徴とするスライドファスナー。
【請求項3】
噛合エレメント及び又はスライダーがポリトリメチレンテレフタレート樹脂で構成されてなることを特徴とする請求項2記載のスライドファスナー。

【公開番号】特開2006−175129(P2006−175129A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373679(P2004−373679)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(302071162)ソロテックス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】