説明

スラグの流出防止方法

【課題】 転炉からの出鋼時及び取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時に、安価で特段の設備を必要とせず、効率的にスラグの流出を防止することのできる方法を提供する。
【解決手段】 転炉1からの溶鋼5の出鋼時または取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入時におけるスラグの流出防止方法であって、溶鋼上のスラグ6にプラスチック7を添加してプラスチックをスラグの有する熱によって分解させ、プラスチック分解時の吸熱反応を利用してスラグを冷却し、スラグを固化させる或いはスラグの流出が妨げられるようにスラグの粘性を高める。この場合にプラスチックを、金属または金属酸化物との成形体とすることで、スラグの流出がより一層防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉及び取鍋などから溶鋼流出孔を介して取鍋、タンディッシュなどの他の溶鋼保持容器に溶鋼を排出する際に、溶鋼排出の末期、溶鋼上に存在するスラグが溶鋼と共に流出することを防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉での脱炭精錬工程においては、精錬剤として造滓剤を添加したり、副原料としてマンガン鉱石を添加したり、除去された不純物自体がスラグになったりし、更に、酸化精錬であることに起因して鉄の酸化物が不可避的に存在することから、スラグをなくすることは不可能であり、脱炭精錬終了後の溶鋼上にはスラグが形成される。形成されたスラグは、転炉から取鍋などへの出鋼過程の末期、転炉内の溶鋼が少なくなってくると溶鋼に巻き込まれ、溶鋼と共に取鍋内に排出される。このスラグは鉄酸化物及びマンガン酸化物などの酸素ポテンシャルの高い所謂「低級酸化物」を含んでいるので、大量のスラグが取鍋内に流出した場合には、脱酸のために添加した溶鋼中のAlとスラグ中の低級酸化物とが反応して溶鋼中にアルミナが形成され、清浄性の高い鋼を得ることができなくなるという問題が発生する。また、取鍋の耐火物がスラグによって溶損し、取鍋耐火物の寿命が低下するという問題も発生する。
【0003】
同様に、連続鋳造工程においては、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際、取鍋内の溶鋼量が少なくなった注入過程の末期に、取鍋内のスラグが溶鋼に巻き込まれ、溶鋼と共にタンディッシュに流出することが発生する。この場合のスラグは、一般的にはすでに低級酸化物は還元されており、酸化度の低いスラグであるので、巻き込まれたスラグがタンディッシュ内で全て浮上して溶鋼と分離してしまえば問題にはならないが、タンディッシュで浮上しきれずに鋳型内まで持ち来たされる場合には、スラグは鋳片に捕捉され、鋳片の清浄性が低下するといった問題が発生する。
【0004】
従って、スラグの流出を防止するために多数の提案がなされている。例えば、特許文献1には、転炉における溶鋼流出孔である出鋼孔の直径よりも大きな外径を有すると共に、スラグの比重よりも大きく且つ溶鋼の比重よりも小さな嵩比重を有する耐火物製のスラグカットボールを出鋼孔の直上近傍のスラグ中に添加し、溶鋼量が少なくなった場合にはスラグカットボールが出鋼孔に嵌り込んで出鋼孔を閉塞することを利用して、スラグの流出を防止する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、支部と、この支部の下方に延出した芯金の途中に取り付けた中位ストッパー部と、この中位ストッパーの下方に出鋼孔長さより十分長い距離を隔てて芯金に取り付けた出鋼孔脱落防止部とを有し、中位ストッパー部及び出鋼孔脱落防止部とこれらを繋ぐ芯金とを耐火物で被覆したスラグカット用ストッパーを転炉の出鋼孔に転炉内面側から挿入し、出鋼末期、溶鋼の比重より軽くスラグの比重より重くなるように調整した中位ストッパーが溶鋼量の減少に伴い下降して出鋼孔を閉塞することを利用して、スラグの流出を防止する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、転炉と真空脱ガス設備とを用いて溶鋼を溶製する際に、転炉出鋼時に溶鋼に石灰を添加し、生成したスラグに金属Alを添加してスラグを脱酸し、真空脱ガス処理後のスラグ中のCaO/Al23 の比を0.6〜0.8としてスラグを固化させ、取鍋からタンディッシュへのスラグの流出を防止する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平1−263215号公報
【特許文献2】特開平11−241116号公報
【特許文献3】特開平6−49524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。即ち、特許文献1では、スラグカットボールは1回しか使用できず、スラグの流出防止には効果があるものの、スラグカットボールに費やすコストが高くなるという問題点がある。特許文献2では、スラグカット用ストッパーを2回まで使用できるとしているが、スラグカット用ストッパーは複雑な構造をしておりスラグカットボールに比べても遥かに高価であり、2回程度の使用回数ではコストが高くて実用的ではない。また、その使用の毎に出鋼孔にスラグカット用ストッパーを挿入する必要があり、この作業も煩雑であるため、転炉の生産性を低下させる原因となる。特許文献3では、スラグの組成を変化させることによってスラグの融点を高め、スラグを固化させており、作業自体は簡易ではあるものの、このスラグの組成変化には金属Alを必要としており、金属Alは高価であることからコストが高くなるという問題点がある。また、溶鋼の脱酸過程で生成した固体のアルミナが溶融状態のスラグ中に溶解する必要があることから、反応速度は遅く、スラグの固化は十分とはいえず、従って、確実にスラグの流出防止が行なわれているとはいいがたい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉からの出鋼時及び取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時に、安価で特段の設備を必要とせず、効率的にスラグの流出を防止することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究・検討を重ねた結果、プラスチックが分解するときの吸熱反応によってスラグが固化することを見出した。即ち、プラスチックは炭素及び水素を主成分としており、転炉内の酸素が不足した状態で溶鋼上に存在する高温状態のスラグに添加されると、スラグから受ける熱によって直ちに水素ガス及びメタンガスなどの炭化水素ガスに熱分解される。
【0010】
スラグの熱はこの分解反応に費やされ、スラグの温度が降下してスラグは固化する。この場合、分解によって生成した水素ガス、炭化水素ガス、炭素などが燃焼すれば燃焼熱を生ずるが、生成した水素ガス、炭化水素ガス、炭素などは、スラグの表面よりも離れた空間中で燃焼するので、スラグにはこの燃焼熱がほとんど着熱せず、スラグは急速に冷却され固化する。このようにしてスラグを固化させることで、特段の設備を必要とせず、効率的にスラグの流出を防止することができるとの知見を得た。また、スラグの防止はスラグを固化することによって防止できるが、固化状態にまで至らなくても、スラグの流出がなくなる程度にスラグを冷却し、その粘性を高めることによってもスラグの流出を防止することができるとの知見も得た。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係るスラグの流出防止方法は、転炉からの溶鋼の出鋼時または取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入時におけるスラグの流出防止方法であって、溶鋼上のスラグにプラスチックを添加してプラスチックをスラグの有する熱によって分解させ、プラスチック分解時の吸熱反応を利用してスラグを冷却し、スラグを固化させる或いはスラグの流出が妨げられるようにスラグの粘性を高めることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明に係るスラグの流出防止方法は、第1の発明において、前記プラスチックは、金属または金属酸化物との成形体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラスチックの分解熱を利用してスラグを固化させ、スラグを固化させることで溶鋼へのスラグの巻き込みを防止してスラグの流出を防止するので、特段の設備を必要とせず、安価で且つ効率的にスラグの流出を防止することが可能となる。その結果、脱酸剤原単位の削減、溶鋼の清浄化の促進、取鍋耐火物の寿命延長など、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。先ず、第1の実施の形態例について図1に基づき説明する。図1は、転炉から溶鋼を出鋼する際に本発明方法を適用した例を示す概略図であり、図1において、1は転炉、2は出鋼孔、3は底吹き羽口、4は投入シュート、5は溶鋼、6はスラグ、7はプラスチックである。
【0015】
転炉1において、炉内に溶銑を装入し、必要に応じて鉄スクラップ、鉄鉱石などの副原料及び生石灰などの造滓剤を添加し、底吹き羽口3からArガス、窒素ガスなどの攪拌用ガスを吹き込みながら上吹きランス(図示せず)から溶銑に酸素ガスを供給して溶銑の脱炭精錬を実施する。この脱炭精錬の終了後、転炉1を傾転させ、精錬して得た溶鋼5を溶鋼流出孔である出鋼孔2を介して転炉1の直下に配置した取鍋(図示せず)に出鋼する。出鋼中、投入シュート4を転炉1に挿入し、投入シュート4を介してスラグ6の上にプラスチック7を添加する。
【0016】
添加したプラスチック7はスラグ6の熱を受けて水素ガス、炭化水素ガス、炭素などに分解し、一方、スラグ6はこの分解反応に熱を奪われて温度が低下し、スラグ6の固化が進行する。分解によって生成した水素ガス、炭化水素ガス、炭素は燃焼するものの、大量に且つ瞬時に発生する水素ガス、炭化水素ガス、炭素に比べて、これらを燃焼するための酸素ガスなどの酸素源の供給が遅れることから、生成した水素ガス、炭化水素ガス、炭素はスラグ6の表面から離れた空間で燃焼する。そのため、これらの燃焼熱はスラグ6を加熱することがなく、スラグ6の固化が進行し、流動性が低下する。スラグ6の巻き込みは出鋼孔2の上方に生ずる溶鋼5の渦巻き及び凹みに起因して発生するが、この出鋼孔2の直上の部分に溶鋼5の流動性に比較して流動性の低いスラグ6がある場合には、スラグ6の巻き込みが防止されるだけでなく、巻き込まれやすい、流動性の高いスラグが出鋼孔2の直上に近づくことが妨げられ、スラグ6の溶鋼5への巻き込みが抑制される。そして、出鋼末期には固化したスラグ6が、溶鋼5の排出に伴って出鋼孔2を覆うように降下するので、プラスチック7が直接添加されていない周辺の溶融状態のスラグ6の流出も抑制される。
【0017】
プラスチック7の添加量が少ないと、スラグ6に対する吸熱量が少ない上に、燃焼に必要な酸素源の供給の遅れも少なくなり、スラグ6の固化が阻害される。そのため、プラスチック7の添加量は、スラグ6の発生量にも依存するが、溶鋼トン当たり1kg以上とすることが好ましい。また、スラグ6の固化を促進させてスラグ6の流出を防止する観点から、プラスチック7を出鋼孔2の直上に存在するスラグ6に添加することが好ましい。この場合、流出防止効果を得るためには、流動性の低下した固化スラグで或る程度の面積を被覆することが重要であるため、少なくとも出鋼孔2を中心として1m2 程度の範囲内には添加することが好ましい。
【0018】
本発明で用いることのできるプラスチック7としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニルアセチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブダジエン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン弾性物質(EPM、EPDM)、ブチルゴム、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、セルロイド、ナイロンなどのエンジニアリングプラスチックに分類されるプラスチックであれば特に制限はなく、また、製品プラスチックであっても廃プラスチックでもよいが、コスト面及び産業廃棄物の有効利用を図る観点から廃プラスチックを利用することが好ましい。尚、ここでの廃プラスチックとは、工場などでの製造・加工時に生じる屑や不良品を含み、更に、一般家庭から発生する所謂ゴミとしての廃棄物たるプラスチック類であり、その性質上プラスチック以外の異物(金属、紙、その他の無機物及び有機物)が付着若しくは混入しているプラスチック類を含むものである。
【0019】
また、プラスチック7がスラグ6に埋没した状態で分解すると、分解に必要な熱のほとんどがスラグ6から供給されることになり、スラグ6の固化がより一層促進される。そこで、プラスチック7を金属または金属酸化物との成形体とし、見掛け密度を大きくすることが好ましく、特に、スラグ6の密度よりも大きな見掛け密度を有する成形体とすることが好ましい。通常、プラスチック7の密度が900〜1000kg/m3 程度、スラグ6の密度が3000kg/m3 程度(転炉からの出鋼時のようにフォーミングしたスラグではその半分程度)であるのに対し、鉄鉱石、ミルスケール及び製鉄ダストなどの酸化鉄類は4800〜5300kg/m3 程度、酸化マンガン及び酸化クロムは5200kg/m3 程度、酸化ニッケルは6900kg/m3 程度、磁選粉及び切削屑などの金属鉄類は6500〜7500kg/m3 であり、スラグ6の密度に比べて大きく、従って、これらの金属または金属酸化物が密度調整用の原料として好適である。金属または金属酸化物はスラグ6に対して冷却剤として作用するので、スラグ6の固化がより一層促進される。
【0020】
成形体の成形方法は、プラスチックと金属または金属酸化物とを混合して強い押出し力で多孔ダイス或いは金網などから押出して成形する押出し成形方法、これらを混合して一定の容器内で強く圧縮して成形する圧縮成形方法、これらの混合物を加熱してプラスチックを溶融して成形する溶融成形方法などの適宜の方法で行なうことができる。
【0021】
投入したプラスチック7の分解により、炭素、水素、これらの化合物などが発生する。これらの物質は高い還元性を有するため、プラスチック7が投入された部位のスラグ6に含まれる酸化鉄、酸化マンガンなどの一部は還元され、スラグ6の酸素ポテンシャルが低下する。スラグ6には、燐などの不純物も酸化物の形態で含有されており、酸化鉄、酸化マンガンなどと同時に不純物である燐酸化物なども還元されて溶鋼中に戻ってしまい、鋼の性状に悪影響を与える可能性もある。従って、本発明方法をより効果的に実施するためには、この燐の挙動に留意する必要がある。具体的には、スラグ6の脱燐能力を上げる、炉内のスラグ量を増やしてスラグ中の燐濃度を希釈する、或いは、転炉1に装入する主原料中の燐濃度を十分に下げて、転炉脱炭吹錬中の脱燐量が小さくても十分に燐濃度の低い溶鋼を得る、などの手段を併用することが溶鋼成分のばらつきを低減する観点から望ましい。
【0022】
このように本発明によれば、転炉1から取鍋への溶鋼5の出鋼時、転炉内のスラグ6の上にプラスチック7を添加するので、プラスチック7の分解熱によってスラグ6が固化し、スラグ6が固化することによってスラグ6の取鍋への流出が抑制される。その結果、取鍋内に流出したスラグ6を脱酸するための金属Alなどのスラグ改質剤の使用量を少なくすることができるのみならず、少ないスラグ改質剤で清浄性の高い溶鋼を得ることが可能となる。また、取鍋内に流出するスラグ6が少なくなるために取鍋耐火物の溶損が抑えられ、取鍋耐火物の寿命を長期化することができる。
【0023】
尚、上記説明では、転炉1を傾転させ、溶鋼5の出鋼中にプラスチック7を添加しているが、脱炭精錬終了後、転炉1を傾転させず、炉上に設置されたホッパー・シュートを用いてプラスチック7を転炉1に添加し、プラスチック7の添加後、転炉1を傾転して出鋼してもよい。
【0024】
次いで、第2の実施の形態例について図2に基づき説明する。図2は、連続鋳造工程において、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際に本発明方法を適用した例を示す概略図であり、図2において、5は溶鋼、6はスラグ、7はプラスチック、8は取鍋、9は上ノズル、10はスライディングノズル、11は固定板、12は摺動板、13はロングノズル、14はタンディッシュ、15はストッパー、16は浸漬ノズルである。スライディングノズル10は、固定板11及び摺動板12によって構成されている。
【0025】
図2において、取鍋8に収容された溶鋼5は、取鍋8の底部に設置された上ノズル9、スライディングノズル10及びロングノズル13からなる溶鋼流出孔を介してタンディッシュ14に注入され、タンディッシュ14に注入された溶鋼5は、ストッパー15によって流出量を制御されながらタンディッシュ14の底部に設置された浸漬ノズル16を介して鋳型(図示せず)に鋳造されている。取鍋8に収容された溶鋼5の上にはスラグ6が存在している。
【0026】
取鍋8からタンディッシュ14への溶鋼5の注入中、投入用バック、シュートなどの適宜の方法を用いて取鍋内のスラグ6の上にプラスチック7を添加する。添加したプラスチック7はスラグ6の熱を受けて水素ガス、炭化水素ガス、炭素などに分解し、一方、スラグ6はこの分解反応に熱を奪われて温度が低下し、スラグ6の固化が進行する。そして、スラグ6の固化により、スラグ6のタンディッシュ14への流出が抑制される。プラスチック7の添加時期は、スラグ6が固化するに十分な時間を確保する必要があり、従って、取鍋8からタンディッシュ14への注入終了の5分前までに、望ましくは10分前までに所定量のプラスチック7を添加完了することが好ましい。プラスチック7の添加開始時期は特に限定する必要はなく、タンディッシュ14への注入が開始されたなら何時でも構わない。その他の条件は、前述した第1の実施の形態例に準じて実施する。
【0027】
このように本発明によれば、取鍋8からタンディッシュ14への溶鋼5の注入時、取鍋内のスラグ6の上にプラスチック7を添加するので、プラスチック7の分解熱によってスラグ6が固化し、スラグ6が固化することによってスラグ6のタンディッシュ14への流出が抑制される。その結果、タンディッシュ14に注入された溶鋼5には懸濁したスラグの混入が防止され、スラグ系介在物の少ない、清浄性の高い溶鋼5を鋳型内に鋳造することができる。
【実施例1】
【0028】
図1に示す転炉設備を用い、溶銑の脱炭精錬後、得られた溶鋼を転炉から取鍋に出鋼する際に本発明を適用した例を説明する。
【0029】
容量が270トンの転炉に、250トンの溶銑と20トンの鉄スクラップとを主原料として装入し、且つ、3トンの生石灰を造滓剤として装入し、底吹き羽口からArガスを攪拌用ガスとして吹き込みながら、上吹きランスから酸素ガスを供給して溶銑の脱炭精錬を実施した。脱炭精錬終了後、転炉を傾転して出鋼孔から取鍋に溶鋼を出鋼した。この出鋼中、傾動した転炉炉口から投入シュートを挿入し、投入シュートを介して最大サイズを100mm以下に調整した1300kgの廃プラスチックを、出鋼孔を中心として少なくとも1m2 の範囲内に存在するスラグの上に添加した。出鋼孔からの溶鋼の排出が完了した時点で転炉を傾転して元の直立位置に戻し、出鋼作業を終了した。その後、更に反対側に転炉を傾転して転炉内のスラグを溶滓鍋に排出した。
【0030】
出鋼後、転炉から取鍋内に流出したスラグ量を調査するために取鍋内のスラグ厚みを測定した。また、比較のために、溶鋼の伝導度とスラグの伝導度との違いからスラグの流出を判定する従来の判定装置を用いた出鋼作業も実施し、スラグ厚みを測定した。その結果、両者でスラグ厚みの測定結果に差はなく、本発明方法で十分にスラグの流出を防止できることが確認できた。
【0031】
また、判定装置を用いず、オペレーターの目視による判定で出鋼作業を行なった場合(従来例)と、本発明方法を用いて出鋼作業を行なった場合(本発明例)とで、Alロス原単位及び取鍋内のスラグ厚みを比較調査した。ここで、Alロス原単位とは、脱酸用として溶鋼に添加したAl原単位から溶鋼中に残留したAl原単位を差し引いて求めたものであり、一般に、取鍋内に流出したスラグが多くなると、スラグ中の鉄酸化物などを還元するためのAlが増加するためにAlロス原単位が高くなる。図3にAlロス原単位の調査結果を示し、図4に取鍋内のスラグ厚みの調査結果を示す。
【0032】
図3及び図4に示すように、転炉脱炭精錬終了時の溶鋼中炭素濃度(「転炉終点酸素濃度」という)が高い場合には、一般にスラグの流動性が高く、また投入プラスチックの量が不足気味になるため、スラグ固化による流出抑制効果は小さくなるが、同一の転炉終点酸素濃度における比較では、何れの場合も本発明例の方が従来例に比べてスラグの流出量が抑制されることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】転炉から溶鋼を出鋼する際に本発明方法を適用した例を示す概略図である。
【図2】連続鋳造工程において、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際に本発明方法を適用した例を示す概略図である。
【図3】本発明例と従来例とでAlロス原単位を比較して示す図である。
【図4】本発明例と従来例とで取鍋内のスラグ厚みを比較して示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 転炉
2 出鋼孔
3 底吹き羽口
4 投入シュート
5 溶鋼
6 スラグ
7 プラスチック
8 取鍋
9 上ノズル
10 スライディングノズル
11 固定板
12 摺動板
13 ロングノズル
14 タンディッシュ
15 ストッパー
16 浸漬ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉からの溶鋼の出鋼時または取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入時におけるスラグの流出防止方法であって、溶鋼上のスラグにプラスチックを添加してプラスチックをスラグの有する熱によって分解させ、プラスチック分解時の吸熱反応を利用してスラグを冷却し、スラグを固化させる或いはスラグの流出が妨げられるようにスラグの粘性を高めることを特徴とする、スラグの流出防止方法。
【請求項2】
前記プラスチックは、金属または金属酸化物との成形体であることを特徴とする、請求項1に記載のスラグの流出防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−152370(P2006−152370A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344040(P2004−344040)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】