説明

スラグの熱エネルギー回収方法

【課題】高温スラグの熱エネルギーを電気エネルギーとして工業的に回収する。
【解決手段】600℃以上の温度のスラグを冷却する際に、スラグをその体積の10倍以下の容積を有する閉鎖空間内に装入して、該閉鎖空間内でスラグに散水し、該散水により発生した水蒸気および/または熱水を回収し、該水蒸気および/または熱水を60℃以下の沸点を有する有機媒体と熱交換させることで該有機媒体を揮発させ、その揮発ガスによりタービンを駆動して発電する。高温スラグに散水することで生じた水蒸気を、熱損失を抑えて効率的に回収し、この水蒸気を低温揮発する有機媒体と熱交換させ、これにより生じる高圧の揮発ガスで発電を行うようにしたので、スラグの熱エネルギーを電気エネルギーとして効率的に回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温状態にある鉄鋼スラグなどのスラグから、その熱エネルギーを電気エネルギーとして回収するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセス等をはじめとする種々のプロセスの溶解工程や精錬工程でスラグが生成する。例えば、鉄鋼製造プロセスで生成する代表的なスラグとして、高炉スラグ、製鋼スラグなどがあり、その他にも、製鉄以外の金属製錬炉や精錬炉から発生するスラグ、ごみ焼却灰溶融スラグ、廃棄物ガス化溶融スラグなどがある。
製鉄プロセスで発生する代表的なスラグ(鉄鋼スラグ)としては、高炉で発生する高炉スラグと、製鋼工程で発生する製鋼スラグがあり、また、この製鋼スラグには、溶銑予備処理と呼ばれる脱珪、脱燐、脱硫の各精錬処理で発生する溶銑予備処理スラグと、脱炭精錬処理で発生する脱炭スラグがある。これらの鉄鋼スラグは、高炉スラグ(高炉水砕スラグ)が主にセメント原料として、また、製鋼スラグが主に路盤材、土工材、海洋土木材などとして、それぞれ利用されている。
【0003】
このように鉄鋼スラグは、材料としてのリサイクルが積極的に進められてきている。一方、発生直後の溶融状態の鉄鋼スラグは1500℃近い高温であり、莫大な熱エネルギーを有している。したがって、省エネルギーや化石燃料の高騰を考慮すると、その熱エネルギーを回収し、利用可能なエネルギーに変換することが望まれる。
従来知られているスラグからの代表的な熱回収方法としては、(a)溶融状態のスラグに対して高速の空気または水蒸気を吹き付け、高温ガスとして熱回収する方法(例えば、特許文献1,2)、(b)スラグ内またはスラグ表面に熱交換用の伝熱盤等を設置し、そこから熱回収する方法(例えば、非特許文献1)、などがある。これらのうち(a)の方法は、一部において実用化されているが、熱回収よりもスラグ改質が目的であり、熱回収はほとんど期待されていない。これは、スラグ冷却のためのガス量が多いため、トータルの熱の多くはガスに移すことはできても、ガス温度が高温にならないため、利用できる形態として回収できないためである。また、(b)の方法は、小規模実験では比較的高い熱回収効率が得られるものの、実用化は非常に難しい。これは、スラグと伝熱盤の付着等の機械的限界があるからである。
【特許文献1】特開2004−238233号公報
【特許文献2】特開昭52−27095号公報
【非特許文献1】ISIJ‘85−S786(鉄と鋼,vol.71,No.12,pp.S786)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように鉄鋼スラグの熱エネルギー回収は様々に検討されてきているが、実用化されている例はほとんどない。特に、製鋼スラグについては、温度が高いにもかかわらず、その熱エネルギーは全く利用されていないのが実状である。
従来、製鋼スラグはヤード等に放流され、ある程度温度が下がった段階で表面に散水してさらに冷却し、上述の路盤材や土木材などに適するように加工が施されている。ここで、スラグ顕熱を回収する形態の一つとして、高温スラグへの散水により生じた水蒸気の利用が考えられる。しかし、従来では、このような水蒸気によるスラグ顕熱回収は全く実現されていない。
【0005】
その理由としては、スラグの散水冷却時に発生する水蒸気の条件が、通常の発電に用いられる水蒸気の条件とは全く異なることが挙げられる。水蒸気は、電力発電用として有効な媒体ではあるが、一般にタービンを回すために使用される水蒸気は、300℃程度まで加熱された高温水蒸気である。ところが、スラグに散水して得られる水蒸気は空気等に触れるために高温を維持できず、発電用等のような工業資源として利用することは難しい。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、高温スラグの熱エネルギーを電気エネルギーとして工業的に回収することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、比較的温度の低い水蒸気等を用いてエネルギーを回収する技術について検討を行い、その結果、地熱発電の分野において、比較的低温の熱水と蒸気から発電する技術としてバイナリ発電があり、これを利用できる可能性があると考えた。このバイナリ発電とは、高温型の地熱発電では利用されない中高温熱水によって低温で揮発する有機媒体を加熱し、高圧の有機媒体蒸気にすることでタービンを駆動する技術である。本発明者らは、この技術をスラグの熱エネルギー回収に適用しようと、スラグの散水冷却で生じた水蒸気を有機媒体の加熱源にすることを試みたが、想定したような有機媒体の揮発はわずかしか起こらなかった。この原因について検討した結果、スラグの散水冷却で生じる水蒸気や熱水は、地熱発電で利用されるような水蒸気や熱水と形態が全く異なり、この点が原因であることが判った。すなわち、地熱の場合は地中ですでに水蒸気や熱水が発生し、備蓄されている状態にある。したがって、その出口を制御することによってエネルギーを集中させることができ、たとえ水蒸気温度が低くても効率的に利用することが可能である。これに対してスラグの場合、ヤード等に放散したスラグに対して散水するため水蒸気が拡散してしまい、地熱発電と同じ考え方では発電に利用することは困難であることが判った。
【0007】
さらに、スラグの場合には、次のような特別に考慮すべき点があることが判った。すなわち、上述のように地熱発電はすでに備蓄状態にある水蒸気および熱水を利用するだけであるのに対して、スラグの場合には水蒸気を安定的に発生させることが必要となる。したがって、高いエネルギーを安定的に得るためには、水蒸気を安定して発生させる方法を考慮する必要がある。特に、スラグは比熱が大きく且つ熱伝導率が小さいため、表面に一度に大量に散水しても、表面だけが冷却されてしまい、内部温度が高い状態が保持されるため、投入した水に相応する蒸気が発生しにくい。また、スラグに単純に散水した場合、残留した水を溶融状態のスラグが覆ってしまうと爆裂が発生する危険性がある。
【0008】
本発明は、以上のような知見に基づき、さらに検討を重ねた結果なされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]600℃以上の温度のスラグを冷却する際に、スラグをその体積の10倍以下の容積を有する閉鎖空間内に装入して、該閉鎖空間内でスラグに散水し、該散水により発生した水蒸気および/または熱水を回収し、該水蒸気および/または熱水を60℃以下の沸点を有する有機媒体と熱交換させることで該有機媒体を揮発させ、その揮発ガスによりタービンを駆動して発電することを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
[2]上記[1]の熱エネルギー回収方法において、1000℃以上の温度のスラグに散水することを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
【0009】
[3]上記[1]または[2]の熱エネルギー回収方法において、全処理時間の1/2以上において、スラグの表面温度が300℃以上を保持するように散水することを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの熱エネルギー回収方法において、回転可能な容器内でスラグに散水することを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
[5]上記[4]の熱エネルギー回収方法において、容器内にスラグの粉砕手段を有することを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの熱エネルギー回収方法において、スラグが、製鋼工程で発生する脱炭スラグであることを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温スラグに散水することで生じた水蒸気を、熱損失を抑えて効率的に回収し、この水蒸気を低温揮発する有機媒体と熱交換させ、これにより生じる高圧の揮発ガスで発電を行うようにしたので、スラグの熱エネルギーを電気エネルギーとして工業的に回収することができる。加えて、スラグが散水により急冷されるために、結晶質の少ない良好な品質のスラグを得ることができる。また、スラグを容器などの閉鎖空間内で散水冷却することにより、散水により爆裂が起こった際も閉鎖空間内のスラグの飛散にとどまり、作業者の安全も確保できる。
また、本発明において、1000℃以上のスラグに散水することにより、スラグ中に含まれる3CaO・SiOの分解を抑制し、冷却後のスラグをエージングした際に粉化の進行を抑制することができる。
【0011】
また、本発明において、スラグの表面温度が300℃以上を保持するように散水することにより、スラグと水との界面で効率的に沸騰現象を生じさせ、水蒸気を効率的且つ安定的に発生させることができる。
また、本発明において、回転可能な容器内でスラグに散水することにより、スラグからの熱回収を均等に行うことができるとともに、水蒸気を効率的且つ安定的に発生させることができる。また、スラグ全体を均一な冷却速度で冷却できるため、スラグ製品の品質も向上させることができる。
また、本発明において、回転可能な容器内にスラグの粉砕手段を有し、この粉砕手段でスラグを粉砕しつつ散水冷却することにより、熱伝導率の小さいスラグの内部に含まれている熱エネルギーを効率的に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、高温スラグを冷却する際に、発生した水蒸気が大気に拡散してエネルギーが分散しないように、スラグ体積に対して一定比率以下の容積の閉鎖空間内にスラグを装入し、この閉鎖空間内でスラグに散水する。そして、この散水により発生した蒸気および/または熱水を回収し、この蒸気および/または熱水を低沸点の有機媒体と熱交換させることで有機媒体を揮発させ、その揮発ガス(高圧ガス)によりタービンを駆動して発電を行うものである。
なお、本発明において単に「スラグ温度」という場合、スラグ厚さ方向中心温度を指す。このような厚さ方向中心温度を求めるには、例えば、スラグの種類、スラグ厚さ、冷却条件、周囲の雰囲気、温度などの要素を考慮してスラグ表面温度と厚さ方向中心温度との対応関係を予め求めておき、この対応関係に基づき、スラグ表面温度の測定値から厚さ方向中心温度を求めることができる。
【0013】
本発明において、冷却処理の対象となるスラグの種類に制限はない。例えば、鉄鋼スラグとしては、高炉スラグ、製鋼スラグ(例えば、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱珪スラグ、脱硫スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグなど)、溶融還元スラグ(例えば、鉄鉱石、Cr鉱石、Ni鉱石、Mn鉱石などの溶融還元により生じるスラグ)、その他の製錬炉や精錬炉から発生するスラグなどを対象とすることができ、その他にも、ごみ焼却灰溶融スラグ、廃棄物ガス化溶融スラグなど、種々のスラグを対象とすることができる。鉄鋼スラグのなかでは、製鋼スラグは高炉スラグに比べてCaO分が多いことから、散水冷却した場合にCaOとHOとの反応熱による温度上昇が期待される。また、製鋼スラグのなかでは、特に単体としてCaO分が析出しやすい脱炭スラグを用いることが望ましい。脱炭スラグの場合、セメント組成にも近いが、過剰な遊離CaOが存在することが問題であり、これを水蒸気によって改質する効果も期待できる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態を模式的に示すもので、1はスラグを装入して散水冷却を行うための容器(閉鎖空間を得るための容器)、2は容器1で発生した水蒸気等と低沸点の有機媒体とを熱交換するための熱交換器、3は熱交換器2で生じた有機媒体の揮発ガスが駆動用流体として供給されるタービン(ガスタービン)、4はタービン3を出た揮発ガスを再度液化するためのクーラー、5は有機媒体を循環使用するための循環路である。
本発明法では、図1の実施形態のように容器内を閉鎖空間として用いることができるが、これに限定されるものではなく、例えば、パンなどに置かれたスラグ全体をフードやテントなどで覆うことにより閉鎖空間を構成してもよい。
【0015】
前記容器1の形態や構造に特別な制限はなく、水蒸気を拡散させることなく効率的に回収できるものであればよい。但し、容器1があまり大きすぎると、発生した水蒸気が拡散して熱損失が大きくなる。容器1の容積(内容積)がスラグの体積の10倍以内であれば、散水により瞬時に発生した水蒸気が高圧となり、不要なガスを排出して効率的な水蒸気回収を行うことが可能となる。したがって、本発明では、スラグ体積の10倍以下の内容積の容器1(閉鎖空間)を用い、この容器1内にスラグを装入して散水冷却を行う。
なお、本実施形態の容器1は、回転可能な筒状容器(回転ドラム)で構成されているが、これについては後述する。
【0016】
散水を開始するスラグ温度は600℃以上、好ましくは1000℃以上とする。散水を開始するスラグ温度が600℃未満では、十分な熱量が回収できない。また、1000℃以上から散水することにより、スラグ中に含まれる3CaO・SiOの分解を抑制し、冷却後のスラグをエージングした際に粉化が進行することを抑制できる。また、散水を開始するスラグ温度の上限は特別なく、スラグが発生した直後から散水してよい。
容器1内の散水手段としては、特別な制限はないが、例えば、シャワー状、スプレー状(スプレー冷却)、ミスト状(ミスト冷却)などの形態で散水を行うことができる。これらのうちスプレー冷却やミスト冷却は、蒸気生成効率が高いのでより好ましく、そのなかでも特にミスト冷却が好ましい。散水は複数箇所で行うことができ、また、散水手段やスラグを移動させながら散水を行ってもよい。
【0017】
また、本発明では、全処理時間の1/2以上において、スラグの表面温度が300℃以上を保持するように散水することが望ましい。水蒸気は、水が高温スラグと接触した時に発生するが、水蒸気を効率的且つ安定的に発生させるためには、スラグと水との界面で効率的に沸騰現象が起こる必要がある。これについて検討した結果、スラグ表面温度を300℃以上、望ましくは400℃±50℃に保持するのが好ましいことが判った。スラグ表面温度をそのような温度に保持する時間は長いほどよいが、全処理時間の1/2以上であれば、全体の処理効率を高めるのに十分な効果がある。
【0018】
スラグ表面温度を上記のような温度に保持する方法としては、スラグ表面温度をサーモビュアーや放射温度計などで測定しながら、例えば、(i)容器1の回転によりスラグの位置を入れ替える、(ii)散水手段を移動させて散水位置を変える、(iii)散水量を調整制御する、などの方法の1つ以上を採ることができるが、これら以外の方法でもよい。また、処理用容器を2連に設け、これら2つの容器内で順次スラグの冷却処理を行うようにするとともに、いずれか一方の容器で以上のような温度管理した処理を行ってもよい。
【0019】
容器1内でのスラグへの散水により、通常80〜300℃程度の水蒸気および/または熱水(以下、便宜上「水蒸気」という)が発生する。この水蒸気は回収されて熱交換器2に送られ、この熱交換器2において低沸点(低温揮発性)の有機媒体と熱交換させる。
使用する有機媒体は、水蒸気温度よりも沸点が低く且つ蒸発エネルギーが小さいものが望ましいが、蒸発エネルギーの配管類からの抜熱等を考慮して、沸点が60℃以下の有機媒体を用いる。この有機媒体としては、例えば、ペンタン、フロンなどを用いることができる。
【0020】
熱交換器2において水蒸気と熱交換した有機媒体は、揮発して体積が著しく増大することにより高圧ガス化し、タービン駆動に適した高圧流体が得られる。この有機媒体の揮発ガスは、駆動用流体としてタービン3に導かれ、タービン3を駆動して発電がなされる。タービン3を出た揮発ガスはクーラー4で冷却されることで再び液化する。この有機媒体は、循環路5により熱交換器2に循環供給される。
容器1は回転可能な容器であることが好ましく、これによりスラグを撹拌し、或いは散水手段に対するスラグの位置を変化させることにより、スラグからの熱回収を均等に行うことができるとともに、水蒸気を効率的且つ安定的に発生させることができる。また、スラグ全体を均一な冷却速度で冷却できるため、スラグ製品の品質も向上させることができる。
【0021】
図1の実施形態は、回転式の筒状容器1(回転ドラム)を備えている。この筒状容器1は、一端側にスラグ装入部6、他端側にスラグ取出部7と蒸気取出部8を備えるとともに、一端側から他端側に向かって下向きに傾斜し、筒軸を中心に回転可能である。この筒状容器1の基本構造は、所謂ローターキルンなどの構造と同様であり、筒状容器1内に装入された材料(スラグ)は、長手方向で傾斜した筒状容器が回転することにより、容器長手方向で順次移送される。筒状容器1内のスラグ移送方向上流部には散水機構9が設置され、この散水機構9には、容器外から導かれる散水用配管10が接続されている。
【0022】
本実施形態では、回転する筒状容器1のスラグ装入部6から容器内に高温のスラグが装入される。装入されたスラグは筒状容器1の回転により撹拌され、或いは散水手段(散水機構9)に対する位置が変化するとともに、容器内壁への付着が防止される。筒状容器1の回転速度は任意であり、例えば2〜5回転/分程度でもよい。
筒状容器1内に装入された高温のスラグには、散水機構9から散水がなされ、この散水により水蒸気(好ましくは過熱蒸気)が発生し、容器内をスラグ移送方向下流側に流れ、一方、散水によりある程度の温度まで冷却・降温したスラグも容器長手方向で順次移動する。この移動中のスラグに、同じ方向に流れる前記蒸気が接触し、両者の間で熱交換がなされるとともに、蒸気によりスラグ中の遊離CaOが水和反応を生じるエージングがなされる。筒状容器1内を移動し終えたスラグは、スラグ取出部7から取り出されるとともに、水蒸気は蒸気取出部8から取り出され、熱交換器2に送られる。
【0023】
筒状容器1内には、スラグの粉砕手段を入れてもよい。この粉砕手段としては、金属製の複数のボールやロッドなどを用いることができ、筒状容器1の回転によりボールやロッドが容器内で転動し、その衝撃によりスラグが粉砕される。塊状のスラグに散水した場合、表面から冷却が進み、その内部は表面への伝熱によって熱を消費するため、内部の熱を有効利用できない可能性がある。これに対して、上記のように容器内でスラグを粉砕することにより、高温の破面が生成してそこに水が供給されるため、より高温・高圧の水蒸気を回収することができる。
【実施例】
【0024】
製鋼スラグを閉鎖空間内で散水冷却し、発生した水蒸気を回収して熱交換器に送り、この熱交換器において有機媒体(ペンタン,沸点36℃)との間で熱交換させ、ここで発生した有機媒体の揮発ガスをタービンの駆動用流体として供給し、発電の可否を調べた。閉鎖空間での処理形態は、
A:図1に示すような回転可能な筒状容器を用いる方式
B:パンに置かれたスラグをフードで覆う方式
のいずれかで行い、方式Aでは筒状容器を回転させながら処理を行った。また、この方式Aを採用した実施例の一部では、筒状容器内に粉砕手段としてボールを入れ、スラグの粉砕を行った。また、実施例の一部では、散水量の調整や容器の回転制御などによってスラグ表面温度を処理時間の1/2以上で300℃以上または400℃以上に保持する操作を行った。
【0025】
熱回収率=(熱交換器入口における水蒸気の顕熱+潜熱)/(散水を開始したときのスラグの顕熱)
上記に定義される熱回収率を調べ、下記のような基準で評価した。
◎:熱回収率20%以上
○:熱回収率10%以上、20%未満
△:熱回収率5%以上、10%未満
×:熱回収率5%未満
【0026】
また、比較例2では、従来のようにヤード放流して散水する方法において、スラグ表面から約1m高さの位置に開放型フードを設置し、そこから吸引することによって水蒸気の回収を実施した。
以上の結果を対象スラグの種類および処理条件とともに表1に示す。
表1によれば、本発明例はいずれも高い熱回収率が達成されている。また、本発明例はいずれも、熱交換器で発生した有機媒体の揮発ガスによりタービン発電が可能であった。これに対して比較例は熱回収率が極めて低く、このため本発明のような有機媒体の揮発ガスによるタービン発電はできなかった。
【0027】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態を模式的に示す説明図
【符号の説明】
【0029】
1 容器
2 熱交換器
3 タービン
4 クーラー
5 循環路
6 スラグ装入部
7 スラグ取出部
8 蒸気取出部
9 散水機構
10 散水用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
600℃以上の温度のスラグを冷却する際に、スラグをその体積の10倍以下の容積を有する閉鎖空間内に装入して、該閉鎖空間内でスラグに散水し、該散水により発生した水蒸気および/または熱水を回収し、該水蒸気および/または熱水を60℃以下の沸点を有する有機媒体と熱交換させることで該有機媒体を揮発させ、その揮発ガスによりタービンを駆動して発電することを特徴とするスラグの熱エネルギー回収方法。
【請求項2】
1000℃以上の温度のスラグに散水することを特徴とする請求項1に記載のスラグの熱エネルギー回収方法。
【請求項3】
全処理時間の1/2以上において、スラグの表面温度が300℃以上を保持するように散水することを特徴とする請求項1または2に記載のスラグの熱エネルギー回収方法。
【請求項4】
回転可能な容器内でスラグに散水することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスラグの熱エネルギー回収方法。
【請求項5】
容器内にスラグの粉砕手段を有することを特徴とする請求項4に記載のスラグの熱エネルギー回収方法。
【請求項6】
スラグが、製鋼工程で発生する脱炭スラグであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスラグの熱エネルギー回収方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−227489(P2009−227489A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72613(P2008−72613)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】