説明

スラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラムおよびスラグ固化判定方法

【課題】炉内から噴出する炎や燃焼光による影響を受けることなく、溶融バーナーの適切な点火時期を自動的に判定することができるスラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラム及びその方法を提供する。
【解決手段】領域分割部122が、経時的に連続して撮影されるスラグホールの画像を画像ごとに複数のブロックに分割する。また、領域平均算出部123が、領域分割部122によって分割されたブロックごとにブロックの平均明度を算出する。また、移動平均算出部124が、領域平均算出部123によって算出された平均明度の移動平均をブロックごとに算出する。そして、スラグ固化判定部125が、移動平均算出部124によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を画像ごとに指標値としてカウントし、カウントした指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融炉から排出されるスラグの固化を判定するスラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラムおよびスラグ固化判定方法に関し、特に、炉内から噴出する炎や燃焼光による影響を受けることなく、溶融バーナーの適切な点火時期を自動的に判定することができるスラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラムおよびスラグ固化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭ガス化炉や廃棄物溶融炉などの溶融炉の運転では、石炭の灰分や廃棄物をスラグとして炉外へ排出している。かかる溶融炉において、スラグが固化して排出不全になった場合には、24時間体制で監視している運転員が溶融バーナーを点火し、固化部分を溶融して取り除いている。しかし、溶融バーナーの点火は溶融炉の運転効率を下げることから、経済的な運転または運転員の負担軽減のため、個々人の主観によらない適切な点火時期を自動的に判定することが必要とされている。
【0003】
一般的に、スラグは、固化するとスラグ自身の温度低下によって明るさが低下することが知られている。そこで、例えば、スラグが排出される排出口をカメラで撮影し、撮影した画像中の高輝度部分の面積の変化や、高輝度部分および低輝度部分を除いた中間輝度部分の平均輝度の変化に基づいて、排出口におけるスラグの固化を自動的に判定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−243337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、炉内から噴出する炎や燃焼光などによる影響でスラグの固化を適切に判定できない場合がある。
【0006】
具体的には、溶融炉の運転中、排出口からは断続的に炎が噴出するが、この炎によって、画像が突発的に明るくなる事象が生じる。また、撮影された画像におけるスラグの明るさは、スラグ自身の明るさだけで決まるものではなく、排出口から照らされる燃焼光の明るさも含まれている。しかし、燃焼光の当たり具合(照明条件)は、排出口の形状の影響などにより、画像内の場所ごとに異なる。これらの影響によって、撮影された画像における高輝度部分の面積や中輝度部分の平均輝度の変化が不安定になり、その結果、スラグの固化を適切に判定できない場合がある。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、炉内から噴出する炎や燃焼光による影響を受けることなく、溶融バーナーの適切な点火時期を自動的に判定することができるスラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラムおよびスラグ固化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、溶融炉から排出されるスラグの固化を判定するスラグ固化判定装置であって、経時的に連続して撮影される前記スラグの排出口の画像を画像ごとに複数の領域に分割する領域分割手段と、前記領域分割手段によって分割された領域ごとに当該領域の平均明度を算出する領域平均算出手段と、前記領域平均算出手段によって算出された平均明度の移動平均を前記領域ごとに算出する移動平均算出手段と、前記移動平均算出手段によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を前記画像ごとに指標値として計数し、計数した指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定するスラグ固化判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、溶融炉から排出されるスラグの固化を判定するスラグ固化判定プログラムであって、経時的に連続して撮影される前記スラグの排出口の画像を画像ごとに複数の領域に分割する領域分割手順と、前記領域分割手順によって分割された領域ごとに当該領域の平均明度を算出する領域平均算出手順と、前記領域平均算出手順によって算出された平均明度の移動平均を前記領域ごとに算出する移動平均算出手順と、前記移動平均算出手順によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を前記画像ごとに指標値として計数し、計数した指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定するスラグ固化判定手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、スラグを排出する溶融炉システムに適用されるスラグ固化判定方法であって、経時的に連続して撮影される前記スラグの排出口の画像を画像ごとに複数の領域に分割する領域分割工程と、前記領域分割工程によって分割された領域ごとに当該領域の平均明度を算出する領域平均算出工程と、前記領域平均算出工程によって算出された平均明度の移動平均を前記領域ごとに算出する移動平均算出工程と、前記移動平均算出工程によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を前記画像ごとに指標値として計数し、計数した指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定するスラグ固化判定工程と、を含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炉内から噴出する炎や燃焼光による影響を受けることなく、溶融バーナーの適切な点火時期を自動的に判定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、この発明に係るスラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラムおよびスラグ固化判定方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、本実施例では、本発明を石炭ガス化炉に適用した場合を中心に説明する。
【実施例】
【0013】
まず、本実施例に係る石炭ガス化炉の概要について説明する。図1は、本実施例に係る石炭ガス化炉の概要を説明するための図である。同図は、石炭ガス化複合発電(Integrated coal Gasification Combined Cycle:IGCC)などに用いられる石炭ガス化炉の一例を示している。同図に示すように、この石炭ガス化炉10は、圧力容器11と、圧力容器11内に設けられた2つの炉、リダクタ12およびコンバスタ13を有する。
【0014】
ここで、コンバスタ13において発生する燃焼熱は、石炭中灰分の溶融、および、リダクタ12におけるガス化吸熱反応の熱源として利用される。また、コンバスタ13において発生する燃焼熱によって溶けた灰粒子は、溶融スラグとなって、コンバスタ13の壁面を流下し、コンバスタ13の底面に設けられたスラグホール(排出口)14から排出される。
【0015】
本実施例では、かかる石炭ガス化炉10において、スラグホール14から排出されるスラグの流れを観測するためのスラグ観測窓を圧力容器11の下部に設け、そのスラグ観測窓から撮影した画像に基づいて、スラグ固化判定装置がスラグの固化を判定するようにしている。
【0016】
図2は、本実施例に係る石炭ガス化炉10に設けられたスラグ観測窓を示す図である。同図に示すように、圧力容器11の下部には、内側に円筒状のスラグ観測窓21を有する観測窓基台20と、スラグ観測窓21を介してスラグの流れを撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ30とが設けられている。そして、CCDカメラ30には、本実施例に係るスラグ固化判定装置100が接続されている。
【0017】
ここで、観測窓基台20は、円筒状のスラグ観測窓21がスラグホール14に対して所定の角度で向けられるように設置されている。これにより、CCDカメラ30が、スラグ観測窓21を通して、スラグホール14を斜め下方から見上げるように撮影することができるようになっている。
【0018】
図3は、CCDカメラ30によって撮影される画像を示す図である。同図に示すように、CCDカメラ30は、スラグ観測窓21を通して、スラグホール14から排出されるスラグを経時的に連続して撮影する。具体的には、CCDカメラ30は、スラグホール14の手前側を流れるスラグ(同図に示す左側のスラグ)と、奥側を流れるスラグ(同図に示す右側のスラグ)とをそれぞれ撮影する。
【0019】
次に、本実施例に係るスラグ固化判定装置100の構成について説明する。図4は、本実施例に係るスラグ固化判定装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、このスラグ固化判定装置100は、記憶部110と、制御部120とを有する。
【0020】
記憶部110は、各種情報や各種プログラムを記憶する。この記憶部は、特に、概念的な機能部として、画像データ記憶部111を備える。画像データ記憶部111は、CCDカメラ30によって撮影された画像を記憶する。
【0021】
制御部120は、OS(Operating System)などの制御プログラム、各種の処理手順などを規定したプログラムおよび所要データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する。この制御部120は、特に、概念的な機能部として、画像取得部121と、領域分割部122と、領域平均算出部123と、移動平均算出部124と、スラグ固化判定部125と、警報出力部126とを備える。
【0022】
画像取得部121は、CCDカメラ30によって経時的に連続して撮影されるスラグホール14の画像に関する画像データを取得し、取得した画像データを画像データ記憶部111に記憶させる。
【0023】
領域分割部122は、経時的に連続して撮影されるスラグホール14の画像を画像ごとに複数の領域に分割する。具体的には、この領域分割部122は、画像取得部121によって取得された画像データを画像データ記憶部111から順次読み出し、読み出した画像を、格子状に並べられた複数のブロックに分割する。
【0024】
領域平均算出部123は、領域分割部122によって分割されたブロックごとにブロックの平均明度を算出する。具体的には、この領域平均算出部123は、領域分割部122によって分割された複数のブロックそれぞれについて、ブロックに含まれる各画素の平均明度を算出する。
【0025】
ここで、領域平均算出部123が、複数に分割されたブロックごとに平均明度を算出することによって、燃焼光の照明条件が場所ごとに異なるような場合でも、それぞれの場所ごとに明度の変化を検出することができる。
【0026】
移動平均算出部124は、領域平均算出部123によって算出された平均明度の移動平均をブロックごとに算出する。具体的には、この移動平均算出部124は、領域分割部122によって分割された複数のブロックそれぞれについて、領域平均算出部123によって算出された平均明度の直近の所定時間内における移動平均を算出する。
【0027】
ここで、移動平均算出部124が、ブロックごとに平均明度の移動平均を算出することによって、時間方向に平均明度が平滑化されるので、断続的に排出口から噴出する炎の影響による画像の明るさのコマ単位(フレーム)での変動を除去することができる。これにより、断続的に排出口から炎が噴出する場合でも、炎による突発的な明度の変化を吸収することができる。
【0028】
スラグ固化判定部125は、移動平均算出部124によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下しているブロックの数を画像ごとに指標値としてカウント(計数)し、カウントした指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定する。
【0029】
図5は、スラグ固化判定部125によるスラグ固化の判定を説明するための図である。同図は、複数のブロックに分割された画像の一例を示している。同図に示すように、スラグ観測窓21を通して撮影された画像において、固化したスラグの部分は他の部分に比べて暗くなる。そのため、固化したスラグの部分を含んだブロックについては、平均明度が他のブロックに比べて低くなる。そして、時間の経過とともに固化したスラグの量が増えるにつれて、この平均明度が低下したブロックの数が増えてゆく。
【0030】
そこで、スラグ固化判定部125は、移動平均算出部124によって各ブロックの平均明度の移動平均が算出されたのちに、移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下しているブロック(図5に示す太い白枠のブロック)の数を、スラグの固化を判定するための指標値としてカウントする。そして、スラグ固化判定部125は、カウントした指標値が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていた場合には、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定する。
【0031】
なお、スラグ固化判定部125は、上述した指標値をカウントするたびに、平均明度の移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下しているブロックの数を新たにカウントしなおすこととする。具体的には、スラグ固化判定部125は、移動平均算出部124によって各ブロックの平均明度の移動平均が画像ごとに算出されるたびに、直前でカウントした指標値は無効にし、新たに算出された移動平均に基づいて、指標値となるブロックの数をカウントする。
【0032】
これにより、排出口から噴出する炎の影響などによって平均明度の移動平均が一時的に増加したブロックがあったとしても、次に指標値がカウントされる際に移動平均が下がっていれば、当該ブロックは指標値のカウントの対象外となる。したがって、スラグが流れる場所ごとに明度が不安定に変動するような場合でも、変動に応じて動的にスラグの固化を判定することができるようになる。
【0033】
警報出力部126は、スラグ固化判定部125によって排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定された場合に、運転者に溶融バーナーの点火を促すための警報を出力する。この警報出力部126は、例えば、溶融バーナーの点火を促すための警報として、ブザー音などの警告音を出力したり、図示していない表示装置に警告メッセージを出力したりする。
【0034】
次に、本実施例に係るスラグ固化判定装置の処理手順について説明する。図6は、本実施例に係るスラグ固化判定装置の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、スラグ固化判定装置100では、石炭ガス化炉10の運転中、CCDカメラ30が、スラグホール14の画像を撮影する(ステップS101)。
【0035】
そして、画像取得部121が、CCDカメラ30によって経時的に連続して撮影されるスラグホール14の画像に関する画像データを取得し、取得した画像データを画像データ記憶部111に記憶させる(ステップS102)。
【0036】
続いて、領域分割部122が、画像取得部121によって取得された画像データを画像データ記憶部111から順次読み出し、読み出した画像を、格子状に並べられた複数のブロックに分割する(ステップS103)。また、領域平均算出部123が、領域分割部122によって分割されたブロックごとに当該領域の平均明度を算出する(ステップS104)。
【0037】
続いて、移動平均算出部124が、領域平均算出部123によって算出された平均明度の移動平均をブロックごとに算出する(ステップS105)。また、スラグ固化判定部125が、移動平均算出部124によって算出された移動平均が初期値より所定の値以上低下しているブロックの数を画像ごとに指標値としてカウントする(ステップS106)。
【0038】
そして、スラグ固化判定部125によってカウントされた指標値が所定の閾値を超えていた場合には(ステップS107,Yes)、警報出力部126が、運転者に溶融バーナーの点火を促すための警報を出力する(ステップS108)。
【0039】
上述してきたように、本実施例では、領域分割部122が、経時的に連続して撮影されるスラグホール14の画像を画像ごとに複数のブロックに分割する。また、領域平均算出部123が、領域分割部122によって分割されたブロックごとにブロックの平均明度を算出する。また、移動平均算出部124が、領域平均算出部123によって算出された平均明度の移動平均をブロックごとに算出する。そして、スラグ固化判定部125が、移動平均算出部124によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を画像ごとに指標値としてカウントし、カウントした指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定する。
【0040】
かかる構成によれば、複数に分割されたブロックごとに、平均明度および移動平均が算出されるので、燃焼光の照明条件がスラグホール14の付近で場所ごとに異なるような場合でも、場所ごとに明度の変化を検出することができる。また、ブロックごとに平均明度の移動平均が算出されるので、時間方向に平均明度が平滑化される。その結果、断続的に排出口から噴出する炎の影響による画像の明るさのコマ単位(フレーム)での変動が除去される。すなわち、平均明度が時間方向に平滑化されることによって、断続的に排出口から炎が噴出する場合でも、炎による突発的な明度の変化が吸収される。
【0041】
したがって、本実施例によれば、炉内から噴出する炎や燃焼光による影響を受けることなく、溶融バーナーの適切な点火時期を自動的に判定することができる。
【0042】
なお、本実施例では、スラグ固化判定部125が、指標値をカウントするたびに指標値を新たにカウントしなおすこととした。しかしながら、本発明はこれに限られるわけではなく、例えば、スラグ固化判定部125が、指標値をカウントする際に、過去に一度でもカウントされたブロック(以下、「カウント済みブロック」と呼ぶ)を除いた残りのブロックのうち、移動平均が初期値から所定の値以上低下している領域の数をカウントし、カウントしたブロックの数とカウント済みブロックの数との合計を指標値とするようにしてもよい。
【0043】
この場合、例えば、スラグ固化判定部125は、指標値をカウントするたびに、カウントしたブロック、すなわち、カウント済みブロックに関する情報を内部メモリなどに記憶させておく。そして、新たに指標値をカウントする際には、スラグ固化判定部125は、記憶されているカウント済みブロックを除いた残りのブロックのうち、移動平均が初期値から所定の値以上低下しているブロックの数をカウントする。その後、スラグ固化判定部125は、カウントしたブロックの数と、記憶されているカウント済みブロックの数との合計を算出し、算出した合計を、スラグの固化を判定するための指標値とする。
【0044】
これにより、いったん指標値のカウントの対象となったブロックは、以降で行われる指標値のカウントでは対象外となるので、移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下しているか否かを判定するブロックの数が減ることになり、指標値のカウントに関する処理の負荷を軽減することができる。
【0045】
また、本実施例では、警報出力部126が、スラグ固化判定部125によって排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定された場合に、運転者に溶融バーナーの点火を促すための警報を出力することとした。しかしながら、本発明はこれに限られるわけではなく、例えば、スラグ固化判定部125の判定結果に基づいて、溶融バーナーの点火を制御するようにしてもよい。
【0046】
この場合、例えば、溶融バーナーの点火を制御する点火制御手段を石炭ガス化炉10に設けておく。そして、スラグ固化判定部125が、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定された場合に、溶融バーナーを点火するよう指示する制御信号を点火制御手段に送信する。さらに、例えば、点火を指示する制御信号を送信したのちに、スラグ固化判定部125が、移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下しているブロックの数がゼロとなった場合に、溶融バーナーを消化するよう指示する制御信号を点火制御手段に送信するようにしてもよい。
【0047】
このように、スラグ固化判定部125の判定結果に基づいて溶融バーナーの点火を制御することによって、溶融バーナーが必要に応じて自動的に点火または消化されるので、固化したスラグの溶融に関する運転者の負担を軽減することができる。
【0048】
以上、本実施例に係るスラグ固化判定装置100の構成および処理手順をもとに、本実施例に係るスラグ固化判定を説明した。さらに、ここでは、本実施例におけるスラグ固化判定の指標の有効性を示すために、実験結果をもとに、本実施例における指標と従来の方法における指標とを比較評価した結果を示す。なお、ここでは、従来の方法における指標として、高輝度部分の面積と、中間輝度部分の平均輝度とを用いた。
【0049】
まず、この比較評価における指標の評価方法について説明する。比較評価に際して行った実験では、正常運転状態から溶融バーナーを点火する直前までを1つのファイルとした54個の映像ファイルについて、本実施例における指標と、従来の方法における指標を算出した。実験に用いた各映像ファイルは、すべて、画像サイズが720×480画素であり、フレーム数(画像枚数)が30フレーム/秒、色数がRGBカラー各8bit(0〜255)である。ここで、いずれの映像ファイルにおいても、映像開始時点にはスラグホール付近に固化スラグはない。また、映像終了時点は、溶融バーナーを点火する直前であり、スラグの固化が石炭ガス化炉の運転に悪影響を与えるほど進展した状態である。
【0050】
そこで、この比較評価では、映像開始時点における指標値と映像終了時点における指標値とを比較し、指標値に差があれば、指標値はスラグの固化の有無を識別するのに有効であると判断する。一方、指標値に差がないか、または、全映像における指標値の差の符号が一致していなければ、無効であると判断する。
【0051】
次に、この比較評価において比較指標として取り上げた従来の指標について説明する。1つ目の指標値は、高輝度部分の面積である。この指標は、撮影された画像において明度の高い領域の面積を指標値とするものであり、固化したスラグによってさえぎられる燃焼部の面積と、流動しているスラグの面積とを合わせることによって表現されるので、スラグの固化状態を間接的に表すことができる。以下では、この指標を「面積指標」と呼ぶ。
【0052】
2つ目の指標値は、中間輝度部分の平均輝度である。この指標は、明度の変化をスラグ観測窓全体で評価することで、大まかなスラグの固化状態を表現するものである。以下では、この指標を「平均明度」と呼ぶ。
【0053】
次に、比較評価に際して行った実験における各指標値の具体的な設定条件について説明する。なお、以下に示す設定条件において、明度は0から255の値をとることとする。
【0054】
まず、本実施例における指標に関する設定条件は、以下の通りである。
(1)画像を20×20画素のブロック(横36個×縦24個)に分割し、平均明度を
算出する。
(2)ブロックごとに300フレーム(10秒分)の平均明度の移動平均を算出する。
(3)それぞれのブロックで、移動平均値が初期値より30パーセント低下した領域を
スラグ固化領域とし、スラグ固化領域のブロック数を指標値とする。
(4)各映像の値から、明度が50以下の領域をスラグ観測窓外の領域とする。
(5)本実施例における指標は増化関数であるが、他の指標が減少関数であるため、
ここでは、スラグ観測窓内全体のブロック数を初期値とし、その初期値から指標
値を引いた値を新たに指標値とする。
【0055】
また、面積指標の設定条件は、以下の通りである。
(1)全画像を目視で確認し、明度が240以上の領域を明るい領域とする。
(2)300フレーム(10秒分)の移動平均を算出する。
【0056】
また、平均明度の設定条件は、以下の通りである。
(1)各映像の値から、明度が50以下の領域をスラグ観測窓外の領域とする。
(2)300フレーム(10秒分)の移動平均を算出する。
【0057】
次に、実験において算出された各指標の一例について説明する。図7は、各指標の時系列変化の一例を示す図である。同図に示すグラフは、本実験で用いた54ファイルの映像ファイルのうちの1つのファイルについて、本実施例における指標と従来の指標とを算出した結果を示している。
【0058】
具体的には、同図の(a)は、映像開始時点から映像終了時点までの本実施例における指標(無変化ブロック数)の時系列変化を示している。また、同図の(b)は、映像開始時点から映像終了時点までの面積指標(面積(画素))の時系列変化を示している。また、同図の(c)は、映像開始時点から映像終了時点までの平均明度(明度平均)の時系列変化を示している。同図に示すように、いずれの指標についても、開始時点から終了時点に向けて指標値が減少していることがわかる。
【0059】
次に、前述した評価方法に基づいて指標を比較評価した結果について説明する。図8は、指標の比較評価結果を示す図である。同図に示すグラフは、実験の対象となった54個の映像ファイルについて、それぞれ映像開始時点と映像終了時点の指標値の差を算出し、算出した差が小さいものから大きいものの順でファイルを並べた結果を示している。なお、同図において、縦軸に設定されている映像開始時点と映像終了時点の指標値の差は、各指標値について、算出した差を最大値で正規化した値を用いている。
【0060】
同図に示すように、本実施例における指標については、すべての映像ファイルにおいて映像開始時点と映像終了時点の指標値の差がすべて正となるが、従来の指標(面積指標、平均明度)については、差が正負両方の値となる映像ファイルが混在している。
【0061】
ここで、差が負となっている映像ファイルは、その映像ファイルにおいて、初期値と終了値との関係が想定と逆になっていることを示している。このように差が負となっている映像ファイルは、指標を面積指標とした場合に12個、平均明度とした場合に2個、それぞれ存在している。これらの映像ファイルについては、スラグの固化に関する判定が全く行えないことになる。
【0062】
また、同図のグラフにおいて、差が正となっている部分について比較すると、本実施例における指標については、面積指標や平均明度と比べて初期値と終了値との差が大きい。そのため、本実施例における指標では、スラグが固化しているか否かを判定するための閾値を容易に設定することができる。
【0063】
このように、本実施例における指標は、従来の方法における指標と比べて初期値と終了値が大きく、さらに、全映像における指標値の差の符号も一致していることから、スラグの固化を判定するための判定指標として有効性が高いと判断することができる。
【0064】
なお、平均明度の移動平均を算出する際の所定時間は、長く設定するほど、平滑化の効果が得られる。しかし、この所定時間を長く設定すると、その時間の長さだけ、スラグの固化が起こってから警報が発せられるまでの時間が長くなる。したがって、平均明度の移動平均を算出する所定時間は、スラグの固化速度と誤警報の兼ね合いで最適な値を設定する。
【0065】
また、画像を複数のブロックに分割する際のブロックサイズは、小さすぎると、微細なノイズを固化スラグとして認識する場合が増え、大きすぎると、固化スラグを捉えることができない場合が増える。また、ブロックサイズを小さくすると、ブロック数が多くなるため移動平均の算出に時間がかかる。したがって、画像を複数のブロックに分割する際のブロックサイズは、要求される判定精度と、装置の処理性能に応じて最適な値を設定する。
【0066】
また、指標値としてブロックをカウントする際に、カウントの対象とするか否かを判定するための初期値に対する明度低下の閾値は、低く設定すると、少しの変化でもスラグが固化したとみなされてしまい、高く設定すると、明度が大きく変化してもスラグが固化したと判定されないようになる。したがって、初期値に対する明度低下の閾値は、実際のスラグの固化状態に一致するように、実測結果などに基づいて適切な値を設定する必要がある。
【0067】
なお、本実施例では、石炭ガス化炉に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、廃棄物溶融炉など、他の溶融炉にも同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係るスラグ固化判定装置、スラグ固化判定プログラムおよびスラグ固化判定方法は、石炭ガス化炉や廃棄物溶融炉などの溶融炉に有用であり、特に、炉内から噴出する炎や燃焼光による画像への影響を受けることなく、溶融バーナーの適切な点火時期を自動的に判定することが求められる場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施例に係る石炭ガス化炉の概要を説明するための図である。
【図2】本実施例に係る石炭ガス化炉に設けられたスラグ観測窓を示す図である。
【図3】CCDカメラによって撮影される画像を示す図である。
【図4】本実施例に係るスラグ固化判定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図5】スラグ固化判定部によるスラグ固化の判定を説明するための図である。
【図6】本実施例に係るスラグ固化判定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】各指標の時系列変化の一例を示す図である。
【図8】指標の比較評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 石炭ガス化炉
11 圧力容器
12 リダクタ
13 コンバスタ
14 スラグホール
20 観測窓基台
21 スラグ観測窓
30 カメラ
100 スラグ固化判定装置
110 記憶部
111 画像データ記憶部
120 制御部
121 画像取得部
122 領域分割部
123 領域平均算出部
124 移動平均算出部
125 スラグ固化判定部
126 警報出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉から排出されるスラグの固化を判定するスラグ固化判定装置であって、
経時的に連続して撮影される前記スラグの排出口の画像を画像ごとに複数の領域に分割する領域分割手段と、
前記領域分割手段によって分割された領域ごとに当該領域の平均明度を算出する領域平均算出手段と、
前記領域平均算出手段によって算出された平均明度の移動平均を前記領域ごとに算出する移動平均算出手段と、
前記移動平均算出手段によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を前記画像ごとに指標値として計数し、計数した指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定するスラグ固化判定手段と、
を備えたことを特徴とするスラグ固化判定装置。
【請求項2】
前記スラグ固化判定手段は、前記指標値を計数するたびに、前記移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を新たに計数しなおすことを特徴とする請求項1に記載のスラグ固化判定装置。
【請求項3】
前記スラグ固化判定手段は、前記指標値を計数する際に、過去に一度でも計数された計数済み領域を除いた残りの領域のうち、前記移動平均が初期値から所定の値以上低下している領域の数を計数し、計数した領域の数と前記計数済み領域の数との合計を前記指標値とすることを特徴とする請求項1に記載のスラグ固化判定装置。
【請求項4】
溶融炉から排出されるスラグの固化を判定するスラグ固化判定プログラムであって、
経時的に連続して撮影される前記スラグの排出口の画像を画像ごとに複数の領域に分割する領域分割手順と、
前記領域分割手順によって分割された領域ごとに当該領域の平均明度を算出する領域平均算出手順と、
前記領域平均算出手順によって算出された平均明度の移動平均を前記領域ごとに算出する移動平均算出手順と、
前記移動平均算出手順によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を前記画像ごとに指標値として計数し、計数した指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定するスラグ固化判定手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするスラグ固化判定プログラム。
【請求項5】
スラグを排出する溶融炉システムに適用されるスラグ固化判定方法であって、
経時的に連続して撮影される前記スラグの排出口の画像を画像ごとに複数の領域に分割する領域分割工程と、
前記領域分割工程によって分割された領域ごとに当該領域の平均明度を算出する領域平均算出工程と、
前記領域平均算出工程によって算出された平均明度の移動平均を前記領域ごとに算出する移動平均算出工程と、
前記移動平均算出工程によって算出された移動平均が初期値と比べて所定の値以上低下している領域の数を前記画像ごとに指標値として計数し、計数した指標値が所定の閾値を超えた場合に、排出不全を起こしうる量のスラグが固化したと判定するスラグ固化判定工程と、
を含んだことを特徴とするスラグ固化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−281603(P2009−281603A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131771(P2008−131771)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】