説明

スラスト支持装置

【課題】潤滑に低粘度液(例えば水)を用いても起動・停止時における摩擦係数を大幅に低減することができ、運転中の全速度範囲における摩擦・摩耗量を大幅に低減することができるスラスト支持装置を提供する。
【解決手段】スラスト軸受14が、カラー12の摺動面11と平行なランド部16と、摺動面11に対し傾斜し相対的回転によりカラーとの間の潤滑液に動圧を発生させるテーパ部17とを有する。摺動面11の平均面粗さとランド部16の平均面粗さから算出される合成面粗さが、使用回転速度域において摺動面とランド部との間に形成される潤滑液の膜厚さより小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機、水中ポンプ、燃料ポンプ等のスラストを支持するスラスト支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水噴射式スクリュー圧縮機において、軸受部にも潤滑油を使用しないものが既に提案されている(例えば、特許文献1,2)。
また、水又は水のような低粘度液で潤滑してスラストを支持するスラスト軸受として、例えば特許文献3〜8が既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−310079号公報、「水潤滑式スクリュー圧縮機」
【特許文献2】特表2004−531666号公報、「水噴射式スクリュー圧縮機」
【特許文献3】特開平6−288411号公報、「スラスト軸受装置」
【特許文献4】特許第3963994号公報、「水潤滑軸受又は水潤滑シール及び流体機械」
【特許文献5】特開平11−351242号公報、「低粘度液潤滑軸受」
【特許文献6】特開昭61−99718号公報、「スラスト軸受」
【特許文献7】特開2002−206522号公報、「スラスト軸受」
【特許文献8】特開2011−7243号公報、「水潤滑用スラスト軸受の構造」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の水噴射式スクリュー圧縮機、及びスラスト軸受は、以下の3種に大別することができる。
(1) 摺動面にセラミック材、カーボン、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)、フェノール樹脂、軟質金属、等を用いたもの(特許文献1〜3)。
(2) 摺動面に耐摩耗性の高い材料やコーティングを用いたもの(特許文献4)。
(3) 摺動面に凹凸や動圧を発生させる溝を設けたもの(特許文献5〜8)。
【0005】
しかし、PEEK、フェノール樹脂などの樹脂材料は、摺動面同士が直接接触する境界潤滑領域で使用するため、摩擦係数が比較的高く(例えば0.1以上)、かつ低強度、低ヤング率、及び膨潤性により変形や摩耗が生じやすいため寿命が短い問題点がある。
【0006】
また、セラミック材やカーボンは、水中での摺動特性には優れているが、同様に境界潤滑領域で使用するため、摩擦係数が比較的高く(例えば0.1以上)、相手面となる材料の耐摩耗性が問題点となる。
【0007】
さらに、摺動面に耐摩耗性の高い材料やコーティングを用いた場合(特許文献4)や摺動部に微細な凹凸を付与した場合(特許文献5)も、境界潤滑領域で使用するため、摩擦係数が比較的高く(例えば0.1〜0.4)、耐摩耗性が問題となる。
特に微細な凹凸を付与した場合、摩耗によって凹凸が減少することや摩耗粉が凹部に堆積し、動圧効果が発揮されない状態に陥る可能性がある。
【0008】
また、摺動面に動圧を発生させる溝を設けた場合(特許文献6〜8)には、流体潤滑領域では摩擦係数が低く(例えば0.01以下)、摩耗が生じないが、起動・停止時に境界潤滑領域となり、摩擦係数が比較的高く(例えば0.1以上)、耐摩耗性が問題となる。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、潤滑に低粘度液(例えば水)を用いても起動・停止時における摩擦係数を大幅に低減することができ、運転中の全速度範囲における摩擦・摩耗を大幅に低減することができるスラスト支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、回転軸に直交する摺動面を有するカラーと、該摺動面に沿って相対的に回転するスラスト軸受とを備え、回転軸のスラスト荷重を支持するスラスト支持装置であって、
前記スラスト軸受は、前記摺動面と平行なランド部と、前記摺動面に対し傾斜し前記相対的回転によりカラーとの間の潤滑液に動圧を発生させるテーパ部とを有し、
前記摺動面の平均面粗さと前記ランド部の平均面粗さから算出される合成面粗さが、使用回転速度域において摺動面とランド部との間に形成される潤滑液の膜厚さより小さく設定されている、ことを特徴とするスラスト支持装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
カラーの摺動面とスラスト軸受のランド部との間に発生する潤滑液の動圧は、起動・停止時には小さいので、その間が直接接触する境界潤滑領域となる可能性がある。
【0012】
しかし、本発明の構成によれば、カラーの摺動面の平均面粗さとスラスト軸受のランド部の平均面粗さから算出される合成面粗さが、使用回転速度域において摺動面とランド部との間に形成される潤滑液の膜厚さより小さく設定されているので、その間を起動・停止時においても流体潤滑に近い状態に保つことができる。
【0013】
また、この設定は、カラーが樹脂を含浸したカーボン材である場合、その表面粗さは一般に金属面より粗いが、カラーより硬く、かつ平均面粗さがカラーに対して同等以下の金属面であるランド部を用いて、摩擦係数が0.02以下になるまで使用回転速度域において慣らし運転によりなじませることにより、容易に達成することができる。
【0014】
従って、本発明の構成によれば、潤滑に低粘度液(例えば水)を用いても起動・停止時における摩擦係数を大幅に低減することができ、運転中の全速度範囲における摩擦・摩耗量を大幅に低減することができる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるスラスト支持装置の実施形態図である。
【図2】図1のA−A矢視図とそのB−B矢視図である。
【図3】使用した試験装置の部分断面図である。
【図4】スラスト荷重(横軸)と水膜厚さ(縦軸)との関係図である。
【図5】試験前後における表面粗さの比較図である。
【図6】スラスト荷重を徐々に増加させた場合の摩擦係数の変化を示す図である。
【図7】起動・停止の繰返し数と摩耗量との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明によるスラスト支持装置の実施形態図である。なお、この図は主要部を断面で示している。
この図において、本発明のスラスト支持装置10は、カラー12とスラスト軸受14とを備える。
この例において、スラスト軸受14は、固定部材4にボルト等で固定されており、カラー12は、回転軸1に固定された中空円形の回転円板3の表面(図で右側面)にボルト等で固定されている。
【0018】
カラー12は、回転軸1に直交する摺動面11を有し、スラスト軸受14は、カラー12の摺動面11に沿って相対的に回転する。以下、カラー12の摺動面11を「カラー摺動面」と呼ぶ。
【0019】
カラー12とスラスト軸受14の対向面には、潤滑液が供給され、潤滑液で潤滑しながら回転軸1のスラスト荷重2を支持するようになっている。
潤滑液は、好ましくは潤滑水であるが、その他の液体(エマルジョン液、潤滑油)でもよい。また、スラスト支持装置10を潤滑液中で使用するのが好ましいが、カラー12とスラスト軸受14の対向面に向けて潤滑液を連続的又は断続的に供給してもよい。
【0020】
図2(A)は、図1のA−A矢視図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B矢視図である。
図2(A)(B)に示すように、スラスト軸受14は、摺動面11(カラー摺動面)に対向する対向面15に、複数のランド部16、複数のテーパ部17、及び複数の溝18を有する。以下、スラスト軸受14のランド部16を「軸受ランド部」と呼ぶ。
【0021】
この例でスラスト軸受14は、固定部材4(図1参照)に固定された中空円板(中空円形の固定円板)であり、中央に回転軸1(図1参照)が貫通する貫通孔を有する。しかしスラスト軸受14は、固定部材4に固定された円形の固定円板であってもよい。
【0022】
この例において、ランド部16(軸受ランド部)、テーパ部17、溝18の順で、周方向に等間隔(60°毎)に6つずつ6組設けられている。しかし、本発明は等間隔に限定されず、不等間隔でもよい。また、軸受ランド部16、テーパ部17、及び溝18は2組以上であればよい。
【0023】
複数(この例で6)のテーパ部17は、カラー摺動面11に対向し、カラー摺動面11の相対的な回転方向5(この例で回転軸1の回転方向)に沿ってカラー摺動面11との隙間がテーパ状に狭くなっている。この例でテーパ部17の周方向角度は約40°(図中θ1)である。またテーパ部17の軸方向距離(図中のC)は、約0.02mmである。なおテーパ部17の角度と長さは、任意であり、使用回転速度域においてカラー摺動面11との間の潤滑液に動圧を発生させ、流体潤滑状態が得られるように設定するのがよい。
【0024】
複数(この例で6)の軸受ランド部16は、各テーパ部17に連結して位置し、カラー摺動面11との隙間が一定になっている。この例で軸受ランド部16の周方向角度は約20°(図中θ2)である。なお軸受ランド部16の大きさは、任意であり、カラー摺動面11との間に発生する液圧によりスラスト荷重を支持する所望の負荷容量が得られるように設定するのがよい。
【0025】
複数(この例で6)の溝18は、テーパ部17の隙間が最大の位置とランド部18の間に設けられ、半径方向内端から外端まで延びる。
溝18は、この例において、内方端から外方端まで直線的に延びる半径溝である。
なお、溝18はこの例に限定されず、例えばスパイラル形状であってもよい。
【0026】
図1において、カラー12は、樹脂を含浸したカーボン材であることが好ましい。
【0027】
表1は、後述する実施例で使用したカーボン材A,B,Cの特性比較表である。
この表において、Aは、本発明で使用した樹脂含浸カーボン材(東洋炭素株式会社製の型式KC−673)、Bは、炭素黒鉛質のカーボン材、Cは、Aと同様の樹脂含浸カーボン材である。
この表から、カーボン材Aは、カーボン材B,Cと比較して、硬さが20%以上硬く、曲げ強さが35%以上強く、圧縮強さが65%以上強いことがわかる。
【0028】
【表1】

【0029】
上述したカーボン材A,B,Cの平均面粗さRaは、通常の機械加工後において、それぞれAは0.1〜0.2μm、Bは0.7〜1.4μm、Cは2.4〜2.8μmであり、カーボン材Aは、カーボン材B,Cと比較して、最大でも1/3以下である。
【0030】
また、後述する実施例において、スラスト軸受14の素材として、耐腐食性を有する析出効果系のステンレス材(SUS630)を用いた。
また、軸受ランド部16に、固溶化熱処理と析出効果熱処理(H900)を施し、軸受ランド部16をカーボン材Aより硬く、かつ平均面粗さをカーボン材Aと同等以下の金属面に形成した。
後述する実施例における軸受ランド部16のロックウェル硬さはHRC42であり、軸受ランド部16の平均面粗さRaは、0.1〜0.15μmであった。
【0031】
本発明のスラスト支持装置10は、カラー摺動面11の平均面粗さRaと軸受ランド部16の平均面粗さRaから算出される合成面粗さσが、使用回転速度域においてカラー摺動面11と軸受ランド部16との間に形成される潤滑液の膜厚さHより小さく設定されている。
【0032】
さらに、合成面粗さσの3倍が潤滑液の膜厚さHより小さいことが好ましい。
合成面粗さσは、近似的に平均面粗さRaから以下の式で算出できる。
【0033】
σ/Ra=(π/2)0.5≒1.25・・・(1)
σ/Ra=(π/2)0.5≒1.25・・・(2)
σ=(σ+σ0.5・・・(3)
ここで、σ(n=1,2)は自乗平均平方根粗さ、σは合成粗さである。
【0034】
また、本発明では、カラー12と軸受ランド部16は、摩擦係数が0.02以下になるまで使用回転速度域において慣らし運転によりなじませてある。
この慣らし運転によるなじみにより、カラー12と軸受ランド部16の両方の平均面粗さRaをより小さくすることができ、合成面粗さσが使用回転速度域においてカラー摺動面11と軸受ランド部16との間に形成される潤滑液の膜厚さHより小さくなり、その間を起動・停止時においても流体潤滑状態に近い状態に保つことができることが後述する実施例により確認された。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明する。
図3は、使用した試験装置の部分断面図である。なお、この図は主要部を断面で示している。この試験装置は、図1に示したスラスト支持装置10を模擬したものである。
カラー12は、回転軸1に固定された中空円形の回転円板3の表面(図で右側面)に固定(例えば、あて板とボルト等の固定手段20aで固定)し、回転軸1をモータ(図示せず)で軸線を中心に回転駆動した。
スラスト軸受14は、固定部材4に固定(例えば、ボルト等の固定手段20bで固定)し、固定部材4を介してスラスト荷重2を負荷した。
潤滑液として潤滑水を用い、固定部材4に設けた貫通穴からスラスト支持装置10の内側に潤滑水を供給した。この潤滑水は、図に破線の矢印で示す経路を経て、カラー12とスラスト軸受14の対向面に供給され、遠心力により、スラスト支持装置10の外方に排出される。
【0036】
図4は、図3の試験装置におけるスラスト荷重(横軸)と水膜厚さ(縦軸)との関係図である。なお図中の4本の曲線は、回転軸1の回転速度(5400、3750、675、500rpm)に対応している。
この図における500〜5400rpmの回転速度は、スラスト支持装置10の使用回転速度域に相当する。また、スラスト荷重4kN(約400kgf)はスラスト支持装置10の定格面圧0.67MPaに相当する。
図4から、使用回転速度域においてカラー摺動面11と軸受ランド部16との間に形成される潤滑液の膜厚さは、最低回転速度(500rpm)において、1.0〜4.5μmの範囲にあることがわかる。
【0037】
一般的に、潤滑液の膜厚さHが軸受の合成面粗さσの3倍を超える場合に流体潤滑状態となる。従って、図4から最低回転速度(500rpm)において、合成面粗さσが0.3〜1.5μmの範囲にあれば流体潤滑状態となることが予想される。
【実施例2】
【0038】
図5は、試験前後における表面粗さの比較図であり、(A)は軸受ランド部16の表面粗さ、(B)はカラー摺動面の表面粗さである。なお図5(A)(B)において、軸受ランド部16はステンレス材(SUS630)であり、図中のA,B,Cは、対向するカーボン材を示している。
【0039】
図5(A)に示すように、軸受ランド部16の平均面粗さRaは、試験前に0.10〜0.15μmの範囲であった。
しかし、対向するカーボン材がCの場合、最低回転速度(500rpm)における試験後の平均面粗さRaが、約0.34μmまで大幅に増大している。これは、カーボン材Cの構成材の一部が軸受ランド部16に付着し、軸受ランド部16の平均面粗さRaを悪化させたためと考えられる。
【0040】
また図5(B)に示すように、カーボン材A,B,Cの平均面粗さRaは、試験前にカーボン材Aが0.1〜0.2μm、カーボン材Bが1.3〜1.4μm、カーボン材Cが2.7〜2.8μmの範囲であった。
一方、試験後の平均面粗さRaは、カーボン材Aが試験前とほぼ同一であるのに対し、カーボン材B,Cでは、大幅に小さくなっている。これは、試験によりカーボン材B,Cの凸部が摩耗し、凹凸高さが低くなったためと考えられる。
【0041】
上述した結果から、カーボン材Cは、軸受ランド部16の平均面粗さRaを悪化させるため、本発明のカラー12には不適当であることがわかる。
また、この例において、カーボン材Aの平均面粗さRaは0.1〜0.2μm、軸受ランド部16の平均面粗さRaは0.10〜0.15μmであるので、合成面粗さσは近似的に0.18〜0.31μmとなる。
従って、カーボン材Aの場合、合成面粗さσの3倍(0.54〜0.93μm)が潤滑液の膜厚さH(1.0〜4.5μm)より実質的に小さくなっており、流体潤滑状態となることが予想される。
【実施例3】
【0042】
図6は、スラスト荷重2を徐々に増加させた場合の摩擦係数μの変化を示す図である。この図において、(A)は回転速度500rpmでスラスト荷重が0.4kN〜6.5kNの範囲の場合、(B)は回転速度2000rpmでスラスト荷重が0.4kN〜19kNの範囲の場合であり、図中の各曲線は、カーボン材A,B,Cである場合を示している。
この図において、摩擦係数μが0.1を超える範囲は、摺動面が直接接触する境界潤滑領域であり、0.1以下、0.01以上の範囲は混合潤滑領域であり、0.01未満の範囲は流体潤滑領域である。
【0043】
図6(A)(B)において、スラスト荷重2が小さい範囲(0.4kN〜1.0kN)では、いずれのカーボン材でも摩擦係数μが0.1を超える境界潤滑領域になっている。この境界潤滑領域では、カラー12と軸受ランド部16が起動・停止時に直接接触する可能性があり、硬さの低いカラー12が摩耗する可能性がある。
【0044】
図6(A)において、スラスト荷重2を徐々に増加させると、カーボン材A,Bでは徐々に摩擦係数μが低下するが、カーボン材Cでは一旦は下降するが、その後、5kN付近から急激に上昇した。
同様に図6(B)において、スラスト荷重2を徐々に増加させると、カーボン材Aでは徐々に摩擦係数μが低下し0.01以下に達するが、カーボン材B,Cは一旦は下降するが、その後、3kN付近から急激に上昇した。
【0045】
上述した結果から、カーボン材Aは、使用回転速度域(この例では、500rpmと2000rpm)において、スラスト荷重を最小の0.4kNから徐々に増加させる慣らし運転によりなじませることにより、摩擦係数μを0.01以下まで低下させることができることがわかる。
また、この慣らし運転による「なじみ」により、その後は、カラー摺動面11の平均面粗さとスラスト軸受14のランド部の平均面粗さから算出される合成面粗さσが、使用回転速度域において摺動面とランド部との間に形成される潤滑液の膜厚さより小さく設定されるので、その間を起動・停止時においても流体潤滑状態に保つことができる。
【0046】
一方、カーボン材B,Cは、使用回転速度域において慣らし運転を行った場合でも、スラスト荷重を最小の0.4kNから徐々に増加させると、摩擦係数が途中から急増するため、本発明のカラー12には不適当であることがわかる。
【実施例4】
【0047】
図7は、起動・停止の繰返し数と摩耗量との関係図である。この図における2本の線は、カーボン材A,Bの場合を示している。なお、この試験は、上述した慣らし運転後に実施した。
起動・停止の条件は、回転速度を最低回転速度(500rpm)、スラスト荷重を定格(400kgf)、面圧を定格面圧(0.67MPa)とした。
この図から、カーボン材Aの場合、繰返し数1000サイクル以降は、摩耗量が増加せず、そのまま長期間使用できることがわかる。また、カーボン材Bの場合は、繰返し数3000サイクルまでは摩耗量が増加するが、それ以降は、摩耗量が増加せず、そのまま長期間使用できることがわかる。
【0048】
上述したように、本発明の構成によれば、カラー摺動面11の平均面粗さとスラスト軸受14の軸受ランド部16の平均面粗さから算出される合成面粗さσが、使用回転速度域においてカラー摺動面11と軸受ランド部16との間に形成される潤滑液(例えば潤滑水)の膜厚さより小さく設定されているので、その間を起動・停止時においても流体潤滑に近い状態に保つことができる。
【0049】
また、この設定は、カラー12が樹脂を含浸したカーボン材である場合、その表面粗さは一般に金属面より粗いが、カラー12より硬く、かつ平均面粗さがカラー12に対して同等以下の金属面である軸受ランド部16を用いて、カラー12と軸受ランド部16を、摩擦係数が0.02以下になるまで使用回転速度域において慣らし運転によりなじませることにより、容易に達成することができる。
【0050】
従って、起動・停止時は、軸受の軸受ランド部16とカーボン材が接触するが、摩擦係数が小さいため、流体潤滑状態に近く、摩耗がほとんど発生しない。また回転速度が高くなるにつれて、テーパ部17のくさび効果により潤滑膜ができ、流体潤滑状態となるため、さらに摩擦係数が小さくなる。
【0051】
従って、本発明の構成によれば、潤滑に低粘度液(例えば水)を用いても起動・停止時における摩擦係数を大幅に低減することができ、運転中の全速度範囲における摩擦・摩耗量を大幅に低減することができる。
【0052】
なお、スラスト軸受14は、上述したテーパランド型に限定されず、外周部に壁を設けて潤滑液を漏れにくくしたダム付のテーパランド型であってもよい。
ダム付とは、軸受である。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0054】
1 回転軸、2 スラスト荷重、
3 回転円板、4 固定部材、
10 スラスト支持装置、
11 摺動面(カラー摺動面)、
12 カラー、14 スラスト軸受、
15 対向面、
16 ランド部(軸受ランド部)、
17 テーパ部、18 溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に直交する摺動面を有するカラーと、該摺動面に沿って相対的に回転するスラスト軸受とを備え、回転軸のスラスト荷重を支持するスラスト支持装置であって、
前記スラスト軸受は、前記摺動面と平行なランド部と、前記摺動面に対し傾斜し前記相対的回転によりカラーとの間の潤滑液に動圧を発生させるテーパ部とを有し、
前記摺動面の平均面粗さと前記ランド部の平均面粗さから算出される合成面粗さが、使用回転速度域において摺動面とランド部との間に形成される潤滑液の膜厚さより小さく設定されている、ことを特徴とするスラスト支持装置。
【請求項2】
前記合成面粗さの3倍が前記潤滑液の膜厚さより小さい、ことを特徴とする請求項1に記載のスラスト支持装置。
【請求項3】
前記カラーは、樹脂を含浸したカーボン材であり、
前記ランド部は、前記カラーより硬く、かつ平均面粗さがカラーに対して同等以下の金属面であり、
前記カラーとランド部は、摩擦係数が0.02以下になるまで前記使用回転速度域において慣らし運転によりなじませてある、ことを特徴とする請求項1に記載のスラスト支持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−219866(P2012−219866A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84204(P2011−84204)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】