説明

スラスト滑り軸受

【課題】潤滑剤を長期に亘って摺動面に介在させることができる上に、斯かる潤滑剤をスラスト荷重受けにも利用でき、而して、スラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、長期の使用でも斯かる低い摩擦係数を維持できる上に、摺動面での摩擦音の発生がなく、しかも、ころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し得るスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】スラスト滑り軸受1は、環状面2を有する上ケース3と、上ケース3に当該上ケース3の軸心Oの回りでR方向に回転自在となるように重ね合わされると共に上ケース3の環状面2に対面した環状面4を有する環状の下ケース5と、互いに重ね合わされて両環状面2及び4間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片6及び弾性リング7とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト滑り軸受、特に四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)の滑り軸受として組込まれて好適なスラスト滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ストラット型サスペンションは、主として四輪自動車の前輪に用いられ、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルばねを組合せたものである。斯かるサスペンションは、ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を積極的にオフセットさせ、該ストラットに内蔵されたショックアブソーバのピストンロッドの摺動を円滑に行わせる構造のものと、ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を一致させて配置させる構造のものとがある。いずれの構造においても、ステアリング操作によりストラットアッセンブリがコイルばねと共に回転する際、当該回転を円滑に行わせるべく車体の取付部材とコイルばねの上部ばね座との間にスラスト軸受が配されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−303873号公報
【特許文献2】特開2002−257146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このスラスト軸受には、ボール若しくはニードルを使用したころがり軸受又は合成樹脂製の滑り軸受が使用されている。しかしながら、ころがり軸受は、微少揺動及び振動荷重等によりボール若しくはニードルに疲労破壊を生ずる虞があり、円滑なステアリング操作を維持し難いという問題がある。滑り軸受は、ころがり軸受に比べて摩擦トルクが高いので、スラスト荷重が大きくなると摩擦トルクが大きくなり、ステアリング操作を重くする上に、合成樹脂の組合せによっては、スティックスリップ現象を生じ、往々にして当該スティックスリップ現象に起因する摩擦音を発生するという問題がある。
【0005】
また滑り軸受にはグリース等の潤滑剤が適用されるのであるが、斯かる潤滑剤が摺動面に所望に介在する限りにおいては、上記のような摩擦音は殆ど生じないのであるが、長期の使用による潤滑剤の消失等で摩擦音が生じ始める場合もあり得る。
【0006】
なお、上記の問題は、ストラット型サスペンションに組込まれるスラスト滑り軸受に限って生じるものではなく、一般のスラスト滑り軸受においても同様に生じ得るのである。
【0007】
本発明は前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、グリース等の潤滑剤を長期に亘って摺動面に介在させることができる上に、斯かる潤滑剤をスラスト荷重受けにも利用でき、而して、スラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、長期の使用でも斯かる低い摩擦係数を維持できる上に、摺動面での摩擦音の発生がなく、しかも、ストラット型サスペンションにスラスト滑り軸受として組込んでもころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し得る上に乗り心地を向上できるスラスト滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様のスラスト滑り軸受は、環状面を有した第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状面に対面した環状面を有する第二の軸受体と、互いに重ね合わされて両環状面間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片及び弾性リングとを具備しており、ここで、スラスト滑り軸受片は、環状板部と、この環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって当該環状面と協働して密閉環状空間を形成するように接触する少なくとも二つの環状突起部とを具備しており、弾性リングは、環状板部の他方の面と第二の軸受体の環状面とに接触してスラスト滑り軸受片と第二の軸受体との間に介在されており、密閉環状空間には潤滑剤が充填されている。
【0009】
第一の態様のスラスト滑り軸受によれば、二つの環状突起部により形成された密閉環状空間に潤滑剤が密封充填されているために、潤滑剤を二つの環状突起部と第一の軸受体の環状面との間の摺動面に必要微小量だけ供給でき、しかも、密閉環状空間の潤滑剤でもってもスラスト荷重を受けることができるために、第一の軸受体の環状面に接する潤滑剤の面もまた第一の軸受体に対する第二の軸受体の回転での摺動面となり、而して、更に低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、摺動面での摩擦音の発生がなく、ころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し、その上、二つの環状突起部に偏荷重が加わっても弾性リングにその厚みを小さくする弾性変形を先に生じさせて二つの環状突起部に撓み変形が生じることを防止し、二つの環状突起部の撓み変形による密閉環状空間の容積減少に起因する密閉環状空間から外部への潤滑剤の漏出を効果的に防止できる結果、密閉環状空間に配された潤滑剤を長期に亘って維持でき、密閉環状空間に維持された潤滑剤を二つの環状突起部と第一の軸受体の環状面との間の摺動面に微小量だけ供給できて潤滑剤を長期に亘って安定に摺動面に介在させることができ、而して、上記の作用と相俟ってスラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できる上に、第一又は第二の軸受体に加わる衝撃を弾性リングの弾性により第二又は第一の軸受体に緩衝させて伝えるために乗り心地を向上できる。
【0010】
スラスト滑り軸受片は、好ましくは本発明の第二の態様のスラスト滑り軸受のように、環状板部の他方の面に一体的に形成された少なくとも二つの他の環状突起部を更に具備しており、この場合、弾性リングは、径方向において二つの他の環状突起部間に配されており、斯かる態様のスラスト滑り軸受によれば、弾性リングをスラスト滑り軸受片に対して常時正規の位置に位置決めでき、スラスト滑り軸受片と弾性リングとの互いの正常な重ね合わせを常時維持できる。
【0011】
本発明では、スラスト滑り軸受片は、その第三の態様のスラスト滑り軸受のように、径方向において二つの環状突起部間であって環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって密閉環状空間を分割して当該環状面及び二つの環状突起部と協働して複数の互いに分離された分割密閉環状空間を形成するように接触する少なくとも一つの中間環状突起部を具備していてもよく、斯かる中間環状突起部でもスラスト荷重を分散して受けることになる結果、二つの環状突起部の撓み変形の生起を更に確実に回避できる上に、複数の分割密閉環状空間のうちの一つの分割密閉環状空間に充填された潤滑剤が多量に漏出したとしても、この漏出が他の分割密閉環状空間に影響することを阻止して、残る他の分割密閉環状空間で上記の作用を行わせることができる結果、フェールセーフなものとなる。
【0012】
弾性リングは、好ましくは本発明の第四の態様のスラスト滑り軸受のように、天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなっており、弾性リングの断面形状は、略矩形であっても略長楕円状であってもよい。
【0013】
潤滑剤は、好ましくは本発明の第五の態様のスラスト滑り軸受のように、スラスト荷重下で密閉環状空間を隙間なしに満たしており、場合により、本発明の第六の態様のスラスト滑り軸受のように、スラスト無荷重下で密閉環状空間を隙間なしに満たしていてもよい。
【0014】
潤滑剤は、本発明の第七の態様のスラスト滑り軸受のように、グリース及び潤滑油のうちの少なくとも一つを含んでおり、好ましくは本発明の第八の態様のスラスト滑り軸受のように、シリコーン系グリースからなる。
【0015】
本発明のスラスト滑り軸受では、両軸受体及びスラスト滑り軸受片は合成樹脂製であることが好ましく、両軸受体間に収容されるスラスト滑り軸受片を構成する合成樹脂は、特に自己潤滑性を有することが好ましく、両軸受体を構成する合成樹脂は、耐摩耗性、耐衝撃性、耐クリープ性等の摺動特性及び剛性等の機械的特性に優れていることが好ましく、具体的には、本発明の第九の態様の滑り軸受のように、両軸受体は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよく、また、スラスト滑り軸受片は、本発明の第十の態様の滑り軸受のように、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよい。両軸受体には、スラスト滑り軸受片を構成する合成樹脂と同様の合成樹脂が使用され得るが、特にスラスト滑り軸受片に使用される合成樹脂と摩擦特性の良好な組合わせの合成樹脂が使用され、その望ましい組合わせについて例示すると、スラスト滑り軸受片と両軸受体とに対して、ポリアセタール樹脂とポリアミド樹脂との組合わせ、ポリオレフィン樹脂、特にポリエチレン樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせ、ポリアセタール樹脂と熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂との組合わせ及びポリアセタール樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせがある。
【0016】
本発明のスラスト滑り軸受では、好ましくはその第十一の態様の滑り軸受のように、第一の軸受体は、その径方向の外周縁部で第二の軸受体に当該第二の軸受体の径方向の外周縁部において弾性嵌着されるようになっており、また、本発明の第十二の態様の滑り軸受のように、両軸受体のその径方向の外周縁部及び内周縁部のうちの少なくとも一方における両軸受体間にはラビリンスが形成されるようになっており、スラスト滑り軸受片及び弾性リングを装着した第一及び第二の軸受体間の空間への塵埃、泥水等の侵入を斯かるラビリンスにより好ましく阻止できるようになる。
【0017】
本発明の第十三の態様の滑り軸受では、第二の軸受体は、その環状面に一体的に形成された大径及び小径の環状突起を有しており、スラスト滑り軸受片及び弾性リングは、大径の環状突起よりも径方向の内側に配されていると共に小径の環状突起よりも径方向の外側に配されており、斯かる一対の環状突起によりスラスト滑り軸受片及び弾性リングを径方向に関して位置決めできる上に、スラスト滑り軸受片を本発明の第十四の態様の滑り軸受のように径方向の外周面及び内周面で大径及び小径の環状突起の夫々に摺動自在に接触させることにより、スラスト荷重下でのスラスト滑り軸受片の撓みを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、グリース等の潤滑剤を長期に亘って摺動面に介在させることができる上に、斯かる潤滑剤をスラスト荷重受けにも利用でき、而して、スラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、長期の使用でも斯かる低い摩擦係数を維持できる上に、摺動面での摩擦音の発生がなく、しかも、ストラット型サスペンションにスラスト滑り軸受として組込んでもころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し得る上に乗り心地を向上できるスラスト滑り軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の好ましい一例の断面図である。
【図2】図1に示す例の下ケース及びスラスト滑り軸受片の平面図である。
【図3】図1に示す例の弾性リングの斜視図である。
【図4】図1に示す例をストラット型サスペンションに組込んだ例の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態の好ましい他の例の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい例を参照して説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0021】
図1から図3において、本例の四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるためのスラスト滑り軸受1は、環状面2を有すると共に合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製の第一の軸受体としての上ケース3と、上ケース3に当該上ケース3の軸心Oの回りでR方向に回転自在となるように重ね合わされると共に上ケース3の環状面2に対面した環状面4を有する合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製の第二の軸受体としての環状の下ケース5と、互いに重ね合わされて両環状面2及び4間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片6及び弾性リング7とを具備している。
【0022】
内周面11によって規定された貫通孔12を有する環状の上ケース3は、環状面2を有した円環状の上ケース本体部13と、上ケース本体部13の環状面2に一体に形成されていると共に下ケース5に向かって垂下した最内周側円筒状垂下部14と、最内周側円筒状垂下部14の径方向の外側に配されていると共に環状面2に一体に形成されており、しかも、下ケース5に向かって垂下した内周側円筒状垂下部15と、上ケース本体部13の径方向の外周縁に一体に形成された円筒状垂下係合部16と、円筒状垂下係合部16の径方向の内側であって内周側円筒状垂下部15の径方向の外側に配されていると共に環状面2に一体に形成されており、しかも、下ケース5に向かって垂下した外周側円筒状垂下部17と、円筒状垂下係合部16の径方向の内周面に形成された係合フック部18と、上ケース本体部13の径方向の内周側において当該上ケース本体部13の外面19に一体に形成されている円筒部20とを備えて、一体形成されている。
【0023】
貫通孔12と同心、同径であって内周面21によって規定された貫通孔22を有した環状の下ケース5は、環状面4を有した円環状の下ケース本体部23と、下ケース本体部23の径方向の内周縁に一体に形成されていると共に最内周側円筒状垂下部14の径方向の内側に配されるように上ケース3に向かって突出した最内周側円筒状突出部24と、最内周側円筒状突出部24の径方向の外側に配されていると共に環状面4に一体に形成されており、しかも、最内周側円筒状垂下部14及び内周側円筒状垂下部15間に配されるように上ケース3に向かって突出した内周側円筒状突出部25と、内周側円筒状突出部25の径方向の外側に配されていると共に環状面4に一体に形成されており、しかも、内周側円筒状垂下部15の径方向の外側に配されように上ケース3に向かって突出した小径の環状突起26と、下ケース本体部23の径方向の外周縁に一体に形成されていると共に、円筒状垂下係合部16及び外周側円筒状垂下部17間に配されるように上ケース3に向かって突出した円筒状突出係合部27と、円筒状突出係合部27の径方向の内側であって環状突起26の径方向の外側に配されていると共に環状面4に一体に形成されており、しかも、外周側円筒状垂下部17の径方向の内側に配されように上ケース3に向かって突出していると共に環状突起26よりも大径の環状突起28と、円筒状突出係合部27の径方向の外周面に形成されていると共に係合フック部18に係合する係合フック部29とを備えて、一体形成されている。
【0024】
上ケース3は、その径方向の外周縁部の円筒状垂下係合部16の係合フック部18で下ケース5における径方向の外周縁部の円筒状突出係合部27の係合フック部29にスナップフィット式に弾性係合して下ケース5に弾性嵌着されるようになっている。
【0025】
上ケース3及び下ケース5のその径方向の外周縁部及び内周縁部のうちの少なくとも一方、本例では両縁部において、上ケース3及び下ケース5間には、上ケース本体部13、最内周側円筒状垂下部14及び内周側円筒状垂下部15と下ケース本体部23、最内周側円筒状突出部24、内周側円筒状突出部25及び環状突起26とによりラビリンス(迷路)31が、上ケース本体部13、円筒状垂下係合部16及び外周側円筒状垂下部17と下ケース本体部23、円筒状突出係合部27及び環状突起28とによりラビリンス32が夫々形成されるようになっており、斯かる内周縁部のラビリンス31及び外周縁部のラビリンス32により上ケース本体部13と下ケース本体部23との間のスラスト滑り軸受片6及び弾性リング7を装着した環状空間33への外部からの塵埃、泥水等の侵入が防止されている。
【0026】
合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製のスラスト滑り軸受片6は、その径方向の環状の内周面41及び外周面42で環状突起26及び28の夫々に摺動自在に接触して、環状突起28よりも径方向の内側に配されていると共に環状突起26よりも径方向の外側に配されている。
【0027】
スラスト滑り軸受片6は、環状板部45と、環状板部45の一方の面46に径方向において離間して一体的に形成されていると共に上ケース3の環状面2に当該環状面2に対して摺動自在であって当該環状面2と協働して密閉環状空間47を形成するように接触する同心の小径及び大径の環状突起部48及び49と、環状板部45の他方の面50に径方向において離間して一体的に形成された同心の小径及び大径の環状突起部51及び52とを具備しており、密閉環状空間47にはシリコーン系グリースからなる潤滑剤53が密封充填されている。
【0028】
密閉環状空間47にはスラスト無荷重下で密閉環状空間47を隙間なしに満たす量の潤滑剤53が充填されており、斯かる量の潤滑剤53は、スラスト荷重下でも密閉環状空間47を隙間なしに満たす量となり、密閉環状空間47に隙間なしに満たされた潤滑剤53は、環状突起部48及び49と共に環状面4に接触してスラスト荷重を受けるようになっている。
【0029】
天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなって断面略矩形状の弾性リング7は、環状板部45の面50と環状面4とに接触してスラスト滑り軸受片6及び下ケース5の間に介在されていると共に径方向において環状突起部51及び52間に配されており、しかも、環状突起26よりも径方向の外側に配されていると共に環状突起28よりも径方向の内側に配されており、斯かる弾性リング7は、スラスト荷重下で撓み変形してその厚みを薄くするようになっている。
【0030】
以上のスラスト滑り軸受1は、図4に示すようなストラット型サスペンションアセンブリにおけるコイルばね61の上部ばね座62と、油圧ダンパのピストンロッド63が固着される車体側の取付部材64との間に装着されて用いられる。この場合、貫通孔12及び22にピストンロッド63の上部が上ケース3及び下ケース5に対して軸心Oの回りでR方向に回転自在になるようにして挿通される。
【0031】
図4に示すようにスラスト滑り軸受1を介して装着されたストラット型サスペンションアセンブリでは、ステアリング操作に際してはコイルばね61を介する上部ばね座62の軸心Oの回りでの相対的なR方向の回転は、上ケース3の環状面2と環状突起部48及び49並びに潤滑剤53との間の摺動面での同方向の相対的な回転で滑らかに行われる。
【0032】
スラスト滑り軸受1によれば、環状突起部48及び49により形成された密閉環状空間47に潤滑剤53が密封充填されているために、潤滑剤53を環状突起部48及び49と環状面2との間の摺動面に必要微小量だけ供給でき、しかも、密閉環状空間47の潤滑剤53でもってもスラスト荷重を受けるようにようになっているために、環状面2に接する潤滑剤53の面もまた上ケース3に対する下ケース5のR方向の回転での摺動面となり、而して、更に低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、摺動面での摩擦音の発生がなく、ころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し、その上、環状突起部48及び49に偏荷重が加わっても弾性リング7にその厚みを小さくする弾性変形を先に生じさせて環状突起部48及び49に撓み変形が生じることを未然に防止し、環状突起部48及び49の撓み変形による密閉環状空間47の容積減少に起因する密閉環状空間47から外部への潤滑剤53の漏出を効果的に防止できる結果、密閉環状空間47に配された潤滑剤53を長期に亘って維持でき、密閉環状空間47に密封維持された潤滑剤53を環状突起部48及び49と環状面2との間の摺動面に微小量だけ常時供給できて潤滑剤53を長期に亘って安定に摺動面に介在させることができ、而して、上記の作用と相俟ってスラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できる上に、コイルばね61から下ケース5に加わる衝撃を弾性リング7の弾性により上ケース3に緩衝させて伝えることになるために乗員の乗り心地を向上できる。
【0033】
またスラスト滑り軸受1によれば、弾性リング7は径方向において環状突起部51及び52間に配されているため、弾性リング7をスラスト滑り軸受片6に対して常時正規の位置に位置決めでき、スラスト滑り軸受片6と弾性リング7との互いの正常な重ね合わせを常時維持でき、しかも、スラスト滑り軸受片6及び弾性リング7を環状突起26よりも径方向の外側であって環状突起28よりも径方向の内側に配しているため、斯かる一対の環状突起28及び26によりスラスト滑り軸受片6及び弾性リング7を径方向に関して位置決めできる上に、スラスト滑り軸受片6を径方向の内周面41及び外周面42で環状突起26及び28の夫々に摺動自在に接触させているために、スラスト荷重下でのスラスト滑り軸受片6の撓みを防止できる。
【0034】
ところで、前記のスラスト滑り軸受1では、環状板部45の面50に環状突起部51及び52を設けたスラスト滑り軸受片6を用いたが、これに代えて、図5に示すように面50に環状突起部51及び52を設けないスラスト滑り軸受片6を用いてもよく、更に、環状突起部48及び49に加えて、径方向において環状突起部48及び49間であって環状板部45の面46に一体的に形成されていると共に上ケース3の環状面2に当該環状面2に対して摺動自在であって密閉環状空間47を分割して当該環状面2並びに環状突起部48及び49と協働して複数(本例では二つ)の互いに分離された同心の分割密閉環状空間71及び72を形成するように接触する中間環状突起部73を具備してスラスト滑り軸受片6を構成してもよく、この場合にも上記と同様に、分割密閉環状空間71及び72の夫々に隙間なしに潤滑剤53を充填するとよい。
【0035】
図5に示すスラスト滑り軸受1では、スラスト荷重を中間環状突起部73でも分散して受けることになる結果、環状突起部48及び49の撓み変形の生起を更に確実に回避できる上に、分割密閉環状空間71及び72のうちの一方の分割密閉環状空間に充填された潤滑剤53が多量に漏出したとしても、この漏出が他方の分割密閉環状空間に影響することを阻止して、残る他方の分割密閉環状空間で上記の作用を行わせることができる結果、フェールセーフなものとなる。
【符号の説明】
【0036】
1 スラスト滑り軸受
2、4 環状面
3 上ケース
5 下ケース
6 スラスト滑り軸受片
7 弾性リング
46、50 面
47 密閉環状空間
48、49 環状突起部
53 潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状面を有した第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状面に対面した環状面を有する第二の軸受体と、互いに重ね合わされて両環状面間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片及び弾性リングとを具備しており、スラスト滑り軸受片は、環状板部と、この環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって当該環状面と協働して密閉環状空間を形成するように接触する少なくとも二つの環状突起部とを具備しており、弾性リングは、環状板部の他方の面と第二の軸受体の環状面とに接触してスラスト滑り軸受片と第二の軸受体との間に介在されており、密閉環状空間には潤滑剤が充填されているスラスト滑り軸受。
【請求項2】
スラスト滑り軸受片は、環状板部の他方の面に一体的に形成された少なくとも二つの他の環状突起部を更に具備しており、弾性リングは、径方向において二つの他の環状突起部間に配されている請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
スラスト滑り軸受片は、径方向において二つの環状突起部間であって環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって密閉環状空間を分割して当該環状面及び二つの環状突起部と協働して複数の互いに分離された分割密閉環状空間を形成するように接触する少なくとも一つの中間環状突起部を具備している請求項1又は2に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
弾性リングは、天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなっている請求項1から3のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項5】
潤滑剤は、スラスト荷重下で密閉環状空間を隙間なしに満たしている請求項1から4のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項6】
潤滑剤は、スラスト無荷重下で密閉環状空間を隙間なしに満たしている請求項1から5のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項7】
潤滑剤は、グリース及び潤滑油のうちの少なくとも一つを含む請求項1から6のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項8】
潤滑剤は、シリコーン系グリースからなる請求項1から7のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項9】
両軸受体は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっている請求項1から8のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項10】
スラスト滑り軸受片は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっている請求項1から9のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項11】
第一の軸受体は、その径方向の外周縁部で第二の軸受体に当該第二の軸受体の径方向の外周縁部において弾性嵌着されるようになっている請求項1から10のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項12】
両軸受体のその径方向の外周縁部及び内周縁部のうちの少なくとも一方における両軸受体間にはラビリンスが形成されるようになっている請求項1から11のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項13】
第二の軸受体は、その環状面に一体的に形成された大径及び小径の環状突起を有しており、スラスト滑り軸受片及び弾性リングは、大径の環状突起よりも径方向の内側に配されていると共に小径の環状突起よりも径方向の外側に配されている請求項1から12のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項14】
スラスト滑り軸受片は、その径方向の外周面及び内周面で大径及び小径の環状突起の夫々に摺動自在に接触している請求項13に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項15】
四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるための請求項1から14のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−174721(P2009−174721A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118059(P2009−118059)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【分割の表示】特願2003−30944(P2003−30944)の分割
【原出願日】平成15年2月7日(2003.2.7)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】