説明

スリップリング部品の製造方法

【課題】高価な材料を含まず、且つ製造が労働集約的でないスリップリングの製造方法を提供する。
【解決手段】スリップリング部品(106)の製造方法、スリップリング部品及びスリップリング組立体を開示する。スリップリング部品の製造方法は、第1ショット(404)を形成する工程と、第2ショット(402)を形成する工程と、第1ショット(404)及び第2ショット(402)を浸漬する工程とを具備する。浸漬工程においては、第2ショット(402)の露出面に導電めっきを付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクタ、電気部品及び電気コネクタ組立体の製造方法に関し、より具体的にはスリップリング部品及び組立体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気コネクタは、様々な応用例に電力や信号を提供する。電気コネクタ用の回転部品は困難な課題である。回転部品は、その回転のため、ソースからコントローラや電源への直接接続を妨げる。例えば、ワイヤを介してコントローラに直接接続された回転部品は、捩れると共に、1回転以上回転すると壊れるか又は絡みつく。内部回転子及び固定子を有するコネクタは、このような回転部品のために使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−205984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転子及び固定子を有するコネクタは、高価な材料を含んでいるか、製造が労働集約的である。導電経路を形成するためのハウジングの成形や導電経路を追加することは労働集約的であるので、電気コネクタのコストを増大させる。
【0005】
上述の欠点のない電気コネクタ、電気コネクタの部品、及び電気コネクタの部品の製造方法が、当業界で望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
解決手段は、本発明に係るスリップリング部品の製造方法により提供される。この製造方法は、第1ショットを形成する工程と、第2ショットを形成する工程と、第1ショット及び第2ショットを浸漬する工程とを具備する。浸漬工程は、第2ショットの露出面に導電めっきを付ける。
【0007】
本発明の他の特徴及び利点は、例示により本発明の原理を示す添付図面と併せて、好適な実施形態の以下の詳細な説明から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】簡単のために部分的に除去された固定ハウジングと共に本発明に係る典型的な成形相互接続デバイスを示す斜視図である。
【図2】固定ハウジングと共に本発明に係る典型的な成形相互接続デバイスを示す斜視図である。
【図3】固定ハウジング上の被覆と共に本発明に係る典型的な成形相互接続デバイスを示す斜視図である。
【図4】本発明に係るめっき不可能ショット及びめっき可能ショットを有する典型的なスリップリング部品の斜視図である。
【図5】本発明に係る回転子軸上に配置され圧入された1個のスリップリング部品を有する典型的な成形相互接続デバイスの回転子軸を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るめっき不可能ショット及びめっき可能ショットを有する典型的なスリップリング部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
可能な限り、同一の部品を示すために、図面を通して同一の参照番号が用いられる。
【0010】
一実施形態において、スリップリング部品の製造方法は、第1ショットを形成する工程と、第2ショットを形成する工程と、第1ショット及び第2ショットを浸漬する工程とを具備する。浸漬工程は、第2ショットの露出面に導電めっきを付ける。
【0011】
別の実施形態において、スリップリング組立体は、第1ショット及び第2ショットを具備する。第1ショットは導電めっきを有する。
【0012】
別の実施形態において、スリップリング組立体は、回転可能部と、固定ハウジングと、回転可能部を固定ハウジングに電気的に接続する1個以上のスリップリング部品とを具備する。1個以上のスリップリング部品は、第1ショット及び第2ショットを具備する。第1ショットは導電めっきを有する。
【0013】
提供されるのは、スリップリング部品の典型的な製造方法、スリップリング部品、及びスリップリング部品を有するスリップリング組立体である。本発明の実施形態は、回転源からコンタクトや電源に信号や電力を伝送すること、より低コストの材料を用いること、より簡単な製造方法や組立方法やそれらの組合せを用いることを可能にする。
【0014】
図1及び図2を参照すると、例えば、成形相互接続デバイス(molded interconnect device:MID)である典型的なスリップリング組立体100は、回転可能部102、固定ハウジング104、及び回転可能部102のソースワイヤ108を固定ハウジング104内のコントローラワイヤ110に電気接続する1個以上のスリップリング部品106を有する。スリップリング組立体100は、カメラ、ヘリコプタ用の回転子、タービン(例えば、ガスタービン、蒸気タービン、又は風力タービン)、又は回転部品(図示せず)を有する他の任意のソースに接続された1本以上の内部ワイヤすなわちソースワイヤ108からの電気信号を受信する。ソースワイヤ108は、回転可能部102を介して1個以上のスリップリング部品106(図1参照)に電気接続され、次に、コントローラ(図示せず)や電源に接続された1本以上の外部ワイヤすなわちコントローラワイヤ110に電気接続される。理解されるであろうが、他の実施形態において、コントローラワイヤは回転可能部102近傍に配置でき、ソースワイヤは固定ハウジング104近傍に配置できる。
【0015】
固定ハウジング104は、回転可能部102を収容できる任意の適当なハウジングである。固定ハウジング104は半結晶ポリマからなる。一実施形態において、ハウジング104はポリブチレンテレフタラートからなる。別の実施形態において、ハウジング104は液晶ポリマからなる。固定ハウジング104は、回転可能部102の周囲に沿って延びており、コントローラワイヤ110が外部に露出するのを防止する。一実施形態において、図3を参照すると、固定ハウジング104は、コントローラワイヤ110及びスリップリング部品106間の電気接続部を囲むカバー302をさらに有する。カバー302は、コントローラワイヤ110が外部に露出するのをさらに防止する。追加して又は代替として、一実施形態では、コントローラワイヤ110が外部に露出するのを防止するために、コントローラワイヤ110上に封止材が塗布される。
【0016】
固定ハウジング104は、回転可能部102の回転を可能にする任意の適当な形状、例えば、筒状、筒状内部を有するが非筒状外部を有する部分的筒状、立方体、他の適当な形状、又はそれらの組合せである。同様に、固定ハウジング104上のコントローラワイヤ110の配列は、任意の適当な配列である。適当な配列には、ほぼ対向する位置(例えば、筒状形状で約180°離れた位置)に位置するコントローラワイヤ110、全て一緒に位置するコントローラワイヤ110、固定ハウジング104の全周囲に沿って配置されたコントローラワイヤ110、千鳥配置されたコントローラワイヤ110、異なる向きを向くコントローラワイヤ、又はそれらの組合せを有するものを含むが、これらに限定されない。
【0017】
図2に示されるように、一実施形態において、固定ハウジング104は、スリップリング部品106を覆うと共に、コントローラワイヤ110及びスリップリング部品106間の電気接続部を露出する。図1及び図2を再度参照すると、固定ハウジング104は、表面又は他のデバイスと係合するための任意の構造を有する。例えば、一実施形態において、コントローラワイヤ110を固定ハウジング104の内部と平行又は非平行な向きに延長させるために、固定ハウジング104は、図3にあるように90°傾斜部、60°傾斜部、45°傾斜部、30°傾斜部、15°傾斜部等の傾斜部を有する。一実施形態において、ハウジング104は、例えば、固定具、接着剤、相互ロック部、フランジ、他の固定機構、又はそれらの組合せによって、別の構造体(図示せず)に固定されるので、固定ハウジング104の移動を防止する。
【0018】
コントローラワイヤ110は、任意の適当な電気接続機構を介して回転可能部102のソースワイヤ108に電気接続する。一実施形態において、コントローラワイヤ110はその接触点114で、回転可能部102内でスリップリング部品106(図1参照)に個別に接続するブラシワイヤ116に接続される。一実施形態において、コントローラワイヤ110は、ブラシワイヤ116に半田付けされる。別の実施形態において、コントローラワイヤ110は、ブラシワイヤ116に機械的に固定される。
【0019】
ブラシワイヤ116は、1以上の位置でスリップリング部品106との物理的な接触を維持する。これにより、電気的通信が維持される。ブラシワイヤ116は、回転可能部102の回転中(例えば、約300万回転まで)、スリップリング部品106と電気的に通信したままである。一実施形態において、ブラシワイヤ116は、金を含む合金等の高導電性金属合金を有するので、接触抵抗は低レベルである。ブラシワイヤ116は、低レベル接触抵抗、所望量の法線方向の力を与える高降伏強度、バウンスを防ぐための所定量の柔軟性、他の適当な特徴、又はそれらの組合せを有するがこれらに限定されない、電気的通信を維持するための任意の適当な機構を具備する。
【0020】
回転可能部102は固定ハウジング104内に位置する。回転可能部102は、ほぼ筒状の形状を有し、固定ハウジング104内で部分的又は完全に回転する。例えば、回転可能部102は、(図5に示されるソース近傍領域504から見て)時計回り、(ソース近傍領域504から見て)反時計回り、又はそれら双方に回転、振動する。一実施形態において、回転可能部102は、回転子軸103(図5参照)、及び回転子軸103との関連で回転可能部102のほぼ一定の移動を促進するための1個以上のベアリング112を有する。スリップリング部品106は回転可能部102内に位置する。
【0021】
図4を参照すると、スリップリング部品106は、第2ショット402(例えば、めっき可能ショット)を射出成形すること、及び第1ショット404(例えば、めっき不可能ショット)を射出成形することで製造される。本明細書で用いられているように、「めっき可能」という用語は、浸漬めっき法によって金属を付着できることを指す。また、本明細書で用いられているように、「めっき不可能」という用語は、浸漬めっき法に抗する、すなわち浸漬めっきできないことを指す。一実施形態において、第1ショット404は、第2ショット402の前に形成される。一実施形態において、第2ショット402及び第1ショット404は、射出成形の間に結合する。別の一実施形態において、第2ショット402、第1ショット404やスリップリング部品106は、例えばキー機構、接着剤、超音波溶接や、互いとの又は回転可能部102との圧入により、機械的に固定される。別の一実施形態において、第2ショット402の全て又は一部は、導電性ポリマで形成されている。
【0022】
めっきされた射出成形部406及びめっきされない射出成形部408は、第2ショット402(めっき可能ショット)及び第1ショット404(めっき不可能ショット)から形成され、浸漬される。めっきされない射出成形部408の露出面は、めっきされた射出成形部406上の導電めっきを電気的に絶縁する。一実施形態において、めっきされた射出成形部406は接触界面410を有する。一実施形態において、接触界面410は、めっきされない射出成形部408の少なくとも一部上に突出する。別の一実施形態において、接触界面410は、回転子コンタクト502まで内方へ延びる。図6を参照すると、一実施形態におけるめっきされた射出成形部406は、突出した絶縁構造602を有する。突出した絶縁構造602は、接触界面410の反対側に位置すると共に、ブラシコンタクト116との接続を電気的に遮断し、回転可能部102用の帰還機能やキー機能を提供する。
【0023】
浸漬工程で第2ショット402の露出面に導電めっきを選択的に付ける結果、めっきされた射出成形部406が導電性を有する。一実施形態において、導電めっきは、約0.05〜2.54μm、約0.13〜0.76μm、約0.25〜0.51μm、又は約0.38μmの厚さを有する。一実施形態において、導電めっきには、金、パラジウム−ニッケル、銀、任意の適当な酸化しない貴金属、又はそれらの組合せが含まれる。
【0024】
一実施形態において、浸漬工程は複数段階(例えば、2段階、3段階、又は他の任意の適当な数の段階)である。一実施形態において、浸漬工程は、導電めっきを付ける前に、ニッケル下地をつける工程をさらに有する。ニッケル下地は、任意の適当な厚さであり、導電めっきに耐磨耗性を与える円滑面を提供する。一実施形態において、ニッケル下地の厚さは、約12.7〜17.8μm、約14〜16.5μm、又は約15.2μmの厚さを有する。別の一実施形態において、浸漬工程では、ニッケル下地を付ける前に銅ストライク層を付ける。銅ストライク層は、約0.13〜0.25μm、約0.13〜0.18μm、又は約0.13μmの厚さを有する。
【0025】
非めっき射出成形部408は、電気的に絶縁されたままの露出面を有することにより、スリップリング部品106を分離し、電気的干渉や短絡無しで信号や電力をソースワイヤ108からコントローラワイヤ110に送ることができる。一実施形態において、非めっき射出成形部408の露出面は、導電めっきが欠けている。
【0026】
図5を参照すると、スリップリング部品106を形成する際に、一実施形態におけるスリップリング部品106は、回転子軸103上に位置すると共に回転子軸103に(例えば、摩擦嵌め、半田付け又は他の手段で)固定される。別の一実施形態において、スリップリング部品106は回転子軸103上に圧入される。スリップリング部品106を回転子軸103上に圧入することにより、回転可能部102近傍のソースワイヤ108及び固定ハウジング104近傍のコントローラワイヤ110は、電気的に繋がった状態にある。別の一実施形態において、1個以上の追加のスリップリング部品106(例えば、合計で7個のスリップリング部品、14個のスリップリング部品、又は他の適当な任意数のスリップリング部品)は、回転子軸103に配置されるか、圧入される。
【0027】
一実施形態において、スリップリング部品106は、所定の軸方向の位置に回転子軸103の形状に対応したキー構造を有する。別の一実施形態において、追加のスリップリング部品106は、所定の追加の軸方向の位置に回転子軸103の形状に対応した異なる位置のキー構造を有する。図5に示されるように、一実施形態における回転子軸103上の回転子コンタクト502は、所定のスリップリング部品106の位置に対応した可変長さを有し、接触界面410がスリップリング部品106を対応するソースワイヤ108に対して電気接触させることを可能にする。一実施形態において、回転子コンタクト502は、ソースワイヤ108がソース近傍領域504に位置するスリップリング部品106に電気接続することを可能にする。ソース近傍領域504は、ソースワイヤ108がスリップリング組立体100に入る位置から比較的離れたソース末端領域506と比べて、ソースワイヤ108がスリップリング組立体100に入る位置に比較的近い。
【符号の説明】
【0028】
103 回転子軸
106 スリップリング部品
402 第2ショット
404 第1ショット
410 接触界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ショットを形成する工程と、
第2ショットを形成する工程と、
前記第1ショット及び前記第2ショットを浸漬する工程と
を具備し、
前記浸漬工程では、前記第2ショットの露出面に導電めっきを付けることを特徴とする、スリップリング部品の製造方法。
【請求項2】
1以上の前記第1ショットの形成工程及び前記第2ショットの形成工程は、射出成形によって行うことを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項3】
1以上の前記第1ショットの形成工程及び前記第2ショットの形成工程は、機械加工によって行うことを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項4】
前記第1ショットの露出面は、前記第2ショットの前記導電めっきを電気的に絶縁することを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項5】
前記第1ショットの前記露出面は、前記導電めっきが欠けていることを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項6】
前記導電めっきは金からなることを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項7】
前記浸漬工程では、前記導電めっきを付ける前にニッケル下地めっきを付けることを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項8】
前記浸漬工程では、前記ニッケル下地を付ける前に銅ストライク層を付けることを特徴とする請求項7記載のスリップリングの製造方法。
【請求項9】
前記第2ショットの形成工程では、前記第1ショットを前記第2ショットに接合することを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項10】
前記第2ショットは接触界面を有することを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項11】
前記スリップリング部品を回転子軸に配置する工程をさらに具備することを特徴とする請求項1記載のスリップリングの製造方法。
【請求項12】
前記回転子軸に前記スリップリング部品を圧入する工程をさらに具備することを特徴とする請求項11記載のスリップリングの製造方法。
【請求項13】
超音波溶接により、前記回転子軸に前記スリップリング部品を固定する工程をさらに具備することを特徴とする請求項11記載のスリップリングの製造方法。
【請求項14】
接着剤により、前記回転子軸に前記スリップリング部品を固定する工程をさらに具備することを特徴とする請求項11記載のスリップリングの製造方法。
【請求項15】
圧入により、前記回転子軸に前記スリップリング部品を固定する工程をさらに具備することを特徴とする請求項11記載のスリップリングの製造方法。
【請求項16】
前記回転子軸に1個以上の追加のスリップリング部品を配置する工程をさらに具備することを特徴とする請求項11記載のスリップリングの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−227139(P2012−227139A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88008(P2012−88008)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(399132320)タイコ・エレクトロニクス・コーポレイション (234)
【氏名又は名称原語表記】Tyco Electronics Corporation
【Fターム(参考)】