説明

スリップ機構

【課題】従来のスリップ機構は、摩擦板とディスクとが密着しているので、摩擦板4とディスク5との間の摺動性が悪くなるとともに、前記摩擦トルクにムラが生じる場合がある。
【解決手段】本発明によるスリップ機構は、回転軸3に設けられた円板状の摩擦板4を一対のディスク5で挟持して、前記回転軸3が回転される際に前記摩擦板4の摺動面4aと前記ディスク5との間で摩擦トルクを発生させるスリップ機構であって、ディスク5と対向される摩擦板4の対向領域10に、内側にグリースが溜められる少なくとも1本のグリース溜め溝11が設けられる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ機構に関し、特に、ディスクと対向される摩擦板の対向領域に、内側にグリースが溜められる少なくとも1本のグリース溜め溝を設けることで、摩擦板とディスクとの間の摺動性を向上できるとともに、摩擦トルクにムラが発生することを防止できるようにするための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
社内技術で特に特許出願を行っていないため文献名は挙げていないが、従来用いられていたこの種のスリップ機構は、図5に示すように構成されている。図5は、従来のスリップ機構を示す断面図である。図において、ケース1には、一対の軸受2を介して回転軸3が回転可能に支持されている。前記ケース1内には、前記回転軸3に一体に設けられた円板状の摩擦板4が配置されており、この摩擦板4は、一対の円環状のディスク5によって挟持されている。前記摩擦板4は、前記回転軸3と一体に回転され、前記ディスク5は、前記ケース1に固定されている。これら摩擦板4及びディスク5は金属で形成されており、前記回転軸3が回転される際には、前記摩擦板4の摺動面4aと前記ディスク5との間で摩擦トルクが発生される。
【0003】
前記ケース1の外方に位置する前記回転軸3の一端3aには、接続ギア6が取り付けられており、前記回転軸3は、前記接続ギア6を介して外部機構(図示せず)に接続される。この外部機構は、例えば利用者によって操作されるレバー機構等であり、前記外部機構が前記レバー機構である場合には、前記摩擦トルクによって前記レバー機構の操作に一定の重みが与えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のスリップ機構では、前記摩擦板4と前記ディスク5とが密着しているので、摩擦板4とディスク5との間の摺動性が悪くなるとともに、前記摩擦トルクにムラが生じる場合がある。前記外部機構が前記レバー機構である場合、摺動性が悪いと、静止状態のレバー機構を動かす際に大きな操作力が必要になり、前記摩擦トルクにムラが生じると、前記レバー機構の操作を滑らかに行うことができなくなる。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、摩擦板とディスクとの間の摺動性を向上できるとともに、摩擦トルクにムラが発生することを防止できるスリップ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスリップ機構は、回転軸に設けられた円板状の摩擦板を一対のディスクで挟持して、前記回転軸が回転される際に、前記摩擦板の摺動面と前記ディスクとの間で摩擦トルクを発生させるスリップ機構であって、前記摩擦板に設けられ、前記回転軸が回転される際に前記ディスクに対向される環状の対向領域と、前記対向領域に設けられ、内側にグリースが溜められる少なくとも1本のグリース溜め溝とを備える。
前記グリース溜め溝は、前記摩擦板の周方向に沿う円環状に形成されてよい。
また、前記グリース溜め溝は、前記摩擦板の周方向に沿う螺旋状に形成されてよい。
さらに、前記グリース溜め溝は、前記摩擦板の周方向に互いに間隔を置いて配置され、前記摩擦板の中心側から外径側に向けて曲線状に形成されてよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスリップ機構によれば、ディスクと対向される摩擦板の対向領域に、内側にグリースが溜められる少なくとも1本のグリース溜め溝が設けられるので、摩擦板とディスクとの間の摺動性を向上できるとともに、摩擦トルクにムラが発生することを防止できる。
また、前記グリース溜め溝が前記摩擦板の周方向に沿う円環状に形成されるので、前記グリース溜め溝の形成を容易にでき、製造コストを低減できる。
さらに、前記グリース溜め溝が前記摩擦板の周方向に沿う螺旋状に形成されるので、前記摩擦板の摺動面に効率良くグリースを供給でき、より確実に摺動性を向上できるとともにトルクムラの発生を防止できる。
さらにまた、前記グリース溜め溝が、前記摩擦板の周方向に互いに間隔を置いて配置され、前記摩擦板の中心側から外径側に向けて曲線状に形成されるので、前記摩擦板の摺動面に効率良くグリースを供給でき、より確実に摺動性を向上できるとともにトルクムラの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるスリップ機構を示す断面図であり、図2は、図1の摩擦板4を示す正面図である。なお、従来のスリップ機構と同一又は同等部分については同一の符号を用いて説明する。図において、ケース1には、一対の軸受2を介して回転軸3が回転可能に支持されている。前記ケース1内には、前記回転軸3に一体に設けられた円板状の摩擦板4が配置されており、この摩擦板4は、一対の円環状のディスク5によって挟持されている。前記摩擦板4は、前記回転軸3と一体に回転され、前記ディスク5は、前記ケース1に固定されている。これら摩擦板4及びディスク5は金属で形成されており、前記回転軸3が回転される際には、前記摩擦板4の摺動面4aと前記ディスク5との間で摩擦トルクが発生される。
【0009】
前記ケース1の外方に位置する前記回転軸3の一端3aには、接続ギア6が取り付けられており、前記回転軸3は、前記接続ギア6を介して外部機構(図示せず)に接続される。この外部機構は、例えば利用者によって操作されるレバー機構等であり、外部機構が前記レバー機構である場合には、前記摩擦トルクによって前記レバー機構の操作に一定の重みが与えられる。
【0010】
前記摩擦板4の表面及び裏面には、前記回転軸3が回転される際に前記ディスク5に対向される環状の対向領域10が設けられており、この対向領域10には少なくとも1本のグリース溜め溝11が設けられている。
【0011】
図2において、前記対向領域10は、破線Lよりも外径側の領域であり、前記グリース溜め溝11は、前記摩擦板4の周方向Aに沿う円環状に形成されている。前記摩擦板4の径方向Bに沿う前記グリース溜め溝11の幅は、前記径方向Bに沿う前記対向領域10の幅よりも狭くされており、前記摺動面4aは、前記グリース溜め溝11の内径側及び外径側に配置されている。前記グリース溜め溝11の内側には、潤滑材であるグリース11aが溜められており、このグリース11aが前記摺動面4aに供給される。
【0012】
このようなスリップ機構では、ディスク5と対向される摩擦板4の対向領域10に、内側にグリース11aが溜められる少なくとも1本のグリース溜め溝11が設けられるので、摩擦板4とディスク5との間の摺動性を向上できるとともに、摩擦トルクにムラが発生することを防止できる。
また、前記グリース溜め溝11が前記摩擦板4の周方向Aに沿う円環状に形成されているので、前記グリース溜め溝11の形成を容易にでき、製造コストを低減できる。
【0013】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2によるスリップ機構の摩擦板4を示す正面図である。なお、実施の形態1のスリップ機構と同一又は同等部分については同一の符号を用いて説明する。実施の形態1では、前記グリース溜め溝11が円環状に形成されると説明したが、この実施の形態2では、前記グリース溜め溝11は、前記摩擦板4の周方向Aに沿う螺旋状に形成される。換言すると、前記グリース溜め溝11は、前記周方向Aに進むにつれて前記摩擦板4の中心4bから離れる渦巻き状に形成される。前記グリース溜め溝11と前記摺動面4aとは、前記径方向Bに沿って交互に配置される。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0014】
このようなスリップ機構では、前記グリース溜め溝11が前記摩擦板4の周方向Aに沿う螺旋状に形成されるので、前記摩擦板4の摺動面4aに効率良くグリースを供給でき、より確実に摺動性を向上できるとともにトルクムラの発生を防止できる。
【0015】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3によるスリップ機構の摩擦板4を示す正面図である。なお、実施の形態1,2のスリップ機構と同一又は同等部分については同一の符号を用いて説明する。実施の形態2では、前記グリース溜め溝11が螺旋状に形成されると説明したが、この実施の形態3では、前記グリース溜め溝11は、前記摩擦板4の周方向Aに互いに間隔を置いて配置されるとともに、前記摩擦板4の中心側から外径側に向けて曲線状に形成される。換言すると、前記グリース溜め溝11は、放射状に形成される。前記グリース溜め溝11と前記摺動面4aとは、前記周方向Aに沿って交互に配置される。その他の構成は、実施の形態1,2と同様である。
【0016】
このようにグリース溜め溝11を放射状に形成することでも、前記摩擦板4の摺動面4aに効率良くグリースを供給でき、より確実に摺動性を向上できるとともにトルクムラの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1によるスリップ機構を示す断面図である。
【図2】図1の摩擦板を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態2によるスリップ機構の摩擦板を示す正面図である。
【図4】本発明の実施の形態3によるスリップ機構の摩擦板を示す正面図である。
【図5】従来のスリップ機構を示す断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ケース
3 回転軸
4 摩擦板
4a 摺動面
5 ディスク
10 対向領域
11 グリース溜め溝
11a グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(3)に設けられた円板状の摩擦板(4)を一対のディスク(5)で挟持して、前記回転軸(3)が回転される際に、前記摩擦板(4)の摺動面(4a)と前記ディスク(5)との間で摩擦トルクを発生させるスリップ機構であって、
前記摩擦板(4)に設けられ、前記回転軸(3)が回転される際に前記ディスク(5)に対向される環状の対向領域(10)と、
前記対向領域(10)に設けられ、内側にグリース(11a)が溜められる少なくとも1本のグリース溜め溝(11)と
を備えていることを特徴とするスリップ機構。
【請求項2】
前記グリース溜め溝(11)は、前記摩擦板(4)の周方向(A)に沿う円環状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のスリップ機構。
【請求項3】
前記グリース溜め溝(11)は、前記摩擦板(4)の周方向(A)に沿う螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のスリップ機構。
【請求項4】
前記グリース溜め溝(11)は、前記摩擦板(4)の周方向(A)に互いに間隔を置いて配置されるとともに、前記摩擦板(4)の中心側から外径側に向けて曲線状に形成されることを特徴とする請求項1記載のスリップ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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