説明

スルフォン酸基含有高分子化合物の製造方法

【課題】 ハロゲン原子を含有する化合物のハロゲン原子をスルフォン酸基に置換してより付加価値の高い工業原料を得る方法を提供する。
【解決手段】 求核反応性の高い陰イオン硫黄化合物を、極性の大きな高温の水中で反応させることにより置換反応を優先的に進行させるハロゲン化合物の無毒化並びに機能性か方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン原子含有高分子化合物を硫黄陰イオン化合物存在下で水熱求核置換反応により硫黄原子含有高分子化合物に変換した後、更に、酸化反応によってスルフォン酸基含有高分子化合物を製造する方法に関する。
【従来技術の問題点】
【0002】
従来、ダイオキシン類や廃塩化ビニル樹脂などの、ハロゲン原子を含有する化合物を原料とする化学変換プロセスは、脱ハロゲン化水素反応によって無害化を目的にするものであり、通常、苛性アルカリ水溶液を用いる水熱分解法が工業的な無害化処理方法(特許文献1,非特許文献1)並びに、ポリオレフィン製造方法(特許文献、2,3)として確立されている。
しかし、これらの苛性アルカリ水熱分解法では、脱ハロゲン化水素反応は完結されるものの、その結果得られた生成物の化学構造並びに物性が明確なものでないために付加価値を生かした生成物の有効利用が困難であった。
【特許文献1】特開平9−85075号公報
【特許文献2】特開2002−148335号公報
【特許文献3】特開2002−289292号公報
【非特許文献1】環境管理、33巻(8)、39(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、環境破壊物質であるダイオキシン類を排出することなく、ポリ塩化ビフェニル類,ダイオキシン類、及び、廃塩化ビニル樹脂等の有機ハロゲン化合物を無害化すると同時に、スルフォン酸基を有する付加価値の高い工業原料に転換する方法を提供することである。
【問題を解決するための手法】
【0004】
本発明によれば、ダイオキシン類または、ポリ塩化ビフェニル類では、脱ハロゲン化されて完全無害となると同時に、スルフォン酸基が導入され、ポリ塩化ビニル樹脂のようなハロゲン原子を含有して高分子化合物においては、そのハロゲン原子がスルフォン酸基で置換された高付加価値な化学原料並びに高分子材料が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、環境破壊物質を排出せずに、ポリ塩化ビフェニル類,ダイオキシン類、及び、廃塩化ビニル樹脂等の有機ハロゲン化合物から、より付加価値の高い有用な工業原料の製造法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、ハロゲン原子含有する高分子化合物を硫黄化合物存在下で水熱求核置換反応により硫黄原子含有化合物に変換した後、更に、酸化反応によってスルフォン酸基含有化合物を製造する方法に関する。
【0007】
原料となるハロゲン含有化合物は、ダイオキシン類やポリ塩化ビフェニル類のような芳香族化合物に限らず、ポリ塩化ビニル樹脂のような飽和炭化水素を骨格とした高分子化合物も使用することが出来る。
【0008】
ここで、「硫黄化合物存在下での水熱求核置換反応」とは、硫黄陰イオン化合物類を反応試薬として、通常水の溶液中、150℃〜450℃の反応温度及び0.5〜100MPaの反応圧力で行う反応のことで、反応媒体が高温の水であるために極性が極めて高く、脱ハロゲン化水素反応よりも、硫黄原子による求核置換反応を優先的に進行させることが可能になり、ポリ塩化ビニル樹脂のような高分子化合物に対しては特に有効である。
【0009】
硫黄陰イオン反応試薬としては、硫化ナトリウムや多硫化ナトリウムなどの無機反応試薬も使用できるが、好ましくは、チオ酢酸、チオプロピオン酸、チオ酪酸、チオ安息香酸などのチオカルボン酸類の水溶性のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類が使用される。
【0010】
ハロゲン原子を硫黄原子で置換した後の化合物のスルフォン酸基への酸化反応は、過酸化水素及びオゾンなどの酸化剤を使用して行うことが出来るが、好ましくは、蟻酸、酢酸並びにトリフロロ酢酸類のカルボン酸と過酸化水素との混合物を酸化剤として使用し、室温から60℃の温度で実施される。
【実施例】
【0011】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に制限される事はない。
実施例1
容量7.0mlのステンレス製オートクレーブに、ポリ塩化ビニル樹脂の粉末を0.5gと50重量%のチオ酢酸ナトリウム水溶液3.5mlを入れた後、ふたをして溶融塩浴中で250℃に昇温し、30分間加熱し反応させる。反応後、オートクレーブを溶融塩浴から取りだし室温まで冷却後、オートクレーブのふたを開けて生成物を取りだし、水洗した後に、乾燥すると0.6gの固形物が得られた。これに30重量%の過酸化水素水を3.0mlとトリフロロ酢酸3.0mlを加えて、室温で1時間撹拌した後、更に50℃に昇温して5時間撹拌反応した。反応後、減圧蒸留で揮発分を除去し、アブデルハルデン乾燥器で、真空下、100℃、10時間乾燥し、潮解性の固形物0.4gを得た。この生成物中のスルフォン酸基の含有量を非水溶液滴定法によって定量分析した結果、塩素原子を基準とした理論量の41%に相当する置換率であった。他の実施例の結果と表1に示す。
【0012】
実施例2
溶融塩浴での昇温温度を200℃にすることを除いては、実施例1と同様にして反応を行った。得られた生成物中のスルフォン酸基については、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0013】
実施例3
溶融塩浴での昇温温度を300℃にすることを除いては、実施例1と同様にして反応を行った。得られた生成物中のスルフォン酸基については、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0014】
実施例4
酸化剤として30重量%の過酸化水素水を3.0mlと蟻酸3.0mlを使用することを除いては、実施例1と同様にして反応を行った。得られた生成物中のスルフォン酸基については、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0014】
実施例5
硫黄陰イオン反応試薬として硫化ナトリウムを使用することを除いては、実施例1と同様にして反応を行った。得られた生成物中のスルフォン酸基については、実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
【0014】
実施例6
容量7.0mlのステンレス製オートクレーブに、ポリ塩化ビフェニル混合物0.5mlと35重量%の硫化ナトリウム水溶液3.5mlを入れた後、ふたをして溶融塩浴中で300℃に昇温し、30分間加熱し反応させる。反応後、オートクレーブを溶融塩浴から取りだし室温まで冷却後、オートクレーブのふたを開けて生成物を取りだし、クロロフォルム10mlで抽出した溶液中の残存するポリ塩化ビフェニル量をガスクロマトグラフィーで定量分析をおこなった結果、ポリ塩化ビフェニル類の痕跡量さえも確認できなかった。
【0010】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0011】
ハロゲン含有化合物、中でも難燃性の廃塩化ビニル樹脂の処理は、大きな社会問題になっている。本発明によって得られるスルフォン化合物は、このような使用済み樹脂のリサイクル化を実現できるのみならず、その耐熱性と陽イオン交換機能を生かした付加価値の高い新規工業材料としての利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子を有する高分子化合物と硫黄化合物とを反応させて硫黄原子に置換した後、酸化反応によってスルフォン酸基にする2段階の製造方法であって、1段階の反応を水溶液中で、150℃〜450℃の反応温度及び0.5〜100MPaの反応圧力で行うことを特徴とするスルフォン酸含有化合物の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン原子の置換反応で、硫化物塩類またはチオカルボン酸塩類を使用することを特徴とする請求項1 に記載する製造方法。
【請求項3】
ハロゲン原子を硫黄原子で置換した高分子化合物を、過カルボン酸化合物と0℃〜100℃の反応温度で反応させてスルフォン酸基に変換することを特徴とする請求項1 又は請求項2 に記載する製造方法。

【公開番号】特開2007−2205(P2007−2205A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213397(P2005−213397)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(592096133)
【Fターム(参考)】