説明

スロッシング抑制装置

【課題】スロッシング現象発生の要因となる鉛直方向上向きの液流の勢いを減衰させるだけでなく、液流が浮屋根まで到達するのを防ぐことでより効果的に浮屋根の動揺を抑えることができ、必要に応じて収納することのできるスロッシング抑制装置を提供する。
【解決手段】水平面に対し傾斜をなした状態で、貯蔵液内に浸るように浮屋根2から板3を吊り下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体貯槽のスロッシングを抑制するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や水などの液体を大量に貯蔵しておくための施設の一例として浮屋根式の液体貯槽がある。大型の液体貯槽に浮屋根構造を用いることに関しては、建設コストが低く抑えられるというメリットがある一方で、地震時のスロッシング現象の発生により浮屋根が大きく動揺し、貯蔵液が貯槽外部に洩れだしてしまうことがある。
【0003】
こうした問題に対処するため、従来から用いられてきたスロッシング現象の低減技術には、貯蔵液内にワイヤーで係留された抵抗板を浮かべ、貯蔵液の流動を攪乱して運動エネルギーを減衰させることで鉛直方向の液流を低減するスロッシング抑制装置(特許文献1参照)がある。
【特許文献1】特開2005−280738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスロッシング低減技術は、地震発生時に液体貯槽の壁面付近で発生する貯蔵液の上下動に対して、液流の持つ運動エネルギーを減少させることでその収束を図るものであるが、液体の運動方向まで制御できるものではない上に、抵抗板と浮屋根との間には何も設けられていないことから、鉛直方向上向きの液流が浮屋根に近づいて、浮屋根を押し上げようとするのを回避できないという問題があった。また、内部に配管等の設備がある液体貯槽に対しては、浮屋根が下がったり、貯蔵液が揺れ動いたりしたときに、抵抗板がそれらの設備に衝突してしまう可能性があり、使用が難しいという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、スロッシング現象発生の要因となる鉛直方向上向きの液流の勢いを減衰させるだけでなく、液流が浮屋根まで到達するのを防ぐことでより効果的に浮屋根の動揺を抑えることができ、必要に応じて収納することのできるスロッシング抑制装置付き液体貯槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、水平面に対し傾斜をなした状態で、貯蔵液内に浸るように浮屋根から吊り下げられた板を有することを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスロッシング抑制装置であって、前記板はワイヤーやロープ等の吊り具によって上方向に移動可能に吊り下げられていることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のスロッシング抑制装置であって、前記板は設置高さ及び傾斜角度の調節が可能であることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のスロッシング抑制装置であって、前記板は液体貯槽の壁面に近接して配置されることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のスロッシング抑制装置であって、前記板が複数枚上下方向に並んで吊り下げられていることを特徴としている。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載のスロッシング抑制装置であって、前記板が複数枚横並びに配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地震時に生じる貯蔵液の鉛直方向上向きの流れが持つエネルギーを減少させることができると同時に、貯蔵液の流れをスロッシング現象の発生に影響しない方向に変化させることができる。その結果、浮屋根が鉛直液流に押し上げられるのを防ぎ、スロッシング現象の発生をより効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用したスロッシング抑制装置の一実施形態の構成を示すもので、1は液体貯槽、2は浮屋根、3は板、4はワイヤーである。
【0014】
図1に示すように、浮屋根2の周囲部下方には板3がワイヤー4のような可撓性の材質の吊り具によって、傾斜した状態で、貯蔵液中に浸るように吊り下げられている。因みに吊り具は伸縮性のものを用いることとしてもよい。板3の傾斜方向は液体貯槽1の中心に向かって上がっていくように傾いているのが望ましい。板3は後述するように貯蔵液の液流を受けて勢いを減衰すると共に流れの方向を変えるものなので、液中で容易に動揺しない程度に重量を有するものを使用するのが望ましい。また、地震発生時に生じる貯蔵液の鉛直方向上向きの液流aは、液体貯槽1の壁面付近において顕著となることから、液体貯槽1の壁面に近接した位置に、板3を複数枚並べて配置しておくのが望ましい。
【0015】
液体貯槽1付近で地震が発生すると、液体貯槽1内の貯蔵液が揺れて液流を生じ始める。このとき、液体貯槽1の壁面付近では、前述したように鉛直方向上向きの液流aが顕著となっている。この液流aが液面に達してしまうと液面を盛り上げて波となり、浮屋根2が押し上げられるわけだが、浮屋根2の下方には板3がワイヤー4のようにたわむことが可能なもので吊り下げられているので、液流aが下から流れてきて板3にぶつかると、図2に示すように板3が上に押し上げられることで液流aの運動エネルギーを吸収し、その結果液流aの勢いが減衰される。
【0016】
また、板3は前述の通り液体貯槽1の中心に向かって上がっていくように傾斜した状態で吊り下げられているため、液流aが板3にぶつかると液流aの持つ運動エネルギーが吸収されて減少すると同時に、板3の傾斜によって流れる方向を変えられ、図2に示すように液面に波を生じさせない液流bとなって液体貯槽1の中心方向に向かって流れていく。
【0017】
このように、鉛直方向の液流aの勢いを二つの手段で減衰させることで、浮屋根2が液流aに押し上げられるのを防ぎ、スロッシング現象の発生を抑制することができる。また、浮屋根2が多少動揺した場合でも、板3による液流aの減衰効果が大きいので短い時間で鎮静させることが可能である。
【0018】
ところで、液体貯槽1内部には液体の温度調節を行うための配管や、維持管理のための足場等の各種設備が設置されている場合があるが、液位と共に浮屋根2が下がり、板3がこうした設備に当たってしまう恐れのあるときは、浮屋根2に孔を設けてワイヤー4を通し、浮屋根2の上からワイヤー4を引き上げることができるような仕組みにしておくことで、板3と設備の衝突を避け、設備の損傷等を回避することができる。また、液体貯槽1が空の状態に近づいて浮屋根2と底盤が接近してきても、板3はつかえることなく間に収まるので邪魔にならない。
【0019】
もし、スロッシング抑止効果をより高めたいという場合には、板3の重量を調節する、或いは図3に示すように板3を上下方向或いは横方向に複数枚並べて吊り下げることで対応することができる。また、ワイヤー4を上下させることで板3の傾斜角度を調節してもよい。
【0020】
なお、板の大きさ、形状、枚数、材質、傾斜方向、吊り下げ部材、吊り下げ部材の引き上げ手段等は任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用したスロッシング抑制装置の一実施形態の構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す液体貯槽内で地震による液流が発生した場合に、貯蔵液の液流方向を転換する仕組みを示す正面図である。
【図3】スロッシング抑制効果をより高めるための本発明の適用例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 液体貯槽
2 浮屋根
3 板
4 ワイヤー(吊り具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対し傾斜をなした状態で、貯蔵液内に浸るように浮屋根から吊り下げられた板を有することを特徴とするスロッシング抑制装置。
【請求項2】
前記板はワイヤーやロープ等の吊り具によって上方向に移動可能に吊り下げられていることを特徴とする請求項1に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項3】
前記板は設置高さ及び傾斜角度の調節が可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項4】
前記板は液体貯槽の壁面に近接して配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項5】
前記板が複数枚上下方向に並んで吊り下げられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項6】
前記板が複数枚横並びに配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のスロッシング抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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