説明

スーパーセルロース溶媒および高揮発性溶媒を使用するリグノセルロース前処理のための方法および装置

本発明の実施態様は、経済的に実行可能な方式でリグノセルロースバイオマスにおける周知の不応性を克服するものである。プロセスおよびシステムは、リグノセルロースバイオマスをセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンに効率的に分画するために提供される。このように得られたセルロースおよびヘミセルロースは高度に非晶質であり、公知の方法を用いて五および六炭糖の非常に高濃度の混合物に容易に変換することが可能である。標準的な糖の収率は、糖溶液1リットル当たり100gを超える。アルコールなどの他の生成物は本発明の方法にしたがって容易に作成可能である。本発明のいくつかの実施態様のプロセス条件は穏当であり溶媒/固体比は低いので、資本や処理コストも比較的低額でよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代替的エネルギー源およびそれらのエネルギー源からエネルギーを抽出する手段の分野に関する。より具体的には、本発明は、人間の活動に使用するエネルギーの生産のための、リグノセルロースを含む植物原料の生物学的および生化学的分解に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能リグノセルロース由来の生物学系製品およびバイオエネルギーの生産は、天然資源、特に化石燃料の枯渇、および化石燃料の結果として生じた大気中二酸化炭素(CO)の蓄積に直面した人類の産業社会の発展の維持のために重要である。また、農業および農林残渣を発酵性糖に効果的に変換する技術開発も、米国の国益に恩恵をもたらす傑出した可能性がある。さらに、これらの再生可能リグノセルロースバイオマス由来セルロース系エタノールなどの第二世代バイオ燃料、ならびに水素および電気などの第三世代バイオ燃料の生成は、化石燃料に基づく経済から持続可能な炭水化物経済への移行に必要なバイオ産業革命を先導することになろう。バイオ燃料を使用すると、温室効果ガス排出削減、規制している食糧供給との競合緩和、農村経済発展の促進および国家的エネルギー安全保障の強化といったいくつかの利益がもたらされる。しかしながらこの分野における鍵となる技術的挑戦には、エネルギーを生産する新たな技術の発見およびバイオマス(主にリグノセルロース)を望ましいバイオ産業製品およびバイオエネルギーに変換するための技術費用の削減が含まれる。
【0003】
農業および農林残渣、地方自治体廃棄物および産業廃棄物、ならびに草木質バイオエネルギー植物などのリグノセルロースバイオマスは主に3種のバイオポリマー:セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンから成る天然の複合合成物である。リグノセルロースは一般的にその起源に応じてセルロース(約35〜50重量%)、ヘミセルロース(約15〜35%)およびリグニン(約5〜30%)を含有する。天然セルロース分子はヘミセルロース、リグニンおよびペクチンなどの他の構造多糖類と密接に関連している基本のセルロース繊維中に存在する。
【0004】
不応性バイオマスから発酵性糖を、効率的にコスト競争力をもって生成することは、依然として、セルロース系エタノールの新興バイオ精製所にとって最大の障壁となっている。生物学的変換によるバイオマス糖化には以下の2つの重要な工程がある:リグノセルロースの前処理または分画、次いで酵素セルロース(ヘミセルロースも含まれる可能性もある)の加水分解を行い、発酵性糖を生成する。このような変換プロセスの処理コストが高額であること、ならびに原材料コストと糖価格との間にある利幅が少ないことは商品化するにあたり主要な障害となっている。
【0005】
最も重要な技術的課題の1つは、酵素的加水分解を可能にして発酵性糖を生成するために、天然リグノセルロース材料の不応性を克服することである。リグノセルロースの前処理は最も費用のかかる工程かもしれない。その費用を処理費用総額の約40%と見積もる場合もある。また、不応性は、前処理に先立つリグノセルロース小型化といった、リグノセルロース分解をも含むほとんどの他の工程にかかる費用に影響を与える。したがってリグノセルロース材料の前処理は、酵素加水分解速度、酵素負荷、混合のための動力消費、生成物濃度、阻害物質が生じた場合は解毒、生成物精製、動力生成、廃棄物処理、および他の工程変数を含む下流段階のコストに大きく関わってくる。
【0006】
セルロースバイオマスの酵素への不応性は以下が原因であると思われる:1)セルラーゼ、ヘミセルラーゼおよびラッカーゼの加水分解作用を制限するセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンなどのいくつかの主要な多糖間の結合が複雑であること;2)セルラーゼへの基質可触性の低さ、高度な重合(DP)、および水中におけるセルロース断片の可溶性の低さといったセルロース材料固有の特性。したがってリグノセルロース材料の前処理は、このような材料から得る生成物の収率全体を改良する重要な工程と認識されている。
【0007】
すべてのリグノセルロース処理は以下の4つの主要な区分に分類できる:1)乾式製粉(細砕(チッピング)、ボール製粉、および粉砕)、湿式製粉、照射、マイクロ波および膨張剤(例えばZnCl)などの物理的方法;2)希酸類(例えば、希HSO、HPO、HCl、酢酸、蟻酸/HCl)、アルカリ類(例えば、NaOH、ライム、アンモニア、アミン)、オルガノソルブ、酸化剤(例えば、O、NO、H、NaClO)、セルロース溶媒(例えばカドクセン)、DMAc/LiClおよび濃HSOなどの化学的方法;3)触媒存在下または非存在下での蒸気爆発、CO爆発、アンモニア繊維爆発または膨張(AFEX)、流水式温水、超臨界流体抽出(例えばCO、CO/HO、CO/SO、NH、HO)などの物理化学的方法;および4)生物学的方法(例えば白色かん菌類)。
【0008】
近年、Biomass Refining Consortium for Applied Fundamentals and Innovation(CAFI)は、主要な前処理の性能についての比較情報を明らかにする最初の共同プロジェクトに取り組んだ。該共同体は最善の前処理には希酸、流水式前処理、アンモニア繊維爆発、アンモニア再利用浸出(ARP)およびライム前処理が含まれると結論付けた。また、ヨーロッパやカナダでは2つの他の可能性ある前処理:SOを含浸した、または含浸しない蒸気爆発、およびオルガノソルブが集中的に研究されている。バイオマス前処理の主な条件を表1に示す。
【0009】
表1:リグノセルロース前処理の技術および代表的な反応条件

【0010】
リグノセルロース前処理は過去数十年間集中的に取り組まれてきたが、希酸、SO、調整pH、AFEX、ARP、流水、オルガノソルブおよびライム前処理などの現在主流である技術は、処理費用が高額であり、投資リスクが高いことから、未だ大規模に商品化されてはいない。しかし集中的に研究されている前処理のほとんど全ては、1つ、またはいくつかの共通した短所を有している:1)糖分解および阻害物質形成をもたらす過酷な前処理条件(AFEXを除く);2)残余リグニンおよびヘミセルロースの存在に起因する、低いか、あるいはささやかなセルロース消化率;3)高セルロース負荷の必要性;4)前処理リグノセルロースの大幅な画分が結晶のままであることに起因する加水分解速度の低さ;5)光熱費/エネルギーの大量消費;6)規模の経済に起因する膨大な資本投資;および7)オルガノソルブ以外のリグノセルロースの他の主要成分の併用率の低さ。
【0011】
(希)硫酸を主に使用する希酸前処理(DA)は最も研究されている前処理法である。比較的高温(例えば150〜200℃)高圧(例えば120〜200psia)で行うと、DA前処理は酸に不安定なヘミセルロースを可溶化し、それゆえ共有結合、水素結合およびファンデルワールス力により結合したリグノセルロース合成物が分解される。その結果、濃縮されたリグニンがDA後の結晶セルロースの表面に残留し、その後の酵素加水分解の妨げになる可能性がある。
【0012】
オルガノソルブパルプ化により、クラフトパルプ化と比較して、環境にやさしいという便益、少ない資本投資、副産物利用、ならびに低い原材料輸送費が得られる。オルガノソルブ前処理はオルガノソルブパルプ化から発展し、酵素加水分解後の発酵性糖を製造するために早くも1980年代には研究されていた。概して、オルガノソルブ前処理では、酸またはアルカリなどの触媒を含有するリグニン抽出溶媒混合物、ならびに高温高圧消化装置でリグニンを抽出する水/有機溶媒(例えばエタノールおよびメタノール)を使用する。
【0013】
現在カナダでは、リグノルプロセスが商業的リグノセルロースのバイオ精製所の一部として開発されている。そのプロセスでは、リグニン抽出工程を約180〜200℃、約400psiで、エタノール/水の約50:50(w/w)の混合物により、約1%HSOを添加して、30〜90分間行う。オルガノソルブ前処理の後、無硫黄リグニン、フルフラール、ヘミセルロース糖および酢酸などの他の天然化学物質を含む黒液をさらに処理し、以下の工程を行う:1)水蒸気により黒液を希釈してリグニンを沈殿させ回収し、次いでろ過し、洗浄し、乾燥させる;2)熱された黒液のフラッシングおよびその蒸気の濃縮によりエタノールを回収し、再利用し、ろ液および洗浄液をリグニン沈殿から蒸留する;3)酢酸、フルフラールおよび抽出物を蒸留塔から回収し、蒸留廃液からキシロースを分離する;および4)ヘミセルロースオリゴ糖を発酵性糖に変換し、より多くのエタノールまたは他の高価値生成物を生成する。Lignol Innovations Co.による経済分析レポートでは、多様な副産物、特にリグニン、エタノールおよびキシロース画分から得られる利益は小規模工場(1日約100メートルトン)で目覚ましい経済効果を可能にし、これは標準的なリグノセルロースのバイオ精製所の投入量の20分の1に当たる。
【0014】
濃酸によるリグノセルロース糖化はもう1つの一般的な前処理法である。早くも1883年初旬の文献では、濃硫酸で天然セルロースを溶解し、加水分解し、次いで水で希釈することが報告された。産業的木材糖化は、例えば酸耐性器材、酸回収および最終糖収率といった多くの技術的および経済的問題を抱えている。これらの問題は、多くの商業的プロセスが前世紀初頭以来ドイツ、スイス、日本、米国および旧ソ連で開発されてきたにもかかわらず依然として解決されていない。商業的に試験された技術には:希硫酸(0.4%HSO)を添加する1926年のシェラー‐トルネシュ(Scholler-Tornesch)法;超濃縮塩酸(41%HCl)を添加する1937年のベルギウス‐ライナウ(Bergius-Rheinau)法;および糖と酸を分離するための膜を使用する1948年に開発された濃硫酸法がある。米国では、シェラー‐トルネシュ法の原理に基づく、不連続というよりむしろ連続したシステムとしてのマディソン(Madison)法が第二次世界大戦中に開発された。濃酸を使用するプロセスは低反応温度という利点を有するが、耐腐食性器材の費用は非常に高価である。濃硫酸を添加する際の主な技術的問題は、可溶性糖/固体酸分離、酸回収および酸の再濃縮である。
【0015】
近年、セルロース溶媒および有機溶媒系リグノセルロース分画(COSLIF)と称するプロセスが開発された。セルロース溶媒(例えば濃リン酸またはイオン溶液)により、セルロースの結晶構造の分解が可能になる。このタイプの前処理は低温(例えば約50℃)および大気圧で行うことも可能であり、このことは糖分解を最小限に抑える。その後の洗浄工程はバイオマスを分画するために行われる;有機溶媒を使用する第一の洗浄ではリグニンを除去し;そして、水による第二の洗浄では、部分的に加水分解したヘミセルロース(セルロースも含まれる可能性もある)の断片を除去する。COSLIF法は高反応性非晶質セルロースを生成し、これは急速に高グルカン消化率で酵素加水分解することが可能である。
【0016】
COSLIFはセルロース溶媒系バイオマス前処理と濃酸糖化とオルガノソルブとのハイブリッド技術であると言ってよい。他のセルロース溶媒系バイオマス前処理技術と比較すると、この新たな技術にはリグニン除去技術や効率的な溶媒再利用が含まれている。オルガノソルブと比較すると、この技術は低温で実行することが可能であり、ヘミセルロース分解を最小限に抑え(主生成物としてのフルフラールを最小限に抑え)、得られた非晶質セルロース材料はオルガノソルブから得られたものよりも反応性が高く、また、異なる溶媒の組み合わせが用いられる。濃酸糖化とは異なり、濃リン酸が使用される加水分解は限定的であり、溶媒に不溶な長鎖多糖が生じる。したがって、濃リン酸による糖の分離は固体/液体分離である。しかし濃酸糖化では、糖/酸分離は液体/液体分離である。COSLIFも、そのプロセスが簡単に急速に加水分解可能な非晶質セルロースを生成可能である点、またリグニンなどのリグノセルロース成分単離に使用可能である点で、ほとんどのバイオマス前処理技術(例えば希酸、AFEX、熱水、蒸気爆発等)とは異なっている。
【0017】
リグノセルロース前処理の先端技術が国際特許出願番号PCT/US2006/011411(公開番号WO2007/111605)で開示されており、これは参照により全体が本明細書に援用されている。実施態様では、その特許出願は以下の工程を含む方法を教示している:第一の溶媒をリグノセルロース材料に添加し、セルロースおよびヘミセルロースを溶解する;第二の溶媒を添加し、非晶質セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、リグニンを部分的に可溶化する;セルロースおよびヘミセルロースをリグニンから分離する;セルロースからヘミセルロースを分離する;生成物を回収する;第一の溶媒および第二の溶媒を再利用する。したがって、この発明の方法はグルコース含有セルロースを混合糖含有ヘミセルロースから分離する工程を含む。また該発明はセルロース、リグノセルロース、リグニンおよび酢酸を分画するための多様な有機溶媒、ならびに液体(例えば有機溶媒)から固体(例えばセルロース)を分離するための多様な機械装置または電気機械装置を包含する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は現在利用可能な技術の欠点の解決法を提供している。本発明はセルロース、ヘミセルロースおよびリグノセルロースを含有する材料を含む植物材料を、炭水化物、エタノールおよび水素などの利用可能なエネルギー源に変換する新規な方法を提供する。概して本発明は、現在商業的に利用可能な技術の短所を効果的に克服する新規なリグノセルロース前処理を提供する。本発明は植物材料を利用可能なエネルギー源へと変換することをより上手に可能にしており、とりわけ以下の工程により可能になっている:1)濃酸の使用をすべてのセルロース溶媒にまで拡大する(予想外に有利な性質をもたらす使用法);2)スーパーセルロース溶媒(例えばポリリン酸、または濃リン酸とPの混合物、またはPの蒸気、またはHPO/Pの混合物)を使用し、溶媒使用量を減らす。本発明はまた、利用可能な炭水化物への植物材料の変換を改良しており、その炭水化物はとりわけエネルギー源へ変換可能であり、とりわけ以下の工程により可能になっている:1)一段階溶媒を用いて、非晶質形態でセルロースおよびヘミセルロースの両方を沈殿させ、リグニンを可溶化する;2)低温蒸気を用い、大気圧以下で、少なくとも非晶質セルロースおよびヘミセルロースを除去処理する。
【0019】
本発明は現在公知の技術を越える改良であり、WO2007/111605に開示された先行の主要技術のある態様に対する改良を包含する。改良の中でも、実施態様では、特にヘミセルロースまたはその加水分解中間体からセルロースを分離する工程を省くことで、本発明はC5およびC6糖の分離を省いている。本発明の実施態様により提供された他の改良には、エネルギー生産に使用するための最終生成物を生成するのに使用される有機溶媒の数を減らすこと、有機溶媒を除去するにあたり蒸気噴霧により水の消費を減らすことが包含される。さらに実施態様では、本プロセスはリグニン除去の効率を改善するものである。したがって本プロセスを軟木に適用して、非晶質セルロースの加水分解後に通常行う糖濃縮工程を省ける可能性がある。本発明により提供された改良は、リグノセルロース材料からの糖収率を驚くほど促進するものである。すなわち、本発明にしたがったプロセスは極めて高濃度のC5およびC6糖溶液(1リットル当たり100グラム以上の糖)を産生することが可能である。この力価は先行の開示WO2007/111605の主な力価と比較して驚くほどに高く、約25g/Lの糖溶液を産生する。
【0020】
本発明により実現した他の利点には、実施態様において、必要となる初期資本投資を削減することも含まれ、それは以下により実現する:(i)2種有機溶媒分画蒸留塔を、1つの有機溶媒のみ回収する簡易フラッシュ蒸留システムまたは数個のトレイによる蒸留システムへと簡便化する;(ii)洗浄工程の回数を削減する;および(iii)セルロース溶媒再利用プロセスを簡便化する。本発明の実施態様により実現したさらなる利点には、副産物(酢酸および/またはリグニン)に見込まれる利益に対する経済的依存を抑え、該プロセスを経済的に実行可能にすること、ならびにリグノセルロース粒子削減に必要なエネルギー消費を削減することが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
したがって1つの態様では、本発明はエネルギー生産に有用な化合物へと分解させるためのリグノセルロースの前処理法を提供する。概して、本方法は以下の工程を含む:ポリリン酸塩によりリグノセルロースを消化する;溶媒または溶媒混合液でセルロースおよびヘミセルロースを沈殿させる;沈殿させたセルロースおよびヘミセルロースを溶媒で洗浄する;洗浄した沈殿物を除去処理し、溶媒を除去する。本方法はまた、ポリリン酸塩によるリグノセルロース分解に先だって、リグノセルロース粒径を全体的に小さくする工程を含むことも可能である。実施態様では、本方法はリグノセルロースを、エネルギー源として利用可能な1種以上のサブユニット成分(例えばセルロース、ヘミセルロースおよびリグニン)または1種以上の小化合物(例えば糖)へと分解させる方法である。他の実施態様では、本方法はセルロース、ヘミセルロース、リグニンまたはそれらのうち2つを組み合わせたもの、または3つすべてを組み合わせたものを生成する方法である。
【0022】
前処理の方法は、エネルギー源として有用な1種以上の化合物を製造する方法を提供する別の方法工程を含むことも可能である。特に、本方法は、グルコース、キシロース、マンノースおよびガラクトースなどのC5およびC6糖を含むがこれらに限定されない1種以上の糖を製造する方法であることが可能である。概してリグノセルロースからエネルギー源を生産する方法は以下の工程を含む:ポリリン酸塩によりリグノセルロースを消化する;溶媒または溶媒混合液でセルロースおよびヘミセルロースを沈殿させる;沈殿させたセルロースおよびヘミセルロースを溶媒で洗浄する;洗浄した沈殿物を除去処理し、溶媒を除去する;セルロース、ヘミセルロースまたはその両方の酵素分解を可能にする条件下で、1種以上のセルロースまたはヘミセルロース分解酵素に該沈殿物を暴露する。実施態様では、本方法は、1種以上の糖などの分解生成物を反応物から分離または精製することを含むことが可能である。
【0023】
別の態様では、本発明はリグノセルロースを前処理するためのシステムを提供する。概して、本システムはリグノセルロースを消化し、セルロースおよびヘミセルロースを混合して沈殿させ、リグニンを抽出し、沈殿させたセルロースおよび/またはヘミセルロースを洗浄し、沈殿させたセルロースおよび/またはヘミセルロースから溶媒を除去処理するための少なくとも1つの容器、入れ物等を含む。好ましくは、該システムは、記載された様々な各作用のための別々の容器、入れ物等を含む。実施態様では、該システムはさらに、リグノセルロース材料をセルロースおよび/またはヘミセルロースへと分解させるために都合の良いサイズへ、リグノセルロース材料のサイズを縮小する装置を含むことが可能である。実施態様では、該システムはリグノセルロースを分解するシステムである。他の実施態様では、該システムはリグノセルロースから、セルロース、ヘミセルロース、リグニンまたはそれらのうち2つを組み合わせたもの、または3つすべてを組み合わせたものを生成するシステムである。
【0024】
実施態様では、該システムにはさらに、リグニンを分離するための少なくとも1つの容器、入れ物等を含む。例えば、該システムは有機溶媒およびポリリン酸塩からリグニンを分離し得る蒸留塔を含むことが可能である。いくつかの実施態様では、該システムは他の物質からポリリン酸塩を分離するための炉を含む。これらの実施態様では、ポリリン酸塩は該システムを使用するその後のリグノセルロース分解に再使用することが可能である。
【0025】
該システムの他のさらなる実施態様では、セルロースおよび/またはヘミセルロースを、エネルギー源として利用可能な小化合物(例えば糖)へと加水分解するために、容器、入れ物等が含まれる。例えば該システムはセルロースおよび/またはヘミセルロースが酵素的に糖へ分解される加水分解タンクを含むことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本明細書の一部に援用され、またそれを構成する添付図面は、本発明のシステムの例示的な実施態様を説明し、明細書と共に本発明の特定の原理を説明するものである。
【0027】
【図1】リグノセルロースをリグニン、およびセルロースとヘミセルロースの混合物、またはその両方へと分解するシステムの一実施態様の概略図
【0028】
【図2】リグノセルロースをC6とC5糖混合物、エタノール、およびリグニンへと分解するシステムの実施態様の概略図
【0029】
【図3】リグノセルロースをリグニン、およびセルロースとヘミセルロースの混合物、またはその両方へと分解するシステムの実施態様の概略図
【0030】
【図4】リグノセルロースを高濃度C6とC5糖混合物、エタノール、およびリグニンへと分解するシステムの実施態様の概略図
【0031】
【図5】リグノセルロースをリグニン、およびセルロースとヘミセルロースの混合物、またはその両方へと分解するシステムの実施態様の概略図
【0032】
【図6】リグノセルロースをC6とC5糖の混合物、およびリグニンへと分解するシステムの実施態様の概略図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の様々な例示的実施態様についてこれから詳細に言及することとし、その例は添付図面に説明してある。以下の詳細な説明は本発明を限定するものではなく、代わりに本発明の態様および性質の一定の詳細を読者にさらによく理解してもらうためのものである。
【0034】
植物材料を有用なエネルギー源に変換する現在公知の技術には、いくつかの限界がある。それらの限界には以下のものが挙げられる:1)エネルギー源の製造のための公知の組成物の水相に存在する非晶質セルロースの糖濃度は低い(20〜25g糖/L以下)。したがって、発酵に先だって希釈糖溶液を高濃度糖溶液(100g糖/L以上)に再濃縮することが望ましい;2)いくつかの副産物の市場は未だないか、あるいはリグニンの場合のように市場がある場合、高品質副産物(例えばリグニン)は大量には生産されていない;したがって、健全なリグニン市場に発展する以前に、適正価格でリグニンを消費、販売することは困難となる可能性がある;3)現在利用可能な技術には、現在公知のシステムに使用されている酢酸およびアセトンを分離する蒸留塔のための高額な資本投資が必要である;4)有機溶媒分離および再利用にかかる処理コストは高額であることが見込まれる。本方法およびシステムはこれらの限界に取り組み、植物材料を有用なエネルギー源に商業的に変換するより、しっかりした手段を提供する。
【0035】
上述した第一の限界に関し、現在開示されているプロセスには、好ましくは有機溶媒を蒸散させるための蒸気を使用する除去処理による、有機溶媒洗浄の後に行う非晶質セルロースとヘミセルロースの混合物からの有機溶媒除去が含まれる。例えば本方法およびシステムにおいて、先行のシステムの第二洗浄装置は1つ以上の真空乾燥機または除去装置に置き換えられる。このような乾燥機または除去装置を使用して、酵素(例えばヘミセルロースを分解するためのセルラーゼ)、酸、微生物またはそれらの組み合わせによる加水分解などにより分解することが可能な非晶質セルロースおよびヘミセルロース水和物である生成物を生成する。主に、蒸気による除去処理から得られるセルロース/ヘミセルロース組成物は約20〜30%の固形分を含有し、これは高濃度糖溶液を生成する、酵素、酸および/または微生物による直接的加水分解に非常に適している。よって、本発明にしたがえば、加水分解の後に高濃度糖溶液が得られる。好ましい実施態様では、非晶質炭水化物(例えばエタノール、ブタノール、アセトン)由来の残留有機溶媒を若干量、加水分解工程、あるいは発酵工程後でも再利用する。すでに公知の様式とは異なり、本システムおよび方法はペントースおよびヘキソースの2つの別々の流れ(stream)と言うよりむしろ、ペントースおよびヘキソース両方を含む混合した流れ(stream)を生み出すことが可能である。
【0036】
現在利用可能なプロセスについて上述した第二の限界に関し、本プロセスおよびシステムは、実施態様ではPまたはスーパーリン酸を再生するHPO/リグニン/抽出物の混合体を燃焼させる工程を含む。このような実施態様では、リグニンは製紙産業のプロセスと同様、燃料として使用される。
【0037】
上述した第三の限界に関し、実施態様では、本システムおよびプロセスは高額な分画および蒸留塔を簡単な蒸留塔またはフラッシュシステムと置き換えている。この交換によって、初期の総投資額をおよそ30%以上削減できる可能性がある。
【0038】
上述した第四の限界に関し、本明細書に開示された新たな様式は、より少ない有機溶媒再循環の量と、より簡易な回収プロセスにより処理費を大幅に削減することが可能である。
【0039】
本発明は、一態様において、エネルギー生産に有用な化合物へ分解するためのリグノセルロース前処理法を提供する。概して、本方法は以下の工程を含む:ポリリン酸塩によりリグノセルロースを消化する;第一の溶媒または溶媒混合液でセルロースおよびヘミセルロースを沈殿させる;沈殿させたセルロースおよびヘミセルロースを第二の溶媒で洗浄する;洗浄した沈殿物を除去処理し溶媒を除去する。
【0040】
本方法によれば、リグノセルロース消化工程はポリリン酸塩(すなわちスーパーセルロース溶媒;スーパーリン酸)をリグノセルロースと結合させる工程を含む。リグノセルロースは、精製、半精製または未精製状態で提供することが可能である。例えばそれは、単純組成物、または組成物の実質的固形分としてのリグノセルロースを含む複合組成物として提供することが可能である。該組成物は他の生物学的材料および水などの1種以上の溶媒を含むことが可能である。消化工程は、ポリリン酸塩がリグノセルロースをそのサブユニット成分であるセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンへと分解または溶解する条件下で、リグノセルロースとポリリン酸塩とを接触させたままとする工程をさらに含む。消化は好ましくは、存在するセルロースおよびヘミセルロースの少なくとも50%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは実質的すべてが溶解するように行われる。
【0041】
本方法によれば、溶解したセルロースおよびヘミセルロースはその後、第一の溶媒または第一の溶媒の混合液で沈殿させる。沈殿は、少なくとも一部のセルロースおよび/またはヘミセルロースを沈殿させ得る条件下で、消化したリグノセルロース組成物を1種以上の溶媒と結合させた結果として起こる。好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは実質的すべての非晶質セルロースおよび溶解ヘミセルロースがこの工程で沈殿する。
【0042】
セルロースおよび/またはヘミセルロースを沈殿させる工程は、組成物に存在するリグニンを溶解および/または抽出する工程をさらに含む。好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは実質的すべてのリグニンをこの工程でセルロースおよびヘミセルロースから分離する。
【0043】
本発明によれば、第一の溶媒は、セルロース、ヘミセルロース、またはその両方の沈殿およびリグニンの溶解に適した任意の溶媒または溶媒の組み合わせであり得る。好ましくは、第一の溶媒は以下のうち1つ以上を含む:メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、アセトン、プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、ブタナール、ブタノン(メチルエチルケトン)、t‐ブタノール、および水。好ましい実施態様では、該溶媒はエタノール、ブタノール、アセトン、水、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせから成る。さらなる溶媒には、COまたはCOと上記に列挙した溶媒の一つ以上との混合物、あるいはリグニン、酢酸および(ポリ)リン酸由来のオリゴマー〜ポリマー炭水化物を分離する類似の性質を有する溶媒が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0044】
本発明の方法は、沈殿したセルロースおよびヘミセルロースを第二の溶媒または溶媒の組み合わせで洗浄する工程をさらに含む。第二の溶媒はセルロースおよび/またはヘミセルロースの洗浄に適した任意の溶媒または溶媒の組み合わせであり得る。好ましくは、該溶媒はセルロースおよび/またはヘミセルロースからリン酸を除去するのに適した溶媒である。好ましい実施態様では第二の溶媒は、好ましい第一の溶媒として上記に列挙された溶媒のうちの1つ、または2つ以上の混合物である。いくつかの好ましい実施態様では、該溶媒はエタノール、ブタノール、アセトン、水、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせから成る。
【0045】
洗浄工程により、消化および沈殿組成物に存在する実質的にすべてのリグニンおよびリン酸から非晶質セルロースおよびヘミセルロースが分離することになる。リグニン、リン酸および他の非セルロースまたはヘミセルロース成分は、下記にさらに詳述するように一定の実施態様の中でさらに処理することが可能である。
【0046】
洗浄した非晶質セルロースおよびヘミセルロースはその後、任意の好適な手段により残留溶媒について除去処理する。例えば、洗浄した沈殿物は、沈殿物から溶媒を蒸発させるため、真空、熱、ガス、蒸気またはそれらの組み合わせにさらすことが可能である。沈殿物から溶媒を蒸発させるため、蒸気、より好ましくは低温蒸気のみ、または真空との組み合わせが使用されることが好ましい。水を使用する1つ以上の洗浄工程に依存するような現在用いられているプロセスと比較して、本方法は沈殿物から第一/第二溶媒を除去する迅速で効果的かつ安価な方法を提供する。水の使用が減少すれば本方法を実行するコストが削減できるだけでなく、高品質の製品ももたらされる。より具体的には、水洗浄を利用する場合、頻回の洗浄が必要となり、この結果、製品を利用できる形態で提供できるようにする前に通常除去しなければならないほど水の含量が極めて高い製品になってしまう。しかしながら、本方法によれば、蒸気の形態で少量の水を使用して溶媒を蒸発させ、有用な製品を提供することが可能である。必要な蒸気は少量であるため、本プロセスに使用する水は少量で、コスト削減が達成される。さらに、生成した除去処理済みの生成物は、先行の方法で達成されたものと比較して固形分が非常に高く、その後のプロセス反応にすぐに使用できる。したがって、セルロースおよびヘミセルロースの装置および取り扱いに必要とされる程度に、生成物を調製する時間が短縮される。
【0047】
結果として得られた非晶質セルロースおよび非晶質ヘミセルロース水和物の組み合わせは、あらゆる目的に適している。実施態様では、下記に詳述するように、その水和生成物は加水分解および/または発酵反応の原料として使用し、濃縮糖組成物および/または有機溶媒を生成する。好都合にも、セルロースおよびヘミセルロースから溶媒を除去する蒸気を使用すると、検出可能でしかも相当量の水分を有する生成物がもたらされ、これはその後のセルロースおよびヘミセルロース処理に適している。除去プロセスにおける除去処理剤として蒸気を使用する場合、乾燥した非晶質セルロースおよびヘミセルロースは、水分が存在することから明らかに乾燥状態であるとは言えない。しかしながら、議論の便宜上、この生成物は本明細書では「乾燥している」こととする。実際、好ましい実施態様では、乾燥したセルロースおよびヘミセルロースは相当量の水分、例えば少なくとも50%(W/W)、少なくとも60%(W/W)、少なくとも70%(W/W)、少なくとも75%(W/W)または少なくとも80%(W/W)水分を含むことが可能であり、セルロースおよび/またはヘミセルロースが残りの部分の全てではないがほとんどの部分を構成している。
【0048】
上記に挙げた工程以外に、リグノセルロースを前処理する方法は、出発物質の前処理ならびに非セルロースおよび非ヘミセルロース物質の後処理に関わる工程を含むことが可能である。例えば、消化に先だって、リグノセルロース材料は、リグノセルロース粒径を全体的に縮小するあらゆる方法で処理することが可能である。さらに実施態様では、消化に先だって、例えば硬木、軟木、再生紙、古紙、樹木林から切り落とした断片、パルプおよび廃紙、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維、麦わら、稲わら、サトウキビしぼりかす(バガス)またはスイッチグラスであってもよいグノセルロース材料は洗浄することが可能であり、その水分含量は変更することが可能であり、任意の他の所望の方法で調整することが可能である。好ましい実施態様では、リグノセルロース材料の水分含量は約5〜30%、より好ましくは約10〜20%、最も好ましくは約15%になるように調整する。消化装置に入れるに先だって、溶解性糖および/またはタンパク質の含有量が高いリグノセルロースバイオマスは溶媒(例えば熱水)により事前に抽出し、これらの抽出物(糖またはタンパク質)を除去することが可能である。
【0049】
前処理プロセスにおける別の選択的工程は、非晶質セルロースおよびヘミセルロースの洗浄と、洗浄された生成物の除去処理との間にある分離工程である。該分離工程は任意の好適な手段により行うことが可能であり、ろ過および遠心分離などの公知の液体/固体分離技術が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本方法のためのさらに別の選択的工程は、除去処理中、主に蒸発/揮発により放出された溶媒(単数または複数)を捕捉し、再利用することである。好都合にも、溶媒(単数または複数)はこの工程で捕捉し、セルロースおよび/またはヘミセルロースを沈殿、洗浄するための溶媒(単数または複数)として再利用することが可能である。
【0051】
いくつかの実施態様では、洗浄工程中に除去されたリグニン、リン酸、溶媒(単数または複数)および他の物質はさらに処理し、副産物がもたらされる。例えば、洗浄液を蒸留塔に供し、物理的特性(例えば揮発性)に基づいて化合物を分離することが可能である。同様に、洗浄液を、ろ過および遠心分離などの多くの液体/固体分離技術のいずれかに供し、サイズ、重量、濃度等に基づいて物質を分離することが可能である。好ましい実施態様では、リグニンは他の成分から除去し、高度に精製された副産物として捕捉する。高度に好ましい実施態様では、洗浄液は最初に蒸留プロセスに供し、1つ以上の溶媒(例えばエタノール)を除去、捕捉し、非溶媒画分は1つ以上の液体/固体分離技術に供し、残留物質からリグニンを分離する。
【0052】
蒸留および/または液体/固体分離後に残留する洗浄液あるいは洗浄液成分は、実施態様では、高温過熱し副産物を生成することが可能である。例えば、蒸留および液体/固体分離に供した後の洗浄液を炉または他の類似の単位操作(例えば湿式酸化)で加熱し、灰およびポリリン酸などの副産物を生成することが可能である。除去処理工程および任意の蒸留プロセスから任意に回収した溶媒と同様に、本方法ではポリリン酸を再使用出来、一般的方法の費用対効果を改善することが可能である。
【0053】
当技術分野での先行方法では、揮発性成分(例えば溶媒、非溶媒単鎖炭素分子等)を分離するためのトレイ数の多い高額な分画蒸留塔が使用されていることはここで特記すべきことである。本発明にこのような蒸留塔の使用を包含してはいるが、簡単な蒸留塔を使用しても適切な分離が行われ副産物が生成および蓄積されることが見出されている。
【0054】
上述した方法工程以外に、任意の工程の有無にかかわらず、本発明はエネルギー源となる1つ以上の化合物を生成する方法を結果的にもたらすさらなる工程を提供する。例えば、本方法は糖、アルコールなどの溶媒、またはその両方を生成する方法であり得る。概して、エネルギー源となる化合物を生成する方法は以下の工程を含む:ポリリン酸塩でリグノセルロースを消化する;第一の溶媒または溶媒混合液でセルロースおよびヘミセルロースを沈殿させる;沈殿させたセルロースおよびヘミセルロースを第二の溶媒で洗浄する;洗浄した沈殿物を除去処理し、溶媒を除去する;セルロースおよび/またはヘミセルロースをサブユニット成分へと加水分解あるいはその他の方法で分解する。好ましい実施態様では、上述した前処理方法を利用して、エネルギー源化合物を生成する方法に使用するための比較的乾燥した非晶質セルロースおよび非晶質ヘミセルロースを生成する。その比較的乾燥したセルロースおよびヘミセルロースを、それらをより単純な化合物に分解するような条件にさらす。該条件は目的を達成するのに適したものであればいかなる条件でもよい。例えば、セルロースおよびヘミセルロースは、可溶または固体酸、1つ以上の酵素、1つ以上の微生物、あるいは分解剤を組み合わせたものに暴露することが可能である。例示的な実施態様では、セルロース、ヘミセルロースまたはその両方の酵素的分解を可能にする条件下で、セルロース/ヘミセルロースは1つ以上のセルロースまたはヘミセルロース分解酵素(例えばセルラーゼ)に暴露される。
【0055】
実施態様では、本方法は1つ以上の糖などの分解生成物を反応物から分離または精製することを含む。例えば、公知の液体/固体分離技術を利用し、セルロースおよびヘミセルロースから、ならびに分解反応組成物に存在する酵素および/または他の物質から糖(例えばグルコース、ガラクトース、マンノース)を分離することが可能である。好都合にも、蒸気で除去処理した非晶質セルロースおよびヘミセルロースを反応物として使用する場合、該反応物は固形分の約20%〜30%の量で存在する。この多量な固形分に少なくとも部分的に起因して、約1リットル当たり約100グラムの非常に高濃度の糖が得られる。
【0056】
糖生成が1つの好ましい実施態様である一方で、他の生成物の生成も本発明に包含されていることを特記すべきである。例えば、加水分解の反応条件は、セルロースおよびヘミセルロースの大部分または全体が所望の最終生成物としてのエタノールに変換されるように設定することが可能である。したがって例示的な実施態様では、セルロースおよびヘミセルロースを分解し、得られた糖をアルコールへと発酵させ得る条件下で、セルロースおよび/またはヘミセルロースを分解し、糖をアルコール(例えばエタノール)へと発酵させることが可能な1つ以上の微生物を、セルロースおよびヘミセルロースと結合させることが可能である。該微生物(単数または複数)によって作られたアルコールはその後、エネルギー源として使用するために(例えば、内燃エンジンに動力を供給するために)捕捉することが可能である。あるいはアルコールは、沈殿および洗浄用の溶媒として本方法に使用するなどの任意の他の好適な目的に使用可能である。
【0057】
当業者には明らかなように、本方法は、本方法の費用対効果を改善するために包含され得る1つ以上の付加的な工程を含むことが可能である。例えば、エネルギー生産能にとって不要な加水分解反応由来物質は、例えば固体/液体分離技術によって除去可能である。その後これらの物質を精製するか、または有用な物質を生成するためにさらに処理することが可能である。好ましい実施態様では、加水分解反応から得た固体リン酸カルシウムを硫酸と反応させ、廃棄物である硫酸カルシウム、およびセルロース溶媒として使用できるリン酸を生成することが可能である。
【0058】
方法に関する発明の態様以外に、本発明は、リグノセルロースの前処理、セルロースおよび/またはヘミセルロースの生成、ならびにエネルギー源となる1つ以上の物質の生成のためのシステムを提供する。概して、本発明のシステムは、本発明の方法を実行するためのハードウエア、溶媒、および/または反応物を提供する。したがって実施態様では、該システムは、リグノセルロースの消化、セルロースおよびヘミセルロースの沈殿および/または洗浄、非晶質セルロースおよびヘミセルロースの溶媒の除去処理のための入れ物を含む。さらなる実施態様では、システムは1つ以上の蒸留または分画/蒸留塔、1つ以上の固体/液体分離器、および1つ以上の炉を含む。別のさらなる実施態様では、システムは1つ以上の加水分解入れ物を含む。また、システムは、作用されるリグノセルロース材料を提供する原材料の大きさ、水分含量等を変更するための1つ以上の入れ物を含むことも可能である。本発明によるシステムは生成物および副産物の生成および分離のための溶媒および反応物を含み得るが、必ずしも含まなくともよい。
【0059】
本明細書に論述した実施態様のいずれでも、入れ物は概して、連続攪拌タンク、連続管状反応器、またはバッチタンクとすることが可能である。固体、液体、およびガス材料をシステム中に、またシステム外に移動させるための手段があれば、いかなる入れ物でも有効である。溶媒と固体相間の質量移動限界を緩和するために、また、相平衡に近づく速度を高めるために、入れ物の内容物をある程度混合することが好ましい。選択された溶媒およびプロセス条件、ならびに特定の入れ物に対する望ましい適応性に基づいて、構成材料を選択する。概して、本発明を実行するためのプロセス条件は穏当であることから特別な入れ物は必要ない。
【0060】
リグノセルロースの前処理ならびに糖および他のエネルギー源の生産のためのシステムおよび方法に関する他の一般的なパラメーターおよび考察はWO2007/111605に記述されており、これは参照により全体が本明細書に援用されている。
【0061】
次に図面を参照することとする。図1は植物を利用可能なエネルギー源に変換するためのシステムおよびプロセスの実施態様を示す図式を表している。本記述はシステムのその実施態様を用いる、本発明に従った方法の実行に関する。
【0062】
平均粒径が0.5cm未満である15%含湿リグノセルロース含有バイオマス1.2kgを含む原材料を消化装置3に装填し1、3リットルのスーパーセルロース溶媒(SCS)を添加する2。SCSはポリリン酸塩またはリン酸であることが好ましいことは特記すべきことである。また、0.5cm以下の粒径である湿性リグノセルロースがここで記述されてはいるが、原材料は任意のサイズの湿性リグノセルロースであることも可能であり、2.5cm以下の大きさを含むが、これに限定されるものではない。本実施例におけるSCSは85%濃度で使用するポリリン酸塩(ポリ‐P)であり、これは超濃縮リン酸の蒸気または微細液滴の形態で添加する(例えばP>70%)。約6kgのポリリン酸塩を添加する。この組み合わせを消化装置3でよく混合する。反応時間は数分から数時間の範囲である。水と酸の混合は発熱プロセスであり;比較的高温(例えば50℃から実に120℃ まで)がセルロース溶解に適していることが分かっている。同時に、該条件はセルロースおよびヘミセルロースの部分的加水分解に有利に働く。リグノセルロースのPに対する比率(乾燥重量)は約1:6であるが、比率は例えば1:1〜1:10、1:1〜1:5など任意の好適な比率であることが可能である。試験したときに、溶解したリグノセルロースはゲルのように見えた。
【0063】
リグノセルロースを消化装置3で消化した後、混合物を沈殿タンク5に移し4、水を最初に添加し6、溶解セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させる。高揮発性溶媒(HVS)であるエタノールを80%濃度で10リットル添加し6、より多くのセルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、さらにリグニンを可溶化する。この工程におけるエタノールの代替物には、アセトンやメタノールなどの他の溶媒が挙げられる。また、COを使用し、高圧下でより多くのリグニンを溶解することが可能である。他の選択肢として水と高揮発性溶媒との混合物を添加することが挙げられる。
【0064】
沈殿の後、混合物を洗浄装置8に移す7。洗浄装置8では、追加のHVS(この場合エタノール)を使用し9、沈殿させたセルロースおよびヘミセルロースを洗浄し液体溶媒を効率的に除去する。洗浄効率に応じて、約80%エタノールは10〜20リットルの範囲で使用し、混合物を洗浄する。固体/液体分離器である洗浄装置は、逆流洗浄装置または遠心分離機である。しかし他の実施態様では、数例を挙げると圧力ベルトフィルターおよびスクリーンドライバーなど多くの通常のろ過装置のいずれかでよい。固体/液体分離後、液体相を除去する14。液体相には溶媒、リン酸およびリグニンが含まれる。標準的な運転では、液体組成物は99%HPOを含み、さらに、バイオマス由来の約50%の初期リグニンを含有していた。それはさらに、エタノールおよび水を含有していた。
【0065】
洗浄後の固体相には、非晶質セルロースおよびヘミセルロース、さらにエタノールが含まれている。標準的な運転では、固体相は0.40kgのセルロースおよび0.2kgのヘミセルロースを含有し、総重量は2.3kgである。この組成物を除去装置11に移す10。本実施例では、二酸化炭素を使用し12、セルロースおよびヘミセルロースをガス処理および乾燥し、エタノールを除去する13。代替的実施態様では、二酸化炭素の代わりに真空または熱または蒸気を使用することが可能である。蒸気を使用した試験運転では、除去したエタノール量は1.29kgであり、これは95%の除去効率を表している。得られた残渣はほぼ乾燥状態の非晶質セルロースおよびヘミセルロースで、これらを除去装置11から移動する15。
【0066】
図2は植物を利用可能なエネルギー源に変換するためのシステムおよびプロセスの実施態様を示す図式を表している。本記述はシステムのその実施態様を使用する発明にしたがった方法の実行に関する。この実施態様は図1に関する上述のシステムおよび方法を包含するだけでなく、付加的なシステムコンポーネントおよび方法工程をも包含することに留意すべきである。
【0067】
図2にしたがったシステムおよびプロセスでは、75%含湿の比較的乾燥した非晶質セルロースおよびヘミセルロースを加水分解タンク16に移す15。酵素セルラーゼおよびヘミセルラーゼを添加し17、アルカリ(炭酸カルシウム)を添加して18、組成物のpHを好適な値に調整する。酵素によるセルロースおよびヘミセルロースの分解が完了すると、高濃度糖が得られる19。糖濃度が固体相/酵素液比に依存していることが見出された。加水分解時間は酵素負荷および酵素特性にしたがって数時間から数日の範囲にある。加水分解工程中、残存している高揮発性溶媒を少量、除去することは可能である。
【0068】
また、図2に表されたシステムおよび方法の一部として、フラッシング装置20が含まれる。フラッシング装置では、高揮発性溶媒(本実施例ではエタノール)を他の洗浄液画分成分から分離する21。通常、液体相に少量の酢酸が残存するが、特にここでは、処理コストを削減し資本投資を縮小するために、その分離には高真空または高温を用いないほうが好ましい。残存液相はリン酸、溶媒溶解リグニン、リグノセルロース抽出物、酢酸および少量の炭水化物を含有する。資本投資のコストおよび処理コストを削減するため、液相を炉23に移し22、リグニンに蓄積されたエネルギーを利用して炉23で直接燃焼させる。標準的な運転では、燃焼の前では、廃棄物は約0.08kgのリグニンを含有している。灰(主にP、図ではSCSとして表示されている)を捕捉し24、前処理の次段階に使用可能である。
【0069】
次に図3を参照すると、リグノセルロースからセルロースおよびヘミセルロースを製造する本発明のシステムおよび方法の別の実施態様が図式的に示されている。図3に示すように、原料リグノセルロース含有材料を消化装置3に導入する1。原材料のサイズは最長の方向で約0.5cm以下であり、水分含量は約15%である。ポリリン酸塩を消化装置3に添加し2、リグノセルロース材料をよく混合し消化させ、バイオ製品としてのセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを主に含有するスラリーを生成する。消化した材料を沈殿タンク5に移す4。移動中、80:20(vol/vol)のエタノール:水混合物を該混合物に添加する6。沈殿タンク5では、セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、リグニンを溶解する。その後混合物を洗浄装置8に移し7、ここへ付加的な80:20のエタノール:水を添加する9。固体および液体画分を分離し:液体画分を回収する14。固体画分を除去装置11に移す10。除去装置11では、低温蒸気が固体材料に暴露され12、エタノール溶媒を蒸発させる。蒸発したエタノール(蒸気/水と共に)を除去装置11から除去し13、溶媒保存タンク27に回収する。
【0070】
除去処理した固体材料をスクリュードライヤー28に移し15、付加的なエタノールを捕捉し、溶媒保存タンク27に移す29。スクリュードライヤー28からの乾燥セルロースおよびヘミセルロースケークを回収する30。
【0071】
図4は植物を利用可能なエネルギー源に変換するためのシステムおよびプロセスのさらに別の実施態様を示す図式を表している。本記述はシステムのその実施態様を使用する発明による方法の実行に関する。この実施態様は図3に関して上述したシステムおよび方法のみならず付加的なシステムコンポーネントおよび方法工程をも包含することに留意すべきである。
【0072】
図4に示すように、原料リグノセルロース含有材料をカッター26に導入し25、原材料のサイズを、最長の方向で約0.5cm以下に縮小する。この工程で、例えば洗浄していくつかのリグノセルロース抽出物(例えばタンパク質およびいくつかの可溶糖)を除去することで原材料をさらに処理することが可能であり、その後の処理のための富リグノセルロース材料がもたらされる。カッター26で加工された後、一般的に約15%水分含量のリグノセルロース材料を消化装置3に移す1。ポリリン酸塩を消化装置3に添加し2、リグノセルロース材料をよく混合し、消化を可能にし、バイオ製品として主にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを生成する。消化した材料を沈殿タンク5に移す4。移動中、80:20(vol/vol)のエタノール:水混合物を、溶媒保存タンク27から該混合物に添加する6。沈殿タンク5では、セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、リグニンを溶解する。その後混合物を洗浄装置8に移し7、ここへ付加的な80:20のエタノール:水を溶媒保存タンク27から添加する9。固体および液体画分を分離し:液体画分を分画/蒸留塔20に移し14、この際、固体画分を除去装置11に移す10。除去装置11では、低温蒸気を固体材料に暴露し12、エタノール溶媒を蒸発させる。蒸発したエタノール(蒸気/水を含む)を除去装置11から除去し13、溶媒保存タンク27に回収する。
【0073】
除去処理した固体材料をスクリュードライヤー28に移し15、付加的なエタノールを捕捉し、溶媒保存タンク27に移す29。スクリュードライヤー28からの乾燥セルロースおよびヘミセルロースケークを加水分解タンク16に移す30。セルロースおよびヘミセルロースを添加し17、セルロースおよびヘミセルロースを酵素的に消化し、pHをアルカリで調整し18、最適な酵素活性を可能にする。加水分解後、混合物を固体/液体分離器32に移す31。本実施例の固体/液体分離器は遠心分離機であるが、任意の好適な分離器を使用してよい。液体相では、高濃度(30g/l以上)の糖が得られる33。特定のバッチでは、高濃度糖溶液の一部を加水分解タンクに再導入する34。可溶糖は、高糖濃度溶液を再度加水分解するための乾燥非晶質セルロースおよびヘミセルロースと混合するか、または直接に発酵するために使用してもよい。
【0074】
本システムおよび方法のある特定の構造では、システムは主に燃料源として使用する糖の生成に使用する。他の構造では、システムおよび方法は1種以上のアルコールを生成するように構成される。加水分解タンクおよびその成分は、所望の生成目的を達成するように改変することが可能である。例えば、糖が必要な場合、加水分解タンクは、セルロースおよびヘミセルロースをその成分糖構成要素へと分解することが可能な酸および酵素を含んでもよい。アルコール(例えばエタノール)が必要な場合、加水分解タンクは、セルロースおよびヘミセルロースをアルコールへと分解することが可能な微生物を含んでもよい。このような実施態様では、アルコールは捕捉することが可能である。図4に表された実施態様では、糖およびエタノールの両方の生成が示されている。図中、加水分解タンクから生成したエタノールを捕捉し、溶媒保存タンク27に移す35。当然ながら、生成されたアルコールは別の入れ物に移し、他の目的に使用することが可能である。
【0075】
固体/液体分離器32は固体相も生成し、これは反応器37に移す36。反応器37では、硫酸および固体リン酸カルシウムを固体相に添加し、反応させる。反応後、固体硫酸カルシウムおよびリン酸が生成される。
【0076】
次に洗浄装置8における洗浄の結果として生成された液体相に戻る。液体相は主にエタノール、リン酸およびリグニンを含有する。液体相を分画/蒸留塔20に移す14。分画/蒸留塔20は他の成分から酢酸38およびエタノール21を分離する。概して、回収されたエタノールは85%溶液であった。洗浄液相の残存成分を固体/液体分離器23に移し39、リグニンを分離する40。洗浄液の残存成分を炉24に移し22、燃焼させ、その後の分解バッチに使用可能な灰およびポリリン酸塩を生成する。
【0077】
図5は、リグノセルロース材料をセルロースおよびヘミセルロースへと分解するための本発明のシステムおよび方法の別の例示的な実施態様を表す。図に示すように、原材料を消化装置3に添加する1。消化装置3にポリリン酸塩も添加し2、材料をよく混合し、リグノセルロースがセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンに分解されることが可能となる。より具体的には、消化装置3では、リグノセルロース材料は、P蒸気、または83%最終P濃度である超濃縮リン酸の微細液滴とよく混合する。本実施例に使用する濃度は83%ではあるが、70%以上、75%以上または80%以上など任意の好適な濃度が使用可能である。水とポリリン酸またはリン酸あるいはそれらの混合物との混合により放出された熱はバイオマス溶解を促進するために利用する。温度は40℃から120℃まで、好ましくは45℃〜100℃、より好ましくは47℃〜90℃、最も好ましくは50℃〜85℃の範囲で変更可能である。反応時間は数分から数時間まで変更可能であるが、30〜240分が好ましく、45〜180分がより好ましく、60〜120分が最も好ましい。概して、溶解したバイオマスはスラリーのように見えた。
【0078】
消化した材料をその後沈殿タンク5に移し4、ここに溶媒保存タンク27から約80%エタノール溶液を添加する6。セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させリグニンを可溶化するのに十分な時間、混合物を維持する。その後混合物を洗浄装置8に移し7、溶媒保存タンク27からの80%エタノールで混合物を洗浄する9。その後洗浄した沈殿物を固体/液体分離器42に移す41。この場合では該分離器はドラム遠心分離機であり、スラリーから洗浄液中の大部分の遊離溶媒および他の物質を除去する。液体画分を除去し14’、それは14で除去した洗浄液画分と組み合わせることが可能である。他の実施態様では、この段階で他の機械装置(例えばスクリュードライヤー)を使用することが可能である。本プロセスおよび装置から得た固体含有量は5〜20%の範囲にある。固体含有量は8%以上にすることが好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上にすることが最も好ましい。図では、沈殿タンク5および洗浄装置8を破線で示してある1つの箱の中に収めている。このことは、いくつかの実施態様では、統合された単一のユニット反応器が両機能を実装し得ることを示している。このような実施態様では、沈殿タンク5および洗浄装置8は単一のユニットである。
【0079】
スラリーを除去装置11に移し10、低温蒸気12を使用してエタノールを抽出する。揮発したエタノールをエタノール蒸気(および水蒸気)として放出し13、溶媒保存タンク27に回収する。除去装置11では、非晶質セルロース、ヘミセルロース、残留不溶リグニン、並びに少量のリン酸を含む有機溶媒(例えばエタノール)を含有するスラリーを減圧または大気圧下で低温蒸気により除去処理する。スラリーの固体含量は概して5〜20%である。スラリーの固体含量は5〜20%、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、最も好ましくは15%以上であることが好ましい。典型的な運転では、スラリーにおける糖の総含有量は固体重量中40%〜90%である。好ましくは、糖含有量は60%以上、より好ましくは65%以上、最も好ましくは80%以上である。このユニットの操作では、低温蒸気(約60℃〜120℃)を使用する。使用の装置に関係なく、流動床またはスプレードライヤーでの固体粒子のように含湿バイオマススラリーを乾燥させる。熱(例えば蒸気からの)を利用し、大部分の有機溶媒(例えば、80〜99%のエタノール、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%のエタノール)を気化させる。この操作の後、乾燥バイオマスにおける固体含量は概して10〜40%である。この段階で、バイオマスには20%以上、より好ましくは25%以上、最も好ましくは30%以上の固体含量と水、ならびに残余有機溶媒(例えば5%の初期有機溶媒)が含まれることが好ましい。乾燥したセルロース/ヘミセルロースを、後に使用するために除去装置11から移動する15。
【0080】
図6は植物を利用可能なエネルギー源に変換するためのシステムおよびプロセスのさらに別の実施態様を示す図式を表している。本記述はシステムのその実施態様を使用する発明に従った方法の実行に関する。本実施態様は図5に関して上述したシステムおよび方法を包含するだけでなく、付加的なシステム部品および方法工程をも包含することに留意すべきである。図6に示すように、原料リグノセルロース含有材料をカッター26に導入し25、原材料のサイズを、最長の方向で約0.5cm以下に縮小する。この工程で、例えば洗浄により原材料をさらに処理して、その後の処理のための富リグノセルロース材料をもたらすことが可能である。カッターが使用される他の実施態様同様、カッター(製粉機)によりバイオマスの粒径は2.54cm未満に縮小される。バイオマスの水分含量は約5〜50%の範囲で変更可能である。本実施態様では、次の工程に先だって、バイオマスの水分は固定値(10〜30%)に設定する。好ましい実施態様では、水分含量を15%に設定する。過乾燥バイオマス粒子は所望の水分含量にするため水と混合してもよい。カッター26で加工された後、好ましくは約15%の水分含量であるリグノセルロース材料を消化装置3に移す1。ポリリン酸塩を消化装置3に添加し2、リグノセルロース材料をよく混合し消化を可能にし、バイオ製品として主にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを生成する。消化した材料を沈殿タンク5に移す4。移動中、80:20(vol/vol)のエタノール:水混合物を、溶媒保存タンク27から該混合物に添加する6。沈殿タンク5では、セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、リグニンを溶解する。その後混合物を洗浄装置8に移し7、ここへ付加的な80:20のエタノール:水を溶媒保存タンク27から添加する9。液体の洗浄液を捕捉し、蒸留塔20に移す14。洗浄工程から得た固体相スラリーを固体/液体分離器42に移す41。この場合では該分離器はドラム遠心分離機であり、スラリーから洗浄液中の大部分の遊離溶媒および他の物質を除去する。液体画分を除去し14’、それは14で除去した洗浄液画分と組み合わせるか、または蒸留塔20に直接ふりむけることが可能である。除去装置11では、固体材料に低温蒸気を当て12、エタノール溶媒を蒸発させる。蒸発したエタノール(蒸気/水を含む)を除去装置11から除去し13、溶媒保存タンク27に回収する。
【0081】
除去処理した固体材料を加水分解タンク16に移す15。セルロースおよびヘミセルロースを添加し17、セルロースおよびヘミセルロースを酵素的に消化し、pHをアルカリで調整し18、最適な酵素活性を可能にする。他の実施態様にあるように、加水分解タンクにおいて、pHを調整するために若干量のアルカリ(例えばライムまたは炭酸カルシウム)を使用し、酵素の最適pHに設定するなどして酵素活性を促進する。セルロースおよび/またはヘミセルロースあるいは二重機能酵素を使用し、非晶質セルロースおよびヘミセルロースをそれぞれ可溶糖へと加水分解することが可能である。加水分解プロセスはフェドバッチ方式で運転してもよい。すなわち固体含量が20%を超える水分が多めの非晶質セルロース材料は、開始時に1回で添加するよりむしろ(うまく混合するために)ゆっくりと段階的に添加した方がよい。含湿非晶質セルロース添加の数回分のバッチで加水分解した後、高濃度糖溶液、1リットル当たり100gの可溶ヘキソースおよびペントースが得られる。また、同時糖化共発酵(SSCF)または統合バイオプロセス(CBP)を行うため、高濃度糖溶液を非晶質セルロースと混合してもよい。あらゆる有機物を除去するため、残余リグニン、セルロースおよびCa(POを含む固体流は燃焼させてもよい。濃硫酸を添加することで、Ca(POを含有する灰を濃縮リン酸へと再生させることが可能である。若干量の有機溶媒(例えばエタノール)を加水分解工程中、真空または除去処理により再利用するか、あるいは糖からエタノールへ発酵させた後に再利用することが可能である。
【0082】
加水分解後、混合物を固体/液体分離器32に移す31。本実施例の固体/液体分離器は遠心分離機であるが、任意の好適な分離器を使用してよい。液体相では、非常に高濃度(100g/l以上)の糖が得られる33。特定のバッチでは、高濃度糖溶液の一部を加水分解タンクに再導入する34。このような実施態様では、糖溶液を使用すれば、固体セルロース中の水分が高濃度糖溶液の代わりになる。
【0083】
本システムおよび方法の特定の構造においては、システムは燃料源として使用する糖の生成に主に使用する。他の構造では、システムおよび方法は1種以上のアルコールを生成するように構成される。加水分解タンクおよびその成分は、所望の生成目的を達成するように改変することが可能である。例えば、糖が必要な場合、加水分解タンクは、セルロースおよびヘミセルロースをその成分糖構成要素へと分解することが可能な酸または酵素を含んでもよい。アルコール(例えばエタノール)が必要な場合、加水分解タンクは、セルロースおよびヘミセルロースをアルコールまたは他の生成物へと分解することが可能な微生物を含んでもよい。このような実施態様では、アルコールは捕捉することが可能である。図6に表された実施態様では、糖およびエタノールの両方の生成が示されている。図中、加水分解タンクから生成したエタノールを捕捉し、溶媒保存タンク27に移す35。当然ながら、生成されたアルコールは別の入れ物に移し、他の目的に使用することが可能である。
【0084】
固体/液体分離器32は固体相も生成し、これは反応器37に移す36。反応器37では、硫酸および固体リン酸カルシウムを固体相に添加し、反応させる。反応後、固体硫酸カルシウムおよびリン酸が生成される。
【0085】
次に洗浄装置8における洗浄の結果として生成された液体相に戻る。液体相は主にエタノール、リン酸およびリグニンを含有する。液体相は蒸留塔20に移される14。蒸留塔20は他の成分からエタノール21を分離する。回収されたエタノール濃度は概して約80%であった。本実施態様では、高額な分画/蒸留塔は必要なく、生成物および副産物の収率を大幅に低下させずにプロセスの費用対効果を促進することは特記すべきである。蒸留塔は全実施態様で使用でき、したがって前述のいずれの例示的な実施態様においても分画/蒸留塔の代わりになることが可能である。蒸留塔では、有機溶媒(例えばエタノール)を数個のトレイによる蒸留塔により再利用する。蒸留塔から得た濃縮エタノールの濃度は50〜95%、好ましくは50%、より好ましくは70%、最も好ましくは80%と多様である。有機溶媒の除去の後、またはその途中、リグニンが蒸留塔の底で沈殿し、これはリン酸水溶液から分離することができる。残留している液体相は大部分がリン酸であり、そして多少のリグニンおよびバイオマスの有機抽出物を含有する。
【0086】
洗浄液体相の残留成分を固体/液体分離器23に移し39、ここでリグニンを分離する40。固体リグニン中のリン酸を水または有機溶媒で洗浄する。
【0087】
洗浄液の残留成分を炉24に移し22、燃焼させ、その後の分解バッチに使用可能な灰およびポリリン酸塩を製造する。炉では、含有の大部分がリン酸であり、多少のリグニンおよびバイオマスの有機抽出物が含まれる残留液体相が、P蒸気、ポリリン酸またはそれらの混合物へと再生され得る。用語「炉」は湿式酸化を包含する。処理費用および炉のサイズを縮小するために、リン酸の一部分のみPへと完全に酸化することとする。炉24を通過したリン酸の画分は、1〜100%まで多様であり、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、最も好ましくは25%以上である。リン酸が高濃度有機抽出物を含む場合、それは高純度Pに変換することが可能である。Pは昇華できる;Pを持たない灰は植物の化学肥料として分離することができる。昇華したPは水と混合してポリリン酸、濃縮リン酸を形成するか、あるいは、例えば直接、消化装置3で含湿バイオマスを前処理するために使用することが可能である。
【0088】
多くの用途の中でも本プロセスおよびシステムは硬木および草本材料に適している。軟木に用いるなら、プロセスおよびシステムはいくつかの点で改変可能である:1)消化工程中、例えばSOなどの多少の触媒を添加することが可能である;2)洗浄工程中、リグニンをより多く溶解し得る高温溶媒を使用し、リグニンをより多く洗い落とすことが可能である;3)加水分解工程に先立って、H、O、高濃度O、NO等の多少の酸化試薬を添加し、リグニンをより多く除去することが可能である。要約すれば、上述のプロセスは、限定するものではないが先行の特許公開PCT/US2006/011411、PCT/US06/030894,US4,058,011,WO9606207、SU1348396A1(Grinshpan DD, Tsygankova NG, Kaputskii FN)、DE3035084(US4,839,113)およびUS6,139,959などの現在公知の技術より大幅に簡単である。求められる収益総額は初期の技術のものより大幅に減少するが(しかし他の前処理よりは高収益である)、新たな様式は資本投資および処理コストを大幅に削減し、そればかりか、とりわけエタノール発酵に適した高濃度のセルロースおよびヘミセルロース、ならびに糖加水分解物を生成する。
【0089】
本発明の実施および本システムの構成において、本発明の範囲または精神から逸脱することなく多様な改変および変形が行われ得ることは当業者には明確であろう。本発明の他の実施態様は、明細書の考察および本発明の実施から当業者には明確であろう。本明細書および実施例は単に例示的なものとして考えられることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロースバイオマスを分画する方法であって、そのプロセスは:
ポリリン酸でリグノセルロースを消化する工程;
第一の溶媒でセルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、リグニンを可溶化する工程;
沈殿させたセルロースおよびヘミセルロースから可溶化したリグニンを分離する工程;ならびに
沈殿したセルロース、ヘミセルロースおよび溶媒を蒸気、真空またはそれらの組み合わせに暴露して沈殿したセルロースおよびヘミセルロースから第一の溶媒を除去処理する工程:
を含み、
該プロセスが非晶質セルロース水和物および非晶質ヘミセルロース水和物の混合物をもたらす方法。
【請求項2】
ヘミセルロースからセルロースを分離する工程を含まない請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一の溶媒が約80%濃度でエタノールを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第一の溶媒がCO、SO、O、あるいはそれらの2つの、または3つすべての混合物をさらに含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第一の溶媒以外の溶媒の使用を含まない請求項1記載の方法。
【請求項6】
リグノセルロースから糖を生成する方法である請求項1記載の方法であって:
非晶質セルロース水和物および非晶質ヘミセルロース水和物を加水分解し、1つ以上の糖を含有する組成物を生成する工程をさらに含む方法。
【請求項7】
前記組成物が1リットル当たり少なくとも30グラムの濃度で糖を含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が1リットル当たり少なくとも50グラムの濃度で糖を含む請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が1リットル当たり少なくとも100グラムの濃度で糖を含む請求項6記載の方法。
【請求項10】
ペントースおよびヘキソースの混合物をもたらす請求項6記載の方法。
【請求項11】
リグノセルロースバイオマスを分画するシステムであって:
セルロースおよびヘミセルロースを沈殿させ、リグニンを可溶化するための沈殿タンク;
沈殿セルロースおよびヘミセルロースを洗浄するための洗浄装置;および
沈殿セルロースおよびヘミセルロースから溶媒を除去処理するための除去装置:
を含み、
ヘミセルロースからセルロースを分離するための分離器を含まないシステム。
【請求項12】
リグノセルロースを含む原材料を粒径約0.5cm以下の粒子へと消化するための消化装置をさらに含む請求項11記載のシステム。
【請求項13】
沈殿セルロースおよびヘミセルロースを加水分解するための加水分解タンクをさらに含む請求項11記載のシステム。
【請求項14】
洗浄装置からの洗浄液成分を分離するための蒸留塔をさらに含む請求項11記載のシステムであって、該蒸留塔が分画/蒸留塔ではないシステム。
【請求項15】
炉をさらに含む請求項14記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−515082(P2011−515082A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550913(P2010−550913)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/037234
【国際公開番号】WO2009/114843
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(591188262)バージニア テック インテレクチュアル プロパティース インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】