説明

セイヨウワサビの検出方法

【課題】セイヨウワサビを高感度に検出する方法を提供する。
【解決手段】セイヨウワサビのミロシナーゼに共通な配列を同定し、その塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むプライマーセット又はプローブを作成した。前記プライマーを用い、ミロシナーゼの遺伝子を検出することにより、セイヨウワサビの高感度な検出方法を確立した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セイヨウワサビ(学名Aromoracia rusticana)の検出用プライマー及びプローブ、並びにそれらを用いたセイヨウワサビの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セイヨウワサビは、ワサビダイコン又はホースラディッシュとも呼ばれ、ヨーロッパのフィンランド原産と言われているアブラナ科の多年草である。根は直根で黄白色の外観を呈しており、強い辛味と香気を有し、西洋料理の薬味として欠かせない。また、日本でも粉ワサビ及びチューブやパック入りの加工ワサビ製品は、辛味成分としてこのセイヨウワサビを含んでいるものが多い。
日本において栽培されているセイヨウワサビは、青芽及び赤芽の2つの品種に分類される。この2つの品種は形態的には非常に異なっており、まず出芽はその名前の通り、青芽が緑色、赤芽が淡赤色を呈している。また、外観においては、青芽は草丈が60〜130cmで、葉の形状が長楕円形で束生し、長柄を有している。一方、赤芽は、草丈が100〜150cmで、葉は縮葉がほとんどなく、強健粗剛である。更に、根部においては、青芽の根部はタコ足状になりやすく、側根の肥大が少なく棒状に生育する。一方、赤芽の根部は生育が旺盛で、伸長領域が広く、しかも深くなり、側根の肥大も旺盛である。また、その辛味に関与するシニグリン含量は、青芽が赤芽より優っている。
最近、セイヨウワサビからミロシナーゼのcDNAが分離された(GeneBank、Accession No.AY822710)。ミロシナーゼは西洋ナタネ、ホワイトマスタード、ダイコン、カラシナ、シロイヌナズナなどのアブラナ科の植物に存在し、それぞれ異なるミロシナーゼをもっており、cDNAの解析からMA、MB、MC、及びTGGの4つのサブタイプに分けることができる。例えば、西洋ナタネは、MA、MB、及びMCの3種類のミロシナーゼの遺伝子をもっているおり、MBはすべての生活環で発現しているが、MA及びMCは種子でわずかに発現していることが報告されている。今まで分離されたミロシナーゼ遺伝子の多くはMBに属するが、例えばハツカダイコンには、MBタイプのミロシナーゼの中にも、RMB1とRMB2の2種類のMBが存在することが報告されており、それらのアミノ酸レベルでの相同性は93%である(非特許文献1)。このようにミロシナーゼ遺伝子は、種間で多様性があり、同じ種でも何種類かのミロシナーゼ遺伝子をもっている。セイヨウワサビは、少なくとも1種類のミロシナーゼを有しているが、MA、MB及びMCのように異なるタイプのミロシナーゼを有しているのか、またハツカダイコンのように同じタイプでも相同性の異なるミロシナーゼを持っているのか、更に、外観的に異なる青芽と赤芽の2品種が同じミロシナーゼを持っているかについては、明らかでなかった。
一方、市販されている加工ワサビ製品には、辛味成分としてワサビ、からし又はセイヨウワサビを含んでいるものが多い。加工食品は、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)により、原材料の表示が義務づけられているが、加工ワサビ製品中のセイヨウワサビの含有を確認するために、セイヨウワサビを特異的に且つ高感度に検出する方法の開発が望まれている。
【非特許文献1】「プラント・アンド・セル・フィジオロジー(Plant & Cell Physiology」(英国)2000年、第41巻、第10号、p.1102−1109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、高感度で、且つ特異的なセイヨウワサビの検出方法を開発するために、鋭意研究を重ね、形態やその性質の異なる青芽及び赤芽の2品種のセイヨウワサビからミロシナーゼのcDNAを単離し塩基配列を解析した。その結果、この2品種から得られたセイヨウワサビのミロシナーゼをコードする塩基配列は、MA、MB、MC及びTGGとはタイプの異なる1種類の塩基配列のみであった。すなわち、セイヨウワサビの青芽と赤芽の2品種は形態や性質は異なっているが、同一のミロシナーゼのみを発現していることを見出した。そして、このミロシナーゼをコードする塩基配列に基づいてプライマーを作成し、このプライマーを用いることにより、セイヨウワサビのミロシナーゼ遺伝子を、高感度に、且つ特異的に検出する方法を見出した。
本発明はこのような知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、(A)配列番号1で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1a)、又は配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2a)である第1プライマーと、(B)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むDNAプライマー(1b)、又は配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2b)である第2プライマーとの組み合わせからなり、ポリメレース重合反応用のプライマーとして機能することのできる、セイヨウワサビ検出用プライマーセットに関する。
また、本発明は、(A)配列番号3で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3a)、又は配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4a)である第1プライマーと、
(B)配列番号4で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むDNAプライマー(3b)、又は配列番号4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4b)である第2プライマーとの組み合わせからなり、ポリメレース重合反応用のプライマーとして機能することのできる、セイヨウワサビ検出用プライマーセットに関する。
本発明によるセイヨウワサビの検出用プライマーセットの好ましい態様においては前記第1プライマーが、配列番号8又は配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第2プライマーが、配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
また、本発明は、前記プライマーセット、被検試料及びDNAポリメラーゼを含む混合液を用いてDNA増幅工程を行い、得られた反応液のDNA検査工程を行うことを特徴とする、セイヨウワサビの検出方法に関する。
【0005】
また、本発明は、配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分、又は配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、を含むオリゴヌクレオチドに標識を担持することを特徴とするセイヨウワサビ検出用プローブに関する。
また、本発明は、配列番号3又は配列番号4で表される塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分、又は配列番号3又は配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、を含むオリゴヌクレオチドに標識を担持することを特徴とするセイヨウワサビ検出用プローブに関する。
更に、本発明は前記プローブと被検試料を接触させ、前記標識からの信号を検出することを特徴とする、セイヨウワサビの検出方法に関する。
本明細書では、プラス鎖のDNAに対するプライマーであるセンスプライマーを第1プライマーと称し、マイナス鎖のDNAに対するプライマーであるアンチセンスプライマーを第2プライマーと称することがある。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプライマーセットはセイヨウワサビのcDNAやゲノムDNAに特異的にハイブリダイズするため、ポリメレース重合反応(Polymerase Chain Reaction:以下、PCRと称する)法により、セイヨウワサビのcDNAやゲノムDNAを特異的に検出することが可能である。また、本発明のプローブは、セイヨウワサビのmRNA及びゲノムDNAに特異的にハイブリダイズし、他のアブラナ科又はアブラナ科以外の植物のmRNA及びゲノムDNAにはハイブリダイズしないため、本発明のプローブを用いた検出方法により、セイヨウワサビのゲノムDNA及びmRNAを特異的に検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
セイヨウワサビのミロシナーゼをコードする塩基配列は1種類のみであり、セイヨウワサビには、青芽及び赤芽の2品種があるが、ともに同じタイプのミロシナーゼのみを有している。本発明のDNAプライマーセット及びプローブは、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードする塩基配列を設計の基礎としているが、配列番号3で表される塩基配列のすべての領域から設計されるプライマーやプローブが、セイヨウワサビのミロシナーゼ遺伝子を特異的に検出するために有用である。このことは、後述の実施例に示したセイヨウワサビのミロシナーゼのcDNAの解析より明らかである。すなわち、本発明者はアブラナ科植物のすべてのミロシナーゼを取得可能なプライマーを用いて、青芽及び赤芽の2種のセイヨウワサビからミロシナーゼのcDNAを取得し、青芽の6クローンと赤芽の7クローンについて、ミロシナーゼの一部のアミノ酸をコードする663bpの塩基配列を決定した。その結果、青芽と赤芽から得られた13クローンは、同一のミロシナーゼをコードする塩基配列のみを有していた。また、取得した13クローンのcDNAの塩基配列間では若干の塩基の置換が見られたが、cDNAのコンセンサスな塩基配列と他のアブラナ科植物のミロシナーゼをコードする塩基配列を比較したところ、最も相同性の高いシロイヌナズナ(Arabidosis)のミロシナーゼ(TGG3)をコードする塩基配列でも80%程度であり、ミロシナーゼをコードする塩基配列は、他のアブラナ科の植物に見られるMA、MB、MC及びTGGタイプのミロシナーゼと異なるタイプのミロシナーゼであったが、セイヨウワサビの品種間ではよく保存されていた。
【0008】
更に、取得した663bpのcDNA配列は、セイヨウワサビのミロシナーゼとしてGeneBankに登録されている1790bpの塩基配列(GeneBank、Accession No.AY822710)ともほぼ一致した。このため、本発明者が取得した663bp以外のミロシナーゼをコードする塩基配列も青芽及び赤芽のセイヨウワサビの品種間では保存されているが、他のアブラナ科植物の有するミロシナーゼをコードする塩基配列とは異なっていると考えられる。そのためセイヨウワサビをコードする塩基配列のすべての領域から設計されるプライマー及びプローブがセイヨウワサビのミロシナーゼ遺伝子を特異的に検出するために有用である。
【0009】
配列表の配列番号1で表される塩基配列は、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードする1790bpのcDNAの全長の塩基配列である。また配列番号2で表される塩基配列は、その相補鎖の塩基配列である。更に、配列番号3で表される塩基配列は、青芽と赤芽の2品種から取得したミロシナーゼをコードする663bpのcDNAの塩基配列であり、配列番号4で表される塩基配列はその相補鎖の塩基配列である。配列番号3及び4で表される塩基配列は取得した13クローンの塩基配列を示しているが、塩基の置換のある位置は混合塩基で示している。混合塩基の記載は、Yはチミン又はシトシンを示し、Mはアデニン又はシトシンを示し、Kはグアニン又はチミンを示し、Rはグアニン又はアデニンを示し、Sはグアニン又はシトシンを示し、Wはアデニン又はチミンを示す。これらの塩基配列から本発明のプライマー及びプローブを作成する場合、混合塩基を含むオリゴヌクレオチドを用いることにより、広い品種のセイヨウワサビを検出することが可能となり、検出感度や検出率が上昇すると考えられる。
【0010】
本発明のプライマーセットは、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードするゲノムDNAやmRNAから合成されたcDNAをPCR法により、特異的に検出するためのプライマーのセットであり、センスプライマー(フォワードプライマー)及びアンチセンスプライマー(リバースプライマー)からなる一対のプライマーのセットである。
【0011】
本発明のプライマーセットの第1プライマーは、配列番号1若しくは配列番号3で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1a)若しくは(3a)、又は配列番号1若しくは配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2a)若しくは(4a)である。また、第2プライマーは、配列番号2若しくは配列番号4で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むDNAプライマー(1b)若しくは(3b)、又は配列番号2若しくは配列番号4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2b)若しくは(4b)である。
【0012】
本発明のプライマーセットの第1プライマーとして用いるプライマー(1a)は、配列番号1で表される塩基配列に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。同様に第1プライマーとして用いるプライマー(3a)は、配列番号3で表される塩基配列に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。15塩基未満の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、プライマーとハイブリダイズするDNAとの特異性が低下し、プライマーとして有用でないからである。一方、プライマーの長さの上限はPCRプライマーとして機能する長さであれば特に限定されないが、好ましくは50塩基以下、より好ましくは35塩基以下、最も好ましくは30塩基以下である。
【0013】
プライマー(1a)においては、配列番号1で表される塩基配列に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列に由来しない塩基配列)を含むことができる。
【0014】
プライマー(3a)においては、配列番号3で表される塩基配列に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、配列番号3で表される塩基配列に由来しない塩基配列)を含むことができる。例えば、プライマー(3a)の3’末端側は、配列番号3で表される塩基配列に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるか、あるいは、配列番号3で表される塩基配列の3’末端に隣接する配列番号1の塩基配列を含むことができる。
【0015】
本発明のプライマーセットの第1プライマーとしては、前記のプライマー(1a)、及びプライマー(3a)だけではなく、それらの変異体に相当する前記プライマー(2a)、及び前記プライマー(4a)を用いることができる。これらのプライマー(2a)及びプライマー(4a)は、それぞれの配列番号で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは20ヌクレオチドの部分を含んでいる。15ヌクレオチド未満のオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズしない可能性が高く、プライマーとして十分機能しなくなるからである。一方、プライマーの長さの上限はPCRプライマーとして機能する長さであれば特に限定されないが、好ましくは50塩基以下、より好ましくは35塩基以下、最も好ましくは30塩基以下である。
【0016】
本発明のプライマーセットの第2プライマーとして用いるプライマー(1b)は、配列番号2で表される塩基配列に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。同様に第1プライマーとして用いるプライマー(3b)は、配列番号4で表される塩基配列に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。これらの第2プライマーは、15〜35塩基を含むことができる。15塩基未満の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、プライマーとハイブリダイズするDNAとの特異性が低下し、プライマーとして有用でないからである。一方、プライマーの長さの上限はPCRプライマーとして機能する長さであれば特に限定されないが、好ましくは50塩基以下、より好ましくは35塩基以下、最も好ましくは30塩基以下である。
【0017】
プライマー(1b)においては、配列番号2で表される塩基配列に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、配列番号2で表される塩基配列に由来しない塩基配列)を含むことができる。
【0018】
プライマー(3b)においては、配列番号4で表される塩基配列に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、配列番号4で表される塩基配列に由来しない塩基配列)を含むことができる。例えば、プライマー(3b)の3’末端側は、配列番号4で表される塩基配列に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるか、あるいは、配列番号4で表される塩基配列の3’末端に隣接する配列番号3の塩基配列を含むことができる。
【0019】
本発明のプライマーセットの第2プライマーとしては、前記のプライマー(1b)、及びプライマー(3b)だけではなく、それらの変異体に相当する前記プライマー(2b)、及び前記プライマー(4b)を用いることができる。これらのプライマー(2b)及びプライマー(4b)は、それぞれの配列番号で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは20ヌクレオチドの部分を含んでいる。15ヌクレオチド未満のオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズしない可能性が高く、プライマーとして十分機能しなくなるからである。一方、プライマーの長さの上限はPCRプライマーとして機能する長さであれば特に限定されないが、好ましくは50塩基以下、より好ましくは35塩基以下、最も好ましくは30塩基以下である。
【0020】
本発明のプライマーセットの第1プライマー及び各第2プライマーの長さは、特に限定されないが、それぞれ15mer〜50merであること好ましく、より好ましくは20mer〜35mer、最も好ましくは20mer〜30merである。
【0021】
また、配列番号3及び4に記載された塩基配列には、Y、M、K、R、S、及びWの混合塩基が含まれている。これは、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードする遺伝子に置換が存在することを示しているが、本発明のプライマーは、これらの混合塩基を含むディジェネレイテッドプライマーでもよいし、いずれかの塩基のみを含む単一の配列からなるプライマーでもよい。
【0022】
前記「ストリンジェントな条件」としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。本発明のプライマーセットのDNAプライマーのTmは、60〜68、好ましくは、65〜68であることが望ましい。なお、前記Tmを計算する方法は、いくつかの方法が提案されているが、18ヌクレオチド以上の鎖長である場合、例えば、下記の式(I):
Tm=81.5−16.6log10[Na]+0.41(%G+C)−(600/N) (I)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブプライマー中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)により求められる。この式で[Na]=50mMで計算すると、16.6log10[Na]は、およそ21.597098となりTm値を計算することができる。また、鎖長が18ヌクレオチドより短い場合、Tmは、例えば、A+T(アデニン+チミン)残基の含有量と2℃との積と、G+C残基の含有量と4℃との積との和〔(A+T)×2+(G+C)×4〕により推定することができる。
【0023】
前記第1プライマー及び第2プライマーは公知の任意の態様で修飾(例えばビオチン化又は発光物質によるラベル化)されていてもよい。例えば、各塩基がビオチン化又は発光物質により標識されていてもよい。また、5’末端が公知の任意の態様で修飾されていてもよい。例えば、標識したプライマーを用いることにより、TaqMan法などのリアルタイムPCRによる遺伝子の定量を行なうことが可能となる。本発明による前記の第1プライマー及び第2プライマーは、通常のDNA自動合成機(例えばアプライドバイオシステム社製)を用いて、公知のDNA合成法(例えばホスホアミダイド法)によって調製することができる。
【0024】
本明細書で「ポリメレース重合反応用のプライマーとして機能することができる」とは、第1プライマーと第2プライマー、DNAポリメラーゼを含む混合液に、セイヨウワサビのミロシナーゼの遺伝子を加え、通常の条件でDNA増幅工程を行った場合に、PCR産物が得られることを意味する。そのため、前記第1プライマーと第2プライマーの組み合わせは、セイヨウワサビのミロシナーゼを特異的に検出可能な組み合わせであれば特に限定されないが、好ましくは第1プライマーが、配列番号8又は9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第2プライマーが配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。また、第1プライマー及び第2プライマーは、1種のプライマーを用いてもよいし、2種以上のプライマー、例えば、プライマー(1a)及びプライマー(2a)を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明のプローブは、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードするゲノムDNA、mRNA又はmRNAから合成されたcDNAをハイブリダイズの原理を用いた方法で検出するためのオリゴヌクレオチドである。本発明のプローブには、PCRに用いる前記第1プライマー及び第2プライマーも含まれる。更に、DNAプローブのみではなくRNAプローブも含まれる。RNAプローブの場合は、オリゴヌクレオチドのチミンの代わりにウラシルが含まれる。
【0026】
本発明のプローブは、(A)配列番号1〜4で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列において、連続する少なくとも10塩基、より好ましくは15塩基、最も好ましくは20塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド(以下、プローブAと称する)であるか、又は(B)前記配列番号1〜4で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、より好ましくは15ヌクレオチド部分、最も好ましくは20ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド(以下、プローブBと称する)である。
【0027】
本発明のプローブAは、10塩基未満の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションができず、特異性が低くなるためプローブとして有用でない。それぞれのプローブは、少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むため、例えば、その配列番号で表される塩基配列から選択される任意の連続する10塩基以上の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなることができる。更に、それぞれのプローブは、それぞれの配列番号で表される塩基配列以外に5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列に由来しない塩基配列)が付加されたオリゴヌクレオチドであってもよい。付加される塩基配列は、例えば、タグとして検出用オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする塩基配列でもよい。また、配列番号1〜4に記載された塩基配列には、Y、M、K、R、S、及びWの混合塩基が含まれている。これは、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードする遺伝子に置換が存在することを示しているが、本発明のプローブは、これらの混合塩基を含むプローブの混合物でもよいし、いずれかの塩基のみを含む単一のプローブでもよい。
【0028】
本発明のプローブBは、それぞれの配列番号で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも10ヌクレオチドを含む。10ヌクレオチド未満のオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合、相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズしない可能性が高く、プローブとして機能しなくなるからである。
【0029】
本発明のプローブの長さの上限はプローブとして機能する長さであれば特に制限されないが、一般的には500mer以下、より好ましくは300mer以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが使用される。長いプローブの場合は、セイヨウワサビ以外のミロシナーゼとハイブリダイズする塩基配列を含むこともあるが、ハイブリダイズの条件を厳しくすることによって特異性を挙げることができるため、問題はない。
【0030】
前記「ストリンジェントな条件」としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。本発明のプローブのTmは、300〜68、好ましくは、45〜68、より好ましくは、60〜68であることが望ましい。
【0031】
本発明のプローブの標識は特に限定されず、公知の方法で標識することができる。プローブの標識物質としては、従来公知の任意の物質、例えば32Pなどの放射性物質、好ましくは非放射性物質(酵素、蛍光色素、発光物質、ビオチン等)を用いることができる。この標識物質から信号を発生させ、更にその信号を測定する方法も、従来公知の任意の方法を用いる。
【0032】
本発明によるセイヨウワサビの検出方法は、例えば、セイヨウワサビの植物体の品種を同定する方法、及びセイヨウワサビの植物体由来部分の存在の有無を検出する方法を意味する。セイヨウワサビ(学名Aromoracia rusticana)の品種としては、例えば、青芽及び赤芽を挙げることができる。
【0033】
セイヨウワサビの植物体由来部分の存在の有無を検出する方法は、例えば、セイヨウワサビの根茎をすりつぶした部分を含む加工食品、例えば、練りワサビや粉ワサビの原料にセイヨウワサビが含まれているか否かを検出することができる。
【0034】
本発明のプライマーセット、被検試料及びDNAポリメラーゼを含む混合液を用いてDNA増幅工程を行い、得られた反応液のDNA検査工程を行うことを特徴とする、セイヨウワサビの検出方法(以下、プライマーセット検出方法と称することがある)によって、セイヨウワサビのcDNA及びゲノムDNAを検出することが可能である。
【0035】
本発明のプローブと被検試料を接触させ、プローブに担持した標識からの信号を検出することを特徴とするセイヨウワサビの検出方法(以下、プローブ検出方法と称することがある)により、セイヨウワサビのmRNA、mRNAから合成したcDNA、及びゲノムDNAを検出することが可能である。
【0036】
本発明の前記プライマーセット検出方法及びプローブ検出方法で用いる「被検試料」は、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードしている塩基配列からなる遺伝子を含有している可能性のあるものであれば特に限定されない。ここで遺伝子とは、特に限定されないが、ゲノムDNA、mRNA、又はmRNAから合成されたcDNA等を挙げることができる。そのため、具体的には「被検試料」はセイヨウワサビの入っている可能性のある加工食品、例えば、ねりワサビ、粉ワサビなどがある。このような加工食品を液状にしたものや、加工食品から核酸を抽出した核酸溶液も含まれる。また、セイヨウワサビの品種を確認する場合は、植物体を構成する細胞を含む分散液や、細胞から抽出した核酸を含む溶液も被検試料となる。
【0037】
公知の方法によりDNAやRNAを抽出し、被検試料として用いることが可能である。例えばゲノムDNAを抽出する方法は、公知のDNA抽出法を適用することができ、たとえばフェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法などが挙げられる。また、市販のゲノムDNA抽出キットを用いることも可能である。また、mRNAを抽出する場合も、公知の方法でRNAを抽出することが可能であり、例えば、塩酸グアニジンフェノールクロロホルム(AGPC)法やAGPC変法、或いはRNAが結合するカラムを用いた市販のRNA抽出用キットなどを用いることが可能である。
【0038】
mRNAは、プローブと直接ハイブリダイズさせて検出する場合は、mRNAのまま使用することが可能である。一方、プライマーセット、DNAポリメラーゼと被検試料を混合し、PCR法により検出する場合は、mRNAからcDNAを合成しなければならない。cDNA合成は、公知の方法を利用することが可能であり、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第3版[ザンブルーク(Sambrook)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.,コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行,(2001)]等に記載の逆転写酵素を用いる逆転写反応により実施できる。逆転写酵素としては、MMLVリバーストランスクリプターゼ又はAMVリバーストランスクリプターゼ等を用いることが可能である。cDNA合成に用いるプライマーは、ミロシナーゼに特異的なアンチセンスプライマー、例えば、前記第2プライマーを用いることも可能であるし、6mer〜9merのランダムプライマ−を用いてcDNAを合成することも可能である。このようにして得られたcDNAを用いて、PCR法によりミロシナーゼをコードする遺伝子配列を検出することができる。
【0039】
プライマーセットを用いる本発明のプライマーセット検出方法は、(1)DNA増幅工程と、(2)DNA検出工程とからなる。プライマーセット検出方法においては、最初にDNA増幅工程を行うことが好ましい。本発明のDNA増幅工程(1)では、PCR法を用いることができる。本発明のDNA増幅工程(1)では、第1プライマー及び第2プライマーとともに、DNAポリメラーゼ、特に耐熱性ポリメラーゼを用いて増幅サイクルを繰り返す。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、特に95℃までの温度で活性を維持することができるDNAポリメラーゼ、例えば、市販のTaqポリメラーゼを用いることができる。本発明のDNA増幅工程では、前記のプライマーセット、DNAポリメラーゼ及び液体被検試料を含む混合液を用いる。第1プライマー、第2プライマー及びDNAポリメラーゼの使用量は、液体被検試料の種類によって変化するが、PCR法によるDNA増幅工程を実施することができる範囲で容易に決定することができる。この混合液は場合により、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液)、安定化剤(例えば、ゼラチン)、又は塩類(例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム)を含有することができる。
【0040】
プライマーセット検出方法では、前記の混合液を用いてPCR法の増幅サイクルを実施する。増幅サイクルは、例えば(i)DNAの変性工程(約90℃〜95℃、約10秒〜2分間)、(ii)1本鎖DNAと第1プライマー及び第2プライマーとのアニーリング工程(約37℃〜70℃、約30秒〜3分間)、及び(iii)DNAポリメラーゼによるDNA合成工程(約65℃〜80℃、約30秒〜5分間)とからなる。
【0041】
DNA検査工程としては、ゲル電気泳動後、エチジウムブロマイド染色を利用する方法、電気泳動後にフィルターに移してサザンブロットハイブリッド法を行う方法、増幅したDNAをそのままフィルターにブロットしてドットブロットハイブリッド法を行う方法、又は、ジデオキシ法による塩基配列決定法などを用いることができる。ゲル電気泳動法を行う場合には、例えば、アガロースゲルを担体としたサブマリーン型電気泳動、又はアクリルアミドを用いたスラブ型電気泳動を使用し、分子量により目的のPCR産物を検出することができる。
【0042】
PCRを行った後に、サザンブロットハイブリッド法、ドットブロットハイブリッド法等でPCR産物を検出する場合には、プライマーに用いた以外のセイヨウワサビのミロシナーゼをコードする塩基配列からなる非放射性プローブ(例えば、酵素標識プローブ、ビオチン化プローブ、ジゴキシゲニン化プローブ、又は、化学発光物質、蛍光物質で標識したプローブ)を用いることができる。
【0043】
本発明のプローブ検出法は、プローブと被検試料を接触させプローブからの信号を検出することにより、セイヨウワサビの検出を行う。公知の方法で抽出したDNAやRNAを被検試料として、ノザンブロットハイブリダイゼーションやサザンブロットハイブリダイゼーションを行うことにより、ミロシナーゼをコードするmRNAやDNAの存在を解析することができる。また本発明のプローブは、慣用のin situハイブリダイゼーションに用いることも可能である。
【0044】
本発明のプローブと、セイヨウワサビの植物体、及びその類縁種の染色体とのハイブリダイゼーション条件は、前記「ストリンジェントな条件」が挙げられ、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件が挙げられる。
【0045】
また、前記ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにおいて、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、0.1×SSC、0.2×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の25℃低い温度、好ましくは、22℃低い温度、より好ましくは、20℃低い温度、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、60℃以上、好ましくは、62℃以上、より好ましくは、65℃以上等の条件下でのハイブリダイゼーションを行い、より厳しい洗浄条件、具体的には、低イオン強度の緩衝液、例えば、1×SSC、2×SSC等を使用し、より高い温度、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃低い温度、より好ましくは、30℃低い温度、さらに好ましくは、25℃低い温度、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、30℃以上、37℃以上、42℃以上、45℃以上等の条件下での洗浄等を行うことができる。
【0046】
本発明のプライマーセット及びプローブを含むセイヨウワサビを検出するための試薬及びキットを調製することも可能である。前記試薬やキットは、本発明のプライマーセット検出方法やプローブ検出方法により、セイヨウワサビを検出することが可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
《遺伝子取得例1:セイヨウワサビのミロシナーゼをコードするcDNAの単離》
(1)オリゴヌクレオチドプライマーの合成
合成DNA機モデル394 DNA/RNAシンセサイザー(アプライドバイオシステムズ社)を用いホスホアミダイト法により、
配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドセンスプライマー、
MYR1 primer:5’−TTR YMR AAY TCR TAR TTR TCN CC−3’、配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドセンスプライマー、
MYR2 primer:5’−AAY TAY TAY GTN ACN CAR TAY GC−3’、及び配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドアンチセンスプライマー、
MYR3 primer:5’−TAY ATH GTN GCN CAY AAY CA−3’
を合成した。これらのプライマーは、アブラナ科のミロシナーゼに共通の塩基配列を有するプライマーであり、新規のミロシナーゼを取得することが可能である。混合塩基の記載は、Yはチミン又はシトシンを示し、Mはアデニン又はシトシンを示し、Rはグアニン又はアデニンを示し、Hはアデニン、シトシン又はチミン、Nは、アデニン、グアニン、シトシン又はチミンを示す。
【0049】
(2)RNAの抽出
セイヨウワサビの2つの品種である青芽及び赤芽からRNAを抽出した。−80℃に保存されていた茎サンプル1gを液体窒素中で粉砕し、QIAGEN RNeasyPlant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、メーカーのプロトコールに従って、全RNAを抽出した。得られたRNAは、ジエチルピロカーボネイト(DEPC)処理した蒸留水50μLに溶解した。
【0050】
(3)cDNA合成及びPCRによる増幅
抽出したRNAから、前記MYR1 primer及びMYR2 primerの組み合わせ又はMYR1 primer及びMYR3 primerの組み合わせで、TaKaRa RNA PCR Kitを用いてメーカーのプロトコールに従ってcDNA合成及びPCRを行なった。逆転写反応は、オリゴdTプライマーを用い、30℃で10分保持し、その後60℃で30分保持することによって行なった。そして99℃で5分処理することによって、逆転写酵素を不活化した。逆転写反応終了後の反応液にPCR試薬を加え、94℃で2分保持した後に、DNA変性94℃で30秒、アニーリング45℃、50℃、55℃又は60℃で30秒、伸張反応72℃で1分のサイクルを30回繰り返すことによってPCR反応を行なった。
【0051】
(4)RT−PCR産物の解析
得られたPCR産物を1.5%アガロースゲルで電気泳動した。赤芽のRNAから、MYR1 primer及びMYR2 primerの組み合わせで、アニーリング温度が45℃、50℃、55℃の場合に、約420bpバンドが確認でき、セイヨウワサビのミロシナーゼをコードするcDNAのPCR産物と考えられた。またMYR1 primer及びMYR3 primerの組み合わせは、すべてのアニーリング温度において、予想される約760bpのPCR産物が確認できた。一方、青芽のRNAから、MYR1 primer及びMYR2 primerの組み合わせでは、PCR産物が確認できなかったが、MYR1 primer及びMYR3 primerの組み合わせで、アニーリング温度が45℃の場合のみにおいて、予想される約760bpのPCR産物が確認できた。そのため、青芽及び赤芽のセイヨウワサビからMYR1 primer及びMYR3 primerの組み合わせで得られた約760bpのPCR産物を以下のクローニング及び塩基配列の決定に用いた。
【0052】
(5)クローニングベクターによるクローニングと塩基配列の決定
PCR産物から余ったプライマーを除去し、QIAGEN PCR Cloning Kitを用いて、メーカーのプロトコールに従い、プラスミドに導入した。形質転換した大腸菌を培養し、プラスミドをプラスミド精製キットAurum Plasmid Mini Kit(Bio−Rad社)を用い、メーカーのプロトコールに従い精製した。このプラスミドDNAを制限酵素で切断し、目的の長さのフラグメントを含んだプラスミドDNAを選択した。
精製したプラスミドDNAはDNAをThermo Sequence Cy5.5Dye TerminatorSequencing Kit(Amersham Bioscience社)を用いメーカーのプロトコールに従って反応させた。この反応産物をLong−Read TowerTM Sequencerで解析し、塩基配列を決定した。
【0053】
(6)配列の比較
青芽から得られた6クローンの塩基配列及び赤芽から得られた7クローンの663bpの塩基配列を比較したところ、クローン間で若干の塩基の置換は見られたが、品種にかかわらず高い相同性を示した。すべてのクローンの塩基配列を配列番号3に示している。クローンによって塩基の置換がある塩基は混合塩基で示しているが、13クローンのうち6クローンは100%一致した。得られたコンセンサスな塩基配列を他のアブラナ科の植物であるワサビ、ダイコン、アラビドプシスのミロシナーゼをコードする塩基配列と比較したところ、最も相同性が高いシロイヌナズナ(Arabidosis)のミロシナーゼ(TGG3)をコードする塩基配列でも80%程度であった。そのため、決定した663bpの塩基配列はセイヨウワサビのミロシナーゼに特異的な配列である。また、得られた塩基配列をGeneBankに登録されているセイヨウワサビのミロシナーゼをコードする全長のmRNA(GeneBank、Accession No.AY822710と比較したところ、非常に高い相同性を示した。このため、本発明者が取得した663bp以外のミロシナーゼをコードする塩基配列も青芽及び赤芽のセイヨウワサビの品種間では保存されているが、他のアブラナ科植物の有するミロシナーゼをコードする塩基配列とは異なっていると考えられた。
【0054】
《実施例1:セイヨウワサビのミロシナーゼのゲノムDNAの検出》
(1)オリゴヌクレオチドプライマーの合成
合成DNA機モデル394 DNA/RNAシンセサイザー(アプライドバイオシステムズ社)を用いホスホアミダイト法により、
Seiwasa1;5’−GTA TGT CTA CGC CAT TCC−3’(配列番号8)、
Seiwasa2;5’−GAA CAG ACT CAC CGT CAT G−3’(配列番号9)、及び
Seiwasa3;5’−TCA AAA GGA GTG TCA CCA CC−3’、
(配列番号10)を合成した。
【0055】
(2)ゲノムDNAの抽出
セイヨウワサビの2品種の青芽及び赤芽、他のアブラナ科の植物であるワサビ、及びカイワレダイコン並びにアブラナ科以外の植物であるホウレンソウ及びトウミョウからゲノムDNAを抽出した。具体的には、それぞれの植物体を、葉、茎、及び根茎に分離し、液体窒素で凍結し、−70℃に保存した。保存したサンプルを液体窒素中で粉砕し、Nucleon Phytopure Kit(Amersham Biosciences社)を用いて、キットのプロトコールに従って、ゲノムDNAを抽出した。得られたDNAは、滅菌蒸留水50μLに溶解した。
【0056】
(3)PCRによる増幅
ゲノムDNA溶解液10μL(1μg)に10×PCR緩衝液5μL、第1プライマー(100pmol/μL)0.2μL、及び第2プライマー(100pmol/μL)0.2μL、Gene Taq(ニッポンジーン社)0.5μLを加え滅菌蒸留水で50μLにした。第1プライマーとしてSeiwasa1、第2プライマーとしてSeiwasa3の組み合わせ(Seiwasa1−Seiwasa3プライマーセット)で反応液を作成した。この反応液を、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Gradient TP600(TAKARA)にセットし、PCR反応を行った。反応のプロファイルはDNA変性94℃で2分保持し、DNA変性94℃で30秒、アニーリング61℃で30秒、伸張反応72℃で1分のサイクルを30回繰り返した。30サイクル終了後72℃で1.5分間保持し、4℃に冷却した。
【0057】
(4)PCR産物の解析
PCR反応終了した溶液を1.5%アガロースゲルで電気泳動した。図2に示すように、Seiwasa1−Seiwasa3プライマーセットを用いた場合、セイヨウワサビの2種類の品種から抽出したDNAからPCR産物を確認することができた。一方、ワサビ、カイワレダイコン、ホウレンソウ、及びトウミョウから抽出したDNAを用いた場合は、PCR産物を確認することはできなかった。更に、青芽又は赤芽のゲノムDNAからSeiwasa1−Seiwasa3プライマーセットで増幅されたPCR産物を20倍希釈し、Seiwasa2−Seiwasa3プライマーセットによってPCRを行い、特異的なPCR産物を増幅することができた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のプライマーセット及びプローブを用いたセイヨウワサビの検出方法は、加工ワサビ食品にセイヨウワサビの含有の有無を高感度に検出することが可能である。またセイヨウワサビの品種の同定に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】セイヨウワサビの赤芽及び青芽からミロシナーゼのcDNAをRT−PCRで取得した電気泳動像である。Myr1/Myr2は、MYR1 primerとMYR2 primerの組み合わせを、Myr1/Myr3はMYR1 primerとMYR3 primerの組み合わせを示している。45℃、50℃、55℃、及び60℃は、PCRのアニーリング温度を示している。MはDNAマーカー(All Purpose Hi−LoTM DNA Marker 50bp−10,000bp:株式会社アベテック)を表している。
【図2】PCRによる、西洋ワサビ赤芽、西洋ワサビ青芽、ワサビ、カイワレダイコン、ホウレンソウ、及びトウミョウのゲノムDNAからミロシナーゼ遺伝子を検出したアガロース電気泳動像である。MMはDNAマーカー(All Purpose Hi−LoTM DNA Marker 50bp−10,000bp:株式会社アベテック)を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)配列番号1で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1a)、又は配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2a)である第1プライマーと、
(B)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むDNAプライマー(1b)、又は配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2b)である第2プライマーとの組み合わせからなり、ポリメレース重合反応用のプライマーとして機能することのできる、セイヨウワサビ検出用プライマーセット。
【請求項2】
(A)配列番号3で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3a)、又は配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4a)である第1プライマーと、
(B)配列番号4で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むDNAプライマー(3b)、又は配列番号4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4b)である第2プライマーとの組み合わせからなり、ポリメレース重合反応用のプライマーとして機能することのできる、セイヨウワサビ検出用プライマーセット。
【請求項3】
前記第1プライマーが、配列番号8又は配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第2プライマーが、配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプライマーセット、被検試料及びDNAポリメラーゼを含む混合液を用いてDNA増幅工程を行い、得られた反応液のDNA検査工程を行うことを特徴とする、セイヨウワサビの検出方法。
【請求項5】
配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分、又は配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、を含むオリゴヌクレオチドに標識を担持することを特徴とするセイヨウワサビ検出用プローブ。
【請求項6】
配列番号3又は配列番号4で表される塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分、又は配列番号3又は配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、を含むオリゴヌクレオチドに標識を担持することを特徴とするセイヨウワサビ検出用プローブ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のプローブと被検試料を接触させ、前記標識からの信号を検出することを特徴とするセイヨウワサビの検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−215510(P2007−215510A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41530(P2006−41530)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000116297)ヱスビー食品株式会社 (40)
【Fターム(参考)】