説明

セッコウ硬化体の製造法

【課題】セッコウ硬化体の物性に影響を与える添加剤を添加することなく、半水セッコウの硬化を促進し、得られる硬化体の強度を向上させる手段を提供する。
【解決手段】半水セッコウを含有するスラリーを硬化させてセッコウ硬化体を製造する方法であって、該スラリー及び/又は凝結が開始したスラリーに超音波を照射することを特徴とするセッコウ硬化体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半水セッコウから速やかに、高強度のセッコウ硬化体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半水セッコウは、容易に水和して硬化することから、建設用材、型材料、医療用材料として広く使用されている。
【0003】
一般にセッコウ硬化体は、半水セッコウをスラリーとし、これを型枠に流し込み養生して硬化することにより製造される。セッコウ硬化体の製造に要する時間は、この硬化時間が律速となるので、硬化時間の短縮は経済的に大きな要素である。硬化時間を短縮するための手段としては、硫酸カリウムの添加、二水セッコウの添加等が知られている(非特許文献1)が、セッコウにこれらの成分を添加すると硬化時間は短縮させることができるが、添加剤を加えないものに比べて得られる硬化体の強度が低下するという問題がある。一般的にゆっくりと硬化させると結晶が大きく成長するため得られる硬化体の強度が高くなると考えられる。
【0004】
一方、セッコウ硬化体は強度の向上も求められており、強度の向上のため種々の補強繊維の添加等が行なわれている。しかし、それらの繊維の添加は、安全性や耐熱性等に影響を与えるおそれがある。
【非特許文献1】セメント・セッコウ・石灰 ハンドブック 技報堂出版 p149
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、セッコウ硬化体の強度に影響を与える添加剤を添加することなく、半水セッコウの硬化時間を短縮させながら、得られる硬化体の強度を向上させる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、半水セッコウをスラリー化する工程から硬化するまでの工程を種々検討してきたところ、全く意外にも、スラリーの状態又は凝結が開始した段階で超音波を照射すれば、硬化が促進されるとともに強度が向上することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、半水セッコウを含有するスラリーを硬化させてセッコウ硬化体を製造する方法であって、該スラリー及び/又は凝結が開始したスラリーに超音波を照射することを特徴とするセッコウ硬化体の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、凝結が終結する時間(以下、「凝結時間」と略記することがある)が短縮される結果、セッコウボード等のセッコウ硬化体の製造時間が短縮できる。また、おどろくべきことに、凝結時間が短縮されるにもかかわらず得られるセッコウ硬化体の強度が向上するため、応用範囲を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のセッコウ硬化体の原料は、半水セッコウである。用いる半水セッコウはα型半水セッコウでもβ型半水セッコウでもよいが、β型半水セッコウを用いるのが経済的である。β型半水セッコウの粒径は通常0.5〜100μm、好ましくは1〜50μm程度である。
【0010】
半水セッコウを水に懸濁させてスラリー化する。用いる水の温度は35℃以下程度が好ましく、さらに25℃以下、特に5〜25℃が好ましい。用いる水の量は、(水の重量/半水セッコウの重量)×100で表される混水量(重量%)が、70重量%以上、さらに70〜200重量%、特に90〜140重量%が好ましい。半水セッコウからセッコウ硬化体を製造する場合の通常の混水量は70〜90重量%程度であり、本発明の方法を用いれば、特に、混水量が多い場合の凝結時間を効果的に短縮することができる。
【0011】
本発明の第一の態様においては、半水セッコウを含有するスラリーを作成した後超音波を照射する。超音波照射により、凝結時間が短縮されるとともに得られる硬化体の強度が向上する。超音波の照射は、単独の超音波発生源を用いて行なってもよいが、複数の超音波発生源を用いて行なってもよい。超音波の発生方法は特に限定されず、例えばランジュバン型、ホーン型等が挙げられる。複数の超音波の発生源を用いる場合、ランジュバン型の発生源とホーン型の発生源とを併用するのが好ましい。第一の態様においてはホーン型の超音波発生装置が好ましい。用いる超音波の周波数は20〜500kHzが好ましく、さらに好ましくは20〜200kHzであり、特に好ましくは20〜100kHzである。
超音波の照射時間は、通常0.5分以上、好ましくは1分以上である。なかでも、1〜5分、さらには1〜4分、特に1〜3分が好ましい。
超音波の照射後のスラリーの温度は通常35℃以下、好ましくは25℃以下で通常5℃以上程度である。
【0012】
本発明の第一の態様においては、超音波照射後のスラリーは通常の手段により成型、乾燥することによりセッコウ硬化体が得られる。成型は、所望のスラリーを所望の型枠に流し込み、そのまま放置し、半水セッコウの水和が進行により硬化が進み、凝結が終結したら、脱型することにより行われる。乾燥は、45℃以下で付着水がなくなる程度まで行なえばよい。これにより、二水セッコウ硬化体が得られる。
【0013】
本発明の第二の態様においては、スラリーに含まれる半水セッコウの二水セッコウへの水和による凝結反応が開始してから終了するまでの間に、超音波を照射する。かかる凝結が開始した後に超音波を照射することにより、得られるセッコウ硬化体の強度が顕著に向上する。ここで凝結が開始した後とは、ビカー針進入装置による凝結試験で、底面からの距離が1mm以上で底面からの距離が39mmとなるまでの間を指す。底面からの距離が10〜30mm、特に15〜25mmとなった時点で超音波を照射することが好ましい。この範囲であれば、形状が変化し一時的に凝結した形状がくずれる。超音波照射終了後は、再び凝結反応が進行する。このように、凝結が開始した後に超音波を照射すると得られるセッコウ硬化体の強度が向上する理由は明らかではないが、超音波照射により与えられる振動によって二水セッコウのからみあいがほどけて、さらに結晶成長が可能となるため、得られる硬化体の強度が向上するものと推察される。
凝結が開始したスラリーに超音波を照射する場合、型枠にスラリーを流し込んでから凝結が開始したスラリーに超音波を照射しても、凝結が開始したスラリーに超音波を照射してから型枠にスラリーを流し込んでもよい。
【0014】
第二の態様で行なう超音波照射の手段、周波数及び照射時間は、第一の態様においてスラリーに対する超音波照射と同じ程度が好ましい。第二の態様においてはランジェバン型超音波発生装置を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明の第二の態様において、超音波の照射が、凝結が開始した後であるという点を除けば、第一の態様と同様に成型、乾燥することによりセッコウ硬化体が得られる。
【0016】
また、本発明においては、スラリー状態(凝結が開始する前)で超音波照射し、さらに凝結が開始した後に超音波照射してもよい。
【0017】
また、本発明においては、セッコウ硬化体の補強、軽量化等の目的で、本発明の効果を損ねない範囲で軽量骨材、繊維、樹脂、添加剤等を添加することができる。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0019】
実施例1
混水量90重量%となるように、半水セッコウ180gに水162cm3を加え、薬さじを用いて手動で20秒撹拌し、スラリーを得た。次に、ホーン型超音波照射装置(40kHz)を用いて、2.5分間超音波を照射した。得られたスラリーを2×2×8cmの真ちゅう製型枠に流し込み、室温で2.5時間放置した後、型枠からはみ出た二水セッコウを削り取ってから脱枠し、得られた2×2×8cmの硬化体を40℃で48時間乾燥した。
【0020】
凝結に要する時間は、ビカー針進入装置によって測定した。その結果を、図1に示す。また、得られたセッコウ硬化体の曲げ強度(2日間乾燥後)を万能強度試験機を用いて測定した。その結果を図3に示す。
【0021】
実施例2〜4
実施例1において、超音波を照射する時間を1.5分間(実施例2)、1.0分間(実施例3)、0.5分間(実施例4)とした他は、実施例1と同様に行った。凝結に要する時間及び曲げ強度の結果を図1、3に示す。
【0022】
実施例5
実施例1において、混水量140重量%となるように、半水セッコウ120gに水168cm3を加えた他は、実施例1と同様に行った。凝結に要する時間及び曲げ強度の結果を図2、3に示す。
【0023】
実施例6〜8
実施例5において、超音波を照射する時間を2.0分間(実施例6)、1.5分間(実施例7)、1.0分間(実施例8)とした他は、実施例1と同様に行った。凝結に要する時間及び曲げ強度の結果を図2、3に示す。
【0024】
比較例1
実施例1と同様に混水量90重量%となるように半水セッコウに水を加え、薬さじを用いて手動で4分間撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーには超音波を照射せず、2×2×8cmの真ちゅう製型枠に流し込み、実施例1と同様に硬化、乾燥させ、硬化体を得た。実施例1と同様に、凝結に要する時間及びセッコウ硬化性の曲げ強さを測定した。結果を図1、3に示す。
【0025】
比較例2
実施例5と同様に混水量140重量%となるように半水セッコウに水を加え、薬さじを用いて手動で4分間撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーには超音波を照射せず、2×2×8cmの真ちゅう製型枠に流し込み、実施例5と同様に硬化、乾燥させ、硬化体を得た。実施例5と同様に、凝結に要する時間及びセッコウ硬化性の曲げ強さを測定した。結果を図2、3に示す。
【0026】
図1(混水量90%)及び図2(混水量140%)に示すように、超音波照射を0.5〜2.5分行なうことにより、凝結時間が顕著に短縮されることがわかる。すなわち、混水量90%では、超音波照射1分で、手動撹拌4分の場合と同等の凝結時間であった。また、混水量140%では超音波照射1〜1.5分で手動撹拌4分と同等の凝結時間であった。
図3に示すように、0.5〜3分の超音波照射によって、4〜6分の手動撹拌の場合と同等の強度が得られることがわかる。
【0027】
実施例9
混水量140%となるように、半水セッコウ120gに水168cm3を加え、薬さじを用いて手動で20秒撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーは、すぐに2×2×8cmの真ちゅう製型枠に流し込み、室温で放置した。ビカー針進入装置によって、底面からの距離が20mmになったところで、超音波を0.5分間照射(ランジュバン型、28kHz)し、型枠に流し込んでから室温で2.5時間放置した後、型枠からはみ出た二水セッコウを削り取ってから脱枠し、得られた2×2×8cmの硬化体を40℃で48時間乾燥した。
得られた硬化体の圧縮強度をJIS R 9112に準拠して測定した。結果を図4に示す。
【0028】
実施例10〜12
実施例9において、超音波の照射を1.0分間(実施例10)、2.0分間(実施例11)、3.0分間(実施例12)とした他は実施例9と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0029】
実施例13
実施例9において、超音波の照射を、ビカー針進入装置によって、底面からの距離が2mmになったところ(始発時間)で行った他は、実施例9と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0030】
実施例14〜16
実施例13において、超音波の照射を1.0分間(実施例14)、2.0分間(実施例15)、3.0分間(実施例16)とした他は実施例13と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0031】
実施例17
実施例9において、超音波の照射を、ビカー針進入装置によって、底面からの距離が39mmになったところ(終結時間)で行った他は、実施例9と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0032】
実施例18〜20
実施例17において、超音波の照射を1.0分間(実施例18)、2.0分間(実施例19)、3.0分間(実施例20)とした他は実施例17と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0033】
実施例21
実施例9において、超音波の照射を、スラリーを型枠に流し込んだ直後に行った他は、実施例9と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0034】
実施例22〜24
実施例21において、超音波の照射を1.0分間(実施例22)、2.0分間(実施例23)、3.0分間(実施例24)とした他は実施例21と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に示す。
【0035】
比較例3
実施例9において超音波を照射しない以外は実施例9と同様に行い、得られた硬化体の圧縮強度を測定した。結果を図4に破線で示す。
【0036】
図4から明らかなように、凝結が開始した後に、ランジュバン型超音波発生装置で超音波を照射することによりセッコウ硬化体の強度が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】混水量90%スラリーに0.5〜2.5分間の超音波照射をして得られたセッコウ硬化体の凝結時間を示す図である。
【図2】混水量140%スラリーに1.0〜2.5分間の超音波照射をして得られたセッコウ硬化体の凝結時間を示す図である。
【図3】セッコウ硬化体の曲げ強度に及ぼす超音波照射時間の影響を示す図である。
【図4】セッコウ硬化体の圧縮強さに及ぼす凝結途中での超音波照射時間の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半水セッコウを含有するスラリーを硬化させてセッコウ硬化体を製造する方法であって、該スラリー及び/又は凝結が開始したスラリーに超音波を照射することを特徴とするセッコウ硬化体の製造法。
【請求項2】
半水セッコウを水に懸濁させて得られる半水セッコウスラリーに超音波を照射した後、該スラリーを型枠に注入し、硬化させることを特徴とする請求項1記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項3】
半水セッコウを水に懸濁させて得られる半水セッコウスラリーを型枠に注入した後、該スラリーに超音波を照射することを特徴とする請求項1記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項4】
超音波を照射するスラリーが、凝結が開始したものであることを特徴とする請求項1又は3に記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項5】
半水セッコウスラリーは、(水の重量/半水セッコウの重量)×100で表される混水量が、70重量%以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項6】
超音波を照射した後の半水セッコウスラリーの温度が25℃以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項7】
超音波の照射時間が1分以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項8】
超音波の照射をホーン型超音波発生装置で行うことを特徴とする請求項1、2、4〜7のいずれかに記載のセッコウ硬化体の製造法。
【請求項9】
超音波の照射をランジュバン型超音波発生装置で行うことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のセッコウ硬化体の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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