説明

セッコウ硬化体の製造法

【課題】安価なβ型半水セッコウから効率良く高強度のセッコウ硬化体を製造する方法を提供する。
【解決手段】β型半水セッコウに対する水の混合率が30〜60重量%のβ型半水セッコウと水との混合物に、超音波を照射してスラリーにすることを特徴とするβ型半水セッコウスラリーの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ型半水セッコウから効率良く高強度のセッコウ硬化体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半水セッコウは、容易に水和して硬化することから、セッコウボードなどの建設用材、陶器製造の際に用いる型材料、歯科材料や骨折箇所を固定するギブスなどの医療用材料として広く使用されている。半水セッコウには、加圧水蒸気加熱又は加圧水溶液加熱法により製造されるα型半水セッコウと、大気中加熱法により製造されるβ型半水セッコウがある。加圧条件下で製造されるため、α型半水セッコウはβ型半水セッコウに比べて高価である。α型半水セッコウとβ型半水セッコウの両者に結晶系上の相違はなく、X線回折ピークは同じである。両者は熱分析におけるIII型無水セッコウからII型無水セッコウへの転移に伴う発熱ピークの温度により区別することができる。
【0003】
半水セッコウからセッコウ硬化体の製造は半水セッコウを水と混合してスラリーにしてから硬化させることにより行われている。スラリーを形成するには半水セッコウの体積と同一体積の水が最低限必要である。β型半水セッコウはα型半水セッコウに比べ結晶が微細であり、かさ密度が高いので、β型半水セッコウをスラリーにするには同じ重量のα型半水セッコウに比べてたくさんの水が必要となる。このため、β型半水セッコウから得られるセッコウ硬化体は密度が低く、α型半水セッコウから得られる硬化体に比べ強度が低くなることが知られている(非特許文献1)。
一方、α型半水セッコウから得られるセッコウ硬化体はβ型半水セッコウから得られる硬化体よりも密度が高いので、寸法精度及び強度が高いが、高価である。このため、強度と寸法精度が厳しく求められる歯科用などの限られた用途にα型半水セッコウが用いられている。
【非特許文献1】無機マテリアル学会、セメント・セッコウ・石灰ハンドブック,1995年,p.154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、安価なβ型半水セッコウから効率良く高強度のセッコウ硬化体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、β型半水セッコウを少ない水分量で均一なスラリーを得るための手段について種々検討したところ、通常β型半水セッコウの均一なスラリー化にはセッコウに対して70重量%以上の水が必要とされているところ、全く意外にも、β型半水セッコウと水との比率が30〜60重量%の混合物に超音波照射すると、均一なスラリーが得られることを見出した。さらに、このスラリーを用いて硬化されて得られた硬化体の強度は顕著に増大していることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、β型半水セッコウに対する水の混合率が30〜60重量%であるβ型半水セッコウと水との混合物に、超音波を照射してスラリーにすることを特徴とする、β型半水セッコウスラリーの製造法を提供するものである。
さらに本発明は、上記の方法により得られたスラリーを硬化させることを特徴とするセッコウ硬化体の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、安価なβ型半水セッコウから、強度の高いセッコウ硬化体を得ることができる。従って、従来α型半水セッコウでなければならなかった用途、例えば、歯科用セッコウ硬化体の製造に安価なβ型半水セッコウを用いることができるので、歯科用セッコウ硬化体を安価に製造することが可能となる。また、従来よりβ型半水セッコウが用いられていた用途、例えばセッコウボードにおいては強度の高めた硬化体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明方法においては、原料としてβ型半水セッコウを用いる。前記のようにβ型半水セッコウは、α型半水セッコウに比べて安価であるが、通常の方法ではスラリーの調製に多量の水が必要であり、得られる硬化体の強度も十分ではない。これに対し、本発明方法によれば、β型半水セッコウを使用するにもかかわらず、少量の水で均一なスラリーが調製でき、かつ得られる硬化体の強度も向上する。用いるβ型半水セッコウの粒径はとくに限定されず、一般に用いられているものでよいが、通常1〜10μmである。
【0009】
撹拌手段でβ型半水セッコウの均一なスラリーを得るには、通常70重量%程度以上の水が必要であるが、本発明の方法では、β型半水セッコウに対するして水の混合率((水の重量/β型半水セッコウの重量)×100)が30〜60重量%である。より好ましくは30〜55重量%、さらに好ましくは35〜50重量%となるようにβ型半水セッコウと水を混合する。β型半水セッコウに対する水の混合率が30〜60重量%であるβ型半水セッコウと水との混合物は不均一の状態(塊状)で、液体のような流動性は示さない。この状態では型枠に流し込むことができず成形が困難である。通常のβ型半水セッコウと混合する水の温度は通常0〜35℃程度である。
【0010】
不均一の状態(塊状)の混水率30〜60重量%のβ型半水セッコウと水の混合物に超音波を照射すると、液体のような流動性をもつ均一なスラリーとなる。超音波の照射は、単独の超音波発生源を用いて行なってもよいが、複数の超音波発生源を用いて行なってもよい。超音波の発生方法は特に限定されず、例えばランジュバン型、ホーン型等が挙げられる。複数の超音波の発生源を用いる場合、ランジュバン型の発生源とホーン型の発生源とを併用するのが好ましい。用いる超音波の周波数は20〜500kHzが好ましく、さらに好ましくは20〜200kHzであり、特に好ましくは20〜100kHzである。超音波の照射時間は、β型半水セッコウと水との混合物がスラリー化するまで行えばよく、超音波発生源の大きさやβ型半水セッコウの量により異なるが、通常0.5〜5分であり、好ましくは0.5〜4分、特に好ましくは0.5〜3分である。
【0011】
超音波の照射により生成したスラリーは通常の手段により成型、乾燥することによりセッコウ硬化体が得られる。成型は、スラリーを所望の型枠に流し込み、放置することにより水和を進行させ、セッコウを凝結させることにより行なわれる。通常、脱枠してから乾燥させる。乾燥は、45℃以下で重量変化が認められなくなるまで行なわれる。これにより、二水セッコウ硬化体が得られる。
【0012】
また、本発明においては、スラリーを型枠に流し込んで、凝結が開始してから完了までの間の凝結途中で、超音波を照射してもよい。凝結途中で超音波を照射することにより、得られるセッコウ硬化体の強度が顕著に向上する。ここで凝結途中とは、ビカー針進入装置による凝結試験で、底面からの距離が1mm以上で底面からの距離が39mmとなるまでの間をさす。この範囲であれば、超音波照射により与えられる振動によって二水セッコウのからみあいがほどけて、さらに結晶成長が可能となるため、得られる硬化体の強度が向上するものと考えられる。底面からの距離が10〜30mm、特に15〜25mmとなった時点で超音波を照射することが好ましい。該凝結途中で超音波を照射して、形状が変化し一時的に凝結した形状がくずれる。超音波照射終了後は、再び凝結反応が進行する。
【0013】
凝結途中で行なう超音波照射の手段、周波数は、混合物に対する超音波照射と同様に行われる。凝結が開始したスラリーに超音波を照射する場合、型枠にスラリーを流し込んでから凝結が開始したスラリーに超音波を照射しても、凝結が開始したスラリーに超音波を照射してから型枠にスラリーを流し込んでもよい。
【0014】
このようにして得られた硬化体は、圧縮強さが通常15MPa以上、好ましくは20MPa以上と高い値を示す。
【0015】
また、本発明においては、セッコウ硬化体の補強、軽量化等の目的で、本発明の効果を損ねない範囲で軽量骨材、繊維、樹脂、添加剤等を添加することができる。
【実施例】
【0016】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0017】
実施例1
水50gにβ型半水セッコウ142g(混水量35重量%)を加え、手動で4分撹拌したところ、ボソボソの状態(塊状)となった。液体のような流動性は示さず、均一なスラリーは得られなかった。次にホーン型超音波照射装置(40kHz)を用いて、2分超音波を照射した。照射直後に液体のような流動性を示した。生成したスラリーを2×2×8cmの真ちゅう製型枠に流し込み、乾燥は、45℃以下で重量変化が認められなくなるまで行なった。
また、得られたセッコウ硬化体の曲げ強度(2日間乾燥後)を万能強度試験機を用いて測定した。その結果を図1に示す。0.5〜3分の超音波照射によって、混水量が30〜60%、特に35〜50%であっても高い圧縮強度を有するセッコウ硬化体が得られた。なお、硬化体の圧縮試験はJIS R 9112に準じて行った。
【0018】
実施例2
実施例1においてβ型半水セッコウを100g(混水量50重量%)とした他は実施例1と同様に行った。結果を図1に示す。
【0019】
比較例1〜2
実施例1においてβ型半水セッコウを56g(混水量90重量%、(比較例1))、36g(混水量140重量%、(比較例2))とした他は実施例1と同様に行った。結果を図1に示す。なお、比較例1、2では、水にβ型半水セッコウを加え、手動で撹拌した時点で液体のような流動性をもつスラリーとなったので、このスラリーに超音波を照射した。
【0020】
参考例1〜7
水50gにα型半水セッコウ125g(混水量40重量%)、100g(混水量50重量%)、83g(混水量60重量%)、71g(混水量70重量%)、62.5g(混水量80重量%)、66g(混水量90重量%)、50g(混水量100重量%)を加え、手動で4分撹拌したところ液体のような流動性をもつスラリーとなった。このスラリーを実施例1と同様に真ちゅう製型枠に流し込み、実施例1と同様にしてセッコウ硬化体を得た。得られた硬化体の圧縮強度を実施例1と同様に測定した。結果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】超音波照射した場合の混水量と圧縮強度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型半水セッコウに対する水の混合量が30〜60重量%であるβ型半水セッコウと水との混合物に、超音波を照射してスラリーにすることを特徴とするβ型半水セッコウスラリーの製造法。
【請求項2】
β型半水セッコウと水との混合物が液体のような流動性を示さないものであり、スラリーは液体のような流動性をもつものである請求項1に記載のβ型半水セッコウスラリーの製造法。
【請求項3】
β型半水セッコウに対する水の混合量が30〜60%のβ型半水セッコウと水との混合物に超音波を照射することより生成するスラリーを硬化させることを特徴とするセッコウ硬化体の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−203131(P2009−203131A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48601(P2008−48601)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】