説明

セファクロルの合成方法

本発明はセファクロルの合成方法に関し、該方法は、反応混合物中で酵素の存在下、7−アミノ−3−クロロセファロスポラン酸(7−ACCA)と、活性型D−フェニルグリシン(PGa)とを反応させてセファクロルを形成することを含み、7−ACCAおよび/またはPGaの少なくとも一部は、反応の過程において反応混合物に添加される。また本発明は、10(w/w)%よりも多い量のセファクロル、2(w/w)%よりも少ない量の7−アミノ−3−クロロセファロスポラン酸、および2(w/w)%よりも少ない量のD−フェニルグリシンを含む水性混合物、ならびにこの水性混合物からセファクロルを回収するための方法にも関する。また本発明は、0.250未満である400nmにおける吸光度(A400)を有する結晶形態のセファクロルにも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、7−アミノ−3−クロロ−セファロスポラン酸(7−ACCA)を活性型D−フェニルグリシンと酵素の存在下で反応させることを含むセファクロルの合成方法と、セファクロルを含む水性混合物と、該水性混合物からのセファクロルの回収方法とに関する。
【0002】
セファクロルの酵素合成方法は、様々な出典から分かっている。EP567323号明細書には、0℃と20℃の間の温度および周囲pHにおいて、7−ACCAに対するD−フェニルグリシンメチルエステルのモル比が高い(5〜6)場合のセファクロルの酵素合成方法が開示されており、93%および88.2%の収率が得られる。β−ラクタム核に対する活性側鎖のモル比が高いと、関連の費用と、酵素合成反応において形成されて最終抗生物質(セファクロル)から分離するのが困難な副産物(例えば、D−フェニルグリシン)とがこれにより増大されるので望ましくない。
【0003】
EP730035号明細書は、セファクロルの酵素合成方法において、7−ACCAに対するD−フェニルグリシンアミドのモル比を低減することを目的とする。酵素ペニシリンGアミダーゼをアズラクトンポリマーに固定化することによって、7−ACCAに対して98%および94%のセファクロルの収率が得られ、この場合の7−ACCAに対するD−フェニルグリシンアミドのモル比は、2と3の間であった。
【0004】
7−ACCAに対する活性型D−フェニルグリシンのモル比が約2と3の間である場合、セファクロルの酵素合成反応中に形成される副産物の量はまだ多過ぎであり、その結果反応混合物からセファクロルを回収する間の処理性(processibility)の問題が生じること、および/または実質的に純粋な形態のセファクロルを得ることができないことが分かった。
【0005】
本発明の目的は、7−ACCAおよび活性型D−フェニルグリシンからセファクロルを酵素合成するために、これらの欠点を持たない方法を提供することである。
【0006】
これは、セファクロルの酵素合成方法により本発明に従って達成され、該方法は、反応混合物中で酵素の存在下、7−アミノ−3−クロロ−セファロスポラン酸(7−ACCA)と、活性型D−フェニルグリシン(PGa)とを反応させてセファクロルを形成することを含み、7−ACCAおよび/またはPGaは、反応の過程において反応混合物に添加される。
【0007】
驚くことに、本発明に従うセファクロルの合成方法において生成されるセファクロルの7−ACCAに対する量は、反応で使用される7−ACCAおよびPGaの全ての量が反応の開始時に添加される酵素合成方法の場合よりも多いことが分かった。
【0008】
驚くことに、本発明に従うセファクロルの合成方法におけるセファクロルの転化率は、90%よりも高い、好ましくは92%よりも高い、好ましくは95%よりも高い、より好ましくは96%よりも高い場合もあることが分かった。
【0009】
本明細書において使用される場合、セファクロルの転化率は、反応混合物に添加された7−ACCAの総量(モル数)に対して、生成されたセファクロルの量(モル数)と定義される。
【0010】
セファクロルの収率は、添加された7−ACCAの総量(モル数)に対して、反応混合物から回収されたセファクロルの量(モル数)と定義される。
【0011】
さらに、本発明に従うセファクロルの合成方法では、非常に少量の副産物が形成されることが分かった。反応混合物中の副産物(例えば、D−フェニルグリシン)の濃度が低い場合、反応混合物から実質的に純粋な形態でセファクロルを回収することが可能であると思われた。実質的に純粋な形態のセファクロルは、少なくとも94(w/w)%、好ましくは少なくとも95(w/w)%、好ましくは少なくとも96(w/w)%、好ましくは少なくとも97(w/w)%のセファクロル、好ましくは少なくとも98%w/w)%のセファクロル、好ましくは少なくとも99%w/w)%のセファクロルを含む生成物と定義することができる。
【0012】
本発明に従うセファクロルの合成方法では、7−ACCAおよびPGaは、好ましくは、7−ACCAに対して2よりも低い、好ましくは1.8よりも低い、より好ましくは1.5よりも低い、最も好ましくは1.2よりも低いPGaのモル比で反応混合物に添加される。7−ACCAに対するPGaのモル比がこれらの値よりも低く保持されたとき、合成反応中に副産物はほとんど形成されず、セファクロルの回収の間、処理性の問題に出会うことはほとんど全くないことが分かった。
【0013】
本明細書中で使用される場合、7−ACCAに対するPGaのモル比は、反応混合物に添加されたPGaのモル数での総量を、反応混合物に添加された7−ACCAのモル数での総量で割った値と定義される。
【0014】
本発明に従うセファクロルの酵素合成方法では、7−ACCAおよび/またはPGaは、反応の過程において反応混合物に添加される。好ましくは、反応混合物に添加すべき7−ACCAおよび/またはPGaの総量の少なくとも一部は、10分よりも長い、好ましくは20分よりも長い、好ましくは30分よりも長い、好ましくは60分よりも長い、好ましくは90分よりも長い、そして好ましくは360分よりも短い、好ましくは240分よりも短い、好ましくは120分よりも短い合成反応の過程において、連続または間欠モードで反応混合物に添加される。
【0015】
本発明に従うセファクロルの合成方法は、好ましくは、PGaが合成反応の過程において反応混合物に添加される方法である。PGaは、固体形態または溶液で反応混合物に添加され得る。
【0016】
本発明に従う方法で使用されるPGaは、D−フェニルグリシンのアミド、例えば第1級、第2級または第3級アミド、もしくはエステルでよい。好ましくは、PGaは、D−フェニルグリシンのエステル、例えばD−フェニルグリシンの低級アルキル(C1〜4)エステル、例えばD−フェニルグリシンのメチル、エチル、またはイソプロピルエステルである。好ましいのは、D−フェニルグリシンメチルエステル(PGM)であり、最も好ましいのは、塩の形態のPGM、例えばPGMのギ酸、メタンスルホン酸またはHCl塩である。他のD−フェニルグリシンエステルのギ酸、メタンスルホン酸、またはHCl塩も使用することができる。
【0017】
本発明に従う方法において7−ACCAをPGaと反応させてセファクロルを調製する際、触媒として適切な酵素が使用され得る。このような酵素は、例えば、ペニシリンGアミダーゼまたはベンジルペニシリンアシラーゼとも呼ばれるペニシリンアシラーゼまたはペニシリンGアシラーゼ(EC3.5.1.11)という総称で知られている酵素である。ペニシリンGアシラーゼは、ペニシリンの6−アシル基またはセファロスポリンの7−アシル基を加水分解することができる、微生物、特に細菌からの加水分解酵素の群を指す。ペニシリンアシラーゼ酵素は、その基質特異性およびその分子構造の両方に基づいて分類することができ、これは様々な刊行物に記載されており、例えば、国際公開第03/055998号パンフレットおよび国際公開第98/20120号パンフレットが参照される。
【0018】
ペニシリンアシラーゼ酵素が由来することができる微生物は、例えば、アセトバクター属(Acetobacter)、特にアセトバクター・パステウリアヌム(Acetobacter pasteurianum)、エロモナス属(Aeromonas)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、特にアルガリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)、アファノクラジウム属(Aphanocladium)、バシラス属(Bacillus sp.)、特にバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、セファロスポリウム属(Cephalosporium)、エシェリヒア属(Escherichia)、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、フラボバクテリウム属(flavobacterium)、フザリウム属(Fusarium)、特にフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)およびフザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、クライベラ属(Kluyvera)、マイコプラナ属(Mycoplana)、プロタミノバクター属(Protaminobacter)、プロテウス属(Proteus)、特にプロテウス・レットガリ(Proteus rettgari)、シュードモナス属(Pseudomonas)、およびキサントモナス属(Xanthomonas)、特にキサントモナス・シトリ(Xanthomonas citrii)である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、セファクロルの合成方法における酵素は変異酵素である。
【0020】
ペニシリンアシラーゼの変異体またはアシラーゼ変異体は、既知のどのペニシリンアシラーゼから出発しても作ることができる。変異アシラーゼは、例えば、当該技術分野において知られている組換えDNA法により、1つのアミノ酸残基を新しい残基に置き換えることによって野生型アシラーゼから誘導される。
【0021】
本発明に従う方法で使用される変異ペニシリンアシラーゼは、例えば、大腸菌の野生型アシラーゼよりも高いS/H比を有するペニシリンアシラーゼでよい。
【0022】
本明細書中での定義では、合成/加水分解(S/H)比は、酵素反応の間の特定の瞬間における、加水分解生成物に対する合成生成物のモル比と理解される。合成生成物は、活性側鎖およびβ−ラクタム核から形成されるβ−ラクタム抗生物質であると理解される。加水分解生成物は、活性側鎖の対応の酸であると理解される。
【0023】
S/H比は、反応物の濃度、β−ラクタム核に対する活性側鎖のモル比、温度、pHおよび酵素の関数である。理想的な状況では比較実験が実行され、基準酵素、好ましくは大腸菌PenGアシラーゼに対して同一条件下で特定の候補が試験される。どのようにしてS/H比を決定できるかについての詳細な説明は、国際公開第03/055998号パンフレットにおいて与えられる。
【0024】
好ましくは、変異酵素は、大腸菌のペニシリンアシラーゼのβ−サブユニットに相当するβ−サブユニットの24位においてアミノ酸置換を有する変異ペニシリンアシラーゼである。好ましい実施形態では、国際公開第98/20120号パンフレットに記載されるように、大腸菌のペニシリンアシラーゼのβ−サブユニットに相当するβ−サブユニットの24位におけるL−フェニル−アラニンは、その位置でL−アラニンによって置換されている。この変異は大腸菌からのPenGアシラーゼにおいて適用することができるが、他の原料からのPenGアシラーゼが用いられてもよい。アミノ酸の位置の番号付けは、大腸菌の野生型ペニシリンGアシラーゼのアミノ酸配列の番号付けと一致する。
【0025】
本発明のさらに好ましい実施形態では、酵素は、担体に固定化され得る。固定化された形態では、酵素は、容易に分離および再利用することができる。例えば、国際公開第92/12782号パンフレットに記載されるように単離され、EP222462号明細書および国際公開第97/04086号パンフレットに記載されるように固定化された大腸菌ペニシリンアシラーゼなど、固定化酵素はそれ自体知られており市販されている。
【0026】
本発明に従うセファクロルの合成方法は、適切なpHで実行され得る。好ましくは、酵素合成反応は、6と8の間、好ましくは6.5と7.7の間、より好ましくは6.8と7.2の間のpHで実行される。反応混合物のpHは、有機または無機の適切な塩基、もしくは適切な有機または無機酸によって、正確なpH値に調整され得る。
【0027】
本発明に従うセファクロルの合成方法は、適切な温度で実行され得る。好ましくは、酵素合成反応は、5℃と35℃の間、好ましくは8℃と25℃の間、より好ましくは18℃と23℃の間の温度で実行される。酵素合成反応は、8℃と16℃の間、好ましくは9℃と15℃の間、好ましくは10℃と14℃の間の温度で実行されてもよい。
【0028】
セファクロルの酵素合成方法における反応混合物は、原則として、水性反応混合物である。水性反応混合物は、好ましくは30体積%未満、より好ましくは20体積%未満、より好ましくは10体積%未満、より好ましくは5体積%未満(液体の総体積に対して)の有機溶媒または有機溶媒の混合物を含有することができる。好ましくは、有機溶媒は、1〜7個の炭素原子を有するアルコール、例えば、モノ−アルコール(特に、メタノールまたはエタノール)、ジオール(特に、エチレングリコール)、またはトリオール(特に、グリセロール)である。好ましくは、水性反応混合物は、少なくとも70体積%の水、より好ましくは少なくとも80体積%、より好ましくは少なくとも90体積%、最も好ましくは少なくとも95体積%の水(液体の総体積に対して)を含有する。
【0029】
酵素合成反応の最後に、反応混合物の温度は、5℃よりも低い温度、好ましくは4℃よりも低い温度よりも低く、そして好ましくは0℃よりも高い温度まで低下され得る。
【0030】
酵素合成反応の最後に、形成されたセファクロルは、例えば遠心分離またはろ過によって水性反応混合物から回収され得る。
【0031】
また本発明は、セファクロル、7−アミノ−3−クロロセファロスポラン酸(7−ACCA)およびD−フェニルグリシン(PG)を含む水性混合物にも関し、該水性混合物は、10(w/w)%よりも多い量のセファクロルと、2(w/w)%よりも少ない量の7−ACCAと、2(w/w)%よりも少ない量のPGとを含む。この水性混合物は、本発明に従うセファクロルの合成方法によって有利に得ることができる。好ましくは、水性混合物は、12(w/w)%よりも多い、より好ましくは15(w/w)%よりも多い量のセファクロルを含み、好ましくは、水性混合物中のセファクロルの量は、50(w/w)%よりも少ない、より好ましくは30(w/w)%よりも少ない。好ましくは、水性混合物は、1.5(w/w)%よりも少ない、より好ましくは1(w/w)%よりも少ない、より好ましくは0.8(w/w)%よりも少ない、より好ましくは0.6(w/w)%よりも少ない、より好ましくは0.4(w/w)%よりも少ない量の7−ACCAを含む。好ましくは、水性混合物は、1.5(w/w)%よりも少ない、好ましくは1.2(w/w)%よりも少ない、より好ましくは1(w/w)%よりも少ない、より好ましくは0.8(w/w)%よりも少ない量のPGを含む。驚くことに、セファクロルは、処理性の問題がほとんどまたは全くなく、本発明に従う水性混合物から実質的に純粋な形態で容易に回収され得ることが分かった。
【0032】
また本発明は、例えば遠心分離またはろ過によって、本発明に従う水性混合物からセファクロルを回収するための方法にも関する。好ましくは、セファクロルは、上方で攪拌しながら底部ふるいを通して水性混合物から回収され(例えば、NL1006267を参照)、セファクロル結晶を含む懸濁液が得られる。
【0033】
本発明に従う水性混合物、またはセファクロル結晶を含む懸濁液は、0.5と2の間のpHに酸性化され、溶解したセファクロルを含む酸性溶液が得られる。0.5と2の間のpHへの酸性化は、塩酸、硝酸、および硫酸などの適切な無機酸、またはギ酸、酢酸、およびクエン酸などの適切な有機酸を用いて実行され得る。好ましくは、本明細書に従う水性混合物、またはセファクロル結晶を含む懸濁液を酸性化して、溶解したセファクロルを含む酸性溶液を得るために塩酸が使用される。
【0034】
本発明に従う水性混合物、または溶解したセファクロルを含む酸性溶液は、4と6の間のpHにされ、それによりセファクロル結晶が形成される。本発明に従う水性混合物または溶解したセファクロルを含む酸性溶液を4と6の間のpHにするために適切な塩基は、アンモニア、水酸化ナトリウムまたはカリウムなどの無機塩基、もしくはトリエチルアミンまたはグアニジンなどの有機塩基である。好ましくは、溶解したセファクロルを含む酸性溶液を4と6の間のpHにするためにアンモニアが使用される。
【0035】
セファクロルは、任意の適切な形態、通常はセファクロル水和物、例えばセファクロル一水和物の形態で結晶化され得る。
【0036】
溶解したセファクロルを含む酸性溶液を4と6の間のpHにすることによって形成されるセファクロル結晶は、当該技術分野において既知の方法、例えば遠心分離またはろ過によって溶液から分離され、セファクロル結晶を含むウェットケーキが得られる。
【0037】
セファクロル結晶を含むウェットケーキは、次に、当該技術分野において既知の方法で洗浄および乾燥され得る。
【0038】
驚くことに、本発明に従う水性混合物からセファクロルを得るための方法によって得られるセファクロル結晶は、低着色のセファクロル結晶をもたらすことが分かった。好ましくは、低着色のセファクロル結晶は、本発明に従うセファクロルの酵素合成方法によって得られる水性混合物から得られる。
【0039】
本発明の範囲において、セファクロル結晶の低着色とは、400nmにおける低吸光度、例えば0.250未満である400nmにおける吸光度であると定義され得る。
【0040】
従って、1つの実施形態では、本発明は、0.5gの結晶形態のセファクロルを10mlの1NのHCl溶液中に溶解した溶液のA400を室温で90秒後に測定することにより、0.250未満、好ましくは0.200未満、好ましくは0.150未満、好ましくは0.100未満、好ましくは0.090未満、好ましくは0.080未満、好ましくは0.070未満、好ましくは0.0.060未満、好ましくは0.050未満である400nmにおける吸光度(A400)を有する結晶形態のセファクロルに関する。
【0041】
セファクロルは、錯化剤の存在によって安定化され得る。錯化剤は、合成反応の間に反応混合物に添加されてもよいし、あるいは合成反応が完了した後の反応混合物、または本発明に従う水性混合物に添加されてもよい。また錯化剤は、セファクロルの回収方法の間に添加されてもよい。適切な錯化剤は、ナフタレン、キノリン、アントラキノンスルホン酸またはパラベンであり得る。錯化剤の例は、1−ナフトール、2−ナフトール、2,6−ジヒドロキシナフタレン、およびアントラキノン−1,5−ジスルホン酸でよい。
【0042】
以下の実施例は本発明を説明するものであって、本発明を限定すると解釈されてはならない。
【実施例】
【0043】
酵素および固定化
本明細書中で使用されるペニシリンアシラーゼは、国際公開第A−98/20120号パンフレットに記載されるような大腸菌PenGアシラーゼ変異Phe−B24−Alaであった。EP222462号明細書および国際公開第97/04086号パンフレットに記載されるように、ゲル化剤としてゼラチンおよびキトサン、そして架橋剤としてグルタルアルデヒドを用いて酵素を固定化した。
【0044】
実施例1
a)セファクロルの酵素合成
175μmのふるい底部を有する反応器に、5.0gの固定化PenGアシラーゼ変異Phe−B24−Alaを入れた。13.9g(58.1mmol)の7−ACCA、0.1gの亜硫酸ナトリウムおよび60gの水を20℃で添加し、pHをアンモニアで7.0に調整した。
【0045】
別個の容器中で、12.9g(63.8mmol)のPGMのHCl塩および21gの水を20℃で混合することによって、PGM溶液を調製した。
【0046】
PGM溶液をt=0分からt=117分まで一定の速度で反応器中に投与した。最初のPGM溶液を投与したt=0において酵素縮合反応が開始された。pHをアンモニアにより7.0に保持した。
【0047】
t=150分において、セファクロル、7−ACCA、PGMおよびPGの濃度は、それぞれ、17.5(w/w)%、0.33(w/w)%、0.23(w/w)%および0.79(w/w)%であった。
【0048】
t=150分において、セファクロルへの転化率は、添加した7−ACCAに対して97.0%であり、S/H比は9.1であった。
【0049】
続いて、塩酸溶液によってpHを5.3まで低下させた。温度を2℃まで低下させた。
【0050】
b)セファクロルの回収
上方で攪拌しながら底部ふるいを通して反応器を排出させた。得られたセファクロル懸濁液をガラスフィルタによりろ過した。得られた母液を反応器内に戻した。この順序のステップを5回繰り返した。このようにして、95%よりも多い固体セファクロルを固体生体触媒から分離した。
【0051】
セファクロルのウェットケーキおよび母液を合わせ、温度を2℃に保持した。合わせたセファクロルのウェットケーキおよび母液のpHを塩酸により0.8まで低下せ、得られた溶液を0.45μmフィルタによりろ過した。
【0052】
結晶化反応容器に、34gの水と、シードとしての1.0gのセファクロルとを入れた。35℃において上記の酸性セファクロル溶液を60分間で結晶化反応容器中に投与した。pHをアンモニアで5.0に保持した。続いて、30℃で30分、25℃で30分、および20℃で60分というステップで温度を低下させた。懸濁液をガラスフィルタでろ過し、1体積の水および2体積のアセトンによりウェットケーキを洗浄した。乾燥させた後、15.7gのセファクロル一水和物が得られた(純度99.4%)。
【0053】
比較例
a)セファクロルの酵素合成
175μmのふるい底部を有する反応容器に、5.0gの固定化PenGアシラーゼ変異Phe−B24−Alaを入れた。13.9g(58.1mmol)の7−ACCA、0.1gの亜硫酸ナトリウムおよび81gの水を20℃で添加し、pHをアンモニアで7.0に調整した。12.9g(63.8mmol)のPGMのHCl塩を反応器に添加し、酵素縮合反応が開始された。pHをアンモニアで7.0に保持した。非常に粘性のソルベ様の懸濁液が形成された。
【0054】
t=150分において、セファクロル、7−ACCA、PGMおよびPGの濃度は、それぞれ、10.5%、4.71%、0.11%および3.96%であった。セファクロルへの転化率は、7−ACCAに対して59%であり、S/H比は1.1であった。
【0055】
続いて、塩酸溶液によってpHを5.3まで低下させた。温度を2℃まで低下させた。
【0056】
b)セファクロルの回収
上方で攪拌しながら底部ふるいを通して反応器を排出させる試みをした。しかしながら、非常に高い粘度のために、セファクロル懸濁液を固定化生体触媒から分離することは不可能であった。
【0057】
実施例2
a)セファクロルの酵素合成
175μmのふるい底部を有する反応容器に、10.0gの固定化PenGアシラーゼ変異Phe−B24−Alaを入れた。13.9g(58.1mmol)の7−ACCAおよび52.5gの水を10℃で添加し、pHをアンモニアで7.0に調整した。
【0058】
別個の容器中で、16.7g(63.7mmol)のPGMのメタンスルホン酸(MSA)塩および20gの水を10℃で混合することによって、PGM溶液を調製した。
【0059】
PGM溶液をt=0分からt=90分まで一定の速度で反応器中に投与した。最初のPGM溶液を投与したt=0において酵素縮合反応が開始された。pHをアンモニアにより7.0に保持した。温度を12℃に保持した。t=120分からt=180分まで、温度を12℃から2℃に直線的に低下させた。
【0060】
t=190分において、セファクロル、7−ACCA、PGMおよびPGの濃度は、それぞれ、18.1(w/w)%、0.20(w/w)%、0.04(w/w)%および0.64(w/w)%であった。
【0061】
t=190分において、生成したセファクロルの転化率は、添加した7−ACCAに対して98.0%であり、S/H比は12であった。
【0062】
続いて、塩酸溶液によってpHを5.0まで低下させた。
【0063】
b)セファクロルの回収
上方で攪拌しながら底部ふるいを通して反応器を排出させた。得られたセファクロル懸濁液をガラスフィルタによりろ過した。得られた母液を反応器内に戻した。この順序のステップを5回繰り返した。次に、2×10mlの水で酵素を洗浄した。このようにして、95%以上のセファクロルを固体生体触媒からから分離した。
【0064】
セファクロルのウェットケーキ、母液および洗浄水を合わせ、温度を2℃に保持した。合わせたセファクロルのウェットケーキおよび母液のpHを塩酸により0.5まで低下せ、得られた溶液を0.45μmフィルタによりろ過した。
【0065】
結晶化反応容器に、10gの水を入れた。25℃において、上記の酸性セファクロル溶液を30分間で結晶化反応容器中に投与した。pHをアンモニアで5.0に保持した。続いて、懸濁液を10℃でさらに30分間攪拌した。懸濁液をガラスフィルタによりろ過し、ウェットケーキを2×15mlの水および2×15mlのアセトンで洗浄した。乾燥させた後、18.3gのセファクロル一水和物が得られた(純度99.6%)。
【0066】
実施例3
セファクロルの着色
400nmにおける吸光度を測定することによって、実施例2から得られたセファクロル一水和物の着色を決定した。
【0067】
0.5gのセファクロル一水和物を10mlの1NのHCl溶液中に溶解させた。パーキン・エルマー(Perkin Elmer)550Sスペクトロメーターにおいて、室温で400nmにおける吸光度(=A400)を、基準溶液としての1NのHCl溶液に対して決定した。A400は、90秒後に決定した。実施例2において記載されるように単離および乾燥後に直接測定されたセファクロル一水和物の吸光度は、0.036であった。実施例2からのセファクロル一水和物結晶を室温および70%相対湿度で4週間貯蔵した後、セファクロル一水和物の吸光度は0.043であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応混合物中で酵素の存在下、7−アミノ−3−クロロセファロスポラン酸(7−ACCA)と、活性型D−フェニルグリシン(PGa)とを反応させてセファクロルを形成することを含む、セファクロルの合成方法であって、7−ACCAおよび/またはPGaが、反応の過程において反応混合物に添加されることを特徴とする方法。
【請求項2】
活性型D−フェニルグリシン(PGa)が、反応の過程において反応混合物に添加されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
7−ACCAおよびPGaが、7−ACCAに対して2よりも低いPGaのモル比で反応混合物に添加されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
PGaがD−フェニルグリシンのエステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が変異酵素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記変異酵素が、大腸菌のペニシリンアシラーゼのβ−サブユニットに相当するβ−サブユニットの24位においてアミノ酸置換を有する変異ペニシリンアシラーゼであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
6と8の間のpHで合成反応が実行されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
5℃と35℃の間の温度で合成反応が実行されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
10(w/w)%よりも多い量のセファクロル、2(w/w)%よりも少ない量の7−アミノ−3−クロロセファロスポラン酸、および2(w/w)%よりも少ない量のD−フェニルグリシンを含む水性混合物。
【請求項10】
請求項9に記載の水性混合物からセファクロルを回収することを含む、セファクロルの入手方法。
【請求項11】
前記方法が、前記水性混合物を4と6の間のpHにすることを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、上方で攪拌しながら底部ふるいを通してセファクロルを回収して、セファクロル結晶を含む懸濁液を得ることを含む請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項9に記載の水性混合物または請求項12に記載のセファクロル結晶を含む懸濁液を0.5と2の間のpHまで酸性にして、溶解したセファクロルを含む酸性溶液を得ることを含む、セファクロルの入手方法。
【請求項14】
さらに、溶解したセファクロルを含む前記酸性溶液が、適切な塩基により4と6の間のpHにされ、それによりセファクロル結晶が形成されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
10mlの1NのHCl溶液中に溶解された0.5gの結晶形態のセファクロルの溶液のA400を、1NのHCl基準溶液に対して室温で90秒後に測定することによって、0.250未満である400nmにおける吸光度(A400)を有する結晶形態のセファクロル。

【公表番号】特表2008−525044(P2008−525044A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548813(P2007−548813)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/057155
【国際公開番号】WO2006/069984
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】