説明

セメントモルタルの圧縮強さの推定方法

【課題】本発明は、簡便な操作により高い精度で、セメントモルタルの圧縮強さを推定する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、試料作成工程と、水和率算出工程と、圧縮強さ推定工程からなるセメントモルタルの圧縮強さの推定方法であり、前記の水和率算出工程が、セメントペースト硬化体の反射電子像から求めた未水和の水硬性粒子の面積率を下記式に代入して、水硬性粒子の水和率を算出するセメントモルタルの圧縮強さの推定方法をも含む。
={1−(S−S)/S}×100
但し、R;材齢t日の水硬性粒子の水和率(%)
;水和率ゼロの未水和の水硬性粒子の面積率(%)
;材齢t日の未水和の水硬性粒子の面積率(%)
また、前記のセメントが高炉セメントであるセメントモルタルの圧縮強さの推定方法をも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントモルタルを破壊することなく、セメントモルタルの圧縮強さを推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モルタルの圧縮強さは、セメント、水および砂を混練した後、当該混練物を所定の型枠に入れて供試体を作成し、次いで、当該供試体を各材齢まで水中養生した後に、圧縮強さ試験機を用いて測定していた。
しかし、前記従来の方法では、測定時に供試体が破壊されるため、各材齢毎に供試体を多数作成してその強度を個々に測定しなければならず、供試体の作成と強度測定に多くの労力および時間が費やされるほか、セメント等の供試体の構成材料が多量に必要であった。
【0003】
そこで、モルタルの圧縮強さ測定に要する労力等を削減し得る方法として、圧縮強さの推定方法が幾つか提案されている。
例えば、特許文献1には、セメント製造プラントの運転において、品質管理情報として収集した、セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報を、過去に蓄積されているそれら情報及びモルタル圧縮強さ実測データの間の重回帰分析を基に求めたモルタル圧縮強さの推定式に適用することにより、モルタル圧縮強さを推定する方法が記載されている。
また、特許文献2には、固化体にレーザーパルスを照射してプラズマを誘起させ、プラズマの発光スペクトル中の特定成分元素(例えばCa)の中性原子線とイオン線との発光強度比により固化体の強度を検出又は測定する方法が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の推定方法では、必要な情報がクリンカー構成鉱物及び添加材の量、クリンカー構成鉱物の結晶構造、クリンカーの少量成分の量およびセメントの粉末度及び45μm残分と多岐に渡って必要であり、また、特許文献1の図1から分かるように、モルタル圧縮強さの推定式の推定精度は十分とは云えない。
また、特許文献2に記載の推定方法では、レーザー誘起プラズマ発生装置、発光検知器、分光光度計およびコンピュータ等の大掛かりで高価なシステムが必要になり、当該方法を実施するとコスト高になる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−271448
【特許文献2】特開2007−206009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、簡便な操作により高い精度でセメントモルタルの圧縮強さを推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の画像解析手段を用いて測定して求めたセメント粒子またはスラグ粒子(以下「水硬性粒子」という。)の水和率に基き、セメントモルタルの圧縮強さを極めて正確に推定することができる方法を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、(1)試料作成工程と、(2)水和率算出工程と、(3)圧縮強さ推定工程からなるセメントモルタルの圧縮強さの推定方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な操作により高い精度で、セメントモルタルの圧縮強さを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】反射電子像の取得から未水和の水硬性粒子を抽出するまでの工程を示すフローチャートである。
【図2】セメントペースト硬化体の反射電子像の1例である。
【図3】セメントペースト硬化体の反射電子像におけるグレイレベルの頻度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)試料作成工程
試料作成工程は、以下の(i)〜(vi)からなる。
(i)セメントおよび水、または、セメント、水および砂を混練した後、型枠に入れ、所定の材齢に達するまで封緘養生して脱型するか、または、打設後24時間で脱型し所定の材齢に達するまで水中養生して、硬化体を得る。
(ii)前記硬化体を切断装置を用いて切断して切断片を得る。
(iii)前記切断片をアセトン中に浸漬してセメントおよび高炉スラグの水和を止めた後、D−乾燥して乾燥体を得る。
(iv)前記乾燥体に、樹脂を含浸させ樹脂が硬化した後、この乾燥体の表面を研磨し導電材を蒸着して、試料を作成する。
(v)未水和のセメントペーストを模擬するため、前記(i)で作成した硬化体と同一のセメント体積率となるように、セメント−樹脂混合供試体を作成する。
(vi)前記(v)のセメント−樹脂混合供試体も、樹脂が硬化した後、(iv)と同様に表面を研磨し導電材を蒸着して試料とする。
【0011】
ここで(i)において、セメントは、高炉セメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントおよび低熱ポルトランドセメント等から選ばれる1種または2種以上が使用できる。特に、高炉セメントが好適である。砂は特に限定されず、標準砂、珪砂、砕砂等が使用できる。
セメントに対する水の添加量、または、セメントおよび砂に対する水の添加量は、試料が成形できる量であれば良く、例えば水の添加量はセメント100重量部に対し20〜70重量部が、また、砂の添加量はセメント100重量に対し50〜500重量部が、試料の成形上好適である。必要に応じて流動性を確保するために減水剤を使用してもよい。減水剤はナフタレンスルホン酸系やポリカルボン酸系等、市販のものから適宜選択する。特に、次の工程である反射電子画像観察の便宜から、試料はセメントと水のみを混練したセメントペーストの硬化体が好ましい。また、養生温度は20℃が好ましい。
(ii)において、切断装置はダイヤモンドカッター等の公知の装置が使用できる。また、切断片の大きさは、鮮明な反射電子画像を得るために、例えば、縦4cm、横2cm、厚さ1cmの大きさが好ましい。
(iv)において、樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。樹脂の浸透性を考慮すると低粘度の樹脂がよく、例えば、樹脂の粘度は20℃で200cP以下が好適である。また、研磨材は、シリコーンカーバイド研磨材、ボロンカーバイド研磨材、ダイヤモンドペースト、アルミナ粉末等が挙げられる。また、導電材は、炭素、白金パラジウム、金等が挙げられ、特に炭素が好ましい。導電材の蒸着膜を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により行うことができる。
【0012】
(2)水和率算出工程
水和率算出工程は、以下の(a)〜(d)からなる。
また、水和率を算出するための画像解析のフローチャートを図1に示す。
(a)反射電子検出器を備えた走査型電子顕微鏡を用いて、水和率ゼロの試料と推定したい材齢(材齢t日)の試料それぞれの導電材蒸着面の反射電子像(図2)を取得する(Step1)。走査型電子顕微鏡は更にエネルギー分散型X線定量装置を備えていれば、より効果的な測定ができる。なお、走査型電子顕微鏡の観察倍率は500倍が好ましい。
(b)(a)で取得した反射電子像のノイズを除去する処理をする(Step2)。ノイズの除去処理としては、移動平均フィルタやメディアンフィルタ等による処理が挙げられる。ノイズが除去処理された画像を基にして、グレイレベルの頻度分布(図3)を得る。未水和の水硬性粒子部分に対応する輝度の範囲(例えば、高炉セメントB種のセメントペーストにおける未水和セメントならば、濃度は176〜255であり、未水和の高炉スラグならば、濃度は150〜175である)を閾値として設定し、2値化像を得る(Step3)。この2値化像の面積率を面積率を算出する。
(c)前記水硬性粒子の面積率を下記式に代入して、水硬性粒子の水和率を算出する。
={1−(S−S)/S}×100 …(A)
;材齢t日の水硬性粒子の水和率(%)
;水和率ゼロの未水和の水硬性粒子の面積率(%)
;材齢t日の未水和の水硬性粒子の面積率(%)
ここで、水硬性粒子とは、セメント粒子、またはセメント粒子および高炉スラグ粒子をいう。
【0013】
(3)圧縮強さ推定工程
予め、各材齢のセメントモルタルの圧縮強さと水硬性粒子の水和率との相関を示す回帰式を求める。ここで各材齢のセメントモルタルの圧縮強さは、例えば、JIS R 5201に従って測定するのが好ましい。次に、任意の材齢の水硬性粒子の水和率を前記回帰式に代入し、当該材齢のセメントモルタルの圧縮強さの推定値を算出する。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。
1.セメントモルタルの圧縮強さの測定
JIS R 5201に従って高炉セメントB種(太平洋セメント社製)のモルタルを作成し、20℃で封緘養生して、材齢1日、3日、7日、28日および91日のモルタルの圧縮強さを測定した。その結果、各材齢の圧縮強さは、材齢1日で5N/mm、材齢3日で18N/mm、材齢7日で32N/mm、材齢28日で55N/mm、材齢91日で72N/mmであった。
【0015】
2.水和率の算出
JIS R 5201に従い、高炉セメントB種(太平洋セメント社製)のセメントぺーストを混練した後、型枠に入れ封緘養生して、材齢1日、3日、7日、28日および91日の高炉セメントペースト硬化体を作成した。
次に、ダイヤモンドカッターを用いて当該高炉セメントペースト硬化体を、縦4cm、横2cm、厚さ1cmの大きさに切断し、当該切断片をアスピレータによる減圧環境下にてアセトン中に0.5時間浸漬した後、D−乾燥して乾燥体を得た。
当該乾燥体に、常温硬化型の低粘性エポキシ樹脂(商品名:スペシフィックス−20、丸本ストルアス社製)を含侵・硬化後、表面をSiC
研磨材(#400、800、1000、1200)およびアルミナ粉末(3μm、1μm、0.5μm)とケロシンを用いて研磨を行った。次に、常法により当該研磨面にカーボン蒸着を施して試料を作成した。
水和率ゼロのセメントペーストを模擬するため、高炉セメントの体積率を前記セメントペーストと一致させた高炉セメント−エポキシ樹脂混合硬化体を作成した。
当該硬化体も、前記と同様に表面をSiC 研磨材(#400、800、1000、1200)およびアルミナ粉末(3μm、1μm、0.5μm)とケロシンを用いて研磨を行った。次に、常法により当該研磨面にカーボン蒸着を施した。
カーボン蒸着面に電子線が当たるように、反射電子検出器を備えた走査型電子顕微鏡(装置名;JSM−7001F、日本電子社製)に当該試料を載置し、蒸着面の反射電子像〈図3〉を取得した。ここで観察条件は、加速電圧が15kV、照射電流が440pA、ワーキングディスタンスが10mm、観察倍率が500倍とした。観測の際、統計的変動を考慮し、1試料毎に20
視野の画像をランダムに取得した。1視野の観察範囲は250μm×172μm、1視野の画素数は2560×1920および1画素あたりのサイズは0.1μm×0.1μmとした。
前記反射電子像について、以下のように画像処理を行い、水和率を算出した。なお、画像処理は、市販の画像解析ソフト(製品名:NanoHunterNS2K-Pro、ナノシステム社製)を用いて行った。
前記反射電子像の、ノイズは移動平均フィルタを利用してノイズ除去した。当該ノイズ除去した反射電子像について、未水和の水硬性粒子部分(グレイレベル176〜255)を抽出し、2値化画像を取得した。なお、水硬性粒子の内、セメント粒子として、CS、CS、CAおよびCAFの主要セメント鉱物の粒子を採用した。
前記水硬性粒子部分の面積率を前記(A)式に代入して、水硬性粒子の水和率を算出した。その結果、水硬性粒子の水和率は、材齢1日で25%、材齢3日で37%、材齢7日で42%、材齢28日で50%、材齢91日で55%であった。
【0016】
3.圧縮強さと面積率との間の回帰式
前記セメントモルタルの圧縮強さと前記水硬性粒子の面積率とから、以下の回帰式を求めた。
Y=80−5X3.4339
Y;セメントモルタルの圧縮強さ(N/mm
X;水硬性粒子の面積率(%)
分散の値が0.9974となったことから、圧縮強さと面積率との相関は極めて高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料作成工程と、水和率算出工程と、圧縮強さ推定工程からなることを特徴とするセメントモルタルの圧縮強さの推定方法。
【請求項2】
前記の水和率算出工程が、セメントペースト硬化体の反射電子像から求めた未水和の水硬性粒子の面積率を下記式に代入して、水硬性粒子の水和率を算出することを特徴とする請求項1に記載のセメントモルタルの圧縮強さの推定方法。
={1−(S−S)/S}×100
但し、R;材齢t日の水硬性粒子の水和率(%)
;水和率ゼロの未水和の水硬性粒子の面積率(%)
;材齢t日の未水和の水硬性粒子の面積率(%)
【請求項3】
前記のセメントが高炉セメントであることを特徴とする請求項1または2に記載のセメントモルタルの圧縮強さの推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−191061(P2011−191061A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54856(P2010−54856)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】