説明

セメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントモルタル

【課題】 優れた導電性を示し、美観や施工性にも優れたセメントモルタルの施工が可能となり、ひび割れが入りにくい導電性セメントモルタルを提供でき、均一に電流を流すことができる電気防食工法が可能となるセメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントモルタルを提供する。
【解決手段】 導電性ポリマーと吸水性ポリマーとを含有してなるセメント混和材、繊維、非導電性ポリマー及び/又はゲル化剤を含有してなる該セメント混和材、セメントと該セメント混和材とを含有してなるセメント組成物、セメント、導電性ポリマー、及び吸水性ポリマーを含有してなるセメント組成物、並びに、該セメント組成物を用いてなるセメントモルタルを構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントモルタル、特にコンクリート構造物の電気防食工法で使用するための導電性に優れたセメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中の鉄筋は、一定量の塩分濃度を超えると鉄筋表面に形成している不導態被膜が破壊されて腐食が進行し、鉄筋に発生する錆びの膨張圧によりコンクリートが破壊され、ひび割れ、浮き、及びコンクリート片のはく落等が発生する。
【0003】
現在、このような鉄筋腐食を防止する手段として電気防食工法がある(非特許文献1参照)。
この工法は、コンクリート表面から内部の鉄筋に防食電流を流す工法であり、コンクリート中の鉄筋を陰極とし、コンクリート表面には鉄筋の対極である陽極を設置する必要がある。
【0004】
陽極の設置方法としては、チタンメッシュ陽極方式、パネル陽極方式、導電性塗料方式、チタン溶射方式、チタン亜鉛溶射方式、チタンリボンメッシュ陽極方式、チタングリッド方式、チタンロッド方式、亜鉛シート方式、亜鉛−アルミ擬合金溶射方式、及び導電性モルタル方式がある(非特許文献1参照)。
そのうち、他の陽極の設置方法より価格が低く、施工が簡単な面から導電性モルタル方式が採用されている。
【0005】
従来、導電性モルタル方式で使用される導電性モルタルとしては炭素繊維を含有するモルタルが知られている(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)。
【0006】
一方、導電性ポリマーは、電池、コンデンサー、塗料、帯電防止材、有機EL発光材料、電磁波シールド、及び印刷基盤等の電気・電子分野の用途で使用されているが、セメントコンクリート分野では使用されていない。
【0007】
【非特許文献1】土木学会コンクリート委員会電気化学的補修工法研究小委員会編集、電気化学的防食工法設計指針(案)、電気防食工法設計施工マニュアル、pp55〜116、平成13年
【特許文献1】特開平07−206502号公報
【特許文献2】特許第2550093号公報
【特許文献3】特許第2624269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性モルタルにおいて、充分な導電性を付与するためには、炭素繊維を比較的多く混合する必要があり、混合するときの混合性に課題があった。
炭素繊維の添加量を多くすると、ファイバーボールができたり、モルタルのフレッシュ性状に支障をきたしたり、施工性が悪くなる場合があった。
さらに、繊維が混入したモルタルは表面が毛羽立ち、仕上がりが悪るくなる場合もあった。そのため、できるだけ繊維を混入しないか、少ない添加量で導電性モルタルを調製した方が美観や施工性の面で好ましいものであった。
また、炭素繊維は、モルタル内では均一分散しづらく、電流が均一に流れないという課題もあった。
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、導電性ポリマーを含有するセメント組成物とすることによって、電気防食工法に適するセメントモルタルが得られるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、導電性ポリマーと吸水性ポリマーとを含有してなるセメント混和材であり、繊維を含有してなる該セメント混和材であり、非導電性ポリマーを含有してなる該セメント混和材であり、ゲル化剤を含有してなる該セメント混和材であり、セメントと該セメント混和材とを含有してなるセメント組成物であり、セメント、導電性ポリマー、及び吸水性ポリマーを含有してなるセメント組成物であり、該セメント組成物を用いてなるセメントモルタルである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント組成物は、優れた導電性を示し、それを使用することによって、美観や施工性にも優れたセメントモルタルの施工が可能となり、ひび割れが入りにくい導電性セメントモルタルを提供でき、均一に電流を流すことができる電気防食工法が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
なお、本発明のセメントモルタルとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0013】
本発明で使用する導電性ポリマーとは、ポリピロール類、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、及びポリチエニレンビニレン類等のヘテロ原子含有導電性ポリマーや、ポリアセチレン類、ポリアズレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアセン類、ポリフェニルアセチレン類、及びポリジアセチレン類等の炭化水素系導電性ポリマーが挙げられる。これらの導電性ポリマーは、粉末状や水を分散させたディスパージョンのいずれでも使用可能である。これらのうち、比較的高い導電性を示すポリチオフェン類の使用が好ましい。
導電性ポリマーの使用量は、セメント100部に対して、0.1〜20部が好ましく、0.5〜10部がより好ましい。0.1部未満ではセメントモルタルに導電性を付与することが難しい場合があり、20部を超えるとセメントモルタルの強度が低下する場合がある。
【0014】
本発明で使用する吸水ポリマーとは、セメントモルタル中に配合された場合、セメントモルタル中の水分保持性を向上させ、電気をとおりやすくしたり、クラックが発生することを抑制したりするものであり、最大で吸水ポリマーの自重の数千倍近いところまで膨潤する物質である。例えば、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸ナトリウム−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル系重合体ケン化物、ヒドロキシエチルメタクリレートポリマー、及びポリアクリルアミドなどのポリアクリル酸誘導体、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸誘導体、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプングリコール酸カリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、及びデンプンリン酸エステルカリウムなどのデンプン誘導体、並びに、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びカルボキシメチルセルロースカリウムなどのセルロース誘導体、これらの混合物が挙げられる。
吸水ポリマーの使用量は、セメント100部に対して、0.01〜10部が好ましく、0.03〜2部がより好ましい。0.01部未満ではひび割れ抑制の効果が小さく、10部を超えるとセメントモルタルの流動性を阻害する場合がある。
【0015】
本発明で使用するセメントとしては特に限定されるものではないが、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、及びJIS R 5213に規定されている各種混合セメント、並びに、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント、又はシリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメントからなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
【0016】
本発明で使用する繊維は、接着剤で束状にした収束タイプや、繊維が1本毎分離している非収束タイプがあり、セメントモルタルのダレやひび割れを低減したり、導電性を補ったりすることを目的に使用するものである。
繊維の種類としては、ビニロン繊維やプロピレン繊維に代表される高分子繊維、鋼繊維、ガラス繊維、及び炭素繊維に代表される無機繊維が挙げられ、特に限定されるものではない。
また、繊維の長さは、収束タイプや非収束タイプ共に、混合性を考慮して0.2〜20mmが好ましい。0.2mm未満ではダレやひび割れを低減する効果が小さい場合があり、20mmを超えると練り混ぜ時に均一に分散しずらく、コテ仕上げする場合に毛羽立ちが目立つ場合がある。
繊維の使用量は、非収束タイプの場合は、セメントモルタル1m3に対して、0.1〜1容量部が好ましく、0.2〜0.5容量部がより好ましい。0.1容量部未満ではダレやひび割れ抵抗性を向上させる効果が小さい場合があり、1容量部を超えるとセメントモルタルの流動性に悪影響を与える場合がある。また、収束タイプの場合は、0.03〜0.5容量部が好ましく、0.05〜0.3容量部がより好ましい。0.03容量部未満ではダレやひび割れ抵抗性を向上させる硬化が小さい場合があり、0.5容量部を超えると流動性を悪くする場合がある。
【0017】
本発明で使用する非導電性ポリマーとは、JIS A 6203で規定されているセメント混和用のポリマーであり、従来よりセメント混和用として、一般的に使用されてきたポリマーであり、中性化、塩害、及び凍害等の耐久性を向上させる目的で使用するものである。例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴムなどのゴムラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂エマルジョン、並びに、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂に代表される液状ポリマーなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上の混合物も使用可能である。
非導電性ポリマーの使用量は、セメント100部に対して、0.5〜20部が好ましく、2〜10部がより好ましい。0.5部より少ないと耐久性を向上させることが難しい場合があり、20部を超えると導電性ポリマーと併用しても導電効果が無くなる場合がある。
【0018】
本発明において、導電性ポリマーを含有したセメントモルタルに電子供与剤を併用することは、さらに導電性を向上させることができるので好ましい。
電子供与剤としては、塩素、臭素、ヨウ素、及びこれらの化合物等のハロゲン類、五フッ化リン、五フッ化ヒ素、及び五フッ化アンチモンなどのルイス酸が挙げられる。
また、導電性をさらに向上させるためにはカーボンブラックを併用することも可能である。
【0019】
本発明では、吸水ポリマーのゲル化を促進させるために、ゲル化剤を施工性や性能に影響を与えない範囲で使用することも可能である。
ゲル化剤とは、吸水ポリマーの一部を水に溶けないゲルにする作用を示すものであり、例えば、モンモリロナイト、ビーテライト、ヘクトライト、ノントロナイト、サポナイト、カオリン、アタパルジャイト、セピオライト、及びパリゴスカイトなどの粘土鉱物、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アルミニウムカリウム明礬や鉄明礬等の明礬、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び硝酸アルミニウムなどの水溶性アルミニウム塩、酢酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、及び硝酸鉄等の水溶性鉄塩、酢酸マンガン、塩化マンガン、及び硫酸マンガンなどの水溶性マンガン塩、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、及び硫酸亜鉛等の水溶性亜鉛塩、並びに、酢酸マグネシウムや酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の酸化物が挙げられ、そのうち、粘土鉱物や、酢酸カルシウム、酢酸アルミニウム、及び酢酸マグネシウムが好ましい。
ゲル化剤の使用量は、吸水ポリマー100部に対して、粘土鉱物の場合は、5〜300部が好ましく、10〜20部がより好ましい。5部未満ではゲル化の効果が小さい場合があり、300部を超えるとセメントモルタルの流動性が低下する場合がある。
また、ゲル化剤が粘土鉱物以外の場合は、吸水ポリマー100部に対して、0.1〜20部が好ましく、0.5〜10部がより好ましい。0.1部未満ではゲル化させる効果が小さく、10部を超えるとゲル化能力が高くなりすぎセメントモルタルの流動性が低下する場合がある。
【0020】
本発明のセメントモルタルには品質に悪影響を与えない範囲で、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、高性能AE減水剤、分離低減剤、発泡剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、防水剤、及び抗菌剤等の各種添加剤を併用することが可能である。
また、急硬性を付与するカルシウムアルミネート類やそれとセッコウとの混合物を併用することも可能である。
【0021】
本発明のセメント組成物は、水と混合し、骨材を含まないペーストとして使用することもでき、骨材を含むモルタルやコンクリートとして使用することも可能である。
【0022】
本発明のセメント組成物の施工方法は、ミキサーで練り混ぜたセメントモルタルをコテで塗ってもよく、型枠を作りその内部に充填してもよく、圧縮空気を用いてセメントモルタルを吹き飛ばす吹付けで施工することも可能である。
【実施例】
【0023】
実験例1
セメント100部に対して、骨材200部、吸水ポリマー0.5部、及び表1に示す導電性ポリマーを加え、さらに水をセメント100部に対して、55部となるように加え、モルタルを調製し、導電性試験を行った。結果を表1に併記する。
【0024】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、市販品
細骨材 :新潟県青海町産石灰砂乾燥品、最大粒径1.2mm
吸水ポリマー:アクリル酸ナトリウム−ビニルアルコール共重合体、市販品
導電性ポリマーA:ポリエチレンオキシジオキシチオフェン水分散液、固形分1.2%、市販品
導電性ポリマーB:ポリピロール、市販品
【0025】
<測定方法>
抵抗率 :導電性試験、練り混ぜたモルタルを4×4×16cmに成形し、その中にアルミニウム製の電極を埋め込んだ後、28日間、温度20℃、湿度60%で養生して試験体とし、インピーダンス測定装置を用いて材齢28日の試験体の抵抗率を、抵抗率(Ω・cm)=(抵抗×電極面積)/電極間距離の式から算出
【0026】
【表1】

【0027】
実験例2
セメント100部に対して、骨材200部、導電性ポリマーA0.5部、及び表2に示す吸水ポリマーを加え、さらに、セメント100部に対して、水を55部となるように加え、モルタルを調製し、フロー試験、ひび割れ抵抗性試験、及び導電性試験を行った。結果を表2に併記する。
【0028】
<測定方法>
フロー :フロー試験、JIS R 5201に準拠
ひび割れ :ひび割れ抵抗性、横30cm×縦30cm×厚さ6cmのコンクリート製平板に厚さ1cmとなるようにモルタルを打設し、温度20℃、湿度40%の恒温恒湿室に3ヶ月間保管したときのひび割れの有無を確認
【0029】
【表2】

【0030】
実験例3
セメント100部に対して、骨材200部、導電性ポリマーA0.5部、吸水ポリマー0.5部、及び吸水ポリマー100部に対して、表3に示すゲル化剤を加え、さらに、セメント100部に対して、水を55部となるように加え、モルタルを調製し、フロー試験、ひび割れ抵抗性試験、及び導電性試験を行った。結果を表3に併記する。
【0031】
<使用材料>
ゲル化剤a:ベントナイト、市販品
ゲル化剤b:酢酸カルシウム、市販品
【0032】
【表3】

【0033】
実験例4
実験No.1- 5のモルタル1m3に対して、表4に示す繊維を加え、ダレ性試験と導電性試験とを行った。結果を表4に併記する。
【0034】
<使用材料>
繊維イ :炭素繊維、繊維長6mm、繊維径0.2mm、非収束タイプ、市販品
繊維ロ :ビニロン繊維、繊維長6mm、繊維径0.026mm、収束タイプ、市販品
【0035】
<測定方法>
ダレ性 :ダレ性試験、下地をコンクリート製平板とし厚さ10mm×縦150mm×横250mmの型枠内にモルタルを塗り付け、コテ仕上げを行った後に、その枠を取りはずし、垂直に平板を立ててズレ落ちなければ可、ずり落ちれば不可とした。
【0036】
【表4】

【0037】
実験例5
実験No.1- 5のモルタル中のセメント100部に対して、表5に示す非導電性ポリマーを加え、遮塩性試験と導電性試験とを行った。結果を表5に併記する。
【0038】
<使用材料>
非導電性ポリマー:アクリルー酢酸ビニルーバーサチック酸ビニル系粉末ポリマー
【0039】
<測定方法>
塩分浸透深さ:遮塩性試験、JIS A 1171に準拠
【0040】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーと吸水性ポリマーとを含有してなるセメント混和材。
【請求項2】
繊維を含有してなる請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
非導電性ポリマーを含有してなる請求項1又は請求項2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
ゲル化剤を含有してなる請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載のセメント混和材。
【請求項5】
セメントと、請求項1〜請求項4のうちのいずれか1項に記載のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物。
【請求項6】
セメント、導電性ポリマー、及び吸水性ポリマーを含有してなるセメント組成物。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のセメント組成物を用いてなるセメントモルタル。

【公開番号】特開2006−273605(P2006−273605A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91169(P2005−91169)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】