説明

セメント用減水剤及び水硬性組成物

【課題】 高い減水性を有し、かつ凝結促進効果のある減水剤及び水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)1分子当り3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸化合物、(B)リグニンスルホン酸系減水剤及び(C)亜硝酸カルシウム及び/または硝酸カルシウムを含有するセメント用減水剤、並びに当該セメント用減水剤を含有する水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝結遅延を引き起こすことなく、高い減水性を示す水硬性組成物及びセメント用減水剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントモルタルやセメントコンクリートは、施工時の作業性を高めるためにその流動性を上げたり、軟度を高めたりする必要がある。そのためには水/セメント比を高くするのが簡単だが、硬化後の強度や耐久性が低下する。このような問題を回避し、高い作業性を確保するため、減水剤が使用されることが多い。
【0003】
減水剤は、セメント粒子に吸着し、電気的反発力や立体障害によりセメント粒子同士の凝集を妨げ、分散性を高めることにより流動性を向上させる。減水剤としては、ナフタレンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系等が知られている。その中でも、セメント粒子への吸着サイトであるカルボキシル基を分子中に多数有するポリカルボン酸系減水剤は特に減水効果が高い。一方、スルホン酸系減水剤は、減水効果はポリカルボン酸系減水剤よりも劣るが、セメントへの吸着力が高い。
【0004】
セメントの硬化は、セメント粒子よりカルシウムイオンが水相に溶け出し、過飽和に達すると水酸化カルシウムとして結晶が析出することによる。上述のようにポリカルボン酸系減水剤は高い減水性を示す反面、カルシウムイオンのキレート効果が高いため水酸化カルシウムの析出を妨げ、また立体障害のためセメント粒子の凝集遅延が著しく、セメント硬化が遅延する。その結果工期が伸びるという弊害を招く。
【0005】
凝結遅延防止のため、セメントに凝結促進剤を使用する方法が知られているが、凝結促進剤を配合すると減水性や流動性が低下する。また、ポリカルボン酸系減水剤の構造を改良したものも開示されているが(特許文献1)、必ずしも凝結遅延を解消できるものではない。打設直前にアルカリ金属の炭酸塩又は硫酸塩の添加により凝結を促進する方法(特許文献2)では、添加と同時に流動性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
ポリカルボン酸系減水剤を他の減水剤と併用する方法も知られている。例えば、ポリカルボン酸系減水剤をリグニンスルホン酸系減水剤及び有機酸塩と併用すると、高温時の減水効果を維持できることが報告されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平10−81549号公報
【特許文献2】特開2000−185958号公報
【特許文献3】特開2003−321264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法では、ポリカルボン酸系減水剤の温度依存性を改良できるにすぎず、減水性を高め、凝結時間を短縮できるものではなかった。
従って、本発明は、水/セメント比を低減して強度や耐久性の高い硬化体を得るべく、高い減水性を有し、かつ凝結を遅延しない又は凝結促進効果のあるセメント用減水剤、及び水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ポリカルボン酸化合物とリグニンスルホン酸系減水剤とを組み合わせ、更にこれに亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムを添加することにより、凝結遅延を引き起こすことなく、高い減水効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)1分子当り3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸化合物、(B)リグニンスルホン酸系減水剤及び(C)亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムを含有するセメント用減水剤を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記セメント用減水剤及び(D)セメントを含有する水硬性組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント用減水剤は、水硬性組成物に凝結遅延を引き起こすことなく、高い減水効果を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する(A)ポリカルボン酸化合物としては、官能基としてカルボキシル基を1分子当り3以上有し、かつ水に溶解又は均一に分散し得る化合物であれば特に限定されない。その性状も粉末、液体を問わない。当該ポリカルボン酸化合物としては、例えば後述するポリカルボン酸系セメント用減水剤、オリゴカルボン酸化合物、アクリルエマルション等が挙げられ、またエマルションとして水中で安定するようにカルボキシル基を導入するよう変性したスチレンブタジエンラテックスも好適に使用できる。アクリルエマルションは、オールアクリル重合体の他、スチレン・アクリル共重合体やメチルメタクリレート等との共重合体でもよく、セメント組成物に流動性を付与するため、重合時に副生したオリゴカルボン酸をエマルションから除去していないものが好ましい。ポリカルボン酸化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
水硬性組成物中のポリカルボン酸化合物の配合量は、セメント100重量部に対し、固形分換算で0.05〜50重量部が好ましく、0.05〜35重量部が特に好ましい。0.05重量部未満では減水効果がほとんど認められず、50重量部を超えると粘性が増加し、流動性が著しく低下する。
【0014】
ポリカルボン酸系減水剤としては、ポリアルキレングリコール等をグラフト鎖とし、3以上のカルボキシル基を有する櫛型高分子化合物を主成分とするものであって、減水効果を示すものであれば特に限定されない。例えば、特開2000−247716号公報、特開平11−310444号公報等に記載のポリカルボン酸系減水剤が使用できる。ポリカルボン酸系減水剤としては、高性能減水剤(例えば、NF−100:太平洋マテリアル社製)、高性能AE減水剤等の高機能減水剤も使用できる。その性状も粉末状、液体状の何れでもよい。
【0015】
ポリカルボン酸系減水剤を、ポリカルボン酸系減水剤を除く他のポリカルボン酸化合物と併用する場合には、ポリカルボン酸系減水剤の配合量は、セメント100重量部に対し好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.05〜1重量部である。0.05重量部未満では減水効果がほとんど認められず、5重量部を超えると粘性が増加し、流動性が著しく低下する。
【0016】
本発明で用いる(B)リグニンスルホン酸系減水剤としては、セメント用として通常使用されているものであれば特に制限されない。その性状も粉末、液体を問わない。リグニンスルホン酸系減水剤は、水溶性塩又は水中で分散し得る塩を形成していてもよい。当該塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;有機アミン塩などが挙げられる。リグニンスルホン酸系減水剤としては、高性能減水剤(例えば、ポゾリスNo.8:デグサコンストラクションシステムズ社製)、高性能AE減水剤等の高機能減水剤も使用でき、単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
水硬性組成物中のリグニンスルホン酸系減水剤の配合量は、セメント100重量部に対し、好ましくは0.02〜5重量部、特に好ましくは0.05〜1重量部である。0.02重量部未満では減水効果がほとんど認められず、5重量部を超えると流動性が低下する。
【0018】
本発明で用いる(C)亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムは、無水物、水和物、水溶液のいずれの形態でもよい。成分(C)の添加により水硬性組成物中のカルシウムイオン濃度が高まり、単にポリカルボン酸化合物とリグニンスルホン酸系減水剤を併用した場合に比較し、減水効果を更に向上させることができる。また、カルシウムイオン濃度が高まると、過飽和が進み、水酸化カルシウムが生成し易くなり、凝結遅延が生じ難くなる。
【0019】
水硬性組成物中の亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムの配合量は、セメント100重量部に対し、好ましくは0.1〜15重量部、特に好ましくは0.5〜10重量部である。0.1重量部未満では減水剤との相互作用が低く、15重量部を超えると凝結促進効果が強すぎる。
【0020】
本発明で用いる(D)セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等のポルトランドセメント;エコセメント(普通型)、微粒子セメント、超微粒子セメント、アルミナセメント;高炉スラグ、フライアッシュセメント等との混合セメント又はこれらの混合物が挙げられる。混合セメントの一部を石灰石粉末又はシリカフュームで置換したセメント、混合セメントに石膏を添加したセメント等も使用できる。
【0021】
本発明の水硬性組成物には、更にセルロース短繊維を配合することができる。セルロース短繊維を配合すると、施工要求の可能性があるあらゆる温度環境に対して、顕著な材料分離抑制効果を発現させることができる。セルロース短繊維としては、例えば木材より抽出したパルプ等より精製したセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維などが挙げられ、これらのセルロース繊維には、ヘミセルロース、リグニン等が混入していてもよい。セルロース短繊維の繊維長は15〜2000μm程度が好ましく、繊維径は10〜50μm程度が好ましい。当該繊維長、当該繊維径を有するセルロース短繊維から目的に合わせたセルロース短繊維を選択すればよい。
【0022】
水硬性組成物中のセルロース短繊維の配合量は、セメント100重量部に対し、好ましくは0.05〜5重量部、特に0.08〜1重量部が好ましい。0.05重量部未満では配合効果が乏しく、5重量部を超えると流動性が著しく低下する。
【0023】
本発明で用いる(C)亜硝酸カルシウム及び硝酸カルシウムはいずれも、上記セルロース短繊維と併用しても、水硬性組成物の粘性が高くなることがなく、高い流動性を保持することができる。一方、特許文献3に記載の有機酸カルシウム塩をセルロース短繊維と併用すると、一般に水硬性組成物の粘性が極めて高くなり、流動性が低下する。
【0024】
本発明の水硬性組成物には、必要に応じて、水硬性成分として高炉スラグ、転炉スラグ、脱リンスラグ、脱ケイスラグ、脱硫スラグ等の各種スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフューム、粘土鉱物等の潜在水硬性物質などを添加してもよい。更に、粗骨材、細骨材、軽量骨材、スラグ骨材などの骨材、骨材微粉、増粘剤、膨張材、収縮低減剤、防錆剤、顔料、有機ポリマーエマルションなども添加できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例及び比較例に使用した材料は以下の通りである。
【0026】
[使用材料]
A1:アクリルエマルション(A−1660:固形分45%、旭化成ケミカルズ社製)
A2:ポリカルボン酸系高性能減水剤(NF−100、太平洋マテリアル社製)
B:リグニンスルホン酸系減水剤(ポゾリスNo.8、デグサコンストラクションシステムズ社製)
C1:亜硝酸カルシウム(CANI30(30%水溶液)、日産化学工業社製)
C2:硝酸カルシウム(関東化学社製、一級試薬、4水和物として添加)
D:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
E:骨材(山形県産珪砂;FM1.8)
【0027】
実施例1〜6、比較例1〜12
上記A〜Eの材料及び水を表1(実施例)及び2(比較例)に示す重量比となるように
ステンレス製容器に一括投入し、ハンドミキサを用い20℃で2分間混練した。
【0028】
混練後のモルタルを直径50mm、高さ50mmの円筒型コーンに流し込み、静かに引抜いた時のモルタルの広がり(直径)を測定し、引抜きフロー値とした。また、JIS R 5201附属書1に基いて凝結の終結時間を測定した。結果を表1及び2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1から明らかなように、本発明の水硬性組成物は、何れも引抜きフロー値が190mm以上の高い流動性を示し、凝結終結時間も6時間以下と短時間であった。
一方、表2から明らかなように、成分(A)、(C)を配合しない比較例1、成分(A)のみを配合した比較例2〜3では、いずれもフロー値が低く、凝結終結時間も8時間を超えた。成分(C)のみを配合した比較例4では、凝結終結時間は短縮されたものの、流動性が著しく低下した。成分(A)を配合しない比較例5、10〜11でも流動性が低く、成分(B)又は(C)のいずれかを配合しない比較例6〜9では、流動性が低いうえに、凝結終結時間も8時間以上であった。成分(B)を配合せず、成分(C)として亜硝酸カルシウム及び硝酸カルシウムの両方を添加した比較例12では、凝結終結時間は短縮されたものの、流動性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子当り3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸化合物、(B)リグニンスルホン酸系減水剤及び(C)亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムを含有するセメント用減水剤。
【請求項2】
請求項1記載のセメント用減水剤及び(D)セメントを含有する水硬性組成物。

【公開番号】特開2006−182614(P2006−182614A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379164(P2004−379164)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】