説明

セメント系硬化体の製造方法およびセメント系成形体の成形装置

【課題】 本発明の課題は、セメント系硬化体の湾曲面に明瞭な凹凸模様を容易に形成できるようにする。
【解決手段】 セメント系材料を、可撓性を有する敷板24の上に押出成形して、可撓敷板24に支持された可塑状態の予備成形板16を得る工程(a)と、予備成形板16の表面に凹凸意匠12をプレス成形する工程(b)と、予備成形板16を、可撓敷板24とともに、型面42が湾曲面状をなす湾曲成形型40に配置し、可撓敷板24および予備成形板16の自重によって湾曲成形型40に沿う湾曲板状に成形して、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系成形体10を得る工程(c)と、湾曲板状をなすセメント系成形体10を、可撓敷板24に支持した状態で養生硬化させて、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系硬化材を得る工程(d)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系硬化体の製造方法および成形装置に関し、詳しくは、セメント硬化板からなる建築用外壁面材などの成形硬化製品を製造する方法と、このような成形硬化性品の製造に用いるセメント系成形体を成形する装置とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁面材として、セメント硬化板を使用する技術が知られている。セメント硬化板を並べて外壁面を構築すれば、モルタルやコンクリートの現場施工で外壁面を構築するのに比べて、生産性良く、品質性能に優れ、外観意匠性も高い外壁を構築し易い。
セメント硬化板は、セメントなどの水硬性材料に必要に応じて繊維や樹脂その他の材料を加え、さらに水を加えて混練した成形材料を、成形型に流し込んだり、押出成形したりすることで、所望の外形状に成形し、自然に乾燥硬化させたり、蒸気養生などで強制硬化させたりすることで製造される。成形型の型面に凹凸模様を形成しておけば、表面に凹凸模様を有する意匠性の高いセメント硬化板を製造することもできる。
【0003】
表面に凹凸模様を有するセメント硬化板の製造方法として、セメント材料を平坦な板状に成形し、この可撓性のあるセメント成形板の表面に凹凸模様を成形し、その後、養生硬化させる技術が知られている。凹凸模様の成形は、凹凸模様を有するエンボスロールをセメント成形板の表面に押し付けながら転動させたり、凹凸模様を有するプレス型を押し当てたりする。
さらに、セメント成形板の平坦な表面だけではなく、異なる角度で交差する複数の面や湾曲面に凹凸模様を形成する技術も提案されている。
特許文献1には、平板状の押出成形品の表面にエンボスロールで凹凸模様を成形し、裏面に折り曲げ用凹条を切り欠いたあと、折り曲げ用凸条で押出成形品を折り曲げ、所定の立体形状を有するトレイに沿わせることで、押出成形品の屈曲面や湾曲面に凹凸模様を形成する技術が示されている。
【特許文献1】特開平5−131422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した特許文献1の技術では、凹凸模様が形成された押出成形品の裏面に折り曲げ用凹条を加工しなければならない。柔らかい状態の押出成形品を裏返すのは難しく、押出成形品を平坦に支持したままで裏面に加工を施すことは難しい。
押出成形品を折り曲げて所定形状になれば、折り曲げ用凹条は閉じた状態になるが、それでも、折り曲げ用凹条の部分には切れ目が残っている。この切れ目の部分は、強度的に脆弱になり易い。
さらに、エンボスロールで凹凸模様を形成する場合、長手方向に連続する溝状あるいは突起線状の凹凸模様は成形し易いが、長手方向で断続する凹凸は形成し難い。エンボスロールの円筒面が押出成形品の水平表面を転動しながら凹凸模様を成形するので、押し出し成形品の表面に形成される凹凸模様の側面が、正確な垂直面にならなかったり、側面の上端が欠けたり歪んだりすることが避け難いのである。
【0005】
本発明の課題は、前記した従来技術では得られ難い、セメント系成形体の湾曲面に明瞭な凹凸模様を容易に形成できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるセメント系硬化体の製造方法は、セメント系材料からセメント系成形体を成形し養生硬化させてセメント系硬化体を製造する方法であって、前記セメント系材料を、可撓性を有する敷板の上に押出成形して、可撓敷板に支持された可塑状態の予備成形板を得る工程(a)と、前記予備成形板の表面に凹凸意匠をプレス成形する工程(b)と、前記予備成形板を、前記可撓敷板とともに、表面が湾曲面状をなす湾曲成形型に配置し、可撓敷板および予備成形板の自重によって湾曲成形型に沿う湾曲板状に成形して、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系成形体を得る工程(c)と、前記湾曲板状をなすセメント系成形体を、前記可撓敷板に支持した状態で養生硬化させて、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系硬化体を得る工程(d)とを含む。
【0007】
〔セメント系材料〕
セメント系成形体の主材料となるセメント系材料は、通常のセメント系硬化製品と同様の材料や配合、製造技術が適用できる。
油性物質と水とのW/Oエマルジョンおよびセメントを含むものが好ましい。油性物質として重合性の油性物質が好ましい。
具体的には、例えば、前記特許文献1(特開平5−246747号公報)や特開2002−47040号公報に記載の技術が適用できる。
後述する湾曲成形における自重による変形が良好に行える性状を備えたセメント系成形体が得られるように、各材料の選択および製造条件を設定することが望ましい。
【0008】
<セメント>
セメント系硬化体の基本的な機械的強度などの特性を決める材料である。通常のセメント材料が使用できる。例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメントなどが挙げられる。複数種類のセメントを併用することもできる。
セメント系材料中(水を含めたセメント系材料の全量中)に、10〜40体積%を配合しておくことができる。好ましくは、15〜30体積%である。
<重合性の油性物質>
水とW/Oエマルジョンを形成できる油性物質の中で、重合性の物質が使用される。重合性の油性物質は、養生硬化工程において重合反応により重合し、水和硬化するセメントとともにセメント系硬化体の骨格構造を構築する。セメント系硬化体の骨格構造が良好に構築されることで、養生硬化に伴う寸法収縮が起こり難くなる。
【0009】
油性物質としては、疎水性の液状物質が、水とW/Oエマルジョンを形成し易い。
重合性の油性物質の具体例として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)が有用である。重合性二重結合を有する油性物質の重合反応とセメントの水和反応とが同時に良好に進行して、前記したセメント系硬化体の骨格構造が良好に形成される。
油性物質の重合体が、前記セメントとともに、セメント系硬化体の骨格構造を構築し、基本的な特性を決めることになる。セメント系硬化体の物理的特性や表面性状などを改善する機能を果たす。セメント系硬化体の用途や要求性能、使用する油性物質の種類によっても異なるが、通常、セメント系材料中に、4〜10体積%を配合しておくことができる。好ましくは、5〜7体積%である。
【0010】
重合性の油性物質の重合反応を促進させるために、重合性の油性物質とともに、有機過酸化物や過硫酸塩等からなる重合開始剤を併用することができる。
<W/Oエマルジョン>
W/Oエマルジョンは、油中水滴型エマルジョンとも呼ばれ、油性物質の連続相に微細な水粒子が分散している状態である。
このようなW/Oエマルジョンが構成されるように、水および重合性の油性物質を配合し、撹拌混合することで、目的のW/Oエマルジョンが得られる。
油性物質として、前記した重合性の油性物質以外の油性物質を配合しておくことができる。水に加えて、他の液体あるいは固体粒子を配合しておくこともできる。セメントは、微細な固体粒子として、W/Oエマルジョン中に分散させておくことができる。
【0011】
W/Oエマルジョンを調製したあと、セメントなどの他の材料を混合することもできるし、水および油性物質に加えて他の材料も混合した状態で、エマルジョン化処理を行うこともできる。
<乳化剤>
W/Oエマルジョンの形成を促進させるために、乳化剤を配合しておくことが有効である。
乳化剤としては、通常のエマルジョン技術において使用されている乳化剤が使用できる。油性物質と水とのW/Oエマルジョン形成に有効で、セメント系材料の成形や養生硬化に悪影響を与え難く、セメント系硬化体の品質性能を損なわない材料が好ましい。
【0012】
乳化剤の具体例として、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
乳化剤の使用量は、油性物質と水との配合割合や要求性能によっても異なるが、通常、セメント系材料における水と固形分との総量に対して1〜3体積%の範囲に設定できる。
<補強材>
セメント系硬化体の機械的強度などの物理的特性を向上させるのに有用である。
【0013】
通常のセメント系硬化体の製造に利用されている各種の補強材が使用できる。具体的には、いわゆるセメント用の骨材として知られている材料がある。補強繊維として知られている材料がある。補強繊維として、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどがある。砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどの無機粒子も使用される。多孔質状あるいは中空状の無機粒子もある。
これらの補強材は、セメント系材料の全量に対して0.5〜10体積%程度で配合できる。
【0014】
<その他の材料>
通常のセメント系硬化体の製造に利用される添加材料を組み合わせることができる。例えば、着色剤などが挙げられる。
<セメント系材料の調製>
基本的には、以上に説明したセメント系材料を構成する各材料を均一に撹拌混合すればよい。各材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えてさらに撹拌混合することもできる。
水と油性物質とのW/Oエマルジョンが良好に形成されるように、製造装置、製造条件を設定することが望ましい。
【0015】
攪拌装置として、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が使用できる。
W/Oエマルジョンにセメントや補強材が配合されたりして粘性が増大した材料は、混練装置で混練することが有効である。連続混練装置として、連続ニーダー、二軸押出機等が使用できる。
〔押出成形〕
基本的には、通常のセメント系材料に対する押出成形技術が適用される。
【0016】
押出成形装置に供給されたセメント系材料を押出ダイから、可撓性を有する敷板の上に押し出すことで、押出ダイのダイ形状に対応する予備成形板が、可撓敷板に支持された状態で得られる。セメント系材料の押出成形を断続的に行ったり、連続的に押出成形して得られた帯状の予備成形板を所定寸法毎に裁断したりすることで、所定の寸法形状の予備成形板が得られる。押出成形された段階の予備成形板は、可塑状態であり、容易に変形する。可撓敷板に支持しておくことで、予備成形板の取り扱いが容易になる。
<予備成形板の形状>
予備成形板の形状は、例えば、矩形状の押出ダイで押出成形される矩形厚板状のものが一般的である。押出ダイの細部形状を変えることで、矩形厚板に長さ方向の凹溝や凸条を有するものなども形成できる。
【0017】
例えば、建築用の外装板に用いるセメント系硬化体を製造する場合、厚さ1〜5cm、長さ90〜380cm、幅30〜100cmの矩形板状をなす予備成形板を形成することができる。好ましくは、厚さ2〜5cm、長さ240〜360cm、幅45〜100cmの矩形板状に設定できる。
<可撓敷板>
敷板の材料は、予備成形板を支持できるとともに、後述する湾曲成形における変形が可能な可撓性を有する材料を用いる。具体的には、薄鋼板が使用できる。メッキ鋼板が使用できる。鋼以外の金属、例えばアルミ、アルミ合金、銅、銅合金などの薄板も使用できる。合成樹脂板や強化樹脂板、木質板も使用できる。敷板の厚さは、材質、予備成形板の寸法形状、湾曲成形の程度などの条件によっても異なるが、通常、厚さ0.1〜0.4mmに設定できる。好ましくは、0.2〜0.3mmである。
【0018】
敷板の形状寸法は、予備成形板の大きさに合わせて設定される。予備成形板と同寸法か少し大きな程度である。
〔プレス成形〕
予備成形板の表面に凹凸意匠をプレス成形する。
基本的には、通常のセメント系成形体に対するプレス成形技術が適用できる。
プレス成形装置は、通常、一対の成形型と、成形型にプレス圧力を加えるプレス機構とを備えている。一対の成形型のうち、一方の成形型は固定されており、他方の成形型は可動になっている。通常は、可動成形型の型面に、セメント系成形体にプレス成形すべき凹凸形状に対応する凹凸形状が設けられる。したがって、可動成形型をプレス成形型と呼び、固定成形型を単に、押出成形体の支持盤あるいは支持台と呼ぶことがある。勿論、必要に応じて、固定成形型の型面にもプレス成形用の凹凸形状が設けられる場合がある。一般的なプレス成形装置では、固定成形型と可動成形型とを上下に配置する。
【0019】
上方の可動成形型、すなわち、下面に凹凸のある型面を備えたプレス成形型を押出成形された予備成形板の上方から押圧して、予備成形板の表面にプレス成形型の凹凸型面に対応する凹凸意匠をプレス成形し、表面に凹凸意匠を有する予備成形板を得る。なお、予備成形板は可撓敷板の上に載せられているので、下方の固定成形型による凹凸形状のプレス成形は基本的には行わない。可撓敷板の外側で予備成形板の端縁に継手構造を成形したりする場合は、固定成形型の型面に所定の凹凸形状を設けておく。
プレス成形型を押圧するプレス圧は、予備成形板の材料配合や最終的に製造されるセメント系硬化体の要求性能などによっても異なるが、通常、プレス圧0.5〜1.0MPaの範囲に設定できる。プレス圧が低過ぎると十分なプレス成形が行えない。
【0020】
プレス成形を終えて得られた予備成形板は、表面に成形型の型面形状に対応する凹凸意匠が形成されている。
〔凹凸意匠〕
セメント系成形体の表面に形成する凹凸意匠は、プレス成形によって形成できる形状であれば、特に限定されない。
予備成形板を押出成形する際に形成できる形状は、プレス成形で成形する凹凸意匠には含まれないが、予備成形板に有する形状にプレス成形で成形する形状が組み合わせられて凹凸意匠を構成する場合もある。
【0021】
凹凸意匠として、例えば、同じ幾何学的形状の凸部あるいは凹部が所定のパターンで多数配置されたものがある。凸部が平面矩形状で縦横に間隔をあけて配置されていれば、タイル仕上げ面やレンガ仕上げ面のような外観意匠を呈し、建築外装板に有用である。凸部を自然の岩肌や石材、レンガのような細かな凹凸のある形状にすることもできる。絵画や文字、記号などを表す凹凸形状であってもよい。凹凸意匠は、単に外観意匠を表現するだけではない。例えば、セメント系硬化体に別の部材を取りつけるための凹凸構造や、配線用の凹溝などを、凹凸意匠の一部として設けておくこともできる。
〔湾曲成形〕
予備成形板を、可撓敷板とともに、表面が湾曲面状をなす湾曲成形型に配置し、可撓敷板および予備成形板の自重によって湾曲成形型に沿う湾曲板状に成形して、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系成形体を得る。
【0022】
湾曲成形型は、前記したプレス成形型と同様の剛性材料で作製される。但し、プレス圧力は加わらないので、プレス成形型に比べて、機械的強度や耐変形性はそれほど要求されない。予備成形板および可撓敷板を支持した状態で形状を維持できればよい。湾曲面状の湾曲型面を作製するのが容易な加工性の良い材料が望ましい。湾局面成形型のうち、湾曲型面に相当する部分の具体的材料として、鋼材などの金属のほか、合成樹脂、繊維強化樹脂、木質材などが挙げられる。
湾曲成形型における湾曲面状とは、円筒のような滑らかな曲面で構成されていることを意味する。複数の平面が滑らかな曲面でつながっている場合も含まれる。なお、可撓敷板が変形可能な湾曲形状である必要がある。通常、可撓敷板は縦横の1方向に湾曲できるだけで、縦横両方向に湾曲させるのは困難である。湾曲型面も1方向に湾曲する形状に形成される。凸方向の湾曲であっても、凹方向の湾曲であっても良い。凸方向の湾曲と凹方向との湾曲が組み合わせられていてもよい。
【0023】
湾曲型面として、曲率半径R=50〜200cmの円周面が採用できる。このような円周面の両側に平面部分を組み合わせれば、角部が湾曲した屈曲板状の湾曲成形が可能になる。曲率半径の異なる湾曲面を組み合わせて湾曲型面を構成することもできる。
湾曲型面には、予備成形板の端縁が配置される個所に、予備成形板あるいは可撓敷板の位置決めを行う内周壁を設けておくことができる。内周壁によって予備成形板の端縁形状を成形することもできる。
予備成形板および可撓敷板は、自重によって、湾曲成形型に沿う湾曲板状に成形される。自重による変形が可能なように、湾曲成形型の湾曲型面の上に配置された予備成形板および可撓敷板の支持を解除する。予備成形板および可撓敷板の姿勢や位置がずれないように案内する部材や手段を設けることができる。前記した内周壁も案内手段の一つとなる。
【0024】
予備成形板の表面に有する凹凸意匠は、予備成形板の湾曲成形に伴って、姿勢を変えたり一部の形状が変形したりするが、基本的な形状は保持する。その結果、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系成形体が得られる。
湾曲成形の処理時間は、予備成形板および可撓敷板が自重による変形を行い、その変形状態が安定する程度に設定する。予備成形板の材料や構造、変形の程度などの条件によっても異なる。後工程である養生硬化工程への移送時間、および、養生硬化工程で予備成形板が硬化進行するまでの時間も、湾曲成形における保持時間に含まれる。予備成形板および可撓敷板を湾曲成形型で保持しておく全工程における合計時間を、24時間以上に設定できる。
【0025】
湾曲成形が良好に行われるように、湾曲成形を開始する時点における予備成形板の可撓性あるいは変形特性を適切に設定しておくことが望ましい。例えば、アスカー硬度10〜60、好ましくは20〜40であるものが使用できる。このような変形特性は、セメント系成形材料の組成配合、押出成形条件などによって調整できる。
〔セメント系成形体の養生硬化〕
湾曲成形されたセメント系成形体を、可撓敷板に支持した状態で養生硬化させることで、セメント系硬化体が得られる。
基本的には、通常のセメント系硬化体の製造技術における養生硬化装置、養生硬化条件が適用される。例えば、蒸気養生、オートクレーブ養生などが採用される。
【0026】
養生条件は、セメント系材料の配合やセメント系硬化体に要求される性能などによっても異なるが、通常、40〜100℃で20〜48時間の範囲に設定される。養生工程の途中で、温度を段階的あるいは連続的に変えることもできる。
セメント系成形体および可撓敷板は、湾曲成形された形状を保持したままで養生硬化に供給し、養生硬化の間も、その湾曲形状を保持させておく。湾曲成形型にセメント系成形体および可撓敷板を支持したままで、湾曲成形型ごと養生硬化を行えばよい。この場合、湾曲成形型は、養生硬化時の加熱や雰囲気に耐える材料で作製しておけばよい。セメント系成形体および可撓敷板を、湾曲成形型と同様の表面湾曲形状を有する養生支持部材に移し変えて、養生硬化を行うこともできる。この場合の養生支持部材は、湾曲型面と同じ湾曲面状であってもよいし、可撓敷板の湾曲形状が変わらない範囲で部分的に支持する程度であってもよい。湾曲成形型のうち、セメント系成形体および可撓敷板を支持する湾曲型面を含む一部の部材を、湾曲成形型の本体から分離して養生支持部材に用いることもできる。
【0027】
〔セメント系硬化体〕
セメント系成形体の養生硬化が終了すれば、セメント系硬化体が得られる。
セメント系硬化体は、押出成形、凹凸意匠のプレス成形、および、湾曲成形によって成形された外形状を有している。湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するものである。建築用の外装板などとして利用される。
必要であれば、セメント系硬化体にさらに別の加工処理を加えることもできる。例えば、表面に塗装を施したり、取付用の孔や溝を加工したり、別の金具などを取り付けたりすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかるセメント系成形体の製造方法は、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系硬化体が、簡単に生産性良く製造でき、しかも、表面の凹凸意匠が明瞭でし上がりが良好である。
従来の押出成形あるいはプレス成形では、複雑な成形型を作製する必要があったり、明瞭な凹凸意匠が形成できなかったり、型開きの際に凹凸意匠が形崩れしてしまったり、凹凸意匠の設計に大きな制約を受けたりしたのに対し、本発明では、凹凸意匠を形成するプレス成形は、通常の平坦なセメント系成形体への凹凸意匠のプレス成形技術がそのまま適用できる。成形に伴う制約を受けずに、バラエティに富んだ複雑な凹凸意匠や細かな凹凸意匠を形成することができる。
【0029】
凹凸意匠の成形後に行う湾曲成形は、比較的に単純な湾曲面状をなす湾曲成形型を使用するだけなので、湾曲成形型の作製は容易であり、製造コストも高くつくことはない。
湾曲成形型の湾曲形状を変更するだけで、異なる湾曲面に凹凸意匠が形成されたセメント系成形体を容易に得ることができる。また、湾曲形状は同じで凹凸意匠を設計変更する場合は、プレス成形型の凹凸意匠を変更するだけで、湾曲成形型は全く変える必要がない。
従来、プレス成形だけで湾曲形状と凹凸意匠の両方を同時に成形しようとする場合は、異なる湾曲形状および凹凸意匠毎に、新たなプレス成形型を製造する必要があり、極めて高いコストがかかっていた。本発明では、プレス成形型だけ、あるいは、湾曲成形型だけを作り変えればよいので、設計変更の手間およびコストが大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1〜図3に示す実施形態は、セメント系硬化体の製造工程を段階的に示している。
〔予備成形板の押出成形〕
図1に示すように、ベルトコンベアの走行面などからなる支持台22に、厚み0.22mmで長さ320cm×幅90cmの薄鋼板からなる可撓敷板24を配置した状態で、押出成形装置20に備えた、横長の矩形状をなす押出ダイ21から可撓敷板24の上に、混練状態のセメント系材料を押出成形する。押出ダイ21に対して、可撓敷板24は水平方向に走行移動させる。押出成形された予備成形板16は、断面横長の矩形で長さ方向につづく厚板状をなすものとなる。予備成形板16は、可撓敷板24の端部近くで切断され、平面形が矩形の予備成形板16が得られる。予備成形板16の表面は平坦である。
【0031】
〔凹凸意匠のプレス成形〕
図2(a)に示すように、矩形厚板状をなす予備成形板16を、可撓敷板24とともに、プレス成形装置30に備えられた、表面が平坦な支持盤32の上に配置する。この支持盤32は、押出成形の際における可撓敷板24の支持台22と兼用することもできる。押出成形工程からプレス成形装置30への搬送は、予備成形板16を載せた可撓敷板24が、湾曲したり屈曲したりしないように平坦に支持した状態で行う。具体的には、例えば、可撓敷板24を支持したベルトコンベアの走行経路に、押出成形装置20およびプレス成形装置30を順次設置しておけばよい。前記支持台22と支持盤32とが兼用されていれば、支持台22(支持盤32)に載せた可撓敷板24および予備成形板16を移送する。
【0032】
支持盤32の上方で昇降動作するプレス成形装置30すなわち可動成形型には、下面に樹脂型34が設けられている。樹脂型34の下面には、凹凸状の型面が形成されている。この樹脂型34だけを取り換えれば、凹凸形状の異なる型面が容易に構成できる。
図2(b)に示すように、プレス成形装置30および樹脂型34を下降させて、平坦な予備成形板16の上面に樹脂型34を当接させ、下方へと押圧し、可塑性を有する予備成形板16をプレス成形する。
予備成形板16の表面には、樹脂型34の凹凸形状に対応する凹凸意匠12が形成される。具体的には、矩形台状の凸部が縦横に間隔をあけて配置され、矩形台状凸部の間に格子状の谷溝が設けられる。小さなタイル状の凹凸模様がモザイク状に配置された形態を有している。
【0033】
〔湾曲成形〕
図3に示すように、表面に凹凸意匠12が形成された予備成形板16を、可撓敷板24とともに、湾曲成形型40に装着する。
湾曲成形型40は、鋼材などで構築された剛体状をなす。湾曲成形型40の上面には、上に凸になった円周面状の湾曲型面42を有する。図3(b)に示すように、湾曲型面42は曲率半径R=103cmで、挟角θ=45°の円弧面状をなす。湾曲型面42の両側辺には、湾曲型面42から半径方向に立ち上がる内周壁44を有する。
図3(a)に示すように、予備成形板16および可撓敷板24は、湾曲型面42の中央上端に当接する。この状態で、可撓敷板24の支持を解除する。予備成形板16および可撓敷板24には重力が加わっているので、湾曲型面42で支持されていない可撓敷板24および予備成形板16の両側部分が、自重によって下方へ垂れ下がるように変形する。
【0034】
図3(b)に示すように、可撓敷板24が、湾曲型面42に沿って湾曲して全面で当接する状態になる。可撓敷板24および予備成形板16は、湾曲型面42に沿う湾曲板状に成形され、セメント系成形体10が得られる。可撓敷板24およびセメント系成形体10の両側端は、湾曲型面42の両側端に有する内周壁44、44で位置決めされる。
このとき、セメント系成形体10の表面に形成された凹凸意匠12は、セメント系成形体10の湾曲にしたがって、それぞれの位置の凹凸意匠12が少しずつ変形したり姿勢を変えたりする。セメント系成形体10は、円周方向に均等に湾曲するように変形しているので、各部分の凹凸意匠12も偏りなく均等に少しずつ変形する。図3(b)では、凹凸意匠12を構成する個々の矩形台状の凸部が、少しずつ姿勢を変えた状態で円弧面上に並んだ状態になる。
【0035】
〔養生硬化〕
セメント系成形体10は、養生硬化させることでセメント系硬化体となる。
図3(b)に示すように、湾曲成形型40に可撓敷板24およびセメント系成形体10を湾曲状態で支持したままで、湾曲成形型40を養生処理室に搬入し、養生処理を行うことができる。このようにすれば、セメント系成形体10の取り扱い中に変形したり過剰な負荷が加わったりすることなく、湾曲成形型40の湾曲形状通りの正確な湾曲形状を備えたセメント系硬化体を得ることができる。
セメント系成形体10を、湾曲成形型40に支持させた状態で、予め、可塑性あるいは変形性を失う程度まで乾燥させたり、自然養生したりしたあと、湾曲成形型40からセメント系成形体10を取り外して、養生処理室に搬入することもできる。この場合、可撓敷板24がなくても形状保持が可能な程度まで、セメント系成形体10を乾燥硬化させておくこともできる。
【0036】
可撓敷板24およびセメント系成形体10を、湾曲成形型40から取り外し、別の搬送台に載せた状態で養生処理室に送ることもできる。この場合の搬送台は、湾曲成形型40の湾曲型面42と同様の湾曲面であれば好ましい。可撓敷板24の適宜個所を部分的に支持できる程度の簡単な構造の支持台あるいは支持枠であっても構わない。
〔セメント系硬化体の使用〕
図4は、養生硬化が終了して得られたセメント系硬化体Pの施工状態を示している。
セメント系硬化体Pは、全体が円弧状に湾曲した湾曲板状をなすとともに、表面には凹凸意匠12が縦横に整然と並んで明確に形成されている。
【0037】
住宅等の建築物の外壁施工において、外壁の角部分などにセメント系硬化体Pを施工すれば、滑らかな湾曲面に明確で均等な凹凸意匠12が配置された美麗な仕上がりが得られる。
なお、外壁の平面部分は、平坦板状のセメント系硬化体Pが使用されている。このセメント系硬化体Pは、図1から図2の工程で作製される、表面に凹凸意匠12が形成された平坦な予備成形板16を、そのまま養生硬化させることで、製造することができる。
このように、基本的な製造工程を共通させて製造された湾曲板状のセメント系硬化体Pと、平坦板状のセメント系硬化体Pとを組み合わせて、建築物の外壁施工を行えば、平面部分から湾曲部分へと、連続した滑らかな凹凸意匠12がつづく、外観意匠性が極めて優れた仕上がりを、容易に得ることができる。
【0038】
〔部分的な湾曲成形〕
図5に示す実施形態は、前記実施形態と湾曲成形の形態が少し異なる。
湾曲成形型40の湾曲型面42は、断面形状において、中央部分が曲率半径Rの円弧であるが、円弧の両側に直線部分を有している。全体が「へ」字形をなす。
湾曲成形型40で成形する予備成形板16は、前記実施形態の図1から図2の製造工程を経て得られたものである。全体が平坦で表面に凹凸意匠12を有し、可撓敷板24に支持されている。
予備成形板16を、前記実施形態と同様に、湾曲成形型40に配置すると、湾曲型面42にしたがって予備成形板16が湾曲成形される。得られたセメント系成形体10は、中央部分が曲率半径Rの湾曲部分とその両側に斜め下向きに延びる直線部分とを有する形状になる。
【0039】
このような形状に成形されたセメント系成形体10を養生硬化させて得られたセメント系硬化体Pは、建築物の外壁仕上げに使用される。施工状態において、外壁の角部から両側の平面部分の一部までを1枚のセメント系硬化体Pで構成することができる。外壁の平面部分と湾曲部分との間に継ぎ目が生じず、美麗な仕上がり外観が得られる。
〔凹形の湾曲成形〕
図6に示す実施形態は、基本的には、前記図3に示した湾曲成形と共通しているが、凹形の湾曲成形を行う点が異なる。
湾曲成形型40の湾曲型面42は、中央部分が凹んだ円弧状をなしている。湾曲型面42の両端の内周壁44は、垂直に立ち上がっている。
【0040】
平坦で表面に凹凸意匠12が形成された予備成形板16および可撓敷板24を、湾曲型面42に配置すると、予備成形板16および可撓敷板24は自重により中央部分が凹むように変形し、湾曲型面42に沿う円周面を構成するように成形されて、セメント系成形体10となる。
この形態のセメント系成形体10を養生硬化させれば、凹形の円周面に凹凸意匠12が形成されたセメント系硬化体Pが得られる。建築物の外壁面のうち入隅部分に施工したり、凹形に湾曲した壁面部分に施工したりすることができる。
通常のプレス成形では、凹形の曲面に凹凸意匠を形成することは、極めて難しい。成形型の型抜きができず、成形型を分割型にしたり中子型を用いたりしても、かなり難しい成形になる。しかし、この実施形態では、平坦で表面に凹凸意匠12が形成された予備成形板16をプレス成形しておくだけでよいので、簡単かつ能率的、経済的に、凹形の曲面に明瞭な凹凸意匠12が形成されたセメント系硬化体Pを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば、建築物の外壁仕上げに使用される外装板となるセメント系硬化体の製造に利用できる。湾曲面に凹凸意匠を備えた外観意匠性の高い外装板を、生産性良く製造することができ、商品価値の高い建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態となる製造方法のうち押出成形工程を示す断面図
【図2】凹凸意匠のプレス成形工程を段階的に示す断面図
【図3】湾曲成形工程を段階的に示す断面図
【図4】セメント系硬化体の使用状態を示す斜視図
【図5】別の実施形態における湾曲成形工程を示す断面図
【図6】別の実施形態における湾曲成形工程を示す断面図
【符号の説明】
【0043】
10 セメント系成形体
12 凹凸意匠
16 予備成形板
20 押出成形装置
21 押出ダイ
22 支持台
24 可撓敷板
30 プレス成形装置
32 支持盤
34 樹脂型
40 湾曲成形型
42 湾曲型面
44 内周壁
P セメント系硬化体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料からセメント系成形体を成形し養生硬化させてセメント系硬化体を製造する方法であって、
前記セメント系材料を、可撓性を有する敷板の上に押出成形して、可撓敷板に支持された可塑状態の予備成形板を得る工程(a)と、
前記予備成形板の表面に凹凸意匠をプレス成形する工程(b)と、
前記予備成形板を、前記可撓敷板とともに、表面が湾曲面状をなす湾曲成形型に配置し、可撓敷板および予備成形板の自重によって湾曲成形型に沿う湾曲板状に成形して、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系成形体を得る工程(c)と、
前記湾曲板状をなすセメント系成形体を、前記可撓敷板に支持した状態で養生硬化させて、湾曲板状をなし表面に凹凸意匠を有するセメント系硬化体を得る工程(d)と
を含むセメント系硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、厚さ1〜5cm、長さ90〜380cm、幅30〜100cmの矩形板状をなす予備成形板を、厚さ0.1〜0.4mmのメッキ鋼板からなる可塑性敷板の上に押出成形し、
前記工程(c)が、前記予備成形板を、曲率半径R=50〜200cmに湾曲させる
請求項1に記載のセメント系硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)が、前記予備成形板として、アスカー硬度10〜60であるものを前記湾曲成形型に配置する
請求項1または2に記載のセメント系硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1〜3の何れかに記載の製造方法に用いる湾曲成形型であって、
剛性材料からなり、
表面が湾曲面状をなす湾曲型面と、
前記湾曲型面の周縁に配置され前記予備成形板の端縁が配置される内周壁と
を備えるセメント系成形体の成形装置。
【請求項5】
前記湾曲型面が、曲率半径R=50〜200cmの円周面である
請求項4に記載のセメント系成形体の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−305774(P2006−305774A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128293(P2005−128293)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】