説明

セメント製品用膨張性混和材及びセメント組成物

【課題】 モルタルやコンクリート等のセメント製品の流動性を損なうことなく、所定の時間で所定の膨張量を確保し、且つ良好な強度発現をするセメント製品用膨張性混和材を提供すること。
【解決手段】 消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で0.15〜3.0重量部配合したセメント製品用膨張性混和材とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製品用の膨張性混和材及びそれを配合したセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生石灰の水和を遅延させる技術として、活性度の小さい生石灰を用い、且つ微粉部分を取り除いて粒度構成を調整する方法、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸やアスファルトなどの有機化合物で生石灰の表面を被覆する方法、さらには、硫酸塩、リン酸塩を添加し、生石灰の表面を硫酸カルシウム水和物、燐酸カルシウム水和物で被覆する方法等が報告されている。
【0003】
一方、生石灰と無水石膏を含んだセメント混和材や、セメント組成物も種々知られている。例えば特許文献1には、遊離石灰、アウイン、及び無水石膏とデキストリンとを含有してなるセメント混和材、及び該セメント混和材を配合したセメント組成物が開示されている。また、特許文献2には、4N塩酸消費量が70〜500mlでブレーン比表面積3000cm2/g以上の生石灰と、II型無水石膏とアルカリ金属塩を混合してなる膨張材が開示されている。さらに、特許文献3には、遊離生石灰を主要生成相とするクリンカ粉砕物と、ブレーン比表面積が前記クリンカ粉砕物の2.2倍以上の無水石膏を含有する膨張性材料が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−122649号公報
【特許文献2】特開2001−294460号公報
【特許文献3】特開2004−352534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セメント製品用の膨張性混和材に要求される性能は、モルタルやコンクリートの流動性を悪化させないこと、所定の時間で膨張が開始し、所定の膨張量が確保できること、強度発現に悪影響を及ぼさないことである。
【0006】
ここで、膨張性混和材には、一般的に硬焼きの活性度の小さい生石灰が用いられ、且つ粒度調整して使用される。しかし、この手法のみでは、生石灰の水和開始時間をコントロールするのは困難とされている。また、前記したように、高級脂肪酸、アスファルト、タール、パラフィン、ポリビニルアルコールなどの有機化合物で表面を被覆することで、生石灰の水和を抑制することは可能であるが、これらの有機化合物は、モルタルやコンクリートの混和材として使用したときのモルタルやコンクリートの品質に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、前記した特許文献2等には、Na2SO4、K2SO4、Al2(SO33などの硫酸塩やリン酸塩とCaOとの水和反応で、生石灰の水和を抑制できるとの報告もあるが、本発明者等の実験によれば、生石灰の水和を十分に抑制できないことを確認している。
【0007】
本発明は、上述した背景技術に鑑み成されたものであって、その目的は、モルタルやコンクリートの流動性を損なうことなく、所定の時間で所定の膨張量を確保し、且つ良好な強度発現をするセメント製品用膨張性混和材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明に係るセメント製品用膨張性混和材は、消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で0.15〜3.0重量部配合したセメント製品用膨張性混和材とした。
また、本発明に係るセメント製品用膨張性混和材は、消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部と、シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末5〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で0.15〜3.0重量部配合したセメント製品用膨張性混和材とした。
【発明の効果】
【0009】
上記した本発明に係るセメント製品用膨張性混和材を用いたモルタル或いはコンクリートは、流動性を損なうことなく、所定の時間で所定の膨張量を確保し、且つ良好な強度発現をする。したがって、例えば、コンクリートにおいては、ワーカビリティーが良好で、プレーンコンクリートに比ベて短時間で高強度を発現する。さらに、効果的な膨張によるケミカルプレストレスト効果で、高耐久性のコンクリート構造物やコンクリート製品が得られ、また収縮補償効果で、ひび割れの少ないコンクリート構造物やコンクリート製品の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、上記した本発明に係るセメント製品用膨張性混和材の実施の形態を、詳細に説明する。なお、本発明でいうセメント製品とは、セメント、モルタル、コンクリート及びこれらを用いた二次製品をいう。
上記した本発明に係るセメント製品用膨張性混和材は、消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、或いは消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部と、シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末5〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で0.15〜3.0重量部配合したものである。
【0011】
生石灰の消化上昇温度は、生石灰の水和活性を示す指標の一つであり、EN(ヨーロッパ規格)−459−2の反応性試験に準拠して測定できる。
本発明において使用する生石灰は、この消化上昇温度が10分間で30〜50℃、好ましくは35〜40℃である。
消化上昇温度が高いものは、水和活性が高く、水と接したときにすぐに水和発熱して膨張する。逆に低いものは、水和活性が低く、充分な膨張量を確保することができない。そのため、本発明では、上記したように消化上昇温度が特定の生石灰を使用することとし、またその許容し得る温度範囲も狭いものに限定し、該生石灰の水和を抑制するために添加する後に記述するスルホン酸のアルカリ金属塩等の添加により、所定の時間で所定の膨張量を確保し得るものとした。このように、特定の生石灰を使用することにより、スルホン酸のアルカリ金属塩の添加効果が効率良く得られるので、簡単に所定の時間で所定の膨張量を確保できる混和材を提供できる。
【0012】
また、生石灰の粒度も、水和開始と水和終了の時期を制御する上で重要であり、粗すぎるとコンクリートのポップアウトを引き起こし、細かすぎると水和を抑制することが難しくなる。
そこで、本発明において使用する生石灰は、300μmフルイが全通で、150μmフルイ残分が5%以下であることが好ましく、また、32μmフルイ残分が60%以上、さらには80%以上のものであることが好ましい。
【0013】
上記のような特定の水和活性及び粒度の生石灰は、石灰石もしくは副産される消石灰を、竪炉、シャフト炉、ロータリーキルン、電気炉等の焼成炉で、その焼成温度、焼成時間等を適度に制御することにより焼き、その後、ボールミル等の粉砕機により粉砕して製造できる。
【0014】
II型無水石膏には、天然無水石膏、フッ酸無水石膏、天然2水石膏や副産2水石膏、或いは廃石膏ボードから回収した2水石膏を焼成して製造したII型無水石膏等があるが、本発明では、II型無水石膏を90%以上含有しているII型無水石膏であれが、そのすべてが使用できる。また、粉末度は特に限定しないが、ブレーン比表面積で3000〜8000cm2/g、好ましくは4000〜6000cm2/gである。
【0015】
II型無水石膏の添加は、上記した生石灰の水和抑制に寄与する他、ポルトランドセメント中のC3Aと反応してエトリンガイトを生成し、膨張量を確保できるため、コンクリート等の初期強度の改善や高強度化が図れると共に、自己収縮や乾燥収縮の低減も図れることとなる。
【0016】
上記生石灰とII型無水石膏の配合割合は、生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対して、II型無水石膏20〜100重量部である。
II型無水石膏の添加量が20重量部に満たない場合は、生石灰の水和抑制効果、及びエトリンガイトの生成量が少なく、充分に所要の目的が達成できない。逆に、II型無水石膏の添加量が100重量部を超えると、生石灰による初期膨張量が十分確保できなくなる場合がある。
【0017】
本発明に係るセメント製品用膨張性混和材は、そのベース粉末として、上記した生石灰及びII型無水石膏に、シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末を、更に配合することができる。
これらを配合した場合には、生石灰の水和抑制の他、コンクリートの流動性改善と強度増進の点で好ましい。
【0018】
配合するシリカフュームとしては、特に限定しないが、JIS A 6207で規定されるものが好ましい。スラグ粉末及び石灰石粉末は、細かいほど初期強度発現が高くなるので好ましく、ブレーン比表面積が8,000cm2/g以上のものが最適である。スラグ粉末としては、高炉水滓スラグ粉末、都市ごみ焼却灰の溶融スラグ粉末、下水汚泥焼却灰の溶融スラグ粉末があり、特に限定しないが、高炉水滓スラグ粉末が好ましい。
【0019】
上記した粉末を配合する場合の割合は、生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対し、シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末5〜100重量部とする。
シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末の配合量が5重量部に満たない量では、初期強度改善等の効果が小さく、逆に100重量部を超えて配合すると、所定の膨張量を確保するためにはセメントに対する添加量を多くしなければならず、経済的でない。
【0020】
本発明においては、上記生石灰の水和抑制剤として、スルホン酸のアルカリ金属塩を配合することを必須とする。
本発明で使用する上記スルホン酸のアルカリ金属塩としては、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、メラミンスルホン酸、ポリアルキルスルホン酸などの各スルホン酸のアルカリ金属塩を挙げることができ、また、アルカリ金属としては、ナトリウム、カルシウム等を挙げることができる。これらのスルホン酸のアルカリ金属塩には、液体と粉末とがあり、両者とも使用できるが、粉末を使用する方が取り扱い易いので好ましい。
【0021】
上記スルホン酸のアルカリ金属塩の配合割合は、上記生石灰とII型無水石膏とを配合してなる粉末100重量部、或いは上記生石灰とII型無水石膏に加え、シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末を更に配合してなる粉末100重量部に対し、固形分量で0.15〜3.0重量部である。
特に、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩の場合は、0.15〜0.4重量部、好ましくは0.2〜0.3重量部である。一方、ナフタレン、メラミン、ポリアルキルの各スルホン酸の場合には、前記リグニンスルホン酸の場合より多い配合量を必要とし、粉末100重量部に対して、1.0〜3.0重量部、好ましくは1.5〜2.5重量部である。 上記したスルホン酸のアルカリ金属塩の配合量が少なすぎると、生石灰の水和抑制効果が小さく、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩の場合は多すぎると、必要以上にコンクリートの凝結時間を遅延し、且つ粉末の場合は溶解度を超え水に溶解し難く生石灰の水和抑制効果が小さくなるので好ましくない。一方、その他のスルホン酸のアルカリ金属塩の場合では、配合量が多すぎると、フレッシュコンクリートの材料分離がおきるので好ましくない。
【0022】
なお、コンクリートの練り混ぜ時には、色々な減水剤が使用されるため、本発明で使用する上記スルホン酸のアルカリ金属塩の種類は、コンクリート練り混ぜ時に使用する減水剤と同じ成分を有するものを選定することが好ましい。但し、各スルホン酸の中でも、リグニンスルホン酸はあらゆる減水剤との相性が良く、コンクリート練り混ぜ時に使用する減水剤の種類を選定する必要がないので、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩を生石灰の水和抑制に使用することは、特に好ましい。
【0023】
本発明のセメント製品用膨張性混和材は、上記した各構成材料を通常に実施される混合方法で製造される。また、各スルホン酸のアルカリ金属塩の混合は、粉末の場合は他の粉末を混合する際同時に混合機で混合しておくことができ、液体の場合はセメント製品製造時に混練水に添加することが可能である。
【0024】
上記した本発明に係るセメント製品用膨張性混和材は、セメント100重量部に対し、3〜20重量部配合して用いられる。
配合量が3重量部未満では、膨張の効果が小さく、逆に20重量部を超えると、セメント製品表面にホップアウト現象が生じたり異常膨張を起こしたりする場合がある。
セメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、エコセメント等JIS規格に制定されているセメントだけではなく、JIS規格にないセメントなども使用できる。
【0025】
また、本発明では、これらセメントと本発明に係る膨張性混和材の各構成材料粉末をプレミックスしたセメント組成物として使用してもよい。この場合は、上記スルホン酸のアルカリ金属塩は粉末状のものを用いたほうがよい。
また、本発明のセメント製品用膨張性混和材のセメント等への配合方法は、特には限定されず、また配合に際して、他の混和材、混和剤との併用も、本発明の効果を喪失させるものでない限り、特に阻むものではない。
【試験例】
【0026】
次ぎに、試験例を挙げて、本発明について更に詳述する。
【0027】
−生石灰及び水和抑制剤の選定(試験例I−1〜26)−
焼成条件(軟焼から硬焼)の異なる5種類の生石灰A〜Eを用意し、これらを同一の粒度(300μmフルイが全通で、150μmフルイ残分が5%以下、32μmフルイ残分が80%以上)に粉砕した後、各々の生石灰の消化上昇温度を測定した。
消化上昇温度の測定は、EN(ヨーロッパ規格)−459−2の反応性試験に準拠した方法で行った。
即ち、20℃の蒸留水600mlでデュワービンを満たし、温度計と羽根付き回転子を挿入し、該羽根付き回転子を300rpmで回転させながら温度(Ts)を測定する。回転子を回転させながら150g量を測り取った生石灰を投入し、10分後の温度(T10)測定し、消化上昇温度(T10−Ts)を算出した。
各生石灰の10分後の消化上昇温度を、表1に示す。
【表1】

【0028】
上記各生石灰100重量部に対し、表2に示した配合(スルホン酸のアルカリ金属塩に関しては固形分量)で種々の水和抑制効果のある材料を添加し、消化上昇温度の異なる各生石灰の水和反応の変化をみた。
生石灰の水和反応の変化は、EN(ヨーロッパ規格)−459−2の反応性試験に準拠した方法により、試験開始時から100分後の水温の上昇量、及び300分後の水温の上昇量を各々測定することにより評価することとした。
100分後の水温上昇量、300分後の水温上昇量を、各々表2に併記する。
【表2】

【0029】
上記試験例から、消化上昇温度が低い生石灰(消化上昇温度が10分間で25.0℃の生石灰A)の場合(試験例I−1〜5)では、水和活性が乏しく、水和抑制剤の添加によって水和反応時期を制御し、所定の時間で所定の膨張量を確保できる混和材を作成することは困難であることが分かる。逆に、消化上昇温度が高い生石灰(消化上昇温度が10分間で57.3℃の生石灰E)の場合(試験例I−22〜26)では、水和抑制材の添加量を多くすることにより、ある程度該生石灰の初期の水和反応を抑制することはできるが、水和抑制剤の添加量を多くすることによる、コンクリートのフレッシュ性状の悪化、強度の低下などが懸念される。また、スルホン酸のアルカリ金属塩(リグニンスルホン酸塩)の配合量の多い場合(試験例I−16)では、粉末状のスルホン酸のアルカリ金属塩が溶解せず、初期の生石灰の水和反応の抑制が困難であった。
一方、消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰(生石灰B、C、D)の場合(試験例I−6〜15、17〜21)では、水和抑制剤の添加によって、その水和反応時期を効率的に制御することができ、所定の時間で所定の膨張量を確保できる混和材を提供し得ることが分かる。
なお、生石灰A,B,C,D,Eのみである場合は、100分以内に消化発熱反応が終了するため、300分後では温度が減少する。
【0030】
また、上記試験例から、II型無水石膏の添加により、生石灰の初期の水和を抑制できることが分かる。また、メラミンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩の各スルホン酸のアルカリ金属塩の添加により、生石灰の水和反応時期を制御でき、その制御効果は、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等の硫酸アルカリ金属塩の添加に比して、顕著であることが分かる。
【0031】
−シリカフューム等を含まない混和材の配合組成(試験例II−1〜12)−
上記生石灰B、C、又はD(消化上昇温度が10分間で30.5℃、37.9、又は49.5℃の生石灰)100重量部に対し、II型無水石膏を表3に示した配合割合で添加した粉体100重量部に対し、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で各々表3に併記した配合で添加した混和材を製造した。
【表3】

【0032】
上記混和材を用い、コンクリートを各々調整し、そのスランプ、圧縮強度、JIS A 6202の拘束B法により拘束膨張量を各々測定した。
なお、コンクリートの配合は、普通ポルトランドセメント100重量部に対し、細骨材259重量部、粗骨材323重量部、水55重量部、減水剤0.25重量部、そして上記した混和材を10重量部で行った。
各コンクリートのスランプ、圧縮強度、拘束膨張量を表4に示す。
【表4】

【0033】
上記試験例から、II型無水石膏の配合量が少ない混和材を使用したコンクリート(試験例II−1,2)及びスルホン酸のアルカリ金属塩の配合量が少ない混和材を使用したコンクリート(試験例 II-3)では、生石灰の初期の水和反応を抑制しきれず、コンクリートの流動性が阻害されていることが分かる。逆に、II型無水石膏の配合量が多い混和材を使用したコンクリート(試験例II−7,8,11,12)では、充分な膨張量を確保することができず、乾燥収縮による亀裂が懸念されることが分かる。さらに、スルホン酸のアルカリ金属塩(ナフタレンスルホン酸塩)の配合量が多い混和材を使用したコンクリート(試験例II−10)では、流動性が上昇し、材料分離が生じる危険があることが分かる。その傾向は、試験例II−8においてもみられる。
一方、II型無水石膏の配合量が、生石灰100重量部に対し20〜100重量部であって、且つスルホン酸のアルカリ金属塩の配合量が、生石灰とII型無水石膏100重量部に対し0.15〜3.0重量部とした混和材を使用したコンクリート(試験例II−4,5,6,9)では、練りあがり直後からのスランプの低下はなく、スランプ保持性に優れた結果となり、また圧縮強度も良く、拘束膨張量は正の値となり、乾燥収縮が懸念されるものではないことが分かる。
【0034】
−シリカフューム等を含む混和材の配合組成(試験例III−1〜20)−
上記生石灰C(消化上昇温度が10分間で37.9℃の生石灰)100重量部に対し、II型無水石膏、及びシリカフューム、スラグ粉末等の粉体を表5に示した配合割合で添加した粉末100重量部に対し、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で各々表5に併記した配合で添加した混和材を製造した。
【表5】

【0035】
上記混和材を用い、コンクリートを各々調整し、そのスランプ、圧縮強度、JIS A 6202の拘束B法により拘束膨張量を各々測定した。
なお、コンクリートの配合は、高炉セメントB種100重量部に対し、細骨材267重量部、粗骨材332重量部、水55重量部、減水剤0.25重量部、そして上記した混和材10重量部で行った。
各コンクリートのスランプ、圧縮強度、拘束膨張量を表6に示す。
【表6】

【0036】
上記試験例から、シリカフューム等の粉末をなんら配合しない混和材、或いは配合量が少ない混和材を使用したコンクリート(試験例III−1〜4)では、初期の圧縮強度を増加できないことが分かる。逆に、シリカフューム等の粉末の配合量が多い混和材を使用したコンクリート(試験例III−19,20)では、充分な膨張量を確保することができないことが分かる。
また、生石灰、II型無水石膏及びシリカフューム等の粉末に対するスルホン酸のアルカリ金属塩の配合量が少ない混和材を使用したコンクリート(試験例III−5)では、生石灰の初期の水和反応を抑制しきれず、コンクリートの流動性が阻害されていることが分かる。逆に、生石灰、II型無水石膏及びシリカフューム等の粉末に対するスルホン酸のアルカリ金属塩(ナフタレンスルホン酸塩)の配合量が多い混和材を使用したコンクリート(試験例III−18)では、流動性が上昇し、材料分離が生じる危険があることが分かる。
一方、シリカフューム等の粉末を、生石灰100重量部に対して5〜100重量部配合し、且つ生石灰、II型無水石膏及びシリカフューム等の粉末100重量部に対してスルホン酸のアルカリ金属塩を0.15〜3.0重量部とした混和材を使用したコンクリート(試験例III−6〜17)では、コンクリートの流動性が改善され、また初期の圧縮強度が増大し、さらに拘束膨張量は正の値となり、乾燥収縮が懸念されるものではないことが分かる。
【0037】
−混和材のセメントへの混和量(試験例IV−1〜7)
上記生石灰D(消化上昇温度が10分間で49.5℃の生石灰)100重量部に対しII型無水石膏30重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、リグニンスルホン酸塩を0.25重量部配合した混和材αを作製した。
また、上記生石灰B(消化上昇温度が10分間で30.5℃の生石灰)100重量部に対しII型無水石膏30重量部と、シリカフューム30重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、リグニンスルホン酸塩を0.25重量部配合した混和材βを作製した。
上記2種類の混和材α,βを用い、コンクリートを各々調整し、そのスランプ、圧縮強度、JIS A 6202の拘束B法により拘束膨張量を各々測定した。
なお、コンクリートの配合は、普通ポルトランドセメント100重量部に対し、細骨材259重量部、粗骨材323重量部、水55重量部、減水剤0.25重量部、そして上記混和材αを0、2、3、10重量部配合したもの、或いは上記混和材βを15、20、25重量部配合したものの、7種類のコンクリートを調整した。
各コンクリート(混和材を配合しないコンクリートを試験例IV−1、混和材αを2重量部配合したコンクリートを試験例IV−2、混和材αを3重量部配合したコンクリートを試験例IV−3、混和材αを10重量部配合したコンクリートを試験例IV−4、混和材βを15重量部配合したコンクリートを試験例IV−5、混和材βを20重量部配合したコンクリートを試験例IV−6、混和材βを25重量部配合したコンクリートを試験例IV−7)のスランプ、圧縮強度、拘束膨張量を表7に示す。
【表7】

【0038】
上記試験例から、混和材を配合していないコンクリート、或いは混和材の配合量が少ないコンクリート(試験例IV−1,2)では、充分な膨張量を確保することができず、乾燥収縮による亀裂が懸念されることが分かる。逆に、混和材の配合量が多いコンクリート(試験例IV−7)では、膨張量が多く、膨張破壊が懸念されることが分かる。
一方、混和材の配合量が、セメント100重量部に対し3〜20重量部であるコンクリート(試験例IV−3〜6)では、練りあがり直後からのスランプの低下はなく、スランプ保持性に優れた結果となり、また圧縮強度も良く、拘束膨張量は正の値となり、乾燥収縮が懸念されるものではないことが分かる。
【0039】
以上に記載した、本発明に係るセメント製品用膨張性混和材及びセメント組成物を見いだした試験例において使用した材料を、表8にまとめて示す。
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で0.15〜3.0重量部配合したことを特徴とする、セメント製品用膨張性混和材。
【請求項2】
消化上昇温度が10分間で30〜50℃である生石灰100重量部(CaO換算ベース)に対しII型無水石膏20〜100重量部と、シリカフューム、スラグ粉末、石灰石粉末のうち1種類以上の粉末5〜100重量部を配合してなる粉末100重量部に対して、スルホン酸のアルカリ金属塩を固形分量で0.15〜3.0重量部配合したことを特徴とする、セメント製品用膨張性混和材。
【請求項3】
上記スルホン酸のアルカリ金属塩が、リグニンスルホン酸塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセメント製品用膨張性混和材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のセメント製品用膨張性混和材を、セメント100重量部に対し3〜20重量部配合したことを特徴とする、セメント組成物。

【公開番号】特開2007−45665(P2007−45665A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231786(P2005−231786)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】