説明

セラミックスブロック及びその製造方法

【課題】CAD/CAMにより研削、切削等の加工を施して作成される歯科用補綴物用に供せられるブロックであって、加工後の補綴物の強度を高め、審美性を維持しながら口腔内での使用に耐え得る強度を持つ補綴物が得られるような加工用ブロックを得る。

【解決手段】カルシア及びイットリアをセラミックの原料にそれぞれ0.01%~10%、0.01%~10%添加する歯科用ブロックとすることで、歯科用補綴物を作成する際のCAD/CAMに用いるセラミックブロックの強度を上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューター制御による自動計測及びこの計測情報に基づく自動加工を行う装置にて加工されるものに関し、使用中の破折を防ぐために、曲げ強度を上昇させた被加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のCAD/CAM装置に代表される自動計測及び自動加工手段を用いることにより、精密な歯科や医師の補綴物、その他の歯科材、医科材、各種模倣材、被計測物に同一、類似あるいは対応したものに加工する被加工物の一例として、セラミックスブロックについて述べる。一般に、このセラミックブロックは、粘土鉱物、長石、石英を原料としこれのいずれかあるいは2種以上混合した材料の内一種類から一個体を作成する。
しかし、上記原料の組み合わせだけのセラミックでは曲げ強度に限界が有り、その加工物も使用環境によっては容易に破折してしまう。
また、曲げ強度の高い別の材料(例 : アルミナ)を用いた場合、高強度のため切削加工が困難になるなどのデメリットが生じる。加えて、破折しない程度の強度まで上げることは可能だが、色あいや失透性などの見た目によって利用範囲が狭まれてしまう。
例えば、長石を原料として作成した歯科医療用のセラミックスでは、天然歯より曲げ強度が低く、加工後に臨床で用いた際に破説することがある。また、CAD/CAM装置に代表される自動計測及び自動加工手段を用いて曲げ強度の高いアルミナブロックを加工しようとすると、切削工具の消耗が激しく、時には破損する場合も有る。
【特許文献1】特開2004−507316号公報
【特許文献2】特開2003−47622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明では、コンピューター制御による自動計測及びこの計測情報に基づく自動加工を行う装置、CAD/CAM装置に代表される自動計測及び自動加工手段を用いて加工可能で、審美性の有る、曲げ強度の高いセラミックスあるいは陶材を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち本発明は、カルシアとイットリアを添加することで曲げ強度を上昇させたセラミックを提案することにより、容易に加工でき、審美性が有り、曲げ強度の高い歯科補綴物を実現する。
本発明は、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム等のリン酸カルシウム化合物、粘土鉱物、長石、石英等の各種ポーセレンや、酸化金属等、様々なもののいずれかあるいは2種以上の組み合わせからなる材料で、非加熱あるいは少なくとも1回以上加熱処理された材料を用いて配合したセラミックスに関するものである。
上記材料からなるセラミックスでは、使用条件によっては充分な強度が得られず破折を起こしてしまう。
【0005】
本発明では、材料にカルシアとイットリアを所要量入れることで強度が改善し、上記材料特有の審美性と加工の容易性を持った、曲げ強度の高いセラミック加工物を作ることができる。
一般にセラミックスブロックは、非加熱あるいは少なくとも1回以上加熱処理された材料を成型し焼成させてなる。このいかなる材料の前処理においても、材料にカルシアとイットリアを所要量(好ましくはカルシア0.05%〜1%、イットリア0.15%〜1%)添加することで、加工物の曲げ強度を上昇させることが可能である。
上記のカルシア・イットリアの比や量の範囲以外をセラミックの材料に添加すると、強度を上昇させる結晶が生えず、高強度は望めない。また、上記以上の割合で添加すると、透明性や切削性などのセラミックの性質を損なう。
一般的にカルシアはセラミックに添加することで融点を下げ、イットリアは融点を上げ、添加するカルシアとイットリアのバランスで融点が変わる。焼成温度によりセラミックの強度は変化するため、添加量によって最適な焼成温度がある。


例えば、非加熱の粘土鉱物と長石を混合した材料にカルシアとイットリアを添加することで、そのセラミックと加工物の曲げ強度が上昇する。この場合、審美性に関与する透明性を有する粘土鉱物と長石の混合比率での材料にカルシアとイットリアを添加しても、加工物は失透することはない。さらに、材料に色粉を添加しセラミックを加工した場合、カルシア・イットリア添加による曲げ強度の上昇に影響はない。
この曲げ強度の上昇は、カルシアとイットリアを両方添加することで効果が有り、カルシアのみ及びイットリアのみでは望ましい効果は得られない。
【0006】
また、上記粘土鉱物と長石を混合した材料にカルシアとイットリアを添加し、オーバーメルトするフリット処理を行うと、その材料を粉砕した材料粉から作製したセラミックは、フリット処理とカルシア・イットリア添加の相乗効果で曲げ強度が上昇する。この場合、上記の非加熱材料と同様に失透することはなく、また、フリット処理後に色粉を添加してもカルシア・イットリア添加による曲げ強度の上昇に影響は無い。また、このフリット処理の仕方は、1.( 所要量のカルシア・イットリアを添加してフリット処理して作製 )、2.( 所要量以上のカルシア・イットリアを添加してフリット処理し、無添加のフリット処理材料と混合し作製 )、3.( 所要量以上のカルシアとイットリアを別々に添加した材料を別々にフリット処理し、無添加のフリット処理と混合し作製 )、いずれもカルシア・イットリア添加の効果で曲げ強度が上昇する。(フリット処理とは、材料をオーバーメルトする温度で焼成することで、不純物の除去等の効果がある。)
【発明の効果】
【0007】
以上詳述のごとく本発明は、ポーセレン等を原料とした、CAD/CAMを用いた歯科用加工装置を用いて研削などの加工を施して歯科用の補綴物を得るためのブロックは、材料にカルシアとイットリアを所要量添加することにより、上記加工装置を用いて加工可能で、審美性も有した上で、曲げ強度の高い歯科用の補綴物を得ることができる等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、陶磁器用材料にカルシアとイットリアを所要量添加することで、これを用いて作製されるセラミックスを、加工が容易で審美性も高いまま、曲げ強度を上げることができる。
また、天然歯は透明性も有り、複雑な形状をし、かつ高強度を有する。本発明における曲げ強度の高いセラミックは、天然歯に近い審美性を持ち、口腔内でも破折しない補綴物を容易に作製できる。
本発明におけるセラミックスの加工は、セラミックスブロックを研削、切削の内、何れか一方、又は両方を順番に又は一度に行ってもよい
本発明におけるイットリア、カルシア以外の原材料として、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム等のリン酸カルシウム化合物、粘土鉱物、長石、石英等の各種ポーセレンや、酸化金属等、等を1乃至2種以上の組み合わせたものが例示されるが、これに限るものではない。
又、カルシア、イットリア以外では、主に長石30〜50重量%が例示される。
【0009】
以下に実施例を示し、本発明に関して具体的に説明する。
この実施例で使用した材料の組成は、
ネフェリンサイヤナイト65%、大平長石35%、
とした。この材料の添加物混合や加工後に、バインダー(ポリビニルアルコール1.5%)を混合してできた粉末を、成形、焼成、加工した。このサンプルを(株)島津製作所製オートグラフを用いて、ヘッドスピード0.5mm/minで3点曲げ強度試験を行い、曲げ強度を計測した。
【実施例1】
【0010】
実施例1 無添加サンプルとカルシア・イットリア添加サンプルの比較
主原料にバインダーを混合し、成型、焼成、加工したサンプル1.、主原料にカルシア2%、イットリア5%を添加し充分に攪拌した原料にバインダーを混合し、成型、焼成、加工したサンプル2.を作製した。3点曲げ試験の結果、サンプル1.は103MPa、サンプル2.は109MPaだった。この比較より、カルシアとイットリアを添加したことで曲げ強度が上昇したことが分かる。
サンプル2.を、歯科補綴物計測加工装置(CADIM(登録商標)アドバンス社製)で研削、切削等の加工処理をしたところ、特に問題なく加工が出来た。
【実施例2】
【0011】
実施例2 フリット処理を行った、無添加サンプルとカルシア・イットリア添加サンプルの比較
主原料を1300℃でオーバーメルト(以下フリット処理)して不純物を取り除いた後に粉砕し、バインダーを混合し、成型、焼成、加工したサンプル3.、主原料にカルシア2%、イットリア5%を添加し充分に攪拌した原料を1300℃でフリット処理して不純物を取り除いた後に粉砕し、バインダーを混合し、成型、焼成、加工したサンプル4.を作製した。3点曲げ試験の結果、サンプル3.は121MPa、サンプル4.は127MPaだった。この比較より、材料をフリット処理した場合でも、曲げ強度におけるカルシアとイットリアを添加による優位性が見られる。したことによるで曲げ強度が上昇したことが分かる。
サンプル4.を歯科補綴物計測加工装置(CADIM(登録商標)アドバンス社製)で研削、切削等の加工処理をしたところ、特に問題なく加工が出来た。
【実施例3】
【0012】
実施例3 カルシア・イットリア添加、フリット処理、着色したサンプル
主原料にカルシア0.2%、イットリア0.5%を添加し充分に攪拌した原料を1300℃でフリット処理して不純物を取り除いた後に粉砕し、バインダーを混合し、人口歯シェードA3相当の色粉を添加し、成型、焼成、加工したサンプル5.を作製した。3点曲げ試験の結果、サンプル5.は127MPaだった。また色粉の添加により、A3相当のシェードに着色できた。これより、カルシアとイットリアを添加しても、高強度を保ったままで天然歯同様の着色が可能であった。
また、フリット処理を行わずにカルシア・イットリア添加の材料でも上記同様の着色が可能であった。
【実施例4】
【0013】
実施例4 カルシア・イットリア添加、フリット処理、蛍光付与したサンプル
主原料にカルシア0.2%、イットリア0.5%を添加し充分に攪拌した原料を1300℃でフリット処理して不純物を取り除いた後に粉砕し、バインダーを混合し、天然歯相当の蛍光物質を添加し、成型、焼成、加工したサンプル6.を作製した。3点曲げ試験の結果、サンプル6.は139MPaだった。また蛍光物質の添加により、紫外光下での蛍光発光が見られた。これより、カルシアとイットリアを添加しても、高強度を保ったままで天然歯同様の透明性と蛍光性の付与が可能であった。
【実施例5】
【0014】
実施例5 カルシア・イットリア添加、フリット処理、着色、蛍光付与したサンプル
主原料にカルシア0.4%、イットリア0.6%を添加し充分に攪拌した原料を1300℃でフリット処理して不純物を取り除いた後に粉砕し、バインダーを混合し、人口歯シェードA3相当の色粉と天然歯相当の蛍光物質を添加し、成型、焼成、加工したサンプル7.を作製した。3点曲げ試験の結果、サンプル7.は137MPaだった。また上記実施例3のサンプル5.及び実施例4の実施例6.同様の着色と蛍光性が有った。これより、カルシアとイットリアを添加しても、高強度を保ったままで天然歯同様の着色、透明性及び蛍光性の付与が可能であった。
【0015】
オーバーメルトを行う場合の温度や、セラミックの成型体を焼成する温度が変わることで、作製した加工物の強度等の物性が変化することも有る。成型体の焼成温度は、元の形が残る範囲で最高温度が好ましい。
上記例で作製したセラミックの加工物は、口腔内での実験症例でも破折することなく、また審美性においても天然歯同様の色あいや透明性を有し、使用可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、コンピューター制御による自動計測及びこの計測情報に基づく自動加工を行う装置にて加工されるものに関し、使用中の破折を防ぐために、曲げ強度を上昇させた被加工物を提案できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシア及びイットリアを添加して、曲げ強度を上昇させたセラミックスブロック。
【請求項2】
カルシア及びイットリアを含む原料を焼成した後フリット処理を行うセラミックスブロックの製造方法。
【請求項3】
カルシア及びイットリアが、それぞれ0.01%~10%、0.01%~10%添加された請求項1、2に記載のセラミックスブロック及びその製造方法
【請求項4】
原料陶磁器用材料が粘土鉱物、長石、石英等の天然鉱物や人工的に製造されたもので選択される請求項1、2に記載のセラミック及びその製造方法
【請求項5】
CAD/CAMにより研削、切削等の加工処理がされ、生体補綴物が形成される請求項1、2に記載のセラミックスブロック。及びその製造方法

【公開番号】特開2006−87527(P2006−87527A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274060(P2004−274060)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】