説明

セラミックス材と金属材との接合体および接合方法

【課題】セラミックス材と金属材との接合において、大きな接合面積、および高温環境下においても、接合界面の剥離を防止する。
【解決手段】セラミックス材11と金属材12との間に配置された三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層13を備え、この中間層13に、セラミックス材11との接合面13aまたは金属材12との接合面13bに対して略垂直方向に延びるスリット13cが設けられているセラミックス材と金属材との接合体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張率の大きく異なるセラミックス材と金属材との接合体および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料と金属材料を接合する技術は、古くから研究開発されてきた。アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミックス材料の熱膨張率が3〜8×10-6/Kであるのに対し、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、銅などの金属材料の膨張率が10〜20×10-6/Kと大きい。このため、使用環境の温度変化や接合処理において加熱される場合等に、その膨張率の差が原因となり接合面で熱応力が生じ、剥離などが生じてしまうことが、セラミックスと金属との接合における主な課題であった。
【0003】
この熱応力を緩和する方法として、例えば、静電チャック部材の製造方法において、炭化タングステン、炭化チタンなどのセラミックス材料とステンレス鋼などの金属材料をロウ付け接合する際に、中間層として弾性率の小さい銅、亜鉛、アルミニウムなどの金属を配置し、中間層が変形することにより、応力を緩和する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、セラミックヒータの製造における窒化物系セラミックスと金属部材との接合において、応力を緩和する中間層として気孔率5〜20%を持つNiを配置することが示されている(特許文献2参照)。
【0005】
また特許文献3においては、セラミックスと金属の接合の中間層として網目状多孔金属を使用することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−52015号公報
【特許文献2】特開平11−329676号公報
【特許文献3】特公平2−54222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、半導体装置に用いられる部品は大型化してきており、これに伴い特許文献1に示される静電チャック部品や、特許文献2に示されるセラミックスヒーターも大型化している。しかしながら、接合面積が大きくなると、セラミックスと金属との接合体は、熱による膨張の差が大きくなり、接合界面での剥離が生じてしまう。
【0008】
また、特許文献1や特許文献2の中間層として使用される中間層は、銅、亜鉛、アルミニウム、ニッケルといった純金属であり、耐食性や耐酸化性といった観点から真空中や不活性雰囲気での使用に限定され、腐食性のガス環境下では使用することができず、また航空機部材に求められる1000℃付近での高温環境下にも使用することが出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セラミックス材と金属材との接合において、例えば250mm2以上の大きな接合面積、および高温環境下においても、接合界面の剥離を防止することを目的とする。
【0010】
本発明は、セラミックス材と金属材とが積層された接合体であって、前記セラミックス材と前記金属材との間に配置された三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層を備え、この中間層に、前記セラミックス材または前記金属材との接合面に対して略垂直方向に延びるスリットが設けられているセラミックス材と金属材との接合体である。
【0011】
また本発明は、セラミックス材と金属材とを積層して接合する方法であって、前記セラミックス材と前記金属材との間に、三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層を配置し、前記セラミックス材と前記中間層との間、および前記中間層と前記金属材との間をロウ付けまたは拡散接合により接合し、前記中間層に前記セラミックス材または前記金属材との接合面に対して略垂直方向に延びるスリットを設けておく接合方法である。
【0012】
本発明によれば、中間層の金属多孔質材がスリットを持つことにより、接合面に対して垂直方向の変形能が著しく向上する。このため、熱変化によるセラミックス材および金属材の膨張差が大きい場合でも、金属多孔質材の変形により熱応力が緩和され、大面積の場合や使用環境の温度差が大きい場合でも、接合面が剥離することなく、確実に接合することができる。
【0013】
本発明において、前記中間層は、ステンレス鋼製またはNi−Cr系耐熱合金製であって、気孔率が80〜95%であることが好ましい。この場合、反応性のガスによる腐食環境や1000℃といった耐熱環境下でも、多孔質材が機能し、接合強度を保つことができる。金属多孔質材の気孔率が80%未満である場合、金属多孔質材の変形応力が大きいので、応力緩和効果が低下し、接合面の剥離が生じやすい。一方、金属多孔質材の気孔率が95%を超えると、セラミックス材と金属材との接合点が少ないため、接合強度が著しく低下するとともに、熱抵抗が大きくなってセラミックス材と金属材との温度差が大きくなり、接合面の剥離が生じやすい。
【0014】
また、本発明において、前記スリットは前記中間層に複数本設けられており、前記接合面の最大長さL、前記金属材の熱膨張率α、前記セラミックス材の熱膨張率β、使用環境あるいは接合工程における最高温度と最低温度の差ΔTmaxとして、前記スリットの各幅の合計Sが
W<S<10×W
ただしW=L×(α−β)×ΔTmax
を満たすことが好ましい。SがW未満である場合、変形能が小さく、応力緩和効果が得られない。また、Sが10Wを超える場合には、接合面積の低下により、接合強度が低下し、熱伝導が小さくなることにより、セラミックス材と金属材との温度差が大きくなり、接合面の剥離が生じやすくなる。
【0015】
なお、スリットは、膨張差の大きい外周付近に設けられることが好ましい。スリット幅は位置により変化させてもよく、たとえば外周に近い位置のスリット幅を大きくすることが好ましい。
【0016】
本発明の接合方法において、前記金属材の表面に金属粉末含有発泡性スラリーを塗布して発泡、乾燥させて発泡グリーンを形成し、この発泡グリーンに切れ目を入れて焼結することにより、前記スリットを有する前記中間層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、セラミックス材と金属材との接合において、大きな接合面積、および高温環境下においても、接合界面の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るセラミックス材と金属材との接合体を示す断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1の接合体を製造する接合方法を示す図である。
【図4】接合体の接合強度の測定方法の概略を示す側面図である。
【図5】本発明に係る接合方法の他の例を示す図である。
【図6】図5に示す接合方法において発泡グリーンに切れ目を入れる工程を示す上面図である。
【図7】本発明に係る接合体において、スリットが中間層を分断しない例を示す断面図である。
【図8】本発明に係る接合体において、中間層を分断しないスリットが中間層の両面に設けられている例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るセラミックス材と金属材との接合体および接合方法の実施形態を説明する。本発明の接合体10は、図1に示すように、セラミックス材11と、金属材12と、これらセラミックス材11および金属材12の間に配置された三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層13を備えている。この中間層13には、図1に示すように、セラミックス材11との接合面13aまたは金属材12との接合面13bに対して略垂直方向に延びるスリット13cが設けられている。
【0020】
中間層13は、ステンレス鋼製またはNi−Cr系耐熱合金製であって、気孔率が80〜95%である。
【0021】
スリット13cは中間層13に複数本設けられている。スリット13cの各幅s1,s2,s3(図2参照)の合計Sは、接合面13a(または接合面13b)の最大長さL、金属材12の熱膨張率α、セラミックス材11の熱膨張率β、使用環境あるいは接合工程における最高温度と最低温度の差ΔTmaxとして、
W<S<10×W ただしW=L×(α−β)×ΔTmax…(1)
を満たす。
【0022】
この接合体10を製造するには、セラミックス材11と金属材12との間に、三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層13を配置し、この中間層13にセラミックス材11との接合面13aまたは金属材12との接合面13bに対して略垂直方向に延びるスリット13cを設けておいて、セラミックス材11と中間層13との間、および中間層13と金属材12との間をロウ付けまたは拡散接合により接合する。
【実施例1】
【0023】
図3に、実施例1に係る接合体10を製造する接合方法を示す。本実施例においては、セラミックス板11として窒化ケイ素板(100×100×t1mm)、金属板12としてSUS304ステンレス鋼板(100×100×t5mm)、中間層13(金属多孔質材)としてスラリー発泡法により製造したSUS304ステンレス鋼製発泡金属板(100×100×t1mm)を準備した。ここで、発泡金属板は、気孔率90%のものを準備した。
【0024】
次に、発泡金属板とステンレス鋼板とを重ね、ホットプレスにより1150℃、保持時間1時間、荷重5kPaの条件で、拡散接合した。
【0025】
次の工程での窒化ケイ素板と発泡金属板との接合温度が1000℃であることから、前記式(1)を用いて、Wを算出した。ここで、接合面13a(または接合面13b)の最大長さLを100mm、SUS304ステンレス鋼板の熱膨張率αを20×10-6/K、窒化ケイ素の熱膨張率βを3×10−6/K、ΔTmaxを1000Kとして計算した。その結果、W=1.7mmを得た。
【0026】
次に、図2に示すように、l=23.5mm、s1=s2=s3=2mmとなるように、機械加工により発泡金属板を加工した。このときスリット13cの合計幅Sは3.5Wに相当する。
【0027】
その後、Ni−Cr系ろう材を用いて、発泡金属板と窒化ケイ素板とを加熱温度1000℃、保持時間1時間、真空中の条件で接合した。これにより、剥離のない健全な接合体10が得られた。
【0028】
(比較例1〜4)
スリット形状を変量して、他の条件は実施例1と同様にして、比較例1〜4の接合体を作製した。接合後、各接合体における接合面の剥離の有無を観察するとともに、接合強度を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
接合強度は、図4に示すように、セラミックス板11と金属板12とを接合面に沿って逆方向に引っ張ることにより測定した。この方法では、セラミックス板11および金属板12のそれぞれにエポキシ樹脂系接着剤20を用いて接着した接合強度測定用の各金属板21を、引張試験機のクランプに接続し、逆方向に引っ張った。そして、接合部分が破断するまでの荷重を計測し、破断時荷重が5kN以上の場合を接合強度OK、5kN未満の場合を接合強度NGとした。
【0031】
(比較例5〜8)
気孔率を変量して、他の条件は実施例1と同様にして、比較例5〜8の接合体を作製した。接合後、比較例1〜4と同様に、各接合体における接合面の剥離の有無を観察するとともに、接合強度を測定した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【実施例2】
【0033】
図5に実施例2に係る接合体を製造する接合方法を示す。本実施例においては、セラミックス板11としてアルミナ板(100×100×t2mm)、金属板12としてSUS310ステンレス鋼板(100×100×t5mm)を準備した。
【0034】
中間層13は、金属粉末含有発泡性スラリーを金属板12に塗布して発泡、乾燥および焼結させる方法により形成した。金属粉末を含有する発泡性スラリーとは、発泡、乾燥、焼結することにより、三次元網目状の多孔質金属を製造できるものである。この発泡性スラリーについては、材質としてNi−15.5wt%Cr−7wt%Feの組成を持つNi−Cr系合金を選択し、平均粒径20μmの合金粉末と、結着剤としてポリビニルアルコールと、可塑剤としてグリセリンと、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩と、発泡剤としてヘプタンとを、溶媒の水とともに混練することにより、スラリーを作製した。
【0035】
作製した発泡性スラリーを、SUS310ステンレス鋼板(金属板12)の上に、ダイコータを用いて均一に厚さ1mmとなるように塗工した。そして湿度75%、温度60℃の発泡装置にて30分間保持して発泡させた。その後、90℃の乾燥機にて10分間放置して乾燥させ、金属板12の上に厚さ3mmの発泡グリーン14(未焼結状態)を積層形成した。
【0036】
次に、図6に示すように、カッターを用いて切れ目14aを形成し、la=25mmとなるように発泡グリーン14を格子状に切断した。次いで、セラミックス板11,発泡グリーン14,金属板12の順に重ね、セラミックス板11の上に荷重5kPaとなるように錘を載せ、真空炉を用いて1200℃、3時間の条件で焼結を行った。
【0037】
その結果、中間層13とセラミックス板11とが接合されるとともに、中間層13の焼結に伴う収縮により切れ目14aから幅約1mmのスリットが形成された。接合は剥離無く良好であった。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、セラミックス材と金属材との接合において、両部材の熱膨張率の差による変形を金属多孔質材からなる中間層が吸収できるので、大きな接合面積、および高温環境下においても、接合部材の接合界面の剥離を防止することができる。
【0039】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。たとえば、スリットは、膨張差の大きい外周付近に設けられることが好ましい。スリット幅は位置により変化させてもよく、たとえば外周に近い位置のスリット幅を大きくすることが好ましい。また、セラミックス材と金属材とは平板に限らず、たとえば湾曲した板材等であってもよい。
【0040】
また、スリットは、中間層を厚さ方向に切断していなくてもよい。つまり、図7に示すように中間層13のセラミックス材11との接合面13a側、金属材12との接合面13b側のいずれか一方(図ではセラミックス材側の接合面13a)のみにスリット13dが設けられていてもよく、図8に示すようにセラミックス材11との接合面13a側および金属材12との接合面13b側の両方から厚さ方向途中までスリット13eが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 接合体
11 セラミックス材
12 金属材
13 中間層
13a,13b 接合面
13c,13d,13e スリット
14 発泡グリーン
14a 切れ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材と金属材とが積層された接合体であって、
前記セラミックス材と前記金属材との間に配置された三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層を備え、
この中間層に、前記セラミックス材または前記金属材との接合面に対して略垂直方向に延びるスリットが設けられていることを特徴とするセラミックス材と金属材との接合体。
【請求項2】
前記中間層は、ステンレス鋼製またはNi−Cr系耐熱合金製であって、気孔率が80〜95%であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス材と金属材との接合体。
【請求項3】
前記スリットは前記中間層に複数本設けられており、前記接合面の最大長さL、前記金属材の熱膨張率α、前記セラミックス材の熱膨張率β、使用環境あるいは接合工程における最高温度と最低温度の差ΔTmaxとして、前記スリットの各幅の合計Sが
W<S<10×W
ただしW=L×(α−β)×ΔTmax
を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックス材と金属材との接合体。
【請求項4】
セラミックス材と金属材とを積層して接合する方法であって、
前記セラミックス材と前記金属材との間に、三次元網目状の金属多孔質材からなる中間層を配置し、前記セラミックス材と前記中間層との間、および前記中間層と前記金属材との間をロウ付けまたは拡散接合により接合し、前記中間層に前記セラミックス材との接合面または前記金属材との接合面に対して略垂直方向に延びるスリットを設けておくことを特徴とするセラミックス材と金属材との接合方法。
【請求項5】
前記中間層は、ステンレス鋼製またはNi−Cr系耐熱合金製であって、気孔率が80〜95%であることを特徴とする請求項4に記載のセラミックス材と金属材との接合方法。
【請求項6】
前記接合面の最大長さL、前記金属材の熱膨張率α、前記セラミックス材の熱膨張率β、使用環境あるいは接合工程における最高温度と最低温度の差ΔTmaxとして、前記スリットの各幅の合計Sが
W<S<10×W
ただしW=L×(α−β)×ΔTmax
を満たすように、前記スリットを前記中間層に複数本設けることを特徴とする請求項4または5に記載のセラミックス材と金属材との接合方法。
【請求項7】
前記金属材の表面に金属粉末含有発泡性スラリーを塗布して発泡、乾燥させて発泡グリーンを形成し、この発泡グリーンに切れ目を入れて焼結することにより、前記スリットを有する前記中間層を形成することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のセラミックス材と金属材との接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−241099(P2011−241099A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112176(P2010−112176)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】