説明

セラミックス炭素複合材及びその製造方法並びにセラミックス被覆セラミックス炭素複合材及びその製造方法

【課題】セラミックスに比べ軽量で、かつ耐酸化性、耐発塵性、熱伝導性、電気伝導性、強度、緻密性等の少なくともいずれかの特性に優れたセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を得る。
【解決手段】黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子同士間にセラミックスの界面層が形成されたことを特徴とするセラミックス炭素複合材であり、このセラミックス炭素複合材は、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子の表面に、セラミックス層を被覆したセラミックス被覆粉末を成形し、この成形体を焼結することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛とセラミックスの複合材であるセラミックス炭素複合材及びその製造方法並びにセラミックス被覆セラミックス炭素複合材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭素材は、低比重で、耐熱性、耐食性、摺動性、電気伝導性、熱伝動性、加工性に優れ、半導体、冶金、機械、電気、原子力等の広範な分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、炭素材は、一般に、耐酸化性と強度において劣っているという問題がある。この問題を解消するため、セラミックスなどの他の材料との複合化が検討されている。
【0004】
炭素材とセラミックス材を複合化した例として、黒鉛基材にSiCやTaCを気相反応や溶融反応で被覆したSiC被覆黒鉛複合材が、化学蒸着法による化合物半導体製造用のサセプターとして利用されている。これらの製品は、耐熱性や化学的安定性を有し、黒鉛粒子の発塵を防止するものの、強度向上にはつながらず、製造コストも高いためサセプターなどの用途に限られる。また、3次元的に複雑形状の黒鉛基材に均一被覆するのは技術的に難しい。
【0005】
一方、溶融シリコンを多孔質炭素に高温で含浸させて燃焼合成反応を励起し、多孔質炭素の気孔内部をSiC化したSiC/炭素複合材が開発されている(特許文献1参照)。この複合材は、ボルトやナットのような比較的簡単な3次元形状に加工した多孔質炭素材を基にニアネット品に形成できるが、含浸材特有の緻密性に欠け、表面が荒く、コストも高く現状では利用されていない。
【0006】
また最近では、平均粒径10〜100nmのSiC超微粉末と黒鉛粒子を混合し、プラズマ放電焼結により高密度に緻密化したC−SiC焼結体が開発されている(特許文献2参照)。この複合材はSiCを1〜95重量%含有し、相対密度70〜99.5%で、曲げ強度は100〜350MPaと高い値が報告されている。但し、SiC粒子と炭素粒子を均一に混合した複合構造であり、炭素粒子同士の界面をセラミックスで分離し形成するコンセプトによるものではない。またセラミックスはSiCに限定されている。
【0007】
炭素複合材の中では、炭素繊維の織物にピッチを含浸し焼成したC/Cコンポジットや、樹脂を含浸した複合材が広く利用されているが、強度に優れているものの、いずれも耐酸化性は改善されておらず、空気中高温での使用は制限される。また表面が荒く、加工も難しく製造に長時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−25569号公報
【特許文献2】特開2004−339048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、セラミックスに比べ軽量で、かつ耐酸化性、耐発塵性、熱伝導性、電気伝導性、強度、緻密性等の少なくともいずれかの特性に優れたセラミックス炭素複合材及びその製造方法並びにセラミックス被覆セラミックス炭素複合材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセラミックス炭素複合材は、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子同士間にセラミックスの界面層が形成されたことを特徴としている。
【0011】
本発明のセラミックス炭素複合材は、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子と、セラミックスとの複合材であるので、セラミックス材料に比べ軽量である。また、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子の表面を覆うように、セラミックスの界面層が形成されているので、耐酸化性、耐発塵性、熱伝導性、電気伝導性、強度、緻密性等の少なくともいずれかの特性において炭素とセラミックスを単に混合した複合材に比べ優れている。
【0012】
本発明においては、セラミックスの界面層が、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子間で、連続した3次元網目構造を有していることが好ましい。セラミックスの界面層が連続した3次元の網目構造を有することにより、耐酸化性、耐発塵性、熱伝導性、電気伝導性、強度、緻密性等において、より優れた特性を発揮することができる。
【0013】
本発明において、セラミックスの界面層は、例えば、AlN、Al、SiC、Si、BC、TaC、NbC、ZrC、ZnO、SiO及びZrOからなる群より選ばれる少なくとも1種から形成することができる。
【0014】
本発明におけるセラミックスの界面層の厚さは、例えば、100nm〜10μmとすることができる。
【0015】
本発明のセラミックス炭素複合材の製造方法は、上記本発明のセラミックス炭素複合材を製造することができる方法であり、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子の表面に、セラミックスからなるセラミックス層を被覆したセラミックス被覆粉末を作製する工程と、セラミックス被覆粉末から成形体を成形し、この成形体を焼結して、セラミックス炭素複合材を作製する工程とを備えることを特徴としている。
【0016】
セラミックス被覆粉末からなる成形体を焼結することにより、セラミックス被覆粉末の表面のセラミックス同士が焼結し、セラミックス炭素複合材において、セラミックスの界面層を形成する。
【0017】
本発明の製造方法によれば、上記本発明のセラミックス炭素複合材を効率良く製造することができる。
【0018】
セラミックス層を炭素粒子の表面に形成する方法としては、気相法、液相法、機械的混合法、またはこれらを組み合わせた方法が挙げられる。
【0019】
また、セラミックス被覆粉末を形成する他の方法として、炭素粒子を、セラミックス粒子のスラリー中に添加することにより、炭素粒子の表面にセラミックス粒子を付着させ、セラミックス層を形成する方法が挙げられる。
【0020】
本発明のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材は、上記本発明のセラミックス炭素複合材の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層を形成したことを特徴としている。
【0021】
セラミックス被覆層としては、例えば、AlN、Al、MgO、SiC、Si、BC、TaC、NbC、ZrC、ZnO、SiO及びZrOからなる群より選ばれる少なくとも1種から形成されるものが挙げられる。
【0022】
セラミックス炭素複合材におけるセラミックスの界面層を形成するセラミックス材料と、セラミックス被覆層を形成するセラミックス材料とが異なる場合において、セラミックス被覆層の組成は、内部から外部に向うにつれて変化していてもよい。例えば、セラミックス炭素複合材に近い内部においては、セラミックスの界面層を形成するセラミックス材料の多い組成とし、外部に向うにつれてセラミックスの界面層を形成するセラミックス材料の成分が少なくなるような組成傾斜構造を有していてもよい。
【0023】
本発明のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材の製造方法は、上記本発明のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を製造することができる方法であり、焼結前のセラミックス炭素複合材の成形体を成形する工程と、成形体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層を形成するためのセラミックス粉末の層を設ける工程と、セラミックス粉末の層を形成したセラミックス炭素複合材の成形体を、一体的に焼結する工程とを備えることを特徴としている。
【0024】
本発明の製造方法においては、セラミックス被覆層を、セラミックス粉末の層から形成している。セラミックス被覆層を形成するセラミックス粉末の層は、複数の層を積層した積層構造であってもよい。このような積層構造を形成する場合、セラミックス層の組成が、内部から外部に向うにつれて変化するように各層の組成を変化させて積層することができる。
【0025】
また、セラミックス炭素複合材におけるセラミックスの界面層を形成するセラミックス材料の粉末を、セラミックス被覆層を形成するセラミックス粉末中に混合してもよい。すなわち、セラミックス被覆層を形成するセラミックス粉末として、セラミックス層の界面層を形成するセラミックス材料の粉末と、他のセラミックス材料とを混合して用いてもよい。
【0026】
本発明のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を製造する他の局面に従う方法においては、セラミックス炭素複合体の焼結体を製造する工程と、セラミックス炭素複合体の焼結体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス焼結板もしくは単結晶板を配置し接合することにより、セラミックス被覆層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0027】
本製造方法においてはセラミックス焼結体もしくは単結晶板を用いて、セラミックス被覆層を形成している。このようなセラミックス焼結板もしくは単結晶板を、セラミックス炭素複合材の焼結体と接合することにより、セラミックス被覆層を、セラミックス炭素複合材の表面上に形成している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、セラミックスに比べ、軽量でかつ耐酸化性、耐発塵性、熱伝導性、電気伝導性、強度、緻密性等の少なくともいずれかの特性に優れたセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材とすることができる。
【0029】
本発明の製造方法によれば、上記本発明のセラミックス炭素複合材またはセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に従う一実施形態のセラミックス炭素複合材を示す模式的断面図。
【図2】本発明に従う一実施形態におけるセラミックス被覆粉末を示す模式的断面図。
【図3】本発明に従う一実施形態におけるセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を示す模式的断面図。
【図4】本発明に従う実施例におけるAl被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図5】本発明に従う実施例におけるセラミックス炭素複合材の断面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体的な実施形態により説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明に従う実施形態におけるセラミックス炭素複合材を示す模式的断面図である。
【0033】
図1に示すように、セラミックス炭素複合材1は、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子2同士の間に、セラミックス界面層3を配置することにより形成されている。セラミックス界面層3は、炭素粒子2の間で、連続した3次元網目構造を形成している。セラミックス界面層3を構成するセラミックス材料は、耐酸化性、耐熱性、耐摩耗性、強度等において優れているので、セラミックス界面層3が、連続した3次元網目構造を形成することにより、セラミックス炭素複合材1におけるこれらの特性を高めることができる。
【0034】
また、炭素粒子2の種類、形状、及びサイズと、セラミックス界面層3を形成するセラミックス材料の種類、及びセラミックス界面層の厚み、並びに3次元的な連続性を制御することにより、セラミックス炭素複合材1の耐酸化性、耐摩耗性、強度、かさ密度等を向上させることができ、電気伝導性、熱伝導性等の特性を、所望よりも高く、あるいは低く制御することができる。
【0035】
セラミックス界面層3を構成するセラミック材料として、電気絶縁性を有するAlN、Al、Si、SiO、ZrOなどの材料を用い、炭素粒子2をセラミックス界面層3で完全に被覆する連続的な3次元網目構造を形成することにより、セラミックス炭素複合材1を電気的に絶縁体にすることができる。また、セラミックス界面層3を形成するセラミックス材料としては、SiCやZnOを用い、セラミックス界面層3の厚みを数100nmの薄い状態にすることにより、一定以上の電圧が印加されるとセラミックス界面層3にトンネル電流やショットキー電流が発生し、非線形電流−電圧特性を示すバリスター効果を、セラミックス炭素複合材1に付与することもできる。
【0036】
図1に示すセラミックス炭素複合材1は、セラミックス界面層3を構成するセラミックス材料からなるセラミックス層を炭素粒子2に被覆したセラミックス被覆粉末からなる成形体を成形し、この成形体を焼結することにより、製造することができる。
【0037】
図2は、セラミックス被覆粉末12を示す模式的断面図である。図2に示すように、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子10の表面に、セラミックスからなるセラミックス層11を被覆することにより構成されている。
【0038】
炭素粒子10としては、黒鉛もしくは黒鉛を含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、メソフェーズ、ガラス状炭素等を用いることができる。これらの粒子形状は、球形であることが好ましいが、板状や柱状であってもよい。炭素粒子10のサイズは特に限定されるものではないが、例えば平均粒子径1〜30μmのものが挙げられる。
【0039】
セラミックス層11を形成するセラミックス材料としては、上記のような酸化物、炭化物、窒化物などが挙げられる。セラミックス層11の厚みは、セラミックス被覆粉末12を焼結して形成されるセラミックス炭素複合材におけるセラミックス界面層の厚みを考慮して種々選択することができる。
【0040】
また、セラミックス層11は、複数の層を積層して形成してもよい。例えば、炭素粒子10の熱応力、炭素粒子10との接合性、電気絶縁性の確保、その他の機能制御のため、異なるセラミックスを積層してセラミックス層11を形成してもよい。
【0041】
セラミックス層11を、炭素粒子10の表面上に形成する方法として、上述のように、気相法、液相法、機械的混合法、またはこれらを組み合わせた方法が挙げられる。
【0042】
気相法としては、気相反応により、セラミックスを堆積させる化学気相蒸着法(CVD)法や、炭素粒子10の表面の炭素を反応源として他の成分と反応させることによりセラミックス材料を形成する転化法(CVR法)などが挙げられる。
【0043】
例えば、気相法により、炭素粒子の表面にセラミックス被膜を形成させる場合、反応ガスの供給源の上に、炭素粒子層を配置し、真空中もしくはArガスなどの不活性ガスの雰囲気下、加熱することにより、炭素粒子の表面に、セラミックス層をCVD法またはCVR法により、例えば100nm〜10μmの範囲内の厚みで形成することができる。
【0044】
液相法としては、セラミックスの前駆体物質(例えば、Al(OH))の溶液中に、炭素粒子を添加混合し、炭素粒子を乾燥させて、炭素粒子の表面に前駆体物質を付着させた後、これを熱処理することにより、表面に付着した前駆体物質を所定のセラミックス材料に変換する方法が挙げられる。
【0045】
液相法により、炭素粒子の表面にセラミックスを形成する具体例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0046】
炭素粒子として、メソ黒鉛粉末(平均粒子径5〜25μm)を用い、このメソ黒鉛粉末に少量の水を加えて混合した後、NHOを滴下し、pHを11程度に調整し、メソ黒鉛粉末の表面を正に帯電させる。次に、Al(NO溶液を滴下し、混合してスラリーにする。さらに、NHOをAl(OH)が全部沈殿するような十分な量滴下した後、水洗し、メタノール洗浄する。その後、110℃で半日乾燥し、得られた粉末を1500℃窒素雰囲気下で2時間熱処理する。この熱処理により、炭素熱還元と窒化反応が起こり、メソ黒鉛粉末の表面にAlNのセラミックス層を形成する。
【0047】
機械的混合法としては、セラミックスの微粒子と炭素粒子とを機械的に混合し、被覆する方法が挙げられる。被覆するセラミックス粒子のサイズとしては、炭素粒子に比べ小さなサイズであることが好ましく、例えば、200nm〜1μmの平均粒子径が挙げられる。炭素粒子の表面に、セラミックス微粒子を付着させるとによって、セラミックス層を炭素粒子の表面に形成することができる。
【0048】
機械的混合法により、セラミックス層を炭素粒子の表面に付着させる具体例としては以下のものを挙げることができる。
【0049】
例えば、平均粒子径170nmのAl粒子とを、平均粒子径5〜20μmのメソ黒鉛粒子に、少量のバインダーを添加して自転・公転ミキサーを使って混合することにより、アルミナ粒子が均一に被覆されたメソ黒鉛粒子を形成する。
【0050】
また、セラミックス被覆粉末を作製する方法として、スラリー法を用いてもよい。スラリー法は、炭素粒子をセラミックス粒子のスラリー中に添加することにより、炭素粒子の表面にセラミックス粒子を付着させ、セラミックス層を形成する方法である。セラミックス粒子を炭素粒子に付着させるため、セラミックス粒子のスラリー中に、バインダーを添加しておいてもよい。
【0051】
スラリー法の具体例としては、例えば、AlNのナノ粒子と、バインダーとを含有したスラリー中に、炭素粒子を添加し、混合した後、乾燥する方法が挙げられる。
【0052】
セラミックスと炭素粒子の反応性、セラミックス粒子のサイズ及び形状、セラミックスと炭素粒子の熱膨張率差等を考慮し、気相法、液相法、機械的混合法、スラリー法の内の適切な手段を選択し、セラミックス被覆粉末を形成することができる。また、セラミックス層と炭素粒子の反応性や熱膨張率差を考慮し、異なるセラミックス層を積層したセラミックス層を炭素粒子の上に形成してもよい。
【0053】
以上のようにして得られたセラミックス被覆粉末から成形体を成形し、この成形体を焼結することにより、セラミックス炭素複合材を作製することができる。焼結する方法として、常圧焼結法、ホットプレス焼結法、放電プラズマ焼結法等を用いることができる。この内、放電プラズマ焼結法は、2分〜60分の短時間で高密度焼結ができるので、便利である。また、必要に応じて選択したセラミックスに適合する焼結助剤を、全体の0.5〜20重量%の割合で、セラミックス被覆粉末に混合し、焼結させることができる。
【0054】
図3は、本発明のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を示す模式的断面図である。
【0055】
図3に示すように、本実施形態のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材5は、セラミックス炭素複合材1の表面上に、セラミックス被覆層4を設けることにより構成されている。本実施形態においては、セラミックス炭素複合材1の全表面上に、セラミックス被覆層4が設けられているが、本発明において、セラミックス被覆層4は、必ずしも全表面上に設ける必要はなく、セラミックス炭素複合材1の少なくとも一部の表面上に設けられていればよい。例えば、セラミックス炭素複合材1の上面、下面、及び側面のいずれかにのみ設けられていてもよい。
【0056】
セラミックス被覆層4は、上述のように、酸化物、炭化物、窒化物などのセラミックスから形成することができる。セラミックス被覆層4を形成するセラミックス材料は、セラミックス炭素複合材1においてセラミックス界面層3を形成するセラミックス材料と同一のものであってもよいし、異なる種類のものであってよい。セラミックス被覆層4の組成が、セラミックス界面層3の組成と異なる場合には、上述のように、セラミックス被覆層4の組成を、内部から外部に向うにつれて変化させてもよい。この場合、セラミックス被覆層4の内部の組成を、セラミックス界面層3に近い組成とし、内部から外部に向うにつれて、徐々に異なる組成とすることができる。
【0057】
セラミックス被覆層4を形成する方法としては、上述のように、焼成前のセラミックス炭素複合材1の成形体を成形し、この成形体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層4を形成するためのセラミックス粉末の層を設け、この状態でセラミックス炭素複合材1とセラミックス被覆層4を一体的に焼結する方法が挙げられる。
【0058】
この場合、上述のように、セラミックス被覆層4を複数の層から形成し、セラミックス被覆層4の厚み方向に組成を変化させてもよい。これにより、セラミックス炭素複合材1とセラミックス被覆層4との接着性を高めることができ、全体の強度等の特性を高めることができる。
【0059】
また、セラミックス被覆層4を形成するためのセラミックス粉末として、セラミックス界面層3を形成するセラミックス材料の粉末と、他の粉末とを混合したものを用いてもよい。これにより、セラミックス被覆層4とセラミックス界面層3との接着性を高めることができ、強度等の特性を向上させることができる。
【0060】
また、セラミックス被覆層4を形成する他の方法として、セラミックス炭素複合材1の焼結体を製造し、この焼結体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス焼結板もしくはセラミックス単結晶板を配置し、そのセラミックス焼結板もしくは単結晶板を、セラミックス炭素複合材1の表面上に接合する方法が挙げられる。接合する具体的な方法としては、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、圧接加熱法等が挙げられる。
【0061】
この他、セラミックス炭素複合材の焼結体を基板にし、通常のCVD法や反応性スパッター法でセラミックスを被覆することも無論可能である。
【実施例】
【0062】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
以下の各実施例及び各比較例で得られたセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材については、以下の評価方法により、その特性を評価した。
【0064】
〔焼結性の評価〕
焼結後のセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材について、目視により、割れやセラミックス表面の剥がれ及び変形を評価した。
【0065】
また、かさ密度を測定し、気孔率を算出した。
【0066】
〔耐酸化性試験〕
焼結したセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材の小片を用い、熱重量試験により、昇温速度10℃/分で昇温し、重量減少開始温度を測定し、酸化開始温度とした。
【0067】
〔強度試験〕
焼結したセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を、4mm×2mm×20mmの大きに切り出し、3点曲げ強度試験により曲げ強度を測定した。スパン長を15mm、クロスヘッド速度を0.5mm/分とした。
【0068】
〔熱伝導率の測定〕
直径10mm、厚さ2mmのセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を作製し、レーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定した。
【0069】
〔電気抵抗率の測定〕
焼結したセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材の表面の抵抗率を、直流四探針法で測定した。
【0070】
〔耐発塵性の評価〕
焼結したセラミックス炭素複合材及びセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を、白紙の上に一定の荷重でこすりつけ、白紙の変色を目視により観察し、以下の基準で評価した。
【0071】
〇:白紙の変色なし
△:やや薄く灰色になる
×:容易に黒くなり炭素が付着する
【0072】
(実施例1)
メソ黒鉛粉末(10g、粒子径:5〜20μm)に水(5体積%)を加え混合したスラリーに、NHOを滴下しpH値を約11に調整した後、Al(NO溶液(20重量%)を添加混合し、さらにNHO(28重量%)滴下した。NHOはAl(OH)が全部沈澱すると仮定した量より10倍多い。その後、スラリーを水洗し、メタノール洗浄後、110℃で乾燥した。ついで窒素雰囲気中で、炭素熱還元と窒化処理を1500℃、2時間行った。X線粉末回折とSEM観察から、Al(OH)は殆どAlNに転換し、メソ黒鉛粒子表面をほぼ均一に被覆していた。X線回折の検量線から求めたAlN被覆量は約20体積%である。これ以上被覆量が多くなると、被膜が剥がれたり、割れが多く見られた。このAlN被覆メソ黒鉛粉末を、黒鉛モールドに充填し、放電プラズマ焼結法により1600℃、30MPa、5分間焼結した。得られたセラミックス炭素複合材について、上記のようにして特性を評価した。評価試験の結果を表1に示す。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同じメソ黒鉛粉末(5g)とヒドロキシエチルセルロース水溶液(5重量%、1.5g)をプラスチック容器に入れ、自転・公転ミキサー(型番:AR−310、株式会社シンキー製)により30秒間機械混合した。ついで、Al粉末(平均粒径:100nm、グレードTM−D、大明化学工業株式会社、2.3g)を添加し2分混合後、乾燥した。Al粒子は図4に示すようにメソ黒鉛粉末表面に均一に被覆されていた。Al量は約20体積%である。このAl被覆粉末を黒鉛モールドに充填し、温度2000℃、圧力40MPaの条件で20分間加圧し、放電プラズマ焼結を行った。試験結果を表1に示す。また、焼結したAl炭素複合材の組織を図5に示す。
【0074】
(実施例3)
アクリルアミド(8g)、及びN,N’メチレンビスアクリルアミド(1g)をイソプロパノール(45g)に溶解したバインダー溶液6.23gに、球状天然黒鉛粉末(25g)を入れ1分間遠心混合し、ついでAlN粉末(平均粒径:0.6μm、グレード:H、株式会社トクヤマ製、9.35g)を添加し、3分間混合しスラリーを作製した。その後、このスラリーをプラスチック製モールドに流し込み、90℃で12時間乾燥させた。この成形体を実施例1と同じ条件で放電プラズマ焼結した。試験結果を表1に示す。球状天然黒鉛粒子としては、平均粒子径20μmのものを用いた。
【0075】
(実施例4)
実施例2で作製したAl被覆メソ黒鉛粉末を黒鉛モールドに充填し、その上に焼結助剤のY(5重量%)を添加したAlN粉末を積層し、実施例2と同じ条件で放電プラズマ焼結した。緻密なAlN層(厚み1mm)が被覆でき、割れや剥がれは生じなかった。また、全表面をAlN層で被覆するサンプルも作製したが、割れ等はなかった。
【0076】
(比較例1)
実施例3で使用した球状天然黒鉛粉末(10g)とSiC微粉末(SERA−A06、平均粒径:600nm、信濃電気精錬社製、12g)、をミルでよく混合した後、黒鉛モールドに充填し、放電プラズマ焼結法により実施例1と同じ条件で焼結した。評価試験の結果を表1に示す。
【0077】
(比較例2)
実施例3で使用した球状天然黒鉛粉末を、セラミックス粒子を被覆することなく黒鉛モールドに充填し、放電プラズマ焼結法により実施例1と同じ条件で焼結した。評価試験の結果を表1に示す。
【0078】
(比較例3)
実施例3で使用した球状天然黒鉛粉末(10g)とAlN粉末(平均粒径0.6μm:3.74g、トクヤマ社製)を通常の回転ミルで半日混合した後、黒鉛モールドに充填し、実施例1と同じ条件で放電プラズマ焼結した。試験結果を表1に示す。
【0079】
(比較例4)
実施例1で使用したメソ黒鉛粉末を、セラミックス粒子を被覆することなく黒鉛モールドに充填し、放電プラズマ焼結法により実施例1と同じ条件で焼結した。該黒鉛粉末は焼結せず固まらなかった。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に従う実施例1〜3のセラミックス炭素複合材及び実施例4のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材は、セラミックスに比べ軽量でかつ耐酸化性、耐発塵性、熱伝導性、電気伝導性、強度、緻密性に優れていることがわかる。なお、実施例のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材の酸化開始温度について、表1において「測定されず」としているが、これは、セラミックス被覆層でコーティングされているので、測定温度域では酸化がほとんど進行しないことを示している。
【符号の説明】
【0082】
1…セラミックス炭素複合材
2…炭素粒子
3…セラミックス界面層
4…セラミックス被覆層
5…セラミックス被覆セラミックス炭素複合材
10…炭素粒子
11…セラミックス層
12…セラミックス被覆粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子同士間にセラミックスの界面層が形成されたことを特徴とするセラミックス炭素複合材。
【請求項2】
前記セラミックスの界面層が、AlN、Al、SiC、Si、BC、TaC、NbC、ZrC、ZnO、SiO及びZrOからなる群より選ばれる少なくとも1種から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス炭素複合材。
【請求項3】
前記セラミックスの界面層が、黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子間で、連続した3次元網目構造を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックス炭素複合材。
【請求項4】
前記セラミックスの界面層の厚さが、100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミックス炭素複合材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックス炭素複合材を製造する方法であって、
黒鉛もしくは黒鉛を含む炭素粒子の表面に、前記セラミックスからなるセラミックス層を被覆したセラミックス被覆粉末を作製する工程と、
前記セラミックス被覆粉末から成形体を成形し、この成形体を焼結して、セラミックス炭素複合材を作製する工程とを備えるセラミックス炭素複合材の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス層を、気相法、液相法、機械的混合法、またはこれらを組み合わせた方法により前記炭素粒子の表面に形成することを特徴とする請求項5に記載のセラミックス炭素複合材の製造方法。
【請求項7】
前記炭素粒子を、セラミックス粒子のスラリー中に添加することにより、前記炭素粒子の表面に前記セラミックス粒子を付着させ前記セラミックス層を形成することを特徴とする請求項5に記載のセラミックス炭素複合材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックス炭素複合材の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層を形成したことを特徴とするセラミックス被覆セラミックス炭素複合材。
【請求項9】
前記セラミックス被覆層が、AlN、Al、MgO、SiC、Si、BC、TaC、NbC、ZrC、ZnO、SiO及びZrOからなる群より選ばれる少なくとも1種から形成されていることを特徴とする請求項8に記載のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材。
【請求項10】
前記セラミックス炭素複合材におけるセラミックスの界面層を形成するセラミックス材料と、前記セラミックス被覆層を形成するセラミックス材料とが異なる場合において、前記セラミックス被覆層の組成が、内部から外部に向かうにつれて変化していることを特徴とする請求項8または9に記載のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を製造する方法であって、
焼結前のセラミックス炭素複合材の成形体を成形する工程と、
前記成形体の表面の少なくとも一部の上に、前記セラミックス被覆層を形成するためのセラミックス粉末の層を設ける工程と、
前記セラミックス粉末の層を形成したセラミックス炭素複合材の成形体を、一体的に焼結する工程とを備えることを特徴とするセラミックス被覆セラミックス炭素複合材の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか1項に記載のセラミックス被覆セラミックス炭素複合材を製造する方法であって、
セラミックス炭素複合体の焼結体を製造する工程と、
前記セラミックス炭素複合体の焼結体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス焼結板もしくは単結晶板を配置し接合することにより、前記セラミックス被覆層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックス被覆セラミックス炭素複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−51867(P2011−51867A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205042(P2009−205042)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】