説明

セラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法

【課題】共晶アルミニウム合金や過共晶アルミニウム合金で形成されたセラミックス粒子強化アルミニウム合金をリサイクルできるセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法を提供する。
【解決手段】セラミックス粒子で強化した共晶または過共晶アルミニウム合金の溶湯にアルミニウムを添加し、アルミニウム合金の組成を亜共晶にしてから、半凝固の状態まで溶湯アルミニウム合金を冷却し、半凝固撹拌法で、金属塩からなるフラックス粒子を添加した後、更に撹拌しながら半凝固状態の亜共晶アルミニウム合金を700℃〜800℃までに加熱することにより、セラミックス粒子を溶湯状態のアルミニウム合金から分離させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粒子強化アルミニウム複合材料からセラミックス粒子とアルミニウム合金を分離させてリサイクルするセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度、耐熱性や耐摩耗性に優れるセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料は、自動車の軽量化や省エネルギーに期待されているが、そのリサイクルは大きな問題になっている。
【0003】
特に、ピストン用アルミニウム合金は一般的に共晶や過共晶のAl−Si系合金を使うため、従来の方法ではセラミックス粒子等の強化材を完全にアルミニウム合金から分離させることができなく、セラミックス粒子を完全にアルミニウム合金から分離させる方法が望まれている。
【0004】
一般に、アルミニウム合金の鋳造工程においては、溶湯アルミニウム合金を700℃〜800℃の温度に加熱する必要があり、アルミニウムや他の合金元素の酸化で溶湯アルミニウムの表面から酸化膜が生じる。酸化膜などの介在物がアルミニウム合金に混入してしまうと、鋳造性の悪化、機械的性質の低下、表面処理欠陥の増加など多くの問題を生じる。したがって、溶湯処理によって十分清浄な溶湯とし、鋳造工程に送る必要がある。
【0005】
フラックス粒子を使って酸化膜等の介在物を除去する方法は、最も一般的な方法である。フラックスの融点は溶湯アルミニウム合金の温度より低く、一般にフラックスを、680℃〜800℃の温度範囲に溶湯アルミニウム合金に添加する。溶湯アルミニウム合金の温度は、フラックスの融点より高いので、フラックス粒子が投入された時点ですぐ溶融塩を形成し、酸化物を吸着後、比重差で溶湯中から浮上除去することができる。
【0006】
一方、アルミニウム合金の耐熱性、耐摩耗性等を改善させるため、セラミックスの粒子、ウィスカーや繊維を撹拌法、粉末冶金法や圧力含浸法等の方法でアルミニウム合金に複合している。
【0007】
セラミックス強化材(粒子、ウィスカーや繊維)をアルミニウム合金に複合すると、アルミニウム合金の性能が大幅に改善されるが、セラミックス強化材が複合されているアルミ複合材料をリサイクルするとき、セラミックス強化材をアルミニウム合金から分離させる必要がある。
【0008】
従来の技術では、700℃以上の温度で溶かしたアルミニウム複合材料にフラックスを添加してセラミックス粒子を分離させる方法(特許文献1)やフラックスの上にアルミニウム複合材料を乗せた状態で加熱溶融し、アルミニウム合金を分離させる方法(特許文献2)がある。いずれの方法でも多量のフラックス粒子を使っている(例えば、特許文献1では、100gのアルミニウム複合材料に対し、40gのフラックスを使用する)が、アルミニウム合金からセラミックス強化材を100%分離させることができない。
【0009】
すなわち、700℃以上の温度でフラックス粒子を溶湯アルミニウム合金に添加すると、フラックス粒子がすぐ溶融塩になり、溶融塩と溶湯アルミニウム合金の比重の差で両者が充分に混合できない。その場合、多量のフラックスを添加してもセラミックス強化材を完全に分離することができない。
【0010】
そこで、特許文献3では、セラミックス粒子強化アルミニウム合金を状態図で固相と液相が共存する温度範囲まで加熱して半凝固状態になるように溶解し、この半凝固状態のアルミニウム合金に撹拌法によりフラックス粒子を添加し、その後、撹拌しながら半凝固状態のアルミニウム合金を700℃〜800℃の温度範囲に加熱して、セラミックス粒子を溶湯状態のアルミニウム合金から分離させる方法を提案している。
【0011】
この方法よれば、半凝固状態のアルミニウム合金にフラックス粒子を混ぜることにより、溶融塩になる前のフラックス粒子を容易にかつ均一に分散でき、その後、アルミニウム合金を700℃〜800℃まで加熱することで、フラックス粒子の溶融塩でセラミックス粒子を吸着させて分離させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−59120号公報
【特許文献2】特開平7−90408号公報
【特許文献3】特開2010−108312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、固相と液相が共存できない共晶アルミニウム合金にはこの方法は使えない。また、Al−Si系のようなSiが12.6mass%以上の過共晶合金においては、表皮生成型の凝固をするため、固相率が高くなり、撹拌しても、容器の内表面や溶湯の表面に凝固層が生成しやすいので、半凝固撹拌法を使ってフラックス粒子を添加しようとしても、すでに凝固した部分への分散が期待できなく、過共晶合金への応用は難しい。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、共晶アルミニウム合金や過共晶アルミニウム合金で形成されたセラミックス粒子強化アルミニウム合金をリサイクルできるセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、セラミックス粒子で強化した共晶または過共晶アルミニウム合金の溶湯にアルミニウムを添加し、アルミニウム合金の組成を亜共晶にしてから、半凝固の状態まで溶湯アルミニウム合金を冷却し、半凝固撹拌法で、金属塩からなるフラックス粒子を添加した後、更に撹拌しながら半凝固状態の亜共晶アルミニウム合金を700℃〜800℃までに加熱することにより、セラミックス粒子を溶湯状態のアルミニウム合金から分離させることを特徴とするセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法である。
【0016】
請求項2の発明は、フラックス粒子は、金属ハロゲン化物(KCl、NaCl、NaF、KF、CaCl2、CaF2、MgCl2、Na3AlF6、NaAlF4、KAlF4、K3AlF6)、金属硫酸塩(K2SO4、Na2SO4、MgSO4、カリウムミョウバンKAl(SO42)、金属炭酸塩、金属硝酸塩の中から選ばれる少なくとも1種の金属塩からなる請求項1記載のセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、セラミックス粒子強化アルミニウム複合材料からセラミックス粒子を完全に分離することができ、セラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクルが可能になり、地球環境の保全や省エネルギーに貢献できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明においてリサイクルの対象とするAl−Si系合金の状態図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0020】
先ず、本発明は、ピストンなどの自動車部品に用いられた、高強度、耐熱性や耐摩耗性に優れるセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料の鋳造品をリサイクルするものである。
【0021】
一般に鋳物用アルミニウム合金のほとんどは、Al−Si二元合金やその二元合金にCu、Mg、Ni等を少量含有させた多元Al−Si合金が鋳造用アルミニウム合金として用いられており、セラミック粒子としては、炭化ケイ素(SiC)、スピネル(MgAl24)、酸化アルミニウム(Al23)、窒化ケイ素(Si34)等の粒子が用いられている。
【0022】
図1は、Al−Si二元状態図を示したもので、Al−Si系はSiが12.6mass%に共晶点をもつ共晶系で、液相Lからα−Al+Siの共晶凝固を行い、Siが12.6mass%以下では亜共晶組成で、12.6mass%以上では過共晶組成となる。ここで、亜共晶組成では、温度低下で液相から初晶としてα−Al相を生成するが、過共晶組成では、初晶Si相が塊状に析出して粗大に成長し、これが表皮生成型の凝固となってしまい、フラックス粒子と混合できなくなってしまう。
【0023】
そこで、本発明は、セラミックス粒子で強化した共晶または過共晶アルミニウム合金の溶湯にアルミニウムを添加し、アルミニウム合金の組成を亜共晶にしてから、半凝固の状態まで溶湯アルミニウム合金を冷却し、半凝固撹拌法でフラックス粒子(単一の金属塩、または複合の金属塩(2種以上の金属塩の混合物))を添加した後、更に撹拌しながら半凝固状態の亜共晶アルミニウム合金を700℃〜800℃までに加熱することにより、セラミックス粒子を溶湯状態のアルミニウム合金から分離させるようにしたものである。
【0024】
フラックス粒子は、金属ハロゲン化物(KCl、NaCl、NaF、KF、CaCl2、CaF2、MgCl2、Na3AlF6、NaAlF4、KAlF4、K3AlF6等)、金属硫酸塩(K2SO4、Na2SO4、MgSO4、カリウムミョウバンKAl(SO42等)、金属炭酸塩、金属硝酸塩の中から選ばれる少なくとも1種の金属塩(単一の金属塩、または複合の金属塩)である。
【0025】
粒子強化共晶または過共晶アルミニウム合金の溶湯に、アルミニウムを添加し、アルミニウム合金の組成を亜共晶にしてから、すなわち、例えば、Al−Si二元合金においては、Siが12.6mass%以下の亜共晶Al−Si合金の半凝固の温度範囲で撹拌すると、微細な球状の初晶α−Alが液相の中に晶出するため、固相率を上げても(半凝固撹拌の温度を下げる)容器内壁近傍に凝固層が生成されなく、固相−液相が共存する広い温度範囲で良い流動性が保たれるので、後に添加されるフラックスの粒子は容易に半凝固のアルミニウム合金に分散できる。
【0026】
フラックスの融点が半凝固の溶湯アルミニウム合金の温度より高いと、固体の状態のフラックス粒子が半凝固状態の溶湯アルミニウム合金に添加することができ、容易にかつ均一にアルミニウム合金に分散できる。ただし、フラックスの融点が半凝固のアルミニウム合金より低い場合でも、半凝固状態の溶湯アルミニウム合金中に微細のアルミニウム固体粒子が存在するので、溶融状態のフラックスが均一に半凝固の溶湯アルミニウム合金に分散できる。フラックス粒子の粒径は一般に10μm〜1mmであるが、フラックス粒子が細かければ細かいほど、少量のフラックス添加でもセラミックス粒子をアルミニウム合金から分離できる。フラックスが単一の金属塩の場合、その融点は金属塩そのものの融点であるが、2種または2種以上の金属塩を複合した場合、その融点が変わる。例えば、二元共晶、三元共晶の場合、その融点は単一の場合より低くなる。従って、複合金属塩の場合、その配合比を調整することによりその融点も調整できる。フラックスの融点は500℃〜700℃が好ましい。
【0027】
アルミニウム合金はAl−Si、Al−Mg、Al−Cu等の共晶または過共晶合金で、その合金に更にアルミニウムを添加して、合金の組成を亜共晶にしてから、固相(微細な球状の初晶α−Al)と液相が共存できる範囲を作り出し、その状態で半凝固撹拌を実施することにより、フラックスと半凝固の亜共晶アルミニウム合金は容易に混ぜることができる。
【0028】
また、強化に用いられているセラミックス粒子はSiC、Al23、Si34、MgAl24、B4C等の粒子である。
【0029】
フラックス粒子を分散した半凝固の溶湯アルミニウム合金を再度700℃から800℃に加熱すると、フラックス成分が溶融塩になり、セラミックス粒子や酸化物被膜を吸着後比重差で溶湯中から浮上し、溶湯アルミニウム合金からセラミックス粒子を完全に分離できる。溶湯アルミニウム合金の表面に浮いているセラミックス粒子とフラックスが簡単に採取できる。
【0030】
一方、NaClなどのような水溶性のフラックスを使用すれば、セラミックス粒子とフラックスの分離ができ、セラミックス粒子のリサイクルもできる。
【0031】
このように、本発明は、Al−Si系のアルミニウム合金にアルミニウムを加えて、その組成を亜共晶にしてからフラックス粒子を半凝固状態で撹拌することで、その後加熱により、セラミックス粒子強化アルミニウム複合材料からセラミックス粒子を完全に分離することができ、セラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクルが可能になり、地球環境の保全や省エネルギーに貢献できる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例と比較例を説明する。
【0033】
実施例1:
SiC粒子強化アルミニウム複合材料(SiC粒子:粒径10μm、8mass%添加;アルミニウム合金:AC8A(Al−12.2mass%Si−1mass%Cu−1mass%Ni−1.1mass%Mg))20kgにSiの含有量が7mass%になるようにAlを添加し、その溶湯を半凝固状態に冷却した後、半凝固撹拌法でフラックス(NaCl、KCl、NaFとNa3AlF6の混合物)100gを添加した後、撹拌しながらSiC粒子を含んだ溶湯アルミニウム合金を735℃に加熱し、更に10min撹拌した。その後、撹拌を止め、浮上したSiC粒子とフラックスを採取した。溶湯アルミニウム合金を735℃で1時間静置した後、金型に鋳込んだ。回収されたアルミニウム合金の組織を観察し、SiC粒子が含まれていないことが確認された。
【0034】
実施例2:
MgAl24粒子強化アルミニウム複合材料(MgAl24粒子:粒径9μm、8mass%添加;アルミニウム合金:AC9B(Al−18mass%Si−1mass%Cu−1mass%Ni−1mass%Mg))20kgにSiの含有量が8.5mass%になるようにAlを添加し、その溶湯を半凝固状態に冷却した後、半凝固撹拌法でフラックス(KCl、K3AlF6、K2SO4の混合物)110gを添加した後、撹拌しながらMgAl24粒子を含んだ溶湯アルミニウム合金を735℃に加熱し、更に10min撹拌した。その後、撹拌を止め、浮上したMgAl24粒子とフラックスを採取した。溶湯アルミニウム合金を735℃で1時間静置した後、金型に鋳込んだ。回収されたアルミニウム合金の組織を観察し、MgAl24粒子が含まれていないことが確認された。
【0035】
比較例1:
SiC粒子強化アルミニウム複合材料(SiC粒子:粒径10μm、8mass%添加;共晶アルミニウム合金:AC8A)20kgを735℃に加熱して溶かし、撹拌しながら溶湯温度を凝固点まで冷却したが、半凝固の状態にならず、半凝固状態でフラックスを添加することができなかった。その後、再度アルミニウム複合材料を735℃に加熱して溶かし、撹拌しながらフラックス(NaCl、KCl、NaFとNa3AlF6の混合物)250gを添加した後、10min撹拌した。その後、撹拌を止め、浮上したSiC粒子とフラックスを採取した。溶湯アルミニウム合金を735℃で1時間静置した後、金型に鋳込んだ。その組織を観察し、多量のSiC粒子(添加されたSiC粒子の40%程度)が含まれていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子で強化した共晶または過共晶アルミニウム合金の溶湯にアルミニウムを添加し、アルミニウム合金の組成を亜共晶にしてから、半凝固の状態まで溶湯アルミニウム合金を冷却し、半凝固撹拌法で、金属塩からなるフラックス粒子を添加した後、更に撹拌しながら半凝固状態の亜共晶アルミニウム合金を700℃〜800℃までに加熱することにより、セラミックス粒子を溶湯状態のアルミニウム合金から分離させることを特徴とするセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法。
【請求項2】
フラックス粒子は、金属ハロゲン化物(KCl、NaCl、NaF、KF、CaCl2、CaF2、MgCl2、Na3AlF6、NaAlF4、KAlF4、K3AlF6)、金属硫酸塩(K2SO4、Na2SO4、MgSO4、カリウムミョウバンKAl(SO42)、金属炭酸塩、金属硝酸塩の中から選ばれる少なくとも1種の金属塩からなる請求項1記載のセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料のリサイクル方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97324(P2012−97324A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246037(P2010−246037)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】