説明

セラミックス/金属窒化物コンポジット及び、カプセルフリー熱間静水圧プレスによるセラミックス/金属窒化物コンポジットの製造方法

【課題】95%以上の相対密度を有するセラミックス/金属窒化物コンポジット、及び、当該セラミックス/金属窒化物コンポジットの製造方法を提供する。
【解決手段】金属粒子を粉体状のセラミックスに混合して得た混合粉末を用いて成形体を製造する工程Aと、前記成形体を、熱間等方圧加圧法の実施に適した容器内に設置して圧力1〜50MPaの窒素ガス雰囲気下で、徐々に昇温させて1200〜1800℃の温度で一次熱処理を行い、当該熱処理により得られる焼結体の組織を閉気孔として金属粒子を窒化させる工程Bと、その後、圧力100MPa以上の窒素ガスを容器内に導入して1200〜1800℃の温度を一定時間維持して二次熱処理を行い、相対密度95%以上のセラミックス/金属窒化物コンポジットを製造する工程Cを含む。好ましい金属粒子はモリブデン粉末やチタン粉末であり、好ましいセラミックスはアルミナである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い密度を有したセラミックス/金属窒化物コンポジット、特に高密度Al/MoNコンポジットに関する。又、本発明は、カプセルフリー熱間静水圧プレスによる当該高密度セラミックス/金属窒化物コンポジットの製造方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
熱間静水圧プレス(HIP)は、高温高圧下で金属やセラミックス等を熱処理して高密度焼結体を作製することが出来るが、圧力媒体として気体を用いるため、試料にガスが貫入しないようガスタイトにする必要があった。それ故、従来は緻密な金属容器やガラス内に試料を密閉するか、HIP処理以前に一次焼結して試料の相対密度を92〜93%以上に上げて、ガスが試料に侵入しない閉気孔体にすることが求められ、多くの複雑なプロセスや、HIP処理する試料に制限があった。
また、金属窒化物とセラミックスのコンポジットを作製する際には、市販の金属窒化物を購入し、これをセラミックスと混合し、次に焼結しなければならなかった。この焼結プロセスでは金属窒化物が高温下で分解したりする場合も多く、希望するコンポジットを作製することは困難であった。
【0003】
一般に、金属窒化物は、高融点、高硬度、優れた摩擦耗性、化学的安定性を有するため、高温構造用セラミックスや工具のコーティングなどに広く用いられている。電子セラミックスとしての金属窒化物は、ハード磁性材料として期待されているものや巨大飽和磁化を示すものなど優れた機能は多岐に及ぶ。
【0004】
金属モリブデンMoは、高融点(T=2610℃)を示し、化学的に安定であり、セラミック‐金属系コンポジットの金属部材として用いられている。しかし、Moは常圧下では窒素Nと直接反応せず、ハロゲン化モリブデンに高温でアンモニアを作用させることによってMoNを合成するのが一般的である。Alと他の元素や化合物とのコンポジットの作製については多くの報告例があるが、MoNとのコンポジット作製に関する研究は知られていない。
窒化モリブデンMoNは、インドールの水素化脱窒素反応(HDN)や、チオフェンの真空ガスオイル水素化脱硫反応(HDS)の活性触媒として使用されているが、その物性に関しての知見はほとんどなく、物性、特性として未知の部分が多く存在している。MoNの合成方法としては、HPMo1240・26HOとNHの間での反応(非特許文献1)、MoOとNHの反応(非特許文献2)、レーザー促進窒化反応(非特許文献3)、LiNもしくはNaNとMoClとの反応(非特許文献4)、オートクレーブ中でのMoClとNaNとの反応(非特許文献5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Li, J.S. Lee: “Molybdenum Nitride and Carbide Prepared from Heteropolyacids: 1. Preparation and Characterization”, J. Catal., 162 (1996) 76-97
【非特許文献2】Z.B. Wei, P. Grange, B. Delmon: “XPS and XRD studies of fresh and sulfided Mo2N”, Appl. Surf. Sci., 135 (1998) 107-114
【非特許文献3】J.D. Wu, C.Z. Wu, Z.M. Song, F. M. Li: “Preparation of molybdenum nitrides by laser-promoted nitridation reaction”, Thin Solid Films, 311 (1997) 62-66
【非特許文献4】X. P. Hao, M.Y. Yu, D.L. Cui, X.G. Xu, Q.L. Wang, M.H. Jiang: “The effect of temperature on the synthesis of BN nanocrystals”, J. Cryst. Growth, 241 (2002) 124-128
【非特許文献5】P. Cai, Z. Yang, C. Wang, Y. Gu, Y. Qian: “A Simple Approach of Synthesize Mo2N Nanocrystals”, Chem. Lett., 34 (2005)1360-1361
【0006】
このように、実際に利用されている窒化物(AlN、BN、Si、TiN)以外の窒化物の物性についてはあまり報告されておらず、相対密度95%以上のセラミックス/金属窒化物コンポジット、特に高密度Al/MoNコンポジットを、低コストでNと直接反応させて製造することが可能な方法については知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の製法では得られなかった相対密度95%以上の緻密で高密度のセラミックス/金属窒化物コンポジット、特に高密度Al/MoNコンポジットを、簡単に低コストで製造可能な方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、種々検討を行なった結果、HIP容器内に成形体(または金属粒子をセラミックス粉体に混合した成形体)を設置し、セラミックスの母相(マトリックス)が閉気孔となる温度・時間まで、比較的低圧の窒素ガス雰囲気下で熱処理して金属粒子を窒化し、閉気孔体になったら、高圧のガスをHIP容器内に導入し、高圧ガス雰囲気下で熱処理することで、相対密度95%以上の高密度のセラミックス/金属窒化物コンポジットが作製できることを見い出して、本発明を完成した。
【0008】
より詳しくは、Alの成形体を高温で焼結する際、i)Mo粒子をチッ化させるのに必要最少限のNをAl焼結体内に閉じ込めながら、ii) 緻密化を促進して系全体を閉気孔にし、成形体内部に分散させたMo粒子をチッ化させることによりAl焼結体内の気孔生成要因として存在するガスを消費させ、iii) 次いで系外部のガス圧を上げて、カプセルフリーの熱間静水圧プレスではあるがAl/MoNコンポジットそれ自体をカプセル容器化して緻密化する言わば、金属窒化物の合成と同時にコンポジットを焼結するプロセスによって、相対密度95%以上の高密度コンポジットが低コストで製造できることを見い出し、本発明を完成した。このような製法により得られたAl/MoNコンポジットについては、その微細構造の観察および機械的、その他の特性についても評価を行なった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決可能な本発明の製法は、カプセルフリー熱間静水圧プレスにより相対密度95%以上のセラミックス/金属窒化物コンポジットを製造するための方法であって、当該製法が、
工程A:金属粒子を粉体状のセラミックスに混合して得た混合粉末を用いて成形体を製造する工程、
工程B:前記工程Aで得られた成形体を、熱間静水圧プレスの実施に適した容器内に設置して圧力1〜50MPaの窒素ガス雰囲気下で、徐々に昇温させて1200〜1800℃の温度で一次熱処理を行い、当該一次熱処理により得られる焼結体の組織を閉気孔として前記金属粒子を窒化させる工程、及び
工程C:前記工程Bの後、圧力100MPa以上の窒素ガスを前記容器内に導入して1200〜1800℃の温度を一定時間維持して二次熱処理を行い、相対密度95%以上のセラミックス/金属窒化物コンポジットを製造する工程
とを含むことを特徴とし、図1には本発明の製法のフローチャートが示されている。
【0010】
又、本発明は、前記の特徴を有した製法において、前記金属粒子が、モリブデン粉末、チタン粉末から選ばれたものであり、セラミックスがアルミナ、酸化ジルコニウムから選ばれたものであることを特徴とするものでもある。
【0011】
更に本発明は、前記の特徴を有した製法によって得られた95%以上の相対密度を有するセラミックス/金属窒化物コンポジット、特に95%以上の相対密度を有するAl/MoNコンポジットである。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、閉気孔からなる相対密度92〜93%以上の一次焼結体をHIP処理以前に準備せずに、カプセルフリーで成形体から直接高密度焼結をおこなうことができ、通常のNガス雰囲気下では合成出来ない金属窒化物の熱間静水圧プレス(HIP)プロセスによる合成同時焼結が可能となる。これにより、異形状の試料を簡単に低コストで高密度化でき、従来作製出来なかった高密度の金属窒化物/セラミックスコンポジットが得られ、HIPの新規用途開発が開ける。
特に、本発明の製法においては、Al/Mo混合圧粉体をHIPを用いて高温高窒素圧下で処理し、さらにこのMoの窒化とAlの焼結により圧粉体の相対密度を上げて開気孔を無くし、カプセルフリーで高圧Nを圧力媒体として用いることで、緻密で高密度のAl/MoNコンポジットを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製法のフローチャートである。
【図2】本発明の製法におけるHIP処理を実施するのに適した、カーボンるつぼ内の試料設置状態を示す図である。
【図3】本実施例にて使用した熱間静水圧プレス(HIP)パターンを示す図である。
【図4】(a)は、1500℃/16Mpa/1hのHIP後のAl/Mo=91.24:8.76vol%コンポジット粉末成形体についての結晶相X線回折パターンであり、(b)は、1500℃/20Mpa/1hのHIP後のAl/Mo=91.24:8.76vol%コンポジット粉末成形体についての結晶相X線回折パターンである。
【図5】1500℃/20Mpa/1hのHIPによって製造されたAl/MoN=90/10vol%コンポジット粉末のTG/DTA曲線である。
【図6】(a)100/0、(b)97/3、(c)90/10、及び(d)60/40vol%の組成を有したカプセルフリーNHIP(1500℃/20Mpa/1h-1500℃/200Mpa/1h)焼結Al/MoNコンポジット材料についてのX線回折パターンである。
【図7】MoN含量が変化した時のAl/MoNコンポジットの相対密度の変化を示すグラフである。
【図8】(a)100/0, (b)95/5, (c)90/10, (d)80/20, (e)60/40及び(f)40/60vol%の組成を有したHIP(1500℃/20Mpa/1h-1500℃/200Mpa/1h)焼結Al/MoNコンポジットの破砕表面のSEM写真である。
【図9】種々の組成を有したHIP焼結Al/MoNコンポジット材料の機械特性を示すグラフであり、(a)は曲げ強度(σ)、(b)はビッカース硬度(H)、(c)は破砕強度(KIC)である。
【図10】種々の組成を有したHIP焼結Al/MoNコンポジット材料のヤング率を示すグラフであり、白丸は実測値、黒丸は相対密度で除した校正値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明のカプセルフリー熱間静水圧プレスによるセラミックス/金属窒化物コンポジットの製造方法における各工程について説明する。
第1の工程Aでは、最初に、出発原料としての金属粉末とセラミックス粉末を、チッ化後に金属の全てが金属チッ化物になると仮定した量でそれぞれ秤量し、混合して混合粉末とするが、原料としてアルミナ粉末とモリブデン粉末を使用する場合、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜60/40、好ましくは99/1〜80/20となるようにして秤量を行なう。これは、窒化モリブデンの割合が40体積%を超えると焼結体の密度が低くなって強度が低下するためである。尚、本発明では、出発原料として市販のものが利用可能であり、モリブデン粉末の他、チタン粉末を使用することもでき、セラミックス粉末としてはアルミナ粉末の他、酸化ジルコニウム粉末を使用することもできる。
本発明における金属粉末とセラミックス粉末との混合方法は、均質な混合が達成できる方法であれば特に限定されるものではないが、遊星ボールミルにより酸化ジルコニウム製のポットとボールを用いてアルコール中で一定時間湿式混合を行うのが好ましい。得られた混合物は乾燥を行った後、整粒し、金型成形により所望の形状の成形体とする。この成形体は、ついで冷間静水圧プレス(CIP)処理しても良い。
【0015】
本発明における第2の工程Bでは、前記工程Aで得られた成形体を、熱間静水圧プレスの実施に適した容器内に設置して圧力1〜50MPa(金属粉末としてモリブデンを使用する場合には20〜50MPa)の窒素ガス雰囲気下で、徐々に昇温させて1200〜1800℃、好ましくは1400〜1600℃の温度を一定時間維持して一次熱処理を行う。工程Bにおいては、このような熱処理によって、窒素をアルミナ焼結体内に閉じ込めながら、緻密化を促進して系全体を閉気孔にし、成形体内部に分散させた金属粒子をチッ化させることによりアルミナ焼結体内の気孔生成要因として存在するガスを消費させる。例えば金属としてモリブデンを使用した場合には、相対密度が92〜93%になるまで金属粒子がチッ化される。
本発明の製法におけるHIP処理を実施するのに適した装置としては、例えば図2に示されるようなカプセルフリーHIP装置が挙げられ、この図2には、カーボンるつぼ内の試料の設置状態が示されており、窒素ガスは、カーボンるつぼの上方から直接、及び/又は下方から粒子径の大きなアルミナ粉末を通して供給される。
【0016】
そして、最終工程の工程Cにおいては、前記工程Bの後、100MPa以上、好ましくは100〜300MPa、特に好ましくは150〜200MPaの高圧窒素ガスを容器内に導入して1200〜1800℃、好ましくは1400〜1600℃の温度を一定時間維持して二次熱処理を行うことにより、コンポジットが緻密化され、95%以上の相対密度を有する本発明のセラミックス/金属窒化物コンポジットが得られる。
例えば、金属としてモリブデンを使用し、工程BにおけるHIP条件が1500℃/20MPa/1hで、工程CにおけるHIP条件が1500℃/200MPa/1hである場合、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜60/40の組成の成形体からは相対密度96%以上の焼結体が得られ、アルミナ:窒化モリブデンの体積比が99/1〜80/20の組成の成形体からは相対密度98%以上の焼結体(Al/MoNコンポジット)が得られる。
【実施例】
【0017】
1.焼結体(Al/MoNコンポジット)の製造例
出発原料としてAl粉末(大明化学工業社製、TM-DAR:平均粒径P〜0.1 μm、比表面積:14.5m/g、純度≧99.9%)とMo粉末(日本新金属社製、Mo-H, P〜0.6μm、純度≧99.8%)を用いた。各種粉末を、チッ化後Moが全てMoNになると仮定し、Al/MoN=100/0〜40/60 vol%となるよう、AlとMoをAl/Mo=100/0〜43.6/56.4 vol%の配合比で秤量した(表1参照)。遊星ボールミルにより酸化ジルコニウム製のポットとボール(1mmφ)を用いてメタノール中にて30分間湿式混合・解砕を行なった。大気中100℃で乾燥して得られた混合粉末を整粒(開口径<44μm)後、一軸金型成形(内径20mm/10Mpa)し、ついで冷間静水圧(245Mpa)プレス処理した。以下の表1には、245 Mpaの静水圧プレス成形により製造された粉末成形体の組成及び密度が示されている。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示されるように、相対密度は56.9%(Al/Mo=100/0 vol%)からMoの添加量が8.76 vol%(Al/MoN=90/10vol%相当)までは若干低下したが、さらにMoが増加すると 金属の塑性変形により単調に63.9%(Al/Mo=43.6/56.4 vol%)まで増加し、緻密で均質な成形体が得られた。
【0020】
焼結は、2段階のカプセルフリーHIP(神戸製鋼社製:System 5x)で行なった。カーボンヒーターからの蒸発炭素によるMo粒子の炭化を抑制できる様に成形体を、図2に示されるようにしてアルミナルツボ内に設置し、2回の減圧置換後、窒素源兼圧力媒体として窒素を使用し、昇温速度は600℃/hとしてHIP処理を行なった。各種予備実験の結果、最終的に採用したHIPパターンを図3に示す。このHIPパターンでは、昇温時にMoを一部チッ化させた後、第1段階では1500℃/16および20MPa/1h(図3(i)〜(ii) に示す領域)にてアルミナ基焼結体を閉気孔にし、窒素を焼結体内にMoN生成するのに必要な量を確保することを目的とした。第2段階は図3(iii) 〜(iv)に示す領域で、1500℃/200MPa/1hという条件下で主としてコンポジットを緻密化することを試みた。なお、Al粉体の窒素中でのHIP焼結の条件は、予備実験から決定した。
【0021】
2.焼結体の評価
焼結後試料の結晶相の同定は、粉末X線回折(XRD、リガク社製:RINT-2500)を用い、生成したコンポジット中のMoNの大気中での安定性を、示差熱分析(DTA)および熱重量分析(TG)の測定(島津製作所社製:DTG-60H)により検証した。その際、高純度α‐Alを標準物質として用い、大気中にて室温から1000℃まで昇温速度10℃/minで測定を行った。
Al/MoN=100/0〜40/60 vol%相当の焼結体破面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子社製:JEOL7000)により微細構造を観察し、平均結晶粒径をインターセプト法(M.I. Mendelson; “Average Grain Size in Polycrystalline Ceramics”, J. Am. Ceram.Soc., 52 (1969) 443-446)により求め、アルキメデス法により嵩密度を測定した。機械的特性測定用試験片(〜3×4×15 mm)を焼結体からダイヤモンドカッターで切り出し、4側面を鏡面研磨(ダイヤモンド砥粒:1〜3μmφ)した。機械的特性としてスパン8mm、クロスヘッドスピード0.5 mm/minで3点曲げ強度(σ)を測定し、荷重19.6 N、保持時間15 sでビッカース硬度(H)及びIF法(K. Niihara, R. Morena, D.P. H. Hasselman,“Evaluation of KIC of Brittle Solids by the Indentation Method with Low Crack-to-Indent Ratios”, J. Mater. Sci. Lett., 1 (1982) 13-16)により破壊靱性値(KIC)を評価した。試験片(〜3×4×8 mm)を用いて、パルスエコーオーバーラップ法(S.P. Dodd, M. Cankurtaran, B. James: ”Ultrasonic determination of the elastic and nonlinear acoustic properties of transition-metal carbide cermics:TiC and TaC”, J. Mer. Sci., 38 (2003) 1107-1115)によりヤング率の測定を行なった。また、Xeフラッシュアナライザー(Netzsch:LFA447 Nanoflash)を用いて熱拡散率(δ)を評価した。
【0022】
3.実験結果・考察
3.1 MoNの生成・分解
Al/Mo=91.24/8.76 vol%(表1:Al/MoN=90/10vol%相当)の成形体をそのまま、温度/窒素圧/保持時間=1500℃/16または20MPa/1hの条件でHIP処理を行い、得られた試料のXRD分析により、MoN相の生成条件を調べた。図4(a) に示すようにN圧力P(N)が16 MPaでは完全にMoのチッ化反応が進んでおらず、試料の結晶相はAl(JCPDS#46-1212)、Mo(JCPDS#42-1120)、正方晶のδ-MoN(JCPDS#25-1368)の3相が存在していたが、P(N)=20 MPaでは全てのMoはチッ化してδ-MoN相となった(図4(b))。なお、このAl/MoN=90/10vol%相当のAl/Mo成形体では、理論上はP(N)〜6 MPa相当のNで完全にチッ化してMoNが生成するはずであるが、入手した金属Mo粒子表面の吸着酸素や水分等が粒子表面を遮蔽し、MoN生成のための実効的なP(N)が高くなったと推定される。よって本実験で使用したMo粒子は1500℃/20MPa/1hの条件で完全に窒化し、δ-MoNが生成することが分かった。1500℃/20MPa/1h処理後のコンポジット(Al/MoN=90/10vol%)の相対密度は〜93%であり、組織は開気孔から閉気孔に変化していた。また、後述するがAl/Moの組成により生成するMoN相が変化し、Al/MoN=99/1、97/3、60/40、40/60 vol%組成では、立方晶のγ-MoN(JCPDS#25-1366)相が、Al/MoN=95/5、90/10、80/20 vol%組成では、正方晶のδ-MoNが生成していた。比較のためMo粒子のみを成形し、同条件でN-HIPを行うと焼結体表面のみがチッ化し、全体が均質にチッ化したMoNは得られなかった。
DTAおよびTGよりδ-MoNの大気中での分解温度について分析をおこなった(図5)。450℃付近で発熱ピーク(DTA)が確認され、その後なだらかな重量増加ピーク(TG)が確認された。これはMoNからMoOへの酸化反応に対応している。その後、750°C程度まで重量増加が認められ、それ以上の高温では急激な重量減少を示した。これはMoOが昇華性のMoOへと変化し、分解気化しているためと考えられる。Si、AlN、BN、TiNなどの代表的な窒化物に比べ分解温度が低いのは、Moが窒素に対して不安定であるためであると考えられる。
【0023】
3.2 Al/MoNの合成同時焼結
前述のように、各種混合比率(Al/Mo=100/0〜43.56/56.44 vol%)の成形体を図3に示すHIP条件で処理した。焼結体の相対密度は、第1段階(図3(i)〜(ii))のP(N)が16 MPaの場合は、HIP処理(1500℃/16MPa/1h-1500℃/200MPa/1h)終了後の試料の結晶相は全てAlとMoNであり、Al/MoN=100/0 vol%組成の試料の相対密度が〜99.4%に達したが、MoN量が増えると、順次相対密度は低下し、90/10 vol%組成以降は93.0〜89.0%となった。一方、第1段階(図3(i)〜 (ii))のP(N)が20 MPaの場合も、焼結体はAl、MoNの2相のみからなりMoO、MoOなどの不純物は検出されなかった。しかし、MoN相はコンポジットの組成によって変化し、Al/MoN=97/3 vol%の試料および60/40 vol%の試料では、低密度相(9.474Mg/m)のγ-MoNが生成し、Al/MoN=90/10 vol%の試料では高密度相(9.688Mg/m)であるδ-MoNが生成していた(図6)。1500℃/20MPa/1h の後に1500℃/200MPa/1h加熱を行うカプセルフリーNHIP処理により製造されたAl/MoNコンポジット材料の特性を以下の表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示されるように、焼結体の相対密度は、Al/MoN=100/0〜80/20 vol%の試料では98.2〜99.4%と高密度であり、Al/MoN=40/60 vol%組成になると、密度は90.3%まで緩やかに低下していった。これは焼結体の緻密化がもっぱらAlに依存し、かつMoNが増えたためにAlが焼結体を閉気孔にするために必要な量に達せず、焼結体がガス-タイトにならないため、第2段階目(図3(iii)〜(vi))の高圧Nが、緻密化に寄与しなかったことが原因と考えられる。なお、コンポジットの理論密度はAl、γ-MoN、δ-MoNそれぞれの理論密度を3.987 (JCPDS#46-1212)、9.474(JCPDS#25-1366)、9.688 Mg/m(JCPDS#25-1368)として算出した。中間組成のAl/MoN=95/5〜80/20 vol%の試料で、高密度相のδ-MoNが生成し、その周辺組成で低密度相のγ-MoNが生成した理由は、中間組成ではMo量も多くなることもあり、HIP処理時にAlからMo粒子が受ける内圧が高くなるが、その周辺組成では、Mo量が少ないことと後述する焼結性の低下による内圧の減少等に起因すると思われる。
第1段階のHIPのP(N)が16 MPaでは、焼結体が緻密化されなかった理由は、焼結体内に残存した金属Mo粒子がAlの焼結性を阻害したと考えられる。また、第一段階のP(N)を20 MPaから200 MPaにすると、HIP焼結後に得られたコンポジットの密度は〜92%に留った。これは気孔内に残留するP(N)が高く、第二段階の同一圧力のNガスでは緻密化できなかったと推定された。
【0026】
3.3 Al/MoNの微細構造
カプセルフリーHIP(1500℃/20MPa/1h-1500℃/200MPa/1h)の条件で作製した、Al/MoNコンポジットの破面のSEM写真を、図8(a)〜(f)に示す。(a)は二次電子像(Secondary Electron Image: SEI)であり、均質なAl粒子が観察される。図8(b)〜(f)の反射電子像(Back-Scattered Electron Image: BEI)では、平均質量が大きいMoN粒子の方が相対的に白く見え、マトリックスのAlから識別され、Al粒子境界のMoN粒子の分散の様子が確認できる。平均結晶粒径GはMoNの比率が増加するにつれて、Alでは4.91から3.81μmφと粒成長が抑制され、MoNは1.83から2.93μmφと若干粒成長していることが確認された(表2)。Al/MoN=60/40 vol%以降の試料でAlとMoNの粒径が共に大きく変化しているのは、焼結体に開気孔が存在し、焼結体中に貫入するNのガス圧が高くなっていることが要因と考えられる。
【0027】
3.4 諸特性の評価
上記HIP処理した試料について3点曲げ強度(σ)、ビッカース硬度(H)、および破壊靭性値(KIC)を測定評価した。結果を図9(a)〜(c)に示す。微細構造を反映し、σ、H、KIC全てにおいて、Al/MoN=90/10 vol%組成の試料(高密度:〜98.6%、微細結晶粒子:Al〜4.70μm、MoN〜1.88μm)が最高値、σ=573 MPa、H=20.3 GPa、KIC=5.00 MPa・m1/2を示し、Alのモノリシック材(σ=457 MPa、H=19.2 GPa、KIC=4.43 MPa・m1/2)より高い値が得られた。
表2に示すように、微細構造の均質性を評価する指標であるPoisson 比は0.24と略一定であり、MoN粒子の分散が均質であることを支持している。なお、従来のAlセラミックスのPoisson 比の報告例は0.26である(W.J. Lackey, D.P. Stinton, G.A. Schaffhauserr, L.L. Fehrenbacher: “Ceramic Coatings for Advanced Heat Engines --- A Review and Projection,” Adv. Ceram. Mat., 2[1] (1987) 24-30)。室温から300℃まで、非線形回帰計算を用いて評価した熱拡散率(δ)は、セラミックスに典型的な絶対温度Tの逆数(1/T)に比例する温度依存性を示し、MoNの添加量の増加とともに室温付近ではδが小さくなる傾向を示したが(δ:0.11→0.096 cm/s)、300℃近傍では、熱拡散率は組成に依存せず略一定値(〜0.037 cm/s )となった(表2)。
コンポジットのヤング率(E)は、図10に示すようにMoNの含有率υ(0≦υ≦1)に略直線的に比例し、E= -230υ+403という一次関数で近似された。なお、白丸は実測値、黒丸は相対密度で除した校正値である。この式とVoigt model(E=V+(1−V)E)からAlセラミックスのEは〜403 GPaと算出され、MoNのEは〜200 GPaと推定された。AlのEの報告値は、例えばW.J. Lackey等による上記先行文献では380 GPaであり、良い一致をみている。
【0028】
4 まとめ
多孔質の成形体を、N圧力を制御した2段階のカプセルフリーHIP処理し、窒素に対して安定な金属Moを高圧下でチッ化させる合成同時焼結により、相対密度98%以上の高密度Al/MoNコンポジットを作製した。MoNをAlの粒界に均一分散させたAl/MoN=90/10 vol%組成の試料は、3点曲げ強度σ: 573 MPa、ビッカース硬度H: 20.3 GPaおよび破壊靭性値KIC: 5.00 MPa・m1/2、ヤング率: 394 GPaとAlのモノリシック材に比べ高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のカプセルフリー熱間静水圧プレスによるセラミックス/金属窒化物コンポジットの製法を用いることにより、高圧窒素ガスをチッ化物合成用の窒素源としても活用することで金属チッ化物を合成しながら、セラミックスとのコンポジットを低コストで製造でき、容易にマトリックス中に窒化物粒子を分散させることができるため、優れた特性をもつ材料の開発が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプセルフリー熱間静水圧プレスにより相対密度95%以上のセラミックス/金属窒化物コンポジットを製造するための方法であって、当該製法が、
工程A:金属粒子を粉体状のセラミックスに混合して得た混合粉末を用いて成形体を製造する工程、
工程B:前記工程Aで得られた成形体を、熱間静水圧プレスの実施に適した容器内に設置して圧力1〜50MPaの窒素ガス雰囲気下で、徐々に昇温させて1200〜1800℃の温度で一次熱処理を行い、当該一次熱処理により得られる焼結体の組織を閉気孔として前記金属粒子を窒化させる工程、及び
工程C:前記工程Bの後、圧力100MPa以上の窒素ガスを前記容器内に導入して1200〜1800℃の温度を一定時間維持して二次熱処理を行い、相対密度95%以上のセラミックス/金属窒化物コンポジットを製造する工程
とを含むことを特徴とする、カプセルフリー熱間静水圧プレスによるセラミックス/金属窒化物コンポジットの製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子が、モリブデン粉末、チタン粉末から選ばれたものであり、セラミックスがアルミナ、酸化ジルコニウムから選ばれたものであることを特徴とする請求項1記載のセラミックス/金属窒化物コンポジットの製造方法。
【請求項3】
95%以上の相対密度を有することを特徴とするセラミックス/金属窒化物コンポジット。
【請求項4】
95%以上の相対密度を有することを特徴とするAl/MoNコンポジット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−116574(P2011−116574A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273280(P2009−273280)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月2日 粉体粉末冶金協会発行の「粉体粉末冶金協会講演概要集」、及び平成21年10月3日 同志社大学及び同志社大学複合材料研究センター主催の「第13回複合材料研究センター発表会」において文書をもって発表
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】