説明

セラミックハニカム構造体の製造方法

【課題】ワークであるハニカム成形体内に含まれるカーボン成分の燃焼によるハニカム成形体の変形を抑制するセラミックハニカム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】ハニカム成形体10を焼成することによりセラミックハニカム構造体1を得るセラミックハニカム構造体の製造方法において、タルクを含むコージェライト成形材料と、バインダとを混合、混練りしてハニカム状に形成し、ハニカム成形体10を形成するハニカム成形体形成工程と、ハニカム成形体を焼成する焼成工程とを備え、焼成工程は、ハニカム成形体10が変形し易い温度領域(C)以下の温度領域(B)において、ハニカム成形体10内に含まれるカーボン量全体の99%以上が消失するように、ハニカム成形体10を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックハニカム構造体の製造方法に関し、例えば内燃機関の排気ガス浄化装置における触媒担体やフィルタに用いるセラミックハニカム構造体の焼成方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の排気ガス浄化装置における触媒担体やフィルタとして、セラミックハニカム構造体が用いられている。このセラミックハニカム構造体は、タルクなどのコージェライト形成原料と、成形補助材としてのバインダ等とから調製された原料混合物を押出し成形によりハニカム状に成形し、そのハニカム成形体を乾燥し、その後、ガス炉等の成形炉にて焼成することによって得ることができる。
【0003】
この焼成時において、ハニカム成形体に変形や割れが生じるおそれがあるため、各種の焼成方法が提案されている(特許文献1等)。
【0004】
特許文献1の開示する技術では、炉内温度を温度制御することにより、焼成時のクラックや変形の発生防止を図っている。具体的には、この技術では、バインダを含んだハニカム成形体からバインダを酸化除去して脱脂する脱バインダ工程、および脱脂されたハニカム成形体を焼成する本焼成工程において、それぞれ所定の炉内温度スケジュール(以下、焼成条件)に設定している。
【0005】
なお、上記技術では、ガス炉を用いており、燃料と空気が供給されて炉内に燃焼ガス(火炎)を噴射するバーナが設けられている。ガス炉内において、燃焼ガスが向けられた領域と、そうでない領域とで局部的に炉内温度が異なると共に、酸素濃度が異なるおそれがあるため、酸素供給口を設けて酸素濃度を富化している。
【特許文献1】特開平6−9276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術の如く、単純に炉内の温度制御によって制御しようとする方法では、焼成時のハニカム成形体の変形および割れを抑制する効果が、十分なものではなかった。
【0007】
そこで、発明者らは、焼成時のハニカム成形体の変形および割れのメカニズムを鋭意研究し、その結果、以下の事項を見出した。
【0008】
焼成時には、ハニカム成形体内に含まれるカーボン成分が燃える。ハニカム成形体が所定温度領域において、上記カーボンが燃えた場合には、ハニカム成形体が変形し易い理由を見出した。
【0009】
即ち、ハニカム成形体内において、カーボンが局所的に燃焼することによって、ハニカム成形体が局所的に1000°C以上の温度になる可能性がある。このとき、ハニカム成形体自体が変形し易い温度(例えば850°C程度)である場合には、カーボンの局所的燃焼の影響を大きく受け、ハニカム成形体の変形を促してしまうことを見出した。
【0010】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ハニカム成形体内に含まれるカーボン成分の燃焼によるハニカム成形体の変形を抑制するセラミックハニカム構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために以下の技術的手段を備える。
【0012】
即ち、請求項1乃至6に記載の発明では、ハニカム成形体を焼成することによりセラミックハニカム構造体を得るセラミックハニカム構造体の製造方法において、タルクを含むコージェライト成形材料と、バインダとを混合、混練りしてハニカム状に形成し、ハニカム成形体を形成するハニカム成形体形成工程と、ハニカム成形体を焼成する焼成工程とを備え、
焼成工程は、ハニカム成形体が変形し易い温度領域以下において、ハニカム成形体内に含まれるカーボン量全体の99%以上が消失するように、ハニカム成形体を加熱することを特徴とする。
【0013】
これによると、ハニカム成形体内に含まれるカーボンの消失を、ハニカム成形体自体の温度が変形し易い温度領域以下の温度状態(温度条件)でほぼ完了させることができる。これにより、ハニカム成形体が変形し易い温度領域においてその変形を促す要因となるカーボンの局所的燃焼を抑制することができるので、ハニカム成形体内に含まれるカーボン成分の燃焼によるハニカム成形体の変形を抑制することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明では、ハニカム成形体が変形し易い温度領域とは、ハニカム成形体内に含まれるタルク全体に対して、20%以上のタルクが脱水反応を生じる温度領域であることを特徴とする。
【0015】
タルクは、MgSi10(OH)の組成式で表されるもので、熱分解によって脱水等が生じる。この脱水反応の継続過程においては、コージェライト成形材料の収縮が進むため、脱水反応過程にない温度領域に比べてハニカム成形体が変形し易い。このタルクの脱水反応は、一般に、800°C〜1000°Cの範囲内に含まれる温度段階で生じる。
【0016】
これに対して、請求項2に記載の如く、ハニカム成形体が変形し易い温度領域を、ハニカム成形体内に含まれるタルク全体に対して20%以上のタルクが脱水反応を生じる温度領域としているので、タルクの脱水反応過程のうちの脱水反応の開始段階温度以下の温度状態(温度条件)において、ハニカム成形体内に含まれるカーボンを完全に消失させることができる。
【0017】
特に、請求項3に記載の発明では、ハニカム成形体が変形し易い温度領域とは、850°C以上であることを特徴とする。
【0018】
これによると、ハニカム成形体が変形し易い温度領域を、タルクの熱分解による脱水反応等の各種反応のうち、脱水反応が開始する温度(850°C付近)以上の温度領域とすることができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明では、ハニカム成形体内に含まれるカーボンが消失する温度領域において、ハニカム成形体の内部に、酸化性ガスを流入させることを特徴とする。
【0020】
一般に、ハニカム成形体の内部には、ハニカム状に設けられた隔壁によって仕切られて軸方向に延びたセルが多数設けられているため、例えばハニカム成形体の中心部側のセルは、表面部側のセルに比べてセル内部へ導けれる炉内雰囲気(空気)の量が不足するおそれがある。不足してしまうと、ハニカム成形体の中心部のカーボンが未消失のまま残ってしまって、残カーボンとなる可能性がある。
【0021】
これに対して請求項4に記載の発明では、ハニカム成形体の内部に、空気あるいは酸素等の酸化性ガスを流入させるので、セル内部のガス交換を促すことができ、かつ酸化性ガスであるためカーボン消失、即ち燃焼を助長することができる。したがって、ハニカム成形体内に含まれるカーボンが消失する温度領域において、ハニカム成形体内の残カーボンを防止することができる。
【0022】
ここで、ハニカム成形体の内部に流入させる酸化性ガスの流入量は、請求項5に記載の発明のように、5m/sec以下であることが好ましい。これにより、富化した酸化性ガスによって必要以上にカーボンを燃焼してしまうことなく、セル内部のガス交換を促すと共にカーボン消失を助長することができる。
【0023】
また、請求項6に記載の発明では、酸化性ガスの流入量は、2m/sec以上であることを特徴とする。
【0024】
これにより、カーボンの燃焼を適宜に促進させ、ハニカム成形体自体の温度が変形し易い温度領域以下の温度条件にてカーボンをほぼ燃焼させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
発明者は、ワークであるハニカム成形体10を焼成することによりセラミックハニカム構造体1を得る製造方法を考案するに当たり、まず、炉内温度Tkを単純に制御することによってハニカム成形体10を加熱して焼成する場合において、割れ等の原因となる著しい変形を抑制することは可能であるが、その著しい変形を十分に押さえ込むことできない理由について検討した。
【0026】
ここで、(1)焼成時、複数のハニカム成形体10を、例えば3段、6列配置等の如く、炉内に載置するため、個々のハニカム成形体自体の温度を直接制御する方法に比べて、従来技術の如く、炉内温度Tkによって焼成条件(焼成スケジュール)を制御することが、生産性で優れていること、(2)割れ等になる変形抑制のため、その焼成条件における昇温速度を単純に小さくする手法を用いると、焼成時間の無駄な増加を招くので、結果的に優れた生産性との両立が難しくなること、(3)焼成時に、ハニカム成形体10を構成するコージェライト形成原料等の形成原料、成形補助材(バインダ)、造孔材等は、加熱によって熱分解して収縮(または消失)することから、熱応力集中しなければ、ハニカム成形体全体としての収縮率の大小に係わらず、割れを招く過大な応力発生が回避可能なこと、等に着目して検討を鋭意重ねた。
【0027】
まず、図6に示す特性図は、焼成時にハニカム成形体10を加熱したときの、ハニカム成形体自体の温度と、その収縮率(以下、焼成収縮率)との関係を示したものである。
【0028】
この特性図によれば、ハニカム成形体10の加熱に伴なって、ハニカム成形体10が温度上昇すると、加熱開始温度に比べていずれの上昇した温度点でも収縮している。
【0029】
また、加熱により上昇した温度が低温領域(図6の450°C以下の領域)A、およびこの低温領域Aから所定の昇温分の間隔をあけて高温領域(図6の850°C以上の領域)Cにおいては、焼成収縮率の変化挙動が比較的大きい。一方、所定の昇温分の間隔に相当する中間温度領域(図6の450°C〜850°Cの範囲内にある領域)Bでは、この間に昇温しても焼成収縮率は変化しない。
【0030】
言い換えると、これら低温領域Aおよび高温領域Cにおいては、例えばハニカム成形体10を構成する材料等の熱分解による燃焼等によって昇温してしまうと、収縮が著しく進む可能性がある。
【0031】
この熱分解による昇温がハニカム成形体10の局部的に発生するものの場合には、その局部的部位とその周りの部位との間で熱応力が応力集中し、過大な応力が発生するおそれがある。
【0032】
また、中間温度領域Bにおいては、上記ハニカム成形体10が熱分解によって温度上昇したとしても、その上昇した温度が中間温度領域B内であれば、昇温による焼成収縮率は変化しない。したがって、熱分解による昇温が局部的に発生する場合であったとしても、熱応力は応力集中することはない。
【0033】
このような焼成収縮率−温度の特性図から得られる知見から、焼成条件において、中間温度領域Bでの焼成時間の比率を高かめることにより、上記ハニカム成形体10を構成する材料等の熱分解過程での熱応力の応力集中が回避できることが予想される。
【0034】
ここで、上記知見からは、中間温度領域Bにおける焼成条件の設定方法として、中間温度領域B内の上限温度側(例えば、800°C)に、炉内温度を設定する方法が容易に考えられる。この手法は、熱分解を活性化させつつ変形抑制ができるかのように思われるため、これ以外の最適な対策はないように思われる。
【0035】
しかしながら、発明者が鋭意検討した結果、中間温度領域B内で熱分解するカーボン成分の燃焼に着目することによって、上記中間温度領域B内の上限温度側以外の温度に、炉内温度を設定することが意外にも、カーボン成分の燃焼による割れ等となる変形を抑制する最善の対策方法であることを見出した。
【0036】
すなわち、焼成時には、ハニカム成形体10内に含まれるカーボン成分が熱分解により発火し燃える。ハニカム成形体10内において、上記カーボン成分が局所的に燃えた場合には、その局所的部位のハニカム成形体10が1000°C以上になる可能性がある。このとき、ハニカム成形体自体が変形し易い温度領域すなわち上記高温領域Cにある場合には、カーボン成分の局所的燃焼の影響を大きく受けて熱応力の応力集中が発生し易く、割れ等を引き起こすおそれのあるハニカム成形体10の変形を促してしまうことを見出した。
【0037】
具体的には、中間温度領域Bにおける焼成条件を、カーボン成分の燃焼継続可能な最低発火温度(以下、発火温度)(本実施例では、600°C)に設定することとした。このように焼成条件を設定することにより、炉内温度をカーボン成分の燃焼継続可能な最低温度に設定しているので、ハニカム成形体10内で局所的なカーボン成分の燃焼が生じた場合であっても、その燃焼による局部的な部位の温度が、中間領域Bを越えるのを抑制することができるため、従来に比べて、カーボン成分の燃焼による割れ等を引き起こすおそれのあるハニカム成形体10の変形を抑制することが可能である。
【0038】
以下、本発明のセラミックハニカム構造体の製造方法を、図1から図9に従って具体的に説明する。
【0039】
本発明の製造方法の適用対象となるハニカム成形体10は、セラミックハニカム構造体を得るための、未焼成のハニカム成形体である。ハニカム成形体は、全部が未焼成であるものに限らず、一部が未焼成であるものであってもよい。すなわち、ハニカム状に設けられた隔壁(以下、セル壁)3によって区画されセル11の一部に栓材4を封止したハニカム成形体が全て未焼成であるものや、栓材4を封止する前のハニカム成形体を焼成(以下、第1回焼成)した後に、未焼成の栓材4をハニカム成形体に詰めたものが対象である。
【0040】
なお、以下、本実施例では、ハニカム成形体10は、全て未焼成であるものとして説明する。
【0041】
ハニカム成形体10を製造するに当たり、コージェライト形成原料と、形成補助材としてのバインダと、カーボン等の可燃性物質等を準備する。次いで、コージェライト形成原料、バインダ、および可燃性物質等を混合し、適量の水を加えて混練する。次いで混練した原料を周知のハニカム押出成形機にてハニカム状に押出成形し、乾燥することによってハニカム成形体10が得られる。
【0042】
コージェライト形成原料(以下、形成原料)は、タルクを必須成分とするものであり、その他の原料では、出願人が出願の特開平9−77573号公報に記載の配合原料および調合割合が適用できる。例えば、コージェライトの組成であるSiO2:45〜55重量%、Al2O3:33〜42重量%、MgO:12〜18重量%の領域になるように、所定のタルク、水酸化アルミニウム等を基本原料として配合する。また、この基本原料に、バインダ、上記可燃性物質を所定の範囲で添加している。
【0043】
なお、ここで、ハニカム成形体10に含まれるカーボン成分は、グラファイト等のカーボンや、カーボンを含む有機物質であってもよい。グラファイト等のカーボンは、可燃性物質であり、ハニカム成形体10を焼成する際に、消失して気孔を形成する気孔剤(造孔剤)として添加されていている。
【0044】
また、本実施例でいうハニカム成形体10のハニカム状は、例えば図4に示すハニカム成形体10のように、極めて薄いセル壁3によって区画されることによって、軸方向に延びる流路となるセル11が形成する形状である。ハニカム成形体の全体形状は、特に限定されるものではなく、例えば図4に示すように円筒状のものの他、四角柱状、三角柱状等の形状であってもよい。また、ハニカム成形体のセル形状は、特に限定されるものではなく、例えば図4に示すように四角状、三角状、六角状等のセル形状であってもよい。
【0045】
また、本実施形態のハニカム成形体10は、軸方向の両端面12において、栓材4をいわゆる市松模様状にセル11の端部に封止して配置されている。また、ハニカム成形体10は、外周スキン部2とセル壁3を、一体成形して得られている。
【0046】
このようなハニカム成形体10は、所定の長さに切断され、マイクロ波等を用いて乾燥される。次いで、ハニカム成形体10の両端面12における所定のセル11の端部に、上記栓材4を充填する。その後、図2の焼成工程の流れ図、および図1の焼成スケジュールに示す焼成を行なって、セラミックハニカム構造体1を得る。
【0047】
図1は、縦軸に炉内の温度Tkを、横軸に加熱開始から冷却終了までの焼成時間を示しており、図1中に示す焼成期間を区分けする焼成段階I、II、IIIは図2中で示された脱バインダ工程、脱炭工程、および本焼成工程に対応するものである。
【0048】
図2に示すように、焼成工程は、脱バインダ工程(I)と、脱炭工程(II)と、本焼成工程(III)とを備えている。
【0049】
脱バインダ工程(I)は、本焼成工程(III)を実施する前に、ハニカム成形体に含まれる成形時に必要だったバインダを加熱によって除去する工程である。脱バインダ工程では、図1の焼成スケジュールに示されるように、常温から200°Cまでを、昇温速度50°C/hrで加熱し、次いで200°C〜450°Cの範囲(以下、バインダ熱分解範囲)を、昇温速度25°C/hrで加熱する。
【0050】
脱炭工程(II)は、本焼成工程(III)を実施する前に、ハニカム成形体に含まれる可燃焼物質のカーボン成分を熱分解して除去する工程である。脱炭工程(II)では、図1に示すように、450°C〜600°Cの範囲(以下、発火温度準備範囲)を、昇温速度75°C/hrで加熱し、次いで600°Cで20hr継続する(以下、600°Cの継続範囲を、発火温度範囲と呼ぶ)。この発火温度範囲終了後は、800°Cまでの範囲を、昇温速度75°C/hrで加熱する。
【0051】
上記発火温度範囲において、ハニカム成形体に含まれるカーボン成分全体のうちのほぼ全てが燃焼により消失する。なお、ほぼ全てが燃焼により消失すると定義するのは、カーボンが燃焼する際、一部最終燒結体の灰分としてハニカム形成体10に残留するからである。
【0052】
従って、灰分を除く全てのカーボン量全てが燃焼により消失するとは、カーボン成分全体のうち99%以上が消失すると言い換えることができる。
【0053】
本焼成工程(III)は、焼成し得られるセラミックハニカム構造体1の特性を決める工程である。この本焼成工程(III)での昇温速度、最高温度、およびその最高温度の保持時間によってセラミックハニカム構造体1の製品の大きさや、気孔率、耐熱性などの特性が決定される。本焼成工程(III)では、800°C〜1430°Cの範囲(以下、本焼成昇温範囲)を、昇温速度75°C/hrで加熱し、次いで1430°Cの最高温度状態で15hr保持する(以下、最高温度保持範囲と呼ぶ)。この最高温度保持範囲終了後は、降温速度75°C/hrで冷却する。
【0054】
上記本焼成工程(III)において、800°C〜1000°Cの範囲では、形成原料のタルクが熱分解により脱水反応を起こしている温度領域(以下、タルク脱水反応段階)である。このタルク脱水反応段階では、タルクの組成式(以下、結晶構造)中のうちのOH基を含む構造水がハニカム成形体10から放出される過程であり、結晶構造が変化し、著しく収縮するため、ハニカム成形体10の収縮率変化が比較的大きくなる。
【0055】
このようなことから、上記タルク脱水反応段階に炉内温度を設定すると、ハニカム成形体10自体が変形し易い温度領域(以下、熱分解による易変形温度領域)となる。この熱分解による易変形温度領域とは、タルクの脱水反応が開始した温度(以下、タルク脱水反応開始温度と呼ぶ)以上の温度領域とほぼ定義できる。タルク脱水反応開始温度は、ハニカム成形体10に含まれているタルク全体に対して、20%のタルクが脱水反応する温度とした。
【0056】
従って、上記熱分解による易変形温度領域は、タルク脱水反応開始温度以上の温度領域であり、ハニカム成形体10に含まれているタルク全体に対して、20%以上のタルクが脱水反応する温度領域と言い換えることができる。
【0057】
なお、タルク脱水反応開始温度は、ほぼ850°Cであるので、上記熱分解による易変形温度領域は850°C以上であると言い換えることができる。
【0058】
なお、上記焼成工程では、乾燥されたハニカム成形体10を、シャットルキルンの如く単独焼成炉、あるいはトンネル炉のような連続炉で焼成される。
【0059】
また、上記炉においては、加熱方式の区分よりガス炉と、電気炉とがあり、本実施形態の炉ではいずれの炉を用いてもよい。ガス炉は、LPGガス加熱のような燃焼ガスによる加熱によりハニカム成形体を焼成する場合には、炉内は燃焼ガスの燃焼を制御するために、自然の雰囲気空気ではなく、雰囲気の酸素濃度等を富化、あるいは貧化の制御がなされている。電気炉では、ハニカム成形体を加熱するためにガス炉の如く、炉内温度制御のための燃焼が必要がない。
【0060】
後述する変形例の如く、ハニカム成形体10内に、酸化性ガス(エア)を導入することを前提とする場合においては、図2に示すように、脱バインダ工程(I)および脱炭工程(II)を電気炉内による炉内温度で焼成条件を設定することが好ましい。なお、本焼成工程(III)は、図2に示すようにガス炉で焼成条件を設定するものに限らず、電気炉で焼成条件を設定するものであってもよい。
【0061】
なお、ここで、脱バインダ工程(I)、脱炭工程(II)、および本焼成工程(III)を、図1および図2に示すように、第1焼成段階、第2焼成段階、および第3焼成段階とも呼ぶ。
【0062】
以上説明した本実施形態では、焼成工程は、熱分解による易変形温度領域以下において、ハニカム成形体10に含まれるカーボン量全体の99%以上を消失させる。これにより、熱分解による易変形温度領域においてその変形を促す要因となるカーボンの局所的燃焼を抑制することができるので、ハニカム成形体内に含まれるカーボン成分の燃焼によるハニカム成形体の変形を抑制することができる。
【0063】
また、以上説明した本実施形態では、上記熱分解による易変形温度領域は、タルクの脱水反応が開始する温度以上の温度領域であり、ハニカム成形体10に含まれているタルク全体に対して20%以上のタルクが脱水反応する温度領域とした。したがって、タルク脱水反応開始段階温度以下の温度領域において、ハニカム成形体内に含まれるカーボン成分を完全に消失させることができる。
【0064】
また、以上説明した本実施形態では、焼成工程は、脱バインダ工程、脱炭工程、および本焼成工程を備えており、脱炭工程では、ハニカム成形体を加熱するため焼成条件として、炉内温度を、カーボンの発火温度に設定している。このような発火温度ではカーボンの継続燃焼が可能であるので、ハニカム成形体10に含まれるカーボンを完全に消失するようにするとともに、ハニカム成形体10内の温度を上記熱分解による易変形温度領域以下に抑えることができる。
【0065】
(変形例)
発明者は、上記焼成工程のうち、脱炭工程に要する時間の短縮化について、更に検討を重ねた。まず、上記脱炭工程時間を早くした場合、発火温度範囲で保持する時間を短くし、その発火温度範囲終了後は、例えば昇温速度を50°C/hrする手法が考えられる。この手法を適用すると、ハニカム成形体10内の中心部に未消失のままカーボン(以下、残留カーボンと呼ぶ)が存在するようになり、残留カーボンとカーボンの消失した部分との境界に沿って異常発熱に基づく割れが生じるので、昇温速度を抑えること以外には対策はないように思われる。
【0066】
しかしながら、発明者が鋭意検討をした結果、ハニカム成形体10のセル11内部のガス交換を促すことによって、残留カーボンの発生防止ができ、異常発熱に基づく割れ防止が図れることを見出した。まず、図9(a)に示すハニカム成形体10の内外温度差ΔTwは、ハニカム成形体10の中心部の温度(図5の測定点101)と、外周部の温度(図5の測定点102)との差であり、その内外温度差ΔTwを焼成スケジュールとの関係で示したものである。図9(a)に示すように、脱炭工程において、炉内温度Tkがカーボンの発火温度に達すると、ハニカム成形体10に含まれるカーボンが燃焼し、その燃焼がハニカム形成体10内で拡散する。燃焼が拡散するに従って中心部側の温度が外周部側の温度が高くなるため、一時的に内外温度差ΔTwが急激に大きくなる。さらに、本焼成工程にて炉内温度が更に昇温すると、その高温の炉内温度下で残留カーボンの一部が急燃焼する。
【0067】
これに対してハニカム成形体10内に酸化性ガス(エア)を導入しセル内部11のガス交換を促すと、図9(b)に示すように、脱炭工程での急激な内外温度差ΔTwを抑制することができ、カーボン燃焼による温度上昇をハニカム成形体10で均一化することが可能となる。その結果、脱炭工程での残留カーボンをなくせるので、本焼成工程において残留カーボンが原因の異常発熱による割れを防止することが可能である。
【0068】
また、発明者は、図9(b)に示すように酸化性ガスの供給は、ハニカム成形体10内の内外温度差ΔTwが縮小し、ハニカム成形体10内の温度をほぼ均一化する作用があることに着目して、酸化性ガスの供給量(エアの風量)と、酸化性ガス供給により均一化されたハニカム成形体10の最高温度の関係を検証した。
【0069】
以下、変形例に係わる焼成工程を、図7および図8に従って具体的に説明する。図7に示すように、焼成工程では、炉内にハニカム成形体10を入れ、所定の焼成条件で加熱する際に、ハニカム成形体10内へ、雰囲気空気(エア)や酸素等の酸化性ガス(本実施例では、エア)を導入するようにする。なお、炉内には、ハニカム成形体10を載置する焼成用冶具9が設けられており、ハニカム成形体10は、焼成台92を挟んで棚板91に配置されている。
【0070】
本実施形態では、上記酸化性ガス(エア)をハニカム成形体10内へ所定流量の範囲で供給できることが好ましい。図8の特性図は、酸化性ガスの供給量と、ハニカム成形体10内の最高温度を示している。このハニカム成形体10の最高温度は、脱炭工程での最高温度を示しており、脱炭工程中にてカーボン全量が消失すると、ハニカム成形体10の温度は炉内温度に近づく。炉内温度を発火温度に保持し、カーボンの全量消失によりハニカム成形体10が再び発火温度となる時間を、カーボン消失時間とする。
【0071】
酸化性ガスの供給量(エアの風量)は、ハニカム成形体の大きさでも変わるため、ガス交換を促す流速をパラメータとして評価した。なお、具体的には、酸化性ガス(エア)の流速を、0m/s、2.5m/s、5m/s、および7m/sの各パラメータ値で評価し、(1)ハニカム成形体10内の最高温度が850°C以内であること、(2)ハイカム成形体10に割れ(クラック)がないことを、判定基準として評価した。
【0072】
ハニカム成形体10内へ酸化性ガス(エア)を供給することにより、ハニカム成形体10のセル端部のガス交換が促され、0m/Sを除く各パラメータ値のいずれにおいてもハニカム成形体10内の中心部側と外周部側の内外温度の均一化が図れた。
【0073】
図8に示すように、ハニカム成形体10内の最高温度は、流速(風量)が0m/sにて770°C、2、5m/sにて830°C、5m/sにて900°Cである。これらの風量ではハニカム成形体10に割れ(クラック)はなかった。なお、流速(風量)が5m/sの場合、ハニカム成形体10内の温度が均一化されているので、850°Cを超える温度であっても割れは生じていない。
【0074】
また、図8に示すように、流速(風量)が7m/sの場合にはハニカム成形体10に割れ(クラック)が生じた。これは、ハニカム成形体10内のカーボン成分が必要以上に燃焼してしまい、この燃焼に伴う、ハイニカム体の内外温度差が生じて、ハニカム成形体10の割れを引き起こす変形を生じたからである。この場合、ハニカム成形体10は異常発熱しており、図8の一点鎖線による推定温度より、その異常発熱は950°Cを越えるものである。
【0075】
また、ここで、上記のカーボン消失時間は、流速(風量)が0m/s、2.5m/s、5m/s、および7m/sと増加するに従って、20hr、10.5hr、10hr、および8hrと短縮することができる。なお、このような関係から換算すると、流速(風量)が2m/s、1m/sの場合は、カーボン消失時間は、11hr、12hrとなっている。
【0076】
また、流速(風量)が2m/s、1m/sの場合は、上記最高温度は図8の一点鎖線による推定温度より、800°C、790°Cとなっている。
【0077】
以上説明した本実施形態では、脱炭工程すなわちハニカム成形体10に含くまれるカーボン成分が消失する温度領域において、ハニカム成形体10の内部に酸化性ガス(エア)を流入するので、ハニカム成形体10のセル11内部のガス交換を促すことができ、かつ酸化性ガスであるためカーボン消失、即ち燃焼を助長することができる。したがって、ハニカム成形体10内に含まれるカーボンが消失する温度領域において、ハニカム成形体10内のカーボン残留を防止することができる。
【0078】
また、以上説明した本実施形態では、その酸化性ガスの流量(風量)を、5m/s以下にすることが好ましい。これにより、富化した酸化性ガスによって必要以上にカーボンを燃焼してしまうことなく、セル内部のガス交換を促すと共にカーボン消失を助長することができる。
【0079】
また、以上説明した本実施形態では、その酸化性ガスの流量(風量)を、2m/s以下にすることが好ましい。カーボンの燃焼を適宜に促進させ、ハニカム成形体自体の温度が変形し易い温度領域(III)以下の温度領域(II)にてカーボンをほぼ燃焼させることができる。
【0080】
また、以上説明した本実施形態では、脱炭工程において、ハニカム成形体10の内部に酸化性ガスを流入させる流量を、2m/s〜5m/sの範囲内に設定することにより、酸化性ガスを流入させない場合に比べて、カーボンを消失させるための発火温度範囲の保持時間をほぼ半減することができる。したがって、ハニカム成形体内に含まれるカーボン成分の燃焼によるハニカム成形体の変形を抑制することができると共に、ハニカム成形体の焼成時間の短縮化が図れる。
【0081】
また、以上説明した本実施形態において、脱バインダ工程(I)および脱炭工程(II)のうち少なくとも脱炭工程(II)は、ハニカム成形体10を電気炉内で加熱することが好ましい。これにより、ハニカム成形体10の内部に酸化性ガスを所定量流入するように焼成条件を設定するのが、ガス炉内で加熱する場合に比べて容易となる。
【0082】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用可能である。
【0083】
(1)以上説明した本実施形態では、本焼成工程の最高温度の保持時間の一例として、15hrとしたが、これに限らず、10〜30hrの範囲内に含まれるものであればいずれであってもよい。
【0084】
(2)以上説明した本実施形態では、全て未焼成のハニカム成形体を焼成するものとして説明したが、栓材4を封止する前のハニカム成形体を第1回焼成した後に、未焼成の栓材4をハニカム成形体に詰めたものをハニカム成形体の適用対象としてもよい。この場合、第1回焼成にて、本焼成工程の最高温度保持時間を0〜6hrで実施し、次いで第2回焼成にて10〜24hrで実施することのみが、本実施形態の説明と異なる。
【0085】
(3)以上説明した本実施形態において、ハニカム成形体10の内部に供給する酸化性ガス量を、流速という指標値で表したが、これに限らず、ハニカム成形体10のセル11内部のガス交換を促す指標値であれば、いずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施形態のハニカム成形体を焼成する焼成条件の一例であって、焼成スケジュールを示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態のセラミックハニカム構造体の製造方法について、図1の焼成条件に対応する焼成工程を示した流れ図である。
【図3】本発明の実施形態のセラミックハニカム構造体の製造方法を適用するセラミックハニカム構造体の一例を示す斜視図である。
【図4】図3中のVIからみた斜視断面図である。
【図5】焼成過程でのハニカム成形体の内外温度差ΔTwの測定における中央部(中心部)の温度及び外周部の温度の測定点を説明するための、セラミックハニカム構造体の縦断面図である。
【図6】図1中の第2焼成段階(脱炭工程)の温度領域でのハニカム成形体の収縮率の変化挙動を説明する図であって、焼成収縮率と温度との関係を示す特性図である。
【図7】図1中の第2焼成段階(脱炭工程)において、ハニカム成形体内への酸化性ガス(エア)供給を説明する図であって、ハニカム成形体の炉内での載置状態の一例を示す斜視図である。
【図8】ハニカム成形体内へ供給する酸化性ガス(エア)供給量とハニカム成形体の内外温度差ΔTwとの関係を示す説明図である。
【図9】焼成過程(焼成スケジュール)におけるハニカム成形体の内外温度差ΔTwの挙動特性を説明する図であって、図9(a)はハニカム成形体内への酸化性ガス(エア)供給を実施しない場合、図9(b)は酸化性ガス(エア)供給を実施する場合を示す特性図である。
【符号の説明】
【0087】
1 セラミックハニカム構造体
10 ハニカム成形体(基材)
101 基材中央部(基材中心部)
102 基材周縁部(基材表面部)
11 セル
12 端面
13 外周面
3 セル壁(隔壁)
4 栓材
9 焼成用治具
91 棚板
92 焼成台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム成形体を焼成することによりセラミックハニカム構造体を得るセラミックハニカム構造体の製造方法において、
タルクを含むコージェライト成形材料と、バインダとを混合、混練りしてハニカム状に形成し、ハニカム成形体を形成するハニカム成形体形成工程と、
前記ハニカム成形体を焼成する焼成工程と
を備え、
前記焼成工程は、前記ハニカム成形体が変形し易い温度領域以下において、前記ハニカム成形体内に含まれるカーボン量全体の99%以上が消失するように、前記ハニカム成形体を加熱することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記ハニカム成形体が変形し易い温度領域とは、前記ハニカム成形体内に含まれる前記タルク全体に対して、20%以上のタルクが脱水反応を生じる温度領域であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ハニカム成形体が変形し易い温度領域とは、850°C以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ハニカム成形体内に含まれるカーボンが消失する温度領域において、前記ハニカム成形体の内部に、酸化性ガスを流入させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記酸化性ガスの流入量は、5m/sec以下であることを特徴とする請求項4に記載のセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化性ガスの流入量は、2m/sec以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のセラミックハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−110896(P2008−110896A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295282(P2006−295282)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】