説明

セラミックフィルター及びその製造方法

【課題】繰り返し使用してもPMに対する捕集効率が低下することなく、しかもDPFの圧力損失が小さく、耐振動性、耐熱衝撃性のある多孔性セラミックフィルターを提供すること。
【解決手段】多孔質セラミック材からなるフィルターにおいて、焼結された多孔質セラミック材に、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有することを特徴とするハニカム状フィルター及びその製造方法。前記セラミックナノチューブが、炭素、窒素及びケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素を含有する非金属無機化合物の焼結体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンで燃料ガスが燃焼された後の排気ガス中に含まれるカーボンや未反応燃料などの微粒子を捕集し、及び/又は、排気ガス中の窒素酸化物などの燃焼生成物を除去して、排気ガスを清浄化するための、セラミックフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車又はディーゼル車の排気ガスにおいて、カーボンや未反応燃料などの微粒子(Particulate Matter:PM)(以下、「PM」ともいう。)や窒素酸化物などの燃焼生成物は、発がん性や気管支喘息の原因の可能性を指摘され、最近は、環境保護も含めて、排気ガスの排出規制が厳しくなっている。
【0003】
PMを有効に除去する方法として、ウォールフロー型のディーゼルパティキュレートフィルター(Diesel Particulate Filter:DPF)(以下、「DPF」ともいう。)を、エンジン機関後の排気ガスラインに取り付けることが一般的になっている。このウォールフロー型DPFは、格子型の気孔を有する多孔質セラミックハニカムのセル孔入口側と出口側を交互に閉じた構造になっている。DPFに流入した排気ガス中のPMは、多孔質セラミックスのセル壁を通過する際に、多孔質セラミックスに捕集される。又、場合により、ハニカム壁面に触媒をコーティングしたフィルターを用いて、排気ガス中のPMと窒素酸化物などの燃焼生成物の除去を同時に行うことも行われる。DPFの材料として、現在は、コーディライトと炭化ケイ素が一般的である(非特許文献1)。
【0004】
近年は、排気ガスの排出規制がより厳しくなり、DPFも更なる性能の向上が求められている。しかしDPFは、エンジン排気系の圧力損失の増加をもたらし、車の燃費を低下させてしまうため、最近では、エンジンの直下にDPFを配置して、より高温の排気ガスでPMを捕集することで、更なるPMの低減と、燃費の両立をはかろうとしている。そのため、より高温での耐熱性、およびエンジン直下に置くためにエンジンからの振動を受けやすくなり、これまで以上の耐振動性、耐熱衝撃性などの向上が求められている。また圧力損失を小さくしようとすると、DPFの多孔質セラミックスの気孔率、気孔径などを大きくすれば良いが、気孔率を大きくすると、セラミックスの強度低下につながり、気孔径を小さくすれば、捕集能力が低下するというトレードオフの関係がある(非特許文献2)。
【0005】
また、他の従来技術として、DPFとして用いる多孔質セラミックス材料で作ったハニカム構造体の空間に、セラミックス繊維、又はウィスカーを10vol%以上充填する方法がある(特許文献1)。この方法は、多孔質セラミックスを所定形状に焼結した後に、セラミックスウィスカーを多孔質セラミックスの気孔部分に充填する方法である。
【0006】
【特許文献1】特許第2675071号公報
【非特許文献1】岡田明、「構造用セラミックスの動向」、工業材料、日刊工業新聞社、2005年8月、第53巻、第8号、p.23−27
【非特許文献2】三輪真一、「ディーゼル排気ガス浄化用ハニカムセラミックス」、工業材料、日刊工業新聞社、2002年12月、第50巻、第13号、p.22−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、今まで以上に耐振動性、耐熱衝撃性など向上させ、かつPMの捕集効率を上げるには、さらに焼結密度を上げて、かつ適度な気孔率を有する多孔質セラミックスが求められている。しかし、カーボンブラックなどを添加して、炭化ケイ素を焼結する従来の方法において、焼結密度を上げるために、焼結温度を上げたり、または原料粉末の粒度を細かくする条件では、焼結反応が進み、焼結後の結晶粒子が粗大化して、焼結後に生ずる気孔が小さく、もしくは少なくなってしまい、気孔率の低下につながって、十分な効果が得られないという問題があった。
【0008】
また、特許文献1に開示された発明により捕集効率や圧力損失は向上するが、あくまでセラミックスウィスカーを充填したのみであるので、繰り返し使用した場合は、それらウィスカーがセラミックスから徐々に脱離して、排気ガス中に含まれる可能性がある。そのため、充填当初は、確かに捕集効率や圧力損失は向上するが、繰り返し使用するにしたがって、能力が低下してしまう。さらに、特許文献1には、ウィスカーの最適な直径として0.5〜10μmが開示されている。しかし、この直径のウィスカーは、人体の肺胞に取り込まれた場合は、中皮種として発がん性の疑いがあるといわれており、健康上、好ましいものではない。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、繰り返し使用してもPMに対する捕集効率が低下することなく、しかもDPFの圧力損失が小さく、耐振動性、耐熱衝撃性のある多孔性セラミックフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は以下の手段(1)及び(7)により達成された。好ましい実施態様(2)〜(6)と共に列記する。
(1)多孔質セラミック材からなるフィルターにおいて、焼結された多孔質セラミック材に、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有することを特徴とするフィルター、
(2)前記セラミックナノチューブが、炭素、窒素及びケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素を含有する(1)に記載のフィルター、
(3)前記セラミックナノチューブが、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素ナノチューブ、窒化ホウ素ナノチューブ及び窒化ケイ素ナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも1つのナノチューブである(1)又は(2)に記載のフィルター、
(4)前記セラミックナノチューブの平均直径が、1μm以下である(1)〜(3)いずれか1つに記載のフィルター、
(5)前記セラミックナノチューブの長さが、100μm以下であり、かつ長さ方向に中空のパイプ形状である(1)〜(4)いずれか1つに記載のフィルター、
(6)前記フィルターがハニカム状フィルターである(1)〜(5)いずれか1つに記載のフィルター、
(7)セラミックナノチューブ、微粉末及びバインダーを含み、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有する配合物を調製する工程、前記配合物を成型装置を用いてハニカム状の成型体に成型する工程、前記成型体を加熱して前記バインダーを揮散させる加熱工程、及び、加熱後の成型体を焼結してハニカム状の焼結体を得る工程を含むことを特徴とするハニカム状フィルターの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィルターによれば、繰り返し使用してもPMに対する捕集効率が低下することなく、しかもDPFの圧力損失が小さく、耐振動性、耐熱衝撃性のある多孔性セラミックフィルターを提供することができた。
また、本発明のフィルターの製造方法によれば、セラミックナノチューブを含有することで、フィルター製造時にナノチューブの表面を活性部位として焼結が進むことから、フィルターの焼結温度を高くする必要がない。つまり、フィルターの焼結温度を高くする必要がないことから、焼結密度を上げることができ、PMに対する捕集能力が低下することはない。また、セラミックナノチューブを含有することで、フィルター自体が補強される。この結果、耐振動性、耐熱衝撃性に優れたフィルターの製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のフィルターは、多孔質セラミック材からなるフィルターにおいて、焼結された多孔質セラミック材に、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有することを特徴とする。
以下本発明のフィルターを詳細に説明する。
【0013】
<多孔質セラミック材>
本発明のフィルターは、多孔質セラミック材からなる。ここで、セラミック材とは、熱処理により製造された非金属無機物質の固体材料をいう。前記非金属無機物質としては、炭素、窒素及びケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素を含有する無機化合物であることが好ましく、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミナ、コージェライト、ムライト等の一般的な材料を使用できるが、炭化ケイ素又はコージェライトがより好ましく、炭化ケイ素は熱伝導性に優れることから、特に好ましい。
多孔質とは、気孔率が40容量%以上であることをいう。気孔率は、50容量%以上が好ましく、50〜80容量%であることがより好ましく、60〜80容量%であることが特に好ましい。また、多孔質セラミック材の細孔平均径は、20μm以上が好ましく、25〜150μmであることがより好ましい。
【0014】
<セラミックナノチューブ>
本発明のフィルターは、セラミックナノチューブを含有する。セラミックナノチューブとは、その直径が数ナノメートルと非常に細い中空状で真っ直ぐなセラミック物質をいう。ここで、セラミック物質としては、炭素、窒素及びケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素を含有する無機化合物の成形体であることが好ましく、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミナ等の成形体であることがより好ましい。本発明に使用することのできるセラミックナノチューブは、構成元素として、炭素、窒素及びケイ素の主要成分元素以外に、微量成分として、ホウ素、アルミニウム、チタンといった元素を含有することができる。
上記セラミックナノチューブの製造方法は後述する。
【0015】
(セラミックナノチューブの配合比)
セラミックナノチューブは、焼結された多孔質セラミック材中に、0.5重量%以上含有される。また、0.5重量%〜20重量%含有されることが好ましく、1重量%〜20重量%含有されることがより好ましい。セラミックナノチューブの含有率が0.5重量%より少ない場合は、押出方向に関係なく、セラミックナノチューブがばらばらに配列してしまい、また、反応触媒としての効果が薄くなる。含有率が20重量%以下であると、セラミックナノチューブの配合によって生じる気孔が適度の大きさであり、フィルターの耐衝撃性が低下しないので好ましい。
【0016】
<ハニカム状フィルターの製造方法>
以下、本発明のハニカム状フィルターの製造方法を説明する。
本発明のハニカム状フィルターは、セラミックナノチューブ、微粉末及びバインダーを含み、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有する配合物を調製する工程、前記配合物を成型装置を用いてハニカム状の成型体に成型する工程、前記成型体を加熱して前記バインダーを揮散させる加熱工程、及び、加熱後の成型体を焼結してハニカム状の焼結体を得る工程を含むことを特徴とする。
【0017】
以下に本発明のフィルターの好ましい実施態様について説明を続ける。
本発明のフィルターに含有させるセラミックナノチューブは、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素(SiC)ナノチューブ、窒化ホウ素(BN)ナノチューブ及び窒化ケイ素(Si34)ナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも1つのナノチューブであることが好ましい。これらの中でも、炭化ケイ素を含有するナノチューブがより好ましい。
上記ナノチューブの他、シリカ(SiO2)、クロムカーバイト(Cr3Z)、リチウムアルミノシリケート(LiAlSiOX)、アルミニウムシリケート(AlSiOX)、アルミニウムチタネート(AlTiOX)、αアルミナ(Al23)、コージェライト等のセラミック材料を使用したナノチューブも使用することもでき、これらのナノチューブのうちから単独で、あるいは2種以上を複合して使用することもできる。
【0018】
(セラミックナノチューブの直径)
セラミックナノチューブの平均直径は、1,000nm(1μm)以下であることが好ましい。また、10nm以上であることが好ましく、10nm〜500nmであることがより好ましい。平均直径が上記の範囲内にあると、セラミックナノチューブの中空パイプが狭くならず、成型時の押出方向にセラミックナノチューブを配列することができる。また、中空パイプの平均直径が適切な範囲内にあるため、PMに対する捕集能力を維持することができ、フィルターの耐衝撃性を低下させることがない。
【0019】
また、セラミックナノチューブは、多孔質セラミック材からなるフィルター中に一体に焼結されている。したがって、フィルターからセラミックナノチューブが遊離していないために、排気ガス中にナノチューブが排出されることはない。しかし、仮に、遊離したセラミックナノチューブが大気中に排出されても、平均直径が上記の範囲内であれば、ウィスカーよりも細く、人体への影響は少ない。
【0020】
(セラミックナノチューブの長さ、形状)
セラミックナノチューブの長さは、100μm以下であることが好ましい。また、1μm以上であることが好ましく、1μm〜50μmであることがより好ましい。上記の範囲内の長さであると、フィルター中において、セラミックナノチューブ由来の気孔が適切となり、フィルターの耐振動性が低下しない。また、セラミックナノチューブ由来の気孔が小さくならず、押出成型時に、好ましい配向が得られ、効率的にPMを捕集することができる。
【0021】
セラミックナノチューブの形状は、長さ方向に中空のパイプ形状であることが好ましい。セラミックナノチューブは本発明のフィルターの原料として微粉末中に添加され、一体に焼結されるが、焼結された多孔質セラミック中に、セラミックナノチューブの中空パイプは気孔として残る。したがって、フィルターは適度な気孔率を有することから、圧力損失が少ない。また、押出成型をする工程において、押出方向に沿って、添加したセラミックナノチューブの中空パイプが揃う傾向になるので、焼結後に、気孔の向きがほぼ一定の向きになって、隣接した気孔が融合して大きくなることもなく、気孔径の制御も容易になる。
【0022】
セラミックナノチューブとして、シングルウォール型、ダブルウォール型、マルチウォール型が知られている。本発明のフィルターに含有されるセラミックナノチューブは、いずれの型を用いても良いが、耐振動性、耐熱衝撃性の観点からマルチウォール型を用いることが好ましい。また、上記したこれらの二種以上を組み合わせてもよい。
【0023】
(セラミックナノチューブの製造方法)
セラミックナノチューブは、カーボンナノファイバーにセラミック材料の原料となる酸化ケイ素、酸化ホウ素等を反応させて作製することができる。窒素高圧下でのレーザー加熱法によって窒化ホウ素ナノチューブが作製される。
カーボンナノチューブは、種々の公知の手法を用いて製造することができる。例えば、シングルウォールナノチューブは、金属触媒を添加したグラファイトを用い、アーク放電やレーザー蒸発法を用いて製造することができる。ダブルウォールナノチューブは、アーク放電、レーザー蒸発法、炭化水素の熱分解法などを用いて製造することができる。生成物中には、製造方法に応じて、アモルファスカーボン、グラファイト、ナノカプセルの微粒子、および金属触媒などの不純物が含まれる。不純物は、精製して除去することが好ましい。閉じているナノチューブの先端を、燃焼酸化などの精製法を利用して開端させることが好ましい。
炭化ケイ素ナノチューブは、マルチウォールカーボンナノファイバーにSiOを反応させて作製することができる。
窒化ケイ素ナノチューブは、マルチウォール酸化ケイ素ナノファイバーを窒素高温中で反応させて作製することができる。
窒化ホウ素ナノチューブは、マルチウォールカーボンナノファイバーに酸化ホウ素を窒素中で反応させて作製することができる。
【0024】
日本では地方自治体の厳しいディーゼル排ガス規制を満たすために、PM減少装置を搭載したディーゼル車であることが事実上義務づけられる状況になっている。このPM減少装置としては、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)、DPF又は連続再生DPFシステム(米国特許第4,902,487号明細書参照)が含まれる。この連続再生DPFシステムは、DOCで生成したNO2の強い酸化能力を利用して、DPFに捕集されたPMを低温で燃焼除去させようとするシステムである。NO2の燃焼速度を上げるために白金等が担持されたセラミックフィルターを再生DPFシステムに使用することが報告されている。このシステムでは、白金触媒によるNOのNO2への再酸化作用により低いNOX/PM比の排気ガス条件においても連続再生DPFシステムとすることが期待されている(今田安紀及び角屋聡、社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集No. 52-07、2007年5月24日自動車技術会春期学術講演会発表)。
【0025】
(ハニカム状フィルター)
本発明のフィルターは、ハニカム状のフィルターであることが好ましい。また、ウォールフロー型のハニカム状のフィルターであることがより好ましい。ウォールフロー型のハニカム状フィルターはDPFとして好ましく用いられる。以下、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、ウォールフロー型ハニカム状フィルターの一実施態様の端面を示す模式図である。
図1に示すように、四角いセル穴を有する多孔質セラミックハニカムのセル孔入口側と出口側が交互に閉じられた構造である。なお、四角いセル孔の構成面は、六角とすることもできる。
図2は、図1に示すウォールフロー型ハニカム状フィルターの一実施態様の横断面を示す模式図である。
ウォールフロー型ハニカム状フィルターは、多孔質の薄い隔壁2を介して、ハチの巣状に連なる多数の貫通孔を設け、その孔所定部分の貫通孔1の一端を多孔質セラミックス3で封止し、その封止した貫通孔以外の貫通孔4の他端を封止材5によって封止し、排気ガスが隔壁2を通過する構造になっている。排気ガスが隔壁2を通過する際に、排気ガス中に含まれるPMは、隔壁2の表面で捕集される。また、PMは、押出方向に沿って配向したセラミックナノチューブの気孔でも捕集される。
図3は、ウォールフロー型ハニカム状フィルターの一実施態様における、排気ガスの流路を示す模式図である。
【0026】
本発明の製造方法を、カーボンナノチューブを含有するハニカム状フィルターを例として、以下に説明する。
出発原料として、98.7重量%のβ型炭化ケイ素と、1.0重量%のカーボンナノチューブ、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.02重量%のホウ素を含んだ平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量する。
前記炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース10重量部、グリコール系の潤滑剤3重量部および水300重量部を配合した配合物を調製して、湿式ボールミルで3時間混合する。
前記炭化ケイ素微粉末を、金属製真空押出成型装置を用いて、1,000Pa以下の真空度で、押出圧力60kg/cm2、押出速度400mm/minにて、外径50mm×長さ200mmの円柱状で、セル壁厚みが、0.3mmで、セル数が300個のハニカム状炭化ケイ素質成型体を作製する。
前記成型体を、200℃で乾燥し、乾燥後の成型体を、炭化ケイ素そのものを酸化されない温度である、400〜500℃の電気炉で大気中にて加熱し、有機バインダー及び潤滑剤を揮散させる。
前記加熱処理後の成型体を、高純度黒鉛るつぼにセットして、タンマン型焼成炉内で、真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換した後、アルゴン雰囲気中で、2200℃で8時間保持して焼結し、ハニカム状フィルターが得られる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
出発原料として、98.7重量%のβ型炭化ケイ素と、1.0重量%のカーボンナノチューブ(シンセンナノテクポート社製:直径80nm長さ10μmのマルチウォールナノチューブ)、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.02重量%のホウ素を含んだ、平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量した。
この炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース15重量部、グリコール系潤滑剤3重量部および水300重量部を配合した配合物を調製して、湿式ボールミルで3時間混合した。
押出成型装置を用いて、前記配合物を、押出し圧力100kg/cm2にて、10mm角×長さ50mmの直方体状炭化ケイ素質成型体テストピースを作製した。この得られた成型体テストピースを、大気中200℃で乾燥した。
前記成型体テストピースを、炭化ケイ素が酸化されない温度である、500℃の電気炉で窒素中にて加熱し、有機バインダー及び潤滑剤を揮散させた。
前記加熱処理後の成型体テストピースを、高純度黒鉛るつぼにセットして、タンマン型焼成炉内で真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換してから、アルゴン雰囲気中で、2,200℃で8時間保持して焼結させ、焼結体テストピースを作製した。
【0028】
この焼結体テストピースの炭化ケイ素結晶のかさ密度は、2.50g/cm3の多孔質セラミックスであるが、室温での曲げ強度は、80kg/mm2、1000℃での曲げ強度は、75kg/mm2であった。
【0029】
次に、ハニカム状フィルターを製造した。
出発原料として、98.7重量%のβ型炭化ケイ素と、1.0重量%のカーボンナノチューブ(シンセンナノテクポート社製:直径80nm長さ10μmのマルチウォールナノチューブ)、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.02重量%のホウ素を含んだ、平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量した。
この炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース15重量部、グリコール系潤滑剤3重量部および水300重量部を配合した配合物を調製して、湿式ボールミルで3時間混合した。
前記配合物を、金属製真空押出成型装置を用いて、1,000Pa以下の真空度で、押出圧力60kg/cm2、押出速度400mm/minにて、外径50mm×長さ200mmの円柱状で、セル壁厚みが、0.3mmで、セル数が45個/cm2のハニカム状多孔質炭化ケイ素質成型体を作製した。
前記成型体を、200℃で乾燥し、乾燥後の成型体を、炭化ケイ素が酸化されない温度である、400〜500℃の電気炉で窒素中にて加熱し、有機バインダー及び潤滑剤を揮散させた。
前記加熱処理後の成型体を、高純度黒鉛るつぼにセットして、タンマン型焼成炉内で、真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換した後、アルゴン雰囲気中で、2200℃で8時間保持して焼結させ、ハニカム状フィルターを得た。
【0030】
(熱衝撃テスト)
熱衝撃テストは、窒素バルブ及びエアーバルブを有する電気炉内にハニカム状フィルターを設置して行った。窒素バルブを開放し、炉内を窒素雰囲気下としてから温度を500℃まで上昇させた後、室温のエアーバルブへと切り替えて耐熱衝撃性能を試験した。この熱衝撃テストを繰り返した結果を表1に示す。熱衝撃テストについては、「井戸貴彦、国枝雅文及び大野一茂、社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集No. 52-07、2007年5月24日自動車技術会春期学術講演会発表」に記載の方法を参照できる。
【0031】
(水中急冷試験)
水中急冷試験は、ハニカム状フィルターを大気中500℃まで加温保持してから、水中に投入することでクラックが入るかどうか試験を試みた。クラックが入らなかった場合は○とし、クラックが入った場合は×とした。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例2)
出発原料として、95.7重量%のβ型炭化ケイ素と2.0重量%のα型炭化ケイ素と、2.0重量%の炭化ケイ素ナノチューブ、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.1重量%のアルミニウムを含んだ、平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量した。
炭化ケイ素ナノチューブは、直径70nm長さ20μmのマルチウォールカーボンナノファイバーにSiOを反応させて作製した。
この炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース15重量部、グリコール系潤滑剤3重量部および水300重量部を配合し、湿式ボールミルで3時間混合した。
押出成型装置を用いて、前記混合物を、押出し圧力100kg/cm2にて、10mm角×長さ50mmの直方体状炭化ケイ素質成型体テストピースを作製した。この得られた成型体を、大気中200℃で乾燥した。
前記成型体テストピースを、炭化ケイ素が酸化されない温度である、500℃の電気炉で大気中にて加熱し、有機バインダー及び潤滑剤を揮散させた。
前記加熱処理後の成型体テストピースを、高純度黒鉛るつぼにセットして、タンマン型焼成炉内で、真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換してから、アルゴン雰囲気中で、2200℃で8時間保持して焼結させ、焼結体テストピースを作製した。
【0033】
この焼結体テストピースのかさ密度は、2.50g/cm3の多孔質セラミックスであるが、室温での曲げ強度は、95kg/mm2、1000℃での曲げ強度は、85kg/mm2であった。
【0034】
次に、ハニカム状フィルターを、実施例1と同じように、製造した。得られたハニカム状フィルターについて、実施例1同様に熱衝撃テスト及び水中急冷試験を行った。結果を表1に示す。
【0035】
(実施例3)
出発原料として、95.7重量%のβ型炭化ケイ素と3.0重量%のα型炭化ケイ素と、1.0重量%の窒化ホウ素ナノチューブ、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.1重量%のアルミニウム、を含んだ、平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量した。
窒化ホウ素ナノチューブは、直径70nm長さ20μmのマルチウォールカーボンナノファイバーに酸化ホウ素を窒素中で反応させて作製した。
この炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース15重量部、グリコール系潤滑剤3重量部および水300重量部を配合し、湿式ボールミルで3時間混合した。
押出成型装置を用いて、前記混合物を、押出し圧力100kg/cm2にて、10mm角×長さ50mmの直方体状炭化ケイ素質成型体テストピースを作製した。この得られた成型体テストピースを、大気中200℃で乾燥した。
前記成型体テストピースを、炭化ケイ素が酸化されない温度である、500℃の電気炉で大気中にて加熱し、有機バインダーを揮散させた。
前記加熱処理後の成型体テストピースを、高純度黒鉛るつぼにセットして、タンマン型焼成炉内で、真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換してから、アルゴン雰囲気中で、2200℃で8時間保持して焼結させ、焼結体テストピースを作製した。
【0036】
この焼結体テストピースのかさ密度は、2.60g/cm3の多孔質セラミックスであるが、室温での曲げ強度は、75kg/mm2、1000℃での曲げ強度は、70kg/mm2であった。
【0037】
次に、ハニカム状フィルターを、実施例1と同じように、製造した。得られたハニカム状フィルターについて、実施例1同様に熱衝撃テスト及び水中急冷試験を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例4)
出発原料として、95.7重量%のβ型炭化ケイ素と3.0重量%のα型炭化ケイ素と、1.0重量%の窒化ケイ素ナノチューブ、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.1重量%のアルミニウム、を含んだ、平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量した。
窒化ケイ素ナノチューブは、直径70nm長さ20μmのマルチウォール酸化ケイ素ナノファイバーを窒素高温中で反応させて作製した。
この炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース15重量部、グリコール系潤滑剤3重量部および水300重量部を配合し、湿式ボールミルで3時間混合した。
押出成型装置を用いて、前記混合物を、押出し圧力100kg/cm2にて、10mm角×長さ50mmの直方体状炭化ケイ素質成型体テストピースを作製した。この得られた成型体を、大気中200℃で乾燥した。
前記成型体テストピースを、炭化ケイ素が酸化されない温度である、500℃の電気炉で大気中にて加熱し、有機バインダー及び潤滑剤を揮散させた。
前記加熱処理後の成型体テストピースを、高純度黒鉛るつぼにセットして、焼成炉で、真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換してから、アルゴン雰囲気中で、2200℃で8時間保持して焼結させ、焼結体テストピースを作製した。
【0039】
この焼結体テストピースのかさ密度は、2.40g/cm3の多孔質セラミックスであるが、室温での曲げ強度は、70kg/mm2、1000℃での曲げ強度は、60kg/mm2であった。
【0040】
次に、ハニカム状フィルターを、実施例1と同じように、製造した。得られたハニカム状フィルターについて、実施例1同様に熱衝撃テスト及び水中急冷試験を行った。結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
出発原料として、98.7重量%のβ型炭化ケイ素と、1.0重量%のカーボンブラック、0.2重量%の酸素、0.05重量%の鉄、0.1重量%のアルミニウム、0.02重量%のホウ素を含んだ、平均粒子径が0.5μmの炭化ケイ素微粉末を秤量した。
この炭化ケイ素微粉末100重量部に対し、メチルセルロース15重量部、グリコール系潤滑剤3重量部および水300重量部を配合し、湿式ボールミルで3時間混合した。
押出成型装置を用いて、前記混合物を、押出し圧力100kg/cm2にて、10mm角×長さ50mmの直方体状炭化ケイ素質成型体テストピースを作製した。この得られた成型体テストピースを、大気中200℃で乾燥した。
前記成型体テストピースを、炭化ケイ素が酸化されない温度である、500℃の電気炉で窒素中にて加熱し、有機バインダー及び潤滑剤を揮散させた。
前記加熱処理後の成型体テストピースを、高純度黒鉛るつぼにセットして、焼成炉で、真空引きしてから、1気圧のアルゴンガスでガス置換してから、アルゴン雰囲気中で、2200℃で8時間保持して焼結させ、焼結体テストピースを作製した。
【0042】
この焼結体テストピースのかさ密度は、2.80g/cm3の多孔質セラミックスであるが、室温での曲げ強度は、50kg/mm2、1000℃での曲げ強度は、30kg/mm2であった。
【0043】
次に、ハニカム状フィルターを、実施例1と同じように、製造した。得られたハニカム状フィルターについて、実施例1同様に熱衝撃テスト及び水中急冷試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
本実施例の結果と比較例の結果から、多孔質セラミック材よりなるフィルターにおいて、焼結された多孔質セラミック材に、セラミックナノチューブを少なくとも0.5重量%以上含有することで、セラミックナノチューブを含まないフィルターに比べてかさ密度が低く、曲げ強度に優れ、300回以上の熱衝撃に耐えることが示された。特に、本発明の要件を充足しない比較例1では、熱衝撃を120回繰り返すとクラックが入った。また、1回の水中急冷でクラックが入った。
【0046】
以上の結果から、従来のフィルターの優れた点を参考にしながらも、従来の製造方法に存在した圧力損失、耐振動性及び耐熱衝撃性という問題点を解決した、全く新しいハニカム状フィルターを製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施態様で使用したウォールフロー型ハニカム状フィルターの排気ガス流入側の端面を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施態様で使用したウォールフロー型ハニカム状フィルターの断面を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施態様で使用したウォールフロー型ハニカム状フィルター内における、排気ガスの流路を記載した図である。
【符号の説明】
【0048】
1、4 貫通孔
2 隔壁
3、5 多孔質セラミックス封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミック材からなるフィルターにおいて、焼結された多孔質セラミック材に、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有することを特徴とするフィルター。
【請求項2】
前記セラミックナノチューブが、炭素、窒素及びケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素を含有する請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記セラミックナノチューブが、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素ナノチューブ、窒化ホウ素ナノチューブ及び窒化ケイ素ナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも1つのナノチューブである請求項1又は2に記載のフィルター。
【請求項4】
前記セラミックナノチューブの平均直径が、1μm以下である請求項1〜3いずれか1つに記載のフィルター。
【請求項5】
前記セラミックナノチューブの長さが、100μm以下であり、かつ長さ方向に中空のパイプ形状である請求項1〜4いずれか1つに記載のフィルター。
【請求項6】
前記フィルターがハニカム状フィルターである請求項1〜5いずれか1つに記載のフィルター。
【請求項7】
セラミックナノチューブ、微粉末及びバインダーを含み、セラミックナノチューブを0.5重量%以上含有する配合物を調製する工程、
前記配合物を成型装置を用いてハニカム状の成型体に成型する工程、
前記成型体を加熱して前記バインダーを揮散させる加熱工程、及び、
加熱後の成型体を焼結してハニカム状の焼結体を得る工程を含むことを特徴とする
ハニカム状フィルターの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−11994(P2009−11994A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180251(P2007−180251)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】