説明

セラミック基板の製造方法

【課題】
平滑な面を得るために表面を研磨しても、表面に現れるボイドが少なく、強度の大きく、比較的低温度で焼成が可能であり、マイクロ波に対する誘電損失が少なく、体積固有抵抗が高いという特性をもつセラミック基板を提供することである。
【解決手段】
少なくともフォルステライト80〜99.8 重量%及び
イットリア0.2〜5重量%からなる成形体を焼成することを特徴とするセラミック基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォルステライトを主成分とするセラミック基板に関する。更に詳しくは、無機EL基板に有用なセラミック基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フォルステライト基板はフォルステライト(2MgO・SiO2)を主結晶とするセラミックの基板であり、フォルステライトを主成分としたセラミックスはマイクロ波に対する誘電体損失が小さく、体積固有抵抗も高いので、高周波絶縁材料として高周波用回路部品、抵抗芯材などに使用されている。また、アルミナ基板など他のセラミック材料に比較して、かなり低い温度で焼成することができるので製造効率的にも有利なセラミック材料である。
【0003】
上記各種用途に使用する際に、フォルステライト基板の表面を平滑にするため焼成して得られたフォルステライト基板をサンディングにより研磨する必要があるが、研磨することにより内部に存在するボイドが表面に現れてくる。この表面に導電体ペーストを使用して回路パターンを印刷する場合にペーストがボイドに流れ込むなどして正確な印刷パターンが得られないという問題があった。
【0004】
また、面積が大きく、且つ厚みが薄い用途、例えば無機EL(エレクトロルミネッセンス)基板などのフラットディスプレイ基板に使用する場合にはA4サイズ程度以上の面積をもち、厚みが3mm程度の厚みであるため、曲げ強度が要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、平滑な面を得るために表面を研磨しても、表面に現れるボイドが少なく、強度の大きく、比較的低温度で焼成が可能であり、マイクロ波に対する誘電損失が少なく、体積固有抵抗が高いという特性をもつセラミック基板を提供することである。
【0006】
上記目的を達成するため、検討を進めた結果、特定の組成の成形体を焼成してセラミック基板を得ることが有用であることを見出し、下記構成の本発明を完成するに至った。
1.少なくともフォルステライト80〜99.8 重量%及び
イットリア0.2〜5重量%からなる成形体を焼成することを特徴とするセラミック基板の製造方法。
2.イットリアのメディアン径D50であらわした粒度が4μ以下である上記1に記載のセラミック基板の製造方法。
3.セラミック基板がフラットパネル用の基板である上記1又は2に記載のセラミック基板の製造方法。
4.フラットパネルが無機ELパネルである上記1〜3のいずれかに記載のセラミック基板の製造方法。
5.少なくともフォルステライト80〜99.8 重量%及び
イットリア0.2〜5重量%からなる成形体を焼成して得られるセラミック基板を基板として含むことを特徴とするフラットパネル。
6.上記フラットパネルがELフラットパネルである上記5に記載のフラットパネル。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決すべくなされたもので、平滑な面を得るために表面を研磨しても、表面に現れるボイドが少なく、強度の大きく、比較的低温度で焼成が可能であり、マイクロ波に対する誘電損失が少なく、体積固有抵抗が高いという特性をもつセラミック基板を提供する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のセラミック基板は、特定量のフォルステライト及びイットリアからなる成形体を焼成することを特徴とするセラミック基板である。
全成形体中に、フォルステライトが80〜99.8重量%、
イットリアが0.2〜5重量%含有されるのが好ましく、
全成形体中に、フォルステライトが95〜99.5重量%、
イットリアが0.5〜2重量%含有されるのが更に好ましい。
【0009】
フォルステライトの組成が上記下限値未満であるとフォルステライト基板が本来有する比較的低温で焼成が可能であり、マイクロ波に対する誘電損失が少なく、体積固有抵抗が高いという特性値が低下し、フォルステライトの組成値が上記上限値を超えると、相対的にイットリアの量が低下するためにボイドの数が増加する。
イットリアの組成が上記下限値であると、イットリアの添加効果が低下してボイドの数が増加し、上記上限値を超えると、イットリアが高価であるため基板のコストが高くなるのみでボイドの数そのものはそれ以上低下するわけではないため好ましくない。
【0010】
上記イットリアのメディアン径D50であらわした粒度は、4μ以下であるのが好ましく、2μ以下であるのが更に好ましい。
D50の値が、上記値以上であるとイットリアの添加効果が低下して、ボイドの数が増加する。
【0011】
本発明のセラミック基板は、フォルステライト、イットリア以外の化合物、鉱物を上記フォルステライト及びイットリアの特定含有量の値を損なわない量で含有され得る。
【0012】
本発明のセラミック基板は、所定割合の各種成形体原料を含有するセラミックスラリーを押出成型、射出成型、カレンダーロール、コーティング等の方法でスラリーシートとし、スラリーシートを乾燥して、グリーンシートを得た後、焼成して得られる。
平坦な形状のシートが得られる観点から、スラリーシートはセラミックスラリーをコーティングすることにより製造することが好ましい。
【0013】
上記セラミックスラリーは、成形体原料、溶媒、更に必要に応じて公知の分散剤、結着樹脂、可塑剤、滑剤等を混合して得ることができる。
【0014】
溶媒は、セラミックスラリーを乾燥してグリーンシートを製造する場合に、大部分が揮散して消失するが、セラミックスラリーを適当な粘度とするため、あるいはセラミックスラリーを乾燥する場合に均一な乾燥を可能とするためにその種類、量を選択することが重要である。特に、乾燥工程では、低沸点の溶媒を使用すると乾燥が急激に進み、膜に亀裂が入り、逆に高沸点の溶媒を使用すると乾燥が遅くなるため、複数の溶媒を混合して使用することが好ましい。
【0015】
上記溶媒としては、特に限定はないが、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、t-ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、テトラリン、デカリン、芳香族ナフサなどの芳香族炭化水素類;例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、テレピン油などの脂肪系もしくは脂環族系炭化水素類;例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸n-アミル、酢酸2-ヒドロキシエチル、酢酸2-ブトキシエチル、酢酸3-メトキシブチル、安息香酸メチルなどのエステル類;例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのケトン類;例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどのアルコール類;水などを挙げることができる。
【0016】
上記結着樹脂としては、特に制限は無いが、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、APP、メタクリル系樹脂、ポリアセタール、セルロース、エチレン酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、などを挙げることができる。
【0017】
原材料の配合は、ボールミル、振動ミル、ホモミキサー、ロールミル等の公知の混合装置で混合し、セラミックスラリーを得ることができる。
【0018】
セラミックスラリーの粘度は、好ましくは5000〜40000 mPa・s (ミリパスカル・セカンド)、更に好ましくは10000〜30000 mPa・s であり、溶媒の添加量を調整して粘度を調整することができ、粘度が低いと無機粉体が沈降する傾向にあり、また、粘度が高いと塗工性が低下する。
【0019】
セラミックスラリーにおける溶媒以外の成分の割合は、50〜90%が好ましく、65〜80%がより好ましい。
【0020】
セラミックスラリーを塗工することによりスラリーシートを得る場合には、コンマコーター、ダイコーター、カーテンコーター、ファウンテンコーター等の塗工機を使用して基材フィルム上に塗工し、セラミックスラリーの塗工層を製造することができる。
【0021】
セラミックスラリーを塗工する基材フィルムとしては、公知の合成樹脂シート、紙、布、不織布等を離型処理したものを使用することができるが、表面精度の観点からポリエステル樹脂等の合成樹脂シートの表面を離型処理したものが好ましい。
【0022】
塗工厚みは用途によりさまざまであるが、本発明のセラミック基板が回路基板に使用される場合は乾燥厚みが好ましくは200μ〜2mm、無機EL基板に使用される場合には乾燥厚みが好ましくは1mm〜5mmになるように塗工厚みを調整する。
【0023】
基材フィルム上に塗工されたスラリーシートは、温風乾燥機、熱風乾燥機、遠赤外乾燥機等で乾燥してグリーンシートを得ることができる。乾燥操作後にシートの内部に溶媒が残存すると、膜に亀裂が入る可能性があるため、スラリー内部の溶媒が抜けきる前にスラリー表面が乾燥しないようにすることが好ましい。乾燥温度は20〜150℃が好ましく、更に好ましくは40〜120℃、乾燥時間は5〜60分が好ましく、10〜40分が更に好ましく、低温から高温まで段階的に、若しくは連続的に昇温して乾燥することが好ましい。
【0024】
グリーンシートの焼成に先立ち、得られたグリーンシートを使用目的に応じてカットし、必要に応じて複数枚積層する。
【0025】
基材フィルムを剥離したグリーンシートを焼成する場合には、グリーンシート中のフォルステライト等の成型体が焼結を開始する前に結着剤樹脂が分解し、その後成形体が焼成される必要がある。
このため、例えは゛200〜500℃で約1〜10時間加熱して結着樹脂を十分に分解した後、1000〜1500℃で数時間加熱して、成形体を焼結する焼成工程をとることができる。
【0026】
以上のようにして得られるセラミック基板を使用目的に応じて表面等を公知の方法で研磨して使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げ、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例において用いた試験方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0028】
(1)研磨
各実施例で得られた厚み1.7mmのセラミック基板を一辺5cmの正方形にカットした試験辺を作成した。この試験片を、研磨機(丸本ストリアス株式会社製:丸本試料準備研磨機型式6525/B)の研磨面上に押し当て、C80の研磨剤で1分、C400の研磨剤で5分、C1500の研磨剤で10分研磨して厚み1.5mmの平滑な新しい表面を得た。
【0029】
(2)ボイド測定
上記研磨試料片の研磨面を50倍の光学顕微鏡で観察し、研磨試料一枚当たりの5μ以上のボイドの数を測定した。
【0030】
(3)強度
焼成して得られた試料を長さ50mm、巾12mmにカットして測定試料を作成し、JIS C-2141 に準じて強度を測定した
【0031】
実施例1
(1)セラミックスラリーの作成
フォルステライト(共立マテリアル株式会社製:合成フォルステライトFF-200)99重量部、イットリア(日本イットリウム株式会社製:微粉末99.9%イットリウムオキサイド、メディアン径D50=1.38)1重量部、メタノール23重量部、トルエン27重量部、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製:エスレックBM−S)10重量部、ジブチルフタレート8重量部をボールミルに添加し、30時間混合して、粘度15,000センチポイズ(BM型粘度計10rpm)のセラミックスラリーを得た。
【0032】
(2)グリーンシートの作成
上記セラミックスラリーをPET剥離シート上にアプリケーターを使用し、縦20cm、横20cm、乾燥厚み2mmに塗布し、熱風乾燥機中で80℃で60分乾燥してグリーンシートを得た。
【0033】
(3)セラミック基板の作成
上記グリーンシートを縦15cm、横15cmにカットし、焼成炉中で400℃で8時間加熱し、更に1350℃で4時間加熱して厚み1.7mmのセラミック基板を得た。
得られたセラミック基板の原板を前記条件下で物性試験を行なった結果を表1に示す。
ボイドが存在せず良好な表面が得られた。
【0034】
実施例2
フォルステライトの量を99.4重量部、微粉末イットリアの量を0.6重量部とする以外は実施例1と同様にしてセラミック基板を得た。
【0035】
実施例3
成形体としてフォルステライト93重量部、微粉末イットリア1重量部、炭酸カルシウム6重量部を使用する以外は実施例1と同様にしてセラミック基板を得た。
【0036】
実施例4
成形体としてフォルステライト99.2重量部、イットリア(日本イットリウム株式会社製:99.9%イットリウムオキサイド、メディアン径D50=3.8)0.8重量部を使用する以外は実施例1と同様にしてセラミック基板を得た。
【0037】
参考例1
成形体としてフォルステライト100重量部のみを使用する以外は実施例1と同様にしてセラミック基板を得た。多数のボイドが存在する基板であった。
【0038】
参考例2
成形体としてアルミナ、カルシア、マグネシア、シリカ、等よりなるアルミナ96%セラミック粉末99重量部、微粉末イットリア1重量部を使用する以外は実施例1と同様にしてセラミック基板を得た。フォルステライトを焼成する低温の焼成条件では焼成が不十分で得られた基板の強度は測定不能であった。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のセラミック基板は各種の回路基板、ディスプレイ基板に利用が可能であり、前記の特性を有するので大面積のフラットディスプレイパネル、特に無機EL基板に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフォルステライト80〜99.8 重量%及び
イットリア0.2〜5重量%からなる成形体を焼成することを特徴とするセラミック基板の製造方法。
【請求項2】
上記イットリアのメディアン径D50であらわした粒度が4μ以下である請求項1に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項3】
上記セラミック基板がフラットパネル用の基板である請求項1又は2に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項4】
上記フラットパネルが無機ELパネルである請求項1〜3のいずれかに記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項5】
少なくともフォルステライト80〜99.8 重量%及び
イットリア0.2〜5重量%からなる成形体を焼成して得られるセラミック基板を基板として含むことを特徴とするフラットパネル。
【請求項6】
上記フラットパネルが無機ELフラットパネルである請求項5に記載のフラットパネル。

【公開番号】特開2006−89357(P2006−89357A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280099(P2004−280099)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】