説明

セラミック層を製作する方法

本発明の対象は、吹き付けによってセラミック層(20)を製作する方法である。本発明ではプレセラミックポリマーからポリマーセラミックを製作できるようにするために、本発明によると、コールドスプレーガン(12)によってコールドガスジェット(15)が生成され、これに配管(18)を介してプレセラミックポリマーからなる粒子(19)が添加されるコールドガススプレー法が採用される。基材(13)に層(20)を生成するためのエネルギーは、コールドガスジェット(15)への高い運動エネルギーの印加によって生成され、それにより、コールドガスジェット(15)の熱による加熱を行わなくてよく、若しくはわずかしか行わなくてよい。したがって、熱に敏感なプレセラミックポリマーをコールドガススプレーによってスプレー技術で皮膜(20)として基材(13)に塗布することができる。それにより、比較的厚みの大きい層を迅速に生成するための経済的な方法が、ポリマーセラミックに与えられる。たとえば磨耗保護層、熱保護層、及びその他の機能層を製作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子がノズルによって成膜されるべき表面に吹き付けられ、そこに付着したままとどまる、セラミック層を製作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射によるセラミック層の製作は、たとえばアメリカ国防総省の刊行物(AMPTIACニュースレター(The AMPTIAC Newsletter)、2002年春、6巻1号)から知られている。それによると、生成されるべきセラミック皮膜のセラミック成分を含んでいるミクロ粒子を1回の溶射プロセスで、成膜されるべき表面に吹き付けることができる。溶射ガンによってプラズマ放射が生成され、このプラズマ放射にセラミック材料のミクロ粒子が供給され、それによって少なくとも部分的に溶融される。それにより、成膜されるべき基材ないし形成されつつある層にミクロ粒子が当たったときにセラミック組織が形成され、このセラミック組織が、場合により熱による後処理によって完成させられる。
【0003】
近年、新たな種類のセラミック材料(いわゆるポリマーセラミック)が開発されている。この新しいセラミックの種類に関しては、たとえばインターネットページwww.presse.uni-erlangen.de/Aktuelles/Keram%20Material.html(2004年9月6日現在で利用可能)にエルランゲン大学のガラス・セラミック講座により、ポリマーとしてのセラミック原料(先駆物質)はこの方法にとって高すぎる熱感受性を有しているので、粉末状の原料の高温燃焼(焼結)という従来式の方法でポリマーセラミックを製作することはできないと説明されている。これに代えて、プレセラミックポリマーとも呼ばれるシリコン含有プラスチック(たとえばポリカーボシラン、ポリシラザン、ポリシロキサン)が熱による分解(熱分解)によってセラミック高機能材料へと移行させられる、化学技術の特徴を色濃く有している方法取組みを追求しなくてはならない。しかしながらプロセス温度が低いため、ポリマーセラミックの製造に溶射法を利用することはできない。
【0004】
O.ゲールケ(O. Goerke)その他による「シロキサン先駆物質の吹き付け(ポリマー吹き付け)によって加工されたセラミック皮膜("Ceramic coatings processed by spraying of siloxane precursors (polymer-spraying)")」、ヨーロッパセラミック協会ジャーナル(Journal of the European Ceramic Society)24(2004)2141−2147頁により、ポリマーセラミックの先駆物質を溶液又は溶融液として噴霧により表面に塗布し、その表面上にこの先駆物質が付着したままとどまることが知られている。ポリマーセラミックの製作は、こうして得られた皮膜の適当な熱処理によって行われる。まず最初に、先駆物質の重合がたとえば200℃で実施される。これに続いて、セラミックを製造するための焼結処理を最高1000℃で行うことができる。
【0005】
更にL.S.シャドラー(L.S.Schadler)その他の「溶射されたシリカ/ナイロン・ナノコンポジットのミクロ構造と機械的性質("Microstructure and Mechanical Properties of Thermally Sprayed Silica/Nylon Nanocomposites")」、溶射テクノロジージャーナル(Journal of Thermal Spray Technology)6巻(1997)475から485頁によれば、ポリマーとセラミック粒子からなるコンポジットを溶射(HVOF溶射)によって製作することが可能である。この目的のために熱に敏感なポリマー材料は、埋め込まれるべきセラミック材料で被覆された粒子として加工される。この粒子を溶射法の炎噴射に入れることができ、それにより、所望のポリマーセラミック複合体が溶射層に生じることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ポリマーセラミック層の製作に利用することができる、吹き付けによってセラミック層を製作する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は本発明によれば、冒頭に述べた方法において、粒子としてポリマーセラミックの前駆体(プレセラミックポリマーとも呼ばれる)が使用され、ノズルとしてコールドスプレーを採用したコールドスプレーノズルが使用されることによって解決される。コールドスプレー法の適用は、溶射法とは異なり、皮膜の形成のために必要なエネルギーが、コールドガスジェットの中で皮膜粒子が(好ましくは音速の何倍かにまで)強力に加速されることに基づいて生成されるという利点を有している。
【0008】
コールドスプレー法は、基本的には、たとえばドイツ特許出願公開第10224780A1号明細書から公知である。この方法を実施するために必要な装置はたとえば真空室を有しており、その中で基材をいわゆるコールドスプレーノズルの前に配置することができる。成膜を実施するために真空室が排気され、コールドスプレーノズル(コールドガススプレーガンとも呼ばれる)によってガスジェットが生成され、工作物の成膜のためにその中へ粒子を送り込むことができる。この粒子はコールドガスジェットによって強力に加速され、その結果、成膜されるべき基材の表面への粒子の付着が、粒子の運動エネルギーの変換によって実現される。粒子を追加的に加熱することができるが、その加熱は、粒子の融点に達しないように制限される(こうした事情がコールドガススプレーという術語の命名に寄与している)。
【0009】
皮膜粒子すなわちポリマーセラミックの前駆体へのエネルギー注入は、コールドガスジェットの速度の調整によって、ならびに、場合によりコールドガスジェットへの熱エネルギーの追加の注入によって変えることができる。エネルギー注入は、成膜されるべき基材の表面に向って粒子の形態で加速されるポリマーセラミックの前駆体が、少なくとも付着したままとどまるように設定されなくてはならない(この点に関してはまた後述する)。それにより、ポリマーセラミックからなる皮膜を吹付けによって生成することができ、その特性が、吹き付けられるべき粒子の熱による過負荷のせいで脅かされることがない。
【0010】
本発明の1つの有利な実施形態では、ノズルによって生成されるコールドガスジェットに別の粒子を充填材として供給することが可能である。その場合、熱に対する感受性の故に溶射法のプラズマジェットへは添加することができない充填材を使用できるという利点がある。すなわち、溶射法で使用されるセラミックは一般に非常に高い融点を有しているので、従来式のセラミック法では充填材を添加することは事実上考えられない。
【0011】
たとえば層形成のときにポリマーセラミックの前駆体と反応する金属、特にジルコン(Zr)、チタン(Ti)若しくはアルミニウム(Al)、又は特に前掲の材料からなる合金が供給されると好ましい。その場合、活性充填材の添加によってポリマーセラミックの組成に影響を及ぼすという可能性が生まれる。
【0012】
更に、たとえば一定割合の不動態充填材を添加するのも好ましく、たとえば酸化ケイ素(SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)、コランダムなどを添加することができる。更に、不動態化された、又は不活性な合金又は金属を添加することもできる。不動態化された金属は、セラミック特性を有する酸化表面を有しているので不活性であるからである。不活性な金属は、一般に、十分に高い融点を有しており、それによりポリマーセラミックの形成時に関わる反応には関与しない。金(Au)や白金(Pt)などの貴金属が優先的に考慮の対象となる。
【0013】
充填材は、反応性を向上させるために、好ましくはナノ粒子としてコールドスプレープロセスに取り入れることができる。コールドガススプレーを用いた加工を可能にするには、ナノ粒子はその慣性がきわめて低いので比較的大きな粒子と結合させなくてはならない。たとえば充填材はナノ粒子として、ポリマーセラミックの前駆体としてのプレセラミックポリマーの母材へ埋め込むことができ、その場合、前駆体が、コールドガススプレーを用いて加工することができるミクロ粒子をそれぞれ形成する。前駆体の母材への埋込みは、特に反応性充填材の場合に特別に好ましい。なぜならその場合、反応性充填材は良好な分散性と広い表面積とによって、ポリマーセラミックの形成プロセス時に完全に反応することができるからである。母材にマイクロカプセルとして埋め込まれたナノ粒子を含んでいるミクロ粒子を製造する方法は、たとえばCapsulation(登録商標)社によって提供されている。
【0014】
本発明の別の実施形態では、コールドガスジェットへのエネルギー注入は、ポリマーセラミックの前駆体の反応が層形成中に完全に完了するように設定されることが意図される。このことは、ポリマーセラミックの前駆体が下層(基材ないし形成中の層)に当たったときに完全にポリマーセラミックへと変換され、そのとき充填材が同時に取り込まれ、ないしはポリマーセラミックの前駆体と反応することを意味している。それにより、ポリマーセラミック層の後処理が必要ないので、非常に経済的な方法を具体化できるという利点がある。場合によっては、たとえば内部応力を低減させるために必要となる、熱による後処理ステップを行うことができる。
【0015】
しかしながら、コールドガスジェットへのエネルギー注入は、粒子の付着は保証されるが、ただしポリマーセラミックの前駆体の反応は完了せず、引き続いて後処理が行われるように設定されることも可能である。後処理によってポリマーセラミックへの変換を的確に行えるという利点があり、これは生成される層複合体の全体で行われるので、製造に起因する応力の増大を減らすことができ、又は完全になくすことさえできるという利点がある。この関連においては、ポリマーセラミックの前駆体が当たった直後に開始される、すでに層が形成されている間から形成ずみの皮膜部分に追加のエネルギーを供給する処理も後処理として解するものとする。
【0016】
この関連においては、後処理は、形成中の層へのたとえば電磁放射のエネルギー注入によって、特にレーザ光線のエネルギー注入によって行われると好ましい。レーザはコールドガスジェットが当たる個所に向けるのが好ましく、それにより、層へのエネルギー注入を、コールドガスジェットによって実現されるのとまったく同様に局所的に行うことができる。このようにして、プロセスの要求事項に基づき、コールドガスジェットへのエネルギー注入が制限されている場合であっても、皮膜のポリマーセラミックを完成させることができる。
【0017】
更に、コールドガスジェットへのエネルギー注入のパラメータを、基材への層の付着に好都合な影響を与えるために有利に利用することができる。このことは、まだ成膜されていない基材を成膜するときのコールドガスジェットへのエネルギー注入が、粒子が基材の材料と結合するように設定されることによって行われる。この場合、粒子はその運動エネルギーに基づき、まだ成膜されていない基材に当たったときにこれと結合できるという事情を考慮することができ、この結合はたとえば共有結合であり得る。それによって層の付着が改善されるという利点があり、このことは、生成されたセラミック層が機械的負荷をうけたときに、例えばこれが剥離するという危険性を低減させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の更に詳しい具体的事項について図面を参照して説明する。ただ1つの図面は、コールドガススプレーを行う装置を示している。この装置は真空容器11を有しており、その中に、一方では、コールドガススプレーガンとも呼ぶことができるコールドスプレーノズル12が配置されており、他方では基材13が配置されている(取付部は詳しくは図示せず)。第1の配管14によって、コールドガススプレーガン12へプロセスガスを供給することができる。コールドガススプレーガンは輪郭線で示唆されているようにラバル形状を有しており、そのラバル形状によってプロセスガスが応力を緩和され、ガスジェット(矢印15)の形態で基材13の表面16に向って加速される。プロセスガスは、たとえば反応性ガスとして酸素17を含んでいてよい。更にプロセスガスは、図示しない仕方で加熱することができ、それによって求められるプロセス温度が真空容器12の中に生じる。
【0019】
第2の配管18によって、粒子19をコールドスプレーノズル12に供給することができる。この粒子19は形成されるべきポリマーセラミックのための、充填材19bを含むプレセラミックポリマー19a母材として製作することができる。この粒子はガスジェットの中で加速されて、表面16に当たる。粒子の運動エネルギーは、これが表面16に付着することにつながり、このときに酸素17も形成されつつある層20の中に取り込まれ、ないしはプレセラミックポリマーの熱分解反応に関与する。更に、ミクロ粒子として製作された別の充填材粒子19cをコールドガスジェットへ添加することができ、この充填材粒子も同じく層21へ取り込まれる。
【0020】
層を形成するために、基材13を両方向矢印21の方向へコールドスプレーノズル12の前で往復運動させることができる。別案として、図示しない仕方で、コールドスプレーノズル12を旋回可能に製作することも可能である。成膜プロセス中には、真空室11の真空が真空ポンプ22によって常時維持され、プロセスガスは真空ポンプ22を通過する前にフィルタ23に通されて、表面16に当たったときこれに結合されなかった粒子を濾出する。
【0021】
交差するハッチングで図示された、基材13の組織の表面16に接している部分と、形成されつつある層の表面に接している粒子とを対象とする境界領域24では、プロセスパラメータの適切な調整によって、層20と基材13の間の良好な付着が惹起されるように、形成されつつある層へのエネルギー注入を制御することができる。このとき、基材13の表面16が溶融することなく、当たった粒子19と基材13との間に形成される共有結合が活用されるのが好ましい。それにより、基材13の成分が、形成されつつある層20へ好ましくない仕方で取り込まれたり、これと逆の取り込みが起こるのを防ぐことができる。
【0022】
層20に対して、製作後に、層20の中で進行している反応を完了させるための適当な熱処理を行えるようにするために、真空容器11の中には更にヒータ25が設けられている。このヒータによって、成膜プロセスの進行中に、真空室内に求められる温度を実現することもできる。更に、電磁放射の形態で層への局所的なエネルギー注入を行うために、旋回可能な懸下部27によって動かすことができるレーザ26が真空容器11に格納されている。特にこのレーザは、図面に示すように、コールドガスジェット15が当たる点に向けることができ、それにより、コールドガスジェット15へのエネルギー注入に依存しない、外部からの追加のエネルギー注入を層形成プロセス中に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コールドガススプレーを行う装置を示す。
【符号の説明】
【0024】
12 コールドスプレーノズル
16 表面
19 粒子
19a 前駆体
20 セラミック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子(19)が成膜されるべき表面(16)にノズルによって吹き付けられ、そこに付着したままとどまる、セラミック層(20)を製作する方法において
前記粒子としてポリマーセラミックの前駆体(19a)が使用され、前記ノズルとしてコールドガススプレーを採用したコールドスプレーノズル(12)が使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
別の粒子が、充填材(19b,19c)として、前記ノズルによって生成されるコールドガスジェット(15)に供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属、特にZr,Ti若しくはAl又は合金が、層形成時にポリマーセラミックの前記前駆体(19a)と反応する活性充填材(19b,19c)として、供給されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
セラミック、特にSiO2,SiC,SiN,BN若しくはコランダム、又は不活性な乃至は不動態化された合金若しくは金属が、層形成時にポリマーセラミックの前記前駆体(19a)の反応に関与しないまま保たれる不動態充填材(19b,19c)として、供給されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
ポリマーセラミックの前記前駆体(19a)の反応が層形成中に完全に完了するように、前記コールドガスジェット(15)へのエネルギー注入が設定されることを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コールドガスジェット(15)へのエネルギー注入が、前記粒子(19)の付着は保証されるが、ただし、ポリマーセラミックの前記前駆体(19a)の反応は完了せず、引き続いて後処理が行われるように、設定されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
後処理が形成されつつある層への電磁放射の、特にレーザ光線の、エネルギー注入によって行われることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
まだ成膜されていない基材(13)を成膜するときの前記コールドガスジェット(15)へのエネルギー注入が、前記粒子(19)が前記基材(13)の材料と結合するように設定されることを特徴とする、請求項1から7のうちいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−544092(P2008−544092A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518801(P2008−518801)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063516
【国際公開番号】WO2007/000422
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】