説明

セラミック成形体の製造方法

ゲルキャスト法によりセラミック成形体を成形し、成形されたセラミック成形体を離型に際して加熱して、セラミック成形体が含有する溶剤を抽出する。抽出された溶剤は、セラミック成形体の外周面と成形型の内周面との間に溶剤皮膜を形成し、溶剤皮膜がセラミック成形体の成形型からの離型を助成して、離型時のセラミック成形体での損傷の発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、セラミック成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
セラミック成形体の製造方法の一方式として、セラミック粉体、分散媒およびゲル剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形して、成形された成形体を同成形型から離型してセラミック成形体を得る方式のセラミック成形体の製造方法がある。当該方式の製造方法は、所謂、ゲルキャスト法と称されるものである。従来、当該方式の製造方法を採用して中実のセラミック成形体(中実セラミック成形体)を製造する方法が提案されている(例えば、特開平1−261251号公報)。また、当該方式の製造方法を採用して内部に空洞を有する中空のセラミック成形体(中空セラミック成形体)を製造する方法も提案されている(例えば、特開2002−216626号公報)。
しかして、上記した各特許文献にて提案されているセラミック成形体の製造方法は、成形用セラミックスラリーとして特殊なセラミックスラリーを採用したゲルキャスト法であって、形状や構造が複雑なセラミック成形体を寸法精度よく成形するのに適したものとして採用されるものである。
このように、当該方式のセラミック成形体の製造方法によれば、形状や構造が複雑なセラミック成形体を寸法精度よく成形することが可能ではあるが、このように成形されたセラミック成形体においても、亀裂等のわずかな損傷の存在も許されない。セラミック成形体にわずかな損傷が存在している場合であっても、このわずかな損傷が当該セラミック成形体の機械的強度や熱的強度に悪影響を及ぼす。特に、当該セラミック成形体を焼成して、焼結体としての製品とするものにあっては、わずかな損傷が焼成時の破損の大きな原因となって、当該セラミック成形体の焼結体である製品を製造することが不可能な場合がある。
セラミック成形体に亀裂等のわずかな損傷が発生する大きな原因の一つに、セラミック成形体の成形時における収縮による損傷、および、成形されたセラミック成形体の成形型からの離型時における無理な離型による損傷が挙げられる。上記した各特許文献にて提案されているセラミック成形体の各製造方法では、このような面での配慮は全くなされていない。
特に、中空セラミック成形体の成形には、成形型として、非溶解性材料からなる外型と、同外型内に収容されて同外型とともに、その内部に所定のキャビティを形成する溶解性材料からなる中子を備えた成形型が採用され、成形型内では、成形体は中子を内蔵した状態で生成される。このため、成形された成形体の離型に当たっては、成形体を外型と中子の両者から離型しなければならない。
成形体の中子からの離型を容易にするためには、中子として、低い温度で溶融し易いワックス製の中子が採用され、成形体を中子から離型する際には、成形体内の中子を熱溶融して成形体内から溶融状態で排出する手段が採られる。この離型手段においては、中子の熱溶融時の熱膨張力が成形体に作用して、成形体に亀裂等の損傷を発生させるおそれがある。
【発明の開示】
従って、本発明の目的は、当該方式の製造方法を採用する各セラミック成形体の製造方法において、成形される成形体に亀裂等のわずかな損傷の発生をも防止することにある。さらには、本発明の主たる目的は、成形時の収縮が少なくて成形時の収縮に起因する亀裂等の損傷の発生がない成形体であって、成形型からの離型が難しい成形体を、成形型から抵抗なく円滑に離型するようにして、離型時における成形体での損傷の発生を防止することにある。
本発明は、セラミック成形体の製造方法に関するものである。本発明に係るセラミック成形体の第1の製造方法は、中実セラミック成形体の製造方法であって、セラミック粉体、分散媒およびゲル剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形して、成形された中実成形体を同成形型から離型してセラミック成形体を得るセラミック成形体の製造方法であり、前記中実成形体の前記成形型からの離型に際しては、同成形型内の前記中実成形体を加熱して同成形体が含有する溶剤を同成形体の外部へ抽出し、その後、前記中実成形体を前記成形型から離型することを特徴とするものである。
また、本発明に係るセラミック成形体の第2の製造方法は、内部に空洞を有する中空セラミック成形体の製造方法であって、セラミック粉体、分散媒およびゲル化剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形して、成形された中空成形体を同成形型から離型して中空セラミック成形体を得るセラミック成形体の製造方法である。
しかして、本発明に係る第2の製造方法においては、前記成形型として、非溶解性材料からなる外型と、同外型内に収容されて同外型とともにその内部に所定のキャビティを形成する溶解性材料からなる中子を備えた成形型を採用し、前記セラミックスラリーを前記成形型内の前記キャビティに注入して内部に空洞を有する中空成形体を成形する。そして、前記中空成形体の前記外型からの離型に際しては、同外型内の前記中空成形体を加熱して、同中空成形体が含有する溶剤を同中空成形体の外部へ抽出し、その後、同中空成形体を前記外型から離型することを特徴とするものである。
本発明に係る第2の製造方法においては、前記成形型を構成する中子として、熱溶融性材料からなる中子を採用することができ、この場合の前記中空成形体の前記外型からの離型に際しては、同成形型内の前記中空成形体を加熱して、同中空成形体が含有する溶剤を同中空成形体の外部へ抽出し、かつ、同中空成形体内に存在する前記中子を溶融して同中空成形体から排出する。その後、同中空成形体を前記外型から離型することを特徴とするものである。
本発明に係るこれらのセラミック成形体の製造方法においては、前記セラミック成形体の成形に採用するセラミックスラリーとしては、前記成形型内での成形体の体収縮率が5%以下となるセラミックスラリーを選定することが好ましい。
本発明に係る各セラミック成形体の製造方法においては、成形体の成形型からの離型に際しては、同成形型内の成形体を加熱するものである。当該成形体を加熱することにより、成形体の気孔に存在する溶剤が膨張して成形体の外部に抽出され、抽出された溶剤は当該成形体の外周面と成形型の内周面との間に溶剤皮膜を形成する。このため、当該成形体は溶剤皮膜の作用によって何等の抵抗もなく成形型から離型することができ、離型時の成形型からの抵抗に起因する当該成形体での損傷の発生を防止することができる。
本発明に係る第1の製造方法における離型手段は、成形型内での収縮が皆無または極めて小さくてわずかな亀裂等の損傷をも発生させることがない中実成形体の成形型からの離型を可能とする。これにより、成形型内での収縮に起因する亀裂等の損傷の発生が無くて、機械的強度や熱的強度の高いセラミック成形体を製造することができる。また、本発明に係る第2の製造方法における離型手段も、上記した理由と同様の理由で、中空セラミック成形体の外型からの離型にとって最適な手段である。
本発明に係る第2の製造方法においては、中空成形体内に存在する中子を溶融状態で成形体内から排出することにより、中空成形体を中子から離型する手段を採ることができる。この場合には、当該離型手段は、成形体が外型内にある状態で行うものである。中子は、その加熱溶融時には熱膨張し、その熱膨張力が中空成形体の空洞内に作用する。中空成形体が外型から離型されている状態にある場合には、中空成形体は当該作用力を受けて損傷するおそれが大きい。
しかしながら、本発明に係る第2の製造方法では、中空成形体が外型内にある状態で中子を加熱溶融して溶融状態で排出させることから、熱膨張に起因する作用力は中空成形体を介して外型の内周面にて受承されることになって、当該作用力による中空成形体での損傷の発生を防止することができる。
さらにまた、本発明の第2の製造方法における離型手段では、中空成形体の成形型内での加熱時には、含有する溶剤は中空成形体の外周面側だけではなくて、空洞を形成する内周面側にも抽出して、中空成形体の内周面と中子の外周面との間にも溶剤皮膜が形成される。この溶剤皮膜は、中子の溶融時における溶融ワックス等の溶融物質の、中空成形体内の気孔内への侵入を規制する。これにより、中空成形体を焼成する場合には、溶融物質の侵入に起因する焼成時の破損等の損傷を防止することができる。
本発明に係る各製造方法においては、成形体の成形型内での収縮に起因する亀裂等の損傷を防止することが好ましく、これに対処するには、体収縮率が5%以下の成形体を成形することが必要である。
当該成形体は、成形用のセラミックスラリーを選定することによって成形可能である。そして、セラミックスラリーが含有する溶剤として、その体膨張率が、0.50×10−3/K〜2.0×10−3/K、好ましくは1.00×10−3/K〜1.50×10−3/K、さらに好ましくは1.20×10−3/K〜1.45×10−3/Kのものを選定する。溶剤の選定において、その体膨張率が小さいと効果が得られず、また、体膨張率が大きいと、成形体と成形型の隙間の間に流入する量が多く、その部分から成形体にかかる圧力が高くなりすぎて、成形体の破損につながるおそれがある。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る中空セラミック成形体およびこれを前駆体とする発光容器を製造する一般的な製造工程を示す工程図である。
図2は、本発明に係る中実セラミック成形体およびこれを前駆体とする容器を製造する一般的な製造工程を示す工程図である。
図3は、本発明に係る中空セラミック成形体の製造方法を採用した製造実験における各製造工程を概略に示す模式図(a)〜(c)である。
図4は、同製造実験におけるワックス成形体を溶融状態で排出する工程を概略的に示す模式図(a)、および、離型された中空セラミック成形体の概略を示す模式図(b)である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係るセラミック成形体の第1の製造方法は、セラミック粉体、分散媒およびゲル化剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形し、成形された中実成形体を同成形型から離型して中実セラミック成形体を得るセラミック成形体の製造方法である。当該製造方法においては、成形体の成形型からの離型に際しては、同成形型内の中実成形体を加熱して、中実成形体が含有する溶剤を成形体の外部へ抽出し、その後、中実成形体を成形型から離型する手段を採ることを特徴とするものである。
また、本発明に係るセラミック成形体の第2の製造方法は、セラミック粉体、分散媒およびゲル化剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形し、成形された中空成形体を同成形型から離型して中空セラミック成形体を得るセラミック成形体の製造方法である。そして、成形型として、非溶解性材料からなる外型と、外型内に収容されて外型とともにその内部に所定のキャビティを形成する溶解性材料からなる中子を備えた成形型を採用して、セラミックスラリーを成形型内のキャビティに注入して内部に空洞を有する中空セラミック成形体を得る製造方法である。
当該製造方法においては、中空成形体の成形型からの離型に際しては、成形型の外型内の中空成形体を加熱して、中空成形体が含有する溶剤を中空成形体の外部へ抽出し、その後、中空成形体を外型から離型する手段を採ることを特徴とするものである。
本発明に係る各製造方法の実施の形態では、中空セラミック成形体の製造方法にあっては、図1に示す製造工程に基づく製造方法を採用している。また、中実セラミック成形体の製造方法については、図2に示す製造工程に基づく製造方法を採用している。
各製造方法においては、成形用スラリーであるセラミックスラリーとして、成形時における成形型内での成形体の体収縮率が5%以下となるスラリーを選定して、成形時に、成形体の成形型内での収縮に起因する亀裂等の損傷が発生することがないセラミック成形体を製造するものである。
このように体収縮率の低い成形体においては、そのままの状態では、離型時の成形型に対する抵抗が大きくて損傷が発生し易いことから、各製造方法では、成形体を成形型から円滑に離型し得て、成形体での損傷が発生することのない離型手段を採っている。
また、中空セラミック成形体を製造する本発明に係る第2の製造方法では、中空セラミック成形体の中子に対する離型が非常に難しくて、中空セラミック成形体を損傷させずに離型することは容易でない。このため、離型を容易にするため、低温で溶融するワックスを成形材料とする中子を採用して、中空セラミック成形体に内蔵されている中子を加熱溶融して、溶融状態で中空セラミック成形体内から排出する手段を採っている。
本発明に係る第2の製造方法においては、中空セラミック成形体の外型からの離型に際しては、外型内の中空セラミック成形体を加熱して、セラミック中空成形体が含有する溶剤を中空セラミック成形体の外部へ抽出し、その後、中空セラミック成形体内の中子を加熱溶融して、溶融状態で中空セラミック成形体内から排出する。次いで、中空セラミック成形体を外型から離型するようにする。
(セラミックスラリー):本発明に係る各製造方法で採用される好適なセラミックスラリーは、原料粉体であるセラミック粉体、分散媒およびゲル化剤を主要構成成分とするものであり、成形体の成形型内での体収縮率が5%以下となるセラミックスラリーを選定することが好ましい。これに対処するには、セラミックスラリーの調製時に、各組成成分に伴って含有することとなる溶剤を選定することが必要である。溶剤としては、その体膨張率が、0.50×10−3/K〜2.0×10−3/K、好ましくは1.00×10−3/K〜1.50×10−3/K、さらに好ましくは1.20×10−3/K〜1.45×10−3/Kのものを選定する。
セラミック粉体としては、ガラス、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミ、ジルコニア、サイアロン等の粉体を挙げることができる。これらの粉体は、単独で、または、2種以上の粉体を適宜混合して使用することができる。なお、セラミック粉体の粒径は、スラリーを調製することが可能であるかぎりにおいては、特に限定されるものではなく、製造の目的とする成形体に応じて適宜選定されるものである。
分散媒およびゲル化剤は、反応性官能基を有する有機化合物を含有するもので、これらの有機化合物は互いに反応し得るものである。これにより、セラミックスラリーでは硬化効率が高く、高い硬化効率に起因して、少量のゲル化剤の添加で所望の硬化特性を得ることができる。また、ゲル化剤の少量の添加に起因して、セラミックスラリーを低粘度で高流動性に保持することができる。
上記した反応性官能基とは、他の成分と化学反応し得る原子団または分子団を意味し、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、後述するエステル結合により形成されるカルボニル基、メトキシ基等を挙げることができる。
分散媒が含有する有機化合物は、反応性官能基を有する有機化合物の中でも、20℃における粘度が20cps以下の低粘度の液状物質であるエステル類等が好ましい。特に、全体の炭素数が20以下のエステル類が好ましい。さらには、エステル結合は、CH−O−CO−基を有するものが好ましい。なお、エステル類は比較的安定ではあるが、反応性の高いゲル化剤を用いることにより、スラリー全体としての反応性を高めることができる。
分散媒を構成する有機化合物は、1個の反応性官能基を有するものでもよいが、より高いゲル化能を発揮させてセラミックスラリーを十分に硬化するためには、2個以上の反応性官能基を有する有機化合物が好ましい。2個以上の反応性官能基を有する有機化合物としては、エチレングリコール等のジオール類やグリセリン等のトリオール類等の多価アルコール、ジカルボン酸等の多塩基酸、グルタル酸ジメチル、マロン酸ジメチル等の多塩基酸エステル、トリアセチン等、多価アルコールのエステル等のエステル類を挙げることができる。
分散媒を構成する有機化合物においては、高い反応率を達成してセラミックスラリーを十分に硬化させるとともに、硬化前のセラミックスラリーに高い流動性を付与して高密度でかつ精密な成形体を形成するには、グルタル酸ジメチル等の多塩基酸エステル、トリアセチン等の多価アルコールの酸エステル等の2個以上のエステル結合を有するエステル類が好ましい。
分散媒を構成する有機化合物においては、分子内の反応性官能基は必ずしも同種の官能基である必要はなく、異なる種類の官能基であってもよい。但し、上記した理由から、少なくとも1個のエステル結合を含有していることが好ましい。また、分散媒は、必ずしも、反応性官能基を有する有機化合物のみによって構成する必要はなく、非反応性成分を含有していてもよい。
許容される非反応性成分としては、例えば、エーテル、炭化水素、トルエン等を挙げることができる。これらの非反応性成分は、分散媒を構成する反応性官能基を有する有機化合物および後述する分散剤との相溶性等の化学的性質に応じて選択すればよい。例えば、分散媒を構成する反応性官能基を有する有機化合物としてエステル類を用いる場合には、相溶性等の点からエーテル類を含有していることが好ましい。非反応性成分として有機化合物を採用する場合であっても、ゲル化剤との十分な反応効率を確保するためには、反応性官能基を有する有機化合物を全分散媒中60質量%以上含有していることが好ましい。より好ましくは、85質量%以上である。
セラミックスラリーを構成するゲル化剤は、分散媒を構成する反応性官能基を有する有機化合物と反応してセラミックスラリーを硬化させる、反応性官能基を有する有機化合物を含有する。ゲル化剤を構成する有機化合物は、分子内に、分散媒中の有機化合物と化学反応する反応性官能基を有するものであればよい。このような有機化合物としては、モノマー、オリゴマー、架橋剤の介在により三次元的に架橋するプレポリマー等、例えば、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。
但し、ゲル化剤を構成する有機化合物は、セラミックスラリーの流動性を確保する点から粘性が低いもの、具体的には、20℃における粘度が30cps以下である液状物質が好ましい。このような低粘性の有機化合物としては、ポリマーやプレポリマーより分子量が小さいもの、具体的には、平均分子量(GPC法による)が2000MW以下のモノマーまたはオリゴマーが好ましい。なお、ここでいう粘度とは、ゲル化剤を構成する反応性官能基を有する有機化合物自体の粘度を意味し、水溶液等、当該有機化合物を希釈液で希釈した状態の粘度を意味するものではない。
ゲル化剤は、このような反応性官能基を有する有機化合物を希釈液で分散または溶解したものでもよいが、上記したように、反応に寄与する有機化合物自体が粘度の低いものである場合には、反応効率を高くできるため希釈液による希釈は不要であり、また、希釈液を使用する場合には、その使用量は所定の粘度を得るに必要な最小量にとどめることが好ましい。
ゲル化剤を構成する有機化合物は、分散媒中の有機化合物との反応性を考慮して、好適な反応性官能基を有するものを選定することが好ましい。例えば、分散媒を構成する有機化合物として比較的反応性が低いエステル類を使用する場合には、ゲル化剤を構成する反応性官能基を有する有機化合物としては、反応性が高いイソシアナート基(−N=C=O)および/またはイソチオシアナート基(−N=C=S)を有する有機化合物を選択することが好ましい。
但し、イソシアナート類は、ジオール類やジアミン類と反応させることが一般的であるが、ジオール類は高粘性のものが多く、また、ジアミン類は反応性が高くてスラリーを成形型へ注入する前に硬化する場合があるために注意すべきである。イソシアナート基(−N=C=O)および/またはイソチオシアナート基(−N=C=S)を有する有機化合物としては、下記の一般式(1)〜一般式(5)に示す化学構造を基本とする化学物質を挙げることができる。

一般式(1)に示す化学構造を基本とする化学物質は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート系イソシアナート(樹脂)…MDI系イソシアナート、一般式(2)に示す化学構造を基本とする化学物質は、ヘキサメチレンジイソシアナート系イソシアナート(樹脂)…HDI系イソシアナート、一般式(3)に示す化学構造を基本とする化学物質は、トリレンジイソシアナート系イソシアナート(樹脂)…TDI系イソシアナート、一般式(4)に示す化学構造を基本とする化学物質は、イソホロンジイソシアナート系イソシアナート(樹脂)…IPDI系イソシアナート、一般式(5)に示す化学構造を基本とする化学物質は、イソチオシアナート(樹脂)である。
また、一般式(2)に示す化学構造を基本とするHDI系イソシアナート(樹脂)としては、下記に示す一般式(6)〜一般式(8)に示す化学構造を基本とする2量体または3量体を挙げることもできる。

ゲル化剤を構成する有機化合物は、これらのうちでも、MDI系イソシアナート(樹脂)またはHDI系イソシアナート(樹脂)が好ましく、より好ましくはMDI系イソシアナート(樹脂)である。ゲル化剤として、これらのイソシアナート(樹脂)を採用する場合には、形成される成形体の硬度が向上し、成形体が薄肉構造であってもクラックの発生を抑制することができる。また、形成された成形体の乾燥時の収縮が低減するため、成形体の乾燥時におけるクラックの発生および変形を抑制することができる。また、成形体の形成時におけるスラリーの硬化速度が向上し、成形工程を迅速化することができる。
ゲル化剤については、分散媒等との相溶性等の化学特性を考慮して、上記した基本の各化学構造中に他の官能基を導入することができる。例えば、エステルを主成分とする分散媒を対象とする場合には、エステルとの相溶性を高めて混合時の均一性を高めるためには、親水性の官能基を基本の化学構造に導入することが好ましい。また、ゲル化剤を構成する有機化合物の分子中にイソシアナート基またはイソチオシアナート基以外の反応性官能基を含有させることができる。この場合には、イソシアナート基やイソチオシアナート基が混在していてもよく、また、ポリイソシアナート基のごとく、イソシアナート基やイソチオシアナート基が多数存在していてもよい。
セラミックスラリーを構成するゲル化剤は、成形体の成形型内での収縮に大きく影響を及ぼすものであり、上記した一般式(1),(2)に示す構造のゲル化剤は体収縮率の小さい成形体用のセラミックスラリーを構成し、上記した一般式(3)〜一般式(5)に示す構造のゲル化剤がこれにつぎ、上記した一般式(6)〜一般式(8)に示す構造のゲル化剤は体収縮率が比較的大きい成形体用のセラミックスラリーを構成する。従って、成形体の成形型内での収縮に起因する亀裂等のわずかな損傷をも発生しない成形体を確実に成形するには、上記した一般式(1),(2)に示す構造のゲル化剤を採用することが必要である。
セラミックスラリーは、成形型への注入時には硬化せず、注入後は成形型内で迅速に硬化することが好ましい。このため、セラミックスラリーの調製に当たっては、注入前のスラリーの温度、反応性分散媒の種類や含有量、反応性ゲル化剤の種類や含有量、ゲル化反応に奇与する触媒の有無、触媒の種類や含有量等を考慮することが好ましい。セラミックスラリーの調製では、原料粉体セラミック粉体を分散媒に添加して分散させた後にゲル化剤を添加して分散させてもよく、また、セラミック粉体とゲル化剤を同時に分散媒に添加して分散するようにすることもできる。
セラミックスラリーは、成形型への注入時の作業性を考慮すれば、20℃におけるスラリー粘度が300cps以下であることが好ましく、より好ましくは、20℃におけるスラリー粘度が200cps以下である。なお、セラミックスラリーを、中空セラミック成形体を形成するために微細形状のキャビティに無加圧状態で注入する場合等には、25℃におけるスラリー粘度は5cps以下であることが好ましい。
但し、スラリー濃度(スラリー全体の容量に対する原料粉体の容量%)が低すぎる場合には、成形されるセラミック成形体の密度が低下して成形体の強度が低下し、また、成形体の乾燥、焼成時にクラックや変形が発生し易いため、スラリー濃度は25容量%〜75容量%、好ましくは35容量%〜75容量%である。なお、スラリー粘度は、スラリー濃度、反応性分散剤やゲル化剤の粘度、セラミック粉体の種類、必要により添加されるその他の添加剤の量等によって調整される。
(成形型):本発明に係るセラミック成形体の製造で使用する成形型は、中実セラミック成形体を製造する方法にあっては、通常の分割タイプの金属製の成形型を採用する。当該成形型においては、キャビティを形成する各型の内周面が極めて円滑性に富むものである。
また、中空セラミック成形体を製造する方法にあっては、分割タイプの外型と、外型内に配置されてその内周面との間にキャビティを形成する中子を備えている成形型を採用する。外型のキャビティを形成する内周面は極めて円滑性に富み、かつ、中子のキャビティを形成する外周面は極めて円滑性に富むものである。当該成形型は、例えば、図3および図4に示すものである。
(中空成形体用成形型):図3は、本発明に係る中空セラミック成形体を製造する一実施例を示し、図3は、当該実施例で採用する中子に対する中空セラミック成形体の離型手段を示すものである。当該実施例で使用している成形型10は、一対の分割型11a,11bからなる分割タイプの外型11と中子12からなるもので、外型11を構成する各分割型11a,11bはステンレス製であり、中子12はワックス成形体12aとピン12bとによって構成されている。
当該成形型10においては、セラミックスラリーを外型11の注入口11cから、外型11の内周面と中子12の外周面とで形成さているキャビティ13に注入し、注入したセラミックスラリーをゲル化して硬化することにより、中空セラミック成形体20が成形される。成形された中空セラミック成形体20は、外型11を分割することによって、外型11の各分割型11a,11b内から離型されるが、この離型に際しては、中子12を構成するワックス成形体12aは加熱溶融状態で中空セラミック成形体20の内部から排出される。
(中子):中空成形体用成形型10を構成する中子12は、外型11と一体で中空セラミック成形体の空洞部を形成するもので、同空洞部の形状に対応するワックス成形体12aとピン12bが一体のものである。当該中子12の一形態は、ワックス成形体12aの中央部にピン12bを貫通させて形成されているものである。
当該中子12を構成するワックス成形体12aを形成するワックスについては、その融点が30℃〜80℃の範囲にあること、ワックスの溶融時における粘度が10cps以下であること、ワックスの溶融−固化の相転移による体積変化率が5%以下であること等が好ましい。また、当該中子12を構成するピン12bについては、図に示すように、ワックス成形体12aを貫通した状態でワックス成形体12aに接合されている構成とすることができるが、かかる構成に替えて、ピン12bをワックス成形体12aに植付けられた状態でワックス成形体12aに接合さている構成を採ることができる。ピン12b自体については、中実ピンおよび管状の中空ピンのいずれであってもよい。
(製造方法):本発明に係る第1の製造方法は中実セラミック成形体を製造する方法であり、本発明に係る第2の製造方法は中空セラミック成形体を製造する方法である。これらの各製造方法では、上記した各セラミックスラリーおよび各成形型を選定して使用するゲルキャスト法であり、両製造方法では、特に、成形された成形体の成形型から離型する手段に大きな特徴を有するものである。図1は、中空セラミック成形体の一般的な製造方法における各製造工程を示すフローチャートであり、図2は、中実セラミック成形体の一般的な製造方法における各製造工程を示すフローチャートである。
図1および図2に示す各製造工程は、セラミックスラリーを使用して中空セラミック成形体または中実セラミック成形体を成形し、かつ、成形された中空セラミック成形体または中実セラミック成形体を前駆体とし、これらを焼成して焼結体の製品である中空セラミック部品または中実セラミック部品を製造するものである。
中空セラミック成形体の製造では、中空セラミック成形体を形成し、これを焼成して、焼結体である発光容器(中空セラミック部品)を製造することを意図している。当該中空セラミック部品は、中空セラミック成形体を前駆体とするもので、例えば高圧放電灯用の発光容器である。中実セラミック成形体の製造では、例えば、上方に開口する単純な椀形状の中実セラミック成形体を成形し、これを焼成して、焼結体である各種の椀形状の中実セラミック部品を製造することを意図している。当該中実セラミック部品は、中実セラミック成形体を前駆体とするもので、各種の椀形状の容器である。
図1は、成形用スラリーであるセラミックスラリーの調製から、中空セラミック成形体の製造、中空セラミック成形体を前駆体とする発光容器の製造に至るまでの製造工程を示している。これらの製造工程は、本発明に係る製造方法における一般的な製造工程であって、成形用スラリーの調製工程、中空セラミック成形体の成形工程、中空セラミック成形体の離型工程、中空セラミック成形体の仮焼・焼成工程からなり、これらの工程の順序で発光容器が製造される。
成形用スラリーの調製工程は、中空セラミック成形体の成形用スラリーであるセラミックスラリーを調製するものである。そして、成形用スラリーの調製工程では、セラミック粉体、分散媒および分散剤を互いに混合してスラリーの調合を行い、調合されたスラリーを解砕する。その後、ゲル化剤および反応触媒等を添加してスラリーの最終的な調合を行い、これを成形型内に注入するに先だって脱泡する。
成形用スラリーの調製工程での解砕はポットミルやボールミル等で行い、ナイロン製の玉石を使用して温度15℃〜35℃で96時間、好ましくは120時間以上行う。また、スラリーの脱泡は、スラリーを真空雰囲気で撹拌して行い、真空度−0.090MPa以下、好ましくは−0.095MPa以下、撹拌速度100rpm〜500rpm、好ましくは250rpm〜400rpm、2分〜30分、好ましくは15分〜25分行う。
中空セラミック成形体の成形に使用する成形型は、金属製の2分割タイプの外型(主成形型)と、ワックス成形体およびピン一体の中子からなる成形型を採用する。採用する中子は、中空セラミック成形体の胴部の内部形状に対応する外部形状を有するワックス成形体と、中空セラミック成形体の細管部の内部形状に対応する外部形状を有しワックス成形体に接合されて同ワックス成形体から突出する金属製のピンとからなる中子である。
中空セラミック成形体の成形工程ではゲルキャスト法を採用するもので、調製されたセラミックスラリーを成形型の外型と中子とが形成するキャビティに注入し、5℃〜50℃の温度、好ましくは15℃〜40℃の温度で数時間放置する。これにより、成形型内のセラミックスラリーは、ゲル化して硬化することによって、中空セラミック成形体となる。
中空セラミック成形体の離型工程は、成形型内の中空セラミック成形体を外型および中子から離型するものである。中空セラミック成形体を離型するには、中子を構成するピンをワックス成形体から抜き出した状態で、中空セラミック成形体を成形型ごとオーブンに収容して、オーブン内の温度をワックス成形体の溶融温度以下、たとえば60℃以下の温度に設定して10分以上放置する。
これにより、中空セラミック成形体の気孔内に存在する有機溶剤が熱膨張して、中空セラミック成形体の外周面側および内周面側に抽出される。そして、抽出した有機溶剤は、中空セラミック成形体の外周面と外型の内周面との間、および、同成形体の内周面と中子の外周面との間に溶剤皮膜を形成する。
次いで、オーブン内の温度を、たとえば65℃〜120℃、好ましくは80℃〜100℃に設定して10分以上放置して、ワックス成形体を中空セラミック成形体内で溶融して排出する。その後、中空セラミック成形体をオーブンから外型ごと取出し、外型を分割して中空セラミック成形体を取出す。
当該離型手段では、先ず、中空セラミック成形体内に存在する中子のワックス成形体を溶融状態で中空セラミック成形体内から排出して、中空セラミック成形体を中子から離型するが、ワックス成形体の中空セラミック成形体内からの排出は、中空セラミック成形体が外型内にある状態で行うものである。中子のワックス成形体は、その溶融時には熱膨張し、その熱膨張力が中空セラミック成形体の空洞内に大きく作用する。中空セラミック成形体が外型から離型されている状態にある場合には、同成形体は当該作用力を受けて損傷するおそれが大きい。しかしながら、本実施形態では、中空セラミック成形体が外型内にある状態で中子のワックス成形体を溶融して排出させる。このため、当該作用力は中空セラミック成形体を介して外型にて受承されることになって、当該作用力による中空セラミック成形体の損傷の発生は防止される。
また、中空セラミック成形体内に存在する中子のワックス成形体を溶融状態で排出する際には、中空セラミック成形体の内周面とワックス成形体の外周面との間に溶剤皮膜が介在している。この溶剤皮膜は、ワックス成形体の溶融時における溶融ワックスの中空セラミック成形体の気孔内への侵入を阻止する。これにより、中空セラミック成形体を焼成する場合には、溶融ワックスの侵入に起因する焼成時の破損等の損傷を防止することができる。
当該離型では、次いで、中空セラミック成形体を外型から離型する。この際には、中空セラミック成形体の外周面と外型の内周面との間に溶剤皮膜が介在している。このため、中空セラミック成形体は、溶剤皮膜の作用によって何等の抵抗もなく外型から離型することができ、離型時の外型からの抵抗に起因する損傷の発生を防止することができる。
当該離型手段は、成形型内での収縮が皆無または極めて小さくてわずかな亀裂等の損傷をも発生させることがない中空セラミック成形体の外型からの離型を可能とする。これによって、中空セラミック成形体での成形時の収縮に起因する亀裂等の損傷の発生を防止することができる。
中空セラミック成形体の仮焼・焼成工程は、中空セラミック成形体を焼結体に変換して発光容器を製造するもので、仮焼では大気の雰囲気下で昇温速度200℃/hr以下、最高温度1100℃〜1400℃で所定時間焼成する。また、焼成では、水素雰囲気または真空雰囲気で、最高温度1700℃〜1900℃で所定時間焼成する。これにより、透光性が高く透光特性に優れた発光容器を製造することができる。また、当該発光容器は、上記した特殊の離型手段を採用したことにより、亀裂等のわずかな損傷も存在しないものとなる。
図2は、成形用スラリーであるセラミックスラリーの調製から、中実セラミック成形体の製造、中実セラミック成形体を前駆体とする容器の製造に至るまでの製造工程を示している。これらの製造工程は、本発明の他の一実施形態に係る製造方法における一般的な製造工程であって、成形用スラリーの調製工程、中実セラミックの成形工程、中実セラミック成形体の離型工程、中実セラミック成形体の仮焼・焼成工程からなり、これらの工程の順序で容器が製造される。
当該中実セラミック成形体の製造方法は、中空セラミック成形体の製造方法とは、成形する成形体が中実か中空かの点を除き実質的に同じである。すなわち、当該中実セラミック成形体の製造では、スラリー用の成形型として中子を有していない分割タイプの成形型を採用し、かつ、中実セラミック成形体の離型では、中子のワックス成形体を加熱溶融して排出する手段は不要であって、かかる手段を採ってはいない。但し、当該中実セラミック成形体の製造方法においても、中実セラミック成形体の成形型からの離型の際には、中実セラミック成形体に対する加熱は不可欠として行っている。
これにより、中実セラミック成形体の気孔に存在する溶剤を熱膨張させて、同成形体の外周側へ抽出させている。中実セラミック成形体の外周側に抽出した溶剤は、同成形体の外周面と成形型の各分割型の内周面との間に溶剤皮膜を形成する。従って、当該中実セラミック成形体は、成形型の各分割型からの離型時には、溶剤皮膜の作用によって何等の抵抗もなく各分割型から離型することができ、離型時の成形型からの抵抗に起因する損傷の発生を防止することができる。
実施例:
本実施例では、成形用スラリーとして、成形型内での体収縮が小さくて5%以下である成形体を成形するためのセラミックスラリー(スラリーA)と、成形型内での体収縮率が大きくて5%以上である成形体を成形するためのセラミックスラリー(スラリーB)の2種類の成形用スラリーを使用して、図1の各製造工程に基づいて中空セラミック成形体を製造する実験を試みた。
図3(a)〜(c)は、本実験における製造工程を模式的に示し、図4(a)は、本実験における中空セラミック成形体内の中子のワックス成形体を溶融状態で排出する工程を模式的に示し、図4(b)は、本実験における外型から離型した中空セラミック成形体を模式的に示している。各セラミックスラリーA,Bの組成および特性を表1に示す。

(中空セラミック成形体):本実験で製造した中空セラミック成形体は、図4(b)に示す構造のもので、高圧放電灯の発光容器の前駆体である。当該中空セラミック成形体20は、発光容器の胴部に対応する胴部21と、発光容器の各細管部に対応する細管部22,23とによって構成されている。中空セラミック成形体20においては、胴部21の内部形状は寸法精度が高くて円滑で、亀裂等の損傷が無くかつ面粗度がよいことが要求される。当該発光容器は、中空セラミック成形体20を、大気雰囲気中1200℃で3時間仮焼し、その後、水素雰囲気中1850℃で3時間焼成することによって製造される。
(成形型):本実験では、図3に示す成形型10を採用した。成形型10は、外型11と中子12を備えている。外型11は、ステンレス製の一対の分割型11a,11bからなる分割タイプのものであり、外型11の内周面形状は、中空セラミック成形体20の外周面形状を呈している。また、中子12は、ワックス成形体12aとピン12bからなるもので、ワックス成形体12aの外周面形状は中空セラミック成形体20の胴部21の内周面形状に対応する形状を呈し、かつ、ピン12bの外周面形状は中空セラミック成形体20の各細管部22,23の内周面形状に対応する形状を呈している。ワックス成形体12aの融点は約60℃であり、ピン12bはワックス成形体12aの中央部を貫通しているもので、ワックス成形体12aの成形時にこれと一体に成形されているものである。
(成形):本実験での中空セラミック成形体の成形では、図3(a)〜(b)に示す工程を経て中空セラミック成形体20を成形する。成形された中空セラミック成形体20は、図4(a)に示す手段で中子12から離型され、その後、外型11の各分割型11a,11bから離型される。
中空セラミック成形体20の成形は、外型11内に中子12が図3(a)に示すようにセットされた状態の成形型10で行われる。成形用スラリーを、外型11のスラリー注入口11cを通してキャビティ13内に注入し、同図(b)に示すように、キャビティ13に成形用スラリーを充填する。この状態を、常温で数時間放置すれば、充填されている成形用スラリーはゲル化して硬化し、同図(c)に示すように、キャビティ13内に中空セラミック成形体20が成形される。
(離型):成形された中空セラミック成形体20を、成形型20から離型する。中空セラミック成形体20の離型に際しては、先ず、成形型10内の中空セラミック成形体20を、中子12のワックス成形体12aが溶融する温度以下の適宜の温度、たとえば50℃に加熱する。その後、中子12を構成するピン12bをワックス成形体12aから引き抜いて、外型11から除去する。この状態で、中子12を構成するワックス成形体12aを、溶融温度である60℃以上の温度たとえば80℃に加熱して溶融し、図4(a)に示すように、外型11内に位置する中空セラミック成形体20内から排出する。これによって、中空セラミック成形体20は、中子12から離型され、その後、外型11を分割して両分割型11a,11bから離型する。
当該離型手段においては、中空セラミック成形体20の加熱によって、中空セラミック成形体20の気孔内に存在する有機溶剤が熱膨張して中空セラミック成形体の外側に抽出される。そして、抽出された有機溶剤は、中空セラミック成形体20の外周面と外型11の内周面との間、および、中空セラミック成形体20の内周面と中子12の外周面との間に有機溶剤の皮膜である溶剤皮膜を形成する。
これらの溶剤皮膜のうち、外型11の内周面側に位置する溶剤皮膜は、中空セラミック成形体20の外型11からの離型に寄与し、中空セラミック成形体20を何等の抵抗もなく離型させる。これにより、中空セラミック成形体20では、外型11からの離型時に破損等の損傷が発生することがなく、かつ、成形型10内での収縮が小さくて離型が困難な中空セラミック成形体の離型を、何等損傷を発生させることなく容易にする。
また、中子12の外周面側に位置する溶剤皮膜は、中子12を構成するワックス成形体12aの溶融状態での排出時に奇与する。当該溶剤皮膜は、ワックス成形体12aの溶融時の溶融ワックスの中空セラミック成形体20内への侵入を阻止する。これにより、中空セラミック成形体20の焼成時、侵入したワックスに起因する破損の発生が防止される。
また、当該離型手段においては、中子12を構成するワックス成形体12aの溶融状態での排出を、中空セラミック成形体20が外型11内にある状態で行っている。ワックス成形体12aは、加熱溶融時には熱膨張して、この熱膨張力を中空セラミック成形体20の内周面側に作用させる。中空セラミック成形体は、この熱膨張力を自由状態で受けると破損等の損傷を発生するおそれが大きいが、中空セラミック成形体20は外型11内にあって、当該熱膨張力は中空セラミック成形体20を通して外型11の内周面側で受承される。このため、中空セラミック成形体20での当該熱膨張力に起因する破損等の損傷の発生を防止することができる。
(結果):本実験で製造した各中空セラミック成形体およびこれを前駆体とする発光容器における亀裂等の損傷の発生状態を、拡大鏡を使用して目視で観察し、成形用スラリーの相違による損傷に及ぼす影響、および、離型手段の相違による損傷に及ぼす影響を確認した。得られた結果を、前者については表2に、後者について表3に示す。
但し、離型手段の表示においては、中空セラミック成形体20から溶剤を抽出する手段を採っている場合をa1、溶剤を抽出する手段を採っていない場合をb1、中子12を構成するワックス成形体12aを溶融状態で排出する手段を中空セラミック成形体20が外型11内にある状態で行っている場合をa2、中空セラミック成形体20を外型11から取出されている状態で行っている場合をb2と表示して、これらの手段を組み合わせた状態で表示を採用している。
従って、離型手段a1−a2は、中空セラミック成形体20から溶剤を抽出する手段を採り、かつ、ワックス成形体12aの溶融状態での排出を、中空セラミック成形体20が外型11内にある状態で行っている場合を意味する。
また、離型手段a1−b2は、中空セラミック成形体20から溶剤を抽出する手段を採り、かつ、ワックス成形体12aの溶融状態での排出を、中空セラミック成形体20が外型11から取出されている状態で行っている場合を意味する。
また、離型手段b1−a2は、中空セラミック成形体20から溶剤を抽出する手段を採らず、かつ、ワックス成形体12aの溶融状態での排出を、中空セラミック成形体20が外型11内にある状態で行っている場合を意味する。
また、離型手段b1−b2は、中空セラミック成形体20から溶剤を抽出する手段を採らず、かつ、ワックス成形体12aの溶融状態での排出を、中空セラミック成形体20が外型11から取出されている状態で行っている場合を意味する。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉体、分散媒およびゲル化剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形して、成形された中実成形体を同成形型から離型して中実セラミック成形体を得るセラミック成形体の製造方法であり、前記中実成形体の前記成形型からの離型に際して、同成形型内の前記中実成形体を加熱して同成形体が含有する溶剤を同成形体の外部へ抽出し、その後、前記中実成形体を前記成形型から離型することを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項2】
セラミック粉体、分散媒およびゲル化剤を含有するセラミックスラリーを成形型内にて成形して、成形された成形体を同成形型から離型してセラミック成形体を得るセラミック成形体の製造方法であって、前記成形型として、非溶解性材料からなる外型と、同外型内に収容されて同外型内に所定のキャビティを形成する溶解性材料からなる中子を備えた成形型を採用し、前記セラミックスラリーを前記成形型内の前記キャビティに注入して内部に空洞を有する中空成形体を成形するセラミック成形体の製造方法であり、前記中空成形体の前記外型からの離型に際して、同外型内の前記中空成形体を加熱して、前記中空成形体が含有する溶剤を同中空成形体の外部へ抽出し、その後、前記中空成形体を前記外型から離型することを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記成形型を構成する中子は熱溶融性材料からなる中子であって、前記中空成形体の前記外型からの離型に際しては、同外型内の前記中空成形体を加熱して、同中空成形体が含有する溶剤を同中空成形体の外部へ抽出し、かつ、同中空成形体内に存在する前記中子を溶融して同中空成形体から排出し、その後、同中空成形体を前記外型から離型することを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記セラミック成形体の成形に採用するセラミックスラリーとして、前記成形型内での成形体の体収縮率が5%以下となるセラミックスラリーを選定することを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記セラミックスラリーが含有するセラミック粉体は、ガラス、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミ、ジルコニア、サイアロンの群の中から選定される少なくとも1種類のセラミック粉体を含むことを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記セラミックスラリーが含有する分散媒およびゲル化剤は、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、エステル結合により形成されるカルボニル基、メトキシ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基の群の中から選定される少なくとも1種類の反応性官能基を有する有機化合物から構成されることを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記分散媒を構成する有機化合物は、エチレングリコール、グリセリン、ジカルボン酸、グルタル酸ジメチル、マロン酸ジメチル、トリアセチンの群の中から選定される少なくとも1種類の有機化合物を含むことを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記ゲル化剤を構成する有機化合物は、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート系イソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート系イソシアナート、トリレンジイソシアナート系イソシアナート、イソホロンジイソシアナート系イソシアナート、イソチオシアナートの群の中から選定される少なくとも1種類の有機化合物を含むことを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記溶剤は、その体膨張率が0.50×10−3/K〜2.0×10−3/Kであることを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記溶剤は、その体膨張率が1.00×10−3/K〜1.50×10−3/Kであることを特徴とするセラミック成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載のセラミック成形体の製造方法において、前記溶剤は、その体膨張率が1.20×10−3/K〜1.45×10−3/Kであることを特徴とするセラミック成形体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/035281
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544955(P2004−544955)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013163
【国際出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】