説明

セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法

【課題】セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法に関し、セラミック本体の表面の少なくとも一部分に少なくとも化学的な修正を行う。この方法は、カルシウムリン酸塩鉱物を含む複数の粒子の塊を基本本体に向けて射出することによって、セラミック基本本体の表面上にカルシウムリン酸塩鉱物を被覆し、そして、この被覆されたカルシウムリン酸塩鉱物を有する基本本体を加熱する後続の工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の記載に従う、セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法、及び請求項16の記載に従う、前記セラミック本体に関する。さらに、本発明は、請求項18の記載に従うインプラント、特に、歯科用インプラントとしての、前記セラミック本体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラント等のインプラントは、当業者には良く知られている。これらは、一般的に、生体適合性を有し、さらに、低弾性率で高強度を有する材料からなる。
【0003】
その生体適合性及び機械的特性から離れて、インプラントの骨統合特性は、通常、特に重要である。「骨統合(osteointegration)」という言葉は、生きている骨と耐荷重性のあるインプラントの表面との間の直接の構造的かつ機能的な連結を表す。良好な骨統合は、インプラントを骨の中にねじ込むことによって初期の安定性に到達した後、インプラントが、短い治療時間内に安全に骨化し、その結果、インプラントと骨との間に永久的な結合が得られることを意味する。
【0004】
現在使用中の歯科用インプラントは、生体適合性及びこれらの材料の好ましい機械的特性により、一般的に金属、例えば、チタンまたはセラミック、あるいは、セラミックベースのジルコニアから作られる。
【0005】
上述した材料の代わりに、さらに、このような材料から作られるインプラントが、存在する骨組織と強固に一体化し、かつ、インプラントの回りに新しい骨を成長させるように、自然の骨組織に近い材料を用いることが提案されてきた。
【0006】
この点において、一般に存在するリン灰石(apatite)に非常に類似する水酸リン灰石の使用が考慮されてきた。焼結した水酸リン灰石から形成されたインプラントの生物活性特性にかかわらず、このようなインプラントの機械的特性は、不十分であることが判明した。例えば、単に水酸リン灰石から形成された歯科用インプラントは、顎の骨に移植された後で、クラックや壊れが生じやすい。
【0007】
これらの考察に基づき、特許文献1は、少なくとも約90%の被膜が、結晶性の水酸リン灰石(hydroxylapatite)の重量によって、プラズマスプレー法を用いる金属製インプラント上に適用される方法を提案している。
【0008】
代わりに、特許文献2は、水酸リン灰石を含む材料で形成された粒子が、チタン、又はチタン合金で形成された主本体部材の処理された部分の表面に設けられる方法が開示しており、この結果、これらの粒子の各々は、前記処理された部分の表面内に埋設される部分と、前記処理された部分の表面から突出する部分とを有している。
【0009】
しかし、これらの方法に従って、水酸リン灰石を有する金属製インプラントの表面を与えることは、骨の中にインプラントを移植し、生理的な負荷にさらされるとき、水酸リン灰石は、擦り減る傾向にあるという欠点を有している。
【0010】
金属製インプラントの骨統合特性に関する技術の進歩により、特許文献3によって開示された1つの実例として、生物活性材料を有する表面被膜に関心がなくなり、そして、サブトラクティブ法(subtractive processes)に焦点をあわせるようになってきた。
また、セラミック材料の表面の処理に関して、付加的な処理は、問題のあることが分かってきた。
【0011】
特許文献4は、第1の多孔性を有する基板上に分散が生じ、この分散が、第2の多孔性を有するセラミック層を焼結時に形成する、歯科用インプラントの据付を準備するための方法に関する。
【0012】
特許文献5は、ジルコニア等の高強度材料のコアを有する歯科用保持力要素に関しており、このコアは、化学的および/または機械的に処理されるセラミック材料で被膜されている。
しかし、また、特許文献4及び特許文献5に開示された複合体構造は、セラミック被膜が容易に擦り減るという欠点を有する。
【0013】
セラミック製インプラントの表面構造を与える更なる代替技術が、特許文献6に記載されており、これは、焼結の前に、いわゆるグリーン本体および/またはブラウン本体の表面に対して尖った粒子を加えることにより、表面あらさを粗くさせる方法に関する。
【0014】
それゆえ、好ましくは、グリーン本体および/またはブラウン本体に粒子を固着させるために結合剤を被膜する。特許文献6に記載された技術の別の実施形態によれば、これらの粒子は、結合剤とともに混合され、グリーン本体および/またはブラウン本体上に付加される。
【0015】
特許文献6は、インプラント本体の表面上に付加される単一の粒子群を提示しており、この複数の粒子の形状に突起を与える。上述したように、特許文献6によれば、これらの粒子は、尖った形状を有することが重要である。
【0016】
インプラントに損傷を与えないために、特許文献6は、圧力を加える(「drucklos」)ことなく、グリーン本体および/またはブラウン本体上に複数の粒子が滴り落ちることを提示している。特許文献6に図示されているように、その結果、基本本体と付加される粒子との間に境界面を備える本体が得られる。
【0017】
しかしながら、特許文献6に従うプロセスは、実行することが比較的難しい。特に、複数の粒子に関して、圧力を加えることなく滴下されると、粒子が付加された表面から離れ落ちる傾向にある。また、滴下された粒子(trinckled particles)が、トポロジー的に頂部よりも表面の谷部に蓄積するという事実により、粒子の均等な分散を得るのが難しい。
【0018】
同様に金属製インプラントに対して、セラミック製インプラント上に骨統合表面を与える技術の進歩により、付加的なプロセスに関心がなくなり、そして、特許文献7及び特許文献8によって提示された実例に関して、サブトラクティブ法に焦点を合わせている。
【0019】
特許文献7は、研磨ブラスト後に、リン酸、硫酸、塩酸、またはそれらの混合物を用いる処理にさらされるジルコニアセラミックで作られた歯科用インプラントに関する。
特許文献8は、フッ化水素酸を含むエッチング溶液を用いてインプラントのエッチングを行う前に、表面あらさが、サンドブラスト法、ミーリング、および/または射出成形の技術によって、歯科用インプラントの表面に与えられる方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】欧州特許公開第0864332号公報
【特許文献2】米国特許第5934287号明細書
【特許文献3】欧州特許公開第0388576号公報
【特許文献4】国際公開第2005/027771号公報
【特許文献5】欧州特許公開第0870478号公報
【特許文献6】ドイツ特許公開第102006062712号公報
【特許文献7】欧州特許第1450722号明細書
【特許文献8】欧州特許公開第1982670号公報
【特許文献9】国際公開第2005/115268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
サブトラクティブ技術が材料の損失に伴ってインプラントの機械的安定性に負の衝撃を与えることになるという事実によって、骨統合表面を有するインプラントを導く付加的な方法を有することが望ましい。上記骨統合表面を有するインプラントは、生理学的な負荷に耐えることができる機械的安定性を同時に有する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、請求項1の記載に従うインプラントによって解決される。
本発明は、セラミック本体の表面の少なくとも一部分を化学的に修正することにより、前記セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法であって、
カルシウムリン酸塩鉱物(calcim phosphate mineral)を含む複数の粒子の塊をセラミック基本本体に向けて射出することにより、セラミック基本本体の表面上に前記カルシウムリン酸塩鉱物を堆積し、
さらに、堆積した前記カルシウムリン酸塩鉱物を有する前記セラミック基本本体を加熱する、各工程を含む。
【0023】
それゆえ、本発明は、付加的な方法に関連している。
この方法により、本体は、表面からある深さに伸びている表面領域を有する本体を得ることができる。この表面領域は、カルシウムリン酸塩鉱物を含む。この表面領域において、材料の密度は、表面に向かって徐々に減少する。
特に、カルシウムリン酸塩鉱物を有する基本本体は、該カルシウムリン酸塩鉱物が基本本体に一体化される温度に加熱される。
【0024】
より具体的には、カルシウムリン酸塩鉱物が堆積した基本本体は、少なくとも1100℃の温度、好ましくは、少なくとも1250℃、さらに、好ましくは、少なくとも1350℃、最も好ましくは、約1450℃に加熱される。
【0025】
これらの温度に加熱することにより、カルシウムリン酸塩鉱物が基本本体に一体化されるのみならず、そのカルシウムリン酸塩鉱物がジルコニアの結晶格子の中に拡散し、拡散の度合に従って本体のカルシウムリン酸塩鉱物の安定化を導き、さらに、最終的に改善されたエイジング抵抗を有する。また、本体表面の親水性が、ジルコニアの結晶格子内にカルシウムが広がることにより改善される。
【0026】
以下に詳細に示するように、上記温度は、例えば、本体の最大の物理的特性を達成するために基本本体を密に焼結する間に達成される。さらに、好ましい実施形態によれば、基本本体に堆積したカルシウムリン酸塩鉱物を有する基本本体への温度が最大限1500℃になるように加熱される。
【0027】
カルシウムリン酸塩鉱物が一体化されることにより、狭い意味で、加熱後、カルシウムリン酸塩鉱物被膜が無くなり、カルシウムリン酸塩鉱物と基本本体との間に境界がない。
本発明の方法のために、どのようなカルシウムリン酸塩鉱物でも用いることができる。好ましい実施形態では、カルシウムリン酸塩鉱物は、水酸リン灰石、フッ素リン灰石、β−リン酸三カルシウム、及びα−リン酸三カルシウムからなる群から選択される。
【0028】
本発明の方法に従って得られる表面は、高い骨統合性があることが見いだされた。理論に縛られることなく、これは、一方で、カルシウムリン酸塩鉱物が用いられるという事実によって説明することができ、特に、β−リン酸三カルシウム、及びα−リン酸三カルシウム、水酸リン灰石、または、フッ素リン灰石等のリン酸三カルシウムは、本来的に、生物活性材料である。
【0029】
他方で、トポロジー的な特定の表面は、複数の粒子の塊がセラミック基本本体の表面に向かって射出されるという事実によって形成される。前記トポロジー的な表面は、本体の表面領域にキャビティを含み、かつ、本体の特定の表面あらさを与える。この表面の組成に生物活性材料を含んでいると、前記トポロジー的な表面は、さらに、得られる本体が骨統合特性を有する一因となる。
【0030】
特に、複数の塊は、キャリアガスの流れによって基本本体に向かって射出される。これは、明らかに、特許文献6によって教示されるトリックリング法(trickling)と対照的である。
【0031】
さらに特別には、複数の塊は、基本本体上に衝突するとき変形し、その結果、塊と基本本体との間の接触領域が衝突中に増加する。
トポロジー的な特定表面の形成は、スノーボールの類推によって説明することができる。
【0032】
本発明に従う複数の塊は、一般的に、セラミック基本本体上に衝突するとき、スノーボールのように変形し、堆積した材料の良好な固着が、塊とセラミック本体との間の接触領域が衝突中増加することによって達成される。堆積した複数の塊は、概略、比較的大きなベース領域を有し、かつ、丸い頂部へ先細った高さ形状を有する。
【0033】
一般的に、複数の塊は、粒子を一緒に結合するための結合剤を含む。結合剤を含む複数の塊を用いる場合、基本本体の表面上への複数の塊の固着が良好に得られる。複数の塊の堆積後、結合剤は、以下で詳細に記載するように、焼結中、取り除かれる。
【0034】
上述したように、本発明は、カルシウムリン酸塩鉱物を基本本体の中に一体化することができる。個別の粒子は、例えば、特許文献6に従って得られるインプラントの場合のように、付加されるので、離散した境界面は生じない。この結果、境界面から剥がれ落ちる傾向がある被膜の問題は、本発明によって回避することができる。
【0035】
複数の粒子の塊を離散した粒子の代わりに用いると、本発明は、非常に単純な方法で、均一な表面あらさを得ることができる。上述したように、これは、特許文献6に従う方法の場合ではない。上述したスノーボールの類推を適用して、特許文献6によって教示される離散した複数の粒子のトリックリング法は、頂部上よりもむしろトポロジー的な谷に蓄積する傾向にある雪片のトリックリング法に相当する。
【0036】
本発明に従う化学的修正は、基本本体又はその部品上の全表面に実行される。
本発明は、本体がインプラントとして、特に、歯科用インプランとして用いられる場合、特に有益である。インプラントして用いられる場合、この方法が実行され、その結果、化学的修正が、骨に埋設されるように設計された少なくとも基本本体の領域に実行される。
【0037】
ダーク色のチタンで作られたインプラントは、自然の歯の色にマッチしないのに対して、本発明の本体は、セラミック基本本体に基づいており、その結果、この色は、自然の歯の色にマッチするという利点を有する。
【0038】
この基本本体は、好ましくは、ジルコニア、アルミナ、および/または、ジルコニアとアルミナの混合物で作られる。
基本本体のセラミック材料は、一般的に、イットリア−安定化および/またはセリア−安定化される。他の安定化剤は、例えば、カルシウム、マグネシウム、または、スカンジウムが考えられる。
【0039】
インプラントのために比較的要求される機械的要件を考えると、セラミック基本本体のセラミック材料は、イットリア−安定化ジルコニアおよび/またはセリア−安定化ジルコニアであることが特に好ましく、これらの材料を用いることによって、高強度を得ることができる。
【0040】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、複数の塊は、さらに、セラミック材料、特に基本本体のセラミック材料の粒子を含む。その結果、堆積される材料は、基本本体の材料と十分に両立できる。代わりに、他のセラミック材料も堆積できる基本本体の材料と両立することができる。
【0041】
好ましい実施形態において、複数の塊は、カルシウムリン酸塩鉱物から離れたセラミック材料を含み、セラミック材料に対するカルシウムリン酸塩鉱物の容量割合は、1:100から60:100の範囲が好ましく、より好ましくは、10:100から40:100、最も好ましくは、20:100から30:100である。
【0042】
好ましい実施形態によれば、複数の塊は、特に高い骨統合特性を有する表面をもたらす、20μm〜100μm、好ましくは、40μm〜70μmの範囲の平均直径を有する。
【0043】
カルシウムリン酸塩鉱物、特に、水酸リン灰石の粒子のサイズは、得られるべき所望の表面形状にしたがって調整される。複数の塊は、さらに、セラミック材料の粒子を含む場合、カルシウムリン酸塩鉱物の粒子サイズは、一般的に、セラミック粒子の粒子サイズと同一範囲にある。
【0044】
ジルコニア粉末のグレードTZ−3YSB−E(トーソー(tosoh) コーポレーション)を用いるとき、セラミック粒子の粒度は、一般的に、約30nm〜70nm、例えば、360Å(36nm)である。
この結果、塊によって構成される粒子の数は、一般的に、数100万または10億個の範囲である。
【0045】
本発明に従って形成され、かつ、カルシウムリン酸塩鉱物を含んでいる骨統合性の表面領域は、一般的に、本体の表面から、最大限500μm、好ましくは、最大限100μm、より好ましくは、最大限50μmの深さに伸びている。本発明の本体が歯科用インプラントである場合、この表面領域は、表面から10μm〜35μmの範囲の深さに伸びている。
【0046】
本発明によれば、単一の粒子の代わりに、複数の塊がセラミック基本本体に向けて射出されるので、サンドブラスト装置を用いることができる。サンドブラスト装置による射出は、堆積されるべき材料の量、ブラスティング圧力、ブラスティング距離、及びブラスティング持続時間等のパラメータを、それぞれの必要に適合させることができるため、特に好ましい。特に、これらのパラメータは、複数の塊の運動量が十分に高く、セラミック本体の表面上に複数の塊が良好に固着するのを確実にし、表面の損傷を防ぐのに十分低くなるように選択することができる。
【0047】
与えられるトポロジー的な表面の構造は、特に、ブラスティング距離及びブラスティングコーンに適合することによって制御され得る。
必要ならば、サンドブラスト装置は、さらに、冷却手段を含み、これにより、ブラスディングノズルに複数の塊の有機的な小片が溶解するのを防止する。
【0048】
一般に、セラミック本体は、焼結処理によって用意される。それぞれの焼結処理は、当業者によって良く知られており、また、例えば、特許文献9に記載されている。この開示内容は、参考として、本発明に包含される。
【0049】
焼結処理に関して、本発明の方法は、さらに次のステップを含んでいる。
(a)セラミック材料と結合剤の複数の粒子を含むグリーン基本本体を形成し、
(b)ブラウン基本本体を前記グリーン基本本体から結合剤を取り除くことによって形成し、
(c)前記ブラウン基本本体を焼結することによって、セラミック本体を形成する。
【0050】
その結果、複数の塊は、グリーン基本本体の表面上に堆積されることが好ましい。これは、グリーン基本本体が、ブラウン基本本体よりも良い塊の運動量に一般的に耐える結合剤を含むという事実による。また、この実施形態に従う基本本体とこれに堆積した塊は、同一のステップで焼結されるので、焼結中、材料の収縮により生じるクラックは形成されない。
【0051】
好ましくは、複数の塊は、グリーン基本本体が形成されるセラミック材料に基づいている。このセラミック材料に対して、カルシウムリン酸塩鉱物、特に、水酸リン灰石が加えられる。
【0052】
水酸リン灰石は、約950℃以上の温度で空気中において焼結されるとき、一般的に、リン酸三カルシウムに分解されることが知られているが、最近、焼結プロセスの発展により、水酸リン灰石の分解は、抑圧されまたは削除されることが顕著である。この点は、例えば、キム(Kim)他による「バイオマテリアルズ」の2002年12月号 第4113−4121頁に言及されている。
【0053】
ここでは、CaF2(5 vol-%より低い)の少量が、ジルコニア−水酸リン灰石の混合物に付加されることを教示している。ジルコニア−水酸リン灰石の混合物を焼結するための技術は、検出可能な水酸リン灰石の分解なしに、例えば、アドルフソン(adolfsson)他による「J.Am.Ceram.Soc.」の83 [11] (2000)第2798−2802頁に開示されている。その結果、構造上の水が解放されるときに形成される空孔の割合を減少する。さらに、ナヤク(Nayak)他による「J Mater Sci: Mater Med」(2008)の第2437−2444頁には、リバースストライク(reverse strike)の沈降ルートによって、ZrO2の均一な分散を含む水酸リン灰石の混合物を用意し、かつ、焼結を少なくして圧力により、水酸リン灰石の最小限の分解を伴ってこれら混合物の高い焼結密度を達成することを目的としている。
【0054】
さらに、ツアング(Zhang)他による「J.Am.Ceram.Soc.」の89 [11] (2006)の第3348−3355頁には、分散剤としてポリアクリル酸及びグルタミン酸、及びそこから形成されるグリーン体のサンプルを焼結より少ない圧力を用いて、水性媒体に分散した水酸リン灰石およびジルコニアから始まる、整形外科利用のためのジルコニア−水酸リン灰石の混合物を用意するためのルートを開示する。キム(Kim)他、アドルフソン(adolfsson)他、及びナヤク(Nayak)他によって物品の開示は、ここに参考として包含される。
【0055】
上述したように、セラミック基本本体および/または塊が、イットリア安定化ジルコニアの粒子を含んでいるとき、特に好ましい機械的特性を有するセラミック本体が得られる。
【0056】
例えば、ISO13356に従うイットリア安定化ジルコニアが用いられる。好ましいイットリア安定化ジルコニアの例は、トーソーのグレードTZ-3YSB-Eのジルコニア粉末(トーソー コーポレーション)であり、この成分は、4.95〜5.35重量%のY23、0.15〜0.35重量%のAl23、最大限0.02重量%のSiO2、最大限0.01重量%のFe23、最大限0.04 重量%のNa2Oを含み、さらに、2.7〜3.9重量%のIg損失に相当する量の結合剤を含んでおり、このパーセントは、ジルコニア粉末の全重量に基づいている。
【0057】
好ましい実施形態によれば、この方法は、さらに、ブラン基本本体を焼結した後、以下の工程を含む。
(1)ポスト温度処理、特に、本体の熱間等静圧圧縮成形(HIP)の工程
一般的に、熱間等静圧圧縮成形は、不活性の圧力ガス内でセラミック本体を処理した後、空気中で、本体を処理する。
【0058】
さらなる構成によれば、本発明は、上述した処理によって得られる本体に関する。前記本体は、本体の表面からある深さに伸びる表面領域を含む。この表面領域は、カルシウムリン酸塩鉱物、特に、水酸リン灰石を含む。好ましくは、カルシウムリン酸塩鉱物を含む表面領域は、少なくとも骨に埋設されるように設計された基本本体の領域上に形成される。
【0059】
この点で、本体は、上述したように、インプラント、より好ましくは、歯科用インプラントとして用いることが好ましい。
本発明に従う方法の特定の例は、以下に与えられる。
(実施例)
【0060】
実例1
上記したグレードTZ-3YSB-E(トーソー コーポレーション)のジルコニア粉末の約5gが、約110MPa(約34.5kN)のプレス力のプレス(ツビック ユニバーサルプリュフマシーネ)を用いて、複動式の粉末圧縮ツール(ポール オットー ウェーバー マシーネン ウント アパラテバウ ゲーエムベーハー;モデル20;サイズII、直径20mm)によって、約360Åの粒度サイズを有する結晶をプレスした。
これにより、約2.8g/cm3の密度を有するグリーン基本本体が得られる。
【0061】
ジルコニア及び水酸リン灰石を含む複数の粒子の塊によって形成される粒状は、ツワング(Zhang)他、「整形外科の応用のための水酸リン灰石−ジルコニア合成物の製法」J.Am. ceram. soc.,89[11](2006),第3348-3355頁によって記載された方法に従って準備された。
【0062】
この粒状は、サンドブラスト装置(レントフェルト ベーシック クワトロ)内に装填され、複数の塊が、約5.5バールのブラスト圧力でかつ約14cmのブラスト距離の下で、約2〜3秒間、グリーン基本本体に向けて射出された。
【0063】
このグリーン基本本体は、付加された複数の塊を含み、以下のプログラムに従って、高温度の窯(ミーム ホグト ホッホテンパーラトゥロッフェン HT)で処理された。
(a) 1℃/min〜600℃の加熱速度で加熱し、そして、2時間600℃の温度を維持して、ブラウン本体を得る。
【0064】
(b) 5℃/min〜1450℃の加熱速度で加熱し、そして、2時間1450℃の温度を維持して、十分焼結した(ホワイト)本体を得る。
(c) 1000℃まで10℃/minの冷却速度で冷却し、そして、1000℃から室温まで自然冷却する。
本発明は、さらに、添付の図面によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】歯科用インプラントの形で、本発明に従うセラミック本体の斜視図である。
【図2】図1のX部分の概略断面図である。
【図3】上記実例に従って得られる本体の表面領域を断面で見た走査電子顕微鏡写真を示し、この写真の底部に示されたスケール倍率は、10μmに相当する。
【図4】上記実例に従って得られる本体の表面領域の上面から見た走査電子顕微鏡写真を示し、この写真のスケール倍率は、1μmに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1に見られるように、歯科用インプラント2は、骨に埋設されることを意図する骨接触表面4を含み、そして、ネジ部6を含んでいる。
【0067】
移植後の歯科用インプラントの初期安定性を良好にするために、少なくとも骨接触表面4は、本発明に従う表面あらさを備えている。
【0068】
図2に示すように、この表面あらさは、複数の粒子10を含む塊8によって形成される。この塊8は、カルシウムリン酸塩鉱物から構成され、基本本体12に向けて射出される。塊8は、基本本体12上に衝突するとき、変形され、その結果、上述したスノーボールの類比によって記述される「マクロ的あらさ」を生じる。
【0069】
本発明の特定の方法によると、基本本体12と付加される粒子10との間に個別の境界面はないが、表面14の方向に次第に密度が減少する密度勾配がある。これは、多孔の増加とともに密度が連続して減少し、「ミクロ的あらさ」を形成する表面14に空洞16を導く。
【0070】
形成される表面領域及びトポグラフィー的に得られる特定の表面の化学的合成により、歯科用インプラント2の骨接触表面4は、大いに骨統合化される。
基本本体と付加される複数の粒子との間に個別の境界面は形成されないという効果が、さらに、図3に従う走査電子顕微鏡写真から見ることができる。また、上述した密度勾配は、表面の方向に連続して減少していることが、上記走査電子顕微鏡写真から見ることができる。
【0071】
基本本体の表面に向かって複数の粒子の塊を射出することによって、本発明に従って、トポロジー的に得られる特定の表面は、図4に従う走査電子顕微鏡写真に示されている。前記表面の地形は、本体の表面領域内にキャビティを含み、この本体の骨統合化特性に寄与する表面あらさを有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック本体の表面の少なくとも一部分を化学的に修正することによって前記セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法であって、
カルシウムリン酸塩鉱物を含む複数の粒子の塊をセラミック基本本体に向けて射出することにより、セラミック基本本体の表面上に前記カルシウムリン酸塩鉱物を堆積し、
さらに、堆積した前記カルシウムリン酸塩鉱物を有する前記セラミック基本本体を加熱する、各工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
被覆した前記カルシウムリン酸塩鉱物を有する前記基本本体は、前記カルシウムリン酸塩鉱物が前記基本本体内に統合化される温度に加熱されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被覆した前記カルシウムリン酸塩鉱物を有する前記基本本体は、少なくとも1100℃、好ましくは、少なくとも1250℃、さらに好ましくは、少なくとも1350℃、最も好ましくは、約1450℃の温度に加熱されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルシウムリン酸塩鉱物は、水酸リン灰石、フッ素リン灰石、β−リン酸三カルシウム、及びα−リン酸三カルシウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記粒子の塊は、前記粒子を一緒に結合するための結合剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記粒子の塊は、キャリアガスの流れによって前記基本本体に向けて射出されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記粒子の塊と前記基本本体の間の接触領域が、衝突の間、増大するように前記基本本体に衝突するとき、前記粒子の塊が変形することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記基本本体は、ジルコニア、アルミナ、および/または、これらの混合物から作られることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記基本本体は、イットリア−安定化ジルコニアおよび/またはセリア−安定化ジルコニアから作られることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記粒子の塊は、さらに、前記基本本体のセラミック材料を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記粒子の塊は、20μm〜100μm、好ましくは、40μm〜70μmの範囲の平均直径を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記粒子の塊は、サンドブラスト装置によって前記基本本体に向かって射出されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
さらに、セラミック材料及び結合剤の複数の粒子を含むグリーン体の基本本体を形成する工程と、
ブラウン体の基本本体を焼結することによって、セラミック本体を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記複数の塊は、グリーン基本本体の表面に堆積することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ブラウン体の基本本体を焼結した後、この方法は、さらに、前記基本本体の熱的なポスト処理の工程を含むことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法によって得られる本体。
【請求項17】
前記セラミック本体の表面は、骨に埋め込まれるように指定された領域内で、少なくとも化学的に修正されていることを特徴とする請求項16に記載の本体。
【請求項18】
インプラント、特に歯科用インプラントとして用いるための、請求項16または請求項17に記載の本体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−517024(P2013−517024A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548384(P2012−548384)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000616
【国際公開番号】WO2011/098269
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(506415207)ストラウマン ホールディング アーゲー (25)
【Fターム(参考)】