説明

セラミック樹脂複合体の製造方法

【課題】セラミック部品と熱可塑性樹脂部品からなるセラミック樹脂複合体において、その接合強度を高める。
【解決手段】このセラミック樹脂複合体の製造方法には、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3とを超音波溶着する溶着工程が含まれる。溶着工程の前に、セラミック部品2および熱可塑性樹脂部品3の少なくとも一方を加熱する加熱工程が設けられている。これにより、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合強度を高めることができる。しかも、従来の溶着工程に加熱工程を加えるだけで済むので、優れた寸法精度を有するセラミック樹脂複合体1を低コストで製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック部品および熱可塑性樹脂部品からなるセラミック樹脂複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のセラミック樹脂複合体は、家庭用機器(エアコンディショナー、テレビジョン受像機、パーソナルコンピューター、冷蔵庫、洗濯機その他の電気・電子機器など)、自動車(四輪自動車、三輪自動車、自動二輪車など)をはじめとする幅広い産業分野において、センサ部品、照明部品、インバータなどの制御回路部品、通信部品など様々な部品に使用されている。
【0003】
このようなセラミック樹脂複合体は、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品とを接合して製造されるが、異種材料(セラミックと熱可塑性樹脂)同士の接合であるため、同種材料同士の接合に比べると、接合強度が低下して母材強度を下回る場合があり、この点の改良が要望されていた。
【0004】
こうした要望に応えるべく、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着によって接合することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、セラミック部品の表面に多孔質領域を設けるとともに、熱可塑性樹脂部品に突起部を設けておき、セラミック部品の多孔質領域と熱可塑性樹脂部品の突起部とを超音波溶着することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−237240号公報(〔請求項1〜3〕の欄)
【特許文献2】特開2007−55228号公報(〔請求項1、4〕、段落〔0037〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラミックと熱可塑性樹脂とは一般に溶融温度が互いに異なるため、特許文献1で提案された技術に従って、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品とを単に超音波溶着しても、溶着面の接合強度が必ずしも十分ではない。これを補うべく超音波振動の印加エネルギーを強くすると、熱可塑性樹脂が過度に溶解するため、熱可塑性樹脂部品の寸法が変動したり、バリが多量に生じたりする。したがって、優れた寸法精度を有するセラミック樹脂複合体を得ることができないという不都合があった。
【0007】
一方、特許文献2で提案された技術では、超音波溶着に先立ち、表面に多孔質領域を有するセラミック部品を用意する必要があり、これを製造する場合には困難が伴い、また、これを入手しようとしても高価である。そのため、セラミック樹脂複合体を低コストで製造することができないという不都合があった。
【0008】
そこで、本発明は、こうした不都合を伴うことなく、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品との接合強度を高めることが可能なセラミック樹脂複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明者は、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品との接合強度を高めるべく、両者の超音波溶着に際して予め一方または双方の部品を加熱することにより、この超音波溶着に要するエネルギーを低減することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれるセラミック樹脂複合体の製造方法であって、前記溶着工程の前に、前記セラミック部品および前記熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程が設けられているセラミック樹脂複合体の製造方法としたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より100℃高い上限温度までの温度範囲内で前記セラミック部品を加熱することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より10℃高い上限温度までの温度範囲内で前記熱可塑性樹脂部品を加熱することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記熱可塑性樹脂部品の材料は、流動開始温度が250〜350℃の熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の構成に加え、前記熱可塑性樹脂部品が、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品との超音波溶着に際して、一方または双方の部品が予め加熱されることから、セラミック部品と熱可塑性樹脂部品との接合強度を高めることができる。しかも、従来の溶着工程に加熱工程を加えるだけで済むので、優れた寸法精度を有するセラミック樹脂複合体を低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係るセラミック樹脂複合体の製造方法を示す工程図であって、(a)は加熱工程を示す正面図、(b)は溶着工程を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0018】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0019】
以下、セラミック樹脂複合体の構成およびその製造方法を順に説明する。
<セラミック樹脂複合体の構成>
【0020】
この実施の形態1に係るセラミック樹脂複合体1は、図1(b)に示すように、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3とが超音波溶着で一体に接合されて構成されている。
【0021】
このセラミック部品2は、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素からなる群の中から選ばれた1種以上を主成分とするセラミックからなる部品である。好ましくは、アルミナを75質量%以上含むセラミックからなる部品である。さらに好ましくは、アルミナを90質量%以上含むセラミックからなる部品である。セラミック部品2は、これらのセラミックから公知の方法(例えば、焼結など)によって製造することができる。
【0022】
なお、セラミック部品2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、通常0.1〜1μmであるが、熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着による溶着強度を強くするため、サンドブラストなどの物理的処理やエッチングなどの化学的処理により表面を粗化してもよい。
【0023】
他方、熱可塑性樹脂部品3は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、液晶ポリエステル、ポリイミド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートからなる群の中から選ばれた1種以上を主成分とする熱可塑性樹脂からなる部品である。好ましくは、成形加工が容易で、かつ電気的・機械的特性や耐熱性に優れるポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、液晶ポリエステル、ポリイミド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートからなる群の中から選ばれた1種以上を主成分とする熱可塑性樹脂からなる部品である。さらに好ましくは、液晶ポリエステルを主成分とする熱可塑性樹脂からなる部品である。ここで、上記主成分の熱可塑性樹脂は、使用する熱可塑性樹脂の総量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。また、熱可塑性樹脂の流動開始温度は250〜350℃が好ましく、特に好ましくは280℃以上である。この流動開始温度は、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用いて、9.8MPaの荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・sを示す温度をいう。この流動開始温度は、液晶ポリエステルなどの熱可塑性樹脂の分子量を表す指標である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。そして、熱可塑性樹脂部品3は、これらの熱可塑性樹脂から公知の方法(例えば、射出成形法など)によって製造することができる。
【0024】
この液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーとも呼ばれるポリエステルであり、450℃以下で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。その典型的な例としては、下記(1)〜(4)のものが挙げられる。
(1):芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを重合させたもの。
(2):異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させたもの。
(3):芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを重合させたもの。
(4):ポリエチレンテレフタレートなどの結晶ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの。
【0025】
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用してもよい。ここで、エステル形成性誘導体とは、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸の場合は、例えば、そのカルボキシル基が、高反応性のハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基に転化して、酸ハロゲン化物や酸無水物等になったものや、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、そのカルボキシル基が、アルコール類やエチレングリコール等とエステルを形成しているものが挙げられる。また、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールの場合は、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、そのフェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)が、低級カルボン酸類とエステルを形成しているものが挙げられる。なお、エステル形成性を阻害しない程度であれば、前記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールは、その芳香環に、例えば、塩素原子やフッ素原子等のハロゲン原子、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基を置換基として有していてもよい。
【0026】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の例としては、化1に示すものが挙げられる。
【0027】
【化1】

【0028】
また、前記構造単位において、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有するものも挙げられる。
【0029】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の例としては、化2に示すものが挙げられる。
【0030】
【化2】

【0031】
また、前記構造単位において、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有するものも挙げられる。
【0032】
芳香族ジオールに由来する構造単位の例としては、化3に示すものが挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
また、前記構造単位において、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有するものも挙げられる。
【0035】
なお、前記アルキル基は、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基またはブチル基であることが一層好ましい。また、前記アリール基は、炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0036】
耐熱性、機械的特性および加工性のバランスの点から特に好ましい液晶ポリエステルは、全構造単位の合計含有量に対して、前記(A1 )を少なくとも30モル%含むものである。具体的には下記(a)〜(f)の構造単位の組み合わせが挙げられる。
(a):(A1 )と(B1 )と(C1 )との組み合わせ、または、(A1 )と(B1 )と(B2 )と(C1 )との組み合わせ。
(b):(A2 )と(B3 )と(C2 )との組み合わせ、または、(A2 )と(B1 )と(B3 )と(C2 )との組み合わせ。
(c):(A1 )と(A2 )との組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(A1 )の一部または全部を(A2 )で置きかえたもの。
(e):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(B1 )の一部または全部を(B3 )で置きかえたもの。
(f):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(C1 )の一部または全部を(C3 )で置きかえたもの。
(g):(b)の構造単位の組み合わせにおいて、(A2 )の一部または全部を(A1 )で置きかえたもの。
(h):(c)の構造単位の組み合わせに、(B1 )と(C2 )を加えたもの。
【0037】
最も基本的な構造となる(a)および(b)の液晶ポリエステルについては、それぞれ、特公昭47−47870号公報および特公昭63−3888号公報に例示されている。
【0038】
液晶ポリエステルとしては、液晶性発現の観点から、全構造単位の合計含有量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位を30〜80モル%、ヒドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を10〜35モル%、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を10〜35モル%有するものが好ましい。
【0039】
また、液晶ポリエステルとしては、上述したとおり、流動開始温度が250〜350℃であるものが好ましく、流動開始温度が280℃以上であるものが特に好ましい。
【0040】
液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、こうして得られたアシル化物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とをエステル交換(重縮合)することにより溶融重合させる方法が挙げられる。なお、アシル化物としては、予めアシル化して得た脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0041】
アシル化および/またはエステル交換は、触媒の存在下に行ってもよい。触媒としては、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒が挙げられる。触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、触媒を除去しない場合にはそのままエステル交換を行うことができる。
【0042】
エステル交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固層重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合の後にポリマーを抜き出し、粉砕してパウダー状またはフレーク状にした後、公知の固相重合法により行うことが好ましい。また、本発明に係る熱可塑性樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲内で、充填剤や添加剤を任意成分として配合することもできる。
【0043】
充填剤としては、例えば、板状のもの、中空のもの、繊維状のもの、球状のものがある。
【0044】
板状の充填剤としては、タルク、マイカ(雲母)、ガラスフレーク、モンモリロナイト、スメクタイト、黒鉛、窒化ホウ素、二硫化モリブデンなどを配合することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を同時に使用しても構わない。
【0045】
中空の充填剤としては、シラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン、フラーレンなどを配合することができる。
【0046】
繊維状の充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維などを配合することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を使用しても構わない。
【0047】
球状の充填剤としては、ガラスビーズ、シリカビーズなどを配合することができる。
【0048】
一方、添加剤としては、離型改良剤(例えばフッ素樹脂、金属石鹸類など)、着色剤(例えば染料、顔料など)、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤など、当分野で通常使用されているような添加剤を配合してもよい。
【0049】
加えて、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する添加剤を用いてもよい。
<セラミック樹脂複合体の製造方法>
【0050】
次に、本発明に係るセラミック樹脂複合体の製造方法を適用して、セラミック部品2および熱可塑性樹脂部品3からなるセラミック樹脂複合体1を製造する方法について説明する。
【0051】
まず、加熱工程で、図1(a)に示すように、電熱プレート4上にセラミック部品2を載置し、電熱プレート4に通電してセラミック部品2を所定の温度に達するまで加熱する。ただし、セラミック部品2をあまり高温にすると、後述する溶着工程において、熱可塑性樹脂部品3をセラミック部品2に加圧接触させたときに、熱可塑性樹脂部品3が部分的に溶けて変形する恐れがある。したがって、セラミック部品2の温度は、熱可塑性樹脂部品3がその形状を保持できる範囲にとどめる。
【0052】
このとき、セラミック部品2の温度は、50〜450℃が好ましい。セラミック部品2の温度が50℃未満では、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3とが溶着せず、逆に、セラミック部品2の温度が450℃を超えると、後述する溶着工程において、熱可塑性樹脂部品3をセラミック部品2に加圧接触させたときに、熱可塑性樹脂部品3を構成する熱可塑性樹脂が分解する恐れがある。
【0053】
さらに好ましくは、熱可塑性樹脂部品3を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より100℃高い上限温度までの温度範囲内から、セラミック部品2の温度を選択する。例えば、この熱可塑性樹脂の流動開始温度が300℃であれば、セラミック部品2を200〜400℃に達するまで加熱する。こうすることにより、後述する溶着工程において、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着を無駄なく効率的に行うと同時に、熱可塑性樹脂が過度に溶解して熱可塑性樹脂部品3が形状を保持できなくなる事態を回避することができる。
【0054】
こうしてセラミック部品2が所定の温度に達したところで、溶着工程に移行し、図1(b)に示すように、このセラミック部品2に熱可塑性樹脂部品3を超音波溶着する。それには、セラミック部品2に熱可塑性樹脂部品3を所定の圧力で加圧接触させた状態で、超音波溶着機を用いて、所定の条件(超音波振動の周波数、溶着時間)で熱可塑性樹脂部品3を超音波振動(摩擦振動)させる。
【0055】
このとき、超音波溶着機には、Wedge-read方式やLateral Drive方式があり、いずれも使用することができる。ただし、セラミック部品2が衝撃に弱くて振動子の衝突によって破損する恐れがある場合は、Lateral Drive方式が好ましい。
【0056】
なお、溶着工程では、セラミック部品2および熱可塑性樹脂部品3の少なくとも一方が加熱された状態で両者の超音波溶着を行うことが好ましい。
【0057】
また、加圧力を溶着面積で除した加圧接触の圧力は、0.5〜10MPaが好ましく、超音波振動の周波数は10〜40kHzが好ましく、溶着時間は0.01〜1秒が好ましく、0.05〜1秒がより好ましい。
【0058】
さらに、熱可塑性樹脂部品3のセラミック部品2との接合面に突起部を設けることにより、超音波振動の印加エネルギーを集中させてもよい。この場合、この突起部の形状は、断面が三角形のように先端がその根元より細くなっていることが好ましく、断面に垂直な方向には長く延びた線状であっても、円錐や四角錐のように切り離されて孤立した状態であっても構わない。或いはまた、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3の少なくとも一方の端部や角部を接触させることにより、超音波振動の印加エネルギーを集中させてもよい。
【0059】
このようにしてセラミック部品2に熱可塑性樹脂部品3を超音波溶着すると、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合面に摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって両者が溶着され、セラミック樹脂複合体1が得られる。
【0060】
ここで、セラミック樹脂複合体の製造方法が終了する。
【0061】
このように、このセラミック樹脂複合体の製造方法では、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着に際して、一方または双方の部品が予め加熱されることから、この超音波溶着に要するエネルギーを低減することが可能となる。その結果、セラミック樹脂複合体1において、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合強度を高めることができる。
【0062】
しかも、このセラミック樹脂複合体1を得るには、従来の溶着工程に加熱工程を加えるだけで済む。したがって、上述した特許文献1で提案された技術と異なり、溶着面の接合強度向上を目的として超音波振動の印加エネルギーを強くする必要がないので、熱可塑性樹脂が過度に溶解する事態を回避することができる。そのため、熱可塑性樹脂部品3の寸法が変動したり、バリが多量に生じたりすることはなく、セラミック樹脂複合体1の寸法精度を高めることが可能となる。
【0063】
また、同様の理由により、上述した特許文献2で提案された技術と違って、超音波溶着に先立ち、表面に多孔質領域を有するセラミック部品2を用意する必要がないので、セラミック樹脂複合体1の製造コストを削減することが可能となる。
【0064】
さらに、一般にセラミックは熱可塑性樹脂より熱伝導率が高いため、熱可塑性樹脂部品3を加熱する場合に比べて、セラミック部品2を加熱する方が短時間で昇温することができる。その結果、加熱工程に要する時間を短縮し、ひいてはセラミック樹脂複合体1の生産性を高めることが可能となる。
[発明のその他の実施の形態]
【0065】
なお、上述した実施の形態1では、セラミック樹脂複合体1の製造に際して、加熱工程で電熱プレート4を用いてセラミック部品2を加熱する場合について説明した。しかし、電熱プレート4以外の加熱手段(例えば、ホットプレート、加熱用ヒーター、赤外線照射装置など)を代用することも可能である。
【0066】
また、上述した実施の形態1では、セラミック樹脂複合体1の製造に際して、加熱工程でセラミック部品2を加熱する場合について説明した。しかし、セラミック部品2に代えて熱可塑性樹脂部品3を加熱してもよく、また、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3の両方を加熱しても構わない。熱可塑性樹脂部品3を加熱する場合、熱可塑性樹脂部品3を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より10℃高い上限温度までの温度範囲内で行うのが好ましい。例えば、この熱可塑性樹脂の流動開始温度が300℃であれば、熱可塑性樹脂部品3を200〜310℃に達するまで加熱するのが好ましい。こうすることにより、溶着工程において、セラミック部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着を無駄なく効率的に行うと同時に、熱可塑性樹脂が過度に溶解して熱可塑性樹脂部品3が形状を保持できなくなる事態を回避することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0068】
10mm×50mm×1mmのアルミナセラミック板(Al2 3 含量96質量%、焼結助剤成分4質量%)を保持具にねじで固定し、加熱用ヒーターにより300℃に加熱した。このとき、接触式表面温度計にて設定温度に安定していることを確認した。
【0069】
次に、住友化学(株)製の液晶ポリエステル「スミカスーパーLCP E6006L MR」(流動開始温度326℃)を射出成形にて成形した成形体(10mm×50mm×1.6mm)の一部(10mm×10mmの表面部分)を上記アルミナセラミック板の上に重ねて1分間接触させた後、日本エマソン(株)製の超音波溶着機「2000ea20」(Lateral Drive方式、出力1100W、加振周波数20kHz、最大振幅92μm)を用いて、加圧接触の圧力0.2〜1MPa、振幅70%、溶着時間0.1秒、保持時間0.1秒の条件で超音波溶着を行った。なお、加圧接触の圧力が幅を持っているのは、超音波溶着中に液晶ポリエステルが溶けて圧力が変動するためである。その結果、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、セラミック樹脂複合体が得られた。
【0070】
なお、この液晶ポリエステル流動開始温度は、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて、次のとおり測定した。すなわち、被測定サンプル(液晶ポリエステル)を昇温速度4℃/分で加熱して溶融体を形成した。そして、この溶融体を荷重9.8MPaで内径1mm、長さ10mmのノズルから押し出すときに、その溶融粘度が4800Pa・sを示す温度を測定し、この温度を流動開始温度とした。
<実施例2>
【0071】
超音波溶着の条件を振幅50%、溶着時間0.07秒、保持時間0.05秒としたことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、セラミック樹脂複合体が得られた。
<実施例3>
【0072】
加熱用ヒーターによるアルミナセラミック板の加熱温度を350℃としたことを除き、上述した実施例2と同様にして、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、セラミック樹脂複合体が得られた。
<実施例4>
【0073】
加熱用ヒーターによるアルミナセラミック板の加熱温度を250℃としたことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、セラミック樹脂複合体が得られた。
<実施例5>
【0074】
超音波溶着の条件を振幅50%、溶着時間0.05秒、保持時間0.01秒、加熱用ヒーターによるアルミナセラミック板の加熱温度を375℃としたことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、セラミック樹脂複合体が得られた。
<比較例1>
【0075】
アルミナセラミック板を加熱しなかったことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。しかし、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着せず、セラミック樹脂複合体を得ることができなかった。
<実施例6>
【0076】
超音波溶着の条件を振幅70%、溶着時間0.1秒、保持時間0.1秒、アルミナセラミックス板を加熱せずに、液晶ポリエステルの成形品を、加熱用ヒーターにより300℃に加熱したことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、セラミック樹脂複合体が得られた。
<溶着強度(接合強度)の測定>
【0077】
これらの実施例1〜6についてそれぞれ、(株)島津製作所製の万能材料試験機「オートグラフAG−50」を用いて、チャック間距離50mm、クロスヘッド速度1mm/分の条件で、セラミック樹脂複合体の引張せん断試験を実施した。そして、このときの最大点応力を溶着面積で除したものを溶着強度(単位:MPa)とした。その結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0078】
表1から明らかなように、比較例1では、上述したとおり、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体とを超音波溶着しても、セラミック樹脂複合体を得ることができなかった。これに対して、実施例1〜6では、超音波溶着によってセラミック樹脂複合体を得ることができ、その溶着強度は0.4〜12.8MPaであった。したがって、実施例1〜6においては、アルミナセラミック板と液晶ポリエステルの成形体との密着性に優れる結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、電気・電子部品、自動車部品その他の用途に用いられるセラミック樹脂複合体の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1……セラミック樹脂複合体
2……セラミック部品
3……熱可塑性樹脂部品
4……電熱プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれるセラミック樹脂複合体の製造方法であって、
前記溶着工程の前に、前記セラミック部品および前記熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程が設けられていることを特徴とするセラミック樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より100℃高い上限温度までの温度範囲内で前記セラミック部品を加熱することを特徴とする請求項1に記載のセラミック樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より10℃高い上限温度までの温度範囲内で前記熱可塑性樹脂部品を加熱することを特徴とする請求項1に記載のセラミック樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂部品の材料は、流動開始温度が250〜350℃の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のセラミック樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂部品が、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミック樹脂複合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−218800(P2011−218800A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64125(P2011−64125)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】