説明

セラミック粒子を含む布地及びそれらの製造方法

架橋性ポリウレタンとセラミック粒子とを含む組成物で処理された非融解基布を含む、耐溶融金属性の布地が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護布地、特に溶融金属のこぼれから着用者を保護するためのコーティングされた布地の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
産業労働者は、溶融金属のこぼれ、並びに溶融金属の飛沫への慢性的な露出から彼らを保護する衣類を必要とする。
溶融金属から保護するためには、衣類は、理想的には不燃性繊維で作製されるべきであり、及び溶融金属をはじき、溶融金属の吸収、移動、又は浸透を阻止するべきでもある。従来、溶融金属に関わる作業者は、綿など、非融解繊維製の布地から作製される衣類を着用してきた。布地は、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロリド、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムサルフェート、及びn−ヒドロキシメチル−3−(ジメチルホスホノ)プロピオンアミド(例えば、チバ・ガイギー社(Ciba-Geigy Corporation)より商品名PYROVATEX CPとして販売)など、リン含有組成物によって難燃性化されることがある。そのような衣類は、難燃性ではあるが、しばしば、十分に溶融金属をはじかず、すなわち、溶融金属が衣類に接触してとどまり、場合によっては吸収されることもあり、したがって着用者に多量の熱を移行させるのに十分な時間があり、結果として重度の火傷を引き起こす。
この問題に対処しようとする試みは、米国特許第4,446,202号(ミシューティン(Mischutin))に開示されている。難燃性の臭素化化合物が、高分子量のポリマー又はラテックスとともに、界面活性剤又は乳化剤と、結合剤又は増粘剤としてのコロイドとによって、水性媒質中に分散される。得られる組成物は、布地に適用され、加熱又は室温で空気への露出によって乾燥されると、被膜を形成する。被膜は、吹き付けられた又は飛散された溶融金属の粒子が繊維内へと浸透するのを有意に妨げるのに十分に、繊維間の隙間を塞ぐと言われている。
【0003】
布地を耐溶融金属性にしようとする他の試みが、米国特許第4,631,224号に記載されており、該特許は、耐溶融金属性のコーティングされた布地組成物であって:
(a)基布と(b)布地の表面上のコーティングとを含んでおり、該コーティングが、(i)無機結合剤組成物コロイダルシリカ、モノアルミニウムホスフェート、アルミニウムクロロハイドレート、及び前記布地への前記無機結合剤組成物の結合を高めるのに効果的な量のハロゲン化アルキルスズ触媒と、(ii)有機結合剤と、(iii)皿状の形態を有する、粒径範囲約30〜約150ミクロン、厚さ約0.5〜約1.5ミクロンの金属フレークとを含んでおり、前記無機結合剤組成物及び前記有機結合剤の量が、前記布地に前記金属フレークを結合させるのに効果的である、組成物を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐溶融金属性の代替的な布地への必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様では、本発明は、布地を耐溶融金属性にする組成物であって:
架橋性ポリマーと、
セラミック粒子と、
難燃剤と、任意で
シリコーンエラストマー、及び/又はグリオキサールとを含む組成物を提供する。
第2の態様では、本発明は、溶融金属に対する保護作用のある、処理された布地であって、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布が、基布の繊維とともにマトリックスを形成するように架橋された架橋性ポリマーと、マトリックス中に懸濁されたセラミック粒子と、難燃剤と、任意でシリコーンエラストマー及び/又はグリオキサールとによって片側又は両側を処理されている、処理された布地を提供する。
第3の態様では、本発明は、溶融金属から着用者を保護するための衣類であって、処理された布地を含んでおり、該処理された布地が、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布が、基布の繊維とともにマトリックスを形成するように架橋される架橋性ポリマーと、マトリックス中に懸濁されるセラミック粒子と、難燃剤と、任意でシリコーンエラストマー及び/又はグリオキサールとによって片側又は両側を処理されている、衣類を提供する。
【0006】
第4の態様では、本発明は、溶融金属に対する保護作用のある布地を製造する方法又はプロセスであって:
(1)非融解繊維を含む基布を提供する工程と、
(2)基布を:
架橋性ポリマーと、
架橋剤と、
セラミック粒子と、
難燃剤と、任意で
シリコーンエラストマー及び/又はグリオキサールとによって処理する工程と、
(3)ポリマーを架橋させて、基布の繊維とともに、セラミック粒子がその中に懸濁されたマトリックスを形成する工程とを含む方法又はプロセスを提供する。
第5の態様では、本発明は、溶融金属から着用者を保護するための、処理された布地の使用であって、該処理された布地が、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布が、基布の繊維とともにマトリックスを形成するように架橋されるポリマーと、マトリックス中に懸濁されるセラミック粒子とを含む組成物によって片側又は両側を処理されている、使用を提供する。
【0007】
第6の態様では、本発明は、溶融金属から人を保護する方法であって、処理された布地を含む衣類を人に提供する工程を含んでおり、該処理された布地が、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布が、基布の繊維とともにマトリックスを形成するように重合されるポリマーと、マトリックス中に懸濁されるセラミック粒子とを含む組成物によって片側又は両側を処理されている、方法を提供する。
第7の態様では、本発明は、溶融金属から着用者を保護するための衣類を製造するための、処理された布地の使用であって、該処理された布地が、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布が、基布の繊維とともにマトリックスを形成するように架橋される架橋性ポリマーと、マトリックス中に懸濁されるセラミック粒子とを含む組成物によって片側又は両側を処理されている、使用を提供する。
【0008】
第8の態様では、本発明は、セラミックコーティング組成物を製造する方法又はプロセスであって、水性溶媒中で:
架橋性ポリマーと、
セラミック粒子と、
難燃剤と、任意で
シリコーンエラストマー及び/又はグリオキサールとを混合する工程を含む、方法又はプロセスを提供する。
第9の態様では、本発明は、布地を耐溶融金属性にするためのセラミックコーティング組成物の使用であって、該セラミックコーティング組成物が:
架橋性ポリマーと、
セラミック粒子とを含む、使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
略号
PU:ポリウレタン
M5:次式によって表されるポリピリドビスイミダゾール:
【化1】

HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
【0010】
本発明は、溶融金属の吸収を阻止して該溶融金属を布地から流れ落としながら、同時に耐燃性であり、及び熱の移行を阻止する、処理された布地を提供する。本発明の布地を使用して、溶融金属のこぼれ及び飛沫から着用者を保護する保護衣類を作製することができる。衣類全体が処理された布地で作製されてもよく、危険性の高い領域が処理された布地で作製されて、危険性の低い領域が他の布地で作製されてもよい。
本発明の布地は、非融解繊維製の基布を含む。表現「非融解繊維」は、温度が上昇するにつれて、融解前に、又は融解に非常に近いところで炭化する繊維を含む。特に好ましい非融解繊維としては、有機の非融解繊維、例えば、セルロース繊維(例えば、綿、木質繊維、リネン、ビスコース、レーヨン)、羊毛、アラミド繊維(例えば、ケブラー(Kevlar)(登録商標)などのパラ−アラミド、及びノーメックス(Nomex)(登録商標)などのメタ−アラミド)、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリアレーン、レーヨン(例えば、リオセル)、ポリピリドビスイミダゾール(M5、前述の略号参照)、並びにこれらの混合物が挙げられる。本発明の布地に好ましい非融解繊維は、ビスコース、アラミド(例えば、p−アラミド、m−アラミド)、M5、及び羊毛から選択される。これらの繊維は、100重量%で使用することもでき、これらのブレンドとして使用することもできる。
一部の実施形態では、非融解繊維は、ポリエステル、ポリアミド、及びポリプロピレンなどの融解繊維とブレンドされてよい。
【0011】
基布は、架橋性ポリマー、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、フルオロエチレンプロピレン、シリコーン、メラミン、ポリアクリレートを含むセラミック組成物で処理される。好ましくは、架橋性ポリマーは、ポリウレタンである。
架橋性ポリマーがポリウレタンであるときには、好ましくはそれは、架橋すると軟質又は弾性ポリウレタンを生じるポリウレタンである。これは、処理された布地のしなやかさ及び着用性を改善する。
ポリウレタンは、ポリイソシアネート(しばしばジイソシアネート)及びポリオール(しばしばジオール)から製造されるポリマーである。使用できるポリイソシアネートの例としては、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(例えば、2,4−及び2,6−)、テトラメチルキシレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)などの芳香族ポリイソシアネート、並びにジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂肪族及び脂環式ポリイソシアネート、並びにこれらのいずれかの混合物が挙げられる。また、重合イソシアネート(重合MDIなど)も使用されてよい。やはり適しているのは、ポリイソシアネートとポリエーテル若しくはポリエステルポリオールとの部分的に予備反応させた混合物を含む、これらのポリイソシアネートの「プレポリマー」である。通常、上記ポリイソシアネートは、ポリオールに対して、80〜400の範囲のイソシアネート指数をもたらすような量で使用される。
【0012】
ポリオールは、好ましくは2〜25個の炭素原子を有する、ポリオール、ポリエーテル、又はポリエステルのいずれかであってよい。例としては、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、デカンジオール、ジエチレングリコール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、2,2−ジメチルプロパンジオール、ジメチルシクロヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールC)、芳香族ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトン、ポリ(エチレンオキシド)、並びに多価化合物、例えば、ジオール及び/又はトリオールから誘導された末端ヒドロキシル基をもつ、ポリ(プロピレンオキシド)ポリマー及びコポリマーが挙げられる。そのようなジオール及びトリオールとしては、非限定例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、スクロースなどの糖、及び他の低分子量ポリオールが挙げられる。やはり有用であるのは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トルイレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、トリエタノールアミンなどのアミンを、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドと反応させることによって調製できる、アミンポリエーテルポリオールである。
【0013】
ポリウレタン形成に適した触媒は、ヒンダードアミン、例えば、ジアゾビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ジ−[2−(N,N−ジメチルアミノエチル)]エーテル、ビス−(3−ジメチルアミドプロピル)アミノ−2−プロパノールアミン、ペンタメチルジプロピレントリアミン、N,N−ジメチルシクロヘキサンアミン(DMCHA)、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,3,5−トリ(ジメチリンプロピル)ヘキサヒドロトリアジン、DMDEE、ジモルホリンポリオキシエチレンエーテル、1−メチル−4−ジメチルアミノピペラジン、ペンタメチルジプロピレントリアミン、1,8−ジニトロジェンヘテロジシクロ[5,4,0]エンデカチレン−7、ジメチリンプロピルジプロパノールアミン(Dimethylinpropyldipropanolamine)、トリエチレン−ジアミン−1,4−ジオールである。触媒の他の例は、第三級アミン、有機スズ化合物、並びにカルボキシレートウレタン触媒(ゲル化及び/又は発泡)である。有用な触媒の典型的な例は、アミン触媒、例えば、トリエチレンジアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、テトラメチルヘキサンジアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、トリ(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロトリアジン、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ペンタメチルジエチレントリアミン、ペンタメチルジプロピレントリアミン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、第四級アンモニウム塩、有機酸の塩、並びにスズ触媒、例えば、ジラウリン酸ジブチルスズなどである。
【0014】
有利には、本発明のセラミック組成物及び布地に使用されるポリウレタンは、以下の構成要素を有する:
20〜60重量%の少なくとも1つのイソシアネート、
5〜50重量%の少なくとも1つのポリエーテルジオール、
0〜10重量%の1つ以上の脂肪族又は脂環式ジオール、
0〜50重量%、好ましくは5〜50重量%の1つ以上のポリエステルジオール、
本発明のセラミック組成物で使用するための好ましいポリウレタンは、モノマーであるヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と、直鎖又は分枝鎖ポリエステル構成成分を有するポリエステルポリオールとによって製造される。好ましいポリウレタンは、1,000〜10,000g/molの重量平均分子量を有する。適したポリウレタンは、商品名アルベルディンク−PU(Alberdingk-PU)(登録商標)(アルベルディンク(Alberdingk))、インプラニール(Impranil)(登録商標)(バイエル(Bayer))、及びパーミュテックス(Permutex)(登録商標)(スタール(Stahl)として市販されている。
ポリウレタン鎖は、追加のポリイソシアネート架橋剤を追加することによって鎖間結合を形成するように架橋できる、未反応のヒドロキシル末端を有する。本発明のセラミック組成物は、それらを基布の表面に適用し、好ましくは架橋剤と任意で触媒とを使用して、鎖間架橋を開始することによって、使用される。好ましい架橋剤は、前述のポリイソシアネートである。特に好ましくは、ポリイソシアネート架橋剤は、例えばオキシム基でキャップされる。キャッピング基は、高温(例えば、140〜200℃程度)で離れ落ちて、架橋を開始する。好ましいオキシムキャッピング基は、ブタンオキシムである。好ましくは、架橋剤は、2つ以上のイソシアネート基を有しており、特に好ましくは3つのイソシアネート基を有する。架橋剤は、好ましくは、溶媒を差し引いたセラミックコーティング組成物の総重量に基づいて、約1〜10重量%、より好ましくは約3〜8重量%存在する。
【0015】
本発明のセラミック組成物で使用するための架橋性ポリウレタンは、基布に損傷を与えない条件下で架橋できるものから選択されてよい。架橋は、熱によって、及び/又は触媒を用いて、開始されてよい。触媒が添加される場合、好ましくは該触媒は、セラミック組成物を基布に適用する直前に添加される。架橋剤は、セラミック組成物に添加されてよく、セラミック組成物は、適用まで低温(すなわち、約20℃以下、より好ましくは約4℃以下)で保管されてよい。セラミックコーティング組成物を基布に適用後、処理された布地は、架橋を引き起こすために加熱される。或いは、架橋剤及び/又は触媒は、セラミック組成物を基布に適用する直前に該セラミック組成物に添加されてもよい。
セラミック組成物は、セラミックの粒子を含有する。セラミックという用語は、粘土などの非金属鉱物を成形し、次いで高温で焼成することによって製造される、様々な硬質、脆性、耐熱性、及び耐食性の材料のいずれかを指す。セラミックとしては以下が挙げられるが、これらに限定されない:
【0016】
窒化ケイ素(Si34
炭化ホウ素(B4C)
炭化ケイ素(SiC)
二ホウ化マグネシウム(MgB2
酸化亜鉛(ZnO)
フェライト(Fe34
ステアタイト
ケイ酸アルミニウム
イットリウムバリウム銅酸化物(YBa2Cu37-x
窒化ホウ素
チタン酸バリウム(しばしば、チタン酸ストロンチウムと混合される)
チタン酸ジルコン酸鉛
ジルコニア
フェライト(Fe34
ステアタイト
ケイ酸アルミニウム
好ましいセラミック粒子は、炭化ケイ素である。
粒子は、好ましくは約0.1〜10ミクロンのサイズ分布を有する。
好ましいセラミック粒子は、炭化ケイ素、特にサイズ分布が0.1〜10ミクロンの炭化ケイ素粒子である。
【0017】
セラミック組成物は、架橋性ポリマーとセラミック粒子とを、適した溶媒、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、酢酸エチルなど(好ましくは水)に懸濁させることによって製造される。架橋剤及び/若しくは触媒が添加され、セラミック組成物が使用まで保管されてもよく、又は架橋剤及び/若しくは触媒が、組成物を基布に適用する直前にセラミック組成物に添加されてもよい。架橋性ポリマーは、好ましくは、溶媒を差し引いたセラミック組成物の重量に基づいて、約25〜65重量%、より好ましくは約33〜53重量%存在する。セラミック粒子は、有利には、溶媒を差し引いたセラミック組成物の総重量に基づいて、約1〜40重量%、好ましくは2.75〜30重量%存在する。
本発明のセラミック組成物及び布地は、グリオキサールをさらに含んでよい。グリオキサールは、ビスコースなどのセルロース系繊維と合わせると特に有用であり、糸の収縮及び膨潤を低減する。グリオキサールの添加は、得られる処理された布地が湿気及び濡れに耐える能力を改善する。処理された布地を湿気にさらすと、基布が膨潤する結果となることがある。硬化されたセラミック組成物が十分に弾力的でない場合、基布の膨潤は、硬化された組成物にクラックを形成することがある。グリオキサールの添加は、このクラッキング現象を低減する。グリオキサールは、セラミックコーティング組成物中に存在してもよく、又はセラミックコーティングの適用前若しくは適用後に、処理された布地に適用されてもよい。好ましくは、それは、セラミックコーティングの適用前に適用される。
【0018】
本発明のセラミック組成物及び布地は、有利にはシリコーンエラストマーを含む。シリコーンエラストマーは、またシリコーンゴムとしても知られ、例えば、ジクロロシランR2SiCl2の重合によって得られ、式中、Rは、例えば、メチル、エチル、ビニル、又はフェニルである。好ましいシリコーンエラストマーは、ポリジメチルシロキサンである。シリコーンエラストマーの添加は、処理された布地のしなやかさ及び弾力性を改善して、より良好なドレープと、着用者にとって改善された感触とをもたらす。シリコーンエラストマーが存在する場合、それは、好ましくは、溶媒を差し引いたセラミック組成物の総重量に基づいて、約2〜15重量%、より好ましくは約5〜10重量%の濃度で使用される。
本発明のセラミック組成物及び布地は、有利には難燃剤を含んでよい。難燃剤は、好ましくは、リン含有難燃剤、例えば、赤リンや、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリスクロロプロピルホスフェート、テトラキス(2−クロロエチル)エチレンホスホネート、ペンタブロモジフェニルオキシド、トリス(1,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、リン酸アンモニウム、リン酸トリクレシルなどのホスフェートから選択される。
【0019】
適したハロゲン含有有機難燃剤としては、当該技術分野で難燃剤としての使用で知られているハロゲン含有有機化合物が挙げられる。ハロゲン含有有機難燃剤の例は、臭素化ジフェニルエーテル(例えば、ペンタブロモジフェニルオキシド及びデカブロモジフェニルオキシド)、ポリトリブロモスチレン、トリクロロメチルテトラブロモベンゼン、テトラブロモビスフェノールA、及びエチル社(Ethyl Corporation)からSAYTEX8010として入手可能な芳香族臭素化難燃剤など、ハロゲン含有芳香族難燃剤である。他の難燃剤としては、ジブロモプロパノール、ヘキサブロモシクロドデカン、ジブロモエチルジブロモシクロヘキサン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、及びトリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、ジブロモペンタエリスリトール、ヘキサブロモシクロドデカン、並びにトリクロロプロピルホスフェートが挙げられる。
好ましい難燃剤は、赤リンである。
また、これらの群のうちの1つ若しくはいくつかから選択されるいくつかの構成成分の混合物を難燃剤として使用することも可能である。
【0020】
難燃剤が使用される場合、それは、好ましくは、溶媒を差し引いたセラミック組成物の総重量に基づいて、約2〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%存在する。
或いは、ポリウレタンは、例えば本明細書に参考として組み込まれる米国特許第4,022,718号(ラッソ(Russo))に開示されているように、ポリウレタンに難燃性を与えるモノマーを含んでもよい。そのようなモノマーの例は、2,3−ジブロモ−2−ブテンジオール−1,4である。
セラミック組成物は、有利にはシリコーン消泡剤を含んでよい。シリコーン消泡剤は、好ましくは、溶媒を差し引いたセラミック組成物の総重量に基づいて、約0.1〜4重量%、より好ましくは約0.5〜2重量%存在する。
セラミック組成物は、布地への組成物の適用を容易にする増粘剤をさらに含んでよい。組成物がペーストを形成する点まで増粘化される場合、該組成物は、例えば、ナイフ若しくはスパチュラで塗り広げることによって、布地に適用することができる。増粘剤は、また、ポリウレタンが重合されるまで組成物が布地に粘着するのを助ける。適した増粘剤は、ポリアクリレート及びポリウレタンから選択される。特に好ましいのは、任意でエチレン性不飽和コモノマーとの、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のホモポリマー及びコポリマーを含めた、ポリアクリレートである。ナイフで塗り広げるためには、セラミック組成物の好ましい粘度は、約5000〜7000mPa.s、より好ましくは約6000±500mPa.sの範囲である。増粘剤は、好ましくは、溶媒を差し引いたセラミック組成物の総重量に基づいて、約0.1〜4重量%、より好ましくは約0.2〜2重量%の濃度で添加される。
【0021】
塗り広げることによる適用に加えて、セラミック組成物は、より低い粘度(例えば、400〜1,000mPa.s)を有するように調製される場合、スプレー噴霧、浸漬、塗装、又はディッピングによって適用することができる。
セラミック組成物を基布の一方又は両方の表面に適用後、ポリウレタン分子を架橋させる必要がある。これは、有利には、架橋を開始させるのに十分な温度、例えば約100〜200℃まで加熱することによって、実施することができる。加熱は、テンタリングフレーム(tentering frame)上で、又はカレンダリングによって、又は別の適したデバイスを用いて、実施することができる。カレンダリングは、好ましくは、ニップ圧約15〜45トン、より好ましくは約30トンで、約120〜300℃、より好ましくは約150℃において実施される。
架橋性ポリマーを架橋させることに加えて、加熱は、セラミック組成物を製造するために使用される(1つ若しくは複数の)溶媒を追い出す。加熱及び/又はカレンダリングの前に、処理された布地(及びその上にコーティングされたセラミック組成物)は、例えば強制空気を使用して、乾燥されてよい。
【0022】
布地に適用されるときにセラミック組成物中にグリオキサールが存在しない場合、架橋性ポリマーを架橋させるための加熱及び/又はカレンダリング前に、グリオキサールが処理された布地に適用されてよい。
本発明の処理された布地は、溶融金属のこぼれに対する優れた保護をもたらす。布地は、有利には、溶融金属のこぼれから着用者を保護するための衣類を作製するために使用されてよい。衣類は、衣類を製造する公知の方法を使用して作製されてよい。一部の用途では、衣類の危険性の高い部分だけを本発明の処理された布地製とすることが望ましい場合がある。例えば、ズボン及びシャツ(若しくはカバーオール)の折返し/袖口(cuffs)は、小さな溶融金属飛沫にさらされることが多く、したがって、これらの領域だけを本発明の処理された布地製とすることが望ましい場合がある。
【実施例】
【0023】
この実施例は、溶融金属性能に対するセラミックコーティングの効果を示す。指示のない限り、すべてのパーセンテージは、重量による。
基布
40%の多様な長さのステープル羊毛繊維、8〜12cmの範囲の多様な繊維長を有する28%のビスコースステープル繊維(難燃剤で処理される)、やはり8〜12cmの範囲の多様な繊維長を有する29%の捲縮ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)ステープル繊維、1%のp−アラミド(ケブラー(Kevlar)(登録商標))繊維、及び2%のP−140炭素芯ポリアミドシート状繊維を、コーミング処理によって1つにブレンドして、ステープル繊維の密接混合を製造した。
羊毛は、従来の酸染色手順を使用して予めトップ染めした。
次いで、従来の長繊維ウーステッド処理機器を使用して、ステープル繊維のブレンドをリング紡績処理によって紡糸してステープル糸にした。次いで、ステープル糸を、2工程撚糸処理で撚り合わせ、蒸気で処理してしわが寄らないように糸を安定化させた。得られる諸撚糸(plied yarn)は、50テクスの線密度を有していた。糸を織って、幅165cmで28.0端/cm(28.0ends/cm)及び19.5緯糸/cm(19.5picks/cm)を有する、247g/m2の、2×1斜文織布にした。布地を洗浄し、ステンター内で最大オーバーフィードによって100℃で乾燥させ、防縮加工した。
完成した布地は、28.5端/cm(28.5ends/cm)及び22.0緯糸/cm(22.0picks/cm)を有し、最後は、幅160cmで269g/m2に仕上げられた。
【0024】
セラミックコーティング組成物
以下を含有するペーストを調製した:
(1)モノマーであるHMDIと、直鎖又は分岐鎖ポリエステル構成成分を有するポリエステルポリオールとから製造される、70重量%のPUベースの結合剤。結合剤PUは、5,000g/molの重量平均分子量を有していた。
(2)サイズ分布0.1〜10ミクロンの炭化ケイ素粒子から成る、30重量%のセラミック粒子。
このペーストに、以下を添加した:
ブタンオキシムでキャップされたトリイソシアネートから成る、5重量%の架橋剤、
6重量%の赤リン、
1重量%のシリコーン消泡剤、
7重量%のシリコーンエラストマー(ポリジメチルシロキサン)、
5重量%の染料インペロン・ネイビーK−fr(colour imperon navy K-fr)、及び
0.6重量%のポリアクリレート増粘剤。
水を加えて、粘度6000mPa.s±500、pH7〜9を有する溶液を形成した。
【0025】
基布のコーティング
セラミックコーティング組成物を基布に適用した:
工業用コーティング機械を1mmコーティングナイフとともに使用した。布地処理速度は、15m/分に設定した。機械は、コーティングを乾燥させるためにステンターフレームに連結した。ステンター温度は、最初のボックスでは100℃で始まり、及び最後の(第5の)ボックスでは160℃で終わった。露出時間は、90秒であった。
布地に適用されたセラミックコーティング組成物の量は、乾燥後に60g/m2であった。
次いで、コーティングされた布地を、低ホルムアルデヒドのグリオキサール反応物質仕上げ剤中でパッド処理(padded)した。この処理は、繊維、特に布地内に含まれるビスコース繊維の架橋をもたらして、より良好な洗濯収縮挙動を達成し、濡れたときの繊維の膨潤を低減する。
布地をステンターフレーム上で乾燥させた。
布地を150℃で30tの圧力によってカレンダリングして、本発明の処理された布地の一実施例を作り出した。
【0026】
未処理の基布の耐溶融金属性(比較)
基布(すなわち、未処理)を、標準EN531:1995、6.6節、溶融鉄飛沫、にしたがって、試験方法EN373:1993を使用し、金属として鉄を使用して、溶融鉄に対して試験した。
この試験では、布地サンプルは、ボード上のPVC層の上に留め付けられる。ボードは、水平面に対して指定された角度に傾けられ、指定された量の溶融金属が、指定された高さから布地の表面上に注がれる。冷却後、以下の評価によって溶融金属飛沫指数が割り当てられる:
PVCフィルムは、該PVCフィルムの平滑化(smoothing)、融解、又はピンホールについて調べられる。これらの欠陥のいずれかが現れ、その欠陥の幅が5mm以上である場合、布地は、溶融金属試験不合格として判定される。欠陥の不連続スポットが生じる場合、布地は、それらのスポットの合計幅が5mm以上の場合には試験不合格として判定される。
PVCスキンに損傷を与える(すなわち、「不合格の」試験)ことなく布地上に注ぐことのできる溶融金属のグラム数が多いほど、布地がより良好に溶融金属に耐える。
試験条件は、以下の通りであった:
【0027】

基布(すなわち、未処理)についての性能が表1に記載されている。
【0028】

本発明の処理された布地の耐溶融金属性
本発明の処理された布地を、標準EN531:1995、6.6節、溶融鉄飛沫、にしたがって、試験方法EN373:1993を使用し、溶融鉄を使用して、溶融鉄に対して試験した。試験条件は、基布(未処理)の試験条件の通りであった。
処理された布地を、また、試験方法EN373:1993を使用し、溶融アルミニウムを使用して、標準EN531:1995、6.6節、溶融鉄飛沫、に対して試験した。試験条件は、以下の通りであった:
【0029】

2つの試験での処理された布地の性能が、表2に記載されている。また、布地を繰返し洗浄後にも試験した。洗浄条件は、以下に記載されている。
【0030】

表2は、本発明による処理された布地が、溶融鉄飛沫についてE3と見なされることを示す。これは、指数E1を有する未処理の布地よりもかなり良好である。このことは、本発明の布地が溶融鉄飛沫に対してより高い保護作用をもつことを意味する。この保護効果は、25回洗浄後でも維持される。
本発明の処理された布地は、また、溶融アルミニウムに対する保護も示す。
【0031】
洗浄条件
耐溶融金属性は、好ましくは、本発明の処理された布地について、繰返し洗浄後でも維持される。
前述の処理された布地を、操作手順番号:EFL−028及び標準ISO5077にしたがって洗浄した。洗浄サイクルが5回終わるごとに、1回の乾燥サイクルを実施した。
洗浄:
温度:60±3℃
洗剤:1g/LのIEC
洗浄は、標準ISO6330(方法A2)及び操作手順番号:EFL−029にしたがって、前面投入式の水平ドラム機械(タイプA1)を用いて実施した。
乾燥:
乾燥は、標準ISO6330及び操作手順EFL−029にしたがって、タンブリング機械を用いて実施した。
温度:60±3℃
【0032】
本発明の処理された布地の他の特性
本発明の処理された布地を、また:
標準EN ISO12947−2により、磨耗の測定(マーチンデール(Martindale))にしたがって、破損までのサイクル数によって試験した。
試験条件:
・気候:20±3℃、65±5%相対湿度
・加えられる圧力:12kPa
破断強度及び伸びの測定(ストリップ法(Strip method))(ISO 50811977)
限定的火炎伝播(limited flame spread)の測定(ISO 15025−2003−方法B)
表3は、特性を要約し、セラミックコーティングが布地の織物物理特性及び可燃性に悪影響を与えず、耐磨耗性を改善することを示す。
【0033】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属に対する保護作用のある、処理された布地であって、該処理された布地は、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布は、該基布の繊維とともにマトリックスを形成するように架橋された架橋性ポリマーと、該マトリックス中に懸濁されたセラミック粒子と、難燃剤と、任意でシリコーンエラストマー及び/又はグリオキサールとによって片側又は両側を処理されている、布地。
【請求項2】
前記基布は、アラミド繊維を含む、請求項1に記載の処理された布地。
【請求項3】
前記基布は、p−アラミド繊維を含む、請求項1に記載の処理された布地。
【請求項4】
前記架橋されたポリマーは、架橋されたポリウレタンである、請求項1に記載の処理された布地。
【請求項5】
前記架橋されたポリマーは、モノマーであるヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と、直鎖又は分岐鎖ポリエステル構成成分を有するポリエステルポリオールとを含み、1,000〜10,000g/molの重量平均分子量を有する架橋されたポリウレタンである、請求項1に記載の処理された布地。
【請求項6】
前記架橋されたポリマーは、ポリイソシアネートから選択される架橋剤によって架橋される、請求項1に記載の処理された布地。
【請求項7】
前記セラミック粒子は、炭化ケイ素であり、及び約0.1〜10ミクロンの粒径分布を有する、請求項1に記載の処理された布地。
【請求項8】
溶融金属から着用者を保護するための衣類であって、請求項1に記載の処理された布地を含む、衣類。
【請求項9】
溶融金属に対する保護作用のある布地を製造する方法であって:
(1)非融解繊維を含む基布を提供する工程と、
(2)該基布を:
架橋性ポリマーと、
架橋剤と、
セラミック粒子と、
難燃剤と、
任意でシリコーンエラストマー及び/又はグリオキサールとによって処理する工程と、
(3)前記ポリマーを架橋させて、前記基布の繊維とともに、セラミック粒子がその中に懸濁されたマトリックスを形成する工程とを含む方法。
【請求項10】
前記基布は、アラミド繊維を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基布は、p−アラミド繊維を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記架橋されたポリマーは、架橋されたポリウレタンである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記架橋されたポリマーは、モノマーであるヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と、直鎖又は分岐鎖ポリエステル構成成分を有するポリエステルポリオールとを含み、1,000〜10,000g/molの重量平均分子量を有する架橋されたポリウレタンである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記架橋されたポリマーは、ポリイソシアネートから選択される架橋剤によって架橋される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記セラミック粒子は、炭化ケイ素であり、約0.1〜10ミクロンの粒径分布を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
溶融金属から人を保護する方法であって、処理された布地を含む衣類を人に提供する工程を含んでおり、該処理された布地は、非融解繊維を含む基布を含んでおり、該基布は、該基布の繊維とともにマトリックスを形成するように架橋される架橋性ポリマーと、マトリックス中に懸濁されるセラミック粒子とを含む組成物によって片側又は両側を処理されている、方法。
【請求項17】
前記基布は、アラミド繊維を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基布は、p−アラミド繊維を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記架橋されたポリマーは、架橋されたポリウレタンである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記架橋されたポリマーは、モノマーであるヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と、直鎖又は分岐鎖ポリエステル構成成分を有するポリエステルポリオールとを含み、1,000〜10,000g/molの重量平均分子量を有する架橋されたポリウレタンである、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記架橋されたポリマーは、ポリイソシアネートから選択される架橋剤によって架橋される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記セラミック粒子は、炭化ケイ素であり、約0.1〜10ミクロンの粒径分布を有する、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2009−530511(P2009−530511A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501440(P2009−501440)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/005932
【国際公開番号】WO2007/108948
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】