説明

セラミック製治具

【課題】従来の気密端子製造用の治具はグラファイト製であり、表面が容易に消耗してしまい寸法精度を維持することが困難であった。そこで、耐熱性、耐酸化性、耐摩耗性に優れるセラミックを用い、ガラスとの離型性に優れ、かつ、離型性を維持するための再生処理を不要とする気密端子製造用のセラミック製治具を提供することを課題とする。
【解決手段】顆粒状の酸化チタンと、顆粒状のチタン酸アルミニウムとが、その表面どうしの接触界面でガラス性物質により融着された組織構造を有するセラミック製治具などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス対金属封止(GTMS:Glass to Metal Seal)による気密端子の製造において使用される治具に関する。
【背景技術】
【0002】
気密端子は、電子部品をはじめ各種の機器、部品類をさまざまな環境条件から保護するためのガラス端子であり、気密性、電気絶縁性、耐候性などが要求される。その用途としては、円筒型水晶振動子用、レーザーダイオード用(ガラス窓付キャップ)、センサー用、コンプレッサー用、サイトグラス用などと多岐にわたる。
【0003】
気密端子は、主として、図1のようにコバール合金などからなる「金属外枠」(0101)と、前記金属外枠(0101)の枠内所定の位置を通過するように定められた1本以上の「金属リード線」(0102)と、金属外枠(0101)と金属リード線(0102)の隙間を埋めるように形成したホウケイ酸ガラスなどの「ガラス部材」(0103)などからなる。気密端子メーカーは、金属外枠(0101)の枠内所定の位置を正確に金属リード線(0103)が通過するよう気密端子を製造し、量産する必要がある。そこで、前記要求を満たすため、封着治具などを使用して簡易に、かつ、正確に部材を配置し、所望の気密端子を量産している。
【0004】
一般的な製造方法の大まかな流れを、図2を用いて説明する。図2は、治具を用いて気密端子を製造する態様を、断面図により示すものである。まず、治具(0201)の所定の位置に金属外枠(0203)と金属リード線(0202)、ガラス部材(0204)をセットする。そして、それらを治具ごと約1000℃で加熱し、ガラス部材を溶融する。その後冷却し、ガラス部材を固化させる。すると、ガラス部材は、金属外枠及び金属リード線と融着する。このようにして、複数の部材を一体として気密端子を形成する。その後、治具から気密端子を取り出し、めっき処理などの仕上げを行う。
【0005】
前記のようにして行われる気密端子の製造工程において用いられる治具は、融着後のガラス部材との離型性が必須の要求性能であり、現在はすべてグラファイト製の治具が利用されている。しかし、グラファイト製治具の場合、金属外枠などの部材の脱着を繰り返すと、その表面が容易に消耗してしまい良好な寸法精度を維持できなくなるという欠点がある。さらに、「ガラスタブレットを溶融するための約1000℃での加熱」を酸化性雰囲気下で行うと、酸化によりその表面が脆弱化してしまい、消耗しやすくなる。そのため、前記のような気密端子の製造工程においてグラファイト製の治具を使用した場合、寸法公差の厳しい品種ではわずか数回の使用で十分な寸法精度を保てなくなるほど消耗してしまい、新たな治具と交換しなければならない。使用後の治具は表面が消耗しているため、簡易に修理等を行うすべもなく、廃棄される。このように、グラファイト製治具を使用すると、コスト面及び生産効率面において大きな負担となる。
【0006】
そこで、出願人は、耐熱性、耐酸化性、耐摩耗性に優れるセラミックに窒化ホウ素を含浸してなる気密端子製造用の治具を発明し、特許出願した。この発明は、セラミックの利点を利用するとともに、融着後のガラスとの離型性が不十分であるという欠点を、窒化ホウ素を含浸することにより解消し、ガラスとの十分な離型性を得ることを特徴とするものである。これにより、十分な離型性を備え、かつ、耐用年数の長い気密端子製造用治具を実現した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−140784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の発明において問題が全くないわけではない。窒化ホウ素は、治具に離型性を付与する役割を果たすものであるが、ガラス部材を溶融する工程において酸化性雰囲気下に置かれることにより、窒化ホウ素が徐々に分解して酸化ホウ素に変化してしまう。酸化ホウ素はガラスの主成分の一つでありガラスとなじみやすく、この変化により治具の離型性は失われていく。そのため、治具の離型性を維持するためには、窒化ホウ素の含浸を定期的に行う再生処理が必要となってしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本件発明では上記課題に鑑み以下に示すセラミック製治具を提供する。すなわち第一の発明としては、顆粒状の酸化チタンと、顆粒状のチタン酸アルミニウムとが、その表面どうしの接触界面でガラス性物質により融着された組織構造を有するセラミック製治具を提供する。
【0010】
第二の発明としては、顆粒状の酸化チタン又は/及び顆粒状のチタン酸アルミニウムに混在した粘土を利用してその表面どうしの接触界面が融着されたものである第一の発明に記載のセラミック製治具を提供する。
【0011】
第三の発明としては、顆粒の間に空孔度にして15%乃至45%の空孔を有する第一の発明又は第二の発明に記載のセラミック製冶具を提供する。
【0012】
第四の発明としては、前記ガラス性物質が、シリカ、アルミナ、酸化カリウム及び酸化ナトリウムを、全体に対する重量比にして、シリカにおいては40%乃至80%、アルミナにおいては10%乃至40%、酸化カリウムにおいては1%乃至15%、酸化ナトリウムにおいては0%乃至10%の範囲内でそれらの合計が100%を超えない割合で含有する粘土であることを特徴とする第一の発明から第三の発明に記載のセラミック製治具を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、融着後のガラスとの離型性に優れ、かつ、離型性を維持するための再生処理が不要なセラミック製治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】気密端子の概略図の一例
【図2】気密端子を製造する封着冶具の断面概略図の一例
【図3】実施形態1のセラミックの組織構造を示す概念図
【図4】ガラスとの離型性の評価結果を示す写真
【図5(a)】実施形態1のセラミックの組織構造の写真
【図5(b)】実施形態1のセラミックの組織構造の写真
【図5(c)】実施形態1のセラミックの組織構造の写真
【図5(d)】実施形態1のセラミックの組織構造の写真
【図5(e)】実施形態1のセラミックの組織構造の写真
【図5(f)】実施形態1のセラミックの組織構造の写真
【図6】実施形態1のセラミックの組織構造の解析結果を示す図
【図7(a)】実施形態1のセラミックの表面の写真と表面粗さを示す図
【図7(b)】実施形態1のセラミックの表面の写真と表面粗さを示す図
【図7(c)】実施形態1のセラミックの表面の写真と表面粗さを示す図
【図7(d)】実施形態1のセラミックの表面の写真と表面粗さを示す図
【図8】一般的なセラミックの表面の写真と表面粗さを示す図
【図9】実施形態1のセラミックの組織構造を示す写真
【図10】実施形態1のセラミックの温度変化に対する伸びの測定結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明の実施の形態について説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
実施形態1は、主に請求項1、2、4などに関する。実施形態2は、主に請求項3などに関する。
<実施形態1>
<実施形態1 概要>
【0017】
本実施形態は、セラミック材である酸化チタンとチタン酸アルミニウムとが、焼成後において顆粒の状態で残存する組織構造を有することを特徴とする。この組織構造により、治具表面に適度な凹凸が生じ、溶融ガラスに対する離型性を得ることができる。
<実施形態1 構成>
【0018】
本実施形態のセラミック製治具は、顆粒状の酸化チタンと、顆粒状のチタン酸アルミニウムとが、その表面どうしの接触界面でガラス性物質により融着された組織構造を有する。
【0019】
セラミック材には、例えば、ジルコン、シリカ、ムライト、ホルステライト、ステアタイト、コージライト、スポジュメン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ジルコニア、チタン酸アルミニウム、スピネル、窒化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン、窒化ホウ素、窒化チタンなど種々存在するが、本実施形態においては、これらの中からとくにガラスとなじみにくい性質を有する酸化チタンとチタン酸アルミニウムを使用している。
【0020】
「顆粒」とは、粉末よりも粒径の大きな粒をいう。酸化チタンやチタン酸アルミニウムを顆粒状にするためには、0.2〜10μm程の粒径の原料粒を用いて所定の造粒方法により顆粒化する。造粒方法としては、流動層造粒、攪拌造粒、裏ごし造粒などの方法がある。例えば、裏ごし造粒法は、原料粒を水又はバインダー水溶液などと混練し網目や有孔板から押し出して造粒するものである。なお、焼結後においても酸化チタン及びチタン酸アルミニウムが顆粒として存在することが望ましいので、なるべく硬い顆粒となるよう造粒することが望ましい。
【0021】
また、造粒の際には、原料粒と粘土とをあらかじめ混在させたものを、上記の造粒法などを用いて造粒することが好ましい。このように造粒することにより、焼結時に顆粒の内部に存在する粘土が焼結助材の働きをし、硬質の顆粒状の酸化チタン及びチタン酸アルミニウムが造られることになり、焼結後においても顆粒状の酸化チタン及びチタン酸アルミニウムが残存する組織構造を得ることができる。これにより、ガラスとの離型性に優れる治具が得られる。なお、顆粒の粒径は特段限定されるものではなく、治具の用途等に応じて適宜選定し得るものである。
【0022】
「表面どうしの接触界面でガラス製物質により融着される」とは、上述した顆粒状の酸化チタンとチタン酸アルミニウムとをガラス性物質とともに焼成することにより、溶融したガラス性物質が顆粒の表面を互いに引き寄せ、その後冷却されて顆粒表面の接触界面で再結晶化して顆粒どうしが結着されることをいう。ここで、ガラス性物質は顆粒どうしの接触界面にて働くものであるので、顆粒において他の顆粒と接触しない部分についてはガラス性物質に触れることなくその表面は露出されることになる。図3に、接触界面でガラス性物質により融着された構造の概念図を示す。図3(a)に示すように、顆粒(0301)と顆粒(0302)とは、それらの接触界面でガラス性物質(0303)により融着される。このように融着されることにより、顆粒と顆粒との間に隙間が残されることになり、凹凸のある組織構造となる。このような隙間と凹凸により、ガラスに対する離型性を得ることができる。一方、図3(b)に示すように、顆粒(0304、0305、0306、0307)の間をガラス性物質(0308)が埋め尽くすような態様となってしまうと、隙間と凹凸がなくなりガラスとの離型性が得られなくなってしまう。したがって、図3(b)に示すような態様は、本実施形態における「表面どうしの接触界面でガラス性物質により融着される」組織構造であるとはいえない。
【0023】
ガラス性物質として、例えば、セラミックの焼結において一般的に利用されている焼結助材を用いることができる。また、粘土も焼結助剤の機能を果たすガラス性物質である。
【0024】
ここで、「粘土」とは、天然の粘土という場合には、極めて微細な粒子でできた堆積物をいい、また、人工の粘土という場合には、天然の粘土に含まれる成分などを原料として人工的に造ったものをいう。本実施形態においては、粘土が有する焼結助材としての機能を利用するものであり、天然の粘土であるか人工の粘土であるかは限定しない。
【0025】
粘土は、顆粒状の酸化チタン及びチタン酸アルミニウムと均一に混和させることが容易である。そのため、焼結の際に粒子どうしの融着が均一に行われ、セラミックの組織構造がより安定化される。また、顆粒状の酸化チタンやチタン酸アルミニウムを造粒する際の原料粒との混和も均一に行われ、焼結により硬質な顆粒が造られるので好ましい。
【0026】
粘土を構成する成分は他種存在するが、中でもシリカ、アルミナ、酸化カリウム及び酸化ナトリウムは、いずれも酸化チタン及びチタン酸アルミニウムとなじみやすい性質を有しており、均一に混和させるのに好適である。そして、シリカ、アルミナ、酸化カリウム及び酸化ナトリウムを、全体に対する重量比にして、シリカにおいては40%乃至80%、アルミナにおいては10%乃至40%、酸化カリウムにおいては1%乃至15%、酸化ナトリウムにおいては0%乃至10%の範囲内でそれらの合計が100%を超えない割合で含有する粘土であることが好ましい。このような粘土は天然のものであってもよいし、あるいは、上記のシリカなどの各成分を天然の粘土のように微細かつ均一に粉砕等して造られた焼結助材などであってもよい。
【0027】
顆粒状の酸化チタンと顆粒状のチタン酸アルミニウムとが、その表面どうしの接触界面でガラス性物質により融着されるためには、造粒して顆粒状となった各成分と、粘土や焼結助剤などのガラス性物質とを、焼結の際に混在させることによってもよいし、あるいは、あらかじめ原料粒と粘土等のガラス性物質とを混在させてから造粒し、そのように造粒された顆粒状の各成分を焼結することで、混在した粘土の一部が顆粒の表面に表れて、表面どうしの接触界面を融着するようにしてもよい。
【0028】
なお、ガラス性物質の用い方は、上記の他、例えば、酸化チタンの顆粒化にのみあらかじめ粘土を混在させて、チタン酸アルミニウムの顆粒化にはあらかじめ混在させなくてもよいし、また、その逆としてもよい。また、あらかじめ粘土と原料粒とを混在させて顆粒化する場合であっても、焼結の際に、さらに焼結助剤を用いてもよい。
【0029】
ガラス性物質の添加量は、チタン酸アルミと酸化チタンの総重量に対して5%乃至20%の範囲が好ましい。少なすぎる場合には、顆粒どうしを融着させる働きが低下し、多すぎる場合には、顆粒と顆粒との隙間を過剰に埋めてしまうおそれがあるからである。
【0030】
ここで、ガラスとの離型性の評価について説明する。評価の方法は、酸化チタンとチタン酸アルミニウムとを任意の比率で配合して焼成したセラミックの上に、ガラス片をのせてガラスの溶融温度まで加熱する。溶融したガラスが流れて広がらずに玉のような状態となる場合には、ガラスとの離型性があるものと評価できる。図4に評価結果の一例を示す。図4(a)は酸化チタンの配合比が100%のセラミックの結果であり、図4(b)は、酸化チタンが90%で、チタン酸アルミニウムが10%の割合で配合したセラミックの結果である。いずれの場合も流れて広がることはなく十分な離型性が得られている。なお、異なる配合比による評価も行ったが、配合比率による離型性の相違は認められなかった。
【0031】
図5に、酸化チタンとチタン酸アルミニウムとの配合比率を変化させた場合の組織構造の拡大写真を示す。なお、以下の具体例については、あらかじめ粘土と原料粒とを混在したものを顆粒化して焼結したセラミックを用いている。図5(a)に示したのは、酸化チタンの配合比を100%とした場合のセラミックの組織構造である。図5(b)は、酸化チタンを80%、チタン酸アルミニウムを20%とした場合を示し、図5(c)は、同様に70%、30%とした場合であり、図5(d)は、同様に50%、50%とした場合であり、図5(e)は、同様に40%、60%とした場合であり、図5(f)は、同様に30%、70%とした場合である。図示したように、配合比率を変えても組織構造に大きな相違はなく、顆粒の形が残った状態の組織構造となっている。ガラスとの離型性は、酸化チタン及びチタン酸アルミニウムの顆粒が、顆粒の形を保ち、かつ、顆粒間に一定の隙間を有する組織構造に起因すると考えられることから、配合比の如何に拘わらず、優れたガラスとの離型性が得られることが各図から分かる。
【0032】
図6は、酸化チタンとチタン酸アルミニウムとの配合比率を変えた組織構造のX線回折法による解析結果を示すものである。図示したように、配合比率応じた酸化チタンとチタン酸アルミニウムとがそれぞれ検出されており、この組織構造がそれぞれの物質の単純な混合物であり、何らかの化学反応が生じていないことが分かる。
【0033】
上述したように、本実施形態のセラミック製治具は、顆粒状の酸化チタンと顆粒状のチタン酸アルミニウムとをガラス性物質とともに焼結して製造するものである。製造工程についてより具体的に説明する。酸化チタンとチタン酸アルミニウムにガラス性物質を添加して顆粒化する。そして、金型を用いてプレス成型をし、1000℃以上で7時間程度焼成する。仕上げの加工は、平面研磨機、ボール盤、フライス盤で行う。
【0034】
セラミック治具は、上述したように何らかの仕上げ加工が施される。そこで、仕上げ加工によりガラスとの離型性が影響を受けるかについて実験を行った。図7は、本実施形態に係るセラミック表面の写真と断面曲線を示すものである。断面曲線のグラフは、横軸を走査距離(1目盛、50μm)とし、縦軸を高さ(1目盛、2μm)として示したものである。
【0035】
図7(a)は、酸化チタンの配合比が100%のセラミックを焼結し、表面の加工を施す前の状態を示すものである。図示したように、表面の凹凸がはっきりと表れている。図7(b)は、図7(a)のセラミックを、1μmのアルミナ研磨紙でラッピング仕上げを施したものである。凹凸の高さにおいては幾分滑らかになっているものの、顆粒と顆粒との隙間による凹の深さが残留するため、表面全体としては梨地となっており凹凸が残留する。図7(c)は、上記と同様のセラミックをカッターナイフで切削したものである。この場合も、顆粒間に削られた破片がはまり込んでいるが、表面全体の凹凸は残留している。図7(d)は、チタン酸アルミニウムの配合比率を100%としたセラミックに対して、1μmのアルミナ研磨紙でラッピング仕上げを施した場合の結果を示すものである。
【0036】
ここで、チタン酸アルミニウムは、本来鏡面研磨はほとんどできないという性質を有している。チタン酸アルミニウムは、結晶軸の方向によって熱膨張係数がかなり異なるためミクロ的に大きな内部応力を有している。外力が局部的に加わると靱性を示さず砕けて脱落する。表面急冷法による強化ガラスにキズを付けると、強化ガラスは粉々に割れることはよく知られた現象であり、この現象がミクロ的に起こっているということである。チタン酸アルミニウムが機械加工性に優れる理由はこのように考えられている。この実験においても、この現象は明瞭に表れており、顆粒の一粒一粒の表面が梨地になっている。なお、酸化チタンとチタン酸アルミニウムとの配合比を中間的にした場合においても、加工後もその表面の凹凸状態は残留されていた。
【0037】
図8に、一般的に市販されている酸化チタンのセラミックを用いて、同様のラッピング仕上げを行った結果を示す。このセラミックは繊維用のもので空孔率が0%である。図示するように、凹凸のない鏡面状態となっていることが分かる。このようなセラミックでは、溶融したガラスとの離型性は得られず、また、機械加工性もほとんどない。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るセラミックは、表面の仕上げ加工によっても、顆粒と顆粒との隙間が残留することにより表面の凹凸状態が残留することが分かる。このような特性により、ガラスとの優れた離型性が得られるのである。また、顆粒と顆粒との隙間が残留することにより、適度な空孔が生じることとなり良好な機械加工性が獲得される。
【0039】
図9に実際に製造したセラミック製治具の組織構造を示す。図示するように、顆粒の形が残った組織構造となる。このように顆粒の形が残ることにより治具のセラミックの表面に凹凸が生じ、また、顆粒と顆粒との間に適度な隙間(空孔)が生じることになり、これらが相まって優れた離型性に寄与するのである。
【0040】
酸化チタンとチタン酸アルミニウムの配合比は任意に定めることができる。ここで、酸化チタンは熱膨張率が高く、一方のチタン酸アルミニウムは熱膨張率が極めて低いという特性を有している。そこで、両者の配合比率を調節することで、治具の熱膨張率を任意に定めることができる。その結果、気密端子の製造に用いる金属外枠の熱膨張率に適合する治具を製造することが容易に可能となる。
【0041】
図10に本実施形態のセラミックの温度変化に対する伸びを測定した結果を示す。縦軸は伸びの長さ(×10−3cm)を示し、横軸は温度を示す。熱膨張係数は、温度の上昇に対応して長さが変化する割合であり、酸化チタンの配合比が100%の場合には、その値は9.00(×10−6)となった。熱膨張係数は、チタン酸アルミニウムの配合比が高くなるにつれて小さくなり、その配合比が100%の場合には、−0.5(×10−6)となった。このように、配合比を調節することで、治具の熱膨張係数を、封着に用いる金属材の熱膨張係数と同等にすることができる。例えば、整流器、エアコン、冷蔵庫用の気密端子においては、熱膨張係数の高い鉄や鉄ニッケルが外枠として用いられることが多く、この場合には、酸化チタンの配合比を高くすることで、これらの金属と同等の熱膨張率の治具を製造することができる。また、水晶時計やデジタル機器用の気密端子の外枠として用いられるコバー合金や、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用の気密端子に用いられるタングステンなどは、熱膨張率が比較的低いので、チタン酸アルミニウムの配合比を高めることにより、これらの金属に適合する治具を製造することができる。この点は、従来のグラファイト製治具では得ることのできない効果である。
【0042】
また、水晶振動子用の端子などは直径2mn〜3mn程度の独立した端子が治具で保持されるので、治具と端子の熱膨張差はさほど問題にはならない。しかし、MEMSにおいては、大型シリコンウエハーと同サイズの連結したGTMSの必要が生じており、そうなると直径の両端での熱膨張差は無視できないものとなる。例えば、直径が200mm〜300mmといったサイズのシリコンウエハーにガラス封着を行う場合には、グラファイトに対する利点が顕著となる。グラファイトは層状の結晶構造を有しており、結晶の軸方向によって、熱膨張係数が極端に異なる。そのため、メーカーや品番などにより熱膨張係数はまちまちとなっており、その値としては、3〜6.5×10−6というように開きがある。直径300mmのシリコンウエハーを400℃に加熱した場合を想定してみる。熱膨張係数が4.0×10−6であるシリコンの外径の伸びは0.48mm、熱膨張係数の小さいグラファイト(3×10−6)の場合には0.36mm、熱膨張係数の大きいグラファイトの場合には0.744mmとなる。すなわち、前者との伸びの差は−0.12mmとなり、後者との伸びの差は0.264mmに達する。数分の1mmのズレということになるが、このズレは封着後に治具が外せなくなって製品が割れてしまったり、あるいは、治具が割れてしまうといった事態になる。それに対して、本実施形態のセラミックは、酸化チタンとチタン酸アルミニウムの配合比を調節することで、治具の熱膨張係数を任意に調節することが可能となるので、上記のような事態が生じることがないという優れた利点を備えていることが分かる。
<実施形態1 効果>
【0043】
本実施形態のセラミック製治具により、融着後のガラスとの離型性に優れ、かつ、離型性を維持するための再生処理が不要な治具を提供することができる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0044】
本実施形態は、実施形態1に係るセラミック製治具の空孔度が15%乃至45%であることを特徴とするものでる。空孔度を上記の範囲にすることにより、ガラスとの離型性を維持しつつ、治具の強固性と機械加工性とのバランスに優れるセラミック製治具を実現することが可能となる。
<実施形態2 構成>
【0045】
本実施形態のセラミック製治具は、実施形態1を基本とし、顆粒の間に空孔度にして15%乃至45%の空孔を有する。空孔度とは、材料中の空孔の占める割合をいう。空孔度の測定は、例えば、以下のような工程により行う。
1)セラミックスの体積(縦×横×高さ)(cm3)と重量(g)を測定。
2)セラミックスを沸騰水に投入し、1〜2分間煮沸。
3)沸騰水からセラミックスを取り出し、水中で冷却。
4)冷却後のセラミックスの重量(g)を測定。
5)下記式に測定結果をあてはめ計算。
{空孔度(%)}=[{含水後の重量(g)}−{含水前の重量(g)}]/体積(cm3)
【0046】
既に述べたように、ガラスとの離型性を得るためには、空孔度が高いことが望ましい。しかしながら、空孔度が高すぎると、治具に求められる強固性が低下してしまう。一方、空孔度を低くしすぎると、ガラスとの離型性が失われるとともに、治具に溝や孔を設けるための加工が困難になってしまう。そこで、空孔度を15%乃至45%とすることにより、離型性を維持しつつ、強固性と機械加工性との良好なバランスを得ることが可能となる。
【0047】
焼結の条件を調整することで、セラミックの空孔度を上記の範囲にすることが可能である。焼結は、プレス加工の後に所定の時間をかけて段階的に加熱温度を上昇させて焼き締める。その最高温度を調整することで空孔度を調整することが可能となる。
<実施形態2 効果>
【0048】
本実施形態のセラミック製治具により、ガラスとの離型性を維持しつつ、治具の強固性と機械加工性とのバランスに優れるセラミック製治具を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
0101 金属外枠
0102 金属リード線
0103 ガラス部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顆粒状の酸化チタンと、顆粒状のチタン酸アルミニウムとが、その表面どうしの接触界面でガラス性物質により融着された組織構造を有するセラミック製治具。
【請求項2】
顆粒状の酸化チタン又は/及び顆粒状のチタン酸アルミニウムに混在した粘土を利用してその表面どうしの接触界面が融着されたものである請求項1に記載のセラミック製冶具。
【請求項3】
前記顆粒の間に空孔度にして15%乃至45%の空孔を有する請求項1又は2に記載のセラミック製冶具。
【請求項4】
前記ガラス性物質が、シリカ、アルミナ、酸化カリウム及び酸化ナトリウムを、全体に対する重量比にして、シリカにおいては40%乃至80%、アルミナにおいては10%乃至40%、酸化カリウムにおいては1%乃至15%、酸化ナトリウムにおいては0%乃至10%の範囲内でそれらの合計が100%を超えない割合で含有する粘土であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一に記載のセラミック製治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図5(e)】
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【図5(f)】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図7(c)】
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【図7(d)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−94368(P2012−94368A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240376(P2010−240376)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(301009885)株式会社金山精機製作所 (9)
【Fターム(参考)】