説明

セラミド産生促進剤

【課題】毛髪のハリ、コシの付与及び感触改善作用があるセラミド産生促進剤の提供。
【解決手段】クリシン、テクトクリシン、アピゲニン、フロレチン、トリヒドロキシイソフラバノン、ヘスペリジンからなる化合物群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する毛髪化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミドは、スフィンゴ脂質の構成成分であり、動植物の組織中に微量ではあるが広範囲に存在する。近年、セラミドが生体内において様々な機能を担っていることが明らかになりつつある。例えば、セラミドには、毛髪のハリ、コシの付与及び感触改善作用があることが報告されている(特許文献1参照)。
セラミドの多岐にわたる機能に注目し、組織内でのセラミド量を正常に保つためにセラミドを外部から補給する方法が試みられている。しかしながら、現在のところ必ずしもその効果は十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−152421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高いセラミド産生促進効果を有するセラミド産生促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題に鑑み、セラミド産生促進作用を有する新規な物質を探求すべく鋭意検討を行った。その結果、下記式(1)〜式(6)で表される化合物が高いセラミド産生促進作用を有することを見い出した。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記式(1)〜式(6)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有するセラミド産生促進剤に関する。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
【化5】

【0012】
【化6】

【0013】
式(2)及び式(6)において、Meはメチル基を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セラミド産生促進剤を提供することができる。本発明のセラミド産生促進剤は、例えば皮膚外用剤の形態とすることにより外部からセラミドを供給し、組織内のセラミド量を正常な範囲に保ったり、減少したセラミド量を補うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のセラミド産生促進剤は、下記式(1)で表されるクリシン、下記式(2)で表されるテクトクリシン、下記式(3)で表されるアピゲニン、下記式(4)で表されるフロレチン、下記式(5)で表されるトリヒドロキシイソフラバノン、及び下記式(6)で表されるヘスペリジンからなる化合物群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する。後述の実施例で実証されているように、この化合物は高いセラミド産生促進作用を有する。
【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
前記式(2)及び式(6)において、Meはメチル基を表す。
本発明において、前記式(1)〜式(6)で表される化合物には、その塩が包含される。塩としては特に限定されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン塩及び4級アンモニウム塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン塩、又はリジン、ヒスチジン、アルギニン等のアミノ酸塩などが挙げられる。
【0023】
前記式(1)〜式(6)で表される化合物は、試薬等として市販されているものから入手することができる。市販の試薬としては、例えば、和光純薬工業社製、関東化学社製、フナコシ社製、EXTRASYNTHESED社製、ALDRICH社製のもの等が挙げられる。
【0024】
また、前記式(1)〜式(6)で表される化合物は化学合成により製造することもでき、例えば、種々の芳香環を原料として、付加反応、縮合反応、環化反応、グリコシル化反応などを経て合成することができる。具体的には、Phytochemistry, 19, 921, 1980、Australian Journal of Chemistry, 40, 1705, 1987、Australian Journal of Chemistry (1987), 40(10), 1705、Tetrahedron (2006), 62(5), 841-846などに記載された合成方法を参照して当該化合物を合成することができる。
より具体的な合成法としては、後述の実施例で示す方法を用いることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
前記式(1)〜式(6)で表される化合物は、植物材料から抽出、単離することによって得ることもできる。前記式(1)〜式(6)で表される化合物を単離する方法としては、特に限定されないが、例えば、植物を適当な溶媒を用いて抽出し、得られた植物抽出物からクロマトグラフィー等の手法により前期式(1)〜式(6)で表される化合物を単離する方法が挙げられる。
【0026】
前記式(1)〜式(6)で表される化合物は、後述の実施例で示すように優れたセラミド産生促進作用を有し、この化合物を含有させることでセラミド産生促進剤を得ることができる。本発明のセラミド産生促進剤は、前記式(1)〜式(6)で表される化合物のいずれか1種を含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。前述のように、セラミドには毛髪のハリ・コシの付与及び感触改善作用があることも報告されており、本発明のセラミド産生促進剤は、毛髪にハリ・コシを付与するため、又は毛髪の感触を改善するための化粧品、医薬部外品等の素材としても有用である。
前記式(1)〜式(6)で表される化合物がセラミド産生促進作用を有することは従来全く知られておらず、本発明者等により得られた新しい知見である。
【0027】
本発明において、前記式(1)〜式(6)で表される化合物はそのままセラミド産生促進剤として用いてもよい。又は、その効果に影響を与えない範囲で、前記式(1)〜式(6)で表される化合物に各種添加剤等を加えてもよい。例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えてセラミド産生促進剤として用いてもよい。
組成物とする場合、セラミド産生促進剤中の前記式(1)〜式(6)で表される化合物の量は特に制限されないが、前記式(1)〜式(6)で表される化合物が0.00001〜20質量%含まれるのが好ましく、0.0001〜10質量%程度含まれるのが特に好ましい。
【0028】
本発明のセラミド産生促進剤は、化粧料、医薬部外品に適用することができる。
化粧料や医薬部外品に用いる場合、例えば皮膚外用剤の形態とすることができる。皮膚外用剤の態様で用いる場合、前記式(1)〜式(6)で表される化合物に加えて、上述した各種添加剤やその他の薬効成分を適宜加えることができ、さらには取りうる剤型に応じて皮膚外用剤に通常用いられる各種成分を配合することができる。皮膚外用剤の剤型として、具体的には、クリーム、乳液、ローション、ゲル、軟膏、ペースト、パック、シート状製品等、外用適用可能な種々の剤型が挙げられ、これらの剤型とするにあたって、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、水、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等を配合することができる。また、その他の薬効成分を配合することもできる。このような薬効成分としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム等の他の保湿成分、既知のセラミド産生促進剤、擬似セラミド、天然セラミド、糖セラミド、スフィンゴミエリン、皮膚老化防止剤、美白剤などが挙げられる。
【0029】
既知のセラミド産生促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチルヒドロキシプロリン、グリチルリチン酸カリウム、L-カルニチン、アスコルビン酸、アスコルビルグルコシド、アスコルビルリン酸マグネシウム、dl-α-トコフェリル-dl-アスコルビルリン酸、dl-α-トコフェリルリン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸トコフェロール、L-乳酸、ビタミンC、アスパラガス抽出物、ブッチャーブルーム、ゲンクワニン、ローズマリー、ラベンダー、セージ、ナツメ、黒(赤)霊芝、トウキ、クジン、ヨクイニン、ベニセアンヌ抽出物、ライスパワーエキスなどが挙げられる。
擬似セラミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、市販のセラミドR(ユニリーバ製)、セラミドPC-104(太平洋化学製)、セラミドHO3(sederma製)、エルデュウPS-203(味の素製)などが挙げられる。
糖セラミドとしては、特に限定されるものではないが、グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミド等が挙げられるが、市販のものとしては、ニップンセラミド(日本製粉製)、オリザセラミド(オリザ油化製)、ニッサンセラミド、ネオリキッドセラミドN(日本油脂製)、セラミド(ユニチカ製)等が挙げられる。
化粧料等の皮膚外用剤中の前記式(1)〜式(6)で表される化合物の含有量は、0.00001〜20質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
合成例 前記式(5)で表される化合物の合成
中間体1(1-(4-(benzyloxy)-2-hydroxyphenyl)ethanone)の合成
2、4−ジヒドロキシアセトフェノン10g(65.7mmol)を窒素雰囲気下、1mLナスフラスコに加え、アセトニトリル400mLにて溶解した。塩化ベンジル9.51mL(85.4mmol)、ヨウ化ナトリウム685mg(6.57mmol)、炭酸水素ナトリウム12.1g(144.5mmol)を加え、50℃で4日間、攪拌した。反応溶液をセライト濾過した後、減圧下溶媒を留去した。酢酸エチル200mL、水200mLを加え、分液操作を行ない、有機層を抽出、減圧下溶媒を留去した。ヘキサン150mL、酢酸エチル15mLを加え、60℃にて溶解させ、攪拌しながら空冷した。析出した結晶をろ過し(φ=9.0cm、ろ紙5B)、中間体1を得た。(収量12.7g、収率78.5%)
【0032】
【化13】

【0033】
中間体2(2,4-dibezyloxybenzaldehyde)の合成
2、4−ジヒドロキシベンズアルデヒド10g(65.7mmol)を窒素雰囲気下、500mLナスフラスコに加え、N,N−ジメチルホルムアルデヒド200mLにて溶解した。塩化ベンジル21.9mL(197mmol)、ヨウ化ナトリウム2.85g(19.7mmol)、炭酸カリウム45.4g(328mmol)を加え、50℃で2時間、攪拌した。反応溶液をセライト濾過した後、減圧下溶媒を留去した。酢酸エチル200mL、水200mLを加え、分液操作を行ない、有機層を抽出、減圧下溶媒を留去した。ヘキサン200mL、酢酸エチル20mLを加え、60℃にて溶解させ、攪拌しながら空冷した。析出した結晶をろ過し(φ=9.0cm、ろ紙5B)、中間体2を得た。(収量17.0g、収率85.2%)
【0034】
中間体3(3-(2,4-bis(benzyloxy)phenyl)-7-(benzyloxy)-4H-chromen-4-one)の合成
中間体1 10.7g(44.2mmol)、中間体2 15.6g(48.1mmol)、エタノール450mLを1Lナスフラスコに加え、80℃に加熱、攪拌した。50%水酸化ナトリウム水溶液50mLを徐々に滴下し、30分間還流した。沈殿物を濾過し(φ=9.0cm、ろ紙5A)、0.1M塩酸で洗浄した。ヘキサン80mL、酢酸エチル80mLを加え、60℃にて溶解させ、攪拌しながら空冷した。析出した結晶をろ過し(φ=6.0cm、ろ紙5A)、減圧乾燥した。乾燥固形物8.7g(16.1mmol)を2Lナスフラスコに加え、エタノール870mLに溶解し、50℃に加熱した。硝酸タリウム(III)・3水和物10.7g(24.2mmol)を加え、3時間攪拌した後、3N塩酸9mLを加え、さらに12時間攪拌した。沈殿物を濾過し(φ=6.0cm、ろ紙5B)、ろ液に新たに生じた沈殿物をさらに濾過し(φ=6.0cm、ろ紙5A)、中間体3を得た。(収量4.3g、収率49.8%)
【0035】
式(5)で表される化合物(トリヒドロキシイソフラバノン;2,3-dihydro-7-hydroxy-3-(2,4-dihydroxyphenyl)chromen-4-one)の合成
中間体3 1.0g(1.84mmol)を200mLナスフラスコに加え、アセトン70mLに溶解した。10%パラジウム−炭素250mgを加え、水素雰囲気下、室温にて12時間攪拌した。反応溶液をセライトろ過し、減圧下溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー50g(トルエン:アセトン=2:1)にて精製し、無色固体としてトリヒドロキシイソフラバノンを得た。(収量252mg、収率48.2%)
【0036】
得られた化合物は1H-NMR、13C-NMRにより構造を確認した。
1H-NMR (acetone-d6,,600MHz)δ4.14(1H,dd,J=9.9Hz,5.2Hz),4.54(1H,dd,J=11.3Hz,5.2Hz),4.68(1H,dd,J=11.3Hz,9.9Hz),6.33(1H,dd,J=8.3Hz,2.4Hz),6.42(1H,d,J=2.4Hz),6.44(1H,d,J=2.4Hz),6.60(1H,dd,J=8.4Hz,2.4Hz),6.95(1H,d,J=8.6Hz),7.89(1H,d,J=8.6Hz)
13C-NMR (acetone-d6,125MHz)δ47.67,71.68,103.45,103.77,107.75,111.28,114.59,115.61,130.15,131.30,157.19,158.73,164.70,165.11,191.69
【0037】
(試験例)セラミド産生促進効果の検証
前記式(1)〜(6)で表される化合物を用いて、下記の手順によりセラミド産生促進作用を評価した。なお、前記式(5)で表される化合物は上記で合成したものを、前記式(1)〜(4)及び(6)で表される化合物は試薬を用いた。詳細を以下に示す。
前記式(1)で表される化合物(関東化学社製、クリシン)
前記式(2)で表される化合物(EXTRASYNTHESED社製、テクトクリシン)
前記式(3)で表される化合物(関東化学社製、アピゲニン)
前記式(4)で表される化合物(和光純薬工業社製、フロレチン)
前記式(6)で表される化合物(関東化学社製、ヘスペリジン)
【0038】
また、比較用化合物として、ルテオリン(関東化学社製)、7−メトキシフラボン(ALDRICH社製)、6−メトキシフラボン(フナコシ社製)、ナリンゲニン(関東化学社製)、ヘスペレチン(関東化学社製)、バイカレン(ALDRICH社製)、ケルセチン(関東化学社製)、ゲニステイン(CALBIOCHEM)及びイソリキリチゲニン(フナコシ社製)を用いて同様の評価を行った。これらの比較用化合物の構造を以下に示す。
【0039】
【化14】

【0040】
培養プレートを用い、培養液(商品名:EpiLife-KG2、KURABO社製)中にて、正常ヒト表皮角化細胞(商品名:NHEK(F)、KURABO社製)を37℃、5%CO2で培養した。
その後、培養液を上皮成長因子などの増殖因子を除いたEpiLife-KG2に換え、評価サンプル(式(1)〜(6)の化合物、比較用化合物)の濃度を5mM、2mM、1mMとなるようにそれぞれ調製したもの、又はコントロール溶液(50%エタノール)を、0.1%量添加した。
3日間培養した後、各々の細胞を1wellごと回収した。
【0041】
回収した細胞からBligh and Dyer法により脂質を抽出した有機相をガラス管に移し、窒素乾固した後、クロロホルム、メタノールで再溶解し、脂質サンプルとした。
また、脂質を抽出した後の細胞に0.1N NaOH、1%SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱することにより、タンパク質を可溶化し、室温まで冷却した後2N HClを加えて中和し、タンパク量をBCA法により定量した。
【0042】
調製した脂質サンプルを薄膜クロマトグラフィー(TLC)でクロロホルム:メタノール:酢酸=190:9:1で2回水平展開した。硫酸銅液をスプレーで噴霧し、ホットプレートで焼き付けセラミドを検出し、セラミド量とした。
結果を表1に示す。なお、表1に示すセラミド量は、コントロール溶液添加群を1とした場合の相対値を示している。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかなように、前記式(1)〜式(6)で表される化合物を添加した系においては、コントロールの系に比べてセラミド産出量が上昇していることが認められた。したがって、前記式(1)〜式(6)で表される化合物を有効成分として含有する本発明のセラミド産生促進剤は、セラミド産生を促進することができることがわかる。
【0045】
(処方例1)
下記表2の組成を有するヘアローション(No.1〜6)を、それぞれ常法により製造した。
【0046】
【表2】

【0047】
(処方例2)
下記表3の組成を有するヘアトリートメント(No.11〜16)を、それぞれ常法により製造した。
【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜式(6)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有するセラミド産生促進剤。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(式中、Meはメチル基を表す。)

【公開番号】特開2011−231058(P2011−231058A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103653(P2010−103653)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】