説明

セルロースの分解方法及びセルロース分解用カーボン系固体酸触媒

【課題】セルロースを迅速に分解することのできるセルロースの分解方法、及びそれに用いるカーボン系固体酸触媒を提供すること。
【解決手段】本発明のセルロースの分解方法では、セルロースと水との混合物にスルホ基で化学修飾されたカーボンからなるカーボン系固体酸触媒を存在させて該セルロースを加水分解させる際、ハメット酸度関数がマイナス15以上マイナス11未満のカーボン系固体酸触を用いる。また、本発明のセルロース分解用カーボン系固体酸触媒は、スルホ基で化学修飾されたカーボンからなるセルロース分解用カーボン系固体酸触媒であって、ハメット酸度関数がマイナス15以上マイナス11未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホ基で化学修飾されたカーボンからなるカーボン系固体酸触媒を用いたセルロースの分解方法及びそれに用いるカーボン系固体酸触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースの加水分解のための酸触媒として硫酸が良く知られている。しかし、硫酸は液体であり、反応液中に溶解するため、使用後の反応液から硫酸を回収することは困難である。このため、中和処理等の廃水処理に多大な処理を要して問題となる。また、硫酸は腐食性が高いため、プラントの配管の腐食防止等のメンテナンスにかかる費用も大きいという問題もある。
【0003】
この点、固体酸触媒は、反応塔内に固体酸触媒を充填し、反応搭の上から基質溶液を流して下から反応液を回収したり、バッチ処理によって基質溶液と固体酸触媒とを混合した後、ろ過等によって使用した固体酸触媒を回収したりすることができるため、リサイクル使用が容易であり、廃棄物の問題も少ない。現在、様々な分野で固体酸が使われているが、これらはシリカ−アルミナ触媒やゼオライトやヘテロポリ酸触媒等の無機系の固体酸触媒と、スルホ基等の酸官能基を有するイオン交換樹脂からなる有機系の固体酸触媒とに大別できる。
【0004】
しかし、無機系の固体酸触媒は、水中で充分な酸触媒活性示す材料は少なく、またその酸点の密度は低いという欠点を有する。一方、スルホ基で化学修飾した架橋ポリスチレンのような、強酸性イオン交換樹脂は、酸点の密度は高いが、その触媒活性は硫酸よりかなり小さく、耐熱性も低いという欠点を有する。また、無機系の固体酸触媒及び有機系の固体酸触媒は、ともに製造に要するコストが高いという問題があった。
【0005】
こうした状況下、最近、安価な原料から容易に製造することができ、触媒としての機能も硫酸に匹敵する固体酸触媒として、カーボン系固体酸触媒が注目を集めている。例えば、非特許文献1では、セルロースやデンプン等の安価な原料を300℃以上に加熱して炭化させ、微小なカーボンシートとした後、これをスルホン化処理することにより容易にカーボン系固体酸触媒を得ている。しかも、こうして得られたカーボン系固体酸触媒は、スルホ基が高い密度で結合しており、大量の親水性分子をそのバルク内に取り込むことができる。このため、バルク内を反応場とすることができ、親水性分子を反応基質とした酸触媒反応、あるいは親水性分子を溶媒とした酸触媒反応に高い触媒活性を示す。このため、セルロースのモデル化合物としてグルコースがβ1,4 グリコシド結合で6個つながったセロヘキサオースの加水分解反応に用いた場合、ニオブ酸等の無機固体酸や、ナフィオン(登録商標)、カチオン交換樹脂等の高分子固体酸触媒と比較して、きわめて優れた触媒活性を有することが示されている(非特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/032188
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Hara,et.al Nature,438,(2005)
【非特許文献2】Journal of American Chemical Society 130,12787-12793 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボン系固体酸触媒を用いたセルロースの分解において、セルロースを迅速に分解することのできるセルロースの分解方法、及びそれに用いるカーボン系固体酸触媒を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、セルロースのモデル化合物としてグルコースがβ1,4 グリコシド結合で6個つながったセロヘキサオースを選び、このセロヘキサオースの加水分解反応におけるカーボン系固体酸触媒のハメット酸度関数と、触媒活性の大きさとの関係を調べた。ハメット酸度関数は、固体酸、高濃度溶液、混合溶媒系、超酸等、水素イオン指数(pH)の測定が困難な場合であっても酸の強度を表すことができる。このため、酸性度の強い固体酸であるカーボン系固体酸触媒の酸強度の尺度としては、ハメット酸度関数が適切であり、この値が負側に大きいほど酸が強いこととなる。
【0010】
ところが、セロヘキサオースの分解にはハメット酸度関数の最適な範囲が存在しており、その範囲よりも小さくても大きくても分解活性は上がらないという予想外の結果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のセルロース分解方法は、スルホ基で化学修飾されたカーボンからなるカーボン系固体酸触媒を用いたセルロース分解方法であって、前記カーボン系固体酸触媒は、ハメット酸度関数がマイナス15以上マイナス11未満のカーボン系固体酸触であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のセルロース分解用カーボン系固体酸触媒は、スルホ基で化学修飾されたカーボンからなるセルロース分解用カーボン系固体酸触媒であって、ハメット酸度関数がマイナス15以上マイナス11未満であることを特徴とする。スルホ基で化学修飾されたカーボンは、有機物を加熱等により分解することにより容易に得ることができる。
【0013】
本発明のセルロース分解方法及び本発明のセルロース分解用カーボン系固体酸触媒において、カーボン系固体酸触媒のハメット酸度関数の好ましい値はマイナス14.5以上マイナス11.5未満であり、さらに好ましい値はマイナス14以上マイナス12未満である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】スルホン化多孔性カーボンの製造工程図である。
【図2】試験例1〜7のカーボン系固体酸触媒のセロヘキサオース分解活性を示すグラフである。
【図3】試験例1〜3、5,7のカーボン系固体酸触媒のハメット酸度関数とセロヘキサオース分解活性との関係を示すグラフである。を示すグラフである。
【図4】熱分解工程S4における熱処理温度とハメット酸度関数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセルロースの分解方法では、カーボン系固体酸触媒を用いる。ここで、カーボン系固体酸触媒の種類については特に限定はなく、例えば、有機物を炭化処理してなるカーボンをスルホン化処理して得られるスルホン化カーボンが挙げられる。炭化処理としては、例えば、有機物を不活性ガスや窒素ガス中で加熱処理するなどにより行われる。また、スルホン化処理の方法についても特に制限はないが、例えば、有機物を炭化処理した炭化物に、硫酸や発煙硫酸を加えて加熱して行う。なお、炭化処理における加熱時に硫酸や発煙硫酸を同時に存在させて、炭化処理とスルホン化処理を同時に行ってもよい。
【0016】
以下に、カーボン系固体酸触媒の製造方法についての具体例を挙げる。
(1)レゾルシノールとホルムアルデヒドとの重合物を加熱により炭化処理して炭素多孔体とした後、発煙流酸によってスルホン化処理した多孔性のカーボン系固体酸触媒。
(2)メソポーラスシリカにグルコース水溶液を加えて乾燥後、加熱によって炭化処理し、さらに硫酸あるいは発煙硫酸でスルホン化処理することにより、メソポーラスシリカ上にスルホン酸基導入無定形炭素を存在させた、多孔性のカーボン系固体酸触媒。
(3)グルコース等の糖類や、セルロースやデンプン等の多糖類を加熱によって炭化処理し、これをスルホン化処理したカーボン系固体酸触媒。
(4)活性炭をスルホン化処理したカーボン系固体酸触媒。
【0017】
以下、本発明を具体化した実施例について詳述する。
<カーボン系固体酸触媒の調製>
試験例1〜7のカーボン系固体酸触媒を以下に示す方法により調製した。
(試験例1〜4)
試験例1〜4では、以下の工程を経てスルホ基で化学修飾されたスルホン化多孔性カーボンを得た。
【0018】
・重合工程S1
図1に示すように、重合工程S1としてレゾルシノール4gとホルムアルデヒド37%水溶液5.5mlと水16mlと炭酸ナトリウム99.5%粉末0.019gとを混合し、3時間撹拌を行った後、25°Cで24時間、50°Cで24時間、90°Cで72時間エージングすることにより、有機湿潤ゲルを得た。
【0019】
・溶媒置換工程S2
そして、溶媒置換工程S2として、上記有機湿潤ゲルをアセトンで5回洗浄した後、スラリーをケーキ層型とした。
【0020】
・超臨界乾燥工程S3
さらに、超臨界乾燥工程S3として、溶媒置換されたゲル粉末をステンレス製の圧力容器に入れ、COを導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCOを排出させることによって、COを気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行い多孔性重合物を得た。
【0021】
・熱分解工程S4
そして、熱分解工程S4として、上記多孔性重合物を電気炉内に入れ、窒素雰囲気下、所定の温度(実施例1は400℃、実施例2は450℃、実施例3は550℃、実施例4では600℃)で4時間の加熱を行った後、冷却して実施例1〜実施例4の多孔性炭化物を得た。
【0022】
・スルホン化工程S5
そして、スルホン化工程S5として、上記多孔性炭化物をビーカーに入れ、発煙硫酸を加え、80℃で10時間のスルホン化処理を行う。
【0023】
・洗浄・乾燥工程S6
最後に、洗浄・乾燥工程S6として、吸引ろ過し、熱水で充分に洗浄した後、乾燥させて、試験例1〜試験例4の多孔性のカーボン系固体酸触媒を得た。
【0024】
(試験例5)
試験例5は、市販の活性炭(和光純薬製)を原料とし、上記スルホン化工程S5及び洗浄・乾燥工程S6を施して得た、多孔性のカーボン系固体酸触媒である。
【0025】
(試験例6)
試験例6は、市販のメソポーラスシリカ(Sigma Aldrich製)を原料とし、上記スルホン化工程S5及び洗浄・乾燥工程S6を施したものである。
【0026】
(試験例7)
試験例7のスルホン化処理炭化物は、市販のセルロース粉末(Merck製 微結晶セルロース 商品名:アビセル)を原料とし、450℃で熱分解工程S4を行い、スルホン化工程S5及び洗浄・乾燥工程S6を施して得た。
【0027】
<セロヘキサオース分解活性の測定>
上記試験例1〜7のカーボン系固体酸触媒について、セロヘキサオース分解活性を測定した。測定方法は上記非特許文献2に記載されている方法に準拠して行った。すなわち、フッ素樹脂からなる試験管にスルホン化カーボン0.3gと、セロヘキサオース5.25mgと、水0.7〜1.8g(試験例1では0.7g、試験例2では1.1g、試験例3では1.8g、試験例4では1.8g、試験例5では0.9g、試験例6では1.8g、試験例7では0.7g)とを入れ、フッ素樹脂製の穴を開けたゴム栓で栓をし、試験管の上部周縁に冷却水を流した冷却ゴム管接触させることによって蒸発した水を還流させながら、試験管の下部をオイルバスに浸漬し90℃に加温した。加熱時間は3時間とし、加熱の間はゴム栓の穴からフッ素樹脂製の棒を挿入し、撹拌を行った。
反応終了後、反応液をフィルターで濾過し、液体クロマトグラフィーで分離し、ピーク強度からセロヘキサオースの反応率を求め、分解活性を算出した。
【0028】
<ハメット酸度関数の測定>
上記試験例1〜7のカーボン系固体酸触媒について、松橋らの手法(H.Matsuhashi et al.,J.Phys.Chem.B.105,9669(2001))に基づき、アルゴン吸着熱を測定し、経験式を用いてハメット酸度関数へ変換した。
【0029】
各試験例におけるセロヘキサオースに対する分解活性を図2に示す。この図から、セロヘキサオースに対する分解活性は、試験例2>試験例3>試験例7>試験例1>試験例5の順であり、試験例4、6は活性が低いことが分かった。
また、ハメット酸度関数とセロヘキサオース分解活性との関係をプロットしてみたところ、図3に示すように、カーボン系固体酸触媒の原料によらず、ハメット酸度関数がマイナス15以上マイナス11未満の範囲でセロヘキサオース分解活性が高く、−13付近でセロヘキサオース分解活性が極大となることが分かった。
【0030】
ハメットの酸度関数を所定の値となるように制御する方法としては、原料の選択の他、原料の炭化温度、炭化時間、スルホン化処理温度や処理時間などを変えること等が挙げられる。具体例として、上記熱分解工程S4における熱処理温度とハメット酸度関数との関係を図4に示す。この図から、熱分解温度S4における温度を変えることによって、ハメット酸度関数を制御できることが分かる。
【0031】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
S1…重合工程
S2…溶媒置換工程
S3…超臨界乾燥工程
S4…熱分解工程
S5…スルホン化工程
S6…洗浄・乾燥工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースと水との混合物にスルホ基で化学修飾されたカーボンからなるカーボン系固体酸触媒を存在させて該セルロースを加水分解させるセルロースの分解方法であって、
前記カーボン系固体酸触媒のハメット酸度関数はマイナス15以上マイナス11未満であることを特徴とするセルロースの分解方法。
【請求項2】
スルホ基で化学修飾されたカーボンからなるセルロース分解用カーボン系固体酸触媒であって、
ハメット酸度関数がマイナス15以上マイナス11未満であることを特徴とするセルロース分解用カーボン系固体酸触媒。
【請求項3】
前記スルホ基で化学修飾されたカーボンは、有機物を分解して得られたカーボンであることを特徴とする請求項2記載のセルロース分解用カーボン系固体酸触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−213634(P2011−213634A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82093(P2010−82093)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】