説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】従来よりも高速でレタデーション値Reが低いフィルムを製造する。
【解決手段】ドープをドラム上に流延して、ドラムにより流延膜を冷却して固化する。流延膜を溶媒が含まれた状態のフィルム62として剥ぎ取る。剥ぎ取ったフィルム62をテンタ64に案内する。テンタ64では、フィルムの両側端部をピンで保持して幅方向に拡げながら、送風ダクトからの乾燥風で乾燥する第1乾燥工程と、この第1乾燥工程の後に、フィルム62を幅方向に張力付与しながら乾燥する第2乾燥工程とを実施する。そして、(ピンの走行速度)/(ドラムの回転速度)で求める第1比率と、L2/L1で求める第2比率と、L3/L2で求める第3比率とが、0.94≦(第1比率)/{(第2比率)・(第3比率)}≦0.97を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムの製造方法に関し、特に、高輝度の液晶ディスプレイ等に用いるセルロースアシレートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに対する要求性能は近年ますます高くなっており、中でも、使用環境下で光学特性が変化してしまうという問題に対して改善が要求されている。液晶ディスプレイは、複数のポリマーフィルムが重ねられた構造とされており、ポリマーフィルムにおけるポリマー分子の配向度が大きいほど、液晶ディスプレイの使用環境の変化に応じた光学特性の変化の度合いが大きくなってしまう。
【0003】
また、液晶ディスプレイの市場は急激に大きくなっており、ポリマーフィルムの製造設備の増設が需要量の増大に追いつかないほどとなっている。そこで、既存設備を用いて増産する方法が必要となる。液晶ディスプレイ中に使われるセルロースアシレートフィルムの製造方法としては、優れた光学特性を発現させ易いことから、溶液製膜方法が一般的となっており、生産速度をよりアップさせるために、流延膜を冷却して固化を早めてゲル状にし、剥ぎ取るいわゆる冷却流延法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−306025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷却流延法では、生産速度を上げるにつれて、乾燥工程で搬送方向に付与する張力をより強くしなければならなくなる。これは、冷却流延法においては、流延膜を乾燥させて剥ぎ取る方法に比べて溶媒を非常に多く含む状態で支持体から剥ぎ取るために、搬送すべきフィルムの自己支持性が非常に低く、そのため積極的に搬送方向に張力を加えなければたるんで搬送ができないという理由に基づく。そして、搬送方向における張力が強ければ強いほど、セルロースアシレート分子の搬送方向への配向が強まり、セルロースアシレートフィルムの面内レタデーションReの湿度依存性が大きくなってしまう。
【0005】
なお、周知のように、フィルムのレタデーション値には、面内レタデーションReと厚み方向レタデーションRthとがあり、それぞれ下記の式(1)と式(2)とによりそれぞれ求めることができる。ここで「面内」とは、フィルムの面方向、すなわち、フィルムの厚み方向とは垂直な面の方向である。
式(1) Re=(nx−ny)×d
(ここで、式中のnxは、フィルム面内の遅相軸方向における屈折率であり、nyは進相軸方向における屈折率であり、dはフィルムの厚み(nm)を示す。)
式(2) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(ここで、nzは厚み方向における屈折率である。)
【0006】
そして、セルロースアシレートフィルムのReの湿度依存性が大きいほど、このフィルムが使われた液晶ディスプレイの光学特性の変化の度合いが大きくなってしまう。特に、使用されているセルロースアシレートフィルムのReの湿度依存性が大きいほど、液晶ディスプレイの光学特性の湿度依存性が大きくなってしまうという問題がある。なお、Reの湿度依存性が大きいとは、|(低湿でのRe)−(高湿でのRe)|の式で求められる値が大きいということである。
【0007】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、Reの湿度依存性を低減したセルロースアシレートフィルムを、従来よりも高速で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを、冷却されたドラムの周面上に流延ダイから連続して流出して流延膜とし、前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥してセルロースアシレートフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、流延膜を冷却により固化してドラムから湿潤フィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、湿潤フィルムの両側端部を保持する保持手段により湿潤フィルムを幅方向に拡げながら、乾燥手段により乾燥する第1乾燥工程と、この第1乾燥工程の後に、湿潤フィルムの両側部を保持して幅方向に張力を付与しながら乾燥する第2乾燥工程と、を有し、第1乾燥工程で拡げる前の幅をL1、拡幅した後の幅をL2、前記第2乾燥工程の終了時における幅をL3とするときに、(前記保持手段の走行速度(単位;m/分))/(前記ドラムの回転速度(単位;m/分))で求める第1比率と、L2/L1で求める第2比率と、L3/L2で求める第3比率とが、0.94≦(第1比率)/{(第2比率)・(第3比率)}≦0.97を満たすことを特徴として構成されている。
【0009】
前記湿潤フィルムの溶媒残留率が50%に達するまでに前記第1乾燥工程を終えることが好ましく、前記第3比率が、0≦(L3/L2)×100≦10を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
Reの湿度依存性を低減したセルロースアシレートフィルムを、従来よりも高速で製造することができ、既存設備での生産量をアップさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0012】
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0013】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0014】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0015】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0016】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0017】
ドープの原料とするセルロースアシレートは、その90重量%以上が粒径0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0018】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0019】
また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0020】
ドープを製造するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散媒に分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0021】
TACの溶媒としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0022】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0023】
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造設備を示す。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、セルロースアシレートを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒とセルロースアシレートと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21からの混合液16をろ過するろ過装置22と、ろ過装置22からのドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するためのろ過装置27とを備える。そしてドープ製造設備10には、さらに、溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられてある。そして、このドープ製造設備10は、ストックタンク32を介して溶液製膜設備40に接続される。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられるが、これらが配される位置及びポンプ数の増減については適宜変更される。
【0024】
ドープ製造設備10によりドープ24は以下の方法で製造される。バルブ37を開とすることにより、溶媒は溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、セルロースアシレートがホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、セルロースアシレートは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。
【0025】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
【0026】
前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、溶媒、セルロースアシレート、添加剤であったが、この順番に限定されない。また、添加剤は必ずしも混合タンク17でセルロースアシレート及び溶媒と混合することに限定されず、後の工程でセルロースアシレートと溶媒との混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0027】
混合タンク17には、その外表を覆い、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52が取り付けられていることが好ましい。混合タンク17は、ジャケット46の内側に流れ込む伝熱媒体により温度調整され、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、セルロースアシレートが溶媒により膨潤した混合液16を得る。第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0028】
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示せず)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケットとを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示せず)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒に溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を0℃〜97℃となるように加熱することが好ましい。
【0029】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法によりセルロースアシレートを溶媒に十分溶解させることが可能となる。
【0030】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。ろ過流量は、50リットル/hr.以上であることが好ましい。
【0031】
ろ過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0032】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、セルロースアシレートの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されてろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0033】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0034】
以上の製造方法により、セルロースアシレート濃度が5重量%〜40重量%であるドープ24を製造することができる。セルロースアシレート濃度は15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の濃度は、固形分全体に対して1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0035】
なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0036】
[フィルム製造設備及び方法]
図2は溶液製膜設備40を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備40に限定されるものではない。溶液製膜設備40には、ストックタンク32から送られてくるドープ24から異物を除去するろ過装置61と、このろ過装置61でろ過されたドープ24を流延してセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)62とする流延室63と、フィルム62の両側端部を保持してフィルム62を搬送しながら乾燥するテンタ64と、フィルム62の両側端部を切り離す耳切装置67と、フィルム62を複数のローラ68に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室69と、フィルム62を冷却するための冷却室71と、フィルム62の帯電量を減らすための除電装置72と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対73と、フィルム62を巻き取る巻取室76とが備えられる。
【0037】
ストックタンク32には、モータ77で回転する攪拌機78が取り付けられており、攪拌機78の回転によりドープ24が撹拌される。そしてポンプ80によりストックタンク32中のドープ24はろ過装置61に送られる。
【0038】
流延室63には、ドープ24を流出する流延ダイ81と、周面にドープ24が流延される支持体としての流延ドラム82とを備える。
【0039】
流延ダイ81の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルム62の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ81の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が流延ダイ81に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ81には、流出するときのビードの厚みを調整するために、流延ダイ81のスリットの隙間を調整する厚み調整ボルト(ヒートボルト)が幅方向に所定の間隔で複数備えられることが好ましく、ヒートボルトが自動厚み調整機構により制御されることが好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)81の送液量に応じて制御され、スリットの隙間のプロファイルが設定される。ドープ24の送り量を精緻に制御するために、ポンプ80は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、溶液製膜設備40には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、フィルム62の厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム62の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ81を用いることが好ましい。
【0040】
ドープ24が流延ダイ81のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に液体を供給するための液体供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。液体が供給される位置は、流延ビードの両側端部とリップ先端の両側端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される液体の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。この場合の液体は、ドープ24と溶け合う液体または固化したドープ24を溶かす液体であり、ドープ24の溶媒と同じ処方であってもよい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜24a中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0041】
流延ダイ81の下方のドラム82は、駆動手段(図示せず)により回転する。ドラム82の周面の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲であることが好ましい。
【0042】
ドラム82には、伝熱媒体をドラム82の内部に供給してドラムの表面温度を制御する伝熱媒体循環装置87が備えられる。ドラム82の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、ドラム82の周面の温度が所定の値に保持されるものとなっている。ドラム82の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
【0043】
ドラム82に代えて、回転ローラ(図示せず)とこの回転ローラに支持されて搬送されるバンド(図示せず)とを用い、このバンドを流延用の支持体として用いることもできる。ドラム82は、回転速度むらが所定の回転速度の0.2%以内となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がクロムメッキ処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、ドラム82は、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0044】
流延ダイ81の近傍には、減圧チャンバ90が備えられる。減圧チャンバ90は、流延ダイ81からドラム82にかけて形成される流延ビードの、ドラム82回転方向における上流側のエリアの空気を吸って減圧する。
【0045】
流延室63には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置97と、ドープ24及び流延膜24aから蒸発した溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98とが設けられる。そして、凝縮液化した溶媒を回収するための回収装置99が流延室63の外部には設けられてある。
【0046】
流延室63からテンタ64に至る渡り部101には、送風機(図示せず)が備えられてもよい。また、耳切装置67には、切り取られたフィルム62の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ103が備えられる。
【0047】
乾燥室69には、フィルム62から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置106が取り付けられてある。乾燥室69の下流には冷却室71が設けられており、乾燥室69と冷却室71との間にフィルム62の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けられてもよい。除電装置72は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、フィルム62の帯電圧を所定の範囲となるように調整する。除電装置72の位置は、冷却室71の下流側に限定されない。ナーリング付与ローラ対73は、フィルム62の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。巻取室76の内部には、フィルム62を巻き取るための巻取ロール107と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ108とが備えられている。
【0048】
次に、溶液製膜設備40によりフィルム62を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ24は、ストックタンク32に送られ、この中で攪拌機78の回転により常に均一にされる。これにより、流延に供されるまで、固形分の析出や凝集が抑制される。ドープ24には、この攪拌の際にも各種添加剤を適宜混合させることができる。そして、ろ過装置61でのろ過により、所定粒径以上のサイズの異物やゲル状の異物を取り除く。
【0049】
ろ過された後のドープ24は、伝熱媒体により冷却されたドラム82に流延ダイ81から流延される。流延時におけるドープ24の温度は30〜35℃の範囲で一定、ドラム82の表面温度は−10〜10℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室63の温度は、温調装置97により10℃〜30℃とされることが好ましい。なお、流延室63の内部で蒸発した溶媒は回収装置99により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0050】
流延ダイ81からドラム82にかけては流延ビードが形成され、ドラム82上には流延膜24aが形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ90で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ90にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。また、流延ビードを所望の形状に保つために、流延ダイ81のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。この吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
【0051】
流延膜24aをドラム82で冷却することによりゲル状にし、固化させる。そして、流延膜24aが自己支持性をもつようになったら、剥取ローラ109で支持しながらドラム82から剥ぎ取る。剥ぎ取りは、流延膜aの溶媒残留率の高低に関わらず、流延膜24aが搬送に十分な硬さとなっていれば行うことができる。生産効率を考慮すると、溶媒残留率が高くても十分に硬くなるように冷却を行うことが好ましく、冷却により流延膜24aの露出面が十分に固まったならば、流延膜24aの近傍に乾燥空気を流す等の手段を講じることにより、剥ぎ取り後の搬送安定性をより向上することができる。生産速度を50m/分以上の高速とする場合には、溶媒残留率が250%以上でも剥ぎ取りが可能なように冷却を急速に行うことが好ましい。ドラム82の温度をより低く設定することができない場合には、急速冷却に代わってドラム82の大型化を図らねばならないことがある。また、溶媒残留率が300%よりも高い場合には、流延膜24aを冷却しても搬送するに十分な硬さにするには難しい。以上のことから、剥ぎ取り時における流延膜24aの溶媒の重量は、固形分の重量を100%としたときに250%以上300%以下であることが好ましい。つまり、本発明において溶媒残留率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜24aの重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。なお、以下の説明において、剥ぎ取り時における溶媒残留率をWとする。
【0052】
湿潤フィルム、つまり溶媒を含んだ状態のフィルム62は、テンタ64に送られる。テンタ64に送られたフィルム62は、その両端部がピンにより保持されて、ピンの走行により搬送される。そしてフィルム62は搬送されながらテンタ64内に設けられた送風ダクト65からの乾燥風により乾燥される。
【0053】
フィルム62は、テンタ64で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、その両側端部が耳切装置67により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ103に送られる。クラッシャ103により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0054】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム62は、乾燥室69に送られて、さらに乾燥される。乾燥室69では、フィルム62はローラ68に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室69の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、乾燥室69は、送風温度を変えるために、フィルムの搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置67と乾燥室69との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム62を予備乾燥すると、乾燥室69でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室69でのフィルム62の形状変化を抑制することができる。乾燥室69で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置106により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室69の内部に乾燥風として再度送られる。
【0055】
フィルム62は、冷却室71で略室温にまで冷却される。なお、乾燥室69と冷却室71との間に調湿室を設ける場合には、調湿室では所望の湿度及び温度に調整された空気をフィルム62に吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム62のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良を抑制することができる。
【0056】
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルムを巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0057】
除電装置72により、フィルム62が搬送されている間の帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、フィルム62は、ナーリング付与ローラ対73によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0058】
フィルム62は、巻取室76の巻取ロール107で巻き取られる。プレスローラ108で所望のテンションをフィルム62に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られるフィルムの長さは100m以上とすることが好ましい。巻き取られるフィルム62の幅は600mm以上であることが好ましく、1400〜2500mm以下であることが好ましい。しかし、2500mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。また、本発明は、厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0059】
本発明では、ドープ24を流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一方の厚さが、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0060】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載は本発明に適用することができる。
【0061】
図3は、テンタ64の内部の概略図である。テンタ64の内部には、フィルム62の搬送路に沿って、フィルム62の両側端部の位置に、多数のピン121を有するピンプレート122と、この多数のピンプレート122が取り付けられた無端で走行するチェーン123とチェーンの軌道を決定するレール125と、乾燥装置(図2の符号65参照)とが備えられる。そして、レール125にはシフト機構126が備えられる。テンタ64に送り込まれたフィルム62は、所定の位置に達すると、両側端部にピン121が差し込まれて保持される。シフト機構126は、レール125をフィルム62の幅方向に移動させ、これによりチェーン123は移動する。チェーン123上のピンプレート122は、フィルム62を保持した状態でフィルム62の幅方向に移動し、フィルムは幅方向に張力が付与される。
【0062】
流延ドラム82から剥ぎ取った直後のフィルム62は、多量の溶媒を含んでおり非常に不安定であるために、ローラで搬送するのが困難である他、クリップによる把持にも耐えることができない。そこで、本実施形態のように、ピンでフィルム62の両側端部を突き刺すと、フィルム62を安定的に保持して搬送することができる。
【0063】
図4は、テンタ64におけるフィルム62の説明図である。矢線Yは、フィルム62の搬送方向である。テンタ64において、ピンによるフィルム62の保持を開始する位置を第1位置P1、保持を解除する位置を第2位置P2とする。なお、テンタ64の入口は第1位置P1よりも上流側、出口は第2位置よりも下流側にあるが、図4においては図示を略す。
【0064】
ドラムから剥ぎ取られたフィルム62からは、徐々に溶媒が蒸発し、溶媒残留率は、剥ぎ取り時の溶媒残留率Wよりも低くなる。溶媒残留率が(W−5)%となる位置を第3位置P3とし、溶媒残留率が50%となる位置を第4位置P4とする。
【0065】
テンタ64では、フィルム62を矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。そして、フィルム62をピンで幅方向に拡げながら、乾燥風で乾燥する第1乾燥工程と、この第1乾燥工程の後に、フィルム62をピンで保持して幅方向に張力を付与しながら乾燥する第2乾燥工程とが実施される。フィルム62は、テンタ64において、矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加えずにいると、自重で弛んだり、溶媒の蒸発に伴い幅方向X1,X2に収縮したりする。そこで、弛みを防ぐ目的の他、本発明ではReの湿度依存性を小さくしたフィルムを製造するために、フィルム62を幅方向X1,X2に張力を加える。張力は、フィルム62の幅方向における中心に関して対称に、フィルム62に付与されることが好ましい。分子配向の制御を、フィルム62の幅方向で均等に行うためである。
【0066】
張力を加えることにより、テンタ64に入った時に幅L1(以後、第1幅と称する)であったフィルム62の幅をL2(以後、第2幅と称する)に大きくする。この幅L2は、この後変わらないように保持されてもよいが、幅L2を小さくする方がより好ましい。幅L2としたフィルム62の幅を小さくする場合には、小さくした後の幅をL3(第3幅)とする。第2幅L2を保持する場合も、第2幅L2から第3幅L3に幅を小さくする場合もフィルム62には幅方向X1,X2に張力が付与される。小さくする場合には、ピンで保持しない場合に自然に収縮するというフィルム62の収縮力を利用して、この収縮力とピンによる張力とのバランスを調整することにより幅を制御する。以後の説明においては、幅を大きくする場合を「拡幅」、小さくする場合を「縮幅」と称する。なお、図4において符号KLは、ピンで保持されるフィルム62の保持対象部のうち、フィルム62の幅方向における最も中央部側の位置を表し、第1幅〜第3幅L1〜L3はいずれも両側の保持対象ラインKL間の距離である。
【0067】
第1幅L1を第2幅L2に拡幅し始める位置を第5位置P5、拡幅を終える位置を第6位置P6、第2幅L2を第3幅L3に縮幅し始める位置を第7位置P7、縮幅を終える位置を第8位置P8とする。拡幅しながらフィルム62の乾燥をすすめ、この拡幅は溶媒残留率が50%に達するまでに終了するように実施することが好ましい。つまり、第6位置P6は、第4位置P4と同じまたは第4位置P4よりも上流側であることが好ましい。なお、拡幅の開始のタイミングは特に限定されないが、第5位置P5は、第3位置P3と同じまたは第3位置P3よりも下流側であることがより好ましい。
【0068】
さらに、第5位置P5から第6位置P6までの拡幅率は、5%以上30%以下とすることが好ましい。ここで、拡幅率(単位;%)は、{(L2−L1)/L1}×100で求める値である。溶媒残留率が50%に達するまでの間という非常に高いうちに上記拡幅率での拡幅を行い、終了させることにより、Reの湿度依存性が小さいフィルム62を得ることができる効果が高まる。これは、第5位置P5から第6位置P6の間で、分子の配向を幅方向にするためである。テンタ64以降の工程では、フィルム62に搬送方向Yの張力がかかってしまい、搬送方向Yにおける分子配向を防ぐことは難しいが、この方法により、搬送方向Yの分子配向と幅方向X1,X2の分子配向との両配向の均衡をもたせ,Reの湿度依存性が大きくなることをより防ぐことができる。なお、この効果は、長尺に作られたフィルムをロール状に一旦巻取り、このフィルムを後で巻きだして幅方向に延伸するといういわゆるオフライン延伸する場合であっても得られる。すなわち、後に幅方向に延伸すべきフィルムを長尺につくる場合には、第1乾燥工程を実施する際に、搬送方向に分子配向が大きいフィルムであっても、幅方向にオフライン延伸し、搬送方向と幅方向との分子配向の均衡を付与させることにより、Re値の湿度依存性が向上するという効果が得られる。
【0069】
溶媒残留率が50%よりも小さくなってからの拡幅は上記効果が小さい場合がある。なお、拡幅率が30%よりも大きいと、幅方向X1,X2における分子の配向が大きくなりすぎたり、溶媒残留率の大きさによってはフィルム62が保持対象ラインKL等で裂けてしまうこともあるので、フィルム62の厚みや弾性等も考慮して拡幅率を決定するとよい。
【0070】
上記の第1乾燥工程を実施した後は、引き続きフィルム62の側端部を保持して、第2乾燥工程を実施する。張力の付与により、幅を保持または縮幅を実施することが好ましい。この第2乾燥工程は、第1乾燥工程の後であれば、溶媒残留率に関わらず実施してもよい。したがって、溶媒残留率が50%よりも高いうちに第1乾燥工程を終了し、引き続き50%よりも高いうちにこの第2乾燥工程を実施してよい。したがって、第7位置P7は、第6位置と同じまたは第6位置よりも下流側であって、第4位置P4との関係を考慮する必要はない。張力付与の終了の位置は、第8位置P8までの任意の位置でよい。
【0071】
第2乾燥工程で縮幅する場合の縮幅率は、最大でも10%とすることが好ましい。本発明では、縮幅を行わずに第2幅L2を保持してもよいので、縮幅率はゼロ%以上10%以下ということになる。拡幅の後に縮幅を行うことにより、分子の配向状態を、Re値の湿度依存性の観点から、より適切な状態にすることができる。縮幅率が10%よりも大きいと、先に実施した拡幅の効果を下げてしまうことがある。ここで、縮幅率とは、{(L2−L3)/L3}×100で求める値である。
【0072】
Re値の湿度依存性の低減という効果が、第1乾燥工程のみで十分得られる場合には、第2乾燥工程での縮幅や幅保持の有無に関わらず、溶媒残留率が10重量%に達した後であれば、拡幅を実施してもよい。この場合の拡幅は、フィルムを平滑にするという効果がある。そしてこの拡幅では、拡幅前の幅をLB、拡幅後の幅をLAとするときに100×(LA−LB)/LAで求める拡幅率(単位;%)がゼロよりも大きく5%以下であることが好ましい。
【0073】
ここで、(フィルム62をピン121で保持して走行するピンプレート122の走行速度(単位;m/分))/(ドラムの回転速度(m/分))で求める値を「第1比率」とする。ピンプレート122の走行速度とは、すなわち、テンタ64におけるフィルム62の移動速度である。また、ドラムの回転速度とは、ドラムの周面の回転周速であり、流延膜24aの移動速度でもある。また、L2/L1で求める値を「第2比率」、L3/L2で求める値を「第3比率」とする。そして、第1比率、第2比率、第3比率との関係を、0.94≦(第1比率)/{(第2比率)・(第3比率)}≦0.97とする。この条件を満たすように、ドラムの回転速度、ピンプレートの走行速度の調節と、第1乾燥工程での拡幅率、第2乾燥工程での拡幅率の決定とを行う。
【0074】
なお、第1乾燥工程での拡幅率が5%に満たない場合でも、縮幅を行い、かつ、後工程でクリップテンタによる幅方向への拡幅を実施することによりReの湿度依存性が従来よりも小さいフィルムを製造することができることもある。クリップテンタは、周知のように、フィルムの両側端部をクリップにより把持し、クリップをフィルムの幅方向に移動させることによりフィルムの幅方向に張力を付与するものである。クリップテンタは、ピンテンタと巻取室76との間に設けるとよい。また、巻取室76でロール状に巻き取られたフィルムを、巻きだしてクリップテンタで幅方向の張力を付与してもよい。
【0075】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用することができる。
【0076】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせて偏光板とし、液晶表示装置は、通常は、液晶層が2枚の偏光板で挟まれる構造である。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、周知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されており、これは、本発明にも適用することができる。また、同公報には光学的異方性層を付与したセルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルム、適度な光学性能を付与した二軸性セルロースアシレートフィルムとしてこれを光学補償フィルムとして用いる記載もある。これらは、偏光板保護フィルムと兼用することもできる。これらの記載内容は、本発明にも適用することができる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0077】
得られるフィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【実施例1】
【0078】
下記の処方のドープ24をドープ製造設備10によりつくった。
セルローストリアセテート 100重量部
(置換度2.94、粘度平均重合度305.6%、ジクロロメタン溶液6質量%
の粘度 350mPa・s)
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 390重量部
メタノール(溶媒の第2成分) 60重量部
化1に示すレタデーション低下剤 12重量部
化2に示す波長分散調整剤 1.8重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0079】
【化1】

【0080】
【化2】

【0081】
上記ドープを用いて、溶液製膜設備40により複数のフィルムを製造した。各製造条件は、表1に示す。本発明は実験1〜3に対応し、本発明に対する比較実験は比較実験1〜6として実施した。実施例3のドープ中には上記の成分の他に、VA型液晶ディスプレイ用途のフィルムに添加するレタデーション上昇剤を加えた。このレタデーション添加剤のReは55nmであり、Rthは200nmである。なお、参考実験も実施したので、実験1〜3,比較実験1〜6とともに表1に示す。表1中、各項目は以下を表す。
【0082】
「製造速度」 ・・・フィルムの製造速度
「厚み」 ・・・製造するフィルム62の厚み
「剥ぎ取り時の溶媒残留率W」・・・剥ぎ取り時の溶媒残留率W
「第1比率」 ・・・ピンプレート122の走行速度(m/分))/(ドラムの回転速度(m/分))で求める値
「溶媒残留率(位置P5)」・・・第5位置P5における溶媒残留率
「溶媒残留率(位置P6)」・・・第6位置P6における溶媒残留率
「オフラインでの拡幅率」 ・・・溶液製膜設備40で製造したフィルム62を巻取ロール107から送出して、クリップテンタ(図示せず)によりさらに拡幅した場合である。クリップテンタにおける拡幅前の幅をL4、拡幅後の幅をL5とするときに、L5/L4で求めた値である。実験1〜実験3では実施しなかったため表1では「−」としるす。
「ΔRe」 ・・・巻取室76で巻き取られたフィルム62の一部をサンプリングし、このサンプル片につき、Re値の湿度依存性を調べた結果である。この項目の各数値は、具体的には、25℃,10%RHでのRe値から25℃,80%RHでのRe値を減じた値である。この値が小さいほどReの湿度依存性が少なく、より好ましい。
【0083】
なお、「100×(L2−L1)/L1」は、前述のとおり第1乾燥工程での拡幅率であり、「100×(L2−L3)/L3」は第2乾燥工程で縮幅をしたときの縮幅率である。
【0084】
【表1】

【0085】
比較実験1では、テンタ64においてピンの突き刺し部からフィルムが裂けてしまい、製造することができず、ΔReを測定しなかった。また、比較実験4では、フィルムがたるんで切断してしまい、製造することができず、また、比較実験6では、フィルムがたるんで擦り傷が発生したので製品としてみなせるようなものではなかった。したがって、比較実験4,比較実験5とも、ΔReを測定しなかった。表1の結果により、本発明は、既存設備を用いながらもReの湿度依存性を従来よりも小さくし、かつ従来よりも高速でフィルムを製造することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】ドープ製造設備の概略図である。
【図2】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図3】テンタにおけるフィルムの保持状態を示す概略図である。
【図4】テンタにおけるフィルムの拡幅及び縮幅を示す概略図である。
【符号の説明】
【0087】
62 フィルム
64 テンタ
121 ピン
126 シフト機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを、冷却されたドラムの周面上に流延ダイから連続して流出して流延膜とし、前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥してセルロースアシレートフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記流延膜を冷却により固化して前記ドラムから湿潤フィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、
前記湿潤フィルムの両側端部を保持する保持手段により前記湿潤フィルムを幅方向に拡げながら、乾燥手段により乾燥する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程の後に、前記湿潤フィルムの両側端部を保持して幅方向に張力を付与しながら乾燥する第2乾燥工程と、
を有し、
前記第1乾燥工程で拡げる前の幅をL1、拡幅した後の幅をL2、前記第2乾燥工程の終了時における幅をL3とするときに、
(前記保持手段の走行速度(単位;m/分))/(前記ドラムの回転速度(単位;m/分))で求める第1比率と、L2/L1で求める第2比率と、L3/L2で求める第3比率とが、0.94≦(第1比率)/{(第2比率)・(第3比率)}≦0.97を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記湿潤フィルムの溶媒残留率が50%に達するまでに前記第1乾燥工程を終えることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記幅L2と前記幅L3とが、0≦{(L2−L3)/L3}×100≦10を満たすことを特徴とする請求項1または2記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−260276(P2008−260276A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68838(P2008−68838)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】