説明

セルロースエステルの回収方法及び装置

【課題】反射防止フィルムからセルロースエステルを回収する。
【解決手段】クラッシャ31は、余剰シート5を細かく切断し、略矩形状の複合チップ21とする。溶解装置32は、溶剤40を収納する容器42に複合チップ21を投入する。複合チップ21のうち、溶解しやすい成分は溶剤40に溶解し、溶解しにくい成分は固形物として溶剤40内に存在する。セルロースエステルの溶液22は、送液管55を通して、遠心分離装置33へ送られる。遠心分離装置33は、溶液22を、分離液23と固形物50とに分離する。噴霧装置34は、スプレーノズル63を用いて分離液23を原料チップ60へ噴霧する。噴霧された分離液23は、原料チップ60に付着する。乾燥装置35は、分離液23が噴霧された噴霧済チップ24から、溶剤40を蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルを含む複合体からセルロースエステルを効率よく回収するセルロースエステルの回収方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルム、中でも57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のベースとして利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、偏光膜の保護フィルムや反射防止フィルム等の光学フィルムとして用いられる。
【0003】
近年の廃棄物問題を背景として、光学フィルムからTACを回収して、再利用することも望まれている。偏光板からTACを回収する場合には、例えば、特許文献1に提案されているように、過酸化水素などの処理液を用いて機能層等を除去する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−203963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、反射防止フィルムは、TACからなるベースフィルムの上に、防眩層や低反射層等が積層してなる。そして、防眩層や低反射層は、耐溶解性・耐薬品性の高い材料から形成されることが多い。このような場合に、反射防止フィルムからTACを回収する場合には、特許文献1の方法を用いることはできない。このことは、耐溶解性・耐薬品性の高い材料からなる機能層をTACフィルム上に有する光学フィルムからTACを回収する場合にも、同様である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、セルロースエステルを含む複合体から、セルロースエステルを効率よく回収することのできるセルロースエステルの回収方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセルロースエステルの回収方法は、セルロースエステルからなる部分とこの部分に接合し耐溶剤性の高い物質からなる部分とを備える複合体に前記セルロースエステルの良溶媒である液を接触させて、前記セルロースエステルの溶液をつくる溶解工程と、遠心分離により前記溶液から固形物を分離する遠心分離工程と、前記遠心分離工程を経た前記溶液をセルロースエステルからなる部材へ噴霧する噴霧工程と、前記噴霧工程を経た前記部材を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0008】
前記溶液から前記固形物を濾過する濾過工程を前記噴霧工程の前に行うことが好ましい。また、前記液は、前記セルロースエステルの良溶媒と前記セルロースエステルの貧溶媒との混合溶媒であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、セルロースエステルの溶液から前記セルロースエステルを回収する回収装置において、前記セルロースエステルが溶解する溶液をセルロースエステルからなる部材に向けて噴霧する噴霧部と、前記溶液が噴霧された前記部材を乾燥する乾燥部とを有することを特徴とする。
【0010】
前記溶液には、前記セルロースエステルの良溶媒と前記セルロースエステルの貧溶媒とが含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐溶剤性の高い材料からなる部分を有する複合体から、セルロースエステルを容易に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】反射防止フィルムの原反の概要を示す斜視図である。
【図2】反射防止フィルムの原反の概要を示す断面図である。
【図3】原反から、反射防止フィルムを切り出す概要を示す説明図である。
【図4】セルロースエステル回収工程の概要を示すフロー図である。
【図5】セルロースエステル回収設備の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及び図2に示すように、反射防止フィルムの原反3は、ベースフィルム3aと、ベースフィルム3aに重なって接合する機能層3bとからなる。原反3の膜厚は5μm以上50μm以下であることが好ましい。ベースフィルム3aの膜厚は、10μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0014】
図3に示すように、反射防止フィルム4は、シート状の原反3(図1参照)から、所定の向き、寸法に切り出すことによって得られる。反射防止フィルム2をつくる際に、この原反3から切り出されたものが余剰シート5である。
【0015】
ベースフィルム3aは、セルロースエステルからなり、機能層3bは、セルロースエステルよりも耐溶剤性の高い材料からなる。反射防止フィルムの材料の詳細については後述する。
【0016】
(セルロースエステル回収工程)
図4に示すように、セルロースエステル回収工程10は、チップ化工程11と、溶解工程12と、遠心分離工程13と、噴霧工程14と、乾燥工程15とを有する。チップ化工程11では、余剰シート5の切断により、ベースフィルム3a(図2参照)と機能層3b(図2参照)とからなる複合チップ21を得る。溶解工程12では、複合チップ21を所定の液に接触させ、セルロースエステルが溶解する溶液22をつくる。遠心分離工程13では、遠心分離により溶液22から固形物を分離して、分離液23を得る。噴霧工程14では、セルロースエステルからなるチップへ分離液23を噴霧する。乾燥工程15では、分離液23が噴霧された噴霧済チップ24を乾燥する。乾燥工程15により、噴霧済チップ24から回収済チップ25が得られる。回収済チップ25を所定の溶剤に溶解し、溶液製膜用のドープを調製することができる。なお、チップ化工程11は省略しても良い。
【0017】
(セルロースエステル回収設備)
図5に示すように、セルロースエステル回収設備30は、クラッシャ31と、溶解装置32と、遠心分離装置33と、噴霧装置34と、乾燥装置35とを備える。なお、クラッシャ31は省略しても良い。
【0018】
(クラッシャ)
クラッシャ31は、余剰シート5を切断する切断部材と、切断により得られた複合チップ21を溶解装置32に送る送出手段とを有する。切断部材としては、ロータリカッタやスリッター等を用いることが好ましい。また、送出手段としては、複合チップ21に風を吹き付けて、溶解装置32に送り出す風送機等を用いることが好ましい。
【0019】
(溶解装置)
溶解装置32は、溶剤40を貯留する容器42と、容器42内の溶剤40の温度を調節する温度調節器43とを備える。また、容器42に、軸45aを回転中心として回転する攪拌機45bと、この攪拌機45bの回転条件を制御するための撹拌コントローラ45cとが設けられることが好ましい。
【0020】
(溶剤)
溶剤40は、セルロースエステルが溶解するもの、すなわち、セルロースエステルの良溶媒からなる。溶剤40は、セルロースエステルの良溶媒とセルロースエステルの貧溶媒との混合物であることが好ましい。
【0021】
ある物質がポリマーの貧溶媒であるか良溶媒であるかを、温度5℃以上30℃以下の範囲内において、ポリマーが全重量の5質量%となるように当該物質とポリマーとを混合することにより判断することができる。そして、その混合物中に不溶解物が有る場合には当該物質は貧溶媒であり、その混合物中に不溶解物がない場合には当該物質は良溶媒であると判断することができる。
【0022】
溶剤40の成分は、溶液製膜用ドープの調製の際に用いられる溶剤と同一のものであることが好ましい。
【0023】
(遠心分離装置)
遠心分離装置33は、溶解装置32から送り出された溶液22から固形物50を分離し、分離液23をつくるものであり、軸を中心に回動自在な回転筒52と、回転筒52の内部に配され、回転筒52と同心円上で回転自在なスクリュー53とを有する。回転筒52及びスクリュー53は、それぞれモータ(図示しない)に接続する。スクリュー53は、円柱状のスクリュー本体53aと、スクリュー本体53aの周面に突出して設けられる羽53bとを備える。スクリュー本体53aには、貫通流路53cが設けられる。貫通流路53cの入口は溶液管55の一端と接続する。溶液管55の他端は溶解装置32の容器42と接続する。貫通流路53cの出口はスクリュー本体53aの周面に開口する。回転筒52及びスクリュー53の隙間には分離液管56設けられる。分離液管56は噴霧装置34に接続する。また、固形物50を遠心分離装置33の外へ排出する排出管58は、その一旦が回転筒52内で開口するように配される。
【0024】
(噴霧装置)
噴霧装置34は、セルロースエステルからなるチップ(以下、原料チップと称する)60に、分離液23を噴霧するものであり、原料チップ60を収納する原料チップ容器62と、原料チップ容器62内に配されたスプレーノズル63とを有する。スプレーノズル63は、分離液管56と接続する。
【0025】
(乾燥装置)
乾燥装置35は、分離液23が噴霧された原料チップ(以下、噴霧済チップと称する)24から、溶剤40を蒸発させるものである。乾燥装置35には、噴霧済チップ24に乾燥風をあてる送風機と、噴霧済チップ24から蒸発した溶剤を凝縮させて外部に排出する排出機構(図示せず)とが設けられる。
【0026】
次に、セルロースエステル回収設備30にて行われるセルロースエステル回収工程10(図4参照)について説明する。
【0027】
(チップ化工程)
図4及び図5に示すように、チップ化工程11では、余剰シート5がクラッシャ31に供給される。クラッシャ31は、切断部材を用いて余剰シート5を細かく切断し、略矩形状の複合チップ21とする。その後、クラッシャ31の送出手段は、複合チップ21に風を送り、複合チップ21を溶解装置32に送る。
【0028】
複合チップ21の大きさは、溶剤40に溶解しやすいものであれば、特に限定されないが、例えば、0.5cm×0.5cm〜1.0cm×1.0cmであることが好ましく、0.5cm×0.5cm〜0.7cm×0.7cmであることがより好ましい。
【0029】
(溶解工程)
溶解装置32では溶剤40を収納する容器42に、複合チップ21を投入する。複合チップ21のうち、溶解しやすい成分は溶剤40に溶解し、溶解しにくい成分は固形物として溶剤40内に存在する。セルロースエステルが溶解した溶剤、すなわち、溶液22は、送液管55を通して、遠心分離装置33へ送られる。
【0030】
(遠心分離工程)
遠心分離装置33へ送られた溶液22は、貫通流路53cの出口から、回転筒52及びスクリュー53の隙間へ送り出される。回転筒52の回転によって生じた遠心力により、溶液22に含まれる固形物は分離され、回転筒52とわずかに異なる速度で回転する羽によって掻きとられる。掻き取られた固形物50は、排出管58を通って、図示しない処理装置へ送り出される。固形物50が分離された溶液、すなわち分離液23は、分離液管56を通って、噴霧装置34へ送られる。
【0031】
遠心分離装置33へ送られる溶液22の粘度は、0.1ポイズ以上100ポイズ以下であることが好ましい。遠心分離装置33へ送られる溶液22におけるセルロースエステルの濃度は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0032】
図示しない制御部の制御の下、モータを介して、回転筒52及びスクリュー53は所定の回転数で回転する。回転筒52及びスクリュー53の回転数は、3000rpm以上6000rpm以下であることが好ましい。
【0033】
(噴霧工程)
噴霧装置34では、スプレーノズル63が分離液23を原料チップ60に向けて噴霧する。噴霧された分離液23は、原料チップ60に付着する。
【0034】
(乾燥工程)
乾燥装置35は、分離液23が噴霧された原料チップ、すなわち噴霧済チップ24から、溶剤40を蒸発させる。溶剤40の蒸発により、噴霧済チップ24から、回収済チップ25を得ることができる。そして、回収済チップ25を溶剤に溶解させることにより、溶液製膜用のドープを調製することができる。
【0035】
このように、本発明によれば、回収の対象となるセルロースエステルが溶解した分離液23を原料チップ60へ噴霧し、その後乾燥させるため、分離液23から当該セルロースエステルを容易に回収することができる。このような分離液23は、複合チップ21について溶解工程12、及び遠心分離工程13を順次行うことにより、容易に得ることができる。また、複合チップ21は、余剰シート5にチップ化工程11を行うことにより、容易に得ることができる。したがって、本発明によれば、余剰シート5や複合チップ21からセルロースエステルを容易に回収することができる。
【0036】
(濾過工程)
溶液22から固形物を濾過する濾過工程を、溶解工程12と噴霧工程14との間で行うことが好ましい。なお、濾過部材の目詰まりの観点から、濾過工程を、遠心分離工程13の後に行なうことが好ましい。
【0037】
(ベースフィルム)
ベースフィルム3a成分としては、TACの他、セルロースジアセテート(DAC)等、その他のセルロースエステルを用いることができる。また、ベースフィルム3aの成分として、セルロースの低級脂肪酸エステルと低級アルキルエーテル(50重量%未満)とが複合したものでもよい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、好ましくは炭素原子数が4以下の脂肪酸である。低級アルキルエーテルの低級アルキルとは、炭素原子数が4以下のアルキル基を意味する。さらに、本発明は、溶液製膜用のドープに用いられる有機溶媒、例えばメチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合物に完全に溶解するようなポリマーをベースフィルム3aに代えて用いる場合にも有効である。
【0038】
ベースフィルム3aは溶液製膜方法によりつくることが好ましい。溶液製膜方法は、溶融製膜などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れるフィルムを製造することができるからである。溶液製膜方法は、ポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合物に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)をつくり、このドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を剥ぎ取って乾燥することによりフィルムを製造する方法であり、例えば、特開2005−104148号公報等に詳しく説明されている。
【0039】
TACは、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものが好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。なお、ベースフィルム3aとなるセルロースアシレートフィルムを溶液製膜方法によりつくる場合には、90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であるセルロースアシレートを溶剤に溶かしてドープをつくることが好ましい。
(I)2.0≦A+B≦3.0
(II)0≦A≦3.0
(III)0≦B≦2.9
【0040】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0041】
ベースフィルム3a製造用ドープをつくるための溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液、分散液を意味している。
【0042】
上記溶剤の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムとしたときの機械的強度及び光学特性などの物性の観点からは、炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類ジクロロメタンに混合することが好ましい。この場合には、アルコールの含有量が溶剤全体に対し2質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられ、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましい。
【0043】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶剤としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましい。これらを適宜混合して用いることもでき、この場合の例として、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合物が挙げられる。エーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有していてもよい。なお、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0044】
なお、このベースフィルム3aには、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、レタデーション調整剤、マット剤、可塑剤等が挙げられる。
【0045】
溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0046】
(機能層)
機能層は、ポリマーであるバインダや重合開始剤、分散剤等からなる少なくとも1層の層より構成される。したがって、機能層は2層以上の複層構造を有していても良い。機能層を構成する層としては、例えば、光拡散層、中屈折率層、高屈折率層、光学補償層、防眩性付与層等が挙げられる。また、機能層を構成する層は同一種でも良いし、異なる組成を有する層でも良く、上記の中から、適宜選択して所望の反射防止層を形成すれば良い。ただし、優れた反射防止効果を得るためにも、層として防眩性付与層を含んでいることが好ましい。
【0047】
また、機能層に使用されるバインダとしては、飽和炭化水素鎖又はポリエーテル鎖を主鎖として有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーを構成するモノマーの構造や、芳香族環の有無、或いはハロゲン原子、硫黄原子、リン原子、窒素原子等の原子の有無、等を適宜選択してバインダとなるポリマーを用いることにより、形成させる層の屈折率を好適に調整することが可能となる。
【0048】
機能層を構成する層に、複数の透光性微粒子が添加されていることが好ましい。本発明では、可視光領域で吸収のない微粒子を透光性微粒子と称する。このような透光性微粒子を層中に複数添加させると、微粒子としての作用により層の屈折率を容易に調整することができる他に、透光性微粒子は光を透過させるため、層の防眩性を好適に調整することができる。透光性粒子については、特開2003−302506号公報の[0044]に具体的記載があり、本発明に適用することができる。なお、透光性微粒子は、形成させる層の屈折率に応じて屈折率差を考慮しながら適宜選択することが好ましい。
【0049】
透光性微粒子としては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうち、少なくとも1種の金属酸化物であることが好ましい。また、その平均粒径は、0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以下であり、特に好ましくは0.06μm以下である。上記の金属酸化物としては、例えば、TiO、ZrO、Al、In、ZnO、SnO、Sb、ITO、SiO等が挙げられる。中でも、TiO及びZrOは、高屈折率化の点で好ましい。なお、各微粒子の表面を、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等で処理すると、バインダに対する分散性や相溶性を向上させることができるので好ましい。上記の微粒子の添加量は、添加させる層の全質量に対して10〜90%であることが好ましく、より好ましくは20〜80%であり、特に好ましくは、30〜75%である。
【0050】
透光性微粒子のうち、防眩性を付与する目的で用いられる微粒子としては、フィラ粒子よりも粒径が大きく、平均粒径が1〜10μm程度のマット粒子が好ましく用いることができる。マット粒子としては、例えば、シリカ粒子、TiO粒子等の無機化合物粒子や、アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン粒子、ベンゾグアナミン粒子等の有機化合物粒子等が挙げられる。中でも、高い防眩性を発現させることができることから、架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、シリカ粒子を用いることが好ましい。マット粒子の形状は、真球或いは不定形と問わず、特に限定されるものではない。粒径や形状の異なる2種類以上のマット粒子を併用させることも可能である。なお、防眩性の層を形成させるためには、マット粒子の含有量が、形成させる層1m辺りに対して10〜2000mgであることが好ましい。より好ましくは、100〜1400mgである。
【0051】
上記マット粒子は、層中で均一に分散されていることが好ましい。また、各粒子の粒子径が略同一であることが好ましい。例えば、平均粒径よりも20%以上大きい粒子を粗大粒子とするとき、全粒子に含まれる粗大粒子が含まれる割合は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下である。したがって、マット粒子は、粒径が略同一であり、層中に均一に分散させることを目的として、出来る限り程度の強い分級が多く行われたものを用いることが好ましい。なお、上記に示す微粒子は、粒径が光の波長よりも十分に小さいため、光の散乱が生じない。
【0052】
また、機能層には、界面活性作用を持つフッ素系化合物及びシリコーン系化合物のうち少なくとも1種を含有させることが好ましい。このような化合物を適宜選択して用いることにより、優れた防汚性や滑り性を有する機能層を形成することができる。なお、上記の化合物は、層形成用に用いられる層形成材料の全固形分量に対して、0.01〜20質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜10質量%であり、特に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0053】
フッ素系化合物としては、フルオロアルキル基を有する化合物が好ましい。また、このフルオロアルキル基は炭素数が1〜20であることが好ましく、より好ましくは、1〜10である。この場合、直鎖、分岐構造、脂環式構造であっても良いし、エーテル結合を有していても良い。なお、フルオロアルキル基は、同一分子中に複数含まれていても良い。
【0054】
上記のフッ素系化合物は、相溶性や機能層と低屈折率層との界面での密着性に作用するような置換基を有していることが好ましい。この置換基は、同一でも良いし、異なっていても良いが、複数個有していることが好ましい。置換基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリール基、シンナモイル基、エポキシ基、オキセタニル基、水酸基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、フッ素化合物は、フッ素原子を含まない化合物とフッ素原子を含む化合物との共重合体でも良いし、共重合オリゴマーでも良く、その分子量も特に制限されない。フッ素化合物におけるフッ素原子の含有量も特に制限されないが、フッ素原子全量に対して20質量%であることが好ましい。より好ましくは30〜70質量%であり、特に好ましくは40〜70質量%である。
【0055】
シリコーン系化合物としては、例えば、ジメチルシリルオキシ単位を繰り返し単位として複数個含む化合物鎖の末端及び側鎖、又は末端か側鎖のいずれか一方に置換基を有するものが挙げられる。なお、上記のような単位を繰り返し含む化合物には、ジメチルシリルオキシ以外の構造単位を含んでいても良い。また、置換基は同一でも異種でも良いが、複数個有することが好ましい。置換基の好適な例としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリール基、シンナモイル基、エポキシ基、オキセタニル基、水酸基、フルオロアルキル基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。分子量に特に制限はないが、取り扱い性等を考慮して、100000以下であることが好ましい。より好ましくは、50000以下であり、特に好ましくは3000〜30000である。シリコーン系化合物のシリコーン原子量にも特に制限はないが、化合物全量に対して18質量%以上であることが好ましく、より好ましくは25〜37.8質量%であり、特に好ましくは30〜37質量%である。
【0056】
上記実施形態では、ベースフィルム3aと機能層3bとからなる余剰シート5からセルロースエステルを回収したが、本発明は、これに限られず、セルロースエステルを含む第1部材とセルロースエステルに比べて耐溶剤性の高い物質からなる第2部材とからなる複合体セルロースエステルを回収してもよい。また、第1部材、第2部材及び複合体の形状は、シート状のものに限られない。
【0057】
本発明は、原反3から反射防止フィルム2を取り出す工程で生じた余剰シート5からセルロースエステルを回収することに限られず、機能層を有するセルロースエステルフィルムの製造工程で生じた余剰物においても適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、ベースフィルム3aの形成材料であるセルロースエステルを回収したが、本発明はこれに限られず、ベースフィルム3aの形成材料であるセルロースエステル以外のポリマーを回収する場合にも適用できる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例を説明する。各実験の説明は実験1で詳細に行い、実験2〜5については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0060】
(実験1)
図3に示すように、原反3から反射防止フィルム4を切り出した。余剰シート5について、図4及び図5示すように、セルロースエステル回収設備30を用いて、セルロースエステル回収工程10を行い、余剰シート5から複合チップ21を得た。
【0061】
チップ化工程11では、切断部材を用いて余剰シート5を細かく切断し、0.5cm×0.5cm〜1.0cm×1.0cmの大きさの複合チップ21とした。溶解工程12では、温度25℃の溶剤40に複合チップ21を浸漬させて、溶液22をつくった。
【0062】
実験1にて用いた溶剤40の成分は以下の通りである。
ジクロロメタン 90 質量部
メタノール 10 質量部
【0063】
遠心分離工程13では、溶液22を遠心分離装置33へ送り、溶液22から、固形物50と分離液23とに分離した。遠心分離装置33へ送った溶液22の粘度ηは10ポイズであった。遠心分離装置33の回転筒52の回転数Rは4000rpmであった。その後、濾過部材を用いて、分離液23を濾過した。
【0064】
噴霧装置34は、濾過された分離液23を原料チップ60に噴霧した。その後、噴霧済チップ24を乾燥し、回収済みチップを得た。
【0065】
(実験2〜5)
実験2〜3では、遠心分離装置33へ送った溶液22の粘度η、及び回転筒52の回転数Rを表1にしたこと以外は、実験1と同様にして、セルロースエステルを回収した。実験4では、遠心分離装置33へ送った溶液22の粘度η、回転筒52の回転数Rを表1にしたこと、及び濾過工程を行わなかったこと以外は、実験1と同様にして、セルロースエステルを回収した。実験5では、遠心分離工程及び濾過工程を行わなかったこと以外は、実験1と同様にして、セルロースエステルを回収した。
【0066】
【表1】

【0067】
(評価)
実験1〜5について、以下の項目について評価した。
【0068】
(異物の存否の評価)
回収済みチップを溶剤に溶解させて、ドープを調製した。このドープをガラス板上に流延して、ドープからなる膜をつくった。この後、膜から溶剤を蒸発させて、厚さ60μmのセルロースアシレートフィルムをつくった。得られたセルロースアシレートフィルムについて、以下の手順で、異物の存否について評価した。まず、光源の前に、2枚の偏光板を直交状態(クロスニコル)に配置し、その間にフィルムを置く。その後、いずれか一方の偏光板を回転させて、光源からの光をフィルムにあてる。光源と反対側の位置から、光学顕微鏡(倍率は、50倍)を用いて、1cm当たりにおける直径10μm以上の輝点の数Nをカウントした。輝点の数Nのカウントは、10箇所の測定エリアについて行った。そして、10箇所の測定エリアにおける輝点の数Nの平均値Navについて、以下基準に基づいて評価した。
◎:Navが1個未満であった。
○:Navが1個以上2個未満であった。
△:Navが2個以上3個未満であった。
×:Navが3個以上5個未満であった。
××:Navが5個以上であった。
【符号の説明】
【0069】
10 セルロースエステル回収工程
11 チップ化工程
12 溶解工程
13 遠心分離工程
14 噴霧工程
15 乾燥工程
30 セルロースエステル回収設備
32 溶解装置
33 遠心分離装置
34 噴霧装置
35 乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルからなる部分とこの部分に接合し耐溶剤性の高い物質からなる部分とを備える複合体に前記セルロースエステルの良溶媒である液を接触させて、前記セルロースエステルの溶液をつくる溶解工程と、
遠心分離により前記溶液から固形物を分離する遠心分離工程と、
前記遠心分離工程を経た前記溶液をセルロースエステルからなる部材へ噴霧する噴霧工程と、
前記噴霧工程を経た前記部材を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とするセルロースエステルの回収方法。
【請求項2】
前記溶液から前記固形物を濾過する濾過工程を前記噴霧工程の前に行うことを特徴とする請求項1記載のセルロースエステルの回収方法。
【請求項3】
前記液は、前記セルロースエステルの良溶媒と前記セルロースエステルの貧溶媒との混合溶媒であることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースエステルの回収方法。
【請求項4】
セルロースエステルの溶液から前記セルロースエステルを回収する回収装置において、
前記セルロースエステルが溶解する溶液をセルロースエステルからなる部材に向けて噴霧する噴霧部と、
前記溶液が噴霧された前記部材を乾燥する乾燥部とを有することを特徴とするセルロースエステルの回収装置。
【請求項5】
前記溶液には、前記セルロースエステルの良溶媒と前記セルロースエステルの貧溶媒とが含まれることを特徴とする請求項4記載のセルロースエステルの回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57077(P2012−57077A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202861(P2010−202861)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】