説明

セルロースエステルフィルム、位相差板、偏光板、ならびに液晶表示装置

【課題】効率よく安価に製造でき、高い表示品位を可能とする光学フィルムに用いられるセルロースエステルフィルムを提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される液晶化合物の少なくとも一種を含有し、特定の複屈折率を満たすセルロースエステルフィルム。


(式中、L、L、L、およびLは、それぞれ独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、m1,m2は0〜10の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに添加するとフィルムに逆波長分散性を付与することができる化合物を含有するセルロースフィルムに関する。また本発明は、これを用いた位相差板、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々用途が広がっている。従来、画像の視野角依存性が大きいことが液晶表示装置の大きな欠点であったが、近年、液晶セル内の液晶分子の配列状態の異なる様々な高視野角モードが実用化されており、これによりテレビ等の高視野角が要求される市場でも液晶表示装置の需要が急速に拡大しつつある。
一般に液晶表示装置は液晶セル、光学補償シート、偏光子から構成される。光学補償シートは画像着色を解消したり、視野角を拡大するために用いられており、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが使用されている。例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をトリアセチルセルロースフィルム上に塗布し配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求がきわめて厳しく、前述のような手法をもってしても要求を満足することはできていない。そのため、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が研究されている。
【0003】
特にVAモードはコントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として着目されている。しかしながらVAモードではパネル法線方向においてはほぼ完全な黒色表示ができるものの、斜め方向からパネルを観察すると光漏れが発生し、視野角が狭くなるという問題があった。この問題を解決するためにnx>ny=nzとなる正の屈折率異方性を有する第一の位相差板とnx=ny>nzとなる負の屈折率異方性を有する第2の位相差板とを併用することにより光漏れを低減する方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
具体的には、光学特性の異なる2種類の位相差層を用いることにより斜め方向から見ても黒の表示が鮮明で無彩色のVAモード液晶表示装置を得る方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、上記方法では偏光板を作製した後に位相差フィルムを貼り合わせる工程が必要である。このため、製造工程が煩雑となり、生産性が低く、製造コストが高いという問題を有しており、その改良が求められていた。
【0004】
特許文献3では、ある特定の材料をセルロースアシレートに添加し延伸するだけで、フィルムの波長分散を逆分散とし、斜めから観察しても黒表示が無彩色となるVAモード液晶表示装置を得る方法が開示されている。この方法では、製造工程の煩雑さはなくなったものの、添加する材料の光学発現性がいまだ不十分であり、添加量が多く、また、十分な光学的異方性を発現することができないという問題があることがわかった。したがって、高い光学発現性を有する材料を用いて、少ない添加量で同様の逆分散フィルムを作製し、VAモード液晶表示装置を作製することが求められていた。
特許文献3では、シクロヘキシル環とベンゼン環をエステル結合によって連結した棒状化合物がレターデーション発現剤として用いられているが、ここで用いられている以外の公知の液晶性棒状化合物については、逆分散剤とともにセルロースフィルムに添加した際のレターデーション発現性に関する知見は知られていない。特許文献4では、ある種のセルロースエステルフィルムの透湿性改良添加剤としてシクロヘキシル環とベンゼン環をエステル結合によって連結した化合物を用いることができることが開示されているが、そのレターデーション発現性については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3027805号公報
【特許文献2】国際公開第2003/032060号パンフレット
【特許文献3】特開2002−296421号公報
【特許文献4】特開2007−249224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、効率よく安価に製造でき、斜めから観察しても黒表示が着色を起こさない、高い表示品位を可能とする光学フィルムに用いられるセルロースエステルフィルム、これを用いた位相差板、偏光板および液晶表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物をセルロースエステルとともに含有する組成物を用いてフィルムを作製し、延伸するだけで、必要とされるレターデーションを発現でき、かつ該フィルムにおける波長分散を逆分散とすることが可能であることを見いだし、この知見に基づき本発明をなすに至った。本発明の目的は、下記手段により達成された。
<1>下記一般式(I)で表される液晶化合物の少なくとも一種を含有し、配向方向に対して複屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ下記数式(1)および(2)を満たすことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、L、L、L、およびLは、それぞれ独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、m1,m2は0〜10の整数である。)
<2>下記一般式(II)または(III)で表される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする<1>に記載のセルロースエステルフィルム。
【0010】
【化2】

【0011】
[一般式(II)において、A、A、B、Bは、それぞれ独立して、単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を示す。Q、Qは、それぞれ独立して、飽和、あるいは不飽和の環状基を示し、M、M、は、それぞれ独立して、複屈折性付与基を示す。]
【0012】
【化3】

【0013】
[一般式(III)において、A、A、B、Bは、それぞれ独立して、単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を示す。Q、Qは、それぞれ独立して、飽和、あるいは不飽和の環状基を示し、M、M、は、それぞれ独立して、複屈折性付与基を示す。]
<3>前記一般式(II)においてA、A、B、Bが、それぞれ独立して、単結合または−COO−である化合物を含有する<2>に記載のセルロースエステルフィルム。
<4>前記一般式(II)においてM、M、が、それぞれ独立して、置換されていてもよい下記の複屈折性付与基から選ばれる化合物を含有する<2>または<3>に記載のセルロースエステルフィルム。
【0014】
【化4】

【0015】
<5>セルロースのエステル基の総置換度が2.30以上2.55未満であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
<6>セルロースのエステル基の総置換度が2.40以上2.45未満であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
<7>フィルムを延伸する延伸工程と収縮させる収縮工程を含むことを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
<8><1>〜<6>のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムからなる位相差板。
<9><8>に記載の位相差板を含んでなる偏光板。
<10><8>に記載の位相差板または<9>に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
<11>VAモードであることを特徴とする<10>に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセルロースエステルフィルムは逆波長分散性を有する。本発明のセルロースエステルフィルムからなる光学フィルム、それを用いた位相差板及び偏光板、さらにそれを搭載した液晶表示装置は黒表示を斜め方向から見たときの着色が小さい高い表示品位の画像を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
以下に、本発明のセルロースエステルフィルムについて詳細に説明する。
【0019】
[低分子化合物(一般式(I)で表される化合物)]
本発明一般式(I)で表わされる化合物について説明する。
一般式(I)で表される化合物は、液晶性化合物としては公知であり、例えば米国特許4,519,936号明細書、米国特許4,659,499号明細書、特開昭61−26898号公報、特開昭56−158739号公報などにその合成方法および液晶相転移温度、誘電異方性などについての記載がある。
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、L、L、L、およびLは、それぞれ独立に、独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、m1,m2は0〜10の整数である。)
【0022】
一般式(I)において、L、L、L、およびLは、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)およびそれらの(2個以上連結して形成される)組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましく、1乃至8であることがより好ましく、1乃至6であることがさらに好ましく、1乃至4であることがさらにまた好ましく、1または2(メチレンまたはエチレン)であることが最も好ましい。前記2個以上連結して形成される2価の連結基としては、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OC(=O)O−、−C(=O)NH−、−NHC(=O)−、−C(=O)N(CH)−、−N(CH)C(=O)−、−OC(=O)NH−、−NHC(=O)O−、−NHC(=O)NH−、−C(=O)O(CHO−(mは1以上の整数)があげられる。
【0023】
およびLは、好ましくは、単結合または、(*がベンゼン環に連結する方向として)、*−C(=O)O−、*−OC(=O)−、*−C(=O)NH−、*−NHC(=O)−、*−C(=O)N(CH)−、*−N(CH)C(=O)−、*−CH−CH−、*−CHO−、*−OCH−であり、もっとも好ましくは*−C(=O)O−、*−OC(=O)−である。
およびLは、好ましくは、単結合または、(*がシクロヘキシル環に連結する方向として)*−O−、*−CHO−、*−C(=O)O−、*−OC(=O)−、*−NH−、*−NHC(=O)−、*−CH−NH−、*−CHNHC(=O)−であり、もっとも好ましくは単結合または、*−O−、*−C(=O)O−である。
【0024】
およびYは置換もしくは無置換のアルキル基であり、アルキル基の例としては先のRで示したとおりである。
およびYとして好ましくは、炭素原子数12以下の置換もしくは無置換のアルキル基であり、より好ましくは8以下の無置換のアルキル基である。
【0025】
Ra,RbおよびRcはそれぞれ独立に置換基であり、置換基の例としては先のRで示したとおりである。好ましくは、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アシル基であり。より好ましくは、炭素原子数4以下のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基であり、もっとも好ましくは、メチル基、メトキシ基、塩素原子、シアノ基である。
m1、m2は0から10までの整数である。m1、m2は0から2までの整数であることが好ましく、0であることがもっとも好ましい。mは0から4までの整数であり、0から2までの整数であることが好ましい。
一般式(I)中の二つのシクロヘキサン環について、シクロヘキサン環はシス体およびトランス体の立体異性体が存在するが、本発明においては限定されず、両者の混合物でも良い。液晶性の観点からは好ましくはトランス-シクロヘキサン環である。
【0026】
一般式(I)で表される化合物としては、下記の一般式(I−1)で表わされる化合物が特に好ましい。
【0027】
【化6】

(式中、L、L、Y、Y、Rb、mは一般式(I)におけると同義であり、好ましい範囲も同様である。)
【0028】
<式(I)で表される化合物の具体例>
以下に、式(I)で表される化合物の具体例を示す。
以下の化合物において、n=1〜8の整数、好ましくは、2,3,4,5であり、k=1〜8の整数、好ましくは、2,3,4,5である。
【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
<一般式(I)で表わされる化合物の合成>
本発明で用いる一般式(I)で表される化合物の合成は既知の方法で行うことができる。合成方法はたとえば、特開昭61−26898号公報、特開昭56−158739号公報に記載の方法を用いることができる。
【0034】
一般式(I)で表される化合物は、たとえば下記スキームにしたがって簡便に合成できる。
【0035】
【化11】

【0036】
例えば、Yがn-ブチル基、m=0の場合、4−ブチルシクロヘキサンカルボン酸を塩化チオニルを用いて、酸クロライドを形成したのち、ハイドロキノン、ピリジンのTHF溶液中に滴下し、室温にて攪拌することで、目的の化合物を合成できる。一般式(I)において置換基や連結基の異なる他の化合物の合成については、上記方法に基づき、使用する化合物や行う反応を変えることで行えるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
<一般式(I)で表わされる化合物の含有量>
本発明における、一般式(I)で表される化合物の含有量は、セルロース化合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.25〜20質量部であることがより好ましく、0.25〜10質量部であることがさらに好ましく、0.25〜5質量部であることが最も好ましい。
【0038】
本発明において一般式(I)で表される化合物は、200以上270nm以下に吸収極大を有することが好ましく、さらに200以上250nm以下に吸収極大を有することが好ましい。200以上230nm以下に吸収極大を有することが最も好ましい。
【0039】
本発明の一般式(I)で表される化合物は液晶性を示すことが好ましい。加熱により液晶性を示す(サーモトロピック液晶性を有する)ことがさらに好ましく、100℃〜300℃の温度範囲で液晶性を示すことが好ましい。液晶相は、カラムナー相、ネマチィク相またはスメクティック相が好ましく、ネマチィク相またはスメクティック相であることがより好ましい。
【0040】
[低分子化合物(一般式(II)で表される化合物)]
以下に、一般式(II)で表される化合物について詳細に説明する。
【0041】
【化12】

【0042】
式(II)において、A、A、B、Bは、それぞれ独立して、単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を示し、単結合、あるいは―COO−基であることが好ましい。A、およびAが単結合であり、B、Bが―COO−基である組み合わせが特に好ましい。Q、Qは、それぞれ独立して、飽和、あるいは不飽和の環状基を示し、5乃至6員環の飽和、あるいは不飽和の環状基が好ましい。具体的には、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、フラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基が好ましい例として挙げられるが、中でもシクロヘキシル基、フェニル基が特に好ましい。
【0043】
本発明において、飽和、あるいは不飽和の環状基は置換基を有していてもよい。好ましい置換基としては、炭素数1から20のアルキル基、炭素数1から20のアルケニル基、炭素数1から20のアルキニル基、炭素数1から20のアルコキシル基、炭素数1から20のアシル基、炭素数1から20のアルキルカルボニル基、炭素数1から20のアルコキシルカルボニル基、炭素数1から20のアルコキシルカルボニルオキシ基、炭素数1から20のアルキルアミノ基、炭素数1から20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1から20のアルキルアミノカルボニルアミノ基、炭素数1から20のアルキルカルボニルアミノ基、ハロゲン基、炭素数5から20のアリール基等を挙げることができる。
、Mは、それぞれ独立して、複屈折性付与基を示す。複屈折性付与基としては、200nm以上の波長域において、250〜400nmの間に吸収極大を持つ基を示し、好ましくは280〜380nmの間に吸収極大を持つ基を示す。好ましい例として下記に示す基を挙げることができる。これらの基は置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、エステル基、ハロゲン基等をあげることができる。
【0044】
【化13】

【0045】
上記の複屈折性付与基の中でも、以下のものが特に好ましい。
【化14】

【0046】
<一般式(II)で表される化合物の具体例>
以下に、一般式(II)で表される化合物の好ましい例を具体的に示す。
【0047】
【化15】

【0048】
[低分子化合物(一般式(III)で表される化合物)]
以下に、一般式(III)で表される化合物について詳細に説明する。
【0049】
【化16】

【0050】
式(III)において、A、A、B、Bは、それぞれ独立して、単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を示す。
、およびAは単結合、―COO−基、二価の鎖状基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。B、およびBは単結合、―COO−基、二価の鎖状基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。
【0051】
、Qは、それぞれ独立して、飽和、あるいは不飽和の環状基を示し、5乃至6員環の飽和、あるいは不飽和の環状基が好ましい。具体的には、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、フラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基が好ましい例として挙げられるが、中でもシクロヘキシル基、フェニル基が特に好ましい。
【0052】
本発明において、飽和、あるいは不飽和の環状基は置換基を有していてもよい。好ましい置換基としては、炭素数1から20のアルキル基、炭素数1から20のアルケニル基、炭素数1から20のアルキニル基、炭素数1から20のアルコキシル基、炭素数1から20のアシル基、炭素数1から20のアルキルカルボニル基、炭素数1から20のアルコキシルカルボニル基、炭素数1から20のアルコキシルカルボニルオキシ基、炭素数1から20のアルキルアミノ基、炭素数1から20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1から20のアルキルアミノカルボニルアミノ基、炭素数1から20のアルキルカルボニルアミノ基、ハロゲン基、炭素数5から20のアリール基等を挙げることができる。
【0053】
、Mは、それぞれ独立して、複屈折性付与基を示す。M、Mは、たがいに連結して環を形成してもよい。複屈折性付与基としては、200nm以上の波長域において、250〜400nmの間に吸収極大を持つ基を示し、好ましくは280〜380nmの間に吸収極大を持つ基を示す。このましい例として下記に示す基を挙げることができる。これらの基は置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、エステル基、ハロゲン基等をあげることができる。M、Mの好ましい例は、前記、一般式(II)における説明と同様である。また、M、Mは、たがいに連結して環を形成することも好ましく、好ましい形態としては以下の構造を挙げることができる。
【0054】
【化17】

【0055】
<一般式(III)で表される化合物の具体例>
以下に、一般式(III)で表される化合物の好ましい例を具体的に示す。
【0056】
【化18】

【0057】
【化19】

【0058】
本発明のセルロースエステルフィルムは、一般式(I)と共に一般式(II)、あるいは一般式(III)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましい。一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される化合物はそれぞれ二種類以上含んでいてもかまわない。
【0059】
本発明のセルロースエステルフィルムは、一般式(I)と共に一般式(II)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましい。一般式(I)および一般式(II)で表される化合物はそれぞれ二種類以上含んでいてもかまわない。
【0060】
本発明における、一般式(I)、一般式(II)、および一般式(III)で表される化合物の含有量の合計は、セルロース化合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜30質量部であることがより好ましく、0.1〜15質量部であることがさらに好ましく、0.1〜10質量部であることが最も好ましい。
【0061】
<一般式(I)で表される化合物と一般式(II)または(III)で表される化合物の併用の効果>
一般式(I)で表される化合物は、光学フィルム用のレターデーション制御剤(特に、レターデーション上昇)としての役割を果たす。特に延伸によるRe発現性および波長分散に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適な役割を果たす。一般式(II)、および一般式(III)で表される化合物は、光学フィルム用のレターデーション制御剤(特に、レターデーション上昇剤および波長分散制御剤)としての役割を果たす。特に延伸によるRe発現性に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適な役割を果たす。
【0062】
<光学フィルムのΔn>
光学フィルムのΔnについて説明する。
Δnは配向方向(以下TD方向と示す。)の屈折率から配向方向と直交する方向(以下MD方向と示す。)の屈折率を差し引いた値であるため、TD方向の屈折率の波長分散性よりも、MD方向の波長分散性が、より右肩下がり(左を短波長側、右を長波長側とおいたときのΔnの傾き)であれば、その差し引いた値は、
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
を満足する。屈折率の波長分散性は、Lorentz−Lorenzの式で表されているように、物質の吸収に密接な関係にあるため、MD方向の波長分散性をより右肩下がりにするためには、TD方向に比較してMD方向の吸収遷移波長をより長波化できれば、数式(1)及び(2)を満たすフィルムを設計することができる。例えば延伸処理を行ったポリマー材料では、MD方向は分子の鎖に直交方向である。そのような高分子幅方向の吸収遷移波長を長波化することは高分子材料としては非常に困難である。
【0063】
本発明では、高分子材料に対して低分子化合物を添加し配向することで、低分子化合物の吸収遷移波長が高分子幅方向(MD方向)に長波であれば、数式(1)及び(2)を満たすフィルムを設計することができる。
低分子化合物の屈折率の大きさがMD方向に比べてTD方向に大きければ、フィルムとしてTD方向に対して複屈折Δn(550nm)が正であることに問題がないが、逆に低分子化合物の屈折率の大きさがTD方向に比べてMD方向に大きくても高分子材料の屈折率がTD方向に大きく、フィルムとして複屈折Δn(550nm)が正であれば問題ない。
すなわち、本発明の一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有するセルロースフィルムは、配向処理されたのち、配向方向に対して屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ、上記数式(1)、(2)を満たすものである。
【0064】
Δnについては、例えば液晶便覧(2000年、丸善株式会社)201頁に詳細な説明がある。このΔnは一般的には温度依存性を示す。本発明においてΔnの測定温度は任意であるが、好ましくはフィルム状態でのΔnは−20℃から120℃の範囲の一定の温度で行われる。
【0065】
[セルロースエステルフィルム]
本発明において、「セルロースエステルフィルム」とは、セルロースエステルを主成分とする組成物(以下、セルロース組成物とする。)から形成されるフィルムを意味する。本発明においては異なる2種類以上のセルロースエステルを混合して用いてもよい。セルロースエステルは、好ましくはセルロースアシレート(セルローストリアシレート、セルロースアシレートプロピオネート等が挙げられる。)である。以下、セルロースエステルとしてセルロースアシレートを例にして、本発明の好ましい態様を説明する。
【0066】
<セルロースアシレート原料綿>
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤・宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7〜8頁)に記載されており、本発明に対しては特に限定されるものではない。
【0067】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、セルロースの水酸基をアセチル基及び炭素原子数が3以上のアシル基で置換して得られたセルロースの混合脂肪酸エステルであって、セルロースの水酸基への置換度が下記数式(3)及び数式(4)を満足するセルロースアシレートであることが好ましい。
数式(3): 2.0≦A+B≦3.0
数式(4): 0<B
(上記式中Aは、セルロースの水酸基に置換されているアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に置換されている炭素原子数3以上のアシル基の置換度を表す。)
【0068】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を、アシル基によってエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合を意味し、2位、3位及び6位の全ての水酸基がエステル化されているときを置換度3とする。本発明において、セルロースのエステル基の総置換度が2.30以上2.55未満であることが好ましく、2.40以上2.45未満であることがさらに好ましい。
尚、セルロースアシレートがセルロースアセテートの場合、工業的に一般に用いられる酢化度とセルロースのエステル基の総置換度との関係は、下記式で表される。
エステル基の総置換度 =
(酢化度 × 162)/(6005− 酢化度 × 42)
【0069】
<セルロースアシレートの重合度>
本発明におけるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であることが好ましく、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400がさらに好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度を700以下とすることにより、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり過ぎず、流延によるフィルム製造が容易になる傾向にある。また、重合度を180以上とすることにより、作製したフィルムの強度がより向上する傾向にあり好ましい。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫・斉藤秀夫著、「繊維学会誌」、第18巻、第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。具体的には、特開平9−95538号公報に記載の方法に従って測定することができる。
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましく、1.0〜1.6であることがさらに好ましい。
また、本発明におけるセルロースアシレートの原料綿や合成方法としては、例えば、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、7頁〜12頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載のものを好ましく採用できる。
【0070】
<セルロース組成物への添加剤>
本発明のセルロース組成物(以下、セルロースアシレート溶液もしくはドープともいう)には、上記一般式(I)で表される化合物のほか、種々の添加剤(例えば、紫外線吸収剤、可塑剤、劣化防止剤、剥離促進剤、染料、マット剤微粒子、赤外線吸収剤など光学特性調整剤等)を加えることができる。また、一般式(I)で表される化合物および他の添加剤の添加時期は、ドープ作製工程の何れにおいて添加してもよく、また、ドープ調製工程の最後に調製工程としてこれらの添加剤を添加してもよい。
【0071】
これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば、20℃未満の紫外線吸収剤と20℃以上の紫外線吸収剤を混合して用いたり、同様に可塑剤を混合して用いたりすることができる。具体的には、特開2001−151901号公報に記載の方法を採用できる。
【0072】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、目的に応じ任意の種類のものを選択することができ、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、ニッケル錯塩系等の吸収剤を用いることができ、好ましくはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系である。
【0073】
紫外線吸収剤は、吸収波長の異なる複数の吸収剤を複合して用いることが、広い波長範囲で高い遮断効果を得ることができるので好ましい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。特に好ましい紫外線吸収剤は、上述のベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不用な着色が少ないことから、好ましい。
【0074】
また、紫外線吸収剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載の化合物も用いることができる。
【0075】
紫外線吸収剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.001〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。添加量が0.001質量%以上であれば添加効果が十分に発揮されうるので好ましく、添加量が5質量%以下であればフィルム表面への紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できるので好ましい。
【0076】
(劣化防止剤)
劣化防止剤は、セルローストリアセテート等が劣化、分解するのを防止するために添加してもよい。劣化防止剤としては、ブチルアミン、ヒンダードアミン化合物(特開平8−325537号公報)、グアニジン化合物(特開平5−271471号公報)、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤(特開平6−235819号公報)、ベンゾフェノン系UV吸収剤(特開平6−118233号公報)などの化合物を用いることができる。
【0077】
(可塑剤)
可塑剤としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル、多価アルコールの脂肪酸エステル類、および/または、単糖あるいは2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体(以下、炭水化物系可塑剤という)であることが好ましい。リン酸エステル系可塑剤としては、例えばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が好ましい。また、カルボン酸エステル系可塑剤としては、例えばジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が好ましい。
また、多価アルコールの脂肪酸エステル類としては、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、グリセロールエステル類、ジグリセロールエステル類であることが好ましい。
炭水化物系可塑剤としては、キシローステトラアセテート、グルコースペンタアセテート、フルクトースペンタアセテート、マンノースペンタアセテート、ガラクトースペンタアセテート、マルトースオクタアセテート、セロビオースオクタアセテート、スクロースオクタアセテート、キシリトールペンタアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、キシローステトラプロピオネート、グルコースペンタプロピオネート、フルクトースペンタプロピオネート、マンノースペンタプロピオネート、ガラクトースペンタプロピオネート、マルトースオクタプロピオネート、セロビオースオクタプロピオネート、スクロースオクタプロピオネート、キシリトールペンタプロピオネート、ソルビトールヘキサプロピオネートなどが好ましい。
【0078】
(剥離促進剤)
剥離促進剤としては、クエン酸のエチルエステル類が好ましい例として挙げられる。
(赤外吸収剤)
赤外吸収剤としては、例えば特開2001−194522号公報に記載のものが好ましい。
【0079】
(染料)
本発明では、色相調整のための染料を添加してもよい。染料の含有量は、セルロースアシレートに対する質量割合で10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmがさらに好ましい。特開平5−34858号公報に記載の染料を用いることができる。
【0080】
(マット剤微粒子)
セルロースアシレート溶液にマット剤として微粒子を加え、本発明のセルロースアシレートフィルムに含有させてもよい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は、ケイ素を含むものが濁度が低くなる点でより好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットルが好ましく、100〜200g/リットルがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0081】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0082】
(化合物添加の比率)
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、分子量が3000以下の化合物の総量は、セルロースアシレート質量に対して5〜45質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。これらの化合物としては上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線吸収剤、可塑剤、劣化防止剤、剥離促進剤、染料、マット剤微粒子、赤外吸収剤など光学特性調整剤である。さらに、分子量が2000以下の化合物の総量が上記範囲内であることがより好ましい。これら化合物の総量を5質量%以上とすることにより、セルロースアシレート単体の性質が出にくくなり、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しにくくなる。またこれら化合物の総量を45質量%以下とすることにより、セルロースアシレートフィルム中に化合物が相溶する限界を超え、フィルム表面に析出してフィルムの白濁(ブリードアウト)が抑止される傾向にあり好ましい。
【0083】
<セルロースアシレート溶液の有機溶媒>
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することが好ましく、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いて製造されることが好ましい。主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、および炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0084】
以上、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶媒としてもよいし、例えば公開技法(公開技報2001−1745、12頁〜16頁、2001年発行、発明協会)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としてもよい。
【0085】
その他、本発明のセルロースアシレート溶液及びフィルムについての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許文献に開示されているものを、好ましい態様としてあげることができる。特開2000−95876号、特開平12−95877号、特開平10−324774号、特開平8−152514号、特開平10−330538号、特開平9−95538号、特開平9−95557号、特開平10−235664号、特開平12−63534号、特開平11−21379号、特開平10−182853号、特開平10−278056号、特開平10−279702号、特開平10−323853号、特開平10−237186号、特開平11−60807号、特開平11−152342号、特開平11−292988号、特開平11−60752号、特開平11−60752号の各公報。
これらの特許文献によると本発明において好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、それらも、本発明においても好ましい態様である。
【0086】
[光学フィルム]
次に、セルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来周知のセルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を広く採用することができる。
<セルロースアシレートフィルムの製造工程>
(溶解工程)
セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法または高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。本発明におけるセルロースアシレート溶液の調製、さらには溶解工程に伴う溶液濃縮、ろ過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、22頁〜25頁、2001年3月15日発行、発明協会)にて詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
【0087】
本発明におけるセルロースアシレート溶液のドープ透明度としては85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。本発明においてはセルロースアシレートドープ溶液に各種の添加剤が十分に溶解していることを確認した。具体的なドープ透明度の算出方法としては、ドープ溶液を1cm角のガラスセルに注入し、分光光度計(UV−3150、商品名、島津製作所社製)で550nmの吸光度を測定する。溶媒のみをあらかじめブランクとして測定しておき、ブランクの吸光度との比からセルロースアシレート溶液の透明度を算出する。
【0088】
(流延、乾燥、巻き取り工程)
溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば、回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。本発明のセルロースアシレートフィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等の塗布層を、フィルムの表面加へ塗布形成(塗布加工)するために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、25頁〜30頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0089】
<レターデーション値の調整>
(延伸処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、延伸処理によりレターデーション値を調整することが好ましい。特に、セルロースアシレートフィルムの面内レターデーション値を高い値とする場合には、積極的に幅方向に延伸する方法、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている、製造したフィルムを延伸する方法を用いることができる。
【0090】
フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。フィルムの延伸は、縦又は横だけの一軸延伸でもよく、同時又は逐次2軸延伸でもよい。フィルムは、1〜200%の延伸を行うことが好ましく、1〜100%の延伸を行うことがより好ましく、1〜50%の延伸を行うことがさらに好ましい。
【0091】
乾燥後得られる、本発明のセルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なり、5〜500μmの範囲であることが好ましく、20〜300μmの範囲であることがより好ましく、30〜150μmの範囲であることがさらに好ましい。また、光学用、特にVA液晶表示装置用としては、40〜110μmであることが好ましい。フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0092】
<セルロースアシレートフィルムの光学特性>
[フィルムのレターデーション]
(Re、Rthの測定)
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(商品名、王子計測機器(株)社製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(21)及び式(22)よりRthを算出することもできる。
【0093】
【数1】

【0094】
式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは層の厚み(nm)である。
【0095】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
【0096】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出することができる。
【0097】
Re(λ)値、Rth(λ)値は、それぞれ、以下の数式(5)、(6)を満たすことが、液晶表示装置、特にVAモード、OCBモード液晶表示装置の視野角を広くするために好ましい。また特にセルロースアシレートフィルムが、偏光板の液晶セル側の保護膜に用いられる場合に好ましい。
数式(5):0nm≦Re(590)≦200nm
数式(6):0nm≦Rth(590)≦400nm
(式中、Re(590)、Rth(590)は、波長λ=590nmにおける値(単位:nm)である。)
さらに好ましくは、以下の数式(5−1)、(6−1)を満たすことである。
数式(5−1):30nm≦Re(590)≦150nm
数式(6−1):30nm≦Rth(590)≦300nm
(式中、Re(590)、Rth(590)は、式(5)、(6)におけると同義である。)
【0098】
本発明のセルロースアシレートフィルムをVAモード、OCBモードに使用する場合、セルの両側に1枚ずつ合計2枚使用する形態(2枚型)と、セルの上下のいずれか一方の側にのみ使用する形態(1枚型)の2通りがある。
2枚型の場合、Re(590)は20〜100nmが好ましく、30〜70nmがさらに好ましい。Rth(590)については70〜300nmが好ましく、100〜200nmがさらに好ましい。
1枚型の場合、Re(590)は30〜150nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。Rth(590)については100〜300nmが好ましく、150〜250nmがさらに好ましい。
【0099】
<フィルムの透湿度>
本発明の位相差板(光学補償シート)に用いるセルロースアシレートフィルムの透湿度は、JIS規格JIS Z 0208をもとに、温度60℃、湿度95%RH(相対湿度)の条件において測定し、膜厚80μmに換算して400〜2000g/m2・24hであることが好ましい。500〜1800g/m2・24hであることがより好ましく、600〜1600g/m2・24hであることが特に好ましい。
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4,共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明のセルロースアシレートフィルム試料70mmφを25℃、90%RH及び60℃、95%RHでそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、商品名、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m2)し、透湿度=調湿後質量−調湿前質量で求める。
【0100】
<フィルムの残留溶剤量>
本発明では、セルロースアシレートフィルムに対する残留溶剤量が、0.01〜1.5質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。より好ましくは0.01〜1.0質量%である。本発明のセルロースアシレートフィルムを支持体に用いる場合、残留溶剤量を該範囲内とすることでカールをより抑制できる。これは、前述のソルベントキャスト方法による成膜時の残留溶剤量が少なくすることで自由体積が小さくなることが主要な効果要因になるためと思われる。
【0101】
[フィルムの吸湿膨張係数]
本発明のセルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数は30×10-5/%RH以下とすることが好ましく、15×10-5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10-5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、下限値は特に定めるものではなく、吸湿膨張係数は小さい方が好ましい傾向にあるが、より好ましくは、1.0×10-5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルム支持体として用いた際、光学補償フィルムの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0102】
<表面処理>
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torr(0.133Pa〜2.67kPa)の低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、30頁〜32頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0103】
<機能層>
本発明のセルロースエステルフィルムは、その用途として光学用途と写真感光材料に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成であることがさらに好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)が好ましい。
その際に前述の光学用途に本発明のセルロースエステルフィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。本発明のセルロースフィルムを用いることができるこれらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、32頁〜45頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0104】
[偏光板]
本発明のセルロースエステルフィルムの用途について説明する。
偏光板は、一般的に、偏光膜及びその表面を保護する保護膜で構成されているが、本発明のセルロースエステルフィルムは特に偏光板保護膜用として有用である。偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製(準備)することができる。得られたセルロースエステルフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護膜処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は、上記したように、偏光膜及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースフィルムを適用した偏光板保護膜はどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護膜には透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護膜をこの部分に用いることが特に好ましい。
【0105】
[光学補償フィルム(位相差板)]
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いると特に効果がある。なお、光学補償フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられ、位相差を補償する光学材料のことを指し、位相差板、光学補償シートなどと同義である。光学補償フィルムは複屈折性を有し、液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられる。
【0106】
[液晶表示装置]
<一般的な液晶表示装置の構成>
本発明のセルロースエステルフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光膜の透過軸と、セルロースフィルムからなる光学補償フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光膜、および該液晶セルと該偏光膜との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、好ましくは50μm〜2mmの厚さを有する。
【0107】
<液晶表示装置の種類>
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。具体的には、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、VA、ECB、およびHAN等の表示モードが挙げられる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードにおいても用いることができる。また、本発明のセルロースフィルムは、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても好ましく用いることができる。
【0108】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのRe値を0〜150nmとし、Rth値を70〜400nmとすることが好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であってもよい。
【0109】
<ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム>
本発明のセルロースエステルフィルムは、また、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムに好ましく用いることができる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースエステルフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、54頁〜57頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムを好ましく用いることができる。
【0110】
<写真フィルム支持体>
さらに、本発明のセルロースエステルフィルムは、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としても適用できる。具体的には、特開2000−105445号公報にカラーネガティブに関する記載に従って、本発明のセルロースフィルムが好ましく用いられる。またカラー反転ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としての適用も好ましく、特開平11−282119号公報に記載されている各種の素材や処方さらには処理方法に従って、作製することができる。
【0111】
<透明基板>
本発明のセルロースエステルフィルムは、光学的異方性がゼロに近く、優れた透明性を持たせることもできることから、液晶表示装置の液晶セルガラス基板の代替、すなわち駆動液晶を封入する透明基板としても用いることができる。
液晶を封入する透明基板はガスバリアー性に優れる必要があることから、必要に応じて本発明のセルロースフィルムの表面にガスバリアー層を設けてもよい。ガスバリアー層の形態や材質は特に限定されないが、本発明のセルロースエステルフィルムの少なくとも片面にSiO2等を蒸着したり、塩化ビニリデン系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーなど相対的にガスバリアー性の高いポリマーのコート層を設ける方法が考えられ、これらを適宜使用できる。
また液晶を封入する透明基板として用いるには、電圧印加によって液晶を駆動するための透明電極を設けてもよい。透明電極としては特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面に、金属膜、金属酸化物膜などを積層することによって透明電極を設けることができる。中でも透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましく、なかでも酸化スズを主として酸化亜鉛を2〜15質量%含む酸化インジウムの薄膜が好ましく使用できる。これら技術の詳細は例えば、特開2001−125079号公報や特開2000−227603号公報に記載の方法を用いることができる。
【0112】
本発明のセルロースエステルフィルムのRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲に制御するためには、使用する一般式(I)で表される化合物(レターデーション制御剤)の種類および添加量、ならびにフィルムの延伸倍率を適宜調整することが好ましい。特に、本発明では、一般式(I)で表される化合物の中から、所望のRth値を達成し得るレターデーション制御剤を選択し、かつ、所望のRe値が得られるように、該レターデーション制御剤の添加量およびフィルムの延伸倍率を適宜設定することにより、所望のRe値およびRth値を有するセルロースフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0113】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0114】
[合成例1]一般式(I)で表される化合物の合成
[合成例1−1][例示化合物(101−3)(式(101−n)において、n=3の化合物)の合成]
下記スキームに従い、例示化合物(101−3)を合成した。
【0115】
【化20】

【0116】
トランス−4−プロピルシクロヘキサンカルボン酸37.5g、トルエン100ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.1mlの混合溶液に、塩化チオニル16.9mlを添加し、1時間60℃に加熱攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。この酸クロライドをテトラヒドロフラン25mlでけん濁させた溶液を、ハイドロキノン11.0g、ピリジン17.8mlのテトラヒドロフラン100ml溶液に氷冷下で滴下した。この反応溶液を室温で4時間攪拌したのちに、メタノール、水を加え、得られた油状の生成物をデカンテーションにて取り出したのち、アセトニトリルで3回再結晶することで、例示化合物(101−3)を白色固体として34g(収率82%)得た。
1H−NMR(CDCl3)δ0.90(t、3H),0.98(m、2H),1.10−1.32(m,5H),1.55(m、2H),1.85(d、2H),2.11(d,2H),2.45(m,1H),7.04(s,4H)
合成した例示化合物(101−3)の相転移温度を測定したところ、融点は89℃で、相転移温度は Cr−126℃→N−218℃→Iso であった。なお、Crは結晶相、Nはネマチック相、Isoは等方相を示す。
【0117】
[合成例1−2][化合物(101−2)(101−4)(101−5)の合成]
【化21】

(式(101−n)において、(101−2)はn=2、(101−4)はn=4、(101−5)はn=5に対応する。)
【0118】
合成例1−1におけるトランス−4−プロピルシクロヘキシルカルボン酸を、トランス−4−エチルシクロヘキシルカルボン酸、トランス−4−ブチルシクロヘキシルカルボン酸、トランス−4−ペンチルシクロヘキシルカルボン酸、と変更したこと以外は合成例1−1と同様にして、例示化合物(101−2)(101−4)(101−5)を合成した。
例示化合物(101−4)の相転移温度を測定したところ、相転移温度は Cr−128℃→N−210℃→Iso であった。
【0119】
[合成例1−3][例示化合物(103−3)(式(103−n)において、n=3の化合物)の合成]
【化22】

【0120】
合成例1−1において、ハイドロキノンをメチルハイドロキノンに変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(103−3)を合成した。
1H−NMR(CDCl3)δ0.86(t、3H),0.98(m、2H),1.20−1.30(m,5H),1.53(m、2H),1.86(d、2H),2.12(s,3H),2.11(d,2H),2.47(m,1H),6.92(m,3H)
例示化合物(103−3)の相転移温度を測定したところ、相転移温度は Cr−102℃→N−190℃→Iso であった。
【0121】
[合成例1−4][例示化合物(116−3)(式(116−n)において、n=3の化合物)の合成]
【化23】

【0122】
4−プロピルシクロヘキサノール15g、ピリジン12.8mlのテトラヒドロフラン100ml溶液に、テレフタル酸クロライド10gのテトラヒドロフラン溶液を氷冷下で滴下した。この反応溶液を室温で4時間攪拌したのちに、メタノール、水を加え、さらに、塩化メチレンを加えて生成物を抽出した。有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去したのち、再結晶を3回行うことで、例示化合物(116−3)を白色固体として8.3g(収率41%)得た。
【0123】
[合成例1−5][例示化合物(130−3)(式(130−n)において、n=3の化合物)の合成]
【化24】

【0124】
合成例1−1において、ハイドロキノンをアミノフェノール、に変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(130−3)を合成した。
【0125】
[実施例1]
(セルロースアセテートフィルム101の作製)
(ドープ調製)
下記セルロースアセテート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0126】
(セルロースアセテート溶液)
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
糖誘導体1(可塑剤) 3.6質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 29質量部
【0127】
糖誘導体1;β―D−グルコース ペンタアセテート
【化25】

【0128】
別のミキシングタンクに、下記組成の各成分を投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、レターデーション発現剤溶液を調製した。
(レターデーション発現剤溶液)
例示化合物(II−1) 14.0質量部
例示化合物(101−3) 11.7質量部
メチレンクロライド 87質量部
メタノール 13質量部
【0129】
例示化合物(II−1)
【化26】

【0130】
上記セルロースアシレート溶液を100質量部、更にセルロースアシレートフィルム中のレターデーション発現剤がセルロースアシレート100質量部当たり、例示化合物(II−1)が2.5質量部、例示化合物(101−3)が3.0質量部となる量のレターデーション発現剤溶液を混合し、製膜用ドープを調製した。
【0131】
(流延)
得られたドープを、ガラス板上に流延して、室温にて1分間乾燥後、45℃にて5分間乾燥させた。セルロースアセテートフィルムをガラス板から剥離し、100℃で30分間乾燥させ、130℃で20分間乾燥させた。乾燥後のフィルムの溶媒残存量は、0.5質量%であった。フィルムを適当な大きさに切断した後、130℃で流延方向と平行な方向に1.20倍の長さに延伸した。延伸方向と垂直な方向は自由に収縮できるようにした。流延後そのままの状態で室温まで冷却し、延伸フィルムを取り出した。延伸後のフィルムの溶媒残存量は、0.1質量%であった。このようにして得られたフィルムの厚さは、53μmであった。このフィルムをフィルム101とした。
【0132】
(フィルム102〜106、100の作製)
フィルム101のレターデーション発現剤溶液が表1に示す組成となるように、化合物の種類と添加量を調整し、フィルム101と同様に製膜・延伸を行いフィルム102〜106、100を作製した。
【0133】
[レターデーションの測定](Re、Rthの測定)
作製したセルロースアセテートフィルムについて、波長450nm、550nm、630nmにおけるRe値を、KOBRA 21ADH(商品名、王子計測機器(株)社製)において各波長の光をフィルム法線方向に入射させて測定した。結果を表1に示す。なお、表1中のNo.100は、レターデーション制御剤を加えないこと以外は同様にして製造されたセルロースアセテートフィルムである。表中、ReおよびRthは波長550nmにおける値(nm)である。
なお、評価の基準は以下の通りである。
Re発現性
○:550nmにおけるReが50nm以上。
△:550nmにおけるReが25nm以上、50nm未満。
×:550nmにおけるReが25nm未満。
Re逆分散性
○:630nmにおけるReと450nmにおけるReの差が5nm以上。
△:630nmにおけるReと450nmにおけるReの差が3nm以上、5nm未満。
×:630nmにおけるReと450nmにおけるReの差が3nm未満。
【0134】
【表1】

【0135】
【化27】

注:比較棒状化合物1(特開2007−256494号公報に記載の化合物)
比較棒状化合物2(特開2007−249224号公報に記載の化合物)
【0136】
例示化合物(III−1)
【化28】

【0137】
表1の結果から明らかなように、本発明で用いる添加剤、一般式(I)で表わされる化合物は高いRe発現性を示す。また、一般式(I)で表わされる化合物と一般式(II)または(III)で表わされる化合物を二種併用(試料No.101とNo.102)することで高いRe発現性、Reの波長分散性を両立できることがわかる。本結果は予想外の結果である。
【0138】
[実施例2]
(フィルム110〜113の作製)
酢化度60.9%のセルロースアセテートを酢化度55.1%(総置換度 2.42)のセルロースアセテートに換え、後は実施例1と同様にしてフィルム110〜113を作製した。
(Re、Rthの測定)
実施例1と同様にして測定した結果を表2に示した。
【0139】
【表2】

【0140】
実施例1と同様に本発明で用いる添加剤、一般式(I)で表わされる化合物は高いRe発現性を示す。また、一般式(I)で表わされる化合物と一般式(II)または(III)で表わされる化合物を二種併用することで高いRe発現性、Reの波長分散性を両立できることがわかる。本結果は予想外の結果である。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、液晶セルが正確に光学的に補償し、高いコントラストと黒表示時の視角方向に依存した色ずれを改良する、特にVA、IPSおよびOCBモード用のセルロースエステルフィルム、その製造方法、該セルロースエステルフィルムを用いた位相差板及び偏光板、これらを用いた液晶表示装置が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される液晶化合物の少なくとも一種を含有し、配向方向に対して複屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ下記数式(1)および(2)を満たすことを特徴とするセルロースエステルフィルム。
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
【化1】

(式中、L、L、L、およびLは、それぞれ独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、m1,m2は0〜10の整数である。)
【請求項2】
下記一般式(II)または(III)で表される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【化2】

[一般式(II)において、A、A、B、Bは、それぞれ独立して、単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を示す。Q、Qは、それぞれ独立して、飽和、あるいは不飽和の環状基を示し、M、M、は、それぞれ独立して、複屈折性付与基を示す。]
【化3】

[一般式(III)において、A、A、B、Bは、それぞれ独立して、単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を示す。Q、Qは、それぞれ独立して、飽和、あるいは不飽和の環状基を示し、M、M、は、それぞれ独立して、複屈折性付与基を示す。]
【請求項3】
前記一般式(II)においてA、A、B、Bが、それぞれ独立して、単結合または−COO−である化合物を含有する請求項2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
前記一般式(II)においてM、M、が、それぞれ独立して、置換されていてもよい下記の複屈折性付与基から選ばれる化合物を含有する請求項2または3に記載のセルロースエステルフィルム。
【化4】

【請求項5】
セルロースのエステル基の総置換度が2.30以上2.55未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
セルロースのエステル基の総置換度が2.40以上2.45未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項7】
フィルムを延伸する延伸工程と収縮させる収縮工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムからなる位相差板。
【請求項9】
請求項8に記載の位相差板を含んでなる偏光板。
【請求項10】
請求項8に記載の位相差板または請求項9に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
【請求項11】
VAモードであることを特徴とする請求項10に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−235879(P2010−235879A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87823(P2009−87823)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】