説明

セルロースエステル樹脂用改質剤、それを用いたセルロースエステル光学フィルム、及び偏光板用保護フィルム

【課題】 セルロースエステル樹脂を含有するフィルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)を実用上十分なレベルにまで低下させることができ、且つ優れた耐透湿性をフィルムに付与可能であり、更に高温多湿下の厳しい条件下でも耐ブリード性に優れ、揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤、それを用いたセルロースエステル光学フィルム、及び偏光板用保護フィルムを提供する。
【解決手段】 セルロースエステル樹脂用改質剤が、炭素数2〜4のグリコール(a)、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)、炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)とを反応させて得られる、数平均分子量が1000〜3000の脂肪族ポリエステル(A)からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板用保護フィルム等の光学フィルムをはじめ様々な用途に使用することが可能なセルロースエステル樹脂用改質剤、該改質剤を含有するセルロースエステル光学フィルム、及び偏光板用保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像や文字を鮮明に表示できる液晶表示装置を備えたノートパソコンやテレビ、携帯電話等の情報機器が、次々と市場に供給されている。これら情報機器に対する消費者の要望としては、先進的な高機能の付与等が挙げられるが、とりわけ、前記液晶表示装置の視認性向上(広視野角化)は、商品価値を左右するうえで重要であり、消費者からも強く要望されている。
【0003】
前記液晶表示装置は、概略として、2枚のガラス基板の間に電極からなる層と液晶物質からなる層(液晶層)とを有する積層構造体である。前記ガラス基板のうち、液晶層とは反対側の面には、偏光板が貼付されており、該偏光板としては、通常、ポリビニルアルコール(PVA)からなる偏光子の両面に保護フィルムを貼付したものが使用されている。前記偏光板用保護フィルムとしては、一般的に透明度や光学等方性が高く、適度な強度を有し、且つPVAとの接着性に優れたセルロースエステルフィルムが、従来から使用されている。
【0004】
しかし、従来のセルロースエステルフィルムは、フィルム面内では光学等方性に優れるものの、厚み方向では光学異方性を有している。そのため、前記セルロースエステルフィルムを用いた液晶画面を斜め方向から見た場合に、表示される映像の色が本来の色とは異なって見える場合があった。したがって、前記液晶表示装置の斜め方向からの視認性を最適化するには、前記フィルムの光学異方性の程度を把握し、それを考慮して表示装置の光学設計を行う必要があった。
【0005】
なお、光学フィルムの光学異方性の程度は、一般にレターデーション値により把握することが可能である。光学フィルムのレターデーション値のうち、フィルムの厚み方向のレターデーション値(以下「Rth」ともいう。)は、下記式(1)で定義される。
【0006】
Rth={(n+n)/2−n}×d (1)
〔式中、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。〕
【0007】
前記セルロースエステル光学フィルムは、偏光子の保護フィルムとしての役割も担うが、通常の光学フィルムでは、外部から偏光子へ湿気(水)の浸入を十分に防止することができず、その結果、偏光子の劣化や、偏光子と前記フィルムとの剥離を引き起こす場合があった。そのため、これまでは前記セルロースエステル樹脂にトリフェニルホスフェート(TPP)等の可塑剤を添加して得られたフィルムを例えば「偏光板用保護フィルム」等として使用することで、耐透湿性の改善を図っていた。
【0008】
しかしながら、セルロースエステル光学フィルムに汎用されるTPP等の従来の可塑剤では、セルロースエステル樹脂との相溶性、耐揮発性、耐透湿性に未だ劣っており、且つ実用上十分なレベルにまでRthを低下させるには至らなかった。
【0009】
また、液晶表示装置の高視認化が、以前より検討が進められており、例えば、セルロースエステルと、光学等方性に寄与しうるクエン酸エステルとを含むセルロースエステルフィルムが、光学異方性が比較的小さく、光学的用途に使用できることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながら、特許文献1で得られるセルロースエステル光学フィルムでは、Rthのの低下がみられるものの、耐透湿性や耐揮発性が悪く、実用上使用するのは困難であった。
【0011】
更に、セルロースアシレートと、芳香族炭化水素環を有する化合物を含有するセルロース組成物が知られており、かかる組成物を用いて得られるセルロースフィルムは、耐透湿性が良好であり、且つRthが比較的小さく光学異方性が良好であるので、偏光板保護膜、液晶表示装置、ハロゲン化銀写真感光材料用支持体として利用可能であるという(例えば、特許文献2参照。)。
【0012】
しかしながら、特許文献2で得られるセルロース組成物は、セルロースエステル樹脂との相溶性が未だ不充分であるため、ブリードしやすく、耐揮発性が未だ十分でなく、製造工程の装置や作業環境の汚染という問題があった。
【0013】
【特許文献1】特開平11−92574号公報
【特許文献2】特開2005−89668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、セルロースエステル樹脂を含有するフィルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)を実用上十分なレベルにまで低下させることができ光学異方性が小さく、且つ優れた耐透湿性をフィルムに付与でき、更に高温多湿下の厳しい条件下でも耐ブリード性に優れ、揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤、それを用いたセルロースエステル光学フィルム、及び偏光板用保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数2〜4のグリコール、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸、炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸とを反応させて得られる数平均分子量(Mn)が1000〜3000の脂肪族ポリエステルを、セルロースエステル樹脂用改質剤として用いることにより、(1)セルロースエステル樹脂を用いてなるセルロースエステル光学フィルムに優れた耐透湿性を付与できること、(2)前記セルロースエステル樹脂用改質剤はセルロースエステル樹脂との相溶性に優れ、且つ高温多湿下での耐ブリード性に優れること、(3)前記セルロースエステル樹脂用改質剤は耐揮発性に優れること、及び(4)前記セルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂を用いて得た偏光板用保護フィルムは、光学異方性が実用上充分に小さく位相差機能に優れること、を見出した。
【0016】
即ち、本発明は、炭素数2〜4のグリコール(a)、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)、炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)とを反応させて得られる、数平均分子量が1000〜3000の脂肪族ポリエステル(A)からなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用改質剤に関するものである。
【0017】
また、本発明は、前記セルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルムに関するものである。
【0018】
また、本発明は、前記セルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルムに関するものである。
【0019】
尚、本発明でいう数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した値である。以下、「Mn」と略称する場合がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学異方性が小さく、耐透湿性と高温多湿下での耐ブリード性に優れ、フィルムの製造工程で揮発しにくく装置や作業環境の汚染が少ないセルロースエステル樹脂用改質剤を提供できる。また、該セルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂を用いて得たセルロースエステル光学フィルムは、各種光学フィルムに使用可能であり、光学異方性を充分に低下できるため、例えば、位相差機能を有する偏光板用保護フィルムとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
先ず、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤について説明する。
【0022】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、炭素数2〜4のグリコール(a)、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)、炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)とを反応させて得られ、Mn1000〜3000の脂肪族ポリエステル(A)からなる。
【0023】
前記脂肪族ポリエステル(A)の具体例としては、例えば下記一般式(I)又は(II)で示される構造のものが挙げられ、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0024】
【化1】

【0025】
〔式(I)及び(II)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数が4〜9のアルキル基を表し、P1及びP2は、それぞれ独立して、炭素原子数が3〜8のアルキル基を表す。G1及びG2はそれぞれ独立して炭素原子数2〜4のアルキレン基を表す。A1、A2はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜4のアルキレン基、又は2つのカルボニル炭素同士が隣接し直結していることを表す。nは0〜30の整数を表す。〕
【0026】
前記一般式(I)及び(II)中のnは0〜30の範囲であることが好ましい。本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、通常、n数の異なる脂肪族ポリエステル(A)の混合物であることが多いが、前記脂肪族ポリエステル(A)を製造する際に生成しうるnが30を超える脂肪族ポリエステルを本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0027】
前記脂肪族ポリエステル(A)は、炭素数2〜4のグリコール(a)、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)、炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)とを、通常、エステル化反応することにより製造することができる。
【0028】
前記脂肪族ポリエステル(A)の製造に用いる炭素数2〜4のグリコール(a)としては、前記一般式(I)及び(II)中のG1及びG2の構造を構成するものであって、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチルプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等が挙げられ、これらの中でもエチレングリコールが、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、且つ十分な耐透湿性を付与可能なセルロースエステル樹脂用改質剤を得るうえで好ましい。これらグリコールは、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記脂肪族ポリエステル(A)の製造に用いる炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)としては、例えば、シュウ酸(炭素数2。括弧内の数字は分子中の炭素数を表す。以下同様の意味である。)、マロン酸(3)、コハク酸(4)、グルタル酸(5)、アジピン酸(6)、マレイン酸(4)、フマル酸(4)等の前記一般式(I)及び(II)中のA1及びA2の構造を構成するものが挙げられ、これらの中でもセルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性を付与でき、且つ高温多湿下における耐ブリード性に優れることから、コハク酸及び/又はアジピン酸が好ましい。これら脂肪族ジカルボン酸は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、前記炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)としては、脂肪族ジカルボン酸の代わりに、そのエステル化物、酸塩化物、酸無水物等のカルボン酸誘導体を単独でも2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記脂肪族ポリエステル(A)の製造に用いる炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)において、炭素数4〜9のモノアルコールとしては、例えば、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソノニルアルコール、1−ノニルアルコール等の前記一般式(I)中のR1及びR2の構造を構成するものが挙げられ、また、炭素数4〜9のモノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキシル酸、ノナン酸等の前記一般式(II)中のP1及びP2の構造を構成するものが挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよく、これらの中でも1−ブタノール、1−ヘキサノール、ブタン酸が好ましい。前記モノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)として、かかる化合物を用いるならば、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性及び低Rthを付与でき、且つ高温多湿下での耐ブリード性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができる。
【0032】
前記脂肪族ポリエステル(A)は、グリコール(a)、脂肪族ジカルボン酸(b)、モノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)を、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば、180〜250℃の温度範囲内で10〜25時間、エステル化反応させることにより製造することができる。尚、エステル化反応の温度、時間などの条件は特に限定せず、適宜設定してよい。
【0033】
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒など、特に限定しない。
【0034】
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、グリコール(a)、脂肪族ジカルボン酸(b)、モノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)の全量100質量部に対して、0.001〜0.1質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0035】
前記脂肪族ポリエステル(A)の数平均分子量(Mn)は、1000〜3000の範囲であり、好ましくは1200〜2500の範囲、より好ましくは1300〜2000の範囲である。前記脂肪族ポリエステル(A)のMnがかかる範囲であれば、セルロースエステル樹脂用改質剤は、高温多湿下でも耐ブリード性に優れ、フィルムの製造工程をはじめとする高温条件下でも揮発しにくく、製造工程の装置や作業環境の汚染を抑制し改善することができる。
【0036】
また、前記脂肪族ポリエステル(A)の分散度(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜3.0であり、より好ましくは1.0〜1.5である。前記脂肪族ポリエステル(A)の分散度がかかる範囲内であれば、セルロースエステル樹脂との相溶性及び耐揮発性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができる。
【0037】
尚、分散度とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した重量平均分子量の値(Mw)を数平均分子量の値(Mn)で割った値(Mw/Mn)である。
【0038】
前記脂肪族ポリエステル(A)は、0〜20mgKOH/gの水酸基価を有し、且つ0〜1.0mgKOH/gの酸価を有することが好ましく、更に、0〜10の水酸基価を有し、且つ0〜0.5の酸価を有することがより好ましい。
【0039】
酸価は、グリコール(a)と脂肪族ジカルボン酸(b)とが反応した際に生成しうる、末端にカルボキシル基を有するポリエステルに由来するものである。フィルムに優れた耐透湿性を付与し、且つセルロースエステル樹脂用改質剤自体の安定性を維持するうえで、前記セルロースエステル樹脂用改質剤中に含まれる、末端にカルボキシル基を有するポリエステルの含有量は極力少ない方が好ましく、その目安としては、酸価が前記範囲内であることが好ましい。
【0040】
水酸基価は、グリコール(a)と脂肪族ジカルボン酸(b)とが反応した際に生成しうるポリエステルの末端に存在する水酸基のうち、前記モノカルボン酸(c)によって封鎖されていない水酸基に由来するもの;グリコール(a)とモノカルボン酸(c)とが反応した際に生成しうる、末端に水酸基を1個有する脂肪族ポリエステルに由来するもの;使用したグリコールの未反応の水酸基に由来するもの、などが挙げられる。水酸基は水との親和性が強いので、得られるフィルムの耐透湿性を維持するためにも、水酸基価は前記範囲内にあることが好ましい。
【0041】
更に、前記脂肪族ポリエステル(A)中のジエステル体の含有率は、0〜3質量%が好ましく、0〜2質量%がより好ましく、0〜1質量%が更に好ましい。前記脂肪族ポリエステル(A)中のジエステル体の含有量がかかる範囲であるならば、耐揮発性により優れるセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができる。尚、脂肪族ポリエステル(A)中のジエステル体の含有量は、例えばGPCやLC−MS等の分析手法により定量分析することができる。
【0042】
前記脂肪族ポリエステル(A)中のジエステル体の含有量を0〜3質量%に低減可能な処理方法としては、特に限定しないが、例えば、薄膜蒸留装置による留去法、カラム吸着法、溶媒分離抽出法などの方法が挙げられ、これらの中でも、薄膜蒸留装置による留去法が、ポリエステルの処理中のエステル交換反応の進行による分子量増加、熱履歴による分解反応や着色などの弊害がなく、短時間での処理が可能であるので好ましい。
【0043】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、前記脂肪族ポリエステル(A)からなり、後述するセルロースエステル樹脂と混合して使用する場合、セルロースエステル樹脂との相溶性に優れるため、セルロースエステル樹脂からブリードし難く、得られるフィルムのレターデーション値(Rth)を低下させ光学異方性を小さくでき、且つフィルムの耐透湿性を格段に向上させることができる。
【0044】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤の性状は、前記改質剤を構成する脂肪族ポリエステル(A)のMn及び組成などの要因により異なるが、通常、常温にて液体、固体、ペースト状などである。
【0045】
次に、セルロースエステル樹脂と、前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを含有してなるセルロースエステル光学フィルムについて説明する。
【0046】
本発明のセルロースエステル光学フィルムは、セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるフィルムであり、フィルムの膜厚は使用される用途により異なるが、一般に10〜200μmの範囲が好ましい。
【0047】
前記セルロースエステル光学フィルムは、光学異方性あるいは光学等方性等の特性を有していてもよいが、前記光学フィルムを偏光板用保護フィルムに使用する場合には、光の透過を阻害しない光学等方性のフィルムを使用することが好ましい。
【0048】
前記セルロースエステル光学フィルムは、種々の用途で用いることができる。最も有効な用途としては、例えば、液晶表示装置の光学等方性を必要とする偏光板用保護フィルムがあるが、光学補償機能を必要とする偏光板用保護フィルムの支持体にも使用することができる。
【0049】
前記セルロースエステル光学フィルムは、種々の表示モードの液晶セルに用いることができ、例えばIPS(イン−プラン スイッチング:In−Plane Switching)、TN(ツイスティッド ネマチック:Twisted Nematic)、VA(バーティカリー アラインド:Vertically Aligned)、OCB(オプティカリー コンペンセートリー ベンド:Optically Compensatory Bend)等が例示でき、特にIPSモードに使用することが好ましい。
【0050】
前記セルロースエステル光学フィルムに含有されるセルロースエステル樹脂としては、例えば、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部又は全部がエステル化されたものなどが例示でき、それらの中でも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率をより向上できるため、好ましい。
【0051】
前記セルロースエステル樹脂としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸セルロース等が挙げられ、前記セルロースエステル光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを用いることが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるので、好ましい。これらセルロースエステル樹脂は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記セルロースアセテートとしては、重合度が250〜400が好ましく、且つ、酢化度が54.0〜62.5質量%が好ましく、58.0〜62.5質量%がより好ましい。前記セルロースアセテートの重合度と酢化度がかかる範囲であれば、優れた機械的物性を有するフィルムを得ることができる。本発明では、所謂セルローストリアセテートを使用することがより好ましい。尚、本発明でいう酢化度とは、セルロースアセテートの全量に対する、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0053】
前記セルロースアセテートのMnは、70,000〜300,000の範囲が好ましく、80,000〜200,000の範囲がより好ましい。前記セルロースアセテートのMnがかかる範囲であるならば、優れた機械的物性を有するフィルムを得ることができる。
【0054】
また、前記セルロースエステル光学フィルムに含有される前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、5〜30質量部の範囲が好ましく、5〜15質量部の範囲がより好ましい。前記セルロースエステル樹脂用改質剤をかかる範囲で用いるならば、耐透湿性、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、且つ、低Rthであるセルロースエステル光学フィルムを得ることができる。
【0055】
前記セルロースエステル光学フィルムは、セルロースエステル樹脂、セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるセルロースエステル樹脂組成物を、例えば、押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いてフィルム状に成形することにより得ることができる。
【0056】
また、前記セルロースエステル光学フィルムは、前記成形方法の他に、例えば、前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた樹脂溶液を、金属支持体上に流延し乾燥させる、いわゆる溶液流延法(ソルベントキャスト法)で成形することによって得ることができる。
【0057】
前記溶液流延法によれば、成形途中でのフィルム中における前記セルロースエステル樹脂の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイなどの光学材料に使用することができ、中でも偏光板用保護フィルムに有用である。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0058】
前記溶液流延法は、一般に、前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1工程と、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を留去し乾燥させてフィルムを形成する第2工程、それに続く、金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3工程からなる。
【0059】
前記第1工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属製のものなどを例示でき、例えば、ステンレス製でその表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0060】
前記金属支持体上に樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0061】
前記第2工程の乾燥方法としては、特に限定しないが、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び/又は下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤の50〜80質量%を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法が挙げられる。
【0062】
次いで、前記第3工程は、前記第2工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2工程よりも高い温度条件下で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度条件にて段階的に温度を上昇させる方法が、良好な寸法安定性を得ることができるため、好ましい。前記温度条件にて加熱乾燥することにより、前記第2工程後のフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0063】
尚、前記第1工程〜第3工程で、有機溶媒は回収し再使用することも可能である。
【0064】
前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤を有機溶剤に混合させ溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解可能なものであれば特に限定しないが、例えばセルロースエステルとしてセルロースアセテートを使用する場合は、良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することが好ましい。
【0065】
また、前記良溶媒と共に、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上させるうえで好ましい。
【0066】
前記良溶媒と貧溶媒との混合割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5質量比の範囲が好ましい。
【0067】
前記樹脂溶液中のセルロースエステル樹脂の濃度は、10〜50質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。
【0068】
前記セルロースエステル光学フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲内で、各種添加剤を使用することができる。
【0069】
前記添加剤としては、例えば、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤、熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、マット剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などが挙げられる。これら添加剤は、前記有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂及び前記セルロースエステル樹脂用改質剤を溶解させ混合する際に併せて使用することができ、また、別個に添加し用いてもよく、特に限定しない。
【0070】
前記セルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル等を使用することができる。
【0071】
また、前記セルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤として、前記脂肪族ポリエステル(A)において、末端をモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)で封鎖させていない化合物も本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0072】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定しないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0073】
前記紫外線吸収剤としては、特に限定しないが、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。前記紫外線吸収剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲が好ましい。
【0074】
前記マット剤としては、特に限定しないが、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。前記マット剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲が好ましい。
【0075】
前記染料としては、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、種類や配合量など特に限定しない。
【0076】
本発明のセルロースエステル光学フィルムは、耐透湿性、透明性に優れ、且つ厚さ方向の光学異方性が充分に小さいことから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムに使用できる。前記液晶表示装置の光学フィルムとしては、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、反射フィルム、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられ、それらの中でも、偏光板用保護フィルムが好ましい。
【0077】
前記セルロースエステル光学フィルムの膜厚は、20〜120μmの範囲が好ましく、30〜100μmの範囲がより好ましく、30〜90μmの範囲が特に好ましい。前記光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合には、膜厚が30〜90μmの範囲であれば、液晶表示装置の薄型化を図る際に好適であり、且つ充分なフィルム強度、湿熱変化による寸法安定性、Rth安定性、耐透湿性などの優れた性能を維持することができる。
【0078】
特に、本発明の偏光板用保護フィルムは、0〜15nmという非常に小さいレベルのレターデーション値(Rth)を有していることから、光学等方性に優れる材料として極めて有用である。
【0079】
また、前記偏光板用保護フィルムは、高温多湿下でのブリードを生ずることなく、所望のRthに調整することが可能であることから、用途に応じて様々な液晶表示方式に広範囲に使用することができる。
【0080】
前記セルロースエステル光学フィルム及び前記偏光板用保護フィルムは、耐透湿性、透明性、耐揮発性、高温多湿下における耐ブリード性などに優れ、且つ非常に小さいレベルのRthを有し光学異方性が小さいことから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。前記光学フィルムとは、特に限定しないが、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられる。前記セルロースエステル光学フィルムのうち、前記したような優れた特性に加えて、低Rthを有するフィルムは、光学等方性が必要とされる偏光板用保護フィルム及び視野角補償機能を有する偏光板用保護フィルムの支持体として使用できる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により、一層具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「%」は質量%を、「部」は質量部を意味するものとする。尚、本発明で用いた測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0082】
〔評価用フィルムの作成方法〕
脂肪族ポリエステル1g、セルローストリアセテート(酢化度61質量%、重合度265)10g、塩化メチレン81g、メタノール9gからなる混合溶剤を均一に混合攪拌して、ドープ液を調製した。前記ドープ液をガラス板上に厚さが1.0mmになるように流延し、室温で16時間乾燥後、50℃で30分間乾燥させ、更に120℃で30分乾燥させることで、膜厚が80μmのフィルムを得た。前記フィルムを用いて、以下の評価試験を行った。
【0083】
〔相溶性及び耐ブリード性の評価方法〕
上記方法で作成したフィルムを30mm×40mmの大きさに切り取り、濁度計(日本電色工業株式会社製、NDH 1000)により、HAZE値を測定した。次いで、温度85℃、相対湿度90%の恒温恒湿中に、300時間放置後、取り出したフィルム表面のHAZE値を測定し、測定開始前後のHAZE値の差をとり相溶性の評価とした。また、目視による改質剤のブリードの程度を以下の基準に従い評価した。
相溶性及び耐ブリード性の評価の評価基準
○;HAZE値の差が0.5未満で、且つ可塑剤の滲みだし(ブリード)がない。
×;HAZE値の差が0.5以上、あるいは可塑剤の滲みだし(ブリード)がある。
【0084】
〔耐揮発性の評価方法〕
改質剤の試料について、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定装置、セイコーインスツルメンツ社製、DMS6100)を用いて、窒素雰囲気下140℃で60分間放置後の質量減少率(質量%)を測定し、以下の基準に従い耐揮発性の評価を行った。尚、耐揮発性の目標値は、用途により多少異なるが、本発明の偏光板用保護フィルムに使用する改質剤の場合、質量減少率で0.20質量%未満である。
耐揮発性の評価基準
○;質量減少率が0.20質量%未満である。
×;質量減少率が0.20質量%以上である。
【0085】
〔レターデーション値(Rth)の評価方法〕
前記フィルムを用いて、温度23℃、相対湿度20%の環境下で12時間以上調湿した後、同環境下で、自動複屈折率計(王子計測機器株式会社製、KOBRA−WR)を用いて、前記フィルムの厚さ方向のレターデーション値(Rth)を測定した。本発明のセルロースエステル光学フィルムのRthは、その用途によって異なるが、特に偏光板用保護フィルムの場合は光学等方性に優れることを特徴し、前記偏光板用保護フィルムのRthは15nm以下である。
【0086】
〔耐透湿性の評価方法〕
JIS Z 0208の防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に準じて、前記フィルムの透湿度を、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。本発明のセルロースエステル光学フィルムの透湿度は、その用途によって異なるが、特に偏光板用保護フィルムの場合は、650g/m・24h未満であれば、耐透湿性に優れる。
【0087】
〔実施例1〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B1)の調製
グリコール(a)として1,2−プロピレングリコールを309g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてコハク酸を562g、モノアルコール(c)として2−エチル−1−ヘキサノールを331g、及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート(TIPT)0.072gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計17時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールと2−エチル−1−ヘキサノールを減圧留去し、更に残留物を薄膜蒸留装置にて220℃、0.001mmHgの条件で処理することにより、脂肪族ポリエステル(A1)(Mn1800、酸価0.19、水酸基価6.0、ジエステル体含有量0.8%)からなる本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤(B1)を850g得た。
【0088】
(2)改質剤(B1)を用いたセルロースエステル光学フィルム(C1)の作成と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B1)1gに対して、セルローストリアセテート(酢化度61質量%、重合度265)10gと、塩化メチレン81g及びメタノール9gからなる混合溶剤をそれぞれ混合攪拌し、ドープ液を調製した。前記ドープ液をガラス板上に厚さが1.0mmになるように流延し、室温で16時間乾燥後、50℃で30分間乾燥させ、更に120℃で30分乾燥させることで、膜厚が80μmの本発明のセルロースエステル光学フィルム(C1)を得た。本発明の改質剤(B1)及びフィルム(C1)の評価結果を第1表にまとめた。本発明の改質剤(B1)を添加し作成したフィルム(C1)は、Rthが充分に低く、ブリードもなく、揮発が少なく、耐透湿性に優れていた。
【0089】
〔実施例2〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B2)の調製
実施例1と同様の操作にて、グリコール(a)としてエチレングリコールを252g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてコハク酸を562g、モノアルコール(c)として2−エチル−1−ヘキサノールを331g、及びエステル化触媒としてTIPTを0.072gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のエチレングリコールと2−エチル−1−ヘキサノールを減圧留去し、更に残留物を薄膜蒸留装置にて220℃、0.001mmHgの条件で処理することにより、脂肪族ポリエステル(A2)(Mn1450、酸価0.08、水酸基価4.5、ジエステル体含有量0.7%)からなる本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤(B2)を780g得た。
【0090】
(2)改質剤(B2)を用いたセルロースエステル光学フィルム(C2)の作成と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B2)を用いて、実施例1と同様の操作にて、膜厚が80μmの本発明のセルロースエステル光学フィルム(C2)を得た。本発明の改質剤(B2)及びフィルム(C2)の評価結果を第1表にまとめた。本発明の改質剤(B2)を添加し作成したフィルム(C2)は、Rthが充分に低く、ブリードもなく、揮発が少なく、耐透湿性に優れていた。
【0091】
〔実施例3〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B3)の調製
実施例1と同様の操作にて、グリコール(a)として1,2−プロピレングリコールを608g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてコハク酸を1062g、モノアルコール(c)として1−ブタノールを414g、及びエステル化触媒としてTIPTを0.125gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応を継続させ、合計23時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールと1−ブタノールを減圧留去し、更に残留物を薄膜蒸留装置にて220℃、0.001mmHgの条件で処理することにより、脂肪族ポリエステル(A3)(Mn1500、酸価0.09、水酸基価3.5、ジエステル体含有量0.5%)からなる本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤(B3)を1100g得た。
【0092】
(2)改質剤(B3)を用いたセルロースエステル光学フィルム(C3)の作成と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B3)を用いて、実施例1と同様の操作にて、膜厚が80μmの本発明のセルロースエステル光学フィルム(C3)を得た。本発明の改質剤(B3)及びフィルム(C3)の評価結果を第1表にまとめた。本発明の改質剤(B3)を添加し作成したフィルム(C3)は、Rthが十分に低く、ブリードもなく、揮発が少なく、耐透湿性に優れていた。
【0093】
〔実施例4〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B4)の調製
実施例1と同様の操作にて、グリコール(a)としてエチレングリコールを620g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてコハク酸を1298g、モノアルコール(c)として1−ブタノールを6.4g、及びエステル化触媒としてTIPTを0.143gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応を継続させ、合計21時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のエチレングリコールと1−ブタノールを減圧留去し、更に残留物を薄膜蒸留装置にて220℃、0.001mmHgの条件で処理することにより、脂肪族ポリエステル(A4)(Mn1750、酸価0.11、水酸基価6.6、ジエステル体含有量0.4%)からなる本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤(B4)を1335g得た。
【0094】
(2)改質剤(B4)を用いたセルロースエステル光学フィルム(C4)の作成と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B4)を用いて、実施例1と同様の操作にて、膜厚が80μmの本発明のセルロースエステル光学フィルム(C4)を得た。本発明の改質剤(B4)及びフィルム(C4)の評価結果を第1表にまとめた。本発明の改質剤(B4)を添加し作成したフィルム(C4)は、Rthが十分に低く、ブリードもなく、揮発が少なく、耐透湿性に優れていた。
【0095】
〔実施例5〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B5)の調製
実施例1と同様の操作にて、グリコール(a)として1,2−プロピレングリコールを342g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてアジピン酸を803g、モノアルコール(c)として2−エチル−1−ヘキサノールを546g、及びエステル化触媒としてTIPTを0.101gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計16時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールと2−エチル−1−ヘキサノールを減圧留去し、更に残留物を薄膜蒸留装置にて220℃、0.001mmHgの条件で処理することにより、脂肪族ポリエステル(A5)(Mn1550、酸価0.15、水酸基価12.1、ジエステル体含有量0.8%)からなる本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤(B5)を973g得た。
【0096】
(2)改質剤(B5)を用いたセルロースエステル光学フィルム(C5)の作成と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B5)を用いて、実施例1と同様の操作にて、膜厚が80μmの本発明のセルロースエステル光学フィルム(C5)を得た。本発明の改質剤(B5)及びフィルム(C5)の評価結果を第1表にまとめた。本発明の改質剤(B5)を添加し作成したフィルム(C5)は、Rthが十分に低く、ブリードもなく、揮発が少なく、耐透湿性に優れていた。
【0097】
〔実施例6〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B6)の調製
実施例1と同様の操作にて、グリコール(a)としてエチレングリコールを944g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてコハク酸を944g、モノカルボン酸(c)として2−エチルヘキサン酸を806g、及びエステル化触媒としてTIPTを0.161gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積5リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計22時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の2−エチルヘキサン酸を減圧留去し、更に残留物を薄膜蒸留装置にて220℃、0.001mmHgの条件下で処理することにより、脂肪族ポリエステル(A6)(Mn1500、酸価0.21、水酸基価9.8、ジエステル体含有量0.6%)からなる本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤(B6)を1480g得た。
【0098】
(2)改質剤(B6)を用いたセルロースエステル光学フィルム(C6)の作成と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B6)を用いて、実施例1と同様の操作にて、膜厚が80μmの本発明のセルロースエステル光学フィルム(C6)を得た。本発明の改質剤(B6)及びフィルム(C6)の評価結果を第1表にまとめた。本発明の改質剤(B6)を添加し作成したフィルム(C6)は、Rthが十分に低く、ブリードもなく、揮発が少なく、耐透湿性に優れていた。
【0099】
〔比較例1〕
(1)改質剤(B7)の調製、及びフィルム(C7)の作成と評価
セルロースエステル樹脂用改質剤(B7)としてトリフェニルホスフェート(TPP)を用いた以外は実施例1と同様の操作にて、フィルム(C7)を得た。前記改質剤(B7)とフィルム(C7)の評価結果を第2表に示したが、Rthが高く光学異方性が大きく、且つ相溶性、耐揮発性及び耐透湿性に劣っていた。
【0100】
〔比較例2〕
(1)改質剤(B8)の調製、及びフィルム(C8)の作成と評価
セルロースエステル樹脂用改質剤(B8)としてアセチルクエン酸トリブチルを用いた以外は実施例1と同様の操作にて、フィルム(C8)を得た。前記改質剤(B8)とフィルム(C8)の評価結果を第2表に示したが、相溶性、耐揮発性及び耐透湿性に劣っていた。
【0101】
〔比較例3〕
(1)改質剤(B9)の調製、及びフィルム(C9)の作成と評価
セルロースエステル樹脂用改質剤(B9)としてトリフェニルメタノールを用いた以外は実施例1と同様の操作にて、フィルム(C9)を得た。前記改質剤(B9)とフィルム(C9)の評価結果を第2表に示したが、相溶性及び耐揮発性に劣っていた。
【0102】
〔比較例4〕
(1)改質剤(B10)の調製、及びフィルム(C10)の作成と評価
1,2−プロピレングリコールの代わりに、1,6−ヘキサンジオールを使用する以外は実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル(A10)(Mn1300、酸価0.25、水酸基価11.0、ジエステル体含有量4.6%)からなるセルロースエステル樹脂用改質剤(B10)を調製し、これを用いてフィルム(C10)を得た。前記改質剤(B10)とフィルム(C10)の評価結果を第3表に示したが、耐透湿性に劣っていた。
【0103】
〔比較例5〕
(1)改質剤(B11)の調製、及びフィルム(C11)の作製と評価
コハク酸の代わりに、セバシン酸を使用すること以外は実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル(A11)(Mn1500、酸価0.28、水酸基価9.8、ジエステル体含有量3.4%)からなるセルロースエステル樹脂用改質剤(B11)を調製し、これを用いてフィルム(C11)を得た。前記脂肪族ポリエステル(A11)、改質剤(B11)、フィルム(C11)の評価結果を第3表に示したが、耐透湿性に劣っていた。
【0104】
〔比較例6〕
(1)改質剤(B12)の調整、及びフィルム(C12)の作製と評価
実施例1と同組成で、数平均分子量を4000にまで高分子量化した以外は、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル(A12)(Mn4000、酸価0.35、水酸基価12.0、ジエステル体含有量1.5%)からなるセルロースエステル樹脂用改質剤(B12)を調製し、これを用いてフィルム(C12)を得た。前記脂肪族ポリエステル(A12)、改質剤(B12)、フィルム(C12)の評価結果を第3表に示したが、相溶性及び耐透湿性に劣っていた。
【0105】
〔比較例7〕
(1)セルロースエステル樹脂用改質剤(B13)の調製
実施例1と同様の操作にて、グリコール(a)として1,2−プロピレングリコールを486g、脂肪族ジカルボン酸(b)としてコハク酸を637g、モノカルボン酸(c)としてドデカン酸を912g、及びエステル化触媒としてTIPTを0.122gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計26時間脱水縮合反応させた。反応後、220℃で未反応のドデカン酸を減圧留去することによって、脂肪族ポリエステル(A13)(Mn1300、酸価0.45、水酸基価13.5、ジエステル体含有量4.4%)からなるセルロースエステル樹脂用改質剤(B13)を1012g得た。
【0106】
(2)フィルム(C13)の作製と評価
上記で得たセルロースエステル樹脂用改質剤(B13)を用いて、実施例1と同様の操作にて、膜厚が80μmのセルロースエステル光学フィルム(C13)を得た。前記脂肪族ポリエステル(A13)、改質剤(B13)、フィルム(C13)の評価結果を第3表に示したが、相溶性及び耐透湿性に劣っていた。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
第1表〜第3表中の略称は、以下の通りである。
PG ;1,2−プロピレングリコール
EG ;エチレングリコール
HD ;1,6−ヘキサンジオール
SuA ;コハク酸、〔構造式;HOOC(CH)COOH〕
AdA ;アジピン酸、〔構造式;HOOC(CH)COOH〕
SbA ;セバシン酸、〔構造式;HOOC(CH)COOH〕
C4OH ;1−ブタノール
C8OH ;2−エチル−1−ヘキサノール
C7COOH;2−エチルヘキサン酸
C11COOH;ドデカン酸
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性、高温多湿下での耐ブリード性、耐揮発性に優れ、且つセルロースエステル樹脂を併用してなるセルロースエステル光学フィルムに優れた耐透湿性を付与できる。また、前記改質剤とセルロースエステル樹脂を用いて得られる本発明の偏光板用保護フィルムは、例えば偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等に広範囲に利用し得るが、中でもフィルムの厚さ方向の光学異方性が小さいので、特に偏光板用保護フィルムとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜4のグリコール(a)、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)、炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)とを反応させて得られる、数平均分子量が1000〜3000の脂肪族ポリエステル(A)からなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項2】
炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸(b)が、コハク酸及び/又はアジピン酸であり、且つ、前記炭素数4〜9のモノアルコール及び/又はモノカルボン酸(c)が、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソノニルアルコール、ブタン酸、2−エチルヘキシル酸、及びノナン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項3】
前記脂肪族ポリエステル(A)の水酸基価が0〜20mgKOH/gであり、且つ酸価が0〜1.0mgKOH/gである請求項1又は2記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル(A)中のジエステル体の含有量が0〜2質量%である請求項1〜3の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。
【請求項6】
セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用改質剤を5〜30質量部含んでなる請求項5記載のセルロースエステル光学フィルム。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。
【請求項8】
膜厚80μmのフィルムの自動複屈折率計を用いて測定した厚さ方向のレターデーション値が0〜15nmの範囲である請求項7記載の偏光板用保護フィルム。

【公開番号】特開2009−46531(P2009−46531A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211314(P2007−211314)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】